特許第6378626号(P6378626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6378626光学素子の加工用工具および光学素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378626
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】光学素子の加工用工具および光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 13/01 20060101AFI20180813BHJP
   B24D 7/18 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B24B13/01
   B24D7/18 F
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-255416(P2014-255416)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2016-112670(P2016-112670A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】向山 修二
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭55−179754(JP,U)
【文献】 特開2004−034221(JP,A)
【文献】 特開2014−172106(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第2575101(FR,A1)
【文献】 特開2000−84820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 13/01
B24D 7/18
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子の研削または研磨用の光学素子の加工用工具であって、
所定の曲率を有する固定領域を備えた台皿と、
各々が同じ初期高さの柱状体を成す複数の砥石であって、前記柱状体の一方の端面が前記光学素子の加工目標の球面形状に対応した第1の球面形状に成形された初期形状を有し、前記柱状体の他方の端面が前記台皿の固定領域に固定された複数の砥石と、
を備え、
前記複数の砥石のうち当該加工用工具の加工工具径によって決まる条件外部に一部が含まれる砥石である条件外砥石は、前記台皿の中心軸と平行に前記条件から外れた部分が切り欠かれていることを特徴とする光学素子の加工用工具。
【請求項2】
前記第1の球面形状は、前記台皿の中心軸上に第1の球心が位置するとともに第1の曲率半径を有し、
前記台皿は、前記固定領域が、該台皿の中心軸上に球心が位置する球面形状に成形された形状を有し、
前記条件外砥石は、前記中心軸を中心とし直径が前記加工工具径である円を前記中心軸に平行に投影した投影領域から外れた領域に一部が含まれる前記砥石であって、前記投影領域から外れた部分が切り欠かれていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子の加工用工具。
【請求項3】
前記条件外砥石は、前記第1の球心を前記砥石における一方の端面から他方の端面に向かう方向に前記中心軸に沿って前記砥石の初期高さ分移動した第2の球心を有するとともに前記第1の曲率半径を有する第2の球面形状と、前記投影領域と、が交わる位置の直上まで、外端部が切り欠かれることを特徴とする請求項2に記載の光学素子の加工用工具。
【請求項4】
前記条件外砥石は、該条件外砥石の前記一方の端面の中心が、前記投影領域の内側に位置するように前記固定領域に固定されることを特徴とする請求項2または3に記載の光学素子の加工用工具。
【請求項5】
光学素子の研削または研磨用の光学素子の加工用工具であって、請求項〜4のいずれか一つに記載の光学素子の加工用工具が有する前記各砥石の高さ方向の一方の端面を加工対象の光学素子材料に当接させる工程と、
前記台皿の中心軸を回転軸として前記光学素子の加工用工具を回転させることにより、前記光学素子材料を研削または研磨する加工工程と、
