特許第6378614号(P6378614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378614
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】スタジアム
(51)【国際特許分類】
   E04H 3/14 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   E04H3/14 C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-228747(P2014-228747)
(22)【出願日】2014年11月11日
(65)【公開番号】特開2016-89583(P2016-89583A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大平 滋彦
(72)【発明者】
【氏名】浜谷 朋之
(72)【発明者】
【氏名】大谷 博三
(72)【発明者】
【氏名】千田 尚一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 華織
(72)【発明者】
【氏名】奥出 久人
(72)【発明者】
【氏名】野澤 裕和
(72)【発明者】
【氏名】大野 正人
(72)【発明者】
【氏名】木原 隆志
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−018497(JP,A)
【文献】 特開2004−044388(JP,A)
【文献】 米国特許第02527031(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 3/14
E04B 1/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィールドと、前記フィールドを囲むスタンドと、前記フィールドの上方に開口を有する状態で前記スタンドの上方を覆う屋根とを備え、
前記屋根におけるフィールド側の端部に、上下向きの遮音壁を、前記端部に沿って不連続的に備えているスタジアム。
【請求項2】
前記フィールドを平面視矩形に形成し、
前記屋根は、前記フィールドの四隅部に対応する前記スタンドの各隅部領域の上方を覆うとともに、前記端部が平面視で前記フィールドの四辺に対して傾斜する屋根部を備え、
前記遮音壁を、前記フィールドの四辺部に対応する前記スタンドの各辺部領域の上方において不連続となる状態で備えている請求項1に記載のスタジアム。
【請求項3】
前記屋根部の設置高さよりも低い高さで前記辺部領域の上方を覆う別の屋根部を備えている請求項2に記載のスタジアム。
【請求項4】
前記屋根部を、前記フィールドから離れる側が低くなる勾配屋根に構成し、
前記遮音壁を前記端部から下方に延出し、
前記遮音壁と前記屋根部の屋根板とで囲まれた空間を前記隅部領域に開放している請求項2又は3に記載のスタジアム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィールドと、前記フィールドを囲むスタンドと、前記フィールドの上方に開口を有する状態で前記スタンドの上方を覆う屋根とを備えたスタジアムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなスタジアム(競技場)としては、スタジアム(競技場)のフィールド面(グラウンド面)に入る光の量を多くするために、屋根(カバー)におけるフィールド側の端部(屋根のエッジ)に、その端部を一周する形で上下向きの光反射体としての波形シートを備えるとともに、スタジアムの使用中に、波形シートからの反射光で観客の目がくらむことがないように、又、スタンドからのピッチの眺めが波形シートによって妨げられることがないように、波形シートを、スタジアムの使用中は退避させることが可能な移動式、巻き上げ式、又は、折り畳み式に構成するものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−529009号公報(段落番号0007、0009、0010、0012、0016、図1図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成では、スタジアムのフィールド面に入る光の量が多くなることから、フィールドに張った天然芝に対する生育環境が向上する。しかしながら、上記の構成は、屋根におけるフィールド側の端部に採光用の波形シートを備え、かつ、スタジアムの使用中は、その波形シートの退避を可能にするためものであることから、スタジアムの使用中にスタンドから湧き上がる歓声などがスタジアム外に漏れることを抑制する遮音性の面においては改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、スタジアムの遮音性を高めつつ、フィールドに張った天然芝に対する生育環境を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題解決手段では、
