特許第6378576号(P6378576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378576
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】金属積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/082 20060101AFI20180813BHJP
   B29C 65/14 20060101ALI20180813BHJP
   B32B 27/30 20060101ALN20180813BHJP
【FI】
   B32B15/082 B
   B29C65/14
   !B32B27/30 D
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-163574(P2014-163574)
(22)【出願日】2014年8月11日
(65)【公開番号】特開2016-37023(P2016-37023A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】日本バルカー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝通
(72)【発明者】
【氏名】木下 ひろみ
(72)【発明者】
【氏名】熊木 聡
(72)【発明者】
【氏名】金澤 幸生
(72)【発明者】
【氏名】福島 博之
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−109827(JP,A)
【文献】 特開昭63−022627(JP,A)
【文献】 特開昭63−284584(JP,A)
【文献】 特開2013−078947(JP,A)
【文献】 特開平10−039494(JP,A)
【文献】 特開平03−167584(JP,A)
【文献】 特開昭62−267123(JP,A)
【文献】 特開昭63−126728(JP,A)
【文献】 特開昭62−014973(JP,A)
【文献】 特開平10−166453(JP,A)
【文献】 特開平10−100313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
B29C63/00− 63/48
B29C65/00− 65/82
C09J 1/00− 5/10
C09J 9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムまたはシート(1)、可視光を含む光の照射により隣接層と融着可能な、PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層(2)、および、金属層(3)をこの順で含み、これらの層が、光照射により融着された金属積層体。
【請求項2】
前記PTFE層(1)となる層の外方から前記金属層(3)となる層に向かって可視光を含む光照射された、請求項に記載の金属積層体。
【請求項3】
高輝度放電ランプまたはハロゲンランプを用いて可視光を含む光照射された、請求項またはに記載の金属積層体。
【請求項4】
前記PTFEより低融点のフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属積層体。
【請求項5】
前記層(2)が可視光吸収剤を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属積層体。
【請求項6】
前記可視光吸収剤がカーボンブラックである、請求項に記載の金属積層体。
【請求項7】
前記金属層が、鉄、銅、ステンレス、チタン、アルミニウムおよびこれらの合金からなる群から選択される1種からなる層である、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属積層体。
【請求項8】
前記金属層がチタン、アルミニウムおよびこれらの合金からなる層であり、該層が表面粗化処理されたものである、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属積層体。
【請求項9】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムまたはシート(1)と、金属層(3)となる層とを、PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層を介して積層し、前記PTFEフィルムまたはシート(1)の外方から前記金属層(3)となる層に向かって可視光を含む光を照射することで、PTFEフィルムまたはシート(1)と金属層(3)とがPTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層(2)を介して融着した金属積層体を得る工程を含む、金属積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属層にフッ素樹脂層を積層させた金属積層体は、フッ素樹脂の優れた非粘着性、摩耗性、電気絶縁性、耐溶剤性等の特性を生かし、種々の分野で利用されている。
