特許第6378569号(P6378569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6378569-バルブステムシール 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378569
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】バルブステムシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20180813BHJP
   F01L 3/08 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   F16J15/3232 201
   F01L3/08 E
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-153758(P2014-153758)
(22)【出願日】2014年7月29日
(65)【公開番号】特開2016-31109(P2016-31109A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】濱屋 泰愛
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−019447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3232
F01L 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブガイドの外周面に密接される筒状嵌合部と、
この筒状嵌合部の端部から延在され、前記バルブガイドに挿通されたバルブステムの外周面に摺動可能に密接されるシールリップと、
前記筒状嵌合部に一体に接合された補強環と、
前記バルブガイドの外周面に形成された段差面に前記バルブガイドからの抜け出し方向に対して係止可能であって前記補強環に保持されたストップリングと
を備え、このストップリングは、
前記筒状嵌合部よりも剛性の高い材料からなり、
前記補強環の内周に軸方向への移動が規制された状態で保持される基部と、この基部から延びて、前記バルブガイドの外周面より小径の先端が前記バルブガイドの段差面と抜け出し方向に対向され、径方向へ変位可能な被係止リップとからなる、
ことを特徴とするバルブステムシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車エンジンや一般産業機械のバルブ装置のバルブステムと、このバルブステムを軸方向移動自在に支持するバルブステムガイドとの間を密封するバルブステムシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸気バルブや排気バルブのバルブステムと、これを軸方向移動自在に支持するバルブステムガイドとの間は、バルブステムシールによって密封されている。図3はバルブステムシールを設けたエンジンの排気バルブ装置を示すものであり、図4は、従来のバルブステムシールを示すものである。
【0003】
図3において、参照符号101はエンジンのシリンダヘッド、102はシリンダヘッド101に形成された排気ポート、103は排気ポート102を開閉するバルブ、104はバルブ103から延びるバルブステム、105はバルブステム104を軸方向移動自在に支持するバルブガイド、106はバルブステム104を介してバルブ103を閉弁方向へ付勢するスプリング、107は、バルブステム104の上端に設けられたリフタ108に接触されると共に、1回転するたびにスプリング106の付勢力に抗してバルブ103を開弁方向へ押し下げるカムである。バルブガイド105の上端部にはバルブステムシール110が装着されている。
【0004】
バルブステムシール110は、図4に示すように、バルブガイド105の上端部外周面に密嵌される筒状嵌合部111と、その上端に設けられてバルブステム104の外周面に摺動可能に密接されるシールリップ112と、筒状嵌合部111に一体に接合された補強環113と、シールリップ112に装着されたガータスプリング114からなるものであって、筒状嵌合部111及びシールリップ112はゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で成形されており、バルブガイド105の上側に存在する油室内のエンジンオイルが、バルブステム104の外周面とバルブガイド105の内周面との隙間Gへ流入するのを制限するものである。
【0005】
バルブガイド105へのバルブステムシール110の固定は、筒状嵌合部111の内周面に形成された嵌合突起111aを、バルブガイド105の外周面に形成された環状溝105aに嵌合させることによって行われている(例えば下記の特許文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3155483号公報