フィールドと、前記フィールドを囲むスタンドと、前記フィールドの上方に開口を有する状態で前記スタンドの上方を覆う屋根とを備え、
前記屋根におけるフィールド側の端部に、上下向きの遮音壁を、前記端部に沿って不連続的に備えている。
【0007】
この手段によると、遮音壁を備えない箇所においては、スタンドからの歓声などの音の回折点が、屋根におけるフィールド側の端部になる。これに対し、遮音壁を備える箇所においては、遮音壁が、スタンドからの歓声などの音に対しては、屋根のフィールド側への延出長さを長くすることと同じ役割を果たすことになる。そのため、遮音壁を備えない箇所よりも、スタンドからの音の回折点がスタンドの音源部及びスタジアム外の受音部から遠くなり、スタンドの音源部からスタジアム外の受音部への伝搬距離が長くなる。その結果、スタンドからの音に対する減衰量、殊に歓声などの周波数の高い音に対する減衰量が大きくなる。
【0008】
そして、遮音壁を不連続的に備えることにより、遮音壁を連続的に備える場合に比較して、遮音壁が太陽光を遮ることによって生じるフィールドでの日陰領域が狭くなる。これにより、フィールドに張った天然芝に対する直接光としての太陽光の照射範囲が広くなるとともに照射時間が長くなる。殊に、遮音壁の不連続箇所を太陽の軌道を考慮してスタジアムの南北方向又は東西方向に設定することにより、フィールドの天然芝に対する採光をより良好に行える。
【0009】
又、遮音壁の不連続箇所からの通風により、スタジアム内に対する通気性が良くなり、スタジアム内の換気が促進する。これにより、フィールドに張った天然芝の光合成が促進する。
【0010】
従って、スタンドからの歓声などの音に対する高い減衰効果を得られるようにしてスタジアムの遮音性を高めつつ、フィールドに張った天然芝に対する生育環境を向上させることができる。
【0011】
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、
前記フィールドを平面視矩形に形成し、
前記屋根は、前記フィールドの四隅部に対応する前記スタンドの各隅部領域の上方を覆うとともに、前記端部が平面視で前記フィールドの四辺に対して傾斜する屋根部を備え、
前記遮音壁を、前記フィールドの四辺部に対応する前記スタンドの各辺部領域の上方において不連続となる状態で備えている。
【0012】
この手段によると、スタンドの各隅部領域の上方では遮音壁を備えることから、スタンドの各隅部領域からの音に対しては、遮音壁による高い減衰効果が得られる。
【0013】
そして、スタンドの各辺部領域の上方にはフィールドへの太陽光の照射及び通風を遮る遮音壁を備えないことから、フィールドの天然芝に対する日当たり及び通風が良好になる。又、各辺部領域の観客が対向する辺部領域の上方を見上げたときに遮音壁が視界に入り難くなることから、各辺部領域の観客は遮音壁が視界に入ることに起因した圧迫感を感じ難くなる。
【0014】
しかも、遮音壁を照明器具の取り付けに利用することにより、平面視矩形のフィールドをその四辺のうちの対向する2辺にゴールを備える状態で使用するサッカーなどの競技において好適な、競技者の視界に照明器具が入り難いスタンドの各隅部領域における所定高さからの照明を、照明専用の支柱部材などを設けることなく行える。
【0015】
従って、スタンドの各隅部領域からの歓声などの音に対する遮音性、及び、スタンドの各辺部領域での観客の居心地を高めつつ、フィールドの天然芝に対する生育環境を更に向上させることができる。又、設備費の上昇を抑制しつつ適正な競技環境を確保することができる。
【0016】
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、
前記屋根部の設置高さよりも低い高さで前記辺部領域の上方を覆う別の屋根部を備えている。
【0017】
