(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
本実施の形態は、被検者からの細胞の採取の適否を判定すると共に、細胞の癌化に関する情報を取得する癌化情報提供装置(細胞分析装置)に本発明を適用したものである。以下、本実施の形態に係る癌化情報提供装置1について、図面を参照して説明する。
【0033】
癌化情報提供装置1は、患者等の被検者から採取した細胞を含む測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる測定試料にレーザ光を照射する。そして、測定試料からの光(前方散乱光、側方散乱光、側方蛍光)を検出してその光信号を分析することにより、細胞に癌化またはその過程にある細胞(以下、これらをまとめて「癌化細胞」ともいう)が含まれているか否かを判定する。具体的には、患者から採取した子宮頸部の上皮細胞を用いて子宮頸癌をスクリーニングする場合に、癌化情報提供装置1が用いられる。
【0034】
図1に示すように、癌化情報提供装置1は、患者から採取した細胞を含む測定試料の測定を行なう測定装置2と、この測定装置2に接続され、測定結果の分析および表示(出力)等を行なうデータ処理装置3とを備えている。測定装置2の前面には、メタノールを主成分とする保存液と患者から採取した生体試料との混合液(試料)を収容する試料容器4(
図2参照)を複数セットするための検体セット部2aが設置されている。データ処理装置3は、入力部31と表示部32とを備えている。
【0035】
図2に示すように、検体セット部2aは、試料容器4が複数セットされたラック4aを、検体ピペット部11による試料の吸引位置まで順次搬送する。検体ピペット部11は、試料容器4内の試料を、第1分散部12の試料収容部12aに移送する。検体ピペット部11はまた、試料収容部12a内の試料を、副検出部13の試料取込部13aと、弁別・置換部14とに移送する。検体ピペット部11はまた、弁別・置換部14において濃縮された濃縮液を、試料受渡部11bに位置付けられた測定試料容器5に供給する。
【0036】
第1分散部12は、試料収容部12aに供給された試料に含まれる凝集細胞を分散させるための第1分散処理を実行する。具体的には、第1分散処理は、凝集細胞に機械的にせん断力を付与して分散するせん断力付与処理である。副検出部13は、主検出部22による本測定の前に試料の濃度測定を行なう。副検出部13は、後述する主検出部22とほぼ同じ構成のフローサイトメータ40(
図3(a)参照)を採用している。
【0037】
弁別・置換部14は、第1分散部12による第1分散処理後の試料を受け入れ、試料に含まれるメタノールを主成分とする保存液を、希釈液に置換する。弁別・置換部14はまた、試料に含まれる測定対象細胞(子宮頸部の上皮細胞、腺細胞)と、それ以外の細胞(赤血球、白血球、細菌など)および夾雑物とを弁別する。弁別・置換部14はまた、主検出部22による測定に必要な細胞測定数を得るために、試料に含有される測定対象細胞の濃縮を行う。弁別・置換部14は、処理の効率化のために2つ設けられている。
【0038】
容器移送部15は、反応部18にセットされた測定試料容器5を、はさみ状の把持部15aにより把持して、所定の円周状軌跡に沿って、試料受渡部11bと、第2分散部16と、液体除去部17と、反応部18とに移送する。第2分散部16は、第1分散部12による第1分散処理が実行された試料に対して、第1分散処理とは異なる第2分散処理を実行する。具体的には、第2分散部16は、第1分散部12による第1分散処理が実行され、弁別・置換部14において濃縮された(測定対象細胞の濃度が高められた)試料に超音波振動を付与するように構成されている。第2分散部16により、第1分散処理の後に残存する凝集細胞が単一細胞に分散される。
【0039】
液体除去部17は、測定試料容器5の外表面に空気流を供給することにより、第2分散処理において測定試料容器5の外表面に付着した液分を除去(水切り)する。反応部18は、回転可能に構成された円形の回転テーブル18aを備えており、回転テーブル18aの外周縁部には、測定試料容器5をセット可能な複数の保持部18bが設けられている。反応部18は、容器移送部15により保持部18bにセットされた測定試料容器5を所定温度(約37℃)に加温して、測定試料容器5内の試料と、第1試薬添加部19および第2試薬添加部20により添加される試薬との反応を促進させる。
【0040】
第1試薬添加部19と第2試薬添加部20とは、それぞれ、回転テーブル18aにより位置P1、P2に測定試料容器5が搬送されたときに、測定試料容器5内に供給部19a、20aから所定量の試薬を添加する。第1試薬添加部19により添加される試薬は、細胞にRNA除去処理を行うためのRNaseである。第2試薬添加部20により添加される試薬は、細胞にDNA染色処理を行うための染色液である。RNA除去処理により、細胞中のRNAが分解され、細胞核のDNAのみを測定することが可能となる。DNA染色処理は、色素を含む蛍光染色液であるヨウ化プロピジウム(PI)により行われる。DNA染色処理により、細胞内の核に選択的に染色が施される。これにより、核からの蛍光が検出可能となる。
【0041】
試料吸引部21は、回転テーブル18aにより位置P3に測定試料容器5が搬送されたときに、測定試料容器5内の試料(測定試料)をピペット21aにより吸引する。試料吸引部21はまた、図示しない流路を介して、主検出部22のフローセル43(
図3(a)参照)に接続されており、吸引した測定試料を主検出部22のフローセル43に供給する。主検出部22は、測定試料からの光(前方散乱光、側方散乱光、側方蛍光)を検出するためのフローサイトメータ40を備えており、各光に基づく信号を後段の回路に出力する。フローサイトメータ40については、追って、
図3(a)、(b)を参照して説明する。
【0042】
容器洗浄部23は、試料吸引部21により測定試料が主検出部22に供給された後の測定試料容器5内に洗浄液を吐出することにより、測定試料容器5の内部を洗浄する。これにより、その後の測定処理において同じ測定試料容器5を用いた場合に、他の試料とのコンタミネーションを抑制できる。
