(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態の油圧駆動システム1について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等をその方向に限定するものではない。また、以下に説明する油圧駆動システム1は、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0025】
建設機械は、バケット、ローダ、ブレード、巻上機等の種々のアタッチメントを備え、油圧シリンダや油圧モータ(電油モータ)等の油圧アクチュエータによって動かすようになっている。例えば、建設機械の1種である油圧ショベルは、バケット、アーム及びブームを備えており、これら3つの部材を動かしながら掘削等の作業を行うことができるようになっている。バケット、アーム、及びブームの各々には油圧シリンダ11〜13が設けられており、各シリンダ11〜13に圧油を供給することでバケット、アーム、及びブームが動くようになっている。
【0026】
また、油圧ショベルは、走行装置を有しており、更に走行装置の上には、旋回体が旋回可能に取り付けられている。旋回体には、ブームが上下方向に揺動可能に取り付けられている。旋回体には、油圧式の旋回用モータ14が取り付けられており、旋回用モータ14に圧油を供給することで旋回体が旋回するようになっている。また、走行装置には、油圧式の走行用モータ15が取り付けられており、走行用モータ15に圧油を供給することで前進又は後退するようになっている。
【0027】
また、油圧ショベルには、複数の操作レバー111〜115が油圧アクチュエータ11〜15の各々に対応付けて設けられている。油圧アクチュエータ11〜15(即ち、油圧シリンダ11〜13及び油圧モータ14,15)には、油圧供給装置16が接続されており、複数の操作具111〜115の何れかが操作されると操作具111〜115に対応する油圧アクチュエータ11〜15に油圧供給装置16から圧油が供給されて、対応する油圧アクチュエータ11〜15が作動するようになっている。
【0028】
詳細に説明すると、油圧供給装置16は、油圧ポンプ17と、コントロールバルブ18と、傾転角調整装置19とを有している。油圧ポンプ17は、回転軸17aを有しており、回転軸17aを回転させることで圧油を吐出するようになっている。吐出された圧油は、コントロールバルブ18に導かれるようになっており、コントロールバルブ18は、操作具111〜115の何れかが操作されると、操作された操作具111〜115に対応する油圧アクチュエータ11〜15に圧油を流すように圧油の流れを制御するようになっている。
【0029】
さらに詳細に説明すると、各操作具111〜115は、操作されると操作方向及び操作量に応じた圧力のパイロット圧を出力するようになっている。コントロールバルブ18は、操作具111〜115から出力されるパイロット圧に応じて吐出された圧油の流れを制御し、操作される操作具111〜115に対応する油圧アクチュエータ11〜15に圧油を流してそれらを作動させるようになっている。また、コントロールバルブ18は、各操作具111〜115から出力されるパイロット圧に応じた流量の圧油を対応する油圧アクチュエータ11〜15に供給する。これにより、操作具111〜115の操作量に応じた速度で油圧アクチュエータ11〜15を動かすようになっている。このようにして操作具111〜115の操作量に応じた速度でバケット、アーム、及びブーム等を動かすことができるようになっている。
【0030】
このように構成されている油圧供給装置16は、本実施形態においてポジティブコントロール方式の油圧システムを構成しており、操作具111〜115の操作量に応じて油圧ポンプ17の吐出量を増減するようになっている。なお、油圧供給装置16は、ネガティブコントロール方式の油圧システムを構成していてもよい。油圧供給装置16の構成について更に詳細に説明すると、油圧ポンプ17は、可変容量型のポンプ、例えば可変容量型の斜板ポンプが採用されている。油圧ポンプ17は、斜板17bの傾転角を変えることで吐出量を変えられるようになっており、油圧ポンプ17には斜板17bの傾転角を変えるべく傾転角調整装置19が設けられている。
【0031】
傾転角調整装置19は、傾転角調整バルブ19aとサーボ機構19bとを有している。傾転角調整バルブ19aは、例えば電磁減圧弁であり、図示しないパイロットポンプに接続されている。傾転角調整バルブ19aは、入力される傾転信号(傾転角指令)に応じた指令圧p
1を出力するようになっている。傾転角調整バルブ19aは、サーボ機構19bに接続されており、出力された指令圧p
1は、サーボ機構19bに導かれるようになっている。
【0032】
サーボ機構19bは、図示しないサーボピストンを有している。サーボピストンには、斜板17bが連結されており、サーボピストンが移動することで斜板17bの傾転角を変えることができるようになっている。サーボピストンは、入力される指令圧p
1に応じて移動するようになっている。従って、斜板17bの傾転角が指令圧p
1に応じた角度に調整される。即ち、斜板17bの傾転角は、傾転信号に応じた角度に調整されるようになっている。また、油圧ポンプ17は、その回転軸17aに油圧ポンプ駆動装置2が設けられており、油圧ポンプ駆動装置2によって回転軸17aが回転駆動されるようになっている。
【0033】
油圧ポンプ駆動装置2は、エンジンE及び電動機20を備えるハイブリッド式の駆動システムであり、エンジンE及び電動機20が共に油圧ポンプ17の回転軸17aに連結されている。エンジンEは、例えば複数の気筒を有するディーゼルエンジンであり、気筒毎に燃料噴射装置21が対応付けて設けられている。燃料噴射装置21は、例えば燃料ポンプと電磁制御弁とによって構成されており、入力される噴射指令に応じた量の燃料を対応する気筒の燃焼室に噴射するようになっている。エンジンEは、燃料噴射装置21から噴射された燃料を燃焼させて図示しないピストンを往復運動させることで回転軸17aを回転させ、油圧ポンプ17から圧油を吐出させるようになっている。なお、本実施形態では、エンジンEがディーゼルエンジンであるが、必ずしもディーゼルエンジンである必要はなくガソリンエンジンであってもよい。また、回転軸17aには、エンジンEの駆動をアシストするために電動機20が設けられている。
【0034】
