(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(イ)は、前記座標空間を、基準点を中心として放射状に複数の領域に分割したときの各領域に含まれるプロットの数を反映する分布パターンの特徴を示す情報である、請求項1に記載の細菌分析方法。
前記(イ)は、前記座標空間を、基準点を中心として放射状に複数の領域に分割したときに、各領域の角度とプロットの頻度との関係を表す頻度分布においてピークが現れる角度を反映する情報である、請求項1に記載の細菌分析方法。
前記(イ)および前記(ロ)が、球菌または混合のフラグを付与する条件を満たしている場合であって、前記(ハ)が桿菌に対応する増加傾向を示している場合、前記検体に桿菌のフラグを付与する、請求項11に記載の細菌分析方法。
前記(イ)および前記(ロ)が、球菌または混合のフラグを付与する条件を満たしている場合であって、前記(ニ)が桿菌に対応する特徴を示している場合、前記検体に桿菌のフラグを付与する、請求項13に記載の細菌分析方法。
前記検体に含まれる細菌の数および白血球の数をさらに取得し、取得した前記細菌の数が閾値以上であり、前記白血球の数が閾値以上である場合、前記検体にフラグを付与する、請求項1ないし14に記載の細菌分析方法。
前記他の特徴情報は、測定試料から生じる散乱光強度および蛍光強度に関する情報を2つの座標軸としたときに、前記散乱光強度が小さい領域に設定された座標範囲に含まれる粒子の数に基づく第4特徴情報を含む、請求項29に記載の細菌分析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、検体に含まれる細菌の形態を精度良く判定することが可能な細菌分析方法および検体分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、細菌分析方法に関する。この態様に係る細菌分析方法は、検体と試薬を混合して調製された測定試料に光を照射し、前記測定試料に含まれる粒子について
散乱光強度と蛍光強度を取得し、(イ)少なくとも前記
散乱光強度および前記蛍光強度を軸として含む座標空間に各粒子をプロットした
場合に球菌および桿菌の特徴を有する粒子がプロットされる第1領域内の粒子の分布パターンの特徴を示す情報;および(ロ)前記第1領域にプロットされた粒子のうち、
桿菌の特徴を有する粒子が少なくともプロットされる前記散乱光強度が低値側の第2領域にプロットされた粒子の数に関する情報;の両方に基づいて、
桿菌および球菌の少なくとも1つに関するフラグを前記検体に付与する。
【0007】
本態様に係る細菌分析方法によれば、第1領域内の粒子の分布パターンの特徴を示す情報に加えて、第1領域にプロットされた粒子のうち、
桿菌の特徴を有する粒子が少なくともプロットされる散乱光強度が低値側の第2領域にプロットされた粒子の数に関する情報の両方を用いて、
桿菌および球菌の少なくとも1つに関するフラグが付与される。このよう
に第2領域における分布状態を判定要素とすることで、粒子が第1領域全体にわたって分布しているのか局在しているのかが把握され、これを細菌判定の指標とすることができる。これにより、ヒストグラムに含まれるピーク角度のみに基づいて細菌の
種類を判定していた先行技術に比べて、細菌の
種類を精度良く判定することができる。
特に、第2領域が桿菌の特徴を有する粒子が少なくともプロットされる前記散乱光強度が低値側の領域であるため、測定試料に含まれる細菌が桿菌であるかを、精度良く判定することができる。
【0010】
また、本態様に係る細菌分析方法において、前記(イ)は、粒子が集中してプロットされる座標空間上の位置の情報とされ得る。
【0011】
また、本態様に係る細菌分析方法において、前記(イ)は、前記座標空間を、基準点を中心として放射状に複数の領域に分割したときの各領域に含まれるプロットの数を反映する分布パターンの特徴を示す情報とされ得る。
【0012】
あるいは、本態様に係る細菌分析方法において、前記(イ)は、前記座標空間を、基準点を中心として放射状に複数の領域に分割したときに、各領域の角度とプロットの頻度との関係を表す頻度分布においてピークが現れる角度を反映する情報とされ得る。
【0013】
また、本態様に係る細菌分析方法において、前記(ロ)は、前記第1領域にプロットされた粒子の数に対する、前記第2領域にプロットされた粒子の相対的な数に関する情報とされ得る。
【0014】
ここで、前記(イ)は、前記座標空間上にプロットされた粒子を、基準点を中心に一定の角度毎にカウントしたときに最もカウント数の多い角度であり、前記(ロ)は、所定角度よりも低角度に設定された前記第2領域に含まれるプロットの前記第1領域に含まれるプロット数に対する相対的な数に関する情報とされ得る。
【0015】
また、本態様に係る細菌分析方法において、前記(イ)の前記分布パターンの特徴が桿菌の特徴に対応し、且つ、前記(ロ)によって取得される前記相対的な数が閾値以上であるとき、前記検体に桿菌のフラグが付与され得る。
【0016】
この場合、さらに、前記(イ)の前記分布パターンの特徴が球菌もしくは球菌と桿菌の混合検体の特徴に対応するか、または前記(ロ)によって取得される前記相対的な数が閾値より小さいとき、前記検体に球菌または混合のフラグが付与され得る。こうすると、測定試料に含まれる細菌が桿菌または混合であるかを、精度良く判定することができる。
【0017】
また、本態様に係る細菌分析方法において、前記(イ)の前記分布パターンの特徴が桿菌の特徴に対応し、且つ、前記(ロ)によって取得される前記相対的な数に基づく値が閾値より小さいとき、前記検体に混合のフラグが付与され得る。
【0018】
この場合、さらに、前記(イ)の前記分布パターンの特徴が球菌の特徴に対応するとき、前記検体に球菌のフラグが付与され得る。こうすると、測定試料に含まれる細菌が桿菌、球菌または混合であるかを、精度良く判定することができる。
【0019】
また、本態様に係る細菌分析方法において、前記(イ)および前記(ロ)に加えて、さらに(ハ)粒子の大きさを反映する光強度の低値側から高値側への粒子プロット数の増加傾向を示す特徴に基づいて、
桿菌および球菌の少なくとも1つに関するフラグが前記検体に付与され得る。こうすると、さらに(ハ)の特徴情報により細菌の
種類が判定されるため、細菌の
種類の判定精度をより向上させることができる。
【0020】
ここで、前記(イ)および前記(ロ)が、球菌または混合のフラグを付与する条件を満たしている場合であって、前記(ハ)が桿菌に対応する増加傾向を示している場合、前記検体に桿菌のフラグが付与され得る。
【0021】
また、本態様に係る細菌分析方法において、前記(イ)および前記(ロ)に加えて、さらに(ニ)細菌の粒の長さまたは連鎖の数に応じて変化する粒子の光学的特徴に基づいて、
桿菌および球菌の少なくとも1つに関するフラグが前記検体に付与され得る。こうすると、さらに(ニ)の特徴情報により細菌の
種類が判定されるため、細菌の
種類の判定精度をより向上させることができる。
【0022】
ここで、前記(イ)および前記(ロ)が、球菌または混合のフラグを付与する条件を満たしている場合であって、前記(ニ)が桿菌に対応する特徴を示している場合、前記検体に桿菌のフラグが付与され得る。
【0023】
この場合、前記検体に含まれる細菌の数および白血球の数をさらに取得し、取得した前記細菌の数が閾値以上であり、前記白血球の数が閾値以上である場合、前記検体にフラグを付与する。こうすると、不要な形態判定を防ぐことができるとともに、不十分な測定試料に基づく精度の低い判定結果がユーザに提供されることを防ぐことができる。
【0024】
本発明の第2の態様は、細菌分析方法に関する。この態様に係る細菌分析方法は、光源から光を照射することでフローセル中にビームスポットを形成し、検体と試薬を混合して調製された測定試料を前記フローセルに流し、前記ビームスポットを通過した測定試料中の粒子から発せられる散乱光強度と蛍光強度を取得し、散乱光強度に関する軸と蛍光強度に関する軸とを少なくとも含む座標空間に各粒子をプロットし、(イ)前記座標空間上の桿菌および球菌に対応する第1領域にプロットされた各粒子の散乱光強度および蛍光強度の比を代表する値;および(ロ)前記第1領域にプロットされた粒子の数に対する、
桿菌の特徴を有する粒子が少なくともプロットされる散乱光強度の低値側の第2領域にプロットされた粒子の相対的な数;の両方に基づいて、
桿菌および球菌の少なくとも1つに関するフラグを前記検体に付与する。
【0025】
本態様に係る細菌分析方法によれば、上記第1の態様と同様の効果が奏され得る。
【0026】
本発明の第3の態様は、検体分析装置に関する。この態様に係る検体分析装置は、検体と試薬を混合して調製された測定試料に光を照射する光源部と、前記光源部からの光により前記測定試料から生じる光を検出することにより、前記測定試料に含まれる粒子について、
散乱光強度と蛍光強度を取得する光学情報取得部と、取得された前記
散乱光強度および前記蛍光強度を処理する処理部と、を備える。ここで、前記処理部は、(イ)少なくとも前記
散乱光強度および前記蛍光強度を軸として含む座標空間に各粒子をプロットした
場合に球菌および桿菌の特徴を有する粒子がプロットされる第1領域内の粒子の分布パターンの特徴を示す情報;および(ロ)前記第1領域にプロットされた粒子のうち、
桿菌の特徴を有する粒子が少なくともプロットされる前記散乱光強度が低値側の第2領域にプロットされた粒子の数に関する情報;の両方に基づいて、
桿菌および球菌の少なくとも1つに関するフラグを前記検体に付与する。
【0027】
本態様に係る検体分析装置によれば、上記第1の態様と同様の効果が奏され得る。
【0028】
本発明の第4の態様は、細菌分析方法に関する。この態様に係る細菌分析方法は、検体と試薬を混合して調製された測定試料に光を照射し、前記測定試料に含まれる粒子について
散乱光強度と蛍光強度を取得し、前記
散乱光強度および前記蛍光強度を軸とする座標空間における各粒子に対応する座標を求め、前記座標空間において粒子が集中する角度に関する第1特徴情報および全体の分布状態と
桿菌の特徴を有する粒子が少なくともプロットされる前記散乱光強度が低値側の角度範囲における分布状態との関係に関する第2特徴情報を取得し、前記第1特徴情報および前記第2特徴情報に基づいて前記測定試料に含まれる細菌の
種類として桿菌および球菌の少なくとも1つを判定する。
【0029】
本態様に係る細菌分析方法によれば、粒子が集中する角度に関する第1特徴情報に加えて、全体の分布状態と
桿菌の特徴を有する粒子が少なくともプロットされる散乱光強度が低値側の角度範囲における分布状態との関係に関する第2特徴情報が用いられる。このように
散乱光強度が低値側の角度範囲における分布状態を判定要素とすることで、粒子が全体にわたって分布しているのか局在しているのかの指標とすることができる。これにより、ヒストグラムに含まれるピーク角度のみに基づいて細菌の
種類を判定していた先行技術に比べて、細菌の
種類を精度良く判定することができる。
【0030】
本態様に係る細菌分析方法において、前記第1特徴情報は
、基準軸に対する角度であって、当該角度付近において粒子が最も集中する角度に関する情報とされ得る。
【0031】
また、本態様に係る細菌分析方法において、前記第2特徴情報は、
前記角度範囲に含まれる粒子の数の、全て粒子の数に占める割合に関する情報とされ得る。
【0033】
また、本態様に係る細菌分析方法は、前記測定試料について取得した前記第1特徴情報および前記第2特徴情報の組合せと、予め細菌の
種類に応じて規定された前記第1特徴情報および前記第2特徴情報の区画範囲とに基づいて、前記測定試料に含まれる細菌の
種類を判定するよう構成され得る。こうすると、第1の特徴情報と第2特徴情報がどの区画範囲に属するかにより、細菌の
種類を判定することができる。
【0034】
また、本態様に係る細菌分析方法は、前記第1特徴情報および前記第2特徴情報に基づいて前記測定試料に含まれる細菌の
種類を判定する際に、前記測定試料について取得した前記第1特徴情報および前記第2特徴情報の組合せが、前記第1特徴情報および前記第2特徴情報により予め規定された複数の区画範囲のうちいずれかの区画範囲に該当するかを判定する工程を含み得る。
【0035】
この場合、前記区画範囲は少なくとも3つあり、前記測定試料について取得した前記第1特徴情報および前記第2特徴情報の組合せが第1の区画範囲に属する場合には、前記測定試料に含まれる細菌が桿菌であると判定し、前記組合せが第2の区画範囲に属する場合には、前記測定試料に含まれる細菌が球菌であると判定し、前記組合せが第3の区画範囲に属する場合には、前記測定試料に含まれる細菌が混合であると判定するよう構成され得る。こうすると、測定試料に含まれる細菌が桿菌、球菌または混合であるかを、精度良く判定することができる。
