(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
たとえば、芯金などのインサートがキャビティに配置される場合、インサートに形成された孔部に、セット軸(コアピン)が嵌合される。この状態で、セット軸は、インサートをキャビティ内で保持する。そして、キャビティ内に溶融樹脂が射出され、この溶融樹脂が固まると、樹脂部とインサートが一体の樹脂成形品が形成される。その後、金型の可動金型が固定金型から取り外された状態で、樹脂成形品は、可動金型およびセット軸から取り外される。この取外し作業の開始時、樹脂成形品は、樹脂成形品の径方向において金型とセット軸とに挟まれた状態であり、これら金型の内面およびセット軸の外周面のそれぞれとの摩擦抵抗が大きい。すなわち、樹脂成形品の外周面が金型に拘束され、且つ、樹脂成形品の内周面がセット軸に拘束されるという、2箇所同時の拘束状態から、樹脂成形品の取出作業が始まる。
【0009】
このような、2箇所同時拘束の状態において、セット軸の向き(角度)と樹脂成形品の孔部の向き(角度)とがずれている場合、樹脂成形品をエジェクタピンなどで金型およびセット軸の双方から同時に抜き出そうとすると、セット軸は、インサートの孔部の一部に強く押し当てられる。このため、インサートの孔部のうちセット軸に押し当てられている箇所を削ってしまう。すなわち、インサートの孔部にアンダーカットが生じてしまい、インサートの孔部に傷がついてしまう。また、樹脂成形品の外周面と固定金型の内周面との摩擦抵抗も大きいので、樹脂成形品の外周面にも傷が付き易い。同様の課題は、樹脂成形品の孔部が合成樹脂製である場合にも存在する。
【0010】
しかしながら、特許文献1〜4には、何れも、このようなアンダーカットの発生、および、樹脂成形品の外周部の傷の発生について、何ら示唆していない。
【0011】
なお、アンダーカットが発生しないよう、セット軸の形状および向きを極めて高い精度で設定し、セット軸と樹脂成形品の孔部との同軸度を高くすることも考えられる。しかしながら、このような方法は、実際には困難である。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、樹脂成形品製造装置のセット軸に嵌合する樹脂成形品の孔部、および、樹脂成形品の外周面に傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる、樹脂成形品製造装置、および、樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる樹脂成形品製造装置は、複数の型部を有し、複数の前記型部同士が組み合わされることで、所定の樹脂部の射出成形時に溶融樹脂が射出されるキャビティを形成する、金型と、前記キャビティ内において前記樹脂成形品に形成される孔部に嵌合されることで前記樹脂成形品を保持する、セット軸と、前記樹脂成形品を前記金型から取り出すことが可能に構成され、且つ、前記樹脂成形品を前記金型から取り出す動作とは独立して、前記樹脂成形品の前記孔部から前記セット軸を取り出すための動作が可能な取出機構と、を備えている。
【0014】
この構成によると、取出機構は、樹脂成形品を金型から取り出すタイミングと、樹脂成形品をセット軸から取り出すタイミングとを異ならせることができる。これにより、樹脂成形品は、金型およびセット軸の双方に拘束された2箇所同時拘束の状態において、セット軸および金型の双方から同時に抜き出されることを防止できる。すなわち、樹脂成形品は、まず、金型およびセット軸の何れか一方から取出機構によって取り出され、次いで、金型およびセット軸の何れか他方から取出機構によって取り出される。これにより、樹脂成形品は、外周面と内周面(孔部)の双方から同時に大きな摩擦抵抗を受けて傷が付くことを抑制できる。したがって、セット軸の向き(角度)と樹脂成形品の孔部の向き(角度)とがずれている場合であっても、セット軸は、樹脂成形品の孔部の一部に強く押し当てられずに済む。これにより、樹脂成形品の孔部のうちセット軸に押し当てられている箇所を削ってしまうことを抑制できる。すなわち、樹脂成形品の孔部に損傷部であるアンダーカットが生じることを抑制できる。また、樹脂成形品が金型から取り出される際において、樹脂成形品の外周面と金型の内面との摩擦抵抗を小さくできる。これにより、樹脂成形品の外周面に傷が付くことを抑制できる。以上の次第で、樹脂成形品製造装置のセット軸に嵌合する樹脂成形品の孔部、および、樹脂成形品の外周面に傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる樹脂成形品製造装置を実現できる。
【0015】
(2)好ましくは、前記取出機構は、前記セット軸を前記樹脂成形品の前記孔部から抜き出すように前記セット軸を変位させるためのセット軸駆動部を有している。
【0016】
この構成によると、セット軸駆動部によって、セット軸を樹脂成形品の孔部から抜き出すことができる。
【0017】
(3)好ましくは、前記取出機構は、複数の前記型部が分離された状態の前記金型から前記樹脂成形品を取り出すためのエジェクタピンと、前記エジェクタピンを駆動させるためのエジェクタピン駆動部と、を有している。
【0018】
この構成によると、取出機構のエジェクタピンによって、金型から樹脂成形品を取り出すことができる。
【0019】
(4)より好ましくは、前記取出機構は、前記セット軸と前記エジェクタピンとを前記セット軸の軸方向に一体に変位可能に構成されている。
【0020】
この構成によると、セット軸と樹脂成形品の孔部との嵌合状態を維持したまま、樹脂成形品を金型から取り出すことができる。これにより、金型による拘束が解除された状態で、樹脂成形品からセット軸を抜き出すことができる。
【0021】
(5)より好ましくは、前記取出機構は、連結部材を含み、前記連結部材は、前記セット軸、および、前記エジェクタピンの双方と前記軸方向に一体的に変位可能に連結されている。
【0022】
この構成によると、1つのアクチュエータで連結部材を駆動することで、セット軸およびエジェクタピンを駆動することができる。すなわち、セット軸を駆動するための駆動部とエジェクタピンを駆動するための駆動部とを別々に設ける必要が無く、樹脂成形品製造装置の構成をより簡素にできる。
【0023】
(6)好ましくは、前記取出機構は、前記セット軸と前記エジェクタピンとを独立して前記セット軸の軸方向に変位可能に構成されている。
【0024】
この構成によると、樹脂成形品からセット軸を取り出すタイミングと、金型から樹脂成形品を取り出すタイミングとを、任意に設定することができる。これにより、樹脂成形品への負荷がより少ない態様で、樹脂成形品を金型およびセット軸に対して取り出すことができる。
【0025】