特に、フッ素樹脂の中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、摩擦係数が小さく、耐熱性、耐薬品性、耐侯性、耐吸湿・吸水性および電気的絶縁性等の特性に優れているため、金属積層体の表面加工に広く用いられている。
【0003】
このような金属積層体では、金属層とフッ素樹脂層との接着力が悪いため、従来は、金属層とフッ素樹脂層との間に、例えば、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリエステル系接着剤等の接着剤を介在させて積層させている。
また、特許文献1には、エポキシ樹脂等からなる塗膜を熱処理してなる熱変性被膜を有する金属素材表面にフッ素樹脂を積層したことを特徴とするフッ素樹脂金属積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−123348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記接着剤や熱変性被膜を有する金属積層体は、耐熱性、耐薬品性などが劣っていた。
本発明は、このような状況に鑑み、PTFE層と金属層とを含有する金属積層体であって、層間接着性に優れる金属積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究した結果、PTFE層、可視光を含む光の照射により隣接層と融着可能な、PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層、および、金属層をこの順で含む金属積層体によれば、前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、たとえば以下の[1]〜[10]に関する。
【0007】
[1] ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)層(1)、可視光を含む光の照射により隣接層と融着可能な、PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層(2)、および、金属層(3)をこの順で含む金属積層体。
【0008】
[2] 前記層(2)となる層に可視光を含む光を照射することにより、前記PTFE層(1)と前記金属層(3)とが前記層(2)を介して融着されている、[1]に記載の金属積層体。
[3] 前記PTFE層(1)となる層の外方から前記金属層(3)となる層に向かって可視光を含む光を照射する、[2]に記載の金属積層体。
[4] 高輝度放電ランプまたはハロゲンランプを用いて可視光を含む光の照射を行う、[2]または[3]に記載の金属積層体。
【0009】
[5] 前記PTFEより低融点のフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である、[1]〜[4]のいずれかに記載の金属積層体。
【0010】
[6] 前記層(2)が可視光吸収剤を含有する、[1]〜[5]のいずれかに記載の金属積層体。
[7] 前記可視光吸収剤がカーボンブラックである、[6]に記載の金属積層体。
【0011】
[8] 前記金属層が、鉄、銅、ステンレス、チタン、アルミニウムおよびこれらの合金からなる群から選択される1種からなる層である、[1]〜[7]のいずれかに記載の金属積層体。
[9] 前記金属層がチタン、アルミニウムおよびこれらの合金からなる層であり、該層が表面粗化処理されたものである、[1]〜[8]のいずれかに記載の金属積層体。
【0012】
[10] ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)層(1)となる層と、金属層(3)となる層とを、PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層を介して積層し、前記PTFE層(1)となる層の外方から前記金属層(3)となる層に向かって可視光を含む光を照射することで、PTFE層(1)と金属層(3)とがPTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層(2)を介して融着した金属積層体を得る工程を含む、金属積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、PTFE層と金属層とが、接着性樹脂を用いることなく、高い接着強度で接着(融着)された、耐熱性および耐薬品性に優れる金属積層体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の金属積層体の断面の一例を示す概略模式図である。
図2図2は、本発明の金属積層体の製造方法の一例を示す断面概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
[金属積層体]