電動機20は、例えばACモータであって、インバータ22に接続されている。駆動装置であるインバータ22は、バッテリ25と繋がっており、バッテリ25から供給される直流電流を交流に変換して電動機20に供給するようになっている。また、インバータ22は、入力されるトルク指令に応じた周波数及び電圧の交流電流を電動機20に供給し、トルク指令(後述するアシストトルク)に応じたトルクを電動機20から回転軸17aに出力させるようになっている。
【0035】
また、回転軸17aには、回転数センサ23が取り付けられており、回転数センサ23は、回転軸17aの回転数に応じた信号を出力するようになっている。回転数センサ23は、インバータ22及び燃料噴射装置21の電磁制御弁と共に制御装置30に電気的に接続されている。また、制御装置30には、吐出圧センサ24、複数のパイロット圧センサS1,S2及びバッテリセンサ26が電気的に接続されている。吐出圧センサ24は、油圧ポンプ17の吐出圧を検出するためのセンサであって、前記吐出圧に応じた信号を制御装置30に出力するようになっている。パイロット圧センサS1,S2は、各操作具111〜115に対応付けて設けられている。パイロット圧センサS1,S2は、対応する操作具111〜115から出力されるパイロット圧を検出するためのセンサであって、前記パイロット圧に応じた信号を制御装置30に出力するようになっている。また、バッテリセンサ26は、バッテリの電圧(即ち、充電量)、及び温度等のバッテリの状態を示す状態値を検出するためのセンサであって、バッテリの状態に応じた信号を制御装置30に出力するようになっている。
【0036】
制御装置30は、
図2に示すような各種値を演算する機能部分を有しており、以下では、各種値を演算する機能部分毎にブロックに分けて説明する。制御装置30は、目標回転数決定部31と、回転数差演算部32と、目標燃料噴射量演算部33とを有している。目標回転数決定部31は、入力手段(ダイヤル、ボタン、及びタッチパネル等)から入力された又は予め設定された回転数に基づいてエンジンの目標回転数を決定する。回転数差演算部32は、回転数センサ23から入力される信号に基づいて回転軸17aの実回転数を算出する。また、回転数差演算部32は、算出された実回転数と目標回転数決定部31で決定された目標回転数との差を演算する。目標燃料噴射量演算部33は、実回転数と目標回転数との差に基づいて燃料噴射装置21から噴射すべき目標燃料噴射量を演算する。
【0037】
また、制御装置30は、目標燃料噴射量に基づいて後述の方法で実燃料噴射量を演算し、この実燃料噴射量を燃料噴射装置21から噴射させるようになっている。なお、制御装置30は、実回転数及び目標燃料噴射量を所定の間隔で演算するようになっている。更に、制御装置30は、エンジンEからのトルクだけでは出力が不足する場合、電動機20を駆動してエンジンEをアシストし、また油圧ポンプ17の出力トルクを低減させるようになっている。以下では、制御装置30のこのような機能について
図2及び
図3を参照しながら更に詳細に説明する。
【0038】
制御装置30は、アシストトルク演算ブロック40と、トルク制限ブロック50と、傾転角制御ブロック60とを有している。アシストトルク演算ブロック40は、目標燃料噴射量演算部33で演算された目標燃料噴射量と、回転数センサ23から入力される信号に基づいて算出される実回転数とに応じてアシストトルク及び実燃料噴射量(実際に噴射すべき燃料量)を演算するようになっている。
図3に示すようにアシストトルク演算ブロック40は、目標トルク演算部41、噴射量制限部42、実トルク演算部43、及び第1アシストトルク演算部44を有している。
【0039】
目標トルク演算部41は、目標トルクマップを用いて目標トルクを演算するようになっている。目標トルクマップは、油圧ポンプ駆動装置2全体で出力すべき目標トルクが目標燃料噴射量及び実回転数に対応付けられているマップであり、目標トルク演算部41は、演算された目標燃料噴射量及び実回転数に基づいて目標トルクマップから目標トルクを算出するようになっている。また、目標燃料噴射量演算部33で演算される目標燃料噴射量は、燃料噴射装置21にて実際に噴射させるべき実燃料噴射量を噴射量制限部42で演算するために用いられる。
【0040】
噴射量制限部42(実燃料噴射量演算部)は、増加率制限あり且つ減少率制限なしのレートリミット機能を有しており、このレートリミット機能により目標燃料噴射量に基づいて実燃料噴射量を演算するようになっている。さらに詳細に説明すると、噴射量制限部42は、目標燃料噴射量が増加する際に目標燃料噴射量の増加率が所定値を超えると、予め定められる変化規則に基づいて変化率又は変化量を制限しながら実燃料噴射量を前記目標燃料噴射量まで段階的に変化させるようになっている。他方、目標燃料噴射量が減少する場合、噴射量制限部42は、減少率を制限せずに目標燃料噴射量を実燃料噴射量とするようになっている。
【0041】
本実施形態において、噴射量制限部42は、目標燃料噴射量演算部33で演算された目標燃料噴射量を内部に保持(即ち、記憶)し、保持している目標燃料噴射量と直後に演算された目標燃料噴射量とを比較するようになっている。保持している目標燃料噴射量より直後の目標燃料噴射量が小さい、即ち目標燃料噴射量が減少している場合、目標燃料噴射量を実燃料噴射量として算出する。他方、保持している目標燃料噴射量より直後の目標燃料噴射量が大きい、即ち目標燃料噴射量が増加している場合、増加率(本実施形態では、2つの目標燃料噴射量の差)が所定値を超えているか否かを判定する。所定値以下の場合は、標燃料噴射量を実燃料噴射量として算出する。他方、所定値を超えている場合、増加率を所定値又はそれ以下とする変化規則に基づいて増加率を制限しながら実燃料噴射量を目標燃料噴射量まで段階的に増加させる。即ち、所定値を超えている場合、所定値又はそれ以下の比例定数に基づいて時間に比例させて実燃料噴射量を目標燃料噴射量まで段階的に増加させる。なお、噴射量制限部42は、フィルターであってもよく、例えば一次遅れ要素(即ち、遅れ要素)を有する伝達関数に基づいて目標燃料噴射量を増加させるようにしてもよい。このように演算された実燃料噴射量は、実トルクを実トルク演算部43で演算するために実回転数と共に用いられる。
【0042】
