(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、優れた耐薬品性、耐熱性、電気絶縁性を備え、さらに自己潤滑性、非粘着性等の特性を有することから、工業的分野のみならず、日常生活の分野においても広範に使用されている。
【0003】
例えば、PTFEは、多孔質膜に加工されて用いられ、該PTFE多孔質膜は、例えばベントフィルターなどのフィルターに用いられる。
ベントフィルターは、例えば、携帯電話などの音響用マイクやカバーなどに用いられ、成形体内部の通気を確保し、かつ、圧力調整機能を保持しながら防水、防塵機能を該成形体に付与するフィルターである。
【0004】
ベントフィルターに用いられるPTFEとしては、現在では未延伸PTFEを延伸処理して多孔質化されたPTFE(ePTFE)が広く利用されている。
しかし、ePTFEは、PTFEの繊維状部分と結節部分とからなり、この独特の構造的特徴によってePTFEに照射された光線は実質的に全反射されるため、ePTFEの外観は真白色であるという特徴を有しており、白色であることが許容されない用途には向いていない。
【0005】
特に、携帯電話機などに用いられるベントフィルターとして、白色のePTFEを使用すると大きな問題が生じていた。例えば、黒色の携帯電話機に白色のePTFEからなるベントフィルターを用いると、該白色ベントフィルターが外観上ひどく目立つがゆえに利用者の好奇心を引き付け、利用者が不必要に該ベントフィルターに触ったり、不適当な加工を加えたりするなどして、該ベントフィルターの寿命が縮まるなどの問題が生じていた。
【0006】
このような問題は、特許文献1(特開平7−289865号公開公報)でも取り上げられている。特許文献1では、製品の意匠的な観点から、ベントフィルターに白色以外の色彩が求められる場合に、ePTFEからなる白色ベントフィルターを用いると、使用者の好奇心を呼び、筆記用具などの鋭利な先端部で白色ベントフィルターが突っつかれて防水性能を消失するなどの事故が生じるなどの問題を取り上げている。そして、特許文献1は、着色材とPTFEファインパウダーと液状潤滑剤を混合撹拌することにより得られる着色されたペースト状PTFEを原料とする、予め着色されたPTFEから得られる延伸多孔質PTFE膜のみからなるベントフィルターにより、そのような問題が解決すると教示している。
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたベントフィルターは、黒色(本明細書において、「黒色」とは、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)がN2.5以下であることをいう)に着色しようとした場合、灰色程度(上記明度(V)が小さくてもN3.2程度)までしか着色することができない。例えば、黒色の着色材の量を増やして明度を2.5以下の多孔質PTFE膜を作成しようとしても、延伸工程においてPTFEを均一かつ高倍率で延伸させることが困難となるため、通気性が低くベントフィルターに適した膜を得ることができない。そのため、物性の低下を招くことなく、該ベントフィルターの色をよりさらに黒色に近づける(上記明度をN2.5よりも小さくする)必要があった。
【0008】
ここで、特許文献1に記載された発明は、着色材とPTFEファインパウダーと液状潤滑剤を混合撹拌することにより得られる着色されたペースト状PTFEをベントフィルターの原料として用いることを特徴としており、製造工程に特徴のある発明である。
【0009】
そこで、特許文献1に記載された方法以外の方法を利用してPTFE成形体を製造する発明として、特許文献2(特表2012−515850号公開公報)をここで取り上げる。
【0010】
特許文献2には、エレクトロスピニング法(いわゆる電界紡糸法)によりPTFEマットを作成する方法が記載されている。しかし、特許文献2に記載の発明では、PTFEをエレクトロスピニングするための改良方法を提供することが課題とされ、上記PTFEの色に関する問題は認識されていない。それゆえ、特許文献2は、上記PTFEの色に関する問題を解決する手段をなんら教示するものではない。
【0011】
特許文献3(WO2009/031620号国際公開公報)には、水溶性基材を含有する水溶性電界紡糸シートが記載され、前記水溶性基材としてビニル系高分子、アクリル系高分子などが挙げられ、水溶性電界紡糸シートが着色成分を含む態様も記載されている。
【0012】
また、特許文献4(特開2012−12339号公開公報)には、着色顔料を含む高分子化合物のナノファイバーのシートを有するメイクアップ用シート状化粧料が記載され、該メイクアップ用シート状化粧料をエレクトロスピニング法により製造する製造方法も記載されている。
【0013】
しかし、特許文献3および特許文献4には、エレクトロスピニング法を利用した高分子化合物の着色方法について記載されているものの、PTFEに関する記載がなく、特許文献3および特許文献4では、PTFEを黒色に着色できないという問題は認識されていない。それゆえ、特許文献3および特許文献4は、上記PTFEの色に関する問題を解決する手段をなんら教示するものではない。また、特許文献3および特許文献4には、ベントフィルターなどのフィルターの用途に関しても何ら記載されていない。
このように、上記明度(V)がN2.5以下である黒色のPTFE多孔質膜は、従来知られていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来のPTFE多孔質膜に対して強度などの性能を損なうことなく、上記明度(V)がN2.5以下である黒色のPTFE多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノファイバー(E)および黒色着色材(B)を含む黒色着色材含有PTFEナノファイバー(D)を含み、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)が、N2.5以下であり、前記黒色着色材含有PTFEナノファイバー(D)が、少なくともPTFEまたは変性PTFE(A)を含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られることを特徴とする黒色PTFE多孔質膜により、上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