本発明の金属積層体は、PTFE層(1)、可視光を含む光の照射により隣接層と融着可能な、PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層(2)、および、金属層(3)をこの順で含む。
【0017】
<PTFE層(1)>
前記PTFE層(1)(以下、単に「PTFE層」と略記する場合がある。)は、PTFEを含む層であれば特に制限されない。
前記PTFE層は、従来公知の方法で成膜されたPTFEフィルムを使用することができるが、表面が平滑なPTFE層が得られる等の点から、モールディングパウダーを用いて圧縮成形またはラム押出成形して得られるPTFEフィルムや、ファインパウダーを用いてペースト押出成形して得られるPTFEフィルムがより好ましい。
【0018】
前記PTFE層の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよく、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、例えば、タンク壁材、パイプ等の用途に用いる場合には、PTFEの特性(例えば耐薬品性、耐熱性)が発揮され、一定の強度を有するなどの観点から、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは1〜5mmである。
【0019】
前記PTFE層は、従来公知の添加剤、例えば、可視光吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤等の通常の樹脂層に配合され得る各種添加剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよいが、PTFE自体の特性である純粋性、摩擦係数が小さく、耐熱性、耐薬品性、耐侯性、耐吸湿・吸水性、電気的絶縁性などの優れた特性を発揮させる上では、前記添加剤を含まなくても目的の特性を有するため、添加剤を含まない方が好ましい。
【0020】
<PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層(2)>
(低融点フッ素樹脂)
可視光を含む光の照射により隣接層と融着可能な、PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層(以下、単に「低融点フッ素樹脂層」と略記する場合がある。)は、フッ素樹脂として、PTFEよりも低融点を有するフッ素樹脂を含むものであれば特に限定されない。
前記低融点フッ素樹脂が、PTFEよりも低融点であれば、高い接着強度で接着(融着)された金属積層体を得ることができ、可視光を含む光により、前記PTFE層に変形や変性等が起こらずに前記低融点フッ素樹脂を溶融できる。
【0021】
前記低融点フッ素樹脂とは、可視光を含む光を照射した際に溶融するフッ素樹脂であり、積算光量が10〜3600mJ/cm2になるように可視光を照射した際に、溶融するフッ素樹脂であることが好ましい。
【0022】
このような低融点フッ素樹脂の融点は、前記PTFE層を溶融せずに、前記PTFE層と前記金属層とがより強固に融着された金属積層体を得ることができる等の点から、好ましくは、PTFEの融点(327℃、日本ふっ素樹脂工業会「ふっ素樹脂ハンドブック」、以下「同書」とあるのはこの本を示す。)未満の融点であり、より好ましくは、160〜320℃であり、さらに好ましくは260〜315℃である。より具体的には、前記PTFE層を溶融させることなく、前記効果を有する金属積層体が得られる等の点から、前記フッ素樹脂の融点は、好ましくはPTFEの融点マイナス150〜5℃であり、より好ましくはPTFEの融点マイナス50〜10℃である。
前記低融点フッ素樹脂およびPTFEの融点は、示差走査熱量測定で測定される。
【0023】
前記低融点フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点302〜310℃、同書)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点255〜265℃、同書)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点172〜177℃、同書)、ポリフッ化ビニル(PVF、融点160〜220℃、同書)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)(PCTFE、融点210〜212℃、同書)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、融点270℃、同書)、低融点エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(商品名「アフロンLM−ETFE」、融点:220〜240℃)等が挙げられる。これらの中でもPFAは、熱的特性、機械的特性、化学的特性および電気的特性に優れ、また前記PTFE層を溶融させることなく前記PTFE層と前記金属層を融着させることができる点で好ましい。
【0024】