実トルク演算部43は、実トルクマップを用いて実トルクを演算するようになっている。実トルクは、燃料噴射装置21によってエンジンEに実燃料噴射量を噴射した場合にエンジンEが出力する出力トルクである。実トルクマップは、実トルクが実燃料噴射量及び実回転数に対応付けられているマップであり、実トルク演算部43は演算された実燃料噴射量及び実回転数に基づいて実トルクマップから実トルクを算出するようになっている。本実施形態では、実トルクマップ及び目標トルクマップに同じマップが使用されている。算出された実トルクは、電動機20で出力させたい第1アシストトルクを第1アシストトルク演算部44で演算するために目標トルクと共に用いられる。
【0043】
第1アシストトルク演算部44(差分トルク演算部)は、1つの目標燃料噴射量から演算される実トルクと目標トルクとに基づいて、目標トルクから実トルクを差し引いた不足分のトルクである第1アシストトルク(差分トルク)を演算するようになっている。更に詳細に説明すると、第1アシストトルク演算部44は、目標トルクから実トルクを減算する。これにより、油圧ポンプ駆動装置2から目標トルクを発生させる上で不足する第1アシストトルクが演算される。
【0044】
このように、アシストトルク演算ブロック40では、目標燃料噴射量が急激に増加したときに噴射量の増加率を制限するようになっている。このように増加率を制限することによって、実燃料噴射量の急激な増加に起因するエンジンEの燃焼状態の悪化を防ぐことができる。他方、制限されることで実際に出力される実トルクが目標トルクより小さくなる、即ち不足するトルクが生じるので、不足分を電動機20に出力させるべく、不足分に相当する第1アシストトルクを演算している。
【0045】
また、油圧ポンプ駆動装置2では、実燃料噴射量が変化することによってエンジンEの燃焼状態が悪化して、エンジンEの出力トルクが低下する。アシストトルク演算ブロック40は、実燃料噴射量が変化することに伴うエンジンEの燃焼状態の悪化等に起因する出力トルクの低下分を推定し、低下した出力トルクを電動機20で補うべく第2アシストトルク(変化トルク)を演算する機能を有している。アシストトルク演算ブロック40は、第2アシストトルクを演算するために、トルク変化推定部45と、第2アシストトルク演算部46と、目標アシストトルク演算部47とを有している。
【0046】
トルク変化推定部45は、演算された実回転数及び実燃料噴射量に基づいて、エンジンEから出力されるトルクの変化量を実回転数に基づいて推定するようになっている。エンジンEは、実燃料噴射量の変化により燃焼状態が悪化し、出力トルクに応答遅れが生じる。また、エンジンEの燃焼状態は、一サイクル毎に変化し、燃焼状態の悪化は、燃焼回数を経るにつれて改善される。従って、実回転数が大きければ大きい程、単位時間当たりの燃焼回数が多くなるので、エンジンEの燃焼状態の悪化がより早く改善し、エンジンEのトルクの低下が小さくなる。
【0047】
燃焼状態が一サイクル毎に変化するというエンジンEの出力トルクの特性を鑑みて、トルク変化推定部45は、単位回転数毎(好ましくは、一サイクル毎)に出力トルクの低下を演算するようになっている。本実施形態において、トルク変化推定部45では、後述する疑似微分を含む伝達関数によってエンジンEを数値モデル化してエンジンEの出力トルクの変化を推定し、更に疑似部分に含まれる一次遅れ要素の時定数を実回転数に応じて変化させる。これにより、単位回転数毎の出力トルク低下を疑似的に演算することができる。そうすると、実回転数が大きい程エンジンEの燃焼状態がより早く改善してトルク低下が抑えられ、且つ実回転数が小さい程エンジンEの燃焼状態の改善が遅くなってトルク低下が大きくなることが考慮される。即ち、実回転数に応じてトルクの応答遅れが変化するエンジンEの出力トルク特性が前述する伝達関数によって推定できる。なお、トルク変化推定部45の演算は、予め定められた間隔で行われる。このように出力トルクの変化量を推定するトルク変化推定部45について、
図3に併せて
図4も参照しながら以下にさらに詳細に説明する。
【0048】
トルク変化推定部45は、出力トルクの変化を推定する機能部分として、時定数演算部71と、疑似微分演算部72と、トルク変化係数演算部73と、トルク変化率演算部74と、補正係数演算部75と、トルク変化量演算部76とを有している。時定数演算部71は、回転数センサ23からの信号に基づいて実回転数を算出し、更に時定数マップを用いて実回転数から時定数を算出する。本実施形態において、時定数マップは、時定数と実回転とが対応付けられているマップである。時定数マップの時定数と実回転との対応関係は、実験等から得られたデータに基づいて設定されており、エンジンEの排気量、付属品(過給機やEGR等)、及び構造(配管の径や長さ等)等によって異なる。即ち、前記対応関係は、エンジンEの機種毎に異なっており、エンジンEの機種毎に実験結果を参考にして設定される。なお、前記対応関係は、機種毎だけでなく個体毎に設定されてもよい。時定数演算部71で演算される時定数は、実燃料噴射量の微分値を演算するために疑似微分演算部72で実燃料噴射量と共に用いられる。
【0049】
疑似微分演算部72は、エンジンEを数値モデル化した伝達関数によって実燃料噴射量の微分値を演算する。なお、エンジンEでは、燃料噴射量とトルクとが対応しており、実燃料噴射量の微分値(実燃料噴射量の単位回転数当たりの変化率に相当)は、トルクの変化率に対応している。疑似微分演算部72についてさらに詳細に説明すると、疑似微分演算部72の伝達関数には、一次遅れ要素を含む疑似微分(不完全微分ともいう)が含まれており、疑似微分演算部72は、この伝達関数を用いて実燃料噴射量の微分値を演算するようになっている。本実施形態において、疑似微分は、ラプラス変数をsとし、微分ゲインをT
Dとし、時定数をTとすると、下記の式(1)で表される。
【0051】
このように一次遅れ要素を含む疑似微分によって実燃料噴射量の微分値を演算することで、燃焼状態の悪化による応答遅れが考慮された出力トルクの変化率に対応する値(即ち、実燃料噴射量の微分値)が演算される。また、疑似微分に含まれる一次遅れ要素の時定数Tは、時定数演算部71で演算された時定数を用いる。即ち、疑似微分演算部72は、演算する度に時定数を変化させて実燃料噴射量の微分値を演算する。このように時定数を実回転数に基づいて演算して、それを演算する度に変更することで、単位回転数毎(好ましくは、一サイクル毎)の出力トルクの変化率を疑似的に演算することができる。このようにして演算される実燃料噴射量の微分値は、エンジンEの出力トルクの単位回転数当たりの変化率に対応しており、後述するトルク変化係数をトルク変化係数演算部73で演算するために用いられる。
【0052】
