(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378566
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】偏心プレストレストコンクリート柱
(51)【国際特許分類】
E04C 3/34 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
E04C3/34
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-148291(P2014-148291)
(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公開番号】特開2016-23463(P2016-23463A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】今井 和正
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直子
(72)【発明者】
【氏名】小室 努
(72)【発明者】
【氏名】是永 健好
(72)【発明者】
【氏名】島村 高平
(72)【発明者】
【氏名】坂口 裕美
(72)【発明者】
【氏名】稲田 博文
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−017615(JP,A)
【文献】
特開昭59−041544(JP,A)
【文献】
特開平09−041478(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0092341(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/34
E04G 21/12
E04B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外側に位置する柱、吹き抜け部分に位置する柱、左右で梁スパンが異なる柱のいずれかであって、軸力が偏心して作用する柱において、
軸力によって生じる曲げモーメントを減じる方向にプレストレスを導入するための緊張材を配したことを特徴とする偏心プレストレストコンクリート柱。
【請求項2】
プレストレスによってむくりを形成したことを特徴とする請求項1記載の偏心プレストレストコンクリート柱。
【請求項3】
プレストレスは、梁との接合部を除いた部分に導入したことを特徴とする請求項1又は2に記載の偏心プレストレストコンクリート柱。
【請求項4】
柱は、高さ/径が15以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偏心プレストレストコンクリート柱。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の偏心プレストレストコンクリート柱を用いた建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート柱材に関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリート柱は、地震時の引張力に抵抗することを目的として用いられている例がある(特許文献1:特開平7−90982号公報)。また、曲げ戻し架構を備えた高層建築物において、曲げ戻し架構に接続されて高層建築物の上方階に位置する柱にプレストレスを強化した柱を用いることにより、殊更多量の鉄筋を使用することなく、地震などによって生じる引張力に起因するコンクリート製柱のひび割れを効果的に抑制し、コンクリート製柱の軸剛性の低下を防止できる高層建築物を提供する例がある(特許文献2:特開2006−132234号公報)。
【0003】
柱は軸方向に荷重が負荷され、それに耐えるように設計されるのが基本であるが、断面積が小さく細長い柱では、柱が撓んでしまい、柱にサッシがうまく納まらないことがある。サッシに設けられたルーズホール等により、変形に対処する工夫が施されているが、限度を超えるケースや、意匠上好ましくない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−90982号公報
【特許文献2】特開2006−132234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
柱には、柱の左右に連結する梁が負担する荷重が不均一である部分に用いられるものがある。このような柱には長期の曲げモーメントが大きく作用することとなり、柱はこれに耐えるように設定される。曲げモーメントによって柱の湾曲変形が過大になる場合があるが、本発明は、この湾曲変形に効果的に対応できるコンクリート柱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.
建物の外側に位置する柱、吹き抜け部分に位置する柱、左右で梁スパンが異なる柱のいずれかであって、軸力が偏心して作用する柱において、軸力によって生じる曲げモーメントを減じる方向にプレストレスを導入するための緊張材を配したことを特徴とする偏心プレストレストコンクリート柱。
2.プレストレスによってむくりを形成したことを特徴とする1.記載の偏心プレストレストコンクリート柱。
3.プレストレスは、梁との接合部を除いた部分に導入したことを特徴とする1.又は2.に記載の偏心プレストレストコンクリート柱。
4.柱は、高さ/径が15以上であることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の
偏心プレストレストコンクリート柱。
5.1.〜4.のいずれかに記載の偏心プレストレストコンクリート柱を用いた建物。
【発明の効果】
【0007】
1.長期荷重によって生じる曲げ変形を低減したコンクリート柱を実現した。それにより、サッシのルーズホールを過大にする必要がなくなるので、意匠性のよいサッシとすることができる。それに加え、曲げ変形の経年変化が少ない安定したコンクリート製柱を提供でき、サッシなど仕上げ材の変形や破損を防止でき、また、サッシなどの交換修繕など施工が容易である。
2.従来よりも細い柱を用いることができるので、柱径が小さくなり、ビルの有効床面積が増加すると共に、設計の自由度が向上する。また、見通しの良い開放感ある空間を創ることもできる。
3.梁との接合部を除いた柱部分のみにプレストレスを導入した偏心プレストレストコンクリート柱は、接合部を複雑にする必要がなく、施工が容易である。
4.プレストレスは、コンクリート打設前にPC鋼材を緊張するプレテンション方式あるいはコンクリート硬化後に導入するポストテンション方式でも実現することができる。