(7)より好ましくは、前記取出機構は、前記セット軸を前記樹脂成形品の前記孔部から抜き出すように前記セット軸を変位させるためのセット軸駆動部を有し、前記エジェクタピン駆動部は、前記セット軸駆動部とは独立して動作可能に構成されている。
【0026】
この構成によると、セット軸駆動部とエジェクタピン駆動部とを別々に動作させることで、樹脂成形品からセット軸を取り出すタイミングと、金型から樹脂成形品を取り出すタイミングとを、異ならせることができる。
【0027】
(8)好ましくは、前記取出機構は、複数の前記型部が分離された状態の前記金型から前記樹脂成形品を取り出すためのエジェクタピンを含み、前記取出機構は、前記エジェクタピンを前記金型に対して前記セット軸の軸方向の一方に変位させることで、前記樹脂成形品を、複数の前記型部が分離された状態の前記金型から取り出し、その後、前記セット軸を前記樹脂成形品に対して前記軸方向の他方に変位させることで、前記樹脂成形品を前記セット軸から取り出す。
【0028】
この構成によると、取出機構は、セット軸が嵌合した状態の樹脂成形品を、エジェクタピンによって金型から取り出すことができる。この場合、樹脂成形品は、セット軸との間で相対変位を生じないので、セット軸との摺動に起因する傷の発生を抑制できるとともに、樹脂成形品の外周面に作用する負荷が過大にならずに済み、当該外周面の損傷も抑制される。また、樹脂成形品は、金型から取り外された状態で、セット軸を取り外される。この場合、樹脂成形品は、金型による拘束を解かれているので、樹脂成形品とセット軸との間に作用する摩擦抵抗は、樹脂成形品の外周面が金型に拘束されている場合の摩擦抵抗よりも小さくなる。よって、取出機構は、樹脂成形品をセット軸からより小さい力で取り出すことができる。これにより、セット軸が樹脂成形品の孔部の内周面を傷つける(アンダーカットを生じる)ことをより確実に抑制できる。しかも、このような取出機構の動作は、エジェクタピンとセット軸とを軸方向に変位させる簡易な構成で実現できる。
【0029】
(9)好ましくは、前記キャビティは、前記樹脂部の外周面を形成する外周面形成部を含み、前記取出機構は、前記樹脂成形品を前記外周面形成部から抜き出すことで、前記樹脂成形品を、複数の前記型部が分離された状態の前記金型から取り出す。
【0030】
この構成によると、樹脂成形品は、金型において特に外周面形成部から拘束力を受ける。そして、取出機構が樹脂成形品を外周面形成部から取り出すことで、樹脂成形品に作用する拘束力を解放することができる。
【0031】
(10)好ましくは、前記金型は、前記キャビティを複数形成し、前記セット軸は、複数の前記キャビティのそれぞれに設置されている。
【0032】
この構成によると、複数のキャビティのそれぞれにおいて、セット軸に嵌合する樹脂成形品の孔部、および、樹脂成形品の外周面に傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる。
【0033】
(11)より好ましくは、前記取出機構は、複数の前記キャビティにおける複数の前記セット軸の動作タイミングを異ならすようにして複数の前記セット軸を動作させることが可能に構成されている。
【0034】
この構成によると、複数のセット軸の動作を同期させる必要が無い。よって、複数のセット軸を静止状態から動作状態に移行させるタイミングを異ならせることができる。すなわち、各セット軸と対応する樹脂成形品とを静止摩擦状態から動摩擦状態に移行させるタイミングを異ならせることができる。その結果、取出機構の負荷(最大出力)をより低減できる。
【0035】
(12)好ましくは、前記キャビティに前記セット軸が複数設けられている。
【0036】
この構成によると、1つの樹脂成形品に複数の孔部を形成することができる。また、このような場合であっても、樹脂成形品とセット軸との摺動によって樹脂成形品にアンダーカットが生じることは、抑制される。これにより、樹脂成形品製造装置のセット軸に嵌合する樹脂成形品の孔部、および、樹脂成形品の外周面に傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる。
【0037】
(13)より好ましくは、前記取出機構は、1つの前記キャビティ内において、複数の前記セット軸の動作タイミングを異ならすようにして複数の前記セット軸を動作させることが可能に構成されている。
【0038】
この構成によると、複数のセット軸の動作を同期させる必要が無い。よって、複数のセット軸を静止状態から動作状態に移行させるタイミングを異ならせることができる。すなわち、各セット軸と対応する樹脂成形品とを静止摩擦状態から動摩擦状態に移行させるタイミングを異ならせることができる。その結果、取出機構の負荷をより低減できる。
【0039】
(14)好ましくは、前記セット軸は、前記キャビティ内に配置されるインサートに形成された孔部に嵌合可能に構成されている。
【0040】
この構成によると、樹脂成形品製造装置は、芯金などのインサートを有する樹脂成形品を形成することができる。特に、インサートの硬度がセット軸の硬度よりも低い場合、インサートの孔部とセット軸との間でアンダーカットが生じ易い傾向にある。しかしながら、樹脂成形品製造装置は、孔部とセット軸との摺動によるアンダーカットの発生を抑制できるので、インサートの硬度が低い場合でも、当該インサートにアンダーカットが発生することをより確実に抑制できる。
【0041】
(15)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる樹脂成形品の製造方法は、金型のキャビティにセット軸をセットする、セットステップと、前記キャビティ内に溶融樹脂を射出することで、前記セット軸に嵌合する孔部を有する樹脂成形品を形成する、樹脂部形成ステップと、前記金型および前記セット軸の何れか一方から前記樹脂成形品を取り外す、第1取外しステップと、前記第1取外しステップの後に行われる第2取外しステップであって、前記金型および前記セット軸の何れか他方から前記樹脂成形品を取り外す、第2取外しステップと、を含んでいる。
【0042】