トルク変化係数演算部73は、疑似微分演算部72で演算された実燃料噴射量の微分値に基づいてトルク変化係数を演算するようになっている。トルク変化係数は、実トルクに対してどの程度トルクが変化するかを示す係数である。トルク変化係数演算部73は、まず実燃料噴射量の微分値の絶対値を演算し、次に
図4に示すトルク変化係数マップ73aを用いて実燃料噴射量の微分値の絶対値からトルク変化係数を算出する。トルク変化係数マップ73aは、実燃料噴射量の微分値の絶対値とトルク変化係数とが対応付けられているマップであり、例えば微分値の絶対値が大きくなるとトルク変化係数が大きくなるように設定されている。本実施形態において、トルク変化係数マップ73aの実燃料噴射量の微分値の絶対値とトルク変化係数との対応関係は、実験等から得られたデータに基づいて設定されており、時定数マップと同様にエンジンEの機種毎に設定されている。なお、実燃料噴射量の微分値の絶対値とトルク変化係数との対応関係は、必ずしも
図4に示されるような対応関係である必要はない。トルク変化係数演算部73は、トルク変化係数マップ73aと実燃料噴射量の微分値の絶対値とに基づいてトルク変化係数を演算し、演算されたトルク変化係数は、トルク変化率をトルク変化率演算部74で演算するために用いられる。
【0053】
トルク変化率は、実燃料噴射量の燃料をエンジンEに噴いたときに出力されるべき実トルクに対して、燃焼状態の変化に伴って変化(具体的には、減少)するトルクの割合を示す値である。トルク変化係数とトルク変化率とは、基本的に対応しているが、トルク変化係数は、実燃料噴射量の微分値の絶対値から一義的に導かれるように設定された値である。これに対して、トルク変化率は、実燃料噴射量の微分値の絶対値(即ち、トルク変化係数)だけでなく、実回転数及び実燃料噴射量の影響が加味されている。例えば、エンジンEに排気ターボ機能が備わっている場合、低回転域では、そのターボによって吸気遅れが増大して、出力トルクの低下が増大する。このような現象を加味すべく、トルク変化率は、トルク変化係数演算部73で演算されるトルク変化係数を補正するようになっており、補正するための補正係数を補正係数演算部75で演算している。
【0054】
補正係数演算部75は、噴射量制限部42で演算される実燃料噴射量及び実回転数に基づいて補正係数を演算するようになっている。補正係数は、トルク変化係数演算部73で演算されたトルク変化係数を実回転数及び実燃料噴射量に応じて補正するための係数である。さらに詳細に説明すると、補正係数演算部75は、
図4に示すような第1補正係数マップ75aを用いて実回転数から第1補正係数を演算し、
図4に示すような第2補正係数マップ75bを用いて実燃料噴射量から第2補正係数を演算する。第1補正係数マップ75aは、実回転数と第1補正係数とが対応付けられているマップであり、第2補正係数マップ75bは、実燃料噴射量と第2補正係数とが対応付けられているマップである。各補正係数マップ75a,75bでは、例えば実回転数及び実燃料噴射量が大きくなると補正係数が小さくなるように設定されている。なお、2つの補正係数マップ75a,75bは、実験等から得られたデータに基づいて設定されており、他のマップと同様にエンジンEの機種毎に異なっている。また、実回転数と第1補正係数との対応関係及び実燃料噴射量と第2補正係数との対応関係の各々は、必ずしも
図4に示されるような対応関係である必要はない。
【0055】
補正係数演算部75は、演算された第1及び第2補正係数を補正係数乗算部75cによって乗算してトルク補正係数を算出する。算出されたトルク補正係数は、トルク変化率をトルク変化率演算部74で演算するためにトルク変化係数と共に用いられる。
【0056】
トルク変化率演算部74は、トルク変化係数演算部73で演算されるトルク変化係数と補正係数演算部75で演算される補正係数とに基づいてトルク変化率を演算するようになっている。トルク変化率は、前述の通り実トルクに対して、燃焼状態の悪化等に伴って変化(増加又は減少)するトルクの割合を示す値である。トルク変化率演算部74は、演算されるトルク変化係数及び補正係数を乗算することによりトルク変化率を算出している。算出されたトルク変化率は、トルク変化量をトルク変化量演算部76で演算するために実トルクと共に用いられる。
【0057】
トルク変化量演算部76は、トルク変化率演算部74で演算されるトルク変化率及び実トルク演算部43で演算される実トルクに基づいて、実燃料噴射量の変化に起因するエンジンEのトルク変化量を演算するようになっている。トルク変化量は、噴射量制限部42で演算される実燃料噴射量をエンジンEに噴射した際にエンジンEの燃焼状態に応じて変化したトルクの変化量(即ち、トルクの低下量又は増加量)である。トルク変化量演算部76は、トルク変化率及び実トルク演算部43を乗算してトルク変化量を算出する。トルク変化推定部45では、このようにしてトルク変化量が推定される。推定されたトルク変化量は、第2アシストトルクを第2アシストトルク演算部46で演算するために用いられる。
【0058】
第2アシストトルク演算部46(変化トルク演算部)は、実燃料噴射量の変化に伴って低下したトルクの不足分を電動機20の出力トルクで補うべく、その不足分のトルクに相当する第2アシストトルク(変化トルク)を演算するようになっている。演算方法について詳細に説明すると、第2アシストトルク演算部46は、まず疑似微分演算部72で演算された実燃料噴射量の微分値が0(ゼロ)未満か否かを判定する。実燃料噴射量の微分値がゼロ未満であると判定すると、第2アシストトルク演算部46は、乗算係数としてゼロを選択する。実燃料噴射量の微分値がゼロ以上と判定すると、第2アシストトルク演算部46は、乗算係数として所定値(本実施形態では、所定値=1)を選択する。更に、第2アシストトルク演算部46は、乗算係数とトルク変化量とを乗算して乗算結果を第2アシストトルクとして算出する。従って、微分値がゼロ未満の場合、第2アシストトルクはゼロとなり、微分値がゼロ以上である場合、第2アシストトルクはトルク変化量となる。このようにして算出された第2アシストトルクは、電動機20から出力すべき目標アシストトルクを目標アシストトルク演算部47で演算するために第1アシストトルクと共に用いられる。
【0059】
図3に示す目標アシストトルク演算部47は、第1アシストトルク及び第2アシストトルクに基づいて電動機20から出力すべき目標アシストトルクを演算する。即ち、目標アシストトルク演算部47は、第1アシストトルクと第2アシストトルクとを加算することによって目標アシストトルクを演算する。演算された目標アシストトルクは、電動機20から実際に出力すべき制限アシストトルクをトルク制限ブロック50で演算するために用いられる。