この手段によると、スタンド全域の上方を屋根で覆うことができる。そして、別の屋根部の設置個所においては、スタンドからの歓声などの音の回折点が別の屋根部におけるフィールド側の端部になる。これにより、別の屋根部を設置しない場合に比較して、スタンドからの音の回折点がスタンドの音源部及びスタジアム外の受音部から遠くなり、スタンドの音源部からスタジアム外の受音部への伝搬距離が長くなる。その結果、スタンドからの音に対する減衰量、殊に歓声などの周波数の高い音に対する減衰量が大きくなり、スタンドからの音に対する遮音性が高くなる。
【0018】
又、別の屋根部の設置高さが低いことにより、それに応じて、別の屋根部で上方が覆われたスタンドの各辺部領域における開口からの風雨の吹き込み領域が減少するとともに、別の屋根部に対向するスタンド側から開口を見上げたときに視野に入る開放空間領域が広くなる。これにより、スタンドの各辺部領域の観客が開口からの風雨に晒され難くなるとともに、別の屋根部に対向するスタンド側の観客が開口を見上げたときに得られる開放感が向上する。つまり、スタンドの各辺部領域などにおける観客の居心地を高めることができる。
【0019】
更に、別の屋根部を屋根部と同じ高さに設置する場合に比較して、別の屋根部が太陽光を遮ることによって生じるフィールドでの日陰領域が狭くなる。これにより、フィールドの天然芝に対する直接光としての太陽光の照射範囲が広くなるとともに照射時間が長くなる。殊に、別の屋根部の設置個所を太陽の軌道を考慮してスタジアムの南北方向又は東西方向に設定することにより、フィールドの天然芝に対する採光をより良好に行える。
【0020】
従って、スタンドの全域からの歓声などの音に対する遮音性、及び、スタンドの全域での観客の居心地を高めつつ、フィールドの天然芝に対する生育環境を向上させることができる。
【0021】
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、
前記屋根部を、前記フィールドから離れる側が低くなる勾配屋根に構成し、
前記遮音壁を前記端部から下方に延出し、
前記遮音壁と前記屋根部の屋根板とで囲まれた空間を前記隅部領域に開放している。
【0022】
この手段によると、各屋根部からフィールド側への雨水の流下を防止することができる。又、遮音壁を屋根のフィールド側の端部から上方に延出する場合に生じる、開口からスタジアム内に射し込む太陽光が遮音壁により制限されて、フィールドの天然芝に対する太陽光の照射範囲が狭くなる、などの不具合を回避することができる。そして、各屋根部で覆われる各隅部領域の上方空間を高さ方向に拡張することができる。
【0023】
従って、降雨による観戦状況の低下を抑制し、遮音壁によるフィールドの天然芝に対する生育環境の低下を回避しつつ、スタンドの各隅部領域での開放感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】スタジアムの平面図である。
図2】スタジアムの横断平面図である。
図3図1におけるIII−III断面図である。
図4図1におけるIV−IV断面図である。
図5】遮音壁を備える第1屋根部でのスタンドからの音の回折点を示す要部の縦断側面図である。
図6】第2屋根部でのスタンドからの音の回折点を示す要部の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明を、スタジアムの一例であるサッカー専用スタジアムに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1〜4に示すように、本実施形態で例示するサッカー専用スタジアムは、四隅を面取りした南北方向に長い平面視矩形状で、天然芝が張られたフィールド1と、フィールド1を囲むスタンド2と、フィールド1の上方に開口3を有する状態でスタンド2の上方を覆う屋根4とを備えている。
【0027】
図1及び図2に示すように、フィールド1は、一対の長辺部1A,1Bと一対の短辺部1C,1Dとを備える平面視矩形に形成している。そして、フィールド1の全域にわたって天然芝を張り詰めている。
【0028】
図1〜6に示すように、スタンド2は、四隅を面取りした平面視矩形枠状で、かつ、その外周側ほど高くなるすり鉢状に形成している。そして、多数の観客席5をフィールド1を囲む配置で多段に整列装備することにより、フィールド1の長辺部1A,1Bに沿うメインスタンド部2Aとバックスタンド部2B、フィールド1の短辺部1C、1Dに沿うホームスタンド部2Cとアウェイスタンド部2D、及び、それらの間に位置する四隅のコーナースタンド部2E、などを有するように構成している。
【0029】