【0036】
あるいは、前記区画範囲が少なくとも2つあり、前記測定試料について取得した前記第1特徴情報および前記第2特徴情報の組合せが第1の区画範囲に属する場合には、前記測定試料に含まれる細菌が桿菌であると判定し、前記組合せが第4の区画範囲に属する場合には、前記測定試料に含まれる細菌が球菌または混合であると判定するよう構成され得る。このようにすると、測定試料に含まれる細菌が桿菌であるか、あるいは、球菌または混合であるかを、精度良く判定することができる。これによって通常では3〜4日かかる尿培養感受性検査の結果を待つことなく、迅速に尿路感染の起炎菌の推定が可能となり適切な抗菌薬選択に役立つ情報を提供することができる。
【0037】
また、本態様に係る細菌分析方法は、前記測定試料に含まれる粒子から、検体の特性に関する第3特徴情報を取得し、第3特徴情報に基づいて、前記測定試料に対して細菌の
種類判定を行うか否かを決定するよう構成され得る。こうすると、不要な
種類判定を防ぐことができるとともに、不十分な測定試料に基づく精度の低い判定結果がユーザに提供されることを防ぐことができる。
【0038】
この場合、前記第3特徴情報は、前記測定試料に含まれる細菌の数に関する情報を含み得る。
【0039】
また、前記第3特徴情報は、前記測定試料に含まれる白血球の数に関する情報を含み得る。
【0040】
本態様に係る細菌分析方法において、前記検体は、たとえば、尿とされ得る。この場合、細菌の形態により、尿路感染症等の疾患が疑わしいことを迅速に把握することができ、適時、効果的な投薬および処置を採ることが可能となる。
【0041】
本態様に係る細菌分析方法は、測定試料に含まれる粒子について取得した
散乱光強度と前記蛍光強度を座標軸として、所定の座標範囲に含まれる粒子の数に基づく他の特徴情報をさらに取得し、前記第1、第2および他の特徴情報に基づいて、前記測定試料に含まれる細菌の
種類を判定するよう構成とされ得る。こうすると、さらに他の特徴情報により細菌の
種類が判定されるため、細菌の
種類の判定精度をより向上させることができる。
【0042】
この場合、前記他の特徴情報は、測定試料から生じる散乱光強度および蛍光強度に関する情報を2つの座標軸としたときに、前記散乱光強度が小さい領域に設定された座標範囲に含まれる粒子の数に基づく第4特徴情報を含み得る。
【0043】
また、前記他の特徴情報は、測定試料から生じる散乱光強度および散乱光
パルス幅に関する情報を2つの座標軸としたときに、前記散乱光
パルス幅が大きい領域に設定された座標範囲に含まれる粒子の数に基づく第5特徴情報を含み得る。
【0044】
また、本態様に係る細菌分析方法は、前記第1特徴情報および前記第2特徴情報に基づく判定の結果、前記測定試料に含まれる細菌が桿菌であると判定した場合は、その判定結果を出力し、前記第1特徴情報および前記第2特徴情報に基づく判定の結果、前記測定試料に含まれる細菌が球菌または桿菌と球菌の混合であると判定した場合は、前記他の特徴情報に基づいて、判定結果を補正して出力するよう構成され得る。こうすると、たとえば、測定試料中に大きな桿菌が含まれるような場合に、測定試料中に含まれる細菌が球菌または桿菌と球菌の混合と判定されることが抑えられる。これにより、測定試料に含まれる細菌が桿菌である場合の判定精度をより向上させることができる。
【0045】
本発明の第5の態様は、検体分析装置に関する。この態様に係る検体分析装置は、検体と試薬を混合して調製された測定試料に光を照射する光源部と、前記光源部からの光により前記測定試料から生じる光を検出することにより、前記測定試料に含まれる粒子について、
散乱光強度と蛍光強度を取得する光学情報取得部と、取得された前記
散乱光強度および前記蛍光強度を処理する処理部と、を備える。ここで、前記処理部は、前記
散乱光強度および前記蛍光強度を軸として含む座標空間における各粒子の座標を求め、粒子が集中する角度に関する第1特徴情報および全体の分布状態と
桿菌の特徴を有する粒子が少なくともプロットされる前記散乱光強度が低値側の角度範囲における分布状態との関係に関する第2特徴情報を取得し、前記第1特徴情報および前記第2特徴情報に基づいて前記測定試料に含まれる細菌の
種類として桿菌および球菌の少なくとも1つを判定する。
【0046】
また、本態様に係る検体分析装置において、前記処理部は、測定試料に含まれる粒子について取得した
散乱光強度および蛍光強度を座標軸として、所定の座標範囲に含まれる粒子の数に基づく他の特徴情報をさらに取得し、前記第1、第2および他の特徴情報に基づいて、前記測定試料に含まれる細菌の
種類を判定するよう構成され得る。
【0047】
本態様に係る検体分析装置によれば、上記第4の態様と同様の効果が奏され得る。
【発明の効果】
【0048】
以上のとおり、本発明によれば、検体に含まれる細菌の形態を精度良く判定することが可能な細菌分析方法および検体分析装置を提供することができる。
【0049】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態により何ら制限されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本実施の形態は、尿検体に含まれる細菌について測定を行い、かかる測定結果から得られる尿検体中の細菌の形態を判定する尿検体分析装置に本発明を適用したものである。
【0052】
以下、本実施の形態に係る尿検体分析装置について、図面を参照して説明する。
【0053】
図1は、本実施の形態に係る尿検体分析装置1の構成を示す図である。
【0054】
尿検体分析装置1は、測定装置2と情報処理装置3を備える。測定装置2は、尿検体に含まれている細菌、および白血球等の尿中有形成分をフローサイトメーターにより光学的に測定する。情報処理装置3は、測定装置2による測定結果を分析し、分析結果を表示部320に表示する。
【0055】
図2は、測定装置2の構成を示す図である。
【0056】
測定装置2は、検体分配部201と、試料調製部202と、光学検出部203と、信号処理部210と、CPU204と、通信インターフェース205と、メモリ206とを有する。信号処理部210は、アナログ信号処理部211と、A/Dコンバータ212と、デジタル信号処理部213と、メモリ214とを有する。
【0057】
検体分配部201は、吸引管とポンプ(図示せず)を備えている。ポンプが駆動されることにより、吸引管内に所定量の検体(尿)が吸引され、吸引管内に吸引された検体が吐出される。かかる吸引管とポンプにより、検体分配部201は、検体容器から吸引された所定量の検体を、試料調製部202に供給する。
【0058】
試料調製部202は、試薬容器と、混合容器と、ポンプ(図示せず)を備えている。混合容器では、検体分配部201から供給された検体に対して、試薬容器から供給される希釈液と染色液が混合され、測定試料の調製が行われる。混合容器で調製された測定試料は、ポンプにより、シース液と共に光学検出部203のシースフローセル203c(
図4参照)に供給される。
【0059】
光学検出部203は、測定試料に対してレーザ光を照射し、これにより生じた前方散乱光と、側方蛍光と、側方散乱光に基づく電気信号を、アナログ信号処理部211に出力する。アナログ信号処理部211は、CPU204の指示に従って、光学検出部203から出力された電気信号を増幅し、A/Dコンバータ212に出力する。
【0060】
A/Dコンバータ212は、アナログ信号処理部211によって増幅された電気信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号処理部213に出力する。デジタル信号処理部213は、CPU204の指示に従って、A/Dコンバータ212から出力されるデジタル信号に対して所定の信号処理を施す。信号処理が施されたデジタル信号はメモリ214に記憶される。
【0061】
メモリ214に記憶されるデジタル信号は、シースフローセル203cを細菌が通過する度に生じる前方散乱光および側方蛍光のパルス信号に基づく信号を含んでいる。なお、本実施の形態では、後述のように、シースフローセル203cによって、細菌の他、尿に含まれる赤血球、白血球、上皮細胞、円柱等に対する光学情報も取得され、メモリ214に記憶される。
【0062】
CPU204は、メモリ214に記憶されたデジタル信号から、前方散乱光および側方蛍光のパルス信号の高さを取得する。ここで、前方散乱光のパルス信号の高さは、シースフローセル203cを1つの細菌が通過したことによって生じた前方散乱光の強度を示している。レーザ光に細菌に照射されたときの細菌の表面積が大きいほど、レーザ光が細菌によって散乱される光量が多くなり、前方散乱光のパルス信号の高さが高くなる。すなわち、前方散乱光のパルス信号の高さは、細菌の表面積を反映している。また、側方蛍光のパルス信号の高さは、シースフローセル203cを1つの細菌が通過したことによって生じた側方蛍光の強さを示している。なお、側方蛍光のパルス信号の高さは、細菌に含まれる核酸の染色度合いを反映している。
【0063】
CPU204は、前方散乱光と側方蛍光のパルス信号の高さを取得した後、パルス信号の高さに基づき、シースフローセル203cを通過した各々の細菌についての前方散乱光強度と蛍光強度のデータ群(以下、「測定データ」という)を生成する。CPU204は、かかる測定データを通信インターフェース205に出力する。また、CPU204は、通信インターフェース205を介して情報処理装置3から制御信号を受信し、かかる制御信号に従って測定装置2の各部を駆動する。
【0064】
通信インターフェース205は、CPU204から出力される測定データを情報処理装置3に送信し、情報処理装置3から出力される制御信号を受信する。メモリ206は、CPU204の作業領域として用いられる。
【0065】
図3は試料調製部202および光学検出部203の概略機能構成を示す図である。
図3において、試験管に入った検体(尿)は、吸引管201aを用いて図示しないシリンジポンプにより吸引され、検体分配部201によって試料調製部202へ分注される。試料調製部202は、細菌系試料調製部202aと沈渣系試料調製部202bとで構成されており、検体分配部201は、細菌系試料調製部202aと沈渣系試料調製部202bのそれぞれに検体(尿)の定量されたアリコートが分配される。
【0066】
細菌系試料調製部202aの尿アリコートは、希釈液202cと染色液202dが混合されて染色液202dに含まれる色素により染色が施される。この染色試料は、検体(尿)中の細菌を分析するための懸濁液となる。
【0067】
沈渣系試料調製部202bの尿アリコートは、希釈液202eと染色液202fが混合されて染色液202fに含まれる色素により染色が施される。この染色試料は、赤血球、白血球、上皮細胞、円柱等の比較的大きい尿中有形成分を分析するための懸濁液となる。
【0068】
このようにして調製された2種類の懸濁液(試料)は、先に沈渣系試料調製部202bの懸濁液が光学検出部203に導かれ、シースフローセル203cにおいてシース液に包まれた細い流れを形成し、そこに、レーザ光が照射される。その後同様に、細菌系試料調製部202aの懸濁液が光学検出部203に導かれ、シースフローセル203cにおいて細い流れを形成し、レーザ光が照射される。このような動作は、情報処理装置3の制御により、図示しない駆動部や電磁弁等を動作させることにより、自動的に行われる。
【0069】
図4は、測定装置2のうち光学検出部203とアナログ信号処理部211の構成を示す模式図である。
【0070】
光学検出部203は、発光部203aと、照射レンズユニット203bと、シースフローセル203cと、集光レンズ203dと、ピンホール板203eと、PD(フォトダイオード)203fと、集光レンズ203gと、ダイクロイックミラー203hと、光学フィルタ203iと、ピンホール板203jと、PMT(光電子倍増管)203kと、PD(フォトダイオード)203lとを備えている。アナログ信号処理部211は、アンプ211a、211b、211cを備えている。
【0071】
発光部203aから出射されるレーザ光は、照射レンズユニット203bにより、試料流に垂直な方向に扁平なビームスポットとして、シースフローセル203cの内部を通過する測定試料を含む試料流に照射される。なお、シースフローセル203cの内部を通過する測定試料は、上述のようにして、測定対象となる検体(尿)に、希釈液と染色液が混合された2種類の懸濁液である。
【0072】