【0060】
図2に示すトルク制限ブロック50は、電動機20の出力トルクが制限値を超えないように出力トルクを制限するようになっている。トルク制限ブロック50は、第1トルク制限部51、及び不足トルク演算部52を有している。第1トルク制限部51は、アシストトルク演算ブロック40で演算された目標アシストトルクを予め定められた仮想許容値L1以下に制限するリミット機能を有している。具体的には、第1トルク制限部51は、目標アシストトルクが仮想許容値L1未満の場合、目標アシストトルクを制限せずに目標アシストトルクをそのまま出力値とし、目標アシストトルクが仮想許容トルクL1以上の場合、仮想許容トルクL1を出力値とするようになっている。仮想許容トルクL1は、予め設定された値であり、後述する最大許容トルクL2より小さい値である。演算された出力値は、目標アシストトルクを制限することによって生じる不足トルクを不足トルク演算部52で演算するために用いられる。不足トルク演算部52は、第1トルク制限部51の出力値と目標アシストトルクに基づいて、目標アシストトルクから出力値を差し引いた不足トルク(本実施形態では、不足分が正の値で表される)を演算するようになっている。さらに詳細に説明すると、不足トルク演算部52は、目標アシストトルクから出力値を減算する。これにより、不足トルクが演算される。演算された不足トルクは、低減すべき傾転角を演算するために傾転角制御ブロック60で用いられる。
【0061】
傾転角制御ブロック60は、油圧ポンプ17の斜板17bの傾転角を制御するようになっている。傾転角制御ブロック60は、低減動力演算部61と、低減流量演算部62と、設定流量演算部63と、実流量演算部64と、傾転角演算部65と、傾転角制御部66とを有している。低減動力演算部61は、不足トルク演算部52で演算された不足トルクと実回転数とに基づいて、低減すべき油圧ポンプ17の動力、即ち低減動力を演算する。具体的に説明すると、低減動力演算部61は、不足トルクに実回転数を乗算することによって低減動力を演算する。演算された低減動力は、低減すべき吐出流量を演算するために低減流量演算部62で用いられる。
【0062】
低減流量演算部62は、吐出圧センサ24からの信号に基づいて算出される油圧ポンプ17の吐出圧と低減動力演算部61で演算される低減動力とに基づいて、低減すべき油圧ポンプ17の吐出流量、即ち低減流量を演算する。具体的に説明すると、低減流量演算部62は、低減動力を前記吐出圧で除算することによって低減流量を演算する。演算された低減流量は、油圧ポンプ17から実際に吐出させるべき実吐出流量を演算するために実流量演算部64で用いられる。また、実流量演算部64では、実吐出流量を演算するために要求流量を用いており、要求流量は、設定流量演算部63にて演算される。
【0063】
設定流量演算部63は、油圧ポンプ17から吐出すべき吐出流量である要求流量を演算するようになっている。演算例の一例を説明すると、設定流量演算部63は、まず各操作具111〜115のパイロット圧センサS1,S2から入力される信号に基づいて各操作具111〜115から出力されるパイロット圧を算出する。次に、算出される全てのパイロット圧のうち最大のパイロット圧を選択する。更に、設定流量演算部63は、選択されたパイロット圧と流量マップとに基づいて規定流量を算出する。流量マップは、パイロット圧と規定流量とが対応付けられているマップであり、選択されたパイロット圧に基づいて流量マップから規定流量が算出されるようになっている。また、規定流量とは、実回転数が予め定められた基準回転数である場合において、油圧ポンプ17から吐出すべき流量である。設定流量演算部63は、算出された規定流量を実回転数で補正して、各操作具111〜115の操作量に対して要求される要求流量を演算する。算出された要求流量は、低減流量演算部62で演算された低減流量と共に実吐出流量を演算するために実流量演算部64で用いられる。
【0064】
実流量演算部64は、要求流量と低減流量とに基づいて実際に油圧ポンプ17から吐出すべき実吐出流量を演算する。具体的に説明すると、実流量演算部64は、要求流量から低減流量を減算することによって実吐出流量を演算する。演算される実吐出流量は、斜板17bの傾転角を演算するために傾転角演算部65で用いられる。傾転角演算部65は、実吐出流量を油圧ポンプ17から吐出させるために傾けるべき傾転角である傾転角指令値を演算する。なお、油圧ポンプ17では、傾転角と吐出容量とが対応しており、傾転角と実回転数とに基づいて油圧ポンプ17から吐出される実吐出流量が演算することができる。従って、実吐出流量と実回転数とに基づいて傾転角指令値を演算することができ、傾転角演算部65は、回転数センサ23からの信号に基づいて算出される実回転数と実吐出流量とに基づいて傾転角指令値を演算する。演算された傾転角指令値は、傾転信号を決定する際に傾転角制御部66で用いられる。
【0065】
傾転角制御部66は、斜板17bの傾転角が傾転角指令値となるように傾転角調整装置19を動かすべく傾転信号を決定する。更に傾転角制御部66は、決定した傾転信号を傾転角調整バルブ19aに出力し、斜板17bの傾転角が傾転角指令値になるようにサーボ機構19bの動きを制御するようになっている。これにより、斜板17bを傾転角指令値に傾けることができ、演算された実吐出流量を油圧ポンプ17から吐出させることができる。これにより、例えばトルク制限ブロック50で電動機20の出力トルクを制限することによって生じた不足トルクを油圧ポンプ17の出力トルクから低減させ、エンジンEにかかる負担を小さくしてエンジンEの回転数が急激に落ちることを防いでいる。
【0066】
他方、油圧駆動システム1では、傾転角調整装置19によって機械的に油圧ポンプ17の実吐出流量を低減させているため、傾転信号に対して傾転角調整装置19で応答遅れが生じる。応答遅れが生じることによって、油圧ポンプ17の実吐出流量を傾転信号通りに低減することができず、油圧ポンプ17の出力トルクを低減することができない。そのため、制御装置30は、3つのブロック40,50,60に加えて、トルク補正ブロック80を有している。
【0067】