この構成によると、樹脂成形品を金型から取り出すタイミングと、樹脂成形品をセット軸から取り出すタイミングとを異ならせることができる。これにより、樹脂成形品は、金型およびセット軸の双方に拘束された2箇所同時拘束の状態において、セット軸および金型の双方から同時に抜き出されることを防止できる。すなわち、樹脂成形品は、まず、金型およびセット軸の何れか一方から取り出され、次いで、金型およびセット軸の何れか他方から取り出される。これにより、樹脂成形品は、外周面と内周面(孔部)の双方から同時に大きな摩擦抵抗を受けて傷が付くことを抑制できる。したがって、セット軸の向き(角度)と樹脂成形品の孔部の向き(角度)とがずれている場合であっても、セット軸は、樹脂成形品の孔部の一部に強く押し当てられずに済む。これにより、樹脂成形品の孔部のうちセット軸に押し当てられている箇所を削ってしまうことを抑制できる。すなわち、樹脂成形品の孔部に損傷部であるアンダーカットが生じることを抑制できる。また、樹脂成形品が金型から取り出される際において、樹脂成形品の外周面と金型の内面との摩擦抵抗を小さくできる。これにより、樹脂成形品の外周面に傷が付くことを抑制できる。以上の次第で、セット軸に嵌合する樹脂成形品の孔部、および、樹脂成形品の外周面に傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる、樹脂成形品の製造方法を実現できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によると、セット軸に嵌合する樹脂成形品の孔部、および、樹脂成形品の外周面に傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、樹脂成形品製造装置、および、樹脂成形品製造方法として、広く適用することができる。
【0046】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる樹脂成形品100の模式的な断面図である。
図2は、本発明の第1実施形態にかかる樹脂成形品製造装置1の主要部の断面図であり、樹脂成形品100を併せて示している。
【0047】
図1および
図2を参照して、樹脂成形品100は、全体として円板状に形成されている。樹脂成形品100が製品として使用される際には、樹脂成形品100に、連結対象部材としての丸軸状のシャフトS1が圧入固定される。
【0048】
樹脂成形品100は、(1)インサート形成工程、(2)インサート洗浄工程、(3)インサート予熱工程、(4)射出成形工程を経て完成したものである。
【0049】
(1)のインサート形成工程は、金属素材にたとえば鍛造、切削などの加工が施されることで、インサート101を形成する工程である。(2)のインサート洗浄工程は、アルコールなどの洗浄液でインサート101を洗浄し、脱脂する工程である。(3)のインサート予熱工程は、射出成形工程の前工程であり、インサート101を所定の温度に加熱する工程である。
【0050】
(4)の射出成形工程は、金型2のキャビティ3内にインサート101をセットし、金型2のゲート部4からキャビティ3に向けて溶融樹脂を射出し、樹脂部102を形成する工程である。これらの工程を経ることで、樹脂成形品100が完成する。
【0051】
樹脂成形品100は、インサート101と、インサート101と一体に形成される樹脂部102と、を有している。
【0052】
インサート101は、鋼材などの金属製の一体成形品であり、たとえば、円環状に形成されている。
【0053】
インサート101は、円筒部101aと、中間部101bと、外周部101cと、を有している。
【0054】
円筒部101aは、円筒状に形成された、インサート101の内周部分である。円筒部101aの一端部は、中間部101bに連続している。中間部101bは、円板状に形成された、板状の部分である。中間部101bは、外周部101cに連続している。外周部101cは、環状の鍔状に形成されている。成形品101においては、これら円筒部101a、中間部101bおよび外周部101cにかけて、樹脂部102が形成されている。
【0055】
樹脂部102は、合成樹脂製の部分である。この合成樹脂として、熱可塑性樹脂(たとえば、66ナイロンなど)を例示することができる。樹脂部102は、円板状に形成されており、インサート101の外周部101cを埋設するように配置され、且つ、インサート101の一端面101dを覆うように形成されている。樹脂部102は、インサート101が配置された金型2のキャビティ3内に溶融樹脂が射出されることで、形成される。
【0056】
樹脂部102の外周部は、インサート101の外周部101cを成形品101の軸方向に挟んでいる。さらに、インサート101の外周部101cの外周面は、ローレット加工などによって、樹脂部102との結合力が高められている。
【0057】
次に、樹脂成形品製造装置1について説明する。
【0058】
樹脂成形品製造装置1(以下、単に製造装置1ともいう)は、溶融した樹脂を所定の圧力でキャビティ3内に射出することで、キャビティ3内に樹脂部102を形成する。
【0059】
製造装置1は、金型2と、セット軸5と、取出機構6と、を有している。
【0060】
金型2は、固定型部7と、可動型部8と、を有している。金型2は、固定型部7および可動型部8が組み合わされることで、樹脂部102の射出成形時に溶融樹脂が射出されるキャビティ3を形成する。本実施形態では、固定型部7と可動型部8の互いの対向する端面としての対向端面7a,8aが互い突き合わされることで、キャビティ3が形成される。
【0061】
可動型部8は、本実施形態では、図示しない油圧シリンダなどのアクチュエータによって、固定型部7に対してセット軸5の軸方向X1に変位可能である。キャビティ3には、樹脂部102の射出成形時にインサート101が配置されている。当該キャビティ3内に溶融樹脂が射出されることで、樹脂部102がインサート101に一体に形成される。
【0062】
金型2には、複数のキャビティ3(31,32)が形成される。キャビティ31,32は、所定の配列方向H1に沿って並んでいる。配列方向H1は、軸方向X1と直交する方向である。本実施形態では、金型2は、配列方向H1としての左右方向に並ぶ2つのキャビティ31,32を形成している。なお、各キャビティ31,32を総称していう場合は、キャビティ3という。キャビティ31,32の構成は互いに同様であるので、以下では、主にキャビティ31について説明する。
【0063】
図3は、
図2の金型2の一方のキャビティ31の周辺の拡大図である。
図3を参照して、キャビティ31は、一端面形成部11と、外周面形成部12と、他端面形成部13と、インサート受け部14と、円筒部収容部15と、ブッシュ収容部16と、を有している。
【0064】
一端面形成部11は、樹脂部102の一端面102aを形成するために設けられている。一端面形成部11は、固定型部7の対向端面7aに形成されており、樹脂部102の一端面102aの形状に対応する形状に形成されている。また、固定型部7には、一端面形成部11に開放されたゲート部4が形成されている。ゲート部4から、キャビティ3内へ向けて、溶融した樹脂が射出される。
【0065】
外周面形成部12は、樹脂部102の外周面102cを形成するために設けられている。外周面形成部12は、可動型部8の対向端面8a側に形成された窪み部8bの内周面として形成されており、樹脂部102の外周面102cの形状に対応する形状(本実施形態では、円筒状)に形成されている。
【0066】