集光レンズ203dは、発光部203aから出射されるレーザ光の進行方向に配置されている。シースフローセル203cから生じる前方散乱光は、集光レンズ203dによって収束されて、ピンホール板203eを通り、PD203fによって受光される。
【0073】
集光レンズ203gは、発光部203aから出射されるレーザ光の進行方向と交差する方向に配置されている。シースフローセル203cから生じる側方蛍光と側方散乱光は、集光レンズ203gによって収束されて、ダイクロイックミラー203hに入射する。ダイクロイックミラー203hは、側方蛍光と側方散乱光を分離する。ダイクロイックミラー203hにより分離された側方蛍光は、光学フィルタ203iとピンホール板203jを通り、PMT203kによって受光される。他方、ダイクロイックミラー203hにより分離された側方散乱光は、PD203lによって受光される。
【0074】
PD203f、PMT203k、PD203lは、それぞれ、受光した前方散乱光、側方蛍光、側方散乱光に応じて電気信号を出力する。アンプ211a、211b、211cは、それぞれ、PD203f、PMT203k、PD203lから出力される電気信号を増幅し、A/Dコンバータ212に出力する。なお、アンプ211a、211b、211cは、
図2に示すアナログ信号処理部211を構成する。
【0075】
図5は、情報処理装置3の構成を示す図である。
【0076】
情報処理装置3は、パーソナルコンピュータからなっており、本体300と、入力部310と、表示部320(
図1参照)から構成されている。本体300は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、ハードディスク304と、読出装置305と、入出力インターフェース306と、画像出力インターフェース307と、通信インターフェース308とを有する。
【0077】
CPU301は、ROM302に記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM303にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM303は、ROM302およびハードディスク304に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM303は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU301の作業領域としても利用される。
【0078】
ハードディスク304には、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムなど、CPU301に実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。また、ハードディスク304には、測定装置2から受信した測定データが記憶されている。
【0079】
さらに、ハードディスク304には、測定データに基づいて検体に含まれる細菌およびその他の尿中有形成分の数を取得し検体についての分析を行うためのプログラムや、分析結果を表示部320上に表示を行う表示プログラムがインストールされている。これらプログラムがインストールされることで、後述の分析処理や表示処理が行われる。すなわち、CPU301は、かかるプログラムにより、後述する
図6(b)と
図13の処理を実行する機能や、
図14の画面を表示する機能が付与されている。
【0080】
読出装置305は、CDドライブまたはDVDドライブ等によって構成されており、記録媒体などの外部記憶に記録されたコンピュータプログラムおよびデータを読み出すことができる。これにより、情報処理装置3で実行されるプログラムは、記録媒体などの外部記憶を介して更新可能となっている。
【0081】
入出力インターフェース306には、マウスやキーボードからなる入力部310が接続されており、ユーザが入力部310を使用することにより、情報処理装置3に対する指示が行われる。画像出力インターフェース307は、ディスプレイ等で構成された表示部320に接続されており、画像データに応じた映像信号を、表示部320に出力する。表示部320は、入力された映像信号をもとに、画像を表示する。
【0082】
また、通信インターフェース308により、測定装置2から送信された測定データの受信が可能となる。かかる測定データは、ハードディスク304に記憶される。
【0083】
図6は、測定装置2のCPU204と情報処理装置3のCPU301の制御を示すフローチャートである。
図6(a)は、測定装置2のCPU204による測定処理を示すフローチャートであり、
図6(b)は、情報処理装置3のCPU301による分析処理を示すフローチャートである。
【0084】
図6(b)を参照して、CPU301は、入力部310を介してユーザからの測定開始指示があると(S11:YES)、測定装置2に測定開始信号を送信する(S12)。続いて、CPU301は、測定データを受信したかを判定する(S13)。測定データが受信されていないと(S13:NO)、処理が待機される。
【0085】
他方、
図6(a)を参照して、CPU204は、情報処理装置3から測定開始信号を受信すると(S21:YES)、上述した検体の測定を行う(S22)。検体の測定が終了すると、CPU204は、情報処理装置3に測定データを送信し(S23)、処理がS21に戻される。
【0086】
図6(b)を参照して、CPU301は、測定装置2から測定データを受信すると(S13:YES)、ハードディスク304に測定データを記憶し、かかる測定データに基づいて分析処理を行う(S14)。続いて、CPU301は、S14で取得した分析結果を表示部320に表示する(S15)。しかる後、処理がS11に戻される。
【0087】
次に、
図6のS14における“分析処理”について説明する。
【0088】
まず、
図7(a)〜(c)を参照して、細菌種別の検出原理について説明する。
【0089】
図7(a)は、測定試料中に主として桿菌が含まれる場合の2次元スキャッタグラムの例示図である。
図7(b)は、測定試料中に主として連鎖球菌が含まれる場合の2次元スキャッタグラムの例示図である。
図7(c)は、測定試料中に主としてブドウ球菌が含まれる場合の2次元スキャッタグラムの例示図である。なお、
図7(a)〜
図7(c)の下部には、それぞれ、各細菌に対するレーザ光(
図4参照)の照射状態が模式的に示されている。
図4を参照して説明したとおり、レーザ光はシースフローセル203cにおいて扁平なビームスポットを形成し、細菌を含む試料流はビームスポットを下から上に通過する。また、便宜上、
図7(a)〜(c)には、それぞれ、ドットの分布状態を横軸からの偏角で示すための直線が付記されている。
【0090】
細菌の測定においては、細菌の大きさ(表面積)が大きいほど、前方散乱光強度(ピーク値)が高く、細菌の染色度合いが高いほど、蛍光強度が高くなる。このため、2次元スキャッタグラム上におけるドットの分布状態は、細菌の形態毎に互いに異なる。
【0091】
図7(a)の下部に示すように、桿菌は、一つ一つの細菌が長細い棒状または円筒状の形状を有するため、連鎖球菌やブドウ球菌に比べて、レーザ光が照射される細菌の表面積が小さい。
図7(a)の例では、2つの連なった桿菌の一部にレーザ光が照射されている。なお、
図7(a)のに示す状態のほか、1つの桿菌のみにレーザ光が照射されることも起こり得る。このように桿菌は、レーザ光が照射される細菌の表面積が小さいため、前方散乱光強度が低い。このため、測定試料中に主として桿菌が含まれる場合には、
図7(a)に示すように、大半のドットが下部の領域に分布する2次元スキャッタグラムが得られる。
【0092】
図7(b)の下部に示すように、連鎖球菌は、一つ一つの細菌が略円形状を有し、各細菌が直鎖状に連なっている。したがって、連鎖球菌は、桿菌に比べて、レーザ光が照射される表面積が大きい。このため、測定試料中に主として連鎖球菌が含まれる場合には、前方散乱光強度が桿菌の場合よりも大きくなり易く、これにより、
図7(b)に示すように、桿菌の場合よりも上側にドットが分布する2次元スキャッタグラムが得られる。
【0093】
図7(c)の下部に示すように、ブドウ球菌は、連鎖球菌と同様、一つ一つの細菌が略円形状を有しているが、連鎖球菌よりも、細菌の凝集度が高くなっている。したがって、ブドウ球菌は、連鎖球菌よりも、レーザ光が照射される表面積が大きくなる。このため、測定試料中に主としてブドウ球菌が含まれる場合には、連鎖球菌の場合よりも、さらに前方散乱光強度が高くなり易く、これにより、
図7(c)に示すように、連鎖球菌の場合よりもさらに上側にドットが分布する2次元スキャッタグラムが得られる。
【0094】
図7(a)〜(c)を参照すると、横軸から各直線までの偏角が、細菌毎に異なっている。したがって、横軸を蛍光強度、縦軸を前方散乱光強度とする2次元スキャッタグラムから偏角を求め、求めた偏角の大きさを所定の閾値と比較することで、測定試料中に含まれる細菌が桿菌であるか、球菌(連鎖球菌、ブドウ球菌)であるかを判定することができる。本実施の形態では、この原理に基づき、測定試料中に含まれる細菌の形態が判別される。
【0095】
なお、測定試料中に複数形態の細菌が混在する場合、2次元スキャッタグラムにおけるドットの分布は、
図7(a)〜(c)のようにはならず、たとえば、2つの分布が融合したようなドットの分布となる。このような場合、測定試料中に複数の細菌が含まれると適正に判定されることが望ましく、誤って、測定試料中の細菌が桿菌単独または球菌単独(連鎖球菌、ブドウ球菌)であると判定されることを防ぐことが望ましい。本実施の形態では、このような場合に、測定試料中に複数の細菌が混在することが、偏角以外の他の特徴情報に基づいて判定される。これについては、以下に示す“分析処理”の具体的手法において説明する。
【0096】
図8(a)は、分析処理において作成されるスキャッタグラムデータテーブルTsの構成を示す図である。
【0097】
スキャッタグラムデータテーブルTsには、横軸(X軸)を蛍光強度、縦軸(Y軸)を前方散乱光強度とする直交座標系上の各座標位置における測定データの度数(頻度)が保持される。たとえば、G11は、座標位置(1,1)における測定データの度数(頻度)を示し、Gnnは、座標位置(n,n)における測定データの度数(頻度)を示している。つまり、スキャッタグラムデータテーブルTsは、各座標位置にプロットされる細菌の数を保持する。なお、
図8(a)では、縦軸、横軸の座標がそれぞれ1〜nと規定されているが、これに限られるものではない。たとえば、縦と横の座標の設定数が互いに異なっていてもよい。
【0098】
図8(b)は、縦軸(Y軸)を前方散乱光強度、横軸(X軸)を蛍光強度とする直交座標系に、細菌の測定データをドットとして分布させた2次元スキャッタグラムの例示図である。
図8(c)は、上記直交座標系上の座標位置(i,j)にプロットされるドットPijの偏角θijを示す模式図である。
図8(c)に示すように、偏角θijは、直交座標系の原点OとドットPijを結ぶ直線と、X軸(Y=0)とがなす角度である。なお、原点Oは、座標軸の0点をいかに設定するかによって適宜変更することができる。例えば、前方散乱光強度および蛍光強度が、それぞれ0〜255の数値範囲をとりうる場合、原点を(0、0)とすることもできるし、(n、m)(ただし、0≦n、m≦255)とすることもできる。
【0099】
図9(a)は、2次元スキャッタグラム上に設定される角度領域θkを概念的に示す図である。
【0100】
直線d0、d1、d2、d3、d4、…は、2次元スキャッタグラムの原点Oを中心とする仮想の円Aの径方向の直線である。直線d0は横軸に一致する直線であり、他の直線は、図示の如く、それぞれ隣り合う直線に対してγの角度を有している。角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…は、直線d0、d1、d2、d3、d4、…によって分割された領域である。なお、γは任意に定めることができ、たとえば、1°に設定してもよいし、10°に設定しても良い。このように2次元スキャッタグラムを複数の領域に分割した後、角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…から、さらに原点O付近の領域Bが除かれる。領域Bは、原点Oを中心とする円と各座標軸とが囲う扇形形状の領域である。
【0101】
図9(b)は、角度領域θkから原点O付近の領域Bが除かれた領域を示す図である。図示の如く、角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…から、
