(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378518
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】生物または生物由来物質の検知方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/37 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
C12Q1/37
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-65972(P2014-65972)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-188326(P2015-188326A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】江口 英範
(72)【発明者】
【氏名】石井 美和
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹
【審査官】
高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−021980(JP,A)
【文献】
特開平08−067694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
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Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ基質を含有する水溶性ゲルまたは水溶液を物理的および/または化学的作用により泡立たせることで不透明な状態に調製し、プロテアーゼ活性を有する生物または生物由来物質を接触させることによって透明化することを利用する、生物または生物由来物質の検知方法。
【請求項2】
水溶性ゲルまたは水溶液中のプロテアーゼ基質の含有率が0.5%以上20%以下である請求項1に記載の検知方法。
【請求項3】
プロテアーゼ活性を有する生物または生物由来物質が、アレルゲンである請求項1または請求項2に記載の検知方法。
【請求項4】
プロテアーゼ活性を有する生物または生物由来物質が、花粉、カビ、ダニの虫体または虫体由来物質(糞、死骸、破片)のアレルゲンである請求項1から請求項3までのいずれかに記載の検知方法。
【請求項5】
ダニまたはダニアレルゲンを検知するための請求項1から請求項4までのいずれかに記載の検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ基質を含有する水溶性ゲルまたは水溶液を不透明な状態に調製し、これにプロテアーゼを接触させることでプロテアーゼ基質が分解され透明化することを利用する検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、住環境の気密化や生活様式の変化などの要因により、室内などの環境中にダニ、花粉などが存在し、居住者の健康などへの被害が顕著である。特に喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患は多くの人が悩まされている。これらのアレルギー性疾患の原因となっているのがダニや花粉、ペット、カビなどに由来する種々のアレルゲンである。アレルギー性疾患に対してはこのようなアレルゲンとの接触や吸入を回避し、アレルギー反応を軽減することが最も重要となる。そのため、例えば、室内環境からアレルゲンを除去したり、アレルゲンの室内環境への侵入を防止したりするための各種対応策が提案されているがアレルゲンとの接触や吸入を回避できる程度の効果を得るためには環境中にアレルゲンがどの程度存在しているかを確認する必要がある。
【0003】
屋内性アレルゲンを確認する方法として、ニンヒドリンを含有する粘着剤をシート状の支持体に塗布した検知キットが提案されているが、ニンヒドリンはアレルゲン以外の物質にも反応してしまう問題があった。アレルゲンを抗原とする抗体を用いた免疫学的測定法も提案されているが、免疫学的測定法に使用される抗体は高価であり、測定方法も複雑な操作が必要であった。これらの問題を解決する方法としてアレルゲンに含まれるプロテアーゼ活性を利用する方法が提供されているが、プロテアーゼ活性により発色する色素の調製が必要であった。水溶性ゲルまたは水溶液がプロテアーゼ活性により液化またはpH変化することを利用してアレルゲン量を定量または半定量することも提案されており、ゲルの液化量を測定することやpH変化をpH指示薬による色調の変化によって確認することにより、定量または半定量的に測定することができるが、比較的測定が煩雑であったり、定量性にやや課題があったりした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−34160号公報
【特許文献2】特開平5−207892号公報
【特許文献3】特開平9−87298号公報
【特許文献4】特開2001−305134号公報
【特許文献5】特開2006−345801号公報
【特許文献6】特開2008−29337号公報