【特許文献2】特開2005−127147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、筒状嵌合部111の嵌合突起111aはゴム状弾性材料からなるものであるため機械的強度が十分ではなく、このため振動による負荷やバルブガイド105の内周隙間を介して作用する内圧による負荷が繰り返し加わると、バルブガイド105の環状溝105aに対する嵌合突起111aの嵌合固定力が低下し、あるいは嵌合突起111aが損傷を受けて、最悪の場合はバルブステムシール110がバルブガイド105から脱落してしまうおそれがあった。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その目的は、振動や内圧によるバルブステムシールの脱落を確実に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明のバルブステムシールは、バルブガイドの外周面に密接される筒状嵌合部と、この筒状嵌合部の端部から延在され、前記バルブガイドに挿通されたバルブステムの外周面に摺動可能に密接されるシールリップと、前記筒状嵌合部に一体に接合された補強環と、前記バルブガイドの外周面に形成された段差面に前記バルブガイドからの抜け出し方向に対して係止可能であって前記補強環に保持されたストップリングとを備え、このストップリングが前記筒状嵌合部よりも剛性の高い材料からなる。
【0010】
ルブステムシールの筒状嵌合部は、バルブガイドの外周面に密接されることによってこのバルブガイドとの間を密封し、シールリップは、バルブステムの外周面に摺動可能に密接されることによって、このバルブステムとの間を密封するものである。また、筒状嵌合部に一体に接合された補強環に保持されたストップリングは、前記筒状嵌合部よりも剛性の高い材料からなるため、バルブガイドの外周面に形成された段差面に前記バルブガイドからの抜け出し方向に対して係止されることによって、バルブステムシールをバルブガイドに対して有効に抜け止めすることができる。
【0011】
発明ストップリング、補強環の内周に軸方向への移動が規制された状態で保持された基部と、この基部から延びて、バルブガイドの外周面より小径の先端が前記バルブガイドの段差面と抜け出し方向に対向され、径方向へ変位可能な被係止リップからなる。
【0012】
トップリングは、基部において補強環に拘束され、この基部から延びる被係止リップの先端が、バルブガイドの外周面に形成された段差面と抜け出し方向に対向されるものであるため、バルブガイドに外挿して行くだけで装着することができ、したがって装着性が向上し、かつ前記段差面との当接によってバルブステムシールの抜け出し方向への移動を確実に阻止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバルブステムシールによれば、振動や内圧等によるバルブガイドからの抜け出し方向への移動や脱落を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るバルブステムシールの好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
図2】本発明に係るバルブステムシールの好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す装着状態の半断面図である。
図3】エンジンのバルブをバルブステムシールと共に示す断面図である。
図4】従来のバルブステムシールの一例を、軸心を通る平面で切断して示す装着状態の半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るバルブステムシールの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
このバルブステムシール1は、図1に示すように、筒状嵌合部11と、その上端から延在されて、バルブステム4の外周面に摺動可能に密接されるシールリップ12及び背圧リップ13と、筒状嵌合部11を外周側から補強する補強環14と、この補強環14の下部内周に保持されたストップリング15と、シールリップ12の外周に装着されたガータスプリング16と、を備える。筒状嵌合部11、シールリップ12及び背圧リップ13は、ゴム状弾性材料からなるものであって互いに連続しており、金属製の補強環14に一体成形されている。
【0017】
バルブステムシール1における筒状嵌合部11は、図2に示すように、例えばエンジンのバルブ装置における円筒状のバルブガイド2の後述する上部外周面2bに適当なつぶし代をもって密接状態で装着されるものであって、内周面が円筒面状に形成されており、補強環14の補強環本体部14aの内周面に一体的に加硫接着されている。
【0018】
バルブステムシール1におけるシールリップ12は、補強スリーブ14の上端に屈曲形成された後述の上部鍔部14bの内径端部近傍から上方へ延び、その先端近傍の内周面に形成されたシールエッジ12aが、図2に示すように、バルブガイド2に挿通されたバルブステム3の外周面に摺動可能に密接されることによって、バルブガイド2の上側に存在する油室(不図示)内のエンジンオイルが、バルブステム3の外周面とバルブガイド2の内周面との隙間Gへ流入するのを制限するものである。言い換えれば、隙間Gへ適量のエンジンオイルが流入するのを許容することによって、バルブステム3とバルブガイド2との間の潤滑を維持すると共に、不図示のバルブの摩耗の抑制を図っている。