図9(a)で示した領域Bが除かれている。この原点O付近の領域Bが除かれた角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、に含まれる細菌の数が計測される。
【0102】
ここで、
図9(b)のように、角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…から領域Bが除かれる理由は、後述する尿路感染症の分類の判定と細菌の形態の判定の精度を高めるためである。すなわち、
図8(b)の2次元スキャッタグラムからも分かる通り、原点O付近に細菌の分布が偏り易い。このため、角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…のカウント結果に顕著な差が生じるように、原点O付近の細菌をカウント対象から除外することが好ましい。また、領域Bでは、領域B以外の領域(前方散乱光強度と蛍光強度が大きい領域)と比較して、直線d0、d1、d2、d3、d4、…によって分割される領域が狭い。他方、原点O付近では、異なる細菌の分布が互いに重なり合い易い。このため、形態判定の精度を高めるために、原点O付近の細菌をカウント対象から除外することが好ましい。
【0103】
このような理由から、尿路感染症の分類の判定と細菌の形態の判定では、原点O付近の細菌の数をカウントしないようにして各領域に含まれる細菌の数の差を顕著なものとするために、角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…から原点O付近の領域Bが除かれる。
【0104】
なお、本実施の形態では、角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…から、扇形の領域Bが除外されたが、除外される領域は、矩形等他の形状であっても良い。以下の説明では、角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…から原点O付近の領域Bが除かれた領域を、角度領域θ1、θ2、θ3、θ4、…と称する。
【0105】
図10(a)は、分析処理において参照される偏角データテーブルTdの構成を示す図である。偏角データテーブルTdには、
図8(c)に示す各ドットPijの偏角θijが、各ドットPijの座標位置に対応づけて保持されている。すなわち、偏角データテーブルTdの各欄には、
図8(a)に示すスキャッタグラムデータテーブルTs中の度数G11〜Gnnにそれぞれ対応する2次元スキャッタグラム上のドットP11〜Pnnの偏角θ11〜θnnが格納される。偏角θijは、
図8(c)に示すように、原点OとドットPを結ぶ直線と、X軸(Y=0)がなす角度である。たとえば、座標(2,2)のドットP22の偏角θ22は、45°となる。
【0106】
図10(b)は、分析処理において作成されるヒストグラムデータテーブルThの構成を示す図である。
図10(b)において、左端の列には、2次元スキャッタグラム上の横軸から縦軸までの領域を角度方向にm個に区分した場合の、横軸からの区分順位が示されており、中央の列には、対応する区分順位の角度領域θkの角度情報(θk)が示されている。また、ヒストグラムデータテーブルThの右端の列には、角度領域θkに含まれる細菌の出現頻度(プロット数)に関する度数データFkが格納される。
【0107】
図9(b)に示すように、角度領域θkは、2つの直線dk−1、dkによって区画される。
図10(b)のヒストグラムデータテーブルTh中の角度情報(θk)には、横軸に近い方の直線dk−1と横軸との間の角度が格納される。たとえば、角度領域θ2の角度範囲が10°〜20°である場合、ヒストグラムデータテーブルThの角度情報(θ2)の欄には、10°の値が格納される。
【0108】
また、度数データFkの欄に格納される細菌の出現頻度は、角度領域θkの角度範囲に含まれる偏角を、
図10(a)に示す偏角データテーブルTdにおいて特定し、特定した偏角に対応する座標位置を、
図8(a)のスキャッタグラムデータテーブルTsにおいて特定し、特定した座標位置に格納された度数(頻度)を総計することにより取得される。たとえば、度数データF2の出現頻度を求める場合、まず、10°〜20°に含まれる偏角が、
図10(a)の偏角データテーブルTdにおいて特定される。この場合、偏角θ31(θ31≒18°)、偏角θ41(θ41≒14°)等が、偏角データテーブルTdにおいて特定される。次に、特定された偏角θ31、θ41に対応する座標位置(3,1)、(4,1)等が
図8(a)のスキャッタグラムデータテーブルTsにおいて特定され、特定された座標位置(3,1)、(4,1)等に格納された度数G31、G41等が総計され、当該総計値が、度数データF2として取得される。なお、度数の総計においては、上記のように、領域Bに含まれる座標位置は、度数の総計対象から除かれる。
【0109】
こうしてヒストグラムデータテーブルThが作成された後、度数データが最大となる角度領域の角度情報が、偏角情報θpとして取得される。たとえば、度数データFiが、全ての度数データの中で最大である場合、角度領域θiの角度情報(θi)が、偏角情報θpとして取得される。
【0110】
図10(c)は、
図10(b)に示すヒストグラムデータテーブルThに格納された角度情報(θk)と度数データFkとに基づいてヒストグラムを作成した場合のヒストグラムの例示図である。
図10(c)において、横軸は、角度領域θkの角度情報(θk)、縦軸は、角度領域θkに対応する度数データFである。この例では、ヒストグラム中に現れる2つの山のうち、左側の山のピークに対応する角度情報が偏角情報θpとして取得される。
【0111】
こうして取得された偏角情報θpは、
図7(a)〜(c)中に付記した直線の、横軸に対する傾角に対応する。偏角情報θpは、2次元スキャッタグラムにおける粒子の分布パターンの特徴を示すパラメータである。より詳しくいえば、偏角情報θpは、2次元スキャッタグラム上で粒子が集中してプロットされる位置を表しており、検体に含まれるそれぞれの細菌の表面積と色素による染まり具合との関係を代表的に表す値である。偏角情報θpと所定の閾値とを比較することにより、測定試料中に含まれる細菌の形態を判定することができる。
【0112】
なお、測定試料中に複数の細菌が混在する場合には、上述のように、複数の細菌が混在することが適正に判定されることが望ましい。本実施の形態では、この判定のために、全角度領域(θ1〜θm)の度数に対する低角度領域θLの度数の割合αがさらに用いられる。ここで、低角度領域θLは、
図10(c)に示すように、0°〜θaの範囲に含まれる角度領域である。たとえば、低角度領域θLが角度領域θ1およびθ2に設定される場合、度数データF1〜Fmの総計値FAに対する度数データF1およびF2の加算値FLの割合が、割合αとして算出される。割合αは、次式により求められる。
【0113】
α=(FL/FA)×100 …(1)
【0114】
低角度領域θLを定義するθaは、たとえば、0°<θa<30°と設定することができる。より好ましくは、θaは、0°<θa<20°とすることができる。
【0115】
図10(c)に示すヒストグラムでは、ハッチングが付された領域が、低角度領域θLに対応し、この領域の度数の全領域の度数に対する割合が、割合αとなる。
【0116】
割合αは、0〜90°の角度範囲におけるヒストグラム全体の分布状態と、一部の角度範囲における分布状態との関係を示すパラメータである。本実施形態における割合αは、低角度領域θLにおける粒子数と、全体の角度範囲における粒子数との割合を示す値である。すなわち、割合αの値が大きければ大きいほど、スキャッタグラムにおける低角度領域に粒子が局在していることが示唆される。つまり、桿菌が単独で存在している可能性が高いことがわかる。一方、割合αの値が小さければ、低角度から高角度の広範囲に粒子が分散していることが示唆される。
【0117】
こうして取得された割合αと、上述の偏角情報θpとの組合せが、予め準備された特徴空間において、どの区画範囲(判定領域)に属するかによって、測定試料に含まれる細菌が、桿菌であるか、球菌(連鎖球菌、ブドウ球菌)であるか、あるいは、混合であるかが判定される。
【0118】
図11(a)は、検体に含まれる細菌の形態を判定するための特徴空間を模式的に示す図である。
図11(a)において、横軸は割合αの大きさ、縦軸は偏角情報θpの大きさを示す。
【0119】
図11(a)に示すように、特徴空間は、縦軸と横軸に、それぞれ、閾値角度θsと閾値αsが設定され、これら閾値角度θsと閾値αsによって、判定領域S1〜S3に区分されている。上述のようにして、検体の測定結果が判定領域S1〜S3のうち、どの領域に含まれるかによって測定試料に含まれる細菌の形態が判定される。
【0120】
図11(b)は、測定試料中に主として球菌(連鎖球菌、ブドウ球菌)が含まれる場合のヒストグラムの例示図である。
図11(c)は、測定試料中に主として桿菌が含まれる場合のヒストグラムの例示図である。
図11(d)は、測定試料中に複数形態の細菌が混在する場合のヒストグラムの例示図である。
図11(b)には、測定試料中に連鎖球菌が含まれる場合のヒストグラムh1と、測定試料中にブドウ球菌が含まれる場合のヒストグラムh2が示されている。
【0121】
図11(c)に示すように、測定試料中に主として桿菌が含まれる場合、ヒストグラムは、閾値角度θs以下の角度範囲にピークが現れ、データの出現度数も低角側に集中する傾向がある。したがって、
図11(a)に示すように、桿菌に対応する判定領域S1は、偏角情報θpが閾値角度θs以下で、且つ、割合αが閾値αs以上の領域に設定される。
【0122】
図11(d)に示すように、測定試料中に複数形態の細菌が混在する場合、ヒストグラムは、閾値角度θs以下の角度範囲にピークが現れ、データの出現度数は低角から高角までの範囲になだらかに分布する傾向がある。したがって、
図11(a)に示すように、混合(複数形態の細菌が混在するタイプ)に対応する判定領域S3は、偏角情報θpが閾値角度θs以下で、且つ、割合αが閾値αsより小さい領域に設定される。
【0123】
図11(b)に示すように、測定試料中に主として球菌(連鎖球菌、ブドウ球菌)が含まれる場合、ヒストグラムは、閾値角度θsよりも大きい角度範囲にピークが現れる。したがって、
図11(a)に示すように、球菌(連鎖球菌、ブドウ球菌)に対応する判定領域S2は、偏角情報θpが閾値角度θsよりも大きい領域に設定される。
【0124】
測定試料に含まれる細菌の形態は、上述の偏角情報θpと割合αの組合せが、
図11(a)の特徴空間上のどの判定領域に属するかによって判定される。すなわち、偏角情報θpと割合αの組合せが判定領域S1に属する場合、測定試料に含まれる細菌は桿菌であると判定され、この組合せが判定領域S2に含まれる場合、測定試料に含まれる細菌は球菌(連鎖球菌、ブドウ球菌)であると判定される。また、偏角情報θpと割合αの組合せが判定領域S3に属する場合、測定試料に含まれる細菌は混合であると判定される。
【0125】
なお、閾値角度θsおよび閾値αsは、測定装置の特性等を考慮して、高い判定精度が得られるように設定される。同様に、割合αを取得するための低角度領域θLもまた、測定装置の特性等を考慮して、高い判定精度が得られるように設定される。これら閾値角度θs、閾値αsおよび低角度領域θLは、デフォルトで設定される他、操作者により適宜調整可能であっても良い。
【0126】
また、本実施の形態では、偏角情報θpと割合αの組合せによって、細菌の形態が判定されるため、複数の角度範囲にピークが現れる場合であっても、適正に細菌の形態を判別することができる。たとえば、
図11(b)のヒストグラムh1では、2つの角度においてピークが現れている。これは、測定試料中に桿菌と球菌が混在していたのではなく、2次元スキャッタグラムにおけるドットの分布具合により、低角度の角度範囲に小さなピークが出現したものである。このように、偶然にピークが複数の角度範囲において出現した場合、上記特許文献1に記載のピーク角度およびピーク角度の出現数のみに応じた細菌の形態の判別手法を用いると、測定試料中に含まれる細菌の形態は、混合であると誤判定される惧れがある。これに対し、本実施の形態における判定手法では、最大のピークθpは閾値角度θsよりも大きく、且つ、割合αが小さいため、測定試料中に含まれる細菌の形態は、球菌単独であると適正に判定され得る。
【0127】
また、測定試料中に含まれる細菌の形態は混合であるが、ピークが1つのみ出現する場合、または、測定試料中に含まれる細菌の形態は桿菌単独であるが、ピークが複数出現する場合も起こり得る。
【0128】
図12(a)は、測定試料中に複数形態の細菌が混在する場合のヒストグラムの例示図である。