トルク補正ブロック80は、応答遅れによって生じる低減トルクの過不足分を演算し、過不足分を電動機20の出力トルクによって補うべく出力値を補正するようになっている。トルク補正ブロック80は、低減トルク推定部81、過不足分演算部82、トルク補正部83を有している。低減トルク推定部81は、傾転角制御ブロック60によって実行される傾転角制御によって油圧ポンプ17で低減される低減トルクを、不足トルク演算部52で演算された不足トルクに基づいて推定するようになっている。推定する際、低減トルク推定部81は、油圧ポンプ17を数値モデル化した伝達関数を用いて低減トルク(本実施形態では、低減すべき分が正の値で表される)を推定する。低減トルク推定部81の伝達関数には、一次遅れ要素が含まれており、この一次遅れ要素は、予め実施される実験等から得られたデータに基づいて設定される。低減トルク推定部81は、このような伝達関数を用いて傾転角制御ブロック60による傾転角制御によって低減される油圧ポンプ17の低減トルクを推定する。推定される低減トルクは、低減トルクの過不足分を演算するために、不足トルク演算部52で演算される不足トルク共に過不足分演算部82で用いられる。
【0068】
過不足分演算部82は、低減トルク推定部81で推定された低減トルクと不足トルク演算部52で演算された不足トルクとに基づいて、低減トルクの過不足分を演算する。さらに詳細に説明すると過不足分演算部82は、不足トルクから低減トルクを減算する。これにより、低減トルクの過不足分が演算される。算出された過不足分は、第1トルク制限部51で演算された出力値を補正するためにトルク補正部83で用いられる。
【0069】
トルク補正部83は、過不足分演算部82で演算された過不足分、及び第1トルク制限部51で演算された出力値に基づいて、低減トルクの過不足分を補うべく出力値を補正するようになっている。さらに詳細に説明すると、トルク補正部83は、出力値に過不足分を加算することによって出力値を補正し、補正することによって補正トルクを演算する。演算される補正トルクは、電動機20の最大許容トルクL2以下に抑えるべくトルク制限ブロック50の第2トルク制限部53で用いられる。
【0070】
第2トルク制限部53は、補正トルクを最大許容トルクL2以下に制限する機能を有している。最大許容トルクL2は、電動機20が許容できる最大トルクである。第2トルク制限部53についてさらに詳細に説明すると、第2トルク制限部53は、補正トルクが最大許容トルクL2未満である場合、その補正トルクを指令トルクに設定し、補正トルクが最大許容トルクL2以上である場合、最大許容トルクL2を指令トルクに設定する。指令トルクは、トルク制限ブロック50の駆動制御部54で用いられ、駆動制御部54は、指令トルクを電動機20から出力させるべくインバータ22の動きを制御して電動機20を駆動するようになっている。
【0071】
このように構成されている制御装置30は、油圧ポンプ17の負荷が大きくなってエンジンEの回転数が低下し、低下した回転数を補うべくエンジンEの目標燃料噴射量が増加した際に電動機20を駆動してエンジンEをアシストするようになっている。その際に、要求されるアシストトルクが大きくなって電動機20の負荷が大きくなると、斜板17bの傾転角を小さくして油圧ポンプ17の出力トルクを低減させるようになっている。以下では、操作具111〜115の何れかが操作されて油圧ポンプ17の負荷が増大した際の油圧ポンプ駆動装置2の動きを説明する。
【0072】
操作具が操作されてコントロールバルブ18が作動すると、油圧ポンプ17は、アンロード状態からオンロード状態に切換わり、油圧ポンプ17に大きな負荷が作用する。油圧ポンプ17の負荷が大きくなるとエンジンEの実回転数が低下する。油圧ポンプ駆動装置2では、目標回転数決定部31にて予め目標回転数が決定されており、回転数差演算部32で実回転数と目標回転数との差が演算されている。実回転数が低下してエンジンEの実回転数と目標回転数とに差が生じると、この差に基づいて目標燃料噴射量演算部33が目標燃料噴射量を演算する。演算された目標燃料噴射量は、実回転数と共にアシストトルク演算ブロック40で用いられ、アシストトルク演算ブロック40は、目標燃料噴射量と実回転数とに基づいて目標アシストトルクを演算する。
【0073】
アシストトルク演算ブロック40での演算について簡単に説明すると、まず噴射量制限部42が目標燃料噴射量の増加率(又は増加量)を所定値未満に制限しながら実燃料噴射量を目標燃料噴射量まで時間に比例して段階的に増加させる。なお、増加率が所定値未満の場合は、目標燃料噴射量が制限されることはない。実トルク演算部43は、実燃料噴射量と実回転数とに基づいてエンジンEから出力される実トルクを演算する。他方、目標トルク演算部41は、目標燃料噴射量と実回転数とに基づいて目標トルクを演算する。次に、第1アシストトルク演算部44が目標トルク及び実トルクに基づいて、目標トルクから実トルクを差し引いた不足分のトルク、即ち第1アシストトルクを演算する。
【0074】
このように、油圧ポンプ駆動装置2では、実燃料噴射量の増加率(又は増加量)を制限して実燃料噴射量が急激に変化することを抑制することができる。これにより、エンジンEの燃焼状態が悪化することを抑制することができ、エンジンEのトルクが低下することを抑え、且つエンジンEの燃費を向上させることができる。アシストトルク演算ブロック40は、燃料噴射量を制限することによって不足するトルクである第1アシストトルクを予め演算している。この第1アシストトルクを電動機20から出力させることによって、実燃料噴射量を制限しても油圧ポンプ駆動装置2全体から出力されるトルクを目標トルクに近づけることができる。これにより、油圧ポンプ駆動装置2全体として出力されるトルクが低下することを抑えることができる。このように、油圧ポンプ駆動装置2では、出力トルクの変化量を事前に推定して電動機20にトルクを出力させて対処しており、回転数の偏差に応じてトルク調整する場合に比べてエンジンEの回転数が過度に低下することを抑制することができる。これにより、回転数が過度に低下することに伴うエンジンEの燃費の低下を抑えることができる。
【0075】
アシストトルク演算ブロック40は、第1アシストトルクを演算するのに並行してトルク変化推定部45にてトルク変化係数を演算する。トルク変化推定部45は、実回転数及び実燃料噴射量に基づいてトルク変化係数を算出し、更にトルク変化量を算出する。詳細に説明すると、時定数演算部71が時定数マップ71aを用いて実回転数から時定数を算出し、算出された時定数を用いて疑似微分演算部72が実燃料噴射量の微分値を演算する。次に、トルク変化係数演算部73が実燃料噴射量の微分値の絶対値を演算し、更にトルク変化係数演算部73がトルク変化係数マップ73aを用いて実燃料噴射量の微分値の絶対値からトルク変化係数を演算する。