5.本発明の偏心プレストレストコンクリート柱は、柱の左右で荷重が異なる部分の柱に適しており、特に、ビルの外周柱、吹き抜け柱等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】偏心プレストレストコンクリート柱を模式的に示す縦断面図。
【
図2】偏心プレストレストコンクリート柱を模式的に示す横断面図。(b)は同応力分布図である(定着工程完了時:部材完成)。
【
図3】建物の軸組図(記号付きが、長期の曲げモーメントが大きな対象柱)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、プレストレストコンクリート柱であって、長期荷重によるたわみが凸となる側にプレストレスを偏心させて導入した偏心プレストレストコンクリート柱である。長期荷重によって生じる曲げ変形を低減したコンクリート柱であり、サッシの取付に際して、過大なルーズホールを設ける必要がないため、意匠性の高いサッシを採用可能である。それに加え、曲げ変形の経年変化が少ない安定したコンクリート製柱であって、サッシなど仕上げ材の変形や破損を防止でき、また、サッシなどの交換修繕など施工を容易に行うことができる。建物外周やホールなど柱の左右の一方に大きな荷重が作用する柱材に適しており、従来よりも細い断面の柱を用いることができるので、意匠設計の自由度が向上する。柱の方向は、鉛直だけでなく傾斜しているものにも適用できる。
プレストレス導入用の緊張材の偏心距離、長さ方向の配置箇所は、柱に作用する長期荷重に応じて設定される。
プレストレスの導入は、プレテンション方式、ポストテンション方式の双方を採用することができる。
プレストレスに使用する緊張材は、PC鋼棒やPC鋼より線等を使用することができるほか、高強度の異形鉄筋などを用いることもできる。
コンクリートとしては、通常用いられているコンクリートや設計基準強度が36N/mm
2以上の高強度コンクリートなど特に制限されないが、設計基準強度が高いコンクリートであるほど、柱断面を細く設計するので、本発明の効果が高い。
【0010】
柱材の製造方法の一例を示す。
柱材の製造方法は、コンクリート部材内に形成された挿通孔およびコンクリート部材の両端面に配設された支圧板(後で撤去)に緊張材を挿通するとともにこの緊張材に緊張力を導入する緊張工程と、緊張材の緊張力を解放することで支圧板を介してコンクリート部材にプレストレスを導入する圧縮工程と、挿通孔内に充填材を充填する充填工程と、充填材の強度が発現した後、緊張材に緊張力を再導入しジャッキの緊張力を解放しつつ緊張材と充填材の付着力で緊張材をコンクリート部材に定着させる(付着力によってプレストレスを前記コンクリート部材に導入する)とともに支圧板を撤去する定着工程とを含む。
この方法以外にも、通常のプレテンション方式やポストテンション方式を採用することもできる。
【0011】
本発明の実施態様を以下に説明する。
図1は、本実施の形態に係る偏心プレストレストコンクリート柱の縦断面を模式的に示している。
図2は同柱の横断面を模式的に示している。
偏心プレストレストコンクリート柱の形状は、柱せいD、柱幅bを備えた横断面長方形で、長さLの直線状であり、軸力作用位置xが柱せいDの中央oに対して偏心距離e分偏心する箇所に作用する柱を想定している。本実施形態のような矩形断面であれば、図心は柱せいDの中央かつ梁幅bの中央に位置する点である。
図1、
図2は少なくとも柱が鉄筋コンクリート造のラーメン架構において、柱に長期軸力が作用した状態で柱本体を模式的に取り出したものである。柱に長期軸力が偏心していなければ軸力作用位置xが図心に一致し、長期軸力によって曲げモーメントは生じない。柱に長期軸力が偏心して作用するのは、
図3に示す柱の配置モデルを例に取ると、顕著な例としては建物の外側に位置する柱A、吹き抜け部分に位置する柱B、左右で梁スパンが異なる柱Cなどに存在する。
【0012】
偏心荷重が負荷されると、柱には曲げモーメントが発生し、たわみδ
2が発生する。さらに、経年変化(クリープ)によりたわみ量δ
2が増大する。特に、細い柱では、これらが顕著に発生するので、従来は柱のたわみが顕在化しないように十分な大きさの断面を備えたコンクリート柱が用いられている。
本実施態様では、偏心軸力作用位置に対して図心を挟んで反対側に偏心した位置aにプレストレスを導入することにより、予め柱にむくりδ
1を与える。位置aとプレストレスの緊張力Psは、偏心距離e、長期軸力荷重Nと同等に設定するのが最適であるが、たわみδ
2を許容値におさめるに足る範囲で設定しても良い。
プレストレスの緊張力の大きさ及び位置は、たわみに応じて設計して、設定される。
柱の高さ方向におけるプレストレスの導入範囲、箇所は柱の状況によって設定される。柱の全長、一部分に導入しても良いし、1本の柱においても、高さ位置によって部分的に断面内の導入箇所を変えるなど、それぞれの対象に応じて適宜設計する。
【0013】
偏心プレストレストコンクリート柱の設計例を表1に示す。この柱は、
図3に示す7層の建築物の外側の柱Aを想定している。 表1に示すコンクリート柱は、3000kNの長期軸力を想定している。外周柱を想定し、床の支配面積を6m×6m、単位床面積当たりの鉛直荷重を12kN/m
2と仮定すると、3000kN/(6m×6m×12kN/m
2)≒7層分の鉛直荷重に相当する。プレストレスは、図心に対して導入位置が偏心距離eと対称の位置であるa=150mmの位置に長期軸力3000kNに相当する緊張力を導入した。この柱の例では、柱長さL=14m、柱せいD=0.9mであるので、L/D=15.6の細長い柱になっている。
【0015】
この柱を
図3に示す建築物の外側の柱Aに適用した。むくりδ
1が生じた状態で建てて、下層階から順次施工を進めるに従い、柱に軸力荷重が累積して、所定の軸力が負荷された段階で、むくりが解消して、直線状となる。
たわみの発生が防止でき、サッシなどの仕上げ材の施工も容易に安定して行うことができる。
【0016】
本実施例では、プレストレスを柱全長に導入した例を示したが、梁との接合部には導入しない場合は、梁との接合が容易になる。あるいは、たわみが大きく発生する範囲にのみプレストレスを導入することも可能である。
【符号の説明】
【0017】
1 偏心プレストレストコンクリート柱材
2 柱本体(コンクリート部材)
3 主筋
4 緊張材
a プレストレス位置
b 柱幅
D 柱せい
e 偏心距離
L 柱長さ
δ
1 むくり (プレストレスによるもの)
δ
2 柱のたわみ (長期荷重によるもの)
Ps プレストレス
N 長期軸力