【0043】
図3(a)は、主検出部22のフローサイトメータ40の構成を示す図である。半導体レーザ光源41から出射されたレーザ光は、複数のレンズを含むレンズ系42によりフローセル43を流れる測定試料に集光される。フローセル43には、上述したように、試料吸引部21により吸引された試料が供給される。なお、レンズ系42は、
図3(b)に示すように、半導体レーザ光源41側から順に配置される、コリメータレンズ42aと、平凸シリンダレンズ42bおよび両凹シリンダレンズ42cを含むシリンダレンズ系と、コンデンサレンズ42dおよびコンデンサレンズ42eを含むコンデンサレンズ系とから構成されている。
【0044】
集光レンズ44は、測定試料中の細胞の前方散乱光を、フォトダイオード45からなる散乱光検出器に集光する。側方光用の集光レンズ46は、測定対象細胞およびこの細胞中の核の側方散乱光と側方蛍光とを集光し、ダイクロイックミラー47へと導く。ダイクロイックミラー47は、側方散乱光をフォトマルチプライヤ(光電子増倍管)48へ反射させるとともに、側方蛍光をフォトマルチプライヤ(光電子増倍管)49の方へ透過させる。このようにして、側方散乱光はフォトマルチプライヤ48に集光され、側方蛍光はフォトマルチプライヤ49に集光される。これらの光は、測定試料中の細胞および核の特徴を反映したものとなっている。
【0045】
フォトダイオード45とフォトマルチプライヤ48、49とは、受光した光を電気信号に変換して、それぞれ、前方散乱光信号(FSC)と、側方散乱光信号(SSC)と、側方蛍光信号(SFL)とを出力する。これらの出力信号は図示しないプリアンプにより増幅され、測定装置2の信号処理部24(
図4参照)に出力される。
【0046】
図4に示すように、測定装置2は、
図2に示した主検出部22と、副検出部13と、上述したように試料に対する成分調製を自動的に行なうための各部を含む調製デバイス部29と、を備えている。測定装置2はまた、信号処理部24と、測定制御部25と、I/Oインターフェース26と、信号処理部27と、調製制御部28と、を備えている。
【0047】
主検出部22は、
図3(a)に示したフローサイトメータ40を備えており、測定試料から、前方散乱光信号(FSC)と、側方散乱光信号(SSC)と、側方蛍光信号(SFL)とを出力する。信号処理部24は、主検出部22からの出力信号に対して必要な信号処理を行う信号処理回路からなり、主検出部22から出力された各信号FSC、SSC、SFLを処理し、測定制御部25に出力する。
【0048】
測定制御部25は、マイクロプロセッサ251と記憶部252とを含んでいる。マイクロプロセッサ251は、I/Oインターフェース26を介して、データ処理装置3と、調製制御部28のマイクロプロセッサ281とに接続されている。これにより、マイクロプロセッサ251は、データ処理装置3と、調製制御部28のマイクロプロセッサ281との間で各種データを送受信することが可能となる。記憶部252は、主検出部22などの制御プログラムおよびデータを格納するROM、ならびに、RAMなどからなる。
【0049】
測定装置2の信号処理部24で処理された各信号FSC、SSC、SFLは、マイクロプロセッサ251によって、I/Oインターフェース26からデータ処理装置3に送信される。
【0050】
副検出部13は、主検出部22とほぼ同じ構成のフローサイトメータ40を採用しているので、構成については説明を省略する。副検出部13は、主検出部22による本測定の前に試料の濃度測定を行なう。本実施の形態では、副検出部13は、前方散乱光信号(FSC)を取得するよう構成されており、前方散乱光信号に基づいて表層細胞および中層細胞に該当する大きさの細胞の数を計数するための信号を出力する。信号処理部27は、副検出部13からの出力信号に対して必要な信号処理を行う信号処理回路からなり、副検出部13から出力された前方散乱信号FSCを処理し、調製制御部28に出力する。
【0051】
調製制御部28は、マイクロプロセッサ281と、記憶部282と、センサドライバ283と、駆動部ドライバ284とを含む。マイクロプロセッサ281は、I/Oインターフェース26を介して測定制御部25のマイクロプロセッサ251に接続されている。これにより、マイクロプロセッサ281は、測定制御部25のマイクロプロセッサ251との間で各種データを送受信することが可能となる。
【0052】
記憶部282は、副検出部13および調製デバイス部29などを制御するための制御プログラムなどを格納するROM、ならびに、RAMなどからなる。調製デバイス部29は、
図2に示した検体セット部2aと、検体ピペット部11と、第1分散部12と、弁別・置換部14と、容器移送部15と、第2分散部16と、液体除去部17と、反応部18と、第1試薬添加部19と、第2試薬添加部20と、試料吸引部21と、容器洗浄部23とを含む。
【0053】
マイクロプロセッサ281は、センサドライバ283または駆動部ドライバ284を介して、調製デバイス部29の各部のセンサ類および駆動モータと接続されている。これにより、マイクロプロセッサ281は、センサからの検知信号に基づいて制御プログラムを実行し、駆動モータの動作を制御することが可能となる。
【0054】
図5に示すように、データ処理装置3は、パーソナルコンピュータからなり、本体30と、入力部31と、表示部32とから構成されている。本体30は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、ハードディスク304と、読出装置305と、入出力インターフェース306と、画像出力インターフェース307と、通信インターフェース308とを含む。
【0055】