PFAは、モノマーとしてテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとを用いて、懸濁重合、乳化重合または溶液重合により共重合したものであり、本発明において、PFAとしては、テトラフルオロエチレンから導かれる構造単位を1〜99重量%、およびパーフルオロアルキルビニルエーテルから導かれる構造単位を99〜1重量%含有することが好ましい。ただし、テトラフルオロエチレンから導かれる構造単位とパーフルオロアルキルビニルエーテルから導かれる構造単位との合計を100重量%とする。また、PFAは、市販品を用いてもよく、例えば、住友スリーエム(株)製の「Dyneon PFA」(商品名)、旭硝子(株)製の「Fluon(登録商標)PFA」(商品名)などが好適である。
【0025】
前記低融点フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)は、溶融流動により前記PTFE層と前記金属層とを容易に融着できる等の観点から、20g/10分以下であることが好ましく、5g/10分以下であることがより好ましく、2g/10分以下であることがさらに好ましい。MFRは、JIS K7210に準拠し372℃、荷重5kgの条件で測定される。
【0026】
前記低融点フッ素樹脂層を形成する際には、従来公知の方法で予めフィルム状に成形したものを用いてもよいし、たとえばPFAなどのフッ素樹脂を含む粉体塗料などを用いてもよい。粉体塗料を用いて前記低融点フッ素樹脂層を形成する場合には、前記PTFE層または前記金属層上に従来公知の方法で塗布すればよい。
前記低融点フッ素樹脂層は、所望の用途に応じて、可視光吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤等の通常の樹脂層に配合され得る各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。
【0027】
(可視光吸収剤)
前記低融点フッ素樹脂層には、前記PTFE層を溶融させることなく、短時間で前記低融点フッ素樹脂を溶融させ、前記PTFE層と前記金属層との層間接着性を高める等の点から、可視光吸収剤を配合することが好ましい。前記金属層が可視光域の波長を効率よく吸収する金属(例えば鉄、銅)からなる場合には、前記低融点フッ素樹脂層は、可視光吸収剤を含まなくてもよいが、前記目的を効率よく達成するには、可視光吸収剤を含む方が好ましい。
【0028】
前記可視光吸収剤としては、可視光領域の波長を効率よく吸収する色を呈する顔料、染料であることが好ましく、例えば、黒色顔料(例:カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛、膨張黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、チタンブラック)、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料などの顔料、エチルバイオレット、クリスタルバイオレット、アゾ系染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料などの染料、酸化鉄、酸化銅などの有色金属酸化物、タルク等が挙げられる。これらの中でも、前記低融点フッ素樹脂層や該層を構成する低融点フッ素樹脂が有する物性を損なうことなく、高い層間接着性を有する金属積層体が得られる観点から、黒色顔料が好ましく、特にカーボンブラックがより好ましい。
【0029】
前記可視光吸収剤の形状としては、特に制限されないが、粒子状(球状、楕円球状を含む)、偏平状、柱状、針状(テトラポット形状、樹枝状を含む)および不定形状などが挙げられる。
【0030】
前記可視光吸収剤の平均粒子径は、目的に応じて適宜選択すればよいが、高い層間接着性を有する金属積層体を得ることができる等の点から、好ましくは0.05〜0.5μmである。
前記平均粒子径は、レーザー回折法により測定される。
【0031】
なお、平均粒子径とは、可視光吸収剤が粒子状の場合は、粒子の直径(楕円球状の場合は長軸の長さ)のことをいい、扁平状の場合は、最も長い辺のことをいい、柱状の場合は、円の直径(楕円の長軸)または柱の長さのうちいずれか長い方のことをいい、針状の場合は、針の長さのことをいう。
【0032】
前記低融点フッ素樹脂層における可視光吸収剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、前記低融点フッ素樹脂100重量%に対して、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは3〜7重量%である。この範囲にあれば、前記PTFE層を溶融することなく、前記低融点フッ素樹脂を溶融することができる。
【0033】