を含むことを特徴とする光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の加工用工具および光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ等の光学素子を研削または研磨する光学素子の加工用工具に、砥粒を固めて円柱形状に成形したペレット状の砥石を用いたものがある。例えば、上面を光学素子の加工目標の球面形状に対応した球面形状に成形した砥石を用い、球面状の砥石貼り付け面に砥石固定用の坐ぐり穴を設けることによって、砥石の配置精度を高めて、加工する光学素子の球面形状の安定化を図った光学素子の加工用工具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−084820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、光学素子の加工を繰り返し行うことによって砥石が摩耗していくが、外側の砥石と内側の砥石とで摩耗量が異なる場合が有ること、また、球面状の砥石貼り付け台皿に貼られた砥石の減耗に従って、加工用工具の加工工具径が目標の径から変わってしまい、光学素子の加工面品質を一定に維持することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、砥石が摩耗しても、加工後の光学素子の加工面品質を一定に維持することが可能になる光学素子の加工用工具および光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる光学素子の加工用工具は、光学素子の研削または研磨用の光学素子の加工用工具であって、所定の曲率を有する固定領域を備えた台皿と、各々が同じ初期高さの柱状体を成す複数の砥石であって、前記柱状体の一方の端面が前記光学素子の加工目標の球面形状に対応した第1の球面形状に成形された初期形状を有し、前記柱状体の他方の端面が前記台皿の固定領域に固定された複数の砥石と、を備え、前記複数の砥石のうち当該加工用工具の加工工具径によって決まる条件に合わない砥石である条件外砥石は、前記条件に合うように、少なくとも前記台皿の中心軸と平行に外端部が切り欠かれていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明にかかる光学素子の加工用工具は、前記第1の球面形状は、前記台皿の中心軸上に第1の球心が位置するとともに第1の曲率半径を有し、前記台皿は、前記固定領域が、該台皿の中心軸上に球心が位置する球面形状に成形された形状を有し、前記条件外砥石は、前記中心軸を中心とし直径が前記加工工具径である円を前記中心軸に平行に投影した投影領域から外れた領域に一部が含まれる前記砥石であって、前記投影領域から外れた部分が切り欠かれていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる光学素子の加工用工具は、前記条件外砥石は、前記第1の球心を前記砥石における一方の端面から他方の端面に向かう方向に前記中心軸に沿って前記砥石の初期高さ分移動した第2の球心を有するとともに前記第1の曲率半径を有する第2の球面形状と、前記投影領域と、が交わる位置の直上まで、外端部が切り欠かれることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる光学素子の加工用工具は、前記条件外砥石は、該条件外砥石の前記一方の端面の中心が、前記投影領域の内側に位置するように前記固定領域に固定されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる光学素子の製造方法は、光学素子の研削または研磨用の光学素子の加工用工具であって、上記いずれか一つに記載の光学素子の加工用工具が有する前記各砥石の高さ方向の一方の端面を加工対象の光学素子材料に当接させる工程と、前記台皿の中心軸を回転軸として前記光学素子の加工用工具を回転させることにより、前記光学素子材料を研削または研磨する加工工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光学素子の加工用工具は、所定の曲率を有する固定領域を備えた台皿と、各々が同じ初期高さの柱状体を成す複数の砥石であって、柱状体の一方の端面が光学素子の加工目標の球面形状に対応した第1の球面形状に成形された初期形状を有し、柱状体の他方の端面が台皿の固定領域に固定された複数の砥石と、を備え、複数の砥石のうち当該加工用工具の加工工具径によって決まる条件に合わない砥石である条件外砥石は、条件に合うように、少なくとも台皿の中心軸と平行に外端部が切り欠かれているため、砥石が摩耗しても加工工具径を一定に保持することで、加工後の光学素子の加工面品質を安定化でき、光学素子の品質を一定に維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態1にかかる光学素子の加工用工具の平面図である。
図2図2は、図1のA−A線断面図である。
図3図3は、図2に示す加工用工具の要部の拡大図である。
図4図4は、図1に示す光学素子の加工用工具の製造方法を説明する図である。
図5図5は、図1に示す加工用工具を用いて光学素子を製造する方法を説明するための一部断面図である。
図6図6は、実施の形態2にかかる光学素子の加工用工具を、該加工用工具の台皿の中心軸を通る平面で切断した図である。
図7図7は、図6に示す加工用工具の要部の拡大図である。