他端面形成部13は、樹脂部102の他端面102bを形成するために設けられている。他端面形成部13は、可動型部8の窪み部8bの底面および当該底面から隆起した部分に形成されており、樹脂部102の他端面102bの形状に対応する形状に形成されている。他端面形成部13に隣接して、インサート受け部14が形成されている。
【0067】
インサート受け部14は、キャビティ3内において、インサート101の他端面101eが受けられる部分として、可動型部8の窪み部8bのうち当該窪み部8bの底面から隆起した形状に形成されている。インサート受け部14は、インサート101の中間部101bの径方向中間部を受ける円環状に形成されている。インサート受け部14の径方向内方に、円筒部収容部15が形成されている。
【0068】
円筒部収容部15は、インサート101の円筒部101aを収容する部分として設けられている。円筒部収容部15は、可動型部8内に円柱状の空間を形成している。この円筒部収容部15に、インサート101の円筒部101aが配置される。円筒部収容部15に対して可動型部8の奥側に、ブッシュ収容部16が形成されている。
【0069】
ブッシュ収容部16は、ブッシュ17が収容される部分として設けられている。ブッシュ収容部16は、可動型部8において、窪み部8bの奥側に略円柱状の空間を形成している。ブッシュ収容部16の基端部には、環状の溝部16aが形成されている。このブッシュ収容部16は、ブッシュ17を保持している。
【0070】
ブッシュ17は、セット軸5が可動型部8に対してセット軸5の軸方向X1に変位することを案内するための軸受部材として設けられている。ブッシュ17の材質は、ブッシュ17とセット軸5との摺動に適したものが適宜選択される。ブッシュ17は、円筒状に形成されており、ブッシュ収容部16の内周面に嵌合している。また、ブッシュ17の基端部には、環状の鍔部17aが形成されている。この鍔部17aは、溝部16aに挟まれており、これにより、ブッシュ17は、可動型部8に固定されている。ブッシュ17は、セット軸5に貫通された状態で、このセット軸5に嵌合している。キャビティ3内において、インサート101は、セット軸5に固定されている。
【0071】
図2および
図3を参照して、セット軸5(51,52)は、キャビティ3内において樹脂成形品100に形成される孔部101fに嵌合されることで樹脂成形品100を保持する部材として設けられている。セット軸51,52は、それぞれ、キャビティ31,32に配置されている。各セット軸51,52の構成は、同様であるので、以下では、主にセット軸51について説明する。なお、セット軸51,52を総称していう場合、単にセット軸5という。
【0072】
セット軸5は、金属製の軸部材であり、本実施形態では、円柱状に形成されている。セット軸5は、キャビティ3の中心部に配置されており、可動型部8側から固定型部7側に向けて延びている。本実施形態では、各セット軸5は、単一の材料を用いて形成された一体成形品であり、当該セット軸5の全体が一体的に変位する。
【0073】
図3を参照して、セット軸5(51)は、第1軸部21と、第2軸部22と、を有している。
【0074】
第1軸部21は、セット軸5の先端側の一部を形成している。第1軸部21は、小径部23と、大径部24と、を有している。小径部23は、第1軸部21の先端に配置されている。この小径部23は、嵌合部25を有している。本実施形態では、嵌合部25は、小径部23の外周面の略全域に亘って形成されている。嵌合部25は、インサート101の円筒部101aの孔部101fに挿入される円筒面であり、この円筒部101aの内周面に嵌合固定される。なお、嵌合部25とインサート101の孔部101fとの結合力は、嵌合部25によって樹脂成形品100の自重を支えることが可能な程度であればよい。本実施形態では、嵌合部25と孔部101fのそれぞれの直径は略同じに設定されている。小径部23の基端部は、大径部24に連続している。
【0075】
大径部24は、小径部23の直径よりも大きい直径を有する円柱状の部分である。大径部24は、樹脂成形品100がキャビティ3内に配置されている状態において、ブッシュ17に嵌合している。セット軸5のうち、大径部24が、ブッシュ17と摺動する。大径部24は、インサート101とは接触していない。大径部24(第1軸部21)の基端部は、第2軸部22に連続している。
【0076】
第2軸部22は、セット軸5において、第1軸部21を支持し、且つ、後述する連結部材34に連結される部分として設けられている。第2軸部22の直径は、第1軸部21の大径部24の直径よりも小さく設定されており、ブッシュ17を貫通可能である。第2軸部22は、可動型部8に形成された貫通孔部8cに隙間をあけて嵌合しており、この貫通孔部8cを貫通している。貫通孔部8cは、ブッシュ収容部16に連続している。第2軸部22の基端部には、環状の鍔部22aが形成されている。この鍔部22aは、取出機構6の連結部材34に連結されている。
【0077】
図2および
図3を参照して、取出機構6は、樹脂成形品100を金型2から取り出すことを可能に構成され、且つ、樹脂成形品100を金型2から取り出す動作とは独立して、樹脂成形品100の孔部101fからセット軸5を取り出すための動作が可能に構成されている。
【0078】
本実施形態では、取出機構6は、後述するエジェクタピン33を金型2に対してセット軸5の軸方向X1の一方X11に変位させることで、樹脂成形品100を、固定型部7および可動型部8が分離された状態の金型2から軸方向X1の一方X11に変位させて取り出す。その後、取出機構6は、セット軸5を樹脂成形品100に対して軸方向X1の他方X12に変位させることで、樹脂成形品100をセット軸5から取り出す。
【0079】
取出機構6は、エジェクタピン33と、連結部材34と、アクチュエータ35と、仮保持部36と、を有している。
【0080】
エジェクタピン33は、各キャビティ31,32に設けられている。各キャビティ31,32において、エジェクタピン33として、第1エジェクタピン331および第2エジェクタピン332を有している。なお、第1エジェクタピン331および第2エジェクタピン332を総称していう場合、エジェクタピン33という。
【0081】
エジェクタピン33は、固定型部7と可動型部8とが分離された状態の金型2から樹脂成形品100を取り出すために設けられている。各エジェクタピン33は、可動型部8をセット軸5の軸方向X1に沿って貫通するように配置された軸状の部材であり、軸方向X1に沿って延びている。各エジェクタピン33は、アクチュエータ35によって、可動型部8に対して当該エジェクタピン33の長手方向(軸方向X1)に変位される。
【0082】
第1エジェクタピン331は、樹脂部102に接触しつつ、樹脂成形品100を軸方向X1の一方X11へ変位させるように構成されている。第1エジェクタピン331は、可動型部8の他端面形成部13から、キャビティ3に臨んでいる。第1エジェクタピン331は、セット軸5の円周方向に複数、等間隔に配置されている(