図12(b)は、測定試料中に主として桿菌が含まれる場合のヒストグラムの例示図である。
【0129】
連鎖球菌は、連鎖の長さが互いに異なる種々のタイプのものが含まれ得る。したがって、
図12(a)に示すように、桿菌を示すピークと球菌を示すピークが重畳する場合には、細菌の形態が混合であるにもかかわらず、全体が緩やかな波形で1つのピークのみが現れるヒストグラムとなることが起こり得る。この場合、上記特許文献1に記載のピーク角度およびピーク角度の出現数のみに応じた細菌の形態の判別手法を用いると、測定試料中に含まれる細菌の形態は、桿菌単独であると誤判定される惧れがある。これに対し、本実施の形態における判定手法では、割合αが閾値αsよりも小さいため、測定試料中に含まれる細菌の形態は、混合であると適正に判定され得る。
【0130】
また、測定試料中に含まれる細菌の形態が桿菌単独である場合であっても、シースフローセル203cに2つ以上の桿菌が同時に通過すると、複数の桿菌が密集して大きな粒子となり、
図12(b)に示すように、高い角度範囲に偶然2つ目のピークが現れることが起こり得る。この場合、上記特許文献1に記載のピーク角度およびピーク角度の出現数のみに応じた細菌の形態の判別手法を用いると、測定試料中に含まれる細菌の形態は、混合であると誤判定される惧れがある。これに対し、本実施の形態における判定手法では、割合αが閾値αs以上となるため、測定試料中に含まれる細菌の形態は、桿菌単独であると適正に判定され得る。
【0131】
図13は、
図6のS14における“分析処理”の処理フローチャートである。
【0132】
まず、CPU301は、ハードディスク304から測定データをRAM303に読み出し、読み出した測定データに基づき、測定試料に含まれる細菌の総数および白血球の数を計測する(S101)。細菌の総数と白血球の総数は、
図3に示した構成により、それぞれ、別々に調製された試料に対して得られた測定データに基づき、計測される。なお、本実施の形態では、
図3に示すように、細菌の計測用の試料と白血球の計測用の試料が別々に調製されたが、細菌の計測用に調製された試料が白血球の計測にも用いられても良い。この場合、前方散乱光強度、および蛍光強度の検出感度が、細菌の計測時と白血球の計測時に、それぞれに適した感度に調整される。
【0133】
続いて、CPU301は、測定試料に含まれる細菌の数が所定値以上であるかを判定する(S102)。すなわち、S101で計測した細菌の総数から、1μLの測定試料中に含まれる細菌の数を取得し、かかる細菌の数が所定値以上であるかを判定する。なお、本実施形態における細菌の種類判定の解析を行なうには、ある程度の数の細菌数が必要になる。本実施の形態では、S102の判定に用いる所定値は、1μLの測定試料に対して100個程度とされる。
【0134】
測定試料に含まれる細菌の数が所定値以上の場合(S102:YES)、CPU301は、さらに、測定試料に含まれる白血球の数が所定値以上であるかを判定する(S103)。すなわち、S101で計測した白血球の総数から、1μLの測定試料に含まれる白血球の数を取得し、かかる白血球の数が所定値以上であるかを判定する。なお、本実施の形態では、S103の判定に用いる所定値は、たとえば、1μLの測定試料に対して10個程度とされる。
【0135】
このように、本実施の形態では、細菌の形態判定の解析を始めるか否かの判定要素として、細菌の総数に加え、白血球の総数を用いることにより、尿路感染症である疑いのある検体に対してのみ細菌の形態判定の解析を行うことができる。
【0136】
測定試料に含まれる細菌の数が所定値よりも小さいと判定され(S102:NO)、あるいは、測定試料に含まれる白血球の数が所定値よりも小さいと判定されると(S103:NO)、CPU301は、細菌の形態判定は不要であると判定し(S104)、処理を終了する。他方、測定試料に含まれる細菌の数が所定値以上と判定され(S102:YES)、且つ、測定試料に含まれる白血球の数が所定値以上と判定されると(S103:YES)、CPU301は、処理をS105に進める。
【0137】
S105において、CPU301は、測定データに基づいて、
図8(a)に示すスキャッタグラムデータテーブルTsを作成する。さらに、CPU301は、作成したスキャッタグラムデータテーブルTsに基づいて、
図10(b)に示すヒストグラムデータテーブルThを作成する(S106)。
【0138】
次に、CPU301は、作成したヒストグラムデータテーブルThを用いて、上記のように度数データが最大となっている角度領域を抽出し、当該角度領域に対応する偏角情報θpを取得する(S107)。さらに、CPU301は、ヒストグラムデータテーブルThを用いて、上記のように低角度領域θLの度数の全角度領域の度数に対する割合αを算出する(S108)。
【0139】
こうして、偏角情報θpと割合αが算出されると、CPU301は、これらの特徴情報が、
図11(a)に示す特徴空間の判定領域S1〜S3のうち、どの領域に属するかを判定する(S109、S110)。これにより、検体に含まれる細菌の形態が判定され、判定結果に応じて細菌の形態的特徴に関するフラグが検体に付与される。具体的には、CPU301は、偏角情報θpが閾値角度θs以下であり(S109:YES)、且つ、割合αが閾値αs以上である場合(S110:YES)、すなわち、上記特徴情報が特徴空間の判定領域S1に含まれる場合、CPU301は、測定試料に含まれる細菌が主として桿菌であると判定する(S111)。この検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして「桿菌」のフラグが付与される。また、偏角情報θpが閾値角度θs以下であり(S109:YES)、且つ、割合αが閾値αsより小さい場合(S110:NO)、すなわち、上記特徴情報が特徴空間の判定領域S3に含まれる場合、CPU301は、測定試料中に、複数形態の細菌が混在していると判定する(S112)。この検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして「混合」のフラグが付与される。さらに、偏角情報θpが閾値角度θsを超える場合(S109:NO)、すなわち、上記特徴情報が特徴空間の判定領域S2に含まれる場合、CPU301は、測定試料に含まれる細菌が、主として球菌(連鎖球菌またはブドウ球菌)であると判定する(S113)。この検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして「球菌」のフラグが付与される。
【0140】
なお、本実施の形態は、S109の判定により、検体に含まれる細菌が球菌であるか否かを判定したか、球菌の種別が、連鎖球菌であるか、ブドウ球菌であるかをさらに細かく判別しても良い。この場合、特徴空間の判定領域S2を2分割するための第2の閾値角度θs2が設定される。第2の閾値角度θs2は、連鎖球菌の場合に得られる偏角よりも高く、ブドウ球菌の場合に得られる偏角よりも小さい角度に設定される。たとえば、第2の閾値角度θs2は、
図11(b)のヒストグラムh1の偏角情報θpとヒストグラムh2の偏角情報θpの間の角度となるように設定される。これにより、球菌の種別をさらに細かく判別することができる。
【0141】
こうして、CPU301は、上記の如くして得られた尿路感染症の有無に関する判定結果と細菌の形態的特徴に関するフラグとを含む分析結果を、ハードディスク304に記憶し(S114)、分析処理を終了する。そして、CPU301は、
図6(b)のS15において、得られた分析結果を表示するための表示画面を作成し、作成した表示画面を、表示部320に表示させる。
【0142】
図14は、情報処理装置3の表示部320に表示される情報表示画面400の例示図である。情報表示画面400は、
図6のS15に従って表示される。
【0143】
情報表示画面400は、被験者ID領域401と、測定日時領域402と、スキャッタグラム領域403と、ヒストグラム領域404と、被験者情報領域405と、細菌情報領域406とを含んでいる。
【0144】
被験者ID領域401には、この分析の元となった検体を採取した被験者を識別する被験者IDが表示される。測定日時領域402には、この測定が行われた測定日時が表示される。スキャッタグラム領域403には、この測定によって得られた
図8(b)に対応する2次元スキャッタグラムが表示される。ヒストグラム領域404には、スキャッタグラム領域403で表示されているスキャッタグラムに基づいて得られた
図10(c)に対応するヒストグラムが表示される。
【0145】
被験者情報領域405には、被験者IDに対応する被験者の名前、担当医、担当医からのコメントなどが表示される。この他、この被験者に対して投与された薬剤に関する情報が、入力部310(
図5参照)を介して入力され、被験者情報領域405に表示されるようにしても良い。
【0146】
細菌情報領域406には、
図13で示した分析処理において検体に付与された細菌の形態的特徴に関するフラグ、またはフラグに対応するメッセージが表示される。たとえば、検体に桿菌のフラグが付与された場合(S111)、細菌情報領域406には、“桿菌?”と表示される。検体に混合のフラグが付与された場合(S112)、細菌情報領域406には、“混合?”あるいは“桿菌/球菌?”と表示される。また、検体に球菌のフラグが付与された場合(S113)、細菌情報領域406には、“球菌?”と表示される。なお、細菌情報領域406の表示内容の末尾に付加される“?”は、この検体に表示内容の細菌が含まれる可能性が高いということを示している。また、細菌の形態が判定されなかった場合や、細菌の形態が判定できなかった場合は、細菌情報領域406には空白または“UNKNOWN”が表示される。
【0147】
なお、情報表示画面400に、尿路感染症の疑いの有無を表示する領域がさらに設けられてもよい。この場合、“尿路感染症?”と表示される。なお、
図13のS104の判定がなされると、この領域には何も表示されない。
【0148】
図15(a)は、尿路感染症検体85検体に対して行った本実施の形態による細菌の形態の判定結果を示す表、
図15(b)は、尿路感染症検体85検体に対して行った上記特許文献1に記載の先行技術による判定結果を示す表である。それぞれリファレンスはグラム染色標本を目視検査としてなされた判定結果とし(桿菌64検体、球菌11検体、混合(桿菌と球菌の混合)10検体)、それに対する一致率、感度、PPV(陽性的中率)を示す。
【0149】
なお、上記特許文献1に記載のアルゴリズムでは、検体に含まれる細菌の前方散乱光強度と蛍光強度とをパラメータとするスキャッタグラムについて、原点に対する各細菌の角度が検出される。そして、角度と細菌数のヒストグラムにおいてピークが出現する角度に基づいて、細菌の形態が判定される。細菌の判定では、ピークが含まれる角度領域と細菌の種別とが対応づけられる。ここでは、低角度領域(0度以上25度以下)が桿菌に割り当てられ、中角度領域(25度より大きく45度以下)が連鎖球菌に割り当てられ、高角度領域(45度より大きく80度以下)がブドウ球菌に割り当てられる。
図15(b)の判定では、ピークが連鎖球菌またはブドウ球菌の角度領域に含まれる場合は「球菌」と判定され、2つのピークがそれぞれ桿菌と球菌(連鎖球菌、ブドウ球菌)の角度領域に含まれる場合は「混合」と判定される。
【0150】
図15(a)を参照して本実施の形態による判定結果を説明する。
【0151】
目視において桿菌と判定された64検体のうち50検体が本実施の形態の判別手法により桿菌と判定されている。また、目視において球菌と判定された11検体のうち5検体が本実施の形態の判別手法により球菌と判定されている。さらに、目視において混合と判定された10検体のうち5検体が本実施の形態の判別手法により混合と判定されている。
【0152】
一方、本実施の形態による判定結果により桿菌と判定された55検体のうち50検体が目視においても桿菌と判定されている。また、本実施の形態による判定結果により球菌と判定された8検体のうち5検体が目視においても球菌と判定されている。さらに、本実施の形態による判定結果により混合と判定された22検体のうち5検体が目視においても混合と判定されている。
【0153】
以上のことから、目視と本実施の形態の判別手法との間の全体の一致率は、70.6%(60/85)であり、高い判定精度が得られていることが判明した。より詳細には、桿菌に対する感度は、78.1%(50/64)、桿菌に対するPPVは、90.9%(50/55)であり、球菌に対する感度は、45.5%(5/11)、球菌に対するPPVは62.5%(5/8)であり、桿菌と球菌の混合に対する感度は50.0%(5/10)、PPVは22.7%(5/22)である。