図8図8は、実施の形態2にかかる光学素子の加工用工具の製造方法を説明する図である。
図9図9は、図6に示す加工用工具を用いて光学素子を製造する方法を説明するための一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明では、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)として、光学素子の研削または研磨用の光学素子の加工用工具について説明する。また、この実施の形態により、この発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。さらにまた、図面は、模式的なものであり、各部材の厚みと幅との関係、各部材の比率等は、現実と異なることに留意する必要がある。また、図面の相互間においても、互いの寸法や比率が異なる部分が含まれている。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる光学素子の加工用工具の平面図である。図2は、図1のA−A線断面図である。図3は、図2に示す加工用工具の要部(領域S1)の拡大図である。
【0015】
図1および図2に示す光学素子の加工用工具1は、光学素子材料の被加工面を球面の一部を成す形状(以下、「球面形状」という。)に加工するために用いられる工具である。加工用工具1は、光学素子材料を凸の球面形状に加工するためのものである。
【0016】
本実施の形態1にかかる加工用工具1は、台皿2と、台皿2の上面2a(固定領域)に接着剤6で固定された複数の砥石3とを備える。加工対象である光学素子材料の加工目標の球面形状は、台皿2の中心軸La上に球心が位置する曲率半径R1の球面形状である。加工用工具1の加工工具径は、D1に設定される。図1の例では、複数の砥石3は、台皿2の上面2aに不均等に配置する。
【0017】
台皿2は、上面2aが、所定の曲率を有しており、該台皿2の中心軸La上に球心O1が位置する球面形状に成形された形状を有する。上面2aの曲率半径は、曲率半径R1に、後述する砥石3の初期高さHaおよび接着剤6の厚さを足した値R2である。すなわち、図2に示すように、台皿2を断面で見た場合、上面2aは、中心軸La上の点O1を球心とする曲率半径R2の球面形状に対応する円弧A2に沿った形状を成す。台皿2は、例えば、銅、真鍮、ステンレス等の金属または合金から成る。
【0018】
砥石3は、ダイヤモンド等から成る砥粒を固めて円柱形状に成形したペレットの両底面を所定形状に成形したものである。砥石3は、金属をベースにしたものや、レジン等の樹脂をベースにしたものがある。
【0019】
複数の砥石3は、各々が、同じ初期高さHaを有する柱状体を成す。砥石3は、それぞれ、高さ方向の一方の端面である上部端面が、光学素子の加工目標の球面形状に対応する球面形状(第1の球面形状)に成形された形状を有する。各砥石3の上部端面の初期形状は、台皿2の中心軸La上に球心O1が位置する曲率半径R1の球面形状に成形され、図2のように断面で見た場合、中心軸La上の点O1を球心とする曲率半径R1の球面形状に対応する円弧A3に沿った形状を成す。各砥石3の高さ方向の他方の端面である下部端面は、それぞれ、台皿2の上面2aに接着剤6で固定される。複数の砥石3は、いずれも同形状である。
【0020】
加工用工具1では、複数の砥石3のうち、加工工具径D1によって決まる条件に合わない砥石である条件外砥石(例えば、砥石3b,3c)は、条件に合うように、少なくとも中心軸Laと平行に外端部が切り欠かれている。
【0021】
説明のために、中心軸Laを中心とし直径が加工工具径D1である円を中心軸Laに平行に投影した投影領域を、投影領域C1(図1参照)とする。この投影領域C1は、直径が加工工具径D1であって中心軸が軸Laである円柱形状であり、図2では、この円柱形状である投影領域C1の側面を、破線SC1で示す。条件外砥石は、この投影領域C1から外れた領域に一部が含まれる砥石である。
【0022】
図2に示す砥石3b,3cにおいては、投影領域C1よりも外の領域に砥面が位置しないように外端部が切り欠かれている。このうち、砥石3bについては、図3に示すように、投影領域C1から外れた部分5bが、投影領域C1の側面SC1に沿って、中心軸Laと平行に切り欠かれる。砥石3cについても、同様に、投影領域C1から外れた部分が、投影領域C1の側面SC1に沿って、中心軸Laと平行に切り欠かれる。したがって、砥石3bの切り欠き面4aおよび砥石3cの切り欠き面4cは側面SC1に沿った形状となる。
【0023】
条件外砥石は、球心O1を、砥石3の初期高さHa分、砥石3aの上部端面Paから下部端面Pbに向かう方向に、中心軸Laに沿って移動した位置O2に球心が位置するとともに、曲率半径R1を有する第2の球面形状と、投影領域C1とが交わる位置の直上まで切り欠かれる。円弧A3sは、この第2の球面形状に対応する。砥石3b,3cは、この円弧A3sと投影領域C1の側面SC1とが交わる位置の直上まで外端部が切り欠かれている。砥石3bの切り欠き面4bは、側面SC1と直交する面であり、切り欠かれた端部が円弧A3sと側面SC1とが交わる位置に対応する。