図2では2つの第1エジェクタピン331を図示)。
【0083】
第2エジェクタピン332は、インサート101に接触しつつ、樹脂成形品100を可動型部8から押し出すように変位させるように構成されている。第2エジェクタピン332は、可動型部8のインサート受け部14から、キャビティ3に臨んでいる。第2エジェクタピン332は、セット軸5の円周方向に複数、等間隔に配置されている(
図2では2つの第2エジェクタピン332を図示)。
【0084】
各エジェクタピン33の基端部には、環状の鍔部33aが形成されている。全てのキャビティ3の全てのエジェクタピン33およびセット軸5は、何れも、連結部材34に連結されている。
【0085】
連結部材34は、樹脂成形品製造装置1における全てのセット軸5と、全てのエジェクタピン33とを軸方向X1に一体的に変位可能に連結している。
【0086】
連結部材34は、たとえば、ブロック状の部材であり、2つの平板状のプレート部材を互いに固定することで形成されている。連結部材34は、配列方向H1に延びており、各キャビティ3と軸方向X1に向かい合っている。連結部材34は、各セット軸5の第2軸部22の鍔部22aを軸方向X1に挟むように構成されている。各セット軸5は、連結部材34からキャビティ3に向けて延びている。また、連結部材34は、各エジェクタピン33の鍔部33aを軸方向X1に挟むように構成されている。各エジェクタピン33は、連結部材34からキャビティ3に向けて延びている。各セット軸5およびエジェクタピン33は、互いに平行に配置されている。この連結部材34に、アクチュエータ35が接続されている。
【0087】
アクチュエータ35は、連結部材34を軸方向X1に変位させることで、セット軸5およびエジェクタピン33を軸方向X1に連結部材34と一体に変位させるために設けられている。アクチュエータ35は、たとえば、油圧シリンダなどである。
【0088】
アクチュエータ35は、本発明の「エジェクタピン駆動部」の一例であり、樹脂成形品100を可動型部8から抜き出すためにエジェクタピン33を軸方向X1の一方X11に変位させる駆動力を各エジェクタピン33に付与する。
【0089】
また、アクチュエータ35は、本発明の「セット軸駆動部」の一例であり、セット軸5を樹脂成形品100の孔部101fから抜き出すようにセット軸5を変位させる。アクチュエータ35は、各セット軸5を対応する樹脂成形品100から抜き取る駆動力を各セット軸5に付与する。
【0090】
アクチュエータ35の出力軸35aは、連結部材34に軸方向X1に一体的に変位可能に連結されている。これにより、アクチュエータ35は、連結部材34をセット軸5の軸方向X1の他方X12に変位させることで、複数のセット軸5を一括して樹脂成形品100から抜き取ることが可能である。
【0091】
仮保持部36は、可動型部8から抜き出された樹脂成形品100を一時的に保持するために設けられている。仮保持部36は、樹脂成形品100を挟むことが可能なクランプ部を含んでいる。
【0092】
以上が、樹脂成形品製造装置1の概略構成である。次に、樹脂成形品製造装置1を用いた樹脂成形品100の製造の要点について説明する。
【0093】
図4は、樹脂成形品製造装置1を用いた樹脂成形品100の製造の一例を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、フローチャートを参照して説明する場合、フローチャート以外の図も適宜参照する。
【0094】
図4および
図5を参照して、樹脂成形品製造装置1においては、まず、金型2の各キャビティ3にセット軸5をセットし、インサート101をキャビティ3内のセット軸5に固定する(ステップS1)。ステップS1は、本発明の「セットステップ」の一例である。ステップS1では、金型2の固定型部7と可動型部8とが分離された状態で、インサート101の円筒部101aが、セット軸5に挿入固定される。その後、可動型部8が固定型部7側へ変位することで、固定型部7と可動型部8の対向端面7a,8aが互いに突き合わされる。これにより、インサート101の孔部101fは、セット軸5に嵌合固定される。
【0095】
次に、ゲート部4から溶融した樹脂がキャビティ3内に射出される(ステップS2)。ステップS2は、本発明の「樹脂部形成ステップ」の一例である。これにより、
図2に示すように、キャビティ3内に樹脂部102が形成される。これにより、セット軸5に嵌合する孔部101fを有する樹脂成形品100が完成する。
【0096】
次に、可動型部8が、図示しない油圧シリンダなどのアクチュエータによって軸方向X1の他方X12に駆動される。これにより、
図6に示すように、可動型部8が固定型部7から分離される(ステップS3)。
【0097】
次に、第1取外しステップが行われ(ステップS4)、その後、第2取外しステップが行われる(ステップS5)。本実施形態では、第1取外しステップは、金型2から樹脂成形品100を取り外すステップである。また、第2取外しステップは、第1取外しステップの後に行われるものであり、セット軸5から樹脂成形品100を取り外すステップである。
【0098】
なお、第1取外しステップにおいて、セット軸5から樹脂成形品100が取り外され第2取外しステップにおいて、金型2から樹脂成形品100が取り外されてもよい。
【0099】
第1取外しステップ(ステップS4)では、
図7に示すように、アクチュエータ35の出力軸35aが、軸方向X1の一方X11に変位される。これにより、連結部材34、各エジェクタピン33、および、各セット軸5は、軸方向X1の一方X11に変位される。この際、エジェクタピン33は、樹脂成形品100を軸方向X1の一方X11に加圧させながら変位させる。これにより、エジェクタピン33は、樹脂成形品100の外周面102cを可動型部8の外周面形成部12と摩擦摺動させながら、樹脂成形品100を可動型部8から押し出す。
【0100】
すなわち、取出機構6は、樹脂成形品100を外周面形成部12から抜き出すことで、樹脂成形品100を、固定型部7および可動型部8が互いに分離された状態の金型2から取り出す。この際、樹脂成形品100においては、外周面102cは外周面形成部12と摩擦摺動するけれども、セット軸5とは摩擦摺動せず、樹脂成形品100にかかる負荷は小さくされている。
【0101】
次に、第2取外しステップ(ステップS5)では、
図7に示すように、まず、仮保持部36によって、樹脂成形品100が保持される。仮保持部36は、たとえば、クランプ部材であり、樹脂成形品100を挟むようにして保持する。これにより、樹脂成形品100は、動かないように固定される。
【0102】
この状態において、アクチュエータ35は、出力軸35aを軸方向X1の他方X12に変位するように動作する。これにより、連結部材34、各セット軸5、および、各エジェクタピン33は、軸方向X1の他方X12に変位する。これにより、