メインスタンド部2A及びバックスタンド部2Bは、それらの中央側でスタンド外周側の2箇所の位置に屋根用の第1支持部材6を備えている。又、それらに隣接するコーナースタンド部2Eとの間のスタンド外周側の位置に、それぞれ、屋根用の第2支持部材7を備えている。
【0030】
ホームスタンド部2C及びアウェイスタンド部2Dは、それらの中央部でスタンド外周側の2箇所の位置に屋根用の第1支持部材6を備えている。又、それらに隣接するコーナースタンド部2Eとの間のスタンド外周側の位置に、それぞれ、屋根用の第2支持部材7を備えている。
【0031】
屋根4は、フィールド1の四隅部1Eに対応するスタンド2の各隅部領域A1の上方を覆うとともに、フィールド側の端部4aが平面視でフィールド1の四辺に対して傾斜する屋根部4A(以下、第1屋根部4Aと称する)を備えている。又、フィールド1の四辺部1A〜1Dに対応するスタンド2の各辺部領域A2の上方を覆うとともに、フィールド側の端部4bが平面視でフィールド1の四辺に沿う別の屋根部4B(以下、第2屋根部4Bと称する)を備えている。
【0032】
各第1屋根部4Aは、フィールド1の四辺に対する傾斜姿勢で各隅部領域A1の上方に配備する第1支持梁8、第1支持梁8に対する交差姿勢で第1支持梁8に連結する一対の第2支持梁9、及び、第1支持梁8及び一対の第2支持梁9の各上弦により支持される第1屋根板10、などから構成している。尚、各第1屋根部4Aに備える桁や小梁などは図示を省略している。
【0033】
各第2屋根部4Bは、フィールド1の四辺に沿う姿勢で隣接する第1支持梁8にわたる第3支持梁11、及び、第1支持梁8及び第3支持梁11の各下弦により支持される第2屋根板12、などから構成している。尚、各第2屋根部4Bに備える桁や小梁などは図示を省略している。
【0034】
各第1支持梁8と各第2支持梁9と各第3支持梁11とのそれぞれには、軽量で高い強度を有するトラス梁を採用している。各第1屋根板10と各第2屋根板12とのそれぞれには、金属屋根に使用する建材として一般的な折板を採用している。
【0035】
各第1支持梁8は、それらの下方に位置するフィールド1の長辺部1A,1Bと短辺部1C,1Dとに対する45度の傾斜姿勢で、各第1支持梁8の下弦が水平になるように、メインスタンド部2A又はバックスタンド部2Bの第1支持部材6とホームスタンド部2C又はアウェイスタンド部2Dの第1支持部材6とに架設している。そして、一対の第2支持梁9との連結箇所の間に位置する中央側トラス部8Aと、第2支持梁9との連結箇所から第1支持部材6に向かう一対の端部側トラス部8Bとを備えている。中央側トラス部8Aは、その全長にわたって梁成が第1支持梁8での最大値で一定になるように構成している。各端部側トラス部8Bは、それらの梁成が、第2支持梁9との連結箇所では第1支持梁8での最大値となり、第2支持梁9との連結箇所から離れるほど小さくなるように構成している。これにより、各第1支持梁8を扁平な台形状に構成している。
【0036】
各第2支持梁9は、第1支持梁8に対する90度の交差姿勢で、各第2支持梁9の下弦が水平になるように、第1支持梁8と第2支持部材7とに架設している。そして、各第2支持梁9における第1支持梁8との連結端での梁成が、第1支持梁8の最大梁成と同じ大きさで最大になり、第1支持梁8との連結端から離れるほど梁成が小さくなるように構成している。これにより、各第2支持梁9を扁平な三角形状に構成している。
【0037】
各第1屋根板10は、中央側屋根板部10Aと、その両横に連接する一対の端部側屋根板部10Bとを備えている。そして、それらのフィールド側の端部10aの位置が、第1支持梁8の架設位置と平面視で一致するように構成している。
【0038】
中央側屋根板部10Aは、第1支持梁8における中央側トラス部8Aの上弦と一対の第2支持梁9の上弦とにわたる平面視正方形状で、屋根4の外周側ほど低くなる下がり勾配を有するように構成している。そして、この構成により、主にコーナースタンド部2Eの上方を覆う位置に配備している。
【0039】
一対の端部側屋根板部10Bは、第1支持梁8における端部側トラス部8Bの上弦と第2支持梁9の上弦とにわたる平面視正三角形状で、屋根4の外周側ほど低くなる下がり勾配を有するように構成している。そして、この構成により、一方の端部側屋根板部10Bを、コーナースタンド部2Eに隣接するメインスタンド部2A又はバックスタンド部2Bのコーナースタンド側部分2Aa,2Baの上方を覆う位置に配備している。又、他方の端部側屋根板部10Bを、コーナースタンド部2Eに隣接するホームスタンド部2C又はアウェイスタンド部2Dのコーナースタンド側部分2Ca,2Daの上方を覆う位置に配備している。