【0154】
図15(b)を参照して先行技術による判定結果を説明する。
【0155】
目視において桿菌と判定された64検体のうち48検体が先行技術の判別手法により桿菌と判定されている。また、目視において球菌と判定された11検体のうち6検体が先行技術の判別手法により球菌と判定されている。さらに、目視において混合と判定された10検体のうち0検体が先行技術の判別手法により混合と判定されている。
【0156】
一方、先行技術による判定結果により桿菌と判定された56検体のうち48検体が目視においても桿菌と判定されている。また、先行技術による判定結果により球菌と判定された15検体のうち6検体が目視においても球菌と判定されている。さらに、先行技術による判定結果により混合と判定された14検体のうち0検体が目視においても混合と判定されている。
【0157】
以上のことから、目視と先行技術の判別手法との間の全体の一致率は、63.5%(54/85)であった。より詳細には、桿菌に対する感度は、75.0%(48/64)、桿菌に対するPPVは、85.7%(48/56)であり、球菌に対する感度は、54.5%(6/11)、球菌に対するPPVは40.0%(6/15)であり、桿菌と球菌の混合に対する感度は0.0%(0/10)、PPVは0.0%(0/14)である。
【0158】
このように、本実施の形態による判別手法は、先行技術の判別手法と比較して、桿菌に対するPPV、球菌に対するPPVが良好であり、特に、混合の感度とPPVにおいて非常に良好な結果が得られたことがわかる。また、全体としては、7割強の一致率が得られており、本実施の形態による判別手法により精度よく細菌の形態が判別することができることがわかる。このように、桿菌のみを含む検体、球菌のみを含む検体、両者を含む検体を、それぞれ精度良く判別することができるため、適正な抗菌薬を選択するための情報を提供することができる。
【0159】
以上、本実施の形態によれば、
図11(a)に示すように、偏角情報θpと割合αとの関係から細菌の形態が判定される。したがって、
図11(b)、
図12(b)に示すように、ピークが複数出現するような場合であっても、細菌の形態が桿菌または球菌の単独であることを適正に判定することができる。また、
図12(a)に示すように、ピークが1つだけ出現するような場合であっても、細菌の形態が混合であることを適正に判定することができる。このように、上記特許文献1に記載のピーク角度およびピーク角度の出現数のみに応じた細菌の形態の判別手法に比べ、細菌の形態を精度良く判定することができる。
【0160】
また、本実施の形態によれば、
図11(a)に示すように、判定領域S1〜S3に区画された特徴空間を用いながら、偏角情報θpと割合αがどの判定領域に含まれるかよって、細菌の形態が判定されるため、検体に含まれる細菌の形態を、簡易な処理により判定することができる。
【0161】
また、本実施の形態によれば、偏角情報θpと割合αが判定領域S1に含まれる場合、検体に含まれる細菌が桿菌であると判定され、偏角情報θpと割合αが判定領域S2に含まれる場合、検体に含まれる細菌が球菌であると判定され、偏角情報θpと割合αが判定領域S3に含まれる場合、検体に含まれる細菌が桿菌および球菌の混合であると判定される。これにより、
図15に示すように、検体に含まれる細菌の形態が桿菌、球菌または混合であるかを、精度良く判定することができる。
【0162】
また、本実施の形態によれば、
図13のS102に示すように、測定試料に含まれる細菌の数が所定値以上でない場合は、細菌の形態判定は不要であると判定され、細菌の形態判定の処理が行われない。したがって、不要な細菌の形態判定を防ぐことができるとともに、不十分な測定試料に基づく精度の低い判定結果がユーザに提供されることを防ぐことができる。
【0163】
また、本実施の形態によれば、
図13のS103に示すように、細菌の数に加え、測定試料に含まれる白血球の数を参照することにより、細菌の形態判定の要否が判定される。このため、細菌の数のみにより細菌の形態判定の要否を判定する場合に比べて、さらに、細菌の形態判定の要否を適正に判定することができ、より精度の高い細菌の判定結果を得ることができる。
【0164】
さらに、本実施の形態によれば、尿検体の細菌の形態が判定されるため、適時効果的な投薬および処理を採ることが可能となる。
【0165】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0166】
たとえば、上記実施の形態では、測定対象として尿を例示したが、血液や尿以外の体液についても測定対象とされ得る。すなわち、体液を検査する検体検査装置にも本発明を適用することができる。ここで、「体液」とは、体腔内に存在する体腔液をいう。具体的には、脳脊髄液(髄液、CSF:脳室とくも膜下腔に満たされている液)、胸水(胸膜液、PE:胸膜腔に溜まった液)、腹水(腹膜腔に溜まった液)、心嚢液(心膜腔に溜まった液)、関節液(滑液:関節、滑液嚢、腱鞘に存在する液)などをいう。また、腹膜透析(CAPD)の透析液や腹腔内洗浄液なども体液の一種として含まれる。
【0167】
また、上記実施の形態では、前方散乱光強度と蛍光強度の2種類の光学情報を取得し、これらを2軸とする座標平面における粒子の分布を解析することで菌種を判定し、解析に使用した座標平面(スキャッタグラム)を情報表示画面(
図14)に表示した。しかし、情報表示画面に表示する粒子分布図は、解析に使用する座標平面と必ずしも同じでなくてもよい。たとえば、菌種判定のための座標平面とは別に、各粒子から取得した3つの光学情報(たとえば前方散乱光強度、側方散乱光強度および蛍光強度)に基づいて、それら3つのパラメータを軸とする3次元スキャッタグラムを生成し、情報表示画面に表示してもよい。あるいは、3次元の座標空間からなる粒子分布図を生成したうえで、その座標空間のうちの特定の平面に対して本実施形態の解析を行うことで、菌種の判定を実行してもよい。いずれの場合にせよ2種類の光学情報を軸とする座標平面上で粒子の分布を解析することが必須であり、そのような工程を経る限り、本発明による細菌分析方法の範囲に含まれる。
【0168】
また、上記実施の形態では、
図11(a)に示すように、特徴空間が単純な矩形状で区画されたが、一致率や的中率をさらに向上させるためには、データ収集結果に基づき特徴空間の判定領域の最適化が図られることが望ましい。
【0169】
図16(a)は、特徴空間の例示図である。
図16(b)は、特徴空間に細菌の形態の判別結果を分布させた例示図である。
【0170】
図16(a)に示すように、判定領域S1と判定領域S3の境界線が傾斜するように、特徴空間が区画されている。これにより、
図16(b)に示すように、細菌の形態の判別がより適正化され得る。
【0171】
また、上記実施の形態では、
図11(a)に示すように、特徴空間が判定領域S1〜S3の3つの領域に区画されたが、判定領域S2とS3が一つの判定領域に統合されても良い。
【0172】
図17は、検体に含まれる細菌の形態を判定するための特徴空間を模式的に示す図である。
【0173】
図17に示すように、検体の測定結果が判定領域S1およびS4のどちらかの領域に含まれるかによって測定試料に含まれる細菌の形態が桿菌単独であるか桿菌以外の類型(球菌または混合)であるかが判定される。
【0174】
この場合、検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして、「桿菌」および「球菌または混合」の2種類のいずれかが付与される。上述した実施形態に比べてフラグの種類は少ないが、2種類のフラグを付与することで桿菌に感受性のある抗菌薬を選択すべきか、桿菌と球菌の双方に感受性のある広域スペクトルをもつ抗菌薬を選択すべきかを判断するための情報を提供することができる。
【0175】
図18(a)は、
図17をさらに変形させた特徴空間を示す図である。
図18(b)は、細菌の形態の判定結果を示す表である。
【0176】
目視において桿菌と判定された64検体のうち52検体が本変更例の判別手法により桿菌と判定されている。また、目視において球菌または混合と判定された21検体のうち15検体が本変更例の判別手法により球菌または混合と判定されている。
【0177】
一方、本変更例による判定結果により桿菌と判定された58検体のうち52検体が目視においても桿菌と判定されている。また、本変更例による判定結果により球菌または混合と判定された27検体のうち15検体が目視においても球菌または混合と判定されている。
【0178】
以上のことから、目視と本変更例の判別手法との間の全体の一致率は、78.8%(67/85)であり、より高い判定精度が得られていることが判明した。また、桿菌に対する感度は、81.3%(52/64)、桿菌に対するPPVは、89.7%(52/58)であり、球菌または混合に対する感度は、71.4%(15/21)、球菌または混合に対するPPVは55.6%(15/27)であり、球菌または混合をより良好に判定することができた。
【0179】
特徴空間に設定される判定領域は、この他、楕円形状等、種々の形状であっても良い。また、判定する細菌の形態に応じて、領域の位置、数等も適宜変更され得る。
【0180】
また、上記実施の形態では、
図11(a)に示すように、検体の測定結果が判定領域S1〜S3のうち、どの領域に含まれるかによって測定試料に含まれる細菌の形態が判定されたが、検体の測定結果がどの領域に含まれるかが一旦分類された後、特定の領域に含まれたものをさらに細分類することによって、測定試料に含まれる細菌の形態が判定されても良い。また、検体の測定結果がどの領域に含まれるかが一旦分類され、さらに、この分類を所定の基準に従って修正することにより、測定試料に含まれる細菌の形態が判定されても良い。
【0181】
ところで、桿菌は、増殖する際に、ブドウ球菌や連鎖球菌のように大きな凝集塊を作りにくい。このため、桿菌は通常、
図7(a)に示すように、前方散乱光強度(ピーク値)と蛍光強度の2次元スキャッタグラム上において、大半のドットが下部の領域に分布する傾向にある。しかしながら、桿菌の形態によっては、大きさが大きいものがあり、このような桿菌について検出される前方散乱光の強度(ピーク)は、比較的大きなものとなる。たとえば、Klebsiella pneumoniaeは、大腸菌などの腸内細菌科の細菌に比べて、大きさが大きい。このような形態の桿菌が測定試料中に大量に含まれる場合には、
図19(a)に示すように、球菌の場合に近いドットの分布で、ドットが分布することが起こり得る。
【0182】
図19(a)は、測定試料中に大きな桿菌が多数含まれている場合の前方散乱光強度(ピーク値)と蛍光強度の2次元スキャッタグラムの一例を示す図である。
図19(b)、
図19(c)は、それぞれ、
図7(b)、
図7(c)と同様の2次元スキャッタグラムを示す図である。
【0183】
図19(a)を参照すると、細菌の形態が桿菌である場合であっても、下部の領域にドットがあまり分布せず、
図19(a)のスキャッタグラムのドットの分布は、
図19(b)、(c)に示す球菌のスキャッタグラムのドットの分布に近づくようになる。このため、大きな形態の桿菌については、球菌または混合型と誤って判定することがないような判定基準を設定することが好ましい。
【0184】
したがって、上記判別手法によって球菌または混合と判定された場合には、上記実施の形態および変更例とは異なる基準に従って細菌の形態を再判定し、判定結果を修正することが望ましい。
【0185】
図19(d)〜
図19(f)は、それぞれ、
図19(a)〜
図19(c)の下部の領域A1に含まれる細菌の出現頻度を示すヒストグラムを模式的に示す図である。
【0186】
測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合、前方散乱光の強度(ピーク)が大きくなるため、
図19(a)の領域A1においては、前方散乱光強度が高い範囲において、桿菌の度数(頻度)が高くなる傾向がある。このため、
図19(a)の領域A1の細菌に対するヒストグラムは、一般に、
図19(d)に示すような傾向がある。なお、
図19(d)中の小さなピークは、細菌以外の夾雑物の頻度(度数)に対応する。
【0187】
これに対し、
図19(b)に示す連鎖球菌のスキャッタグラムと、
図19(c)に示すブドウ球菌のスキャッタグラムでは、一般に、前方散乱光強度が低い範囲に、単独の球菌が多数集中する。このため、
図19(b)、(c)の領域A1の細菌に対するヒストグラムは、一般に、
図19(e)、(f)に示すような傾向がある。
図19(e)、(f)中のピークは、球菌が、互いに重なり合うことなくシースフローセル203cを通過した場合の球菌の頻度(度数)に対応する。