図8に示すように、セット軸5は、インサート101の孔部101fから引き抜かれる。この際、樹脂成形品100は、外周面形成部12の拘束を受けていないので、孔部101fとセット軸5の嵌合部25との間の摩擦抵抗は、小さい。このように、取出機構6は、樹脂成形品100を金型2から取り出す動作の後に、樹脂成形品100の孔部101fからセット軸5を取り出す動作を行う。
【0103】
以上説明したように、本実施形態によると、取出機構6は、樹脂成形品100を金型2の可動型部8から取り出すタイミングと、樹脂成形品100をセット軸5から取り出すタイミングとを異ならせることができる。これにより、樹脂成形品100は、金型2およびセット軸5の双方に拘束された2箇所同時拘束の状態において、セット軸5および金型2の双方から同時に抜き出されることを防止できる。すなわち、本実施形態では、樹脂成形品100は、まず、金型2の可動型部8から取出機構6によって取り出され、次いで、セット軸5から取出機構6によって取り出される。これにより、樹脂成形品100は、外周面102cと内周面(孔部101f)の双方から同時に大きな摩擦抵抗を受けて傷が付くことを抑制できる。したがって、セット軸5の向き(角度)と樹脂成形品100の孔部101fの向き(角度)とがずれている場合であっても、セット軸5は、インサート101の孔部101fの一部に強く押し当てられずに済む。これにより、インサート101の孔部101fのうちセット軸5に押し当てられている箇所を削ってしまうことを抑制できる。すなわち、インサート101の孔部101fに損傷部であるアンダーカットが生じることを抑制できる。また、樹脂成形品100が金型2から取り出される際において、樹脂成形品100の外周面102cと金型2の内面(外周面形成部12)との摩擦抵抗を小さくできる。これにより、樹脂成形品100の外周面102cに傷が付くことを抑制できる。以上の次第で、樹脂成形品製造装置1のセット軸5に嵌合する樹脂成形品100の孔部101f、および、樹脂成形品100の外周面102cに傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる樹脂成形品製造装置1を実現できる。
【0104】
また、本実施形態によると、セット軸駆動部としてのアクチュエータ35によって、セット軸5を樹脂成形品100の孔部101fから抜き出すことができる。
【0105】
また、本実施形態によると、取出機構6のエジェクタピン33によって、金型2の可動型部8から樹脂成形品100を取り出すことができる。
【0106】
また、本実施形態によると、取出機構6は、セット軸5とエジェクタピン33とを軸方向X1に一体に変位可能に構成されている。この構成によると、セット軸5と樹脂成形品100の孔部101fとの嵌合状態を維持したまま、樹脂成形品100を金型2の可動型部8から取り出すことができる。これにより、金型2による拘束が解除された状態で、樹脂成形品100からセット軸5を抜き出すことができる。
【0107】
より具体的には、取出機構6の連結部材34が、セット軸5、および、エジェクタピン33の双方と軸方向X1に一体的に変位可能に連結されている。この構成によると、1つのアクチュエータ35で連結部材34を駆動することで、セット軸5およびエジェクタピン33を駆動することができる。すなわち、セット軸5を駆動するための駆動部とエジェクタピン33を駆動するための駆動部とを別々に設ける必要が無く、樹脂成形品製造装置1の構成をより簡素にできる。
【0108】
また、本実施形態によると、取出機構6は、セット軸5が嵌合した状態の樹脂成形品100を、エジェクタピン33によって金型2の可動型部8から取り出すことができる。この場合、樹脂成形品100は、セット軸5との間で相対変位を生じないので、セット軸5との摺動に起因する傷の発生を抑制できるとともに、樹脂成形品100の外周面102cに作用する負荷が過大にならずに済み、当該外周面102cの損傷も抑制される。また、樹脂成形品100は、金型2の可動型部8から取り外された状態で、セット軸5を取り外される。この場合、樹脂成形品100は、金型2による拘束を解かれているので、樹脂成形品100とセット軸5との間に作用する摩擦抵抗は、樹脂成形品100の外周面102cが金型2に拘束されている場合の摩擦抵抗よりも小さくなる。よって、取出機構6は、樹脂成形品100をセット軸5からより小さい力で取り出すことができる。これにより、セット軸5が樹脂成形品100の孔部101fの内周面を傷つける(アンダーカットを生じる)ことをより確実に抑制できる。しかも、このような取出機構6の動作は、エジェクタピン33とセット軸5とを軸方向X1に変位させる簡易な構成で実現できる。
【0109】
また、本実施形態によると、取出機構6は、樹脂成形品100を可動型部8の外周面形成部12から抜き出すことで、樹脂成形品100を、金型2の可動型部8から取り出す。この構成によると、樹脂成形品100は、金型2において特に外周面形成部12から拘束力を受ける。そして、取出機構6が樹脂成形品100を外周面形成部12から取り出すことで、樹脂成形品100に作用する拘束力を解放することができる。
【0110】
また、本実施形態によると、金型2は、キャビティ3を複数形成し、セット軸5は、複数のキャビティ3のそれぞれに設置されている。この構成によると、複数のキャビティ3のそれぞれにおいて、セット軸5に嵌合する樹脂成形品100の孔部101f、および、樹脂成形品100の外周面102cに傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる。
【0111】
また、本実施形態によると、セット軸5は、キャビティ3内に配置されるインサート101に形成された孔部101fに嵌合可能に構成されている。この構成によると、樹脂成形品製造装置1は、芯金などのインサート101を有する樹脂成形品100を形成することができる。特に、インサート101の硬度がセット軸5の硬度よりも低い場合、インサート101の孔部101fとセット軸5との間でアンダーカットが生じ易い傾向にある。しかしながら、樹脂成形品製造装置1は、孔部101fとセット軸5との摺動によるアンダーカットの発生を抑制できるので、インサート101の硬度が低い場合でも、当該インサート101にアンダーカットが発生することをより確実に抑制できる。
【0112】
図9は、本発明の第2実施形態にかかる樹脂成形品製造装置1Aの主要部の断面図であり、樹脂成形品100を併せて示している。なお、以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と同様の構成には、図に同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0113】