【0040】
つまり、各第1屋根部4Aを、平面視台形でフィールド1から離れる側である屋根4の外周側が低くなる勾配屋根に構成している。そして、各第1屋根部4Aにより覆われるスタンド2の各隅部領域A1を、各コーナースタンド部2Eに、それぞれのコーナースタンド部2Eに隣接するメインスタンド部2A又はバックスタンド部2Bのコーナースタンド側部分2Aa,2Baと、ホームスタンド部2C又はアウェイスタンド部2Dのコーナースタンド側部分2Ca,2Daとを加えた平面視台形の領域に設定している。
【0041】
各第3支持梁11は、各第3支持梁11の上弦及び下弦が水平になるように、隣接する第1支持梁8の第2支持梁9との連結箇所同士にわたって架設している。そして、各第3支持梁11の梁成が、第3支持梁11の全長にわたって第1支持梁8の最大梁成と同じ大きさで一定になるように構成している。これにより、各第3支持梁11を横長の矩形に構成している。
【0042】
各第2屋根板12は、対応するスタンド部2A〜2Dの上方において隣接する第1支持梁8の下弦にわたる平面視台形又は三角形で、屋根4の外周側が低くなる最低限の水勾配を有するように構成している。そして、それらのフィールド側の端部12aが、対応するスタンド部2A〜2Dの前端部2a〜2dに沿う姿勢で前端部2a〜2dと略同じ長さを有するとともに、それらのフィールド側の端部12aの位置と対応するスタンド部2Aの前端部2a〜2dの位置とが平面視で略一致するように構成している。
【0043】
つまり、各第2屋根部4Bを、平面視台形又は三角形で最低限の水勾配を有する平屋根に構成して、各第1屋根部4Aの設置高さよりも低い高さで設置している。そして、各第2屋根部4Bにより覆われるスタンド2の各辺部領域A2を、メインスタンド部2Aとバックスタンド部2Bとホームスタンド部2Cとアウェイスタンド部2Dとのそれぞれにおけるコーナースタンド側部分2Aa,2Ba,2Ca,2Daを除いた平面視台形又は三角形の中央側部分2Ab,2Bb,2Cb,2Dbに設定している。又、各第2屋根部4Bのフィールド側の端部4bとなる各第2屋根板12のフィールド側の端部12aにより、フィールド上方の開口3を形成する屋根4の内周縁の略全周を形成している。
【0044】
以上の構成により、屋根4を、スタンド全域の上方を覆う平面視矩形枠状に形成している。又、フィールド上方の開口3を、平面視でスタンド2の内周縁と略一致する平面視矩形状に形成している。これにより、開口3からスタジアム内への太陽光の取り入れ及び通風などを可能にしながら、開口3からスタジアム内に入り込む風雨のスタンド2への吹き込みを抑制している。
【0045】
又、各第1屋根部4Aを前述した平面視台形の勾配屋根に構成し、かつ、各第2屋根部4Bを前述した平面視台形又は三角形の平屋根に構成することにより、スタジアムの南北方向及び東西方向に配置する各第2屋根部4Bを各第1屋根部4Aの設置高さよりも低い高さに設置している。そして、このように各第1屋根部4A及び各第2屋根部4Bを設置することにより、屋根4を、隣接する第1屋根部4Aの間、すなわち、屋根4における東西南北の各位置に、側面視逆台形又は逆三角形の凹部4Cを有する形状に構成している(図3及び参図4参照)。
【0046】
これにより、各第2屋根部4Bを各第1屋根部4Aと同じ設置高さに設置する場合に比較して、各第2屋根部4Bが太陽光を遮ることによって生じるフィールド1での日陰領域を狭くすることができる。その結果、フィールド1の天然芝に対する直接光としての太陽光の照射範囲が広くなるとともに照射時間が長くなる。つまり、フィールド1の天然芝に対する生育環境を向上させることができる。
【0047】
又、各第2屋根部4Bの設置高さが低いことにより、それに応じて、各第2屋根部4Bで上方が覆われたスタンド2の辺部領域A2における開口3からの風雨の吹き込み領域が減少するとともに、各第2屋根部4Bに対向するスタンド部2A〜2Dなどから開口3を見上げたときに視野に入る開放空間領域が広くなる。これにより、スタンド2における各辺部領域A2の観客が開口3からの風雨に晒され難くなるとともに、各第2屋根部4Bに対向するスタンド部2A〜2Dなどの観客が開口3を見上げたときに得られる開放感が向上する。つまり、スタンド2の各辺部領域A2などにおける観客の居心地を高めることができる。
【0048】
そして、各第1屋根部4Aで上方が覆われたスタンド2の各隅部領域A1においては、各第1屋根部4Aの第1屋根板10と遮音壁16とで囲まれた空間を各隅部領域A1に開放することになり、これにより、スタンド2の各隅部領域A1での上方空間を拡張することができる。その結果、スタンド2の各隅部領域A1での開放感を向上させることができる。