【0024】
加工用工具1においては、外端部が切り欠かれた条件外砥石においても一定面積の砥面が確保できるように、砥石の上部端面の中心が投影領域C1の内側に位置するように各砥石3の固定位置が調整される。たとえば、砥石3b,3cの場合、砥石3bの上部端面の中心Tb(図1参照)および砥石3cの上面端面の中心Tc(図1および図2参照)が、投影領域C1の内側に位置するように固定位置が設定される。
【0025】
図4は、図1に示す光学素子の加工用工具1の製造方法を説明する図である。加工用工具1は、図4(1)のように台皿2の上面2aに各砥石3が接着剤6で固定された後に、条件外砥石(例えば、砥石3bp,3cp)の投影領域C1から外れた部分が、図4(2)のように、投影領域C1の側面SC1に沿って、中心軸Laと平行に切り欠かれることによって完成する。この切り欠き工程は、カーブジェネレータ(CG)機や、やすり等の研削切削工具を用いて実行される。
【0026】
ところで、砥石3は、光学素子の加工を繰り返し行うことによって摩耗し、高さが減っていく。砥石3の摩耗量は、台皿2の上面2aに対する配置位置によって異なり、内側の砥石3(例えば中央の砥石3a)の方が外側の砥石3(例えば外端の砥石3bp,3cp)よりも摩耗が早く進むことが経験的に分かっている。最も早く摩耗する中央の砥石3aが下部端面Pbまで摩耗してしまった場合には、光学素子材料を目標の球面形状に加工できなくなる。また、各砥石3は、上部端面の形状が、中心軸La方向に徐々に球心が移動しながらも曲率半径R1を有する球面形状のまま摩耗していくことがわかっている。各砥石3の上部端面は、図2のように断面で見た場合、摩耗が進むにしたがって、円弧A3に沿った初期形状から、円弧A3sに沿った形状に進む。
【0027】
図4(1)に示すように、投影領域C1の側面から外れた領域に側面部が含まれる外端の砥石3bp,3cpは、台皿2の曲率に対応して中心軸Laに対して傾いて固定されている。このため、中心軸La方向に摩耗が進むと、砥石3bp,3cpの上部端面は、外端部が投影領域C1の側面SC1から外側へ広がっていき、加工用工具の加工工具径が加工工具径D1から徐々に大きくなっていく。中央の砥石3aの下部端面Pbまで摩耗が進行した場合には、各砥石3の上部端面は、円弧A3sに対応する球面形状となる。この場合、外端の砥石3bp,3cpの上部端面も円弧A3sに沿って側面SC1の外側に広がるため、加工用工具の加工工具径は、D11(>D1)となり、目標の径(D1)から変わってしまう。
【0028】
本実施の形態1では、投影領域C1から外れた領域に一部が含まれる外端部の砥石(例えば、砥石3bp,3cp)については、図4(2)に示すように、少なくとも投影領域C1から外れた外端部を中心軸Laと平行に切り欠くことによって、摩耗が進んでも、砥石3b,3cの上部端面の外端部が、投影領域C1の側面SC1に沿ったまま摩耗するようにしている。
【0029】
また、本実施の形態1では、中心の砥石3aを全て使い切る場合であっても、条件外砥石(例えば、砥石3b,3c)が、投影領域C1の側面SC1に沿う形状で切り欠き面(例えば切り欠き面4a,4c)を維持できるように、砥石3の初期高さ等を設定してもよい。図2および図3に示す長さHbは、条件外砥石(例えば、砥石3b)において、投影領域C1の側面SC1と円弧A3とが交わる位置と、円弧A3sと側面SC1とが交わる位置とを、中心軸Laと平行となるように結んだ直線の長さである。本実施の形態1では、条件外砥石における中心軸Laの高さ方向において、第1の球面形状および投影領域の交点と、第2の球面形状および投影領域の交点とを結んだ直線の長さHbが、砥石3の初期高さHa以上となるように、各砥石3の初期高さHaや台皿2の上面2aの大きさ等を設定することも可能である。このように設定した場合には、中央の砥石3aが下部端面Pbまで摩耗するまで加工用工具1を使用した場合、すなわち、中央の砥石3aが初期高さHa分摩耗するまで加工用工具1を使用した場合であっても、外端部の砥石3b,3cの切り欠き面4a,4cは、投影領域C1の側面SC1に沿った形状を維持でき、加工用工具1は、加工工具径D1を維持できる。
【0030】
このように、本実施の形態1では、加工用工具1の加工工具径D1によって決まる条件に合わない条件外砥石が、条件に合うように、少なくとも中心軸Laと平行に外端部が切り欠かかれていることによって、砥石3の摩耗が進んでも、加工用工具1の加工工具径D1を一定に保持することができるため、光学素子の加工面品質を安定化でき、光学素子の品質を一定に維持することができる。
【0031】