【0076】
疑似微分演算部72は、演算の度に時定数を変更することによって、実トルクに対する単位回転数毎の出力トルクの変化率を演算し、この変化率と実トルクとに基づいて単位回転数毎の出力トルクの変化量を演算している。このように時間単位ではなく回転数単位で出力トルクの変化を演算するので、時間単位で演算する場合に比べてエンジンEの出力トルクの低下をより正確に推定することができる。これにより、燃焼悪化による出力トルクの低下により回転数が過度に低下することを防ぐことができ、それに伴うエンジンEの燃費の低下を抑えることができる。疑似微分演算部72は、時定数を実回転数に応じて変更するので、トルク低下係数を詳細に演算することができる。これによりトルク変化推定部45では、より正確なトルク変化係数及びトルク変化量を推定することができる。
【0077】
補正係数演算部75では、トルク変化係数演算部73でのトルク変化係数の演算に並行して補正係数を演算する。詳細に説明すると、補正係数演算部75は、演算された実回転数及び実燃料噴射量の各々に基づいて第1補正係数及び第2補正係数を夫々算出し、更に第1補正係数及び第2補正係数に基づいて補正係数を算出する。トルク変化率演算部74は、演算された補正係数及びトルク変化係数に基づいてトルク変化率を演算し、更にトルク変化量演算部76がトルク変化率及び実トルクに基づいてトルク変化量を演算する。このようにトルク変化推定部45は、トルク変化量を推定し、推定されたトルク変化量は、第2アシストトルク演算部46で用いられる。第2アシストトルク演算部46は、このトルク変化量によって第2アシストトルクを演算する。
【0078】
このようにアシストトルク演算ブロック40では、トルク変化推定部45によって実燃燃料噴射量の変化に起因するエンジンEの燃焼状態の悪化等による出力トルクの変化量を事前に推定し、推定された変化量に相当する第2アシストトルクを演算することができる。即ち、エンジンEの出力トルクに変化があった際にその変化分を電動機によってアシストさせることができる。これにより、油圧ポンプ17の負荷入れ時において、燃焼悪化によって出力トルクが低下して回転数が過度に低下することを防ぐことができ、回転数が過度に低下することに伴うエンジンEの燃費の低下を抑えることができる。
【0079】
第2アシストトルク演算部46は、実燃料噴射量の微分値がゼロ以上である場合、乗算係数として所定値(=1)を選択する。第2アシストトルク演算部46は、この乗算係数をトルク変化量に乗算して第2アシストトルクを演算する。目標アシストトルク演算部47は、演算された第1アシストトルク及び第2アシストトルクを加算して目標アシストトルクを算出する。算出される目標アシストトルクは、電動機20の出力トルク及び斜板17bの傾転角を決定するためにトルク制限ブロック50で用いられる。
【0080】
以下では、算出される目標トルクが
図5の目標アシストルクのグラフで示すように経時変化する場合について説明する。なお、
図5には、紙面の上から順に目標アシストトルク、不足トルク、低減トルク、過不足分、指令トルク、及びエンジンアシスト値の経時変化が示されている。
図5の横軸が時間であり、縦軸が各種値を示している。
【0081】
目標アシストトルクは、操作具111〜115の何れかが操作された時刻t1においてトルクT1(>L1)まで立ち上がり、その後時刻t2まで一定に維持され、時刻t2で操作されていた操作具111〜115が戻されてゼロになっている。トルク制限ブロック50では、まず第1トルク制限部51が目標アシストトルクを仮想許容値L1以下に制限した出力値を算出する。不足トルク演算部52は、目標アシストトルクから出力値を減算して不足トルクを演算する(
図5の不足トルクのグラフの時刻t1〜t2参照)。傾転角制御ブロック60の低減動力演算部61は、不足トルク演算部52で演算される不足トルクと実回転数に基づいて低減動力を演算し、次に低減流量演算部62がこの低減動力と油圧ポンプ17の吐出圧とに基づいて低減流量を演算する。それと共に、設定流量演算部63は、規定流量を算出し、算出された規定流量を実回転数で補正することによって要求流量を演算する。実流量演算部64は、演算された要求流量から低減流量を減算することによって実吐出流量を演算する。更に傾転角演算部65は、油圧ポンプ17の吐出流量と傾転角と回転数との関係から、演算された実吐出流量と実回転数とに基づいて傾転角指令値を演算し、この傾転角指令値に基づいて傾転角制御部66が傾転信号(電流)を決定する。傾転角制御部66は、決定した傾転信号を傾転角調整装置19の傾転角調整バルブ19aに出力し、油圧ポンプ17の斜板17bの傾転角を傾転角指令値になるようにサーボ機構19bの動きを制御する。これにより、斜板17bの傾転角が傾転角指令値へと傾けられ、油圧ポンプ17の出力トルクが低減される。
【0082】
また、油圧駆動システム1では、傾転角制御ブロック60による傾転角制御に並行して、傾転角制御の応答遅れによって生じる低減トルクの過不足分をトルク補正ブロック80で演算する。詳細に説明すると。トルク補正ブロック80の低減トルク推定部81が、不足トルク演算部52で演算された不足トルクと伝達関数とを用いて低減トルクを演算する(
図5の低減トルクのグラフ参照)。なお、
図5の低減トルクのグラフに示すように、油圧ポンプ17の低減トルクは、傾転角制御の開始(時刻t1)と共に徐々に増加し、所定時間経過後に不足トルクまで達成する。操作具111〜115が中立位置に戻される(時刻t2)と傾転角を要求流量に応じた傾転角指令値に戻すべく、ゆっくりと減少するようになっている。このように低減トルクは、傾転信号に対して遅れて応答する。低減トルクが推定されると、過不足分演算部82は、不足トルクから低減トルクを減算することによって低減トルクの過不足分を演算する(
図5のトルク低減過不足のグラフ参照)。
図5のトルク低減過不足のグラフに示されているように、操作具111〜115が操作された直後が最も不足分が大きく時間が経つにつれて不足分が減少し、やがてゼロになる。その後、操作具111〜115が中立位置に戻されると逆にトルク低減が過大となる。なお、過大となったトルク低減も時間が経つにつれて減少し、やがてゼロになる。
【0083】