【0049】
図1及び図3〜5に示すように、各第1支持梁8は、それらが有する複数の三角形又は逆三角形の空間のうち、第1支持梁8の真ん中に位置する逆三角形の空間を除いた他の空間の全てに、各空間と同じ三角形又は逆三角形に形成した金属製の折板13を嵌め込んだ状態で取り付けている。又、真ん中の逆三角形の空間に、その空間と同じ逆三角形に形成して複数の照明器具14を整列配備した照明体15を嵌め込んだ状態で取り付けている。そして、このように第1支持梁8の各空間を折板13及び照明体15で塞ぐことにより、各第1支持梁8が上下向きの遮音壁16として機能するように構成している。
【0050】
つまり、このスタジアムでは、屋根4におけるフィールド側の端部となる各第1屋根部4Aのフィールド側の端部4aと各第2屋根部4Bのフィールド側の端部4bのうち、各第1屋根部4Aのフィールド側の端部4aに、上下向きの遮音壁16を、各第1屋根部4Aのフィールド側の端部4aに沿って、それらの端部10aから下方に延出する状態で備えている。そして、これにより、屋根4におけるフィールド側の端部に、上下向きの遮音壁16を、フィールド側の端部に沿って不連続的に、具体的には、スタンド2の各辺部領域A2の上方に位置する各第2屋根部4Bにおいて不連続となる状態で備えている。
【0051】
上記の構成により、遮音壁16を備えない各第2屋根部4Bにおいては、各第2屋根部4Bで上方が覆われたスタンド2の各辺部領域A2などからの歓声などの音の回折点Pが、各第2屋根部4Bのフィールド側の端部4bになる(図6参照)。又、遮音壁16を備える各第1屋根部4Aにおいては、遮音壁16が、スタンド2からの歓声などの音に対しては、各第1屋根部4Aのフィールド側への延出長さを長くすることと同じ役割を果たすことになる。これにより、遮音壁16を備えない場合には、各第1屋根部4Aのフィールド側の端部4aになっていたスタンド2からの音の回折点Pを、各第1屋根部4Aのフィールド側の端部4aよりも、スタンド2の音源部及びスタジアム外の受音部から開口3の中央側に遠ざけることができる。具体的には、スタンド2の音源部と第1支持梁8の下弦とを結ぶ経路Rと、第1支持梁8の梁成に対する垂直二等分線Lとの交点Xまで、スタンド2の音源部及びスタジアム外の受音部から離すことができる(図5参照)。
【0052】
つまり、スタンド全域の上方を覆う屋根4を備えることにより、屋根4を備えない場合に比較して、スタンド2の音源部からスタジアム外の受音部への伝搬距離が長くなり、結果、スタンド2からの音に対する減衰量、殊に歓声などの周波数の高い音に対する減衰量が大きくなる。
【0053】
そして、屋根4の各第1屋根部4Aにおいては、それらのフィールド側の端部4aに遮音壁16を備えることにより、各第1屋根部4Aで上方が覆われたスタンド2の各隅部領域A1又はその付近からの歓声などの音に関しては、その音源部からスタジアム外の受音部への伝搬距離が更に長くなる。その結果、スタンド2の各隅部領域A1又はその付近からの音に対する減衰量、殊に歓声などの周波数の高い音に対する減衰量が更に大きくなる。
【0054】
又、遮音壁16を、各第1屋根部4Aのフィールド側の端部4aから下方に延出することにより、その延出長さに応じて、各第1屋根部4Aで上方が覆われたスタンド2の隅部領域A1における開口3からの風雨の吹き込み領域が減少する。これにより、スタンド2における各隅部領域A1の観客が開口3からの風雨に更に晒され難くなることから、スタンド2の各隅部領域A1における観客の居心地を更に高めることができる。
【0055】
更に、設置高さを低くする各第2屋根部4Bには遮音壁16を備えないことにより、各第2屋根部4Bに遮音壁16を立設する場合に生じる、開口3からスタジアム内に射し込む太陽光が遮音壁16により制限されてフィールド1の天然芝に対する太陽光の照射範囲が狭くなる、又は、各第2屋根部4Bに遮音壁16を垂下装備する場合に生じる、各第2屋根部4Bで上方が覆われたスタンド2の各辺部領域A2などにおける観客の視野が制限される、などの不具合を回避することができる。
【0056】
従って、スタンド2からの歓声などの音に対する高い減衰効果を得ることができてスタジアムの遮音性を高めることができるとともに、スタンド2での観客の居心地、及び、フィールド1に張った天然芝に対する生育環境を向上させることができる。
【0057】