CPU301は、ROM302に記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM303にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM303は、ROM302およびハードディスク304に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM303は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU301の作業領域としても利用される。CPU301は、測定装置2から受信した各信号FSC、SSC、SFLに基づいて、前方散乱光信号波形の幅、側方蛍光信号波形の幅、側方蛍光信号波形の面積等の特徴パラメータを取得し、これらの特徴パラメータに基づいて分析を行う。
【0056】
ハードディスク304には、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムなど、CPU301に実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。具体的に、ハードディスク304には、測定装置2から送信された測定結果を分析して、生成した分析結果に基づいて表示部32に表示を行うプログラム等がインストールされている。
【0057】
読出装置305は、CDドライブまたはDVDドライブ等によって構成されており、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムおよびデータを読み出すことができる。入出力インターフェース306には、キーボード等からなる入力部31が接続されており、入力部31を介してデータ処理装置3に指示およびデータが入力される。画像出力インターフェース307には、ディスプレイ等で構成された表示部32が接続されており、画像データに応じた映像信号を表示部32に出力する。表示部32は、入力された映像信号をもとに画像を表示する。通信インターフェース308により、測定装置2に対するデータの送受信が可能となる。
【0058】
図6は、測定装置2の主検出部22と信号処理部24における動作を示すフローチャートである。動作制御は、測定制御部25のマイクロプロセッサ251により実行される。測定装置2の副検出部13と、信号処理部27と、調製デバイス部29の動作制御は、調製制御部28のマイクロプロセッサ281により実行される。データ処理装置3の制御は、CPU301により実行される。
【0059】
癌化情報提供装置1による分析に際して、生体試料と、メタノールを主成分とする保存液とが収容された試料容器4が操作者により検体セット部2a(
図2参照)にセットされ、癌化情報提供装置1による測定が開始される。測定が開始されると、検体セット部2aにセットされた試料容器4内の試料が、検体ピペット部11によって吸引され、試料収容部12a内に供給される。そして、第1分散部12により試料中の凝集細胞の分散処理(第1分散処理)が行なわれる(S11)。
【0060】
第1分散処理が終了すると、検体ピペット部11により、分散済みの試料が副検出部13の試料取込部13aに供給され、副検出部13のフローセルに分散済みの試料が所定量だけ流される。副検出部13では、フローサイトメトリー法によって、試料に含まれる、上皮組織において基底細胞よりも表層側に存在する正常細胞の数の検出(プレ測定)が行なわれる(S12)。本実施の形態では、上記した正常細胞の数として、表層細胞および中層細胞の数が検出される。プレ測定により得られた表層細胞および中層細胞の細胞数と、副検出部13に供給された試料の体積とから、この試料の濃度が算出される。
【0061】
続いて、算出された濃度に基づいて、マイクロプロセッサ281により、本測定に用いる測定試料を調製するための試料の吸引量が決定される(S13)。すなわち、プレ測定に用いた試料の濃度(単位体積あたりの細胞の数)と、本番の測定である本測定における癌細胞検出のために必要な表層細胞および中層細胞の細胞数とに基づき、この表層細胞および中層細胞の細胞数が確保される程度に、本測定を行なうために必要な試料の液量が演算される。本実施の形態では、主検出部22のフローセル43に供給する表層細胞および中層細胞の数が2万個程度であることが想定されている。この場合、弁別・置換部14に供給する試料に10万個程度の表層細胞および中層細胞が含まれる必要がある。このため、約10万個の表層細胞および中層細胞が弁別・置換部14に供給されるよう、S13における試料の液量が演算される。
【0062】
プレ測定で得られる表層細胞および中層細胞の細胞数には、上皮細胞の単一細胞と凝集細胞とが混在しており、さらに、上皮細胞以外に白血球等も含まれる。すなわち、上記のように10万個の表層細胞および中層細胞が弁別・置換部14に供給される場合でも、実際には主検出部22のフローセル43に供給される細胞は、目標個数である2万個から前後する。しかしながら、プレ測定で得られる細胞数に基づけば、本測定で必要となる細胞数をある程度一定に保つことが可能となる。
【0063】
次に、第1分散部12の試料収容部12aから、演算された液量だけ第1分散処理後の試料が吸引され、吸引された試料が弁別・置換部14に供給される。そして、弁別・置換部14において弁別・置換処理が実行される(S14)。次に、弁別・置換部14から検体ピペット部11によって吸引された試料が、試料受渡部11bに位置付けられた測定試料容器5に供給され、この測定試料容器5が容器移送部15により第2分散部16に移送される。そして、第2分散部16において試料中の凝集細胞の分散処理(第2分散処理)が行われる(S15)。
【0064】
次に、第2分散処理後の試料を含む測定試料容器5に、第1試薬添加部19により試薬(RNase)が添加され、この測定試料容器5が反応部18により加温されて、測定試料容器5内の測定対象細胞のRNA除去処理が行われる(S16)。次に、RNA除去処理後の試料を含む測定試料容器5に、第2試薬添加部20により試薬(染色液)が添加され、この測定試料容器5が反応部18により加温されて、測定試料容器5内の測定対象細胞のDNA染色処理が行われる(S17)。本実施の形態では、プレ測定により、本測定で必要となる有意細胞数がある程度一定に保たれているため、細胞を染色する際の染色の程度は、測定ごとにばらつきにくくなっている。
【0065】
次に、DNA染色処理済みの測定試料が、試料吸引部21により吸引される。吸引された測定試料は、主検出部22のフローセル43(