前記低融点フッ素樹脂層に可視光吸収剤が含まれる場合、可視光吸収剤は、前記低融点フッ素樹脂層中に一様に分散していてもよく、偏在して存在していてもよい。具体的には、可視光吸収剤は、前記低融点フッ素樹脂層中に一様(均一)に分散していてもよく、前記低融点フッ素樹脂層の何れか一方面側に、あるいは前記低融点フッ素樹脂層の厚み方向中央部に偏在して存在していてもよいが、この可視光吸収剤が、前記低融点フッ素樹脂層の溶融を助けるために配合されること、かつ、前記PTFE層が溶融、変形することを防ぐことを考慮すると、前記金属層側に偏在して存在していることが好ましい。また、均一分散していると低融点フッ素樹脂層が均一に溶融し、均一な接着強度を有する金属積層体が得られるという点で好ましい。
【0034】
前記可視光吸収剤を含有する低融点フッ素樹脂層は、従来公知の方法で形成すればよいが、例えば前記低融点フッ素樹脂と前記可視光吸収剤を含有する塗料を用いて、前記PTFE層または前記金属層上に従来公知の方法で塗布すればよい。
【0035】
(厚み)
前記低融点フッ素樹脂層の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、前記PTFE層と前記金属層とが高い層間接着性を有する点で、好ましくは0.01〜2mm、より好ましくは0.02〜0.4mmである。
【0036】
<金属層(3)>
金属層(3)(以下、「金属層」と略記する場合がある。)としては、例えば従来公知の金属板が挙げられ、前記金属としては、例えば鉄、銅、ステンレス、チタン、アルミニウムおよびこれらの合金からなる群から選択される1種が挙げられる。
【0037】
前記金属としては、後述する表面粗化処理を行わなくても接着強度に優れる金属積層体が得られ、利便性がよいなどの点から、鉄、銅、ステンレスおよびこれらの合金が好ましい。これは、低融点フッ素樹脂層に可視光を含む光を照射することで、低融点フッ素樹脂が加熱され、これにより発生し得るフッ素ガスにより、これらの金属からなる金属層表面が粗化されることによると考えられる。
【0038】
前記金属層は、金属層と前記低融点フッ素樹脂層との接着性を高めるために、表面粗化処理されていることが好ましく、特に、前記金属が、チタン、アルミニウムおよびこれらの合金である場合は、表面粗化処理された金属層を用いることが好ましい。
【0039】
前記表面粗化方法としては、従来公知の方法を用いて行えばよく、例えば前記低融点フッ素樹脂層との接触面を化学的又は機械的に粗化する方法が挙げられ、具体的には、例えばサンドブラストなどの機械的研磨方法や、エッチング液(例えば強アルカリ溶液、過マンガン酸塩溶液、クロム酸塩溶液等)に浸漬させる化学エッチング法、陽極酸化などが挙げられる。
【0040】
前記金属層の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよく、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば0.1〜15mm、より好ましくは1〜5mmである。
なお、前記金属層は、表面をPTFE層で処理(加工)したい金属製または金属層を表面に有する物品であってもよく、この場合には、前記金属層の厚みは該物品に応じて決まる。
【0041】
<金属積層体>
本発明の金属積層体としては、例えば、図1のような断面層構成で、フィルム状、シート状、板状等の任意の厚みのものが挙げられる。すなわち、PTFE層(1)12と、金属層(3)16とが、低融点フッ素樹脂層(2)14を介して積層された金属積層体10である。このような本発明の金属積層体10は、前記PTFE層(1)12と前記金属層(3)16との層間接着性が高い。
本発明の金属積層体の形状は、特に制限されず、所望の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
本発明の金属積層体は、PTFE層、低融点フッ素樹脂層および金属層がこの順で含まれていれば特に制限されず、PTFE層と低融点フッ素樹脂層との間、低融点フッ素樹脂層と金属層の間、PTFE層の低融点フッ素樹脂層とは反対側、または、金属層の低融点フッ素樹脂層とは反対側に、従来公知の他の層が含まれていてもよいが、前記効果を有する金属積層体を容易に得ることができる等の点から、該他の層は含まれていないことが好ましい。
【0043】
前記金属積層体の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよく、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば0.3〜25mmである。
【0044】
本発明の金属積層体の用途としては、特に制限されないが、PTFE層をライニング材として用いる、ライニングタンク、ライニング容器、ライニングパイプなどが挙げられる。具体的には、薬品等の収容物や石化製品等の輸送物がPTFE層と接するように配置して構成した薬品タンク、薬品・石化プラント等のパイプライン等の用途に好適に用いられる。
【0045】
[金属積層体の製造方法]
本発明の金属積層体10の製造方法は、たとえば図2に記載の方法が挙げられる。すなわち、PTFE層(1)となる層と、金属層(3)となる層とを、PTFEより低融点フッ素樹脂を含む層(前記層(2)となる層)を介して積層し、前記PTFE層(1)となる層の外方から前記金属層(3)となる層に向かって可視光を含む光20を照射することで、前記PTFE層(1)12と前記金属層(3)16とが前記低融点フッ素樹脂層(2)14を介して融着した金属積層体を得る工程を含むことを特徴とする。