図9を参照して、本実施形態では、セット軸5Aの第1軸部21Aと第2軸部22Aとは、分離して形成されており、互いに独立して変位可能に構成されている。そして、セット軸5Aのうちの第2軸部22Aに連結部材34が結合されている。
【0114】
第1軸部21Aと第2軸部22Aは、互いに突き合わされる端面としての第1端面41および第2端面42を有している。第1軸部21Aの第1端面41と第2軸部22Aの第2端面42は、軸方向X1に向かい合っており、互いに突き合わされている。各端面41,42は、軸方向X1と直交する方向に延びている。これにより、各端面41,42は、セット軸5が並んでいる配列方向H1に相対的にスライド可能である。
【0115】
キャビティ3が高温(たとえば、約130℃)の状態で射出成形が行われる場合、金型2においては、キャビティ3から遠ざかるほど、温度が低くなる。このため、キャビティ3と連結部材34との温度差が大きくなる。この場合、各セット軸5において、第1軸部21Aの温度は、第2軸部22Aの温度よりも高くなり、且つ、連結部材34の温度よりも高くなる。その結果、
図10に示すように、複数のセット軸51A,52Aの第1軸部21A,21A間のピッチA1(中心線間の間隔)は、第2軸部22A,22A間のピッチA2よりも大きくなる。
【0116】
しかしながら、この場合、
図9に示すように、第1軸部21Aの端面41と第2軸部22Aの端面42とが配列方向H1にスライド可能である。よって、各セット軸5Aにおいて、上記の熱膨張量の差をこの端面41,42間のスライドで吸収できるので、この差に起因する、セット軸5Aの動作不良を抑制できる。なお、この場合の動作不良とは、セット軸5Aが可動金型2に引っ掛かって軸方向X1の動作が規制されることなどをいう。
【0117】
セット軸5Aが用いられる場合、
図11に示すように、取出機構6は、セット軸戻し部43を有している。セット軸戻し部43は、たとえば、セット軸5の第1軸部21Aを保持するための保持部44と、保持部44を駆動するためのアクチュエータ(図示せず)と、を有している。
【0118】
この場合、固定型部7と可動型部8とが分離された状態において、樹脂成形品100がエジェクタピン33によって可動型部8から取り出される際、樹脂成形品100とともにセット軸5Aが軸方向X1の一方X11に変位する。そして、樹脂成形品100が仮保持部36に保持された状態で、セット軸戻し部43の保持部44が、第1軸部21Aを保持する。この後、エジェクタピン33および第2軸部22Aは、軸方向X1の他方X12に変位される。このとき、第1軸部21Aは、第2軸部22Aから分離される。セット軸戻し部43は、この第1軸部21Aを樹脂成形品100の孔部101fから抜き出して第2軸部22A上に載せ置く。
【0119】
なお、第1軸部21Aは、セット軸戻し部43によって第2軸部22Aに載せ置かれる形態に限定されない。たとえば、第1軸部21Aは、樹脂成形品100が完成した後の次の射出成形動作で用いられるインサート101の孔部101fに挿入された状態で、第2軸部22Aに載せ置かれてもよい。また、第1軸部21Aを第2軸部22A側に付勢するばね部材(図示せず)を用いて、第1軸部21Aを第2軸部22A側に戻してもよい。また、第1軸部21Aは、作業員の手で樹脂成形品100の孔部101fから引き抜かれた後に、第2軸部22Aに載せ置かれてもよい。
【0120】
図12は、本発明の第3実施形態にかかる樹脂成形品製造装置1Bの主要部の断面図であり、樹脂成形品100を併せて示している。第2実施形態では、セット軸5Aの第1軸部21Aを樹脂成形品100から抜き出すために、セット軸戻し部43が必要であった。これに対して、樹脂成形品製造装置1Bでは、セット軸戻し部43が不要である。以下、より具体的に説明する。
【0121】
図12を参照して、樹脂成形品製造装置1Bは、セット軸5Bと、ボルト部材などを用いて形成された第2連結部材46と、を有している。
【0122】
セット軸5Bは、第1軸部21Bと、第2軸部22Bと、を有している。第1軸部21Bと第2軸部22Bとは、分離しており、互いの端面41,42が配列方向H1(軸方向X1と直交する方向)に摺動可能である。
【0123】
第1軸部21Bの大径部24は、変位規制部24aを有している。変位規制部24aは、大径部24の基端部に形成された環状の鍔部である。変位規制部24aは、セット軸5が可動金型8から抜けることを防止するために設けられている。樹脂成形品100がキャビティ3内に配置されている状態において、変位規制部24aとブッシュ17とは、軸方向X1に所定の間隔をあけて向かい合っている。これにより、第1軸部21Bが可動型部8に対して軸方向X1の一方X11に上記の間隔以上変位することは、規制される。
【0124】
第2軸部22Bは、筒状部47を有している。筒状部47の一端面が、第2端面42を形成している。筒状部47の基端部には、鍔部47aが形成されている。この鍔部47aは、連結部材34によって軸方向X1に挟まれている。これにより、第2軸部22Bは、連結部材34と軸方向X1に一体的に移動可能に連結されている。また、鍔部47aの内部には、環状の段部47bが形成されている。この環状の段部47bは、配列方向H1に延びている。
【0125】
第2連結部材46は、第1軸部21Bと第2軸部22Bとを、軸方向X1に一体移動可能に、且つ、各セット軸5が並んでいる配列方向H1に相対変位可能に連結している。第2連結部材46は、前述したように、ボルトを用いて形成されている。
【0126】
第2連結部材46は、固定部46aと、主軸部46bと、張出部46cと、を有している。
【0127】
固定部46aは、雄ねじ部であり、第1軸部21Bの大径部24の基端部に形成された雌ねじ部24bに螺合によって固定されている。主軸部46bは、軸方向X1に延びる円柱状の軸部であり、固定部46aから軸方向X1の他方X12に延び筒状部47に隙間をあけて嵌合されている。主軸部46bと筒状部47との隙間は、配列方向H1の隙間である。主軸部46bの一端部に、張出部46cが形成されている。
【0128】
張出部46cは、ボルトの頭部であり、主軸部46bからこの主軸部46bの径方向外方に延びている。張出部46cは、第2軸部22Bの基端部に収容されており、第2軸部22Bの環状の鍔部47aと、連結部材34とによって、軸方向X1に挟まれている。張出部46cは、第1軸部21Bと協働して第2軸部22の筒状部47を軸方向X1に挟んでいる。張出部46cと筒状部47とは、配列方向H1に隙間をあけて嵌合している。
【0129】
上記の構成により、セット軸5Bの第1軸部21Bは、連結部材34とは軸方向X1に一体的に変位可能である。よって、樹脂部102の射出成形時の動作は、第1実施形態における動作と同様となる。そして、温度差によって、セット軸51B,52Bの第1軸部21B,21B間のピッチと、第2軸部22B,22B間のピッチが異なった場合には、対応する第1軸部21Bおよび第2軸部22Bが配列方向H1に相対変位する。これにより、上記のピッチ差が吸収される。