【特許文献7】特開2012−139136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は安価でかつ簡便な操作により、目視でアレルゲンあるいはアレルゲンの由来となる生物の存否を明確に判断することができる検知方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、プロテアーゼ基質を含有する水溶性ゲルまたは水溶液を不透明な状態に調製し、これにプロテアーゼを接触させることでプロテアーゼ基質が分解され透明化することを見出し、この原理によってプロテアーゼを検出し、このプロテアーゼを有する生物または生物由来物質を検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、(1)プロテアーゼ基質を含有する水溶性ゲルまたは水溶液を、不透明な状態に調製し、プロテアーゼ活性を有する生物または生物由来物質を接触させることによって透明化することを利用する、生物または生物由来物質の検知方法であり、(2)プロテアーゼ基質を含有する水溶性ゲルまたは水溶液を物理的および/または化学的作用により泡立たせることで不透明な状態に調整した(1)の検知方法であり、(3)水溶性ゲルまたは水溶液中のプロテアーゼ基質の含有率が0.5%以上20%以下である(1)または(2)の検知方法であり、(4)プロテアーゼ活性を有する生物または生物由来物質が、アレルゲンである(1)〜(3)の検知方法であり、(5)プロテアーゼ活性を有する生物または生物由来物質が、花粉、カビ、ダニの虫体または虫体由来物質(糞、死骸、破片)のアレルゲンである(1)〜(4)の検知方法であり、(6)ダニまたはダニアレルゲンを検知するための(1)〜(5)の検知方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の、プロテアーゼ基質を含有する水溶性ゲルまたは水溶液を不透明な状態に調製し、これにプロテアーゼ活性を有する環境中の物質が接触することでプロテアーゼ基質が分解されて透明化することを利用する検出方法を適用することで、安価でかつ簡便な操作により、目視でアレルゲンあるいはアレルゲンの由来となる生物または生物由来物質の存否を明確に判断することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の検知方法は、環境中の生物または生物由来物質に含まれるプロテアーゼに対するプロテアーゼ基質を含有する水溶性ゲルまたは水溶液を、物理的または化学的な方法で泡立たせて不透明な状態に調製し、これに環境中のプロテアーゼ活性を有する生物または生物由来物質が接触することで、プロテアーゼと泡を構成しているプロテアーゼ基質が反応し、泡が消失することにより透明化することで環境中に生物または生物由来物質が存在することを明確に判断することができる方法である。
【0010】
プロテアーゼ基質としては、タンパク質やタンパク質分解物であり、当該基質であるタンパク質やタンパク質分解物を含有して水溶性ゲルまたは水溶液となり得るものでプロテアーゼに分解されると透明化するものであれば特に限定はなく、天然物由来のタンパク質をそのまま使用することができる。また、天然物由来のタンパク質の混合物などから特定の成分を分離して得られたものも、本発明におけるタンパク質に含まれる。さらにタンパク質分解物としては、前記の天然由来のタンパク質を酵素により分解して得られるジペプチド以上のポリペプチドやアミノ酸から合成したポリペプチドを用いることも可能である。例えば、卵タンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、トウモロコシタンパク質、乳清タンパク質、ラクトグロブリン、コラーゲン、ベタイン、ムタステイン、氷核タンパク質、ラクトフェリン、ゼラチン、レンネットカゼイン、αs1−カゼイン、β−カゼイン、リゾチーム、ヘモグロビン、ミオグロビン、プレアルブミン、アビジン、モネリン、ミラクリン、繊維状タンパク質、ムチン、レクチン、プロトロンビン、血漿タンパク質、糖タンパク質などが挙げられ、これらを単独で、または複数組合せて用いることができるが、好ましくはウシ血清アルブミンなどの血清タンパク質、カゼイン、ゼラチンがよい。水溶性ゲルまたは水溶液中のプロテアーゼ基質の濃度は0.5〜20%であり、好ましくは1〜10%である。水溶性ゲルまたは水溶液中の濃度が0.5%未満であった場合、ゲルまたは水溶液を不透明な状態にすることができない。水溶性ゲルまたは水溶液中の濃度が20%以上であった場合、ゲルまたは水溶液を不透明な状態にすることが難しく、また検出感度が低下してしまう。
【0011】
本発明で水溶性ゲルを用いる場合のプロテアーゼ基質としては、水溶性であり、常温でゲル化し、プロテアーゼにより分解されると透明化するものであれば、限定されるものではないが、好ましくはゼラチンがよい。
【0012】
本発明で水溶液を用いる場合のプロテアーゼ基質としては、水溶性であり、プロテアーゼによる分解されると透明化するものであれば、限定されるものではないが好ましくはウシ血清アルブミンなどの血清タンパク質、カゼイン、ゼラチンがよい。
【0013】
本発明の物理的または化学的作用としては、プロテアーゼ基質の成分を分解しない作用で泡を調製できれば、特に限定されるものでないが、例えば、攪拌機やホモミキサーなどによる溶液の撹拌を利用した物理的作用、炭酸塩と有機酸の反応による炭酸ガスの発生や発泡剤を利用した化学的作用、送風機やコンプレッサーによる溶液への空気の送り込みで泡を発生させる物理的作用などが挙げられる。
【0014】
本発明の泡としては、泡立てた状態のものが不透明となり、泡を通して文字や色が目視で認識できなければ特に限定されない。例えば、泡立てたものをシャーレに均一に広げた状態でシャーレの下にある文字や色が目視で認識することができなくする方法などが挙げられる。泡立てたもの10gをシャーレに均一に広げたものを600nmにおける透過度を測定した場合に、透過度が10未満であることが好ましく、さらに透過度が1未満であることがより好ましい。透過度が10以上である場合、ゲルまたは水溶液の不透明度が不十分である。
【0015】
本発明のプロテアーゼ活性を有する環境中の生物または生物由来物質としては、プロテアーゼ活性を有していれば、特に限定されるものではないが、例えば、花粉、カビ、ダニなどの虫体、昆虫由来物質(糞、死骸またはその破片など)のアレルゲンなどが挙げられる。
【0016】
本発明では、プロテアーゼ基質を含有する水溶性ゲルまたは水溶液に、上記のタンパク質の他にも必要に応じて界面活性剤、防腐剤、抗菌剤、殺菌剤、殺虫剤、忌避剤、多糖類、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質架橋剤、保湿剤、吸湿剤、整泡剤、発泡助剤、誘引剤、餌などを添加することも可能である。
【0017】