図3(a)参照)に送られ、測定試料中の細胞に対する本測定が行われる(S18)。本測定後、個々の粒子から得られた測定データが、測定装置2の測定制御部25からデータ処理装置3に送信される(S19)。具体的には、測定試料中の各細胞について得られた前方散乱光信号(FSC)と、側方散乱光信号(SSC)と、側方蛍光信号(SFL)とが、データ処理装置3に送信される。データ処理装置3のCPU301は、測定装置2から測定データを受信したか否かを常時判定している。CPU301は、測定装置2から測定データを受信すると、受信した測定データに基づいて分析処理を行う(S20)。S20の分析処理の詳細については、追って
図9を参照して説明する。
【0066】
次に、本実施の形態における癌化情報の取得手順について説明する。
【0067】
図7(a)は、本測定(
図6のS18)において得られる前方散乱光信号(FSC)と側方蛍光信号(SFL)を説明する図である。
図7(a)には、細胞核を含む細胞の模式図と、当該細胞から得られる前方散乱光信号の波形および側方蛍光信号の波形とが示されている。縦軸は光の強度を表している。前方散乱光信号波形の幅は、細胞の幅を示す数値(細胞の大きさC)を表しており、側方蛍光信号波形の幅は、細胞核の幅を示す数値(細胞核の大きさN)を表している。斜線で示すように、側方蛍光信号波形と所定のベースラインとにより決められる領域の面積は、細胞のDNA量を表している。
【0068】
図7(b)は、子宮頸部の上皮組織の拡大断面を模式的に示す図である。
図7(b)に示すように、子宮頸部においては、基底膜側から順に、基底細胞により形成される層(基底層)と、傍基底細胞により形成される層(傍基底層)と、中層細胞により形成される層(中層)と、表層細胞により形成される層(表層)とが形成されている。基底膜付近の基底細胞が傍基底細胞、傍基底細胞が中層細胞、中層細胞が表層細胞へと分化する。
【0069】
これら上皮細胞のうち癌化に関連する細胞は、子宮頸部の上皮細胞では基底細胞である。癌にいたる過程において、基底細胞は異形成を獲得し異型細胞となる。異型細胞は増殖能を獲得し、基底層側から表層側を占めるようになる。このため、癌にいたる初期段階においては、子宮頸部の上皮細胞では、基底層と、傍基底層と、中層とに存在する細胞に、癌化細胞が多く存在する。逆に、癌にいたる初期段階においては、子宮頸部の上皮細胞の表層側に存在する細胞には、癌化細胞が極めて少ない。
【0070】
上皮細胞では、表層側の層から基底膜側の層に向かうにしたがい、細胞核の大きさに比べて、細胞の大きさは順次小さくなることが分かっている。したがって、細胞の大きさ(C)に対する細胞核の大きさ(N)の比率(以下、「N/C比」という)も、表層側の層から基底膜側の層に向かうにしたがい順次大きくなる。このため、N/C比と細胞の大きさCは、たとえば
図7(c)に示すような関係となる。よって、N/C比の大きい細胞を抽出することにより、傍基底細胞と基底細胞とを抽出することができる。
【0071】
被検者から採取可能な子宮頸部の上皮細胞は、傍基底細胞、中層細胞、および、表層細胞であり、前癌病変は、上述したように基底細胞側に早期に現れる。このため、被検者から上皮細胞を採取する際に、傍基底細胞が適切に採取されていれば、後述する癌化の判定において、癌にいたる初期段階の前癌病変を適正に検出することができる。本実施の形態では、癌化の判定の前に、傍基底細胞が適切に採取されたか否か(傍基底細胞の採取の適否)が、N/C比を用いて判定される。
【0072】
図8(a)は、細胞周期におけるDNA量と細胞数との関係を示す図である。
図8(a)に示すように、細胞は、一定のサイクル(細胞周期)にしたがって、DNA複製、染色体の分配、核分裂、細胞質分裂などの事象を経て、2つの細胞となって出発点に戻る。細胞周期は、その段階に応じて、G1期(S期に入るための準備と点検の時期)と、S期(DNA合成期)と、G2期(M期に入るための準備と点検の時期)と、M期(分裂期)の4期に分けることができ、この4期に細胞の増殖が休止しているG0期(休止期)を加えると、細胞は、5期のうちいずれかのステージにある。
【0073】
細胞周期にしたがって細胞が増殖する際、細胞内の核の染色体も増加するため、細胞のDNA量を測定することで、当該細胞が細胞周期のどの状態にあるのかを推定することができる。正常な細胞の場合、
図8(b)に示すように、G0/G1期におけるDNA量は一定の値(2C)であり、続くS期においてはDNA量が徐々に増加し、その後G2期に入ると一定の値(4C)となり、この値はM期においても維持される。ここで、Cとは、半数体あたりのゲノムDNA含量のことを表す。すなわち、2Cは半数体あたりのゲノムDNA含量の2倍のDNA量、4Cは半数体あたりのゲノムDNA含量の4倍のDNA量を表す。細胞周期のG0期またはG1期の正常細胞のDNA量は2Cとなる。そして、正常な細胞について、DNA量のヒストグラムを作成すると、
図8(a)に示すようなヒストグラムとなる。最も高いピークを有する山はDNA量が最も少ないG0/G1期にある細胞に対応し、次に高いピークを有する山はDNA量が最も多いG2/M期にある細胞に対応し、それらの間はS期にある細胞に対応している。
【0074】
正常な細胞の場合、S期とG2/M期の状態にある細胞の数は、G0/G1期にある細胞の数に比べて極めて少ない。しかし、癌化細胞の場合、S期とG2/M期の状態にある細胞の数は、正常な細胞に比べて多くなる。また、癌化細胞の場合、細胞の染色体の数も多くなるため、DNA量も多くなる。
【0075】
そこで、本実施の形態では、癌化の判定において、N/C比とDNA量とに着目した判定方法が用いられる。
【0076】
具体的には、N/C比の大きい細胞(以下、「解析対象細胞」という)を抽出することにより、癌化が進み易いとされる傍基底細胞を抽出する。続いて、このように抽出された細胞群のうち、DNA量が多い細胞(第1細胞)とDNA量が少ない細胞(第2細胞)とを抽出する。第1細胞は癌化細胞である可能性が高い細胞であり、第2細胞は癌化細胞である可能性が低い細胞である。一般に、組織の癌化が進むと、第1細胞が増加し、第2細胞の数が減少する。このため、第2細胞の数に対する第1細胞の数の比率(以下、「癌化比率」という)は、組織が正常である場合と癌化した場合とで大きく異なる。したがって、癌化比率が所定の閾値以上であるか否かを判定することにより、癌化の判定を行うことができる。