しかも、遮音壁16を照明器具14の取り付けに利用することにより、対向する短辺1c、1dにゴールを備える状態でフィールド1を使用するサッカーなどの競技において好適な、競技者の視界に照明器具14が入り難いスタンド2の各隅部領域A1における所定高さからの照明を、照明専用の支柱部材などを設けることなく行える。その結果、設備費の上昇を抑制しつつ適正な競技環境を確保することができる。
【0058】
〔別実施形態〕
【0059】
〔1〕スタジアムは、サッカー専用スタジアム以外に、ラグビー場、野球場、フィールドの外周にトラックを備えた陸上競技場、などであってもよい。
【0060】
〔2〕スタジアム及びフィールド1の平面視形状は、競技種目などに応じて、矩形や正方形などの四角形、又は、卵形や長円形や楕円形などのオーバル形状、などを採用してもよい。又、スタジアム及びフィールド1の平面視形状として矩形や長円形などを採用する場合には、それらの長手方向が南北方向以外の方向に沿うように設定してもよい。
【0061】
〔3〕スタンド2及び屋根4の平面視形状は、フィールド1の平面視形状などに応じて、矩形の枠状やオーバル形の枠状などを採用してもよい。
【0062】
〔4〕屋根4に備える開口3の平面視形状は、フィールド1の平面視形状などに応じて、矩形や正方形などの四角形、又は、卵形や長円形や楕円形などのオーバル形状、などを採用してもよい。
【0063】
〔5〕屋根4は、その全周にわたって同じ勾配で同じ高さに位置するように構成してもよい。又、スタンド2における少なくとも一部の上方を覆わない領域を有するように構成してもよい。
【0064】
〔6〕屋根4を、その全周にわたってフィールド1から離れる側が低くなる勾配屋根に構成し、かつ、この屋根4におけるフィールド側の端部4aに、この端部4aから下方に延出する遮音壁16を、フィールド側の端部4aに沿って不連続的に備えるように構成してもよい。更に、この構成において、遮音壁16と屋根4とで囲まれた空間をスタンド2に開放するように構成してもよい。
【0065】
〔7〕屋根4は、各第1屋根部4Aの下方に対応する第2屋根部4Bが入り込んで、第1屋根部4Aと第2屋根部4Bとが平面視で重なり合う領域を有するように構成してもよい。
【0066】
〔8〕屋根4は、スタジアムの南北方向及び東西方向に配置する各第2屋根部4Bのうちの少なくともいずれか1つを各第1屋根部4Aの設置高さよりも低い高さに設置し、残りの第2屋根部4Bを各第1屋根部4Aの設置高さと同じ高さに設置するように構成してもよい。
【0067】
〔9〕遮音壁16は、屋根4におけるフィールド側の端部となる各第1屋根部4Aのフィールド側の端部4aと各第2屋根部4Bのフィールド側の端部4bのうち、各第2屋根部4Bのフィールド側の端部4bに、それらの端部4bに沿って備えることにより、不連続的に備えるようにしてもよい。
【0068】
〔10〕遮音壁16は、屋根4における東西南北のいずれか一方において不連続部を有するように構成してもよい。又、屋根4における東西方向又は南北方向において不連続部を有するように構成してもよい。
【0069】
〔11〕遮音壁16は、各第1支持梁8が有する複数の三角形又は逆三角形の空間の全てを金属製の折板13で塞ぐことによって構成してもよい。又、折板13の表面に吸音シートを貼り付けるようにしてもよい。
【0070】
〔12〕遮音壁16は、各第1支持梁8が有する複数の三角形又は逆三角形の空間を、吸音性の高いグラスウールなどを採用した吸音ボードで塞ぐことによって構成してもよい。又、各第1支持梁8などを利用せずに専用の部材で構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、フィールドと、前記フィールドを囲むスタンドと、前記フィールドの上方に開口を有する状態で前記スタンドの上方を覆う屋根とを備えるサッカー専用スタジアム、フィールドの外周にトラックを備えた陸上競技場、ラグビー場、野球場、などの各種のスタジアムに適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 フィールド
1A 四辺部(メインスタンド側)
1B 四辺部(バックスタンド側)
1C 四辺部(ホームスタンド側)
1D 四辺部(アウェイスタンド側)
1E 四隅部
2 スタンド
3 開口
4 屋根
4A 屋根部
4B 別の屋根部
4a フィールド側の端部
10 屋根板
16 遮音壁
A1 スタンドの隅部領域
A2 スタンドの辺部領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6