【0188】
したがって、
図19(a)のスキャッタグラムと、
図19(b)、(c)のスキャッタグラムは、前方散乱光強度が小さい範囲における細菌の出現頻度に関するパラメータにより、互いに区別可能である。よって、このパラメータを用いて細菌の形態を再判定することにより、測定試料中に含まれる細菌が桿菌(大きな桿菌)であるか、球菌または混合であるかを区別することができる。
【0189】
図20(a)〜
図20(d)は、それぞれ、前方散乱光強度が小さい領域における細菌の出現頻度に関するパラメータ(以下、「第1再判定パラメータ」という)の設定例を示す図である。
図20(a)〜
図20(d)には、それぞれ、測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合の領域A1に含まれる細菌の出現頻度を示すヒストグラムh3と、測定試料中に主に球菌が含まれる場合の領域A1に含まれる細菌の出現頻度を示すヒストグラムh4が重ねて示されている。なお、
図19(a)〜
図19(c)に示すように領域A1は、スキャッタグラムの原点付近の領域を含んでいる。
【0190】
たとえば、第1再判定パラメータとして、前方散乱光強度のヒストグラムにおける所定のパーセンタイル値を用いることができる。ここで、パーセンタイル値とは、頻度が全頻度の所定パーセントに達するときの前方散乱光強度のことである。
【0191】
図20(a)に示すように、測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合、ヒストグラムの原点付近における細菌の出現頻度が低く、測定試料中に球菌が含まれる場合、ヒストグラムの原点付近における細菌の出現頻度が非常に高い。すなわち、測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合のヒストグラムh3でのパーセンタイル値W1は、測定試料中に球菌が含まれる場合のヒストグラムh4でのパーセンタイル値W2よりも大きくなる。したがって、このような場合、パーセンタイル値を第1再判定パラメータとして所定の閾値と比較することにより、測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合と、測定試料中に球菌が含まれる場合とを区別することができる。
【0192】
また、第1再判定パラメータとして、ヒストグラムにおける出現頻度のピーク値が用いられても良い。
【0193】
図20(b)に示すように、ヒストグラムh4では、原点付近に細菌による頻度のピークが現れるため、前方散乱光強度がM2のときに、細菌の出現頻度が最大となる。これに対し、ヒストグラムh3では、原点付近に細菌による頻度のピークが現れないため、前方散乱光強度がM1のときに、細菌の出現頻度が最大となる。ここで、前方散乱光強度M1は、前方散乱光強度M2よりも大きい。したがって、出現頻度が最大となる前方散乱光強度を第1再判定パラメータとして所定の閾値と比較することにより、測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合と、測定試料中に球菌が含まれる場合とを区別することができる。
【0194】
なお、所定のパーセンタイル値以下の前方散乱光強度範囲における細菌の出現頻度の最大値が、第1再判定パラメータとして用いられても良い。通常、この最大値は、ヒストグラムh3の場合よりも、ヒストグラムh4の場合の方が大きい。したがって、この最大値を第1再判定パラメータとして用いることにより、測定試料中に含まれる細菌が桿菌(大きな桿菌)であるか、球菌または混合であるかを区別することができる。
【0195】
また、第1再判定パラメータとして、所定の前方散乱光強度における細菌の出現頻度の値が用いられても良い。
【0196】
図20(c)に示すように、ヒストグラムh4は、ヒストグラムh3に比べて、前方散乱光強度が小さい範囲において、急峻に出現頻度が高くなっている。このため、原点付近に所定の前方散乱光強度(FSC0)を設定して、この前方散乱光強度(FSC0)における細菌の頻度を参照すると、ヒストグラムh3における頻度N1は、ヒストグラムh4における頻度N2に比べて非常に小さくなる。したがって、所定の前方散乱光強度(FSC0)における細菌の頻度を第1再判定パラメータとして所定の閾値と比較することにより、測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合と、測定試料中に球菌が含まれる場合とを区別することができる。
【0197】
さらに、第1再判定パラメータは、前方散乱光強度が小さい領域に含まれる細菌の総数が用いられても良い。
【0198】
図20(d)に示すように、ヒストグラムh3の面積はヒストグラムh4の面積よりも小さい。したがって、前方散乱光強度が小さい領域に含まれる細菌の総数を第1再判定パラメータとして所定の閾値と比較することにより、測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合と、測定試料中に球菌が含まれる場合とを区別することができる。なお、細菌の総数を取得する領域は、
図19(a)〜(c)に示す領域A1よりもさらに前方散乱光強度が小さい領域に設定しても良い。
【0199】
また、細菌の形態を再判定するためのパラメータは、上記第1再判定パラメータの他にも以下のように設定され得る。
【0200】
図21(a)は、測定試料中に大きな桿菌が多数含まれている場合の前方散乱光強度(ピーク値)と前方散乱光パルス幅の2次元スキャッタグラムを示す例示図である。
図21(b)は、測定試料中に球菌と大きな桿菌が含まれている場合の前方散乱光強度(ピーク値)と前方散乱光パルス幅の2次元スキャッタグラムを示す例示図、
図21(c)は、測定試料中に球菌が含まれている場合の前方散乱光強度(ピーク値)と前方散乱光パルス幅の2次元スキャッタグラムを示す例示図である。
【0201】
細菌の測定においては、細菌の長さが長いほど、レーザ光が細菌に照射される期間が長くなるため、前方散乱光パルス幅が大きくなる。
【0202】
球菌は、増殖すると、凝集塊を作りやすいので、増殖しても全長が長くなりにくい。
図7(a)の下部に示すように、桿菌は、一つ一つの細菌が長細い棒状または円筒の形状を有するため、増殖するほど全長が長くなりやすい。このため、測定試料中に大きな桿菌が多数含まれている場合は、
図21(a)に示すように、前方散乱光パルス幅の軸に対して広い範囲でドットが分布する2次元スキャッタグラムが得られる。これに対し、
図21(b)、
図21(c)に示すように、混合、球菌の場合は、
図21(a)の場合に比べ、前方散乱光パルス幅が大きい領域ではあまりドットが分布していない2次元スキャッタグラムが得られる。
【0203】
したがって、
図19(a)のように、大きな桿菌が多数含まれているような場合であっても、前方散乱光強度(ピーク値)と前方散乱光パルス幅の2次元スキャッタグラムにおいて前方散乱光パルス幅が大きい領域での細菌の出現頻度に関するパラメータ(以下、「第2再判定パラメータ」という)を用いて細菌の形態を再判定することによって、測定試料中に含まれる細菌が桿菌(大きな桿菌)であるか球菌であるかを精度良く判定することができる。
【0204】
なお、前方散乱光パルス幅が大きい領域のうち、領域A2よりも上側の領域は、凝集した球菌が多数含まれている可能性が高いため、細菌の形態を再判定するための領域から除外されるのが望ましい。また、領域A2よりも下側の領域は、夾雑物が含まれている可能性が高いため、細菌の形態を再判定するための領域から除外されるのが望ましい。したがって、本変更例では、
図21(a)〜
図21(c)に示すように、前方散乱光パルス幅が大きい領域のうち、上部と下部の領域が除外された領域A2における細菌の出現頻度に関するパラメータを用いて細菌の形態が再判定される。
【0205】
第2再判定パラメータとして、たとえば、領域A2に含まれる細菌の総数を用いることができる。
【0206】
図21(a)〜
図21(c)を比較すると、
図21(a)の場合に、領域A2に多数の細菌が含まれ、
図21(b)、(c)の場合には、領域A2にそれほど多くの細菌が含まれない。したがって、前方散乱光パルス幅が大きい領域に含まれる細菌の総数を第2再判定パラメータとして所定の閾値と比較することにより、測定試料中に大きな桿菌が含まれる場合と、測定試料中に球菌が含まれる場合とを区別することができる。
【0207】
図22は、分析処理の処理フローチャートである。
図22のフローチャートでは、
図13のS109またはS110でNOと判定され、細菌の形態が球菌または混合と判定された場合に、細菌の形態が桿菌であるか否かを再判定する処理S201〜S207が追加されている。
【0208】
偏角情報θpと割合αにより細菌の形態が球菌と判定される場合(S109:NO)または混合と判定される場合(S110:NO)、CPU301は、
図21(a)に示す前方散乱光強度と前方散乱光パルス幅の2次元スキャッタグラムに相当するスキャッタグラムデータテーブルTs2を作成する(S201)。
【0209】
次に、CPU301は、S105(
図13参照)において作成したスキャッタグラムデータテーブルTsに基づいて、前方散乱光強度と蛍光強度の2次元スキャッタグラムの領域A1(
図19(a)参照)内の粒子の頻度に関する第1再判定パラメータPaを取得する(S202)。また、CPU301は、S201において作成したスキャッタグラムデータテーブルTs2に基づいて、前方散乱光強度と前方散乱光パルス幅の2次元スキャッタグラムの領域A2(
図21(a)参照)内の粒子の頻度に関する第2再判定パラメータPbを取得する(S203)。こうして、第1再判定パラメータPaおよび第2再判定パラメータPbが取得されると、CPU301は、第1再判定パラメータPaおよび第2再判定パラメータPbが、それぞれ、細菌が桿菌であることを示す所定の閾値条件を満たすか否かを判定する(S204、S205)。これにより、判定結果に応じて細菌の形態的特徴に関するフラグが検体に付与される。
【0210】
第1再判定パラメータPaが閾値条件を満たし(S204:YES)、且つ、第2再判定パラメータPbが閾値条件を満たす場合(S205:YES)、CPU301は、偏角情報θpと割合αによる判定(S109:NO、または、S110:NO)に拘わらず、測定試料に含まれる細菌が主として桿菌であると判定する(S206)。この検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして「桿菌」のフラグが付与される。一方、第1再判定パラメータPaが閾値条件を満たさず(S204:NO)、または、第2再判定パラメータPbが閾値条件を満たさない場合(S205:NO)、CPU301は、偏角情報θpと割合αによる判定(S109:NO、または、S110:NO)に従って、細菌の形態が球菌または混合であると判定する(S207)。この検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして「混合」のフラグが付与される。
【0211】
図23(a)は、尿路感染症検体85検体に対して行った上記実施の形態による細菌の形態の判定結果を示す表である。
図23(b)は、尿路感染症検体85検体に対して行った本変更例による細菌の形態の判定結果を示す表である。
図23(a)では、本変更例と比較するために、上記実施の形態において球菌と判定された場合の値と、混合と判定された場合の値を合算した値が示されている。
【0212】
図23(b)を参照して、目視において桿菌と判定された64検体のうち57検体が本変更例の判別手法により桿菌と判定されている。また、目視において球菌または混合と判定された21検体のうち14検体が本変更例の判別手法により球菌または混合と判定されている。
【0213】
一方、本変更例による判定結果により桿菌と判定された64検体のうち57検体が目視においても桿菌と判定されている。また、本変更例による判定結果により球菌または混合と判定された21検体のうち14検体が目視においても球菌または混合と判定されている。
【0214】
以上のことから、目視と本変更例の判別手法との間の全体の一致率は、83.5%(71/85)であり、
図23(a)に示す上記実施の形態の場合の一致率(77.6%)よりも高い判定精度が得られていることが判明した。また、桿菌に対する感度は、89.1%(57/64)であり、上記実施の形態の場合(感度:78.1%)に比べて桿菌をより良好に判定することができた。そのほか、桿菌に対するPPVは、89.1%(57/64)であり、球菌または混合に対する感度は、66.7%(14/21)、球菌または混合に対するPPVは66.7%(14/21)であり、上記実施の形態と略遜色なく細菌の形態を判定することができた。