【0130】
図13は、本発明の第4実施形態にかかる樹脂成形品製造装置1Cの主要部の断面図であり、樹脂成形品100を併せて示している。
図13に示すように、樹脂成形品製造装置1Cにおいては、各キャビティ3のそれぞれに、セット軸駆動部55およびエジェクタピン駆動部56が設けられている。これらセット軸駆動部55およびエジェクタピン駆動部56は、独立して動作するように構成されている。すなわち、取出機構6は、セット軸駆動部55およびエジェクタピン駆動部56をさらに備えており、セット軸5とエジェクタピン33とを独立してセット軸5の軸方向X1に変位可能に構成されている。
【0131】
具体的には、各キャビティ3に関して、セット軸駆動部55とエジェクタピン駆動部56とが設けられている。セット軸駆動部55およびエジェクタピン駆動部56は、たとえば、油圧シリンダなどのアクチュエータを用いて形成されている。
【0132】
セット軸駆動部55は、アクチュエータ35(
図2参照)における、セット軸5を軸方向X1に動作するための機能と同様の機能を発揮するために設けられている。セット軸駆動部55の出力軸55aは、セット軸5の第2軸部22に連結されており、セット軸5とは軸方向X1に一体的に変位可能である。本実施形態では、セット軸5は、連結部材34Cに連結されておらず、連結部材34Cとは独立して変位可能である。
【0133】
エジェクタピン駆動部56は、アクチュエータ35における、エジェクタピン33を軸方向X1に動作するための機能と同様の機能を発揮するために設けられている。エジェクタピン駆動部56は、セット軸駆動部55とは独立して動作可能に構成されている。エジェクタピン駆動部56の出力軸56aは、連結部材34Cに連結されており、この連結部材34Cとは軸方向X1に一体的に変位可能である。
【0134】
連結部材34Cは、キャビティ3毎に独立して設けられている。各連結部材34Cは、独立して変位する。
【0135】
上記の構成により、取出機構6は、複数のキャビティ3における複数のセット軸5の動作タイミングを異ならすようにして複数のセット軸5を動作させることが可能に構成されている。
【0136】
本実施形態によると、取出機構6は、セット軸5とエジェクタピン33とを独立してセット軸5の軸方向X1に変位可能に構成されている。この構成によると、樹脂成形品100からセット軸5を取り出すタイミングと、金型2から樹脂成形品100を取り出すタイミングとを、任意に設定することができる。これにより、樹脂成形品100への負荷がより少ない態様で、樹脂成形品100を金型2の可動型部8およびセット軸5に対して取り出すことができる。
【0137】
また、本実施形態によると、セット軸駆動部55とエジェクタピン駆動部56とを別々に動作させることで、樹脂成形品100からセット軸5を取り出すタイミングと、金型2の可動型部8から樹脂成形品100を取り出すタイミングとを、異ならせることができる。
【0138】
また、本実施形態によると、取出機構6は、複数のキャビティ31,32における複数のセット軸5の動作タイミングを異ならすようにして複数のセット軸5を動作させることが可能に構成されている。この構成によると、複数のセット軸5の動作を同期させる必要が無い。よって、複数のセット軸5を静止状態から動作状態に移行させるタイミングを異ならせることができる。すなわち、各セット軸5と対応する樹脂成形品100とを静止摩擦状態から動摩擦状態に移行させるタイミングを異ならせることができる。その結果、取出機構6の負荷(最大出力)をより低減できる。
【0139】
なお、第4実施形態においては、セット軸5を樹脂成形品100の孔部101fから引き抜いた後に、エジェクタピン33によって樹脂成形品100を金型2の可動型部8から押し出してもよい。
【0140】
図14は、本発明の第5実施形態にかかる樹脂成形品製造装置1Dの主要部の断面図であり、樹脂成形品100を併せて示している。
図14に示すように、各キャビティ3において、セット軸5Dが複数設けられている。各セット軸5Dは、対応する円筒部収容部15に収容されている。インサート101Dは、各セット軸5Dの嵌合部25Dに嵌合する孔部101fDを有している。各セット軸5Dに、セット軸駆動部55の出力軸55aが軸方向X1に一体的に変位可能に連結されている。上記の構成により、取出機構6は、1つのキャビティ3内において、複数のセット軸5Dの動作タイミングを異ならすようにして複数のセット軸5Dを動作させることが可能である。
【0141】
この実施形態によると、1つの樹脂成形品100に複数の孔部101fを形成することができる。また、このような場合であっても、樹脂成形品100とセット軸5Dとの摺動によって樹脂成形品100にアンダーカットが生じることは、抑制される。これにより、樹脂成形品製造装置1Dのセット軸5Dに嵌合する樹脂成形品100の孔部101fD、および、樹脂成形品100の外周面102cに傷などの損傷が生じることをより確実に抑制できる。
【0142】
また、この実施形態によると、取出機構6は、1つのキャビティ3内において、複数のセット軸5Dの動作タイミングを異ならすようにして複数のセット軸5Dを動作させることが可能に構成されている。この構成によると、複数のセット軸5Dの動作を同期させる必要が無い。よって、複数のセット軸5Dを静止状態から動作状態に移行させるタイミングを異ならせることができる。すなわち、各セット軸5Dと対応する樹脂成形品100とを静止摩擦状態から動摩擦状態に移行させるタイミングを異ならせることができる。その結果、取出機構6の負荷をより低減できる。
【0143】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られず、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。
【0144】
(1)上述の各実施形態では、樹脂成形品にインサートが設けられる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、樹脂成形品の孔部は、樹脂部によって形成されていてもよい。この場合、インサートが設けられなくてもよい。
【0145】
(2)また、上述の各実施形態では、樹脂成形品製造装置においてキャビティが複数設けられる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、樹脂成形品製造装置におけるキャビティの数は、1つでもよい。
【0146】
(3)また、上述の第4実施形態以降の実施形態については、セット軸が単一部材である形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。たとえば、第4実施形態以降の実施形態において、セット軸の第1軸部と第2軸部とが2分割されていてもよい。