【0077】
ここで、被検者から細胞を採取する際に、採取者の熟練度の違いや被検者の被採取部の状況の違い等によって、測定試料中に含まれる解析対象細胞の比率にバラつきが生じることがある。すなわち、共に同じ病態の被検者であっても、一方の被検者の場合はN/C比の大きい細胞が多く、他方の被検者の場合はN/C比の大きい細胞が少ないということが起こり得る。このため、N/C比の大きい細胞(解析対象細胞)について、第2細胞の数に対する第1細胞の数の比率(癌化比率)を所定の閾値を用いて一律に判断することは好ましくない場合がある。
【0078】
そこで、本実施の形態では、測定試料中に含まれる解析対象細胞の比率に応じて、癌化比率を評価するための閾値を適宜設定する。これにより、測定試料中に含まれる解析対象細胞の比率にバラつきが生じても、評価に用いる閾値が適宜設定されるため、癌化比率を適切に評価することができる。以下、このような閾値の設定と癌化の判定を含む処理について説明する。
【0079】
図9は、データ処理装置3における分析処理を示すフローチャートである。
【0080】
データ処理装置3のCPU301は、測定装置2から測定データを受信すると、受信した測定データに基づいて、粒子群を白血球と上皮細胞とに分離する(S101)。具体的には、
図10(a)に示すように、測定データに含まれる各粒子が、細胞の大きさN(前方散乱光信号の幅)とDNA量(側方蛍光信号の面積)を2軸とするスキャッタグラム上にプロットされる。続いて、このスキャッタグラムにおいて領域A1が設定される。領域A1は、上皮細胞に対応する領域であり、領域A1以外の領域は、白血球に対応する領域である。そして、領域A1に含まれる上皮細胞が抽出される。
【0081】
なお、ここでは、説明の便宜上、スキャッタグラム上に粒子がプロットされ、スキャッタグラムに設定された領域A1に含まれる粒子が抽出されている。しかしながら、スキャッタグラムと領域A1は、必ずしも図形やグラフとして作成される必要はなく、領域A1に含まれる粒子の抽出は、信号の強度が特定の数値範囲に属する粒子のみをフィルタリングによって抽出するデータ処理によって行われるようにしても良い。同様に、後述するスキャッタグラム(
図10(b)と領域A2、第1ヒストグラムと領域A3、A4、および、第2ヒストグラムと領域A5、A6も、必ずしも図形やグラフとして作成される必要はなく、領域A2〜A6に含まれる粒子数の計数や抽出は、データ処理によって行われるようにしても良い。
【0082】
次に、CPU301は、S101で抽出した上皮細胞を、単一上皮細胞と凝集上皮細胞とに分離する(S102)。具体的には、
図10(b)に示すように、S101で抽出した上皮細胞が、「側方蛍光信号の差分総和/側方蛍光信号のピーク値」と「前方散乱光信号の差分総和/前方散乱光信号のピーク値」を2軸とするするスキャッタグラム上にプロットされる。続いて、このスキャッタグラムにおいて領域A2が設定される。領域A2は、単一上皮細胞に対応する領域である。そして、領域A2に含まれる単一上皮細胞が抽出される。なお、この凝集上皮細胞の除去は、後述する細胞採取の適否判定(S106、S107)および癌化の判定(S116)の精度の低下を抑制するために行われる。
【0083】
次に、CPU301は、S102で抽出した単一上皮細胞について、
図11(a)、(b)に示すように、N/C比に応じた細胞数を示す第1ヒストグラムを作成する(S103)。なお、
図11(a)は、健常な61歳の被検者から採取された検体(ID=1)に基づいて作成された第1ヒストグラムである。
図11(b)は、健常な53歳の被検者から採取された検体(ID=2)に基づいて作成された第1ヒストグラムである。このように、同じ病態の被検者であっても、N/C比の大きい細胞は、
図11(a)の場合は多く、
図11(b)の場合は少ないことが分かる。
【0084】
CPU301は、第1ヒストグラムにおいて、V11≦N/C比≦V12である領域A3と、N/C比<V11である領域A4とを設定し(S104)、領域A3に含まれる細胞数N1と、領域A4に含まれる細胞数N2とを取得する(S105)。
【0085】
ここで、領域A3、A4の境界を示すV11は、中層細胞と傍基底細胞とを分ける閾値であり、感度および特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、V11は、0.2〜0.4の範囲で設定される。領域A3の右端を示すV12は、傍基底細胞と基底細胞および不明な細胞とを分ける閾値であり、感度および特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、V12は、0.6〜1の範囲で設定される。なお、本実施の形態では、領域A4の左端は、左方向に全ての細胞を含むように設定される。
【0086】
次に、CPU301は、S105で取得した細胞数N1、N2に基づいて、細胞採取の適否判定(S106、S107)を行う。
【0087】
S106では、細胞数N1が閾値s1よりも小さいか否かが判定される。ここで、閾値s1は、傍基底細胞の採取の適否を判定するための閾値であり、感度および特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、閾値s1は、50以上1000以下の範囲で設定される。
【0088】
細胞数N1が十分でない場合、傍基底細胞の採取が不適切であった可能性がある。したがって、細胞数N1が閾値s1未満である場合(S106:YES)、CPU301は、傍基底細胞の採取が不適切であった旨を示すダイアログボックスD1(
図12(a)参照)を、表示部32に表示する(S108)。この場合、CPU301は、後段の癌化の判定(S116)と、癌化情報の出力と(S117、S118)を行わずに、処理を終了させる。
【0089】