【0215】
このように、本変更例の構成とすれば、第1再判定パラメータPaと第2再判定パラメータPbを用いて細菌の形態の再判定を行うことにより、上記実施形態の判別手法のみによる場合と比較して、細菌の形態をより精度よく判定することができる。
【0216】
また、上記実施の形態では、角度領域θkに対する角度情報(θk)が、横軸(蛍光強度)から当該角度領域θkまでの角度とされたが、縦軸(前方散乱光強度)から当該角度領域θkまでの角度が、当該角度領域θkに対する角度情報(θk)として設定されても良い。
【0217】
また、上記実施の形態では、偏角情報θpは、データの度数(細菌の出現頻度)が最も高い角度領域の角度情報に設定されたが、偏角情報θpが取得される角度領域は、必ずしも、データの度数が最も高い角度領域でなくても良く、データの度数が最も高い角度領域に隣り合う角度領域等、データの度数が最も高くなる付近の角度領域に設定されても良い。
【0218】
また、上記の実施形態では、割合αとして、低角度領域における粒子の全体の粒子数に占める割合を求めたが、低角度領域ではなく高角度側の一部の角度範囲における粒子の全体の粒子の割合を求めてもよい。
【0219】
また、上記の実施形態では、粒子ごとに算出した偏角に基づいて作成したヒストグラム(
図10(a))に現れるピークに対応する偏角情報θpを用いたが、粒子ごとの偏角は必ずしも算出する必要はない。たとえば、原点を中心とする所定の角度毎にスキャッタグラムを複数の領域に分割し、分割した領域に含まれる粒子の頻度を数えることにより、偏角情報θpを求めてもよい。
【0220】
図24(a)は、2次元スキャッタグラム上に設定される角度領域C1〜C5を概念的に示す図である。
図24(b)は、角度領域C1〜C5ごとの粒子の出現頻度を示すヒストグラムの例示図である。
図24(a)の2次元スキャッタグラムは、
図8(b)に示す2次元スキャッタグラムと同様に、横軸が蛍光強度であり、縦軸が前方散乱光強度である。
【0221】
図24(a)に示すように、2次元スキャッタグラム上において、所定の角度δ毎に角度領域C1〜C5が設定される。そして、角度領域C1〜C5に含まれる粒子の頻度(度数)の総数を数えることにより、
図24(b)に示すように、角度領域C1〜C5の頻度を示すヒストグラムが生成される。このヒストグラムの頻度がピークとなっている角度領域を求めることにより、偏角情報θpを算出できる。
【0222】
なお、上記実施の形態同様、
図9(a)に示すように、原点付近の領域については、粒子数のカウント対象から除外することが望ましい。
【0223】
また、上記実施の形態では、
図11(a)、
図16(a)、
図17、
図18(a)の特徴空間の縦軸として偏角情報θpを用いたが、これに代えて、粒子の分布パターンの特徴を示す他の情報を用いてもよい。たとえば、ヒストグラムを生成せずに、
図25に示すような粒子の頻度に基づく等高線を作成することにより、粒子の分布パターンの特徴を示す情報が取得されても良い。
【0224】
図25は、2次元スキャッタグラム上に設定される等高線を概念的に示す図である。
図25の2次元スキャッタグラムは、
図8(b)に示す2次元スキャッタグラムと同様に、横軸が蛍光強度であり、縦軸が前方散乱光強度である。
【0225】
まず、2次元スキャッタグラム上で粒子の度数が最大となる座標が求められる。次に、それぞれの座標の度数に応じて、
図25に図示されるように、2次元スキャッタグラム上に段階的に複数の等高線領域が設定される。たとえば、度数の最大値を100%とし、20%毎に5つのレベルの等高線領域が設定される。頂点に対応するレベル5の位置が、偏角情報θpに代えて、粒子の分布パターンの特徴を示す情報として用いられる。レベル5の位置が所定角度θsに対応する破線よりも高角度側であるか低角度側であるかによって、特徴空間における検体の縦軸の位置が決まる。レベル5の位置がθsよりも高角度側に属していれば、検体は領域S2にプロットされる。レベル5の位置がθsと同じかθsよりも低角度側に属していれば、検体は、領域S1またはS3にプロットされる。
【0226】
なお、レベル5の等高線領域が低角度領域D1と高角度領域D2を跨がっている場合、レベル5の等高線領域のうち、低角度領域D1に属する粒子の度数の総数と、高角度領域D2に属する粒子の度数の総数が比較され、総数の大きい方の領域にレベル5の等高線領域が属していると判定される。
【0227】
本変更例によって決まるのは
図11(a)の特徴空間における縦軸のみであるので、上記実施の形態と同様に、全体の粒子数に対する低角度の領域に含まれる粒子数の割合αが所定の閾値と比較される。これにより、低角度領域のみに粒子が集中しているかが判定され、細菌の形態が桿菌であるか混合であるかが判定される。
【0228】
粒子の分布パターンの特徴を示す情報は、2次元スキャッタグラム上の粒子の分散に基づいた方向ベクトルの傾きであっても良い。
【0229】
図26は、2次元スキャッタグラム上に設定される方向ベクトルEを概念的に示す図である。
図26の2次元スキャッタグラムは、
図8(b)に示す2次元スキャッタグラムと同様に、横軸が蛍光強度、縦軸が前方散乱光強度を示している。
【0230】
細菌と他の粒子とを弁別するために、細菌のみが出現すると想定される領域BCTが設定される。この領域BCT内に出現した粒子のみが細菌として計数される。領域BCT内に存在する粒子の、2次元平面における分散を求め、分散の中心点を通り、且つ、分散が最大となる方向ベクトルEが求められる。方向ベクトルEの横軸に対する傾きが、偏角情報θpに代えて、粒子の分布パターンの特徴を示す情報として用いられる。傾きが所定角度θsよりも大きいか小さいかによって、特徴空間における検体の縦軸の位置が決まる。傾きがθsよりも大きければ、検体は領域S2にプロットされる。傾きがθsと同じかθsよりも小さければ、検体は、領域S1またはS3にプロットされる。
【0231】
このように2次元スキャッタグラム上の粒子の分散に基づいた方向ベクトルの傾きを用いた細菌の形態の判定手法は、本件出願人が先に出願した日本公開特許公報、特開2004−305173号(対応米国特許公開公報No.US−2004−0219627−A1、No.US−2014−0127794−A1)に記載されている。特開2004−305173号(対応米国特許公開公報No.US−2004−0219627−A1、No.US−2014−0127794−A1)の開示が、参照によりここに組み込まれる。
【0232】
上記において例示された粒子の分布パターンの特徴を示す情報は、必ずしも代表的な値である必要はない。たとえば、分布パターン全体を過去に診断が行われた他の検体の分布パターンと比較することで、細菌の形態を判定しても良い。
【0233】
たとえば、過去に診断が行われた患者の臨床データとして、信頼性の高い細菌の形態の判定手法(たとえば、目視による判定)により得られた判定結果と、この判定結果に対応する2次元スキャッタグラムの粒子の分布パターンを情報処理装置3(
図5参照)のハードディスク304(
図5参照)等に記憶しておく。新たに2次元スキャッタグラムが生成されると、この2次元スキャッタグラムの粒子の分布パターンと、ハードディスク304(
図5参照)に記憶された過去の2次元スキャッタグラムの粒子の分布パターンを、パターンマッチング手法を用いて比較する。比較により、新たに生成された2次元スキャッタグラムに最も類似する分布パターンをもつ検体を抽出する。抽出された検体の菌種の判定結果が、暫定的な判定結果として得られる。
【0234】
次に、全体の粒子数に対する低角度の領域に含まれる粒子数の割合αが求められる。割合αに基づき、パターンマッチングによって得た暫定的な判定結果の妥当性が評価される。たとえば、パターンマッチングの結果、最も類似した検体として球菌単独と診断された検体が抽出された場合、分布パターン全体としては球菌の特徴を示しているが、分布パターンの一部の領域に着目すると桿菌の特徴を示している場合がありえる。この場合、球菌単独のフラグを付与するのではなく、混合のフラグを付与することが好ましい。これにより、検査者は目視判定などのより詳しい検査を行うべきであることを確認できる。
【0235】
また、上記実施の形態および変更例により「球菌または混合」と「桿菌単独」の二つに分類する形態において、球菌または混合と判定する場合、および桿菌単独と判定する場合のいずれの場合においても、偏角情報θp及び割合αを用いたが、球菌または混合と判定する場合には必ずしも2つのパラメータを用いる必要はない。
【0236】
図27(a)は、2次元スキャッタグラム上に設定される低角度領域E1、高角度領域E2を概念的に示す図である。
図27(a)の2次元スキャッタグラムは、
図8(b)に示す2次元スキャッタグラムと同様に、横軸が蛍光強度であり、縦軸が前方散乱光強度である。
【0237】
図27(a)を参照して、2次元スキャッタグラム上に低角度領域E1と高角度領域E2が設定される。上述のように、細菌の形態が桿菌である場合、粒子は低角度領域E1に密集する。低角度領域E1に含まれる粒子の頻度が非常に小さければ、その時点で細菌の形態が桿菌である可能性は低い。この場合、細菌の数が所定値以上であり(S103)、かつ桿菌の可能性が消去できるので、細菌の形態は球菌または混合型であると判定できる。
【0238】
図27(b)は、分析処理の処理フローチャートである。
図27(b)のフローチャートでは、
図13のS106〜S113に代えて、S301〜S305の処理が追加されている。
【0239】
図27(b)を参照して、S105において、スキャッタグラムデータテーブルTsが生成されると、CPU301は、スキャッタグラムデータテーブルTsのうち、低角度領域E1に含まれる粒子の頻度(度数)の総計値Qaを算出する(S301)。CPU301は、この総計値Qaが所定の閾値Qsよりも小さいか否かを判定する(S302)。これにより、判定結果に応じて細菌の形態的特徴に関するフラグが検体に付与される。
【0240】
S301で求めた総計値Qaが閾値Qsよりも小さい場合(S302:YES)、CPU301は、細菌の形態が球菌または混合であると判定する(S304)。この検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして「混合」のフラグが付与される。総計値Qaが所定の閾値Qs以上の場合(S302:NO)、CPU301は、粒子の分布のピークが高角度領域E2にあるか否かを判定する(S303)。この判定には、
図10(a)〜(c)を参照して説明したような偏角情報θpを用いる手法や、
図24(a)、(b)を参照して説明したような手法が用いられる。粒子の分布のピークが高角度領域E2にある場合(S303:YES)、CPU301は、細菌の形態が球菌または混合であると判定する(S304)。この検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして「混合」のフラグが付与される。たとえば、低角度領域E1に含まれる粒子の頻度の総計値Qaがある程度大きいものの、高角度領域E2にも多数の粒子が含まれているような場合、桿菌以外の細菌も含まれている可能性が高いため、細菌の形態が球菌または混合であると判定される。粒子の分布のピークが高角度領域E2にない場合(S303:NO)、CPU301は、細菌の形態が桿菌であると判定する(S305)。この検体には、細菌の形態的特徴に関するフラグとして「桿菌」のフラグが付与される。
【0241】
そして、CPU301は、上記実施の形態同様、細菌の形態の分析結果を、ハードディスク304に記憶し(S114)、分析処理を終了する。
【0242】
また、上記実施の形態では、
図13のS102、S103に示すように、細菌の数と白血球の数の計測により、細菌の形態判定の要否の判定が行われたが、細菌の数の計測のみによって判定が行われても良く、あるいは、白血球の数の計測のみによって判定が行われても良い。また、S102、S103の判定処理は省略されても良いし、これらの判定処理の実施要否および閾値の設定がユーザによって適宜設定可能となっていても良い。
【0243】
また、上記実施の形態では、
図14に示す画面表示例が示されたが、これに限られるものではなく、たとえば、2次元スキャッタグラムおよびヒストグラムの表示は適宜、省略されても良い。また、参考情報として、
図16(b)に示す特徴空間と測定結果の分布図等が表示されても良い。
【0244】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。