さらに、本実施の形態1の加工用工具1は、同形状の砥石3のみで構成でき、複数の砥石3のうち、条件外砥石の外端部を、条件に合うように切り欠くだけの簡易な工程で製造できる。なお、砥石3は、上部端面が第1の球面形状に対応するように成形されており、かつ、初期高さHaの柱状体であれば、径が異なるものを複数種類用いてもよい。また、本実施の形態1では、不規則に砥石3を台皿2の上面2aに固定させた場合を例に説明したが、もちろん、規則的に固定してもよい。
【0032】
次に、加工用工具1を用いた光学素子の製造方法について、図5を参照して説明する。図5は、加工用工具1を用いて光学素子を製造する方法を説明するための一部断面図である。
【0033】
まず、図示しない研磨装置あるいは研削装置に、加工用工具1を取り付けるとともに、該研磨装置あるいは研削装置に設けられた治具(不図示)に加工対象の光学素子材料10を取り付け、光学素子材料10の被加工面10aに、加工用工具1の研削面である各砥石3の上面を当接させる工程を行う。続いて、研磨装置あるいは研削装置は、加工用工具1を台皿2の中心軸Laを回転軸として回転させるとともに、加工用工具1を揺動させることによって、光学素子材料10を研削または研磨する加工工程を行う。すなわち、研磨装置あるいは研削装置は、加工用工具1を矢印Y2のように回転させるとともに、矢印Y3のように揺動させる。その後、加工後の光学素子を治具から取り外すことによって、被加工面10aが砥石3の上面に対応する形状、すなわち、曲率半径がR1である球面形状に形成された光学素子を得ることができる。加工用工具1によれば、砥石3の摩耗が進んでも加工用工具1の加工工具径をD1に維持することができるため、光学素子の加工面品質を安定化することができる。なお、図5では、加工用工具1を光学素子の下に設置した場合であり、加工工具径D1が光学素子径よりも大きく設定された場合について例示したが、加工用工具1を光学素子の上に設置する場合には、加工工具径D1が光学素子径よりも小さく設定される。また、図5の例では、加工用工具1が斜めになっているが、上軸に設置された光学素子、または、上軸に設置された加工用工具が斜めになるように設定される場合もある。
【0034】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。図6は、実施の形態2にかかる光学素子の加工用工具を、該加工用工具の台皿の中心軸を通る平面で切断した図である。図7は、図6に示す加工用工具の要部(領域S2)の拡大図である。図6に示す実施の形態2にかかる加工用工具21は、光学素子材料を凹の球面形状に加工するためのものである。
【0035】
図6に示すように、加工用工具21は、台皿22と、台皿22の上面22a(固定領域)に接着剤6で固定された複数の砥石23とを備える。加工対象である光学素子材料の加工目標の球面形状は、台皿22の中心軸Lb上に球心が位置するとともに、曲率半径R3を有する。加工用工具21の加工工具径は、D2に設定される。図6では、中心軸Lbを中心とし直径が加工工具径D2である円を中心軸Lbに平行に投影した投影領域の側面を破線SC2で示す。図6の例では、複数の砥石23は、台皿22の上面22aに均等に配置する。
【0036】
台皿22は、上面22aが、所定の曲率を有しており、該台皿22の中心軸Lb上に球心O3が位置する球面形状に成形された形状を有する。上面22aの曲率半径は、曲率半径R3に、後述する砥石23の初期高さHcおよび接着剤6の厚さを引いた値R4となっている。台皿22を断面で見た場合、上面22aは、中心軸Lb上の点O3を球心とする曲率半径R4の球面形状に対応する円弧A22に沿った形状を成す。台皿22は、台皿2と同様の材料で形成される。
【0037】
砥石23は、砥石3と同様の材料から成る。複数の砥石23は、各々が、同じ初期高さHcを有する柱状体である。砥石23は、それぞれ、上部端面の初期形状が、台皿22の中心軸Lb上に球心O3が位置するとともに曲率半径R3を有する球面形状に成形された形状であって、中心軸Lb上の点O3を球心とする曲率半径R3の球面形状に対応する円弧A23に沿った形状を成す。各砥石23の下部端面は、それぞれ、台皿22の上面22aに接着剤6で固定される。
【0038】
最も早く摩耗する中央の砥石23aの上部端面Pcが下部端面Pdまで摩耗した場合には、各砥石23の上部端面は、円弧A23に沿った形状から、円弧A23sに沿った形状になる。円弧A23sは、球心が、球心O3を、砥石23の初期高さHc分、砥石23aの上部端面Pcから下部端面Pdに向かう方向に中心軸Lbに沿って移動した球心O4であって、曲率半径R3を有する球面形状に対応する。実施の形態2では、実施の形態1と同様に、投影領域の側面SC2よりも外の領域に一部が位置していた砥石23bについては、図7に示すように、投影領域の側面SC2から外れた部分25bが、少なくとも円弧A23sと側面SC2とが交わる位置の直上まで切り欠かれる。切り欠かれた部分の切り欠き面24bは側面SC2に沿った形状となる。また、砥石23cについても、図6に示すように、投影領域の側面SC2から外れた部分が、少なくとも円弧A23sと側面SC2とが交わる位置の直上まで切り欠かれており、側面SC2に沿った切り欠き面24cが形成される。