【0019】
バルブステムシール1における背圧リップ13は、補強環14の上部鍔部14bの内径端部近傍から下方へ円錐筒状に延び、その先端部内周面が、バルブステム3の外周面に摺動可能に密接されることによって、シリンダ側からの排ガスの圧力がバルブステム3の外周面とバルブガイド2の内周面との隙間Gを介してシールリップ12に負荷されないように、これを遮断するものである。
【0020】
バルブステムシール1における補強環14は、円筒状の補強環本体部14aと、その上端から内径側へ屈曲形成された上部鍔部14bと、下端から内径側へ屈曲形成されて内径がバルブステム3の外周面より大径の下部鍔部14cからなり、補強環本体部14aは筒状嵌合部11の下端よりも下側まで延びている。
【0021】
バルブステムシール1におけるストップリング15は、筒状嵌合部11よりも剛性の高い材料、すなわちゴム状弾性材料よりも剛性の高い合成樹脂材料あるいは金属からなるものであって、補強環14における補強環本体部14aの内周に、筒状嵌合部11の下端部と補強環14の下部鍔部14cとの間で軸方向への移動が規制された状態で保持された円筒状の基部15aと、この基部15aの下端から上方へ向けて徐々に小径になる円錐筒状に延びて、径方向へ変位可能な可撓性を有する被係止リップ15bからなる。
【0022】
また、このストップリング15は、補強環14に筒状嵌合部11、シールリップ12及び背圧リップ13を一体成形した後、補強環14の補強環本体部14aの下部内周に、被係止リップ15bがシールリップ12及び背圧リップ13側(上側)を向くように挿入してから下部鍔部14cを屈曲形成することによって、図2に示す状態に取り付けられる。
【0023】
一方、バルブガイド2の外周面には下側を向いた段差面2aが形成されており、したがってこの段差面2aの上側の外周面(上部外周面)2bは相対的に大径、下側の外周面(下部外周面)2cは相対的に小径となっている。そしてストップリング15の被係止リップ15bの先端が、この段差面2aに下側から対向しており、これによって、バルブガイド2からのバルブステムシール1の抜け出し方向(上方向)に対して係止されるようになっている。また、ストップリング15の被係止リップ15bの先端内径は、図1に示す未装着状態ではバルブガイド2の下部外周面2cよりわずかに小径となっている。
【0024】
なお、ストップリング15が金属からなるものである場合は、被係止リップ15bを径方向へ変位可能とするために、被係止リップ15bがスリットによって円周方向へ分割された構造とする。
【0025】
バルブステムシール1におけるガータスプリング16は、金属製の細長いコイルスプリングを環状に繋げたものであって、シールリップ12の外周面にシールエッジ12aの外周に位置して形成された環状溝に嵌着され、バルブステム3の外周面に対するシールリップ12の緊迫力を補償するものである。
【0026】
以上の構成を備えるバルブステムシール1によれば、バルブガイド2への装着に際しては、補強環14の下部鍔部14cを先頭にしてバルブガイド2の上方から外挿していく過程で、ストップリング15の被係止リップ15bが拡径変形を伴いながらバルブガイド2の上部外周面2bへ容易に乗り上がり、続いて筒状嵌合部11がバルブガイド2の上部外周面2bへ圧入されていく。そして、被係止リップ15bの先端がバルブガイド2の段差面2aの外周に達すると、その時点で被係止リップ15bは自らの弾性によって内径側へ変位してバルブガイド2の下部外周面2cに当接し、この被係止リップ15bの先端が、図2に示すように、前記段差面2aと抜け出し方向に対向された状態となって装着が完了する。したがってこのバルブステムシール1は、バルブガイド2の上方から外挿するだけで容易に装着することができる。
【0027】
また、シリンダ側からの内圧(排ガスの圧力)が、バルブステム3の外周面とバルブガイド2の内周面との隙間Gを介してバルブステムシール1の背圧リップ13に作用すると、これによってバルブステムシール1には上方への移動力が加わるが、上方へのバルブステムシール1の移動は、基部15aにおいて筒状嵌合部11の下端部と補強環14の下部鍔部14cとの間に保持されたストップリング15の被係止リップ15bの先端が、バルブガイド2の段差面2aと当接することによって規制される。しかも、このストップリング15はゴム状弾性材料からなる筒状嵌合部11よりも剛性の高い材料からなるため、機械的強度が大きく、したがって容易に損傷することがなく、バルブステムシール1の抜け出し方向への移動を確実に阻止することができる。
【0028】
なお、上述の説明では、バルブガイド2の段差面2aは相対的に大径の上部外周面2bと相対的に小径の下部外周面2cとの境界をなすものであるが、先に説明した図4に示すような環状溝105aの上端を構成するものであっても適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 バルブステムシール
11 筒状嵌合部
12 シールリップ
13 背圧リップ
14 補強環
15 ストップリング
15a 基部
15b 被係止リップ
2 バルブガイド
2a 段差面
3 バルブステム
図1
図2
図3
図4