他方、細胞数N1が閾値s1以上である場合(S106:NO)、さらにS107の判定が行われる。S107では、細胞数N2に対する細胞数N1の比率(N1/N2)が閾値s2よりも小さく、且つ、単一上皮細胞数の一部(N1+N2)が閾値s3よりも小さいかが判定される。ここで、閾値s2は、傍基底細胞の数が傍基底細胞よりも表層側の細胞と比較して多いか否かを判定するための閾値であり、感度および特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、閾値s2は、0.1以上0.4以下の範囲で設定される。また、閾値s3は、単一上皮細胞の絶対数が十分であるかを判定するための閾値であり、感度および特異度の観点から適宜設定される。
【0090】
細胞数N2に対する細胞数N1の比率(N1/N2)が閾値s2未満であり、且つ、単一上皮細胞数の一部(N1+N2)が閾値s3未満である場合(S107:YES)、CPU301は、傍基底細胞の採取が不適切であった旨を示すダイアログボックスD1を表示部32に表示する(S108)。この場合も、CPU301は、後段の癌化の判定(S116)と、癌化情報の出力と(S117、S118)を行わずに、処理を終了させる。S107でNOと判定される場合、細胞採取の適否判定は適正とされ、処理が後段に進められる。
【0091】
次に、CPU301は、細胞数N1/細胞数N2が閾値s2よりも小さいかを判定する(S109)。N1/N2が閾値s2未満であると(S109:YES)、CPU301は、閾値s4の値をVsh1とする(S110)。N1/N2が閾値s2以上であると(S109:NO)、CPU301は、閾値s4の値を、Vsh1よりも小さいVsh2とする(S111)。閾値s4は、後段の癌化の判定(S116)において用いられる値である。
【0092】
上述したように、N/C比の大きい細胞(解析対象細胞)の数は、検体によってバラつきがある。そこで、本実施の形態では、測定試料中における解析対象細胞の分布に関する分布情報としてN1/N2を算出し、この分布情報に基づいて、癌化の判定で用いられる閾値s4を、Vsh1とVsh2の何れかに設定する。
【0093】
本発明者による検証では、
図11(a)のように、領域A3に含まれる解析対象細胞の数の比率(N1/N2)が高い場合、後述の癌化の判定ステップ(S116)において求められる癌化比率(N3/N4)が低くなる傾向があり、また、
図11(b)のように、この比率(N1/N2)が低い場合には、癌化比率(N3/N4)が高くなる傾向があることが確認された。このため、閾値s4を、上記のようにN1/N2の値に応じて設定することにより、後段の癌化の判定(S116)の精度を高めることができる。
【0094】
次に、CPU301は、第1ヒストグラムの領域A3に含まれる細胞(解析対象細胞)を抽出し(S112)、抽出した細胞について、
図11(c)、(d)に示すように、DNA量に応じた細胞数を示す第2ヒストグラム(DNAプロイディ)を作成する(S113)。なお、
図11(c)は、
図11(a)に示す第1ヒストグラム(検体IDが1である検体)の領域A3に含まれる細胞に基づいて作成された第2ヒストグラムである。
図11(d)は、
図11(b)に示す第1ヒストグラム(検体IDが2である検体)の領域A3に含まれる細胞に基づいて作成された第2ヒストグラムである。
【0095】
CPU301は、第2ヒストグラムにおいて、DNA量≧V22である領域A5と、V21≦DNA量≦V22である領域A6とを設定し(S114)、領域A5に含まれる細胞数N3(第1細胞の数)と、領域A6に含まれる細胞数N4(第2細胞の数)を取得する(S115)。CPU301は、第2ヒストグラムにおいて、S期の正常細胞と同等かそれ以上のDNA量を有する細胞数、すなわち、細胞周期がG0期またはG1期にある正常細胞のDNA量を超えるDNA量を有する細胞の数N3を取得し、DNA量が正常細胞の2Cである細胞の数、すなわち、細胞周期がG0期またはG1期にある正常細胞のDNA量を有する細胞の数N4を取得する。
【0096】
ここで、領域A5の左端の値は、癌化情報提供装置1で、細胞周期がG0/G1期にある正常細胞のDNA量として検出されるDNA量の範囲の上限値となるよう設定され、領域A5の右端は右方向に全ての細胞を含むように設定される。領域A6の右端の値は、G0期またはG1期にある正常細胞が有するDNA量(2C)とS期にある正常細胞が有するDNA量とを分ける値として設定されている。具体的には、細胞周期がG0期またはG1期にある正常細胞のDNA量を示す値V20を設定し、V21とV22は、V21とV22の範囲にV20が含まれ、V21とV22の範囲の幅が所定の幅Aとなるよう設定されている。本実施の形態では、領域A5と領域A6とは、値V22で隣接するよう設定される。
【0097】
次に、CPU301は、細胞数N4に対する細胞数N3の比率(癌化比率)が、S110またはS111で設定した閾値s4以上であるかを判定する(S116)。N3/N4が閾値s4以上であると(S116:YES)、癌化の判定は陽性となり、N3/N4が閾値s4未満であると(S116:NO)、癌化の判定は陰性となる。
【0098】
次に、癌化の判定が陽性である場合(S116:YES)、CPU301は、癌化に関する情報として、再検査が必要である旨の表示を行なう(S117)。具体的には、
図12(b)に示すように、「要再検査」と表示されたダイアログボックスD2が表示部32に表示される。他方、癌化の判定が陰性である場合(S116:NO)、CPU301は、癌化に関する情報として、再検査が不要である旨の表示を行なう(S118)。具体的には、
図12(c)に示すように、「再検査不要」と表示されたダイアログボックスD3が表示部32に表示される。こうして、データ処理装置3による分析処理が終了する。
【0099】
なお、S117、S118で表示されるダイアログボックスには、癌化に関する情報だけでなく、
図12(d)、(e)に示すように、測定試料に含まれる解析対象細胞の分布情報を示す情報が併せて表示されるようにしても良い。
図12(d)の場合、N1/N2がs2未満であったことを示す「低N/C比優位検体」と、算出されたN1/N2の値とが、ダイアログボックスD4に表示されている。