【0039】
また、加工用工具21においても、中心の砥石23aを全て使い切る場合であっても投影領域の側面SC2に沿う形状で切り欠き面(例えば切り欠き面24b,24c)が維持できるように、切り欠き面の高さ等を設定してもよい。図6および図7に示す長さHdは、投影領域の側面SC2と円弧A23とが交わる位置と、円弧A23sと側面SC2とが交わる位置とを、中心軸Lbと平行となるように結んだ直線の長さである。本実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、この長さHdが、砥石23の初期高さHc以上となるように設定することも可能であり、この場合には、中央の砥石23aが下部端面Pdまで摩耗するまで加工用工具21を使用した場合であっても、条件外砥石である砥石23b,23cの切り欠き面24b,24cが、投影領域の側面SC2に沿った形状を維持できるようにして、加工工具径D2を維持できるようにしている。
【0040】
また、実施の形態2においても、条件外砥石については、一定面積の砥面が確保できるように、該条件外砥石の中心が投影領域の内側に位置するように、各砥石23の固定位置が調整される。具体的には、砥石23b,23cのように、砥石23bの上部端面の中心Te(図6参照)および砥石23cの上面端面の中心Tf(図6参照)が、投影領域の側面SC2よりも内側に位置するように、砥石23b,23cの固定位置が設定される。
【0041】
図8は、図6に示す光学素子の加工用工具21の製造方法を説明する図である。加工用工具21は、図8(1)のように台皿22の上面22aに各砥石23が接着剤6で固定された後に、条件外砥石(例えば、砥石23bp,23cp)の投影領域の側面SC2から外れた部分が、図8(2)のように、投影領域の側面SC2に沿って、中心軸Lbと平行に切り欠かれることによって完成する。この切り欠き工程は、実施の形態1と同様に、CG機や、やすり等の研削切削工具を用いて実行される。
【0042】
実施の形態1でも説明したように、外側の砥石23bp,23cpの切り欠きがない場合には、中央の砥石23aが下部端面Pdまで摩耗すると、各砥石23の上部端面は円弧A23sに対応する球面形状になり、外端の砥石23bp,23cpの上部端面の外端が、加工に伴い投影領域の側面SC2の外側から側面SC2側に近づく、すなわち、投影領域の径が小さくなる。このため、加工用工具の加工工具径がD2(<D21)まで狭まってしまう。本実施の形態2においても、投影領域から外れた領域に一部が含まれる外端部の条件外砥石(例えば、砥石23b,23c)について、少なくとも投影領域の外側の部分を中心軸Lbと平行に切り欠いている。そして、加工用工具21についても、砥石23の摩耗が進んでも、外側の砥石23b,23cの上部端面の外端部が、投影領域の側面SC2に沿ったまま摩耗するようにして、加工用工具21の加工工具径D2をそのまま一定に保持できるようにしている。したがって、本実施の形態2にかかる加工用工具21においても、実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0043】
なお、図9は、加工用工具21を用いた光学素子の製造方法を説明するための一部断面図である。まず、図示しない研磨装置あるいは研削装置に、加工用工具21を取り付けるとともに、該研磨装置あるいは研削装置に設けられた治具(不図示)に加工対象の光学素子材料13を取り付け、光学素子材料13の被加工面13aに、加工用工具21の研削面である各砥石23の上面を当接させる工程を行う。続いて、研磨装置あるいは研削装置は、加工用工具21を台皿22の中心軸Lbを回転軸として矢印Y5のように回転させるとともに、加工用工具21を矢印Y6のように揺動させることによって、光学素子材料13を研削または研磨する加工工程を行う。その後、加工後の光学素子を治具から取り外すことによって、被加工面10aが曲率半径がR3である球面形状に形成された光学素子を得ることができる。加工用工具21によれば、砥石23の摩耗が進んでも加工用工具21の加工工具径をD2に維持することができるため、光学素子の加工面品質を安定化することができる。なお、実施の形態1と同様に、加工用工具21を光学素子の上に設置する場合には、加工工具径D2が光学素子径よりも小さく設定され、上軸に設置された光学素子、または、上軸に設置された加工用工具が斜めになるように設定される場合もある。
【符号の説明】
【0044】
1,21 加工用工具
2,22 台皿
2a,22a 上面
3,3a,3b,3c,3bp,3cp,23,23a,23b,23c,23bp,23cp 砥石
4a〜4c,24b,24c 切り欠き面
10,13 光学素子材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9