プロテアーゼ基質を溶解させる溶媒は、プロテアーゼ活性を阻害しないものであり、プロテアーゼ基質がプロテアーゼにより分解された後、透明な溶液であれば、特に限定されるものではないが、例えば、水、リン酸緩衝液などが挙げられる。
【0018】
本発明の形態は特に限定されるものではないが、例えば、シート状にした泡立たせた水溶性ゲル、シャーレのような透明な容器に添加した泡立たせた水溶液などが挙げられる。
【実施例】
【0019】
次に本発明の試験例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
ゼラチン3gとイオン交換水97gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液を撹拌機(東京理化器械株式会社製 TYPE:2RT)にて900rpm、1時間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0021】
(実施例2)
ゼラチン5gとイオン交換水95gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液を撹拌機(東京理化器械株式会社製 TYPE:2RT)にて900rpm、1時間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0022】
(実施例3)
ゼラチン10gとイオン交換水90gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液を撹拌機(東京理化器械株式会社製 TYPE:2RT)にて900rpm、1時間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0023】
(実施例4)
ゼラチン20gとイオン交換水80gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液を撹拌機(東京理化器械株式会社製 TYPE:2RT)にて900rpm、1時間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0024】
(実施例5)
ゼラチン1gとイオン交換水99gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液をホモミキサー(特殊機化工業社製 T.K.HOMO MIXER MARK II)にて5000rpm、1時間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0025】
(実施例6)
ゼラチン3gとイオン交換水97gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液をホモミキサー(特殊機化工業社製 T.K.HOMO MIXER MARK II)にて5000rpm、1時間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0026】
(実施例7)
ゼラチン10gとイオン交換水90gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液をホモミキサー(特殊機化工業社製 T.K.HOMO MIXER MARK II)にて5000rpm、1時間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0027】
(実施例8)
ゼラチン20gとイオン交換水80gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液をホモミキサー(特殊機化工業社製 T.K.HOMO MIXER MARK II)にて5000rpm、1時間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0028】
(比較例1)
ゼラチン5gとイオン交換水95gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液を泡立たせずに直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、ゲルを調製した。
【0029】
(比較例2)
ゼラチン1gとイオン交換水99gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液を泡立たせずに直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、ゲルを調製した。
【0030】
(比較例3)
ゼラチン10gとイオン交換水90gを混合して60℃に加温し、溶解させた。溶解させた溶液を撹拌機(東京理化器械株式会社製 TYPE:2RT)にて900rpm、10分間撹拌して泡立たせた後、直径9cm、高さ1.7cmの透明なプラスチックシャーレに10g分注したものを室温にて放熱し、泡立たせたゲルを調製した。
【0031】
(試験例1)
実施例1〜8、比較例1〜3で調製したプラスチックシャーレ下に「あ」と黒字と赤字で100ポイントのサイズに印字した白紙を置き、文字及び色を目視にて観察した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
(試験例2)
実施例1〜8のゲル上に生きたコナヒョウヒダニ500匹を放虫し、室温にて3日間静置した。3日後に実施例1〜8に下に「あ」と黒字と赤字で100ポイントのサイズに印字した白紙を置き、文字及び色を目視にて観察した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
(試験例3)
実施例1〜8、比較例1〜3で調製したプラスチックシャーレの600nmにおける透過度を分光光度計(株式会社島津製作所製 UV−1600)にて測定した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の検知方法を利用することで、アレルギー性疾患の原因となるアレルゲンなどの、生物または生物由来物質の存否を安価でかつ簡便な操作により、目視で明確に判断することが可能となる。