図12(e)の場合、N1/N2がs2以上であったことを示す「高N/C比優位検体」と、算出されたN1/N2の値とが、ダイアログボックスD5に表示されている。
【0100】
図13は、上記癌化の判定(S116)で用いられる閾値s4が、常にVsh2である場合(比較例)と、上記のようにVsh1、Vsh2の何れかに切り替えられる場合(本実施の形態)とで得られる判定結果を示す図である。
【0101】
比較例と本実施の形態の何れの場合も、同じ検体群に対して判定が行われている。
図13の条件に示すように、判定が行われた検体群の総検体数は1020であり、そのうち、組織診において陽性および陰性と判定された検体数は、それぞれ、54および966である。
図13の結果には、組織診により陽性と判定された検体数に対する、判定結果により陽性と判定された検体数の比率(感度)と、組織診により陰性と判定された検体数に対する、判定結果により陰性と判定された検体数の比率(特異度)とが示されている。
【0102】
比較例の場合、感度は98%であり、特異度は73%であった。一方、本実施の形態では、N1/N2がs3未満であった237の検体については、閾値s4がVsh1に設定され、これらの検体に対する感度は100%、特異度は80%であった。また、本実施の形態では、N1/N2がs3以上であった783の検体については、閾値s4がVsh2に設定され、これら検体に対する感度は98%、特異度は78%であった。したがって、本実施の形態の場合、結果を合計すると、感度は98%となり、特異度は比較例の場合よりも5%高い78%となる。よって、本実施の形態では、比較例に比べて、癌化の判定精度を高めることが可能となる。
【0103】
以上、本実施の形態では、測定試料に含まれるN/C比の大きい細胞(解析対象細胞)の分布に関する分布情報としてN1/N2が算出され、N1/N2の値に応じて癌化の判定に用いられる閾値s4の値が設定される。これにより、測定試料中に含まれる解析対象細胞の状況にバラつきが生じても、N1/N2の値に応じて閾値s4の値が適切に設定される。よって、癌化比率(N3/N4)が、適切な閾値s4によって評価されるため、癌化の判定精度を高めることが可能となる。
【0104】
また、本実施の形態では、測定試料に含まれる単一上皮細胞が第1ヒストグラム上にプロットされ、第1ヒストグラムの領域A4に含まれる細胞数N2に対する第1ヒストグラムの領域A3に含まれる細胞数N1の比率(N1/N2)が取得される。すなわち、N/C比の大きい細胞(解析対象細胞)の分布に関する分布情報として、比率(N1/N2)が取得される。これにより、測定試料に含まれる解析対象細胞とその他の上皮細胞とのバランスを良好に評価することができるため、S109〜S111において、適切な閾値s4を設定することが可能となる。
【0105】
また、本実施の形態では、抽出された解析対象細胞が第2ヒストグラム上にプロットされ、第2ヒストグラムにおいて、領域A6に含まれる細胞数N4に対する領域A5に含まれる細胞数N3の比率(N3/N4)が取得される。この比率は、細胞周期がS期またはG2/M期にある細胞の割合を反映するため、この比率を閾値s4と比較することにより、細胞の癌化を判定することができる。
【0106】
また、本実施の形態では、癌化の判定が陽性である場合(S116:YES)、細胞の癌化に関する情報として、再検査が必要である旨を示すダイアログボックスD2が表示部32に表示される(S117)。これにより、操作者は、当該検体を採取した被験者に対して組織診を行う等、その後の対応を円滑に進めることができる。
【0107】
また、本実施の形態では、N/C比の大きい細胞(解析対象細胞)の数N1が閾値s1未満である場合(S106:YES)、および、N1が閾値s1以上であってもN1/N2が閾値s2未満かつN1+N2が閾値s3未満の場合(S107:YES)、傍基底細胞の採取が不適切であった旨を示すダイアログボックスD1が表示部32に表示される(S108)。このとき、癌化の判定(S116)は行われず、細胞の癌化に関する情報の出力(S117、S118)は行われない。これにより、信頼性の低い情報が取得および出力されることを防止することができる。
【0108】
また、本実施の形態では、S117、S118において、細胞の癌化に関する情報と共に、ダイアログボックスD4、D5に示すように、測定試料に含まれる解析対象細胞の分布情報を示す情報が表示される。これにより、操作者は、被検者から採取した細胞の状況を把握することができ、これに基づき、細胞の癌化に関する情報を評価することができる。
【0109】
以上、本発明の実施の形態ついて説明したが、本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0110】
たとえば、上記実施の形態では、子宮頸部の上皮細胞が分析対象とされたが、口腔細胞、膀胱、咽頭などの他の上皮細胞、さらには臓器の上皮細胞が分析対象とされ、これら細胞の癌化の判定が行われても良い。
【0111】
また、上記実施の形態では、S109〜S111において、領域A4に含まれる細胞数N2に対する領域A3に含まれる細胞数N1の比率(N1/N2)に基づいて、閾値s4がVsh1、Vsh2の何れかに設定された。しかしながら、これに限らず、比率(N1/N2)に基づいて、閾値s4が3つ以上の何れかの値に設定されるようにしても良く、または、比率(N1/N2)に基づいて、閾値s4が演算により算出されるようにしても良い。こうすると、よりきめ細かに閾値s4が設定されるため、癌化の判定の精度が高められる可能性がある。
【0112】