トルク補正部83は、このように変化する低減トルクの過不足分を補うべく、第1トルク制限部51の出力値に低減トルクの過不足分を加算して補正トルクを演算する。第2トルク制限部53は、補正トルクが電動機20の最大許容トルクL2以下に制限するように指令トルクを設定する(
図5の指令トルクのグラフ参照)。駆動制御部54が設定された指令トルクが電動機20から出力されるようにインバータ22の動きを制御する。
【0084】
このように油圧駆動システム1では、傾転角を制御し且つ電動機20を駆動することで、目標アシストトルクを電動機20によるアシストトルクと油圧ポンプ17の低減トルクとによって賄うことができる。即ち、電動機20から補正トルクを出力させ、且つ油圧ポンプ17の出力トルクから低減トルクを低減させることで、エンジンEに対して目標アシストトルク分のトルクをアシストすることができる。従って、補正トルクと低減トルク(減少分であって正の値)とを加算したエンジンアシスト値は、
図5のエンジンアシスト値のグラフに示すように目標アシストトルクと略一致する(
図5の総トルクのグラフ参照)。
【0085】
このように、油圧駆動システム1では、目標アシストトルクが仮想許容値L1以上になると斜板17bの傾転角を調整して油圧ポンプ17の出力トルクを低減している。それ故、実際にエンジンEの回転数が急激に落ち込む前に目標アシストトルクの上昇に伴って油圧ポンプ17の出力トルクを低減させることができるので、回転数が低下すると共に傾転角制御を行うことができる。それ故、回転数差に基づいて油圧ポンプ17の出力トルクを低減させる従来の技術に比べて回転数の落ち込みを抑制することができる。このように、油圧駆動システム1は、エンジンEの回転数が過度に低下しないように油圧ポンプ17の出力トルクを低減させることができる。これにより、油圧ポンプ17に大きな負荷がかかってもエンジンEの回転数を目標回転数付近に維持することができる。それ故、エンジンEを良好な運転領域で運転することができ、エンジンEの燃費悪化を防ぐことができる。
【0086】
また、油圧駆動システム1では、傾転角制御による応答遅れによる低減トルクの過不足分を電動機20の出力トルクの増減によって補うことができる。これにより、応答遅れに伴ってアシストトルクが不足することを抑制することができ、エンジンEの回転数が低下することを抑制することができる。
【0087】
次に、油圧ポンプ17の負荷が増大した際に演算される目標アシストトルクが最大許容トルクL2以上となった場合について、
図6を参照しながら説明する。
図6には、
図5と同様に、紙面の上から順に目標アシストトルク、不足トルク、低減トルク、過不足分、指令トルク、及びシステムトルクの経時変化が示されている。
図5の横軸が時間であり、縦軸が各種値を示している。
【0088】
アシストトルク演算ブロック40で目標アシストトルクは、
図6の目標アシストトルクのグラフに示すように操作具111〜115の何れかが操作された時刻t3においてトルクT2(>L2)まで立ち上がり、その後時刻t4まで一定に維持され、時刻t4で操作されていた操作具111〜115が戻されてゼロになっている。トルク制限ブロック50では、目標アシストトルクが仮想許容値L1以下であった場合と同様に、まず第1トルク制限部51が目標アシストトルクを仮想許容値L1以下に制限した出力値を算出し、不足トルク演算部52で不足トルクを演算する。傾転角制御ブロック60は、演算された不足トルクに基づいて傾転角指令値を演算する。更に、傾転角制御ブロック60は、傾転角指令値に基づいて傾転角調整バルブ19aに傾転信号を出力し、斜板17bの傾転角が傾転角指令値になるように傾転角調整装置19を作動させる。
【0089】
他方、トルク補正ブロック80では、不足トルク演算部52で演算された不足トルクに基づいて低減トルク推定部81が低減トルクを推定し(
図6の低減トルクのグラフ参照)、更に推定された低減トルクに基づいて過不足分演算部82が低減トルクの過不足分を演算する(
図6の低減トルク過不足分のグラフ参照)。トルク補正部83は、演算された過不足分に基づいて出力値を補正することによって補正トルクを演算する。目標アシストトルクが最大許容トルクL2以上であり、且つ傾転角制御に応答遅れがあるので、傾転角制御開始直後において演算される補正トルクが最大許容トルクL2以上になる。そのため、第2トルク制限部53は、補正トルクを最大許容トルクL2以下に制限するように指令トルクを設定する(
図6の指令トルクのグラフ参照)。駆動制御部54が設定された指令トルクが電動機20から出力されるようにインバータ22の動きを制御する。
【0090】
目標アシストトルクが最大許容トルクL2を超える場合、傾転制御開始直後、目標アシストトルクにおいて最大許容トルクL2を超えている分だけ電動機20の出力トルクがカットされる。それ故、油圧駆動システム1の総トルクが、傾転制御開始直後において目標アシストトルクから若干小さくなるが、目標アシストトルクと略一致させることができる(
図6の総トルクのグラフ参照)。
【0091】
[その他の実施形態]
本実施形態の油圧駆動システム1では、第1トルク制限部51の仮想制限値L1が一定であるが、仮想制限値L1が可変値であってもよい。例えば、制御装置30が、バッテリセンサ26からの信号に応じてバッテリ25の状態を検出し、バッテリ25の状態に応じて仮想制限値L1を変えるようにしてもよい。具体的には、バッテリ25の充電量の減少又はバッテリ25の温度の低下に伴って仮想制限値L1を低くすることが考えられる。このように仮想制限値L1を可変値とすることで、電動機20から指令トルクが出力できないような事態を抑制することができる。なお、本実施形態では、バッテリ25の状態値を検出しているが、インバータ22の状態値を検出してもよい。
【0092】
本実施形態の油圧駆動システム1では、アシストトルク演算ブロック40で実燃料噴射量及びトルク変化量を演算して目標アシストトルクを演算しているが、必ずしもこのような演算方法で目標アシストトルクを演算する必要はない。例えば、第1アシストトルクを目標アシストトルクとしてもよく、また第2アシストトルクを目標アシストトルクとしてもよい。
【0093】
また、油圧駆動システム1が実装される建設機械は、油圧ショベルに限定されず、クレーンやドーザ等の他の建設機械であってもよく、油圧アクチュエータを備えている建設機械であればよい。また、油圧駆動システム1では、液圧ポンプの例として油圧ポンプを挙げたが、液圧ポンプは、油圧ポンプに限定されず水等の液体を吐出するポンプであればよい。