【0046】
なお、本発明において、前記「PTFE層(1)となる層」は、得られる積層体において前記PTFE層(1)となる層のことをいい、例えば、PTFEフィルムなどのことを指すがPTFE層(1)と同一の層であってもよい。本発明では、本発明の積層体を構成するPTFE層(1)と、該積層体を製造する際に用いる層などとを特に区別せずに記載する場合がある。このことは、前記「金属層(3)となる層」および「前記層(2)となる層」についても同様である。
【0047】
前記積層の方法としては、
(i)フィルム状またはシート状のPTFE層および金属層となる層を、フィルム状またはシート状のPTFEより低融点フッ素樹脂を含む層(前記層(2)となる層)を介して積層する方法、
(ii)フィルム状またはシート状のPTFE層または金属層となる層上に、PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む塗料を塗布することにより前記PTFEより低融点フッ素樹脂を含む層(塗膜、前記層(2)となる層)を積層し、その上にフィルム状またはシート状の金属層またはPTFE層となる層を積層する方法、
が挙げられる。
この際に用いられる各層用のフィルム、シート、塗膜の厚みは、特に限定されないが、用途により、前記したような厚みであることが好ましい。
【0048】
(可視光を含む光照射)
前記可視光を含む光としては、可視光領域の波長を含む光であれば特に限定されないが、前記PTFE層や低融点フッ素樹脂層を構成するPTFEや低融点フッ素樹脂の劣化が起こりにくく、前記PTFE層を透過しやすいなどの点から、好ましくは波長0.4〜5μmの光、より好ましくは0.4〜2μmの光が用いられる。
【0049】
(光照射)
前記光照射の際に使用する光源としては、特に制限されず、レーザーであってもよいが、一度に大面積(例えば0.1〜2m2程度)に光照射が可能であり、現場施工性に優れるなどの点から、ランプを用いることが好ましい。このようなランプとしては、例えば高輝度放電ランプ(例えばキセノンランプ)、ハロゲンランプが挙げられる。
【0050】
前記光照射の際の積算光量としては、低融点フッ素樹脂が溶融すれば特に制限されないが、好ましくは10〜3600mJ/cm2であり、より好ましくは30〜120mJ/cm2である。
【0051】
前記光照射の際には、前記PTFE層(1)となる層12の外方から前記金属層(3)となる層16に向かって光照射20を行えばよい。また、光照射の際には、無色透明であり、可視光透過性の、ガラス板などの、用いる光を吸収しないような材料を用いて、金属積層体の積層方向に、圧力をかけながら各層を融着(圧着)させてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
金属層としての鉄板(SPCC、厚さ4mm)の平面上に、低融点のフッ素樹脂層としてカーボン含有PFAフィルム(厚さ20μm、カーボン重量:5質量%)を置き、その上にPTFE層としてPTFEシート(厚さ2mm)を置いた。この積層体を石英ガラスで軽く圧着させたのち、(有)フィンテック東京製ハロゲンランプ(HSH−35)を用い、波長300〜900nm)以外の光をカラーフィルタによりカットした状態で光を3分間照射し、金属積層体を作製した。
室温まで冷却後、石英ガラスを取り外した。積層体の各層間は、よく接着(融着)されていた(JIS Z 0237に基づく180°剥離試験にて、剥離強度1kg/cm以上)。
【0054】
[実施例2]
金属層として、陽極酸化により表面粗化処理したチタン板(厚さ2mm)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、金属積層体を作製した。
得られた積層体の各層間は、よく接着(融着)されていた(JIS Z 0237に基づく180°剥離試験にて、剥離強度1kg/cm以上)。
【0055】
[実施例3]
低融点のフッ素樹脂層として、PFAフィルム(厚さ20μm、MFR2g/10分)を用い、ハロゲンランプの照射時間を各層間が融着する条件(15分)とした以外は実施例1と同様の方法により、金属積層体を作製した。
得られた積層体の各層間は、よく接着(融着)されていた(JIS Z 0237に基づく180°剥離試験にて、剥離強度1kg/cm以上)。
【0056】
[実施例4]
金属層として、チタン板(厚さ2mm)を用い、ハロゲンランプの照射時間を各層間が融着する条件(15分)とした以外は実施例1と同様の方法により、金属積層体を作製した。
得られた積層体の各層間は、よく接着(融着)されていた(JIS Z 0237に基づく180°剥離試験にて、剥離強度1kg/cm以上)。
【符号の説明】
【0057】
10:金属積層体
12:PTFE層(1)(PTFE層(1)となる層)
14:PTFEより低融点のフッ素樹脂を含む層(2)(層(2)となる層)
16:金属層(3)(金属層(3)となる層)
20:可視光を含む光
図1
図2