また、上記実施の形態では、解析対象細胞の分布に関する分布情報は、領域A4に含まれる細胞数N2に対する領域A3に含まれる細胞数N1の比率(N1/N2)とされた。しかしながら、これに限らず、解析対象細胞の分布に関する分布情報は、細胞数N1と細胞数N2との差(N1−N2)であっても良い。この場合、たとえば、この差(N1−N2)が所定の閾値を超えるか否かによって、癌化の判定に用いる閾値s4が設定される。また、解析対象細胞の分布に関する分布情報は、第1ヒストグラムのモード(最頻値)であっても良い。この場合、たとえば、モードの位置(N/C比)が所定の閾値を超えるか否かによって、癌化の判定に用いる閾値s4が設定される。また、細胞核の大きさNと細胞の大きさCとを2軸とするスキャッタグラム上に各細胞をプロットし、プロットされた粒子に基づく近似曲線の傾きを、解析対象細胞の分布に関する分布情報としても良い。この場合、たとえば、この傾きが所定の閾値を超えるか否かによって、癌化の判定に用いる閾値s4が設定される。この他、さらに、第1ヒストグラムの広がり具合を示すCV(変動係数)が加味されて、癌化の判定に用いる閾値s4が設定されても良い。また、分布情報は、測定試料に含まれる解析対象細胞の分布を表す画像に基づく画像解析により取得されてもよいし、測定試料を顕微鏡観察することにより取得されてもよい。
【0113】
また、上記実施の形態では、細胞の大きさCに対する細胞核の大きさNの比率(N/C比)に応じた細胞数を示す第1ヒストグラムが作成され、解析対象細胞の分布に関する分布情報として、比率(N1/N2)が算出された。しかしながら、これに限らず、細胞核の大きさNと細胞の大きさCとを、別々に評価して、解析対象細胞の分布に関する分布情報を取得するようにしても良い。
【0114】
また、上記実施の形態では、解析対象細胞の抽出をN/C比に基づいて行なったが、本発明はそのような実施の形態に限定されない。たとえば、解析対象細胞の抽出を細胞の大きさCのみに基づいて行なってもよい。
【0115】
図14(a)は、
図11(a)、(c)に示す検体IDが1である検体について、細胞核の大きさNと細胞の大きさCに応じた細胞数を示すヒストグラムであり、
図14(b)は、
図11(b)、(d)に示す検体IDが2である検体について、細胞核の大きさNと細胞の大きさCに応じた細胞数を示すヒストグラムである。
【0116】
細胞核の大きさNのモード(最頻度)と、細胞の大きさCのモード(最頻度)との間の横軸方向の間隔は、
図14(a)では小さく、
図14(b)では大きい。したがって、たとえば、モード(最頻度)の間隔を、解析対象細胞の分布に関する分布情報とすることができる。この場合、この間隔が所定の閾値を超えるか否かによって、癌化の判定に用いる閾値s4が設定される。
【0117】
また、上記実施の形態では、
図11(a)、(b)に示すように領域A3、A4が設定され、
図11(c)、(d)に示すように領域A5、A6が設定された。しかしながら、これに限らず、領域A3〜A6の範囲は、感度および特異度の観点から適宜別の値に設定されても良い。
【0118】
図15(a)は、領域A3の右端の境界が右方向に移動された状態を示す図である。
図15(b)は、領域A3の上限と下限の両方を無くした状態を示す図である。このように、感度および特異度の観点から、領域A3の右端と左端の境界が、左右方向に適宜設定されても良い。同様に、領域A4の右端と左端の境界も、左右方向に適宜設定されても良い。また、領域A3、A4の間に隙間が設けられても良く、領域A3、A4の一部が互いに重なっていても良い。
【0119】
図15(c)は、領域A6の右端の境界が左方向に移動された状態を示す図である。
図15(c)の領域A6の左端の値V21と右端の値V23は、V21とV23の範囲にV20が含まれ、V21とV23の範囲の幅が、
図11(c)、(d)の幅Aより小さいBとなるよう設定されている。
図15(d)は、領域A5の左端の境界が左方向に移動された状態を示す図である。
図15(d)の領域A5の左端の値V24は、V21とV22の範囲にV20が含まれ、V21とV22の範囲の幅がAとなるよう設定されている場合に、V20より大きくV22より小さい値となるように設定されている。このように、感度および特異度の観点から、領域A5、A6の右端と左端の境界が、左右方向に適宜設定されても良い。
【0120】
また、上記実施の形態では、S116において、N3/N4の値が閾値s4以上であるかが判定されたが、これに限らず、N4/N3の値が閾値1/s4以下であるかが判定されるようにしても良い。
【0121】
また、上記実施の形態では、側方蛍光信号波形の幅を細胞核の大きさNとし、前方散乱光信号波形の幅を細胞の大きさCとしたが、これに限らず、側方蛍光信号波形の面積を細胞核の大きさNとし、前方散乱光信号波形の面積を細胞の大きさCとしても良い。なお、所定の方向に長い形をしている細胞がフローセルを流れた場合、細胞の大きさは、前方散乱光信号波形の幅によって精度良く表されることになる。よって、上記実施の形態のように、前方散乱光波形の幅を細胞の大きさCとするのが望ましい。
【0122】
また、上記実施の形態では、細胞採取の適否判定はS106、S107において行われたが、細胞採取の適否判定は、S106、S107に示す判定に限られず、他の判定であっても良い。
【0123】
また、上記実施の形態では、傍基底細胞の採取が不適切であった旨と、再検査が必要である旨と、再検査が不要である旨が、ダイアログボックスD1〜D5に表示され、ダイアログボックスD1〜D5が表示部32に表示された。しかしながら、これに限らず、これらの旨が、データ処理装置3に設置されたスピーカーから警告音として出力されるようにしても良い。
【0124】
また、上記実施の形態では、S117、S118で表示されるダイアログボックスに、測定試料に含まれる解析対象細胞の分布情報を示す情報が併せて表示される場合の例が、
図12(d)、(e)に示された。しかしながら、解析対象細胞の分布情報を示す情報は、
図12(d)、(e)に示される例に限らず、
図11(a)、(b)に示すような第1ヒストグラムが表示されても良い。
【0125】
また、上記実施の形態では、データ処理装置3のCPU301は、測定装置2から受信した各信号FSC、SSC、SFLに基づいて、前方散乱光信号波形の幅、側方蛍光信号波形の幅、側方蛍光信号波形の面積等の特徴パラメータを取得したが、これに限らず、これら特徴パラメータは、測定装置2の測定制御部25によって取得されるようにしても良い。
【0126】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。