例えば、カーボン含有ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノファイバー(d)を含み、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)が、N2.5以下であり、前記カーボン含有PTFEナノファイバー(d)が、少なくともカーボン(b)の粉末とPTFEまたは変性PTFE(A)とを含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られるものである黒色PTFE多孔質膜により上記課題が解決される。
【0017】
本発明においては、バインダー樹脂であるPTFEまたは変性PTFEを含む紡糸液を、電界紡糸法に供することが重要な役割を果たしており、本発明に係るPTFE多孔質膜は、電界紡糸法によって得られ、黒色着色材で着色されているPTFEナノファイバーを含むことで、PTFE本来の優れた物性(耐薬品性、耐熱性、電気絶縁性、さらに自己潤滑性、非粘着性等)を具備した黒色(明度がN2.5以下)のPTFE多孔質膜が得られる。
例えば、黒色着色材がカーボンである場合は、バインダー樹脂であるPTFEまたは変性PTFEと着色材であるカーボン粉末とを含む紡糸液を、電界紡糸法に供してカーボン含有PTFEナノファイバーに成形することが重要な役割を果たしているものと推察される(後述の比較例が示すように、バインダー樹脂であるPTFEと着色材であるカーボンを混錬して押出法によって膜状に成形しても、上記明度(V)がN2.5以下である黒色のPTFE多孔質膜は得られない)。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0018】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノファイバー(E)および黒色着色材(B)を含む黒色着色材含有PTFEナノファイバー(D)を含み、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)が、N2.5以下であり、前記黒色着色材含有PTFEナノファイバー(D)が、少なくともPTFEまたは変性PTFE(A)を含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られることを特徴とする。
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、上記黒色着色材含有ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノファイバー(D)がカーボン含有ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノファイバー(d)であり、前記黒色着色材(B)が、カーボン(b)であり、前記カーボン含有PTFEナノファイバー(d)が、少なくともPTFEまたは変性PTFE(A)およびカーボン(b)の粉末を含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られることが、黒色PTFE多孔質膜の明度(V)を従来に比してより小さくできるなどの観点から好ましい。
【0019】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、前記黒色着色材(B)の量が、前記PTFE(A)100重量部に対して3〜20重量部であることが、PTFEまたは変性PTFE(A)に由来する物性を損なうことなく黒色PTFE多孔質膜の明度(V)を従来に比して小さくできるなどの観点から好ましい。
【0020】
本発明に係るフィルターは、上記黒色PTFE多孔質膜を具備することを特徴とする。
上記黒色PTFE多孔膜をフィルターとして用いる際には、通気性やろ過性能などフィルターとしての必要な特性を大きく損ねない限り、該フィルターは支持体や保護層などを具備する上記黒色PTFE多孔膜であってもよい。
本発明に係るベントフィルターは、上記フィルターからなることを特徴とする。
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜の製造方法は、少なくともポリテトラフルオロエチレン(PTFE)または変性PTFE(A)と、該PTFEまたは変性PTFE(A)100重量部に対して3〜20重量部のカーボン(b)の粉末と、粘度調整ポリマー(C)とを、水および/または有機溶媒中に分散して紡糸液を調製し、該紡糸液を電界紡糸法に供し、得られたカーボン含有PTFEナノファイバー(d)をシート状に堆積し、該カーボン含有PTFEナノファイバー(d)のシート状の堆積物を加熱して、シート状の堆積物に残留している前記水および/または有機溶媒および前記粘度調整ポリマー(C)を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノファイバー(E)および黒色着色材(B)を含む黒色着色材含有PTFEナノファイバー(D)を含み、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)が、N2.5以下であり、前記黒色着色材含有PTFEナノファイバー(D)が、少なくともPTFEまたは変性PTFE(A)を含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られたものであるので、JIS Z 8721に準じてマンセル記号で表した明度(V)がN2.5以下であり、黒色度に優れる。
例えば、本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、上記黒色着色材がカーボンである場合、カーボン含有PTFEナノファイバーを含み、該カーボン含有PTFEナノファイバーがカーボンの粉末とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)または変性PTFEとを含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られたものであるので、JIS Z 8721に準じてマンセル記号で表した明度(V)がN2.5以下であり、黒色度に優れる。
【0022】
そのため、本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、従来のPTFE多孔質膜と異なり、黒色であることを要求される用途、例えば、黒色の携帯電話やスピーカーのベントフィルターなどに好適に供することができる。
【0023】
また、本発明に係る黒色PTFE多孔質膜では、黒色度を高めるために、カーボン粉末等の黒色着色材をPTFE多孔質膜の性能を損なうまで多量に配合する必要がないので、通気性、撥水性、引張強度などにも優れる。特に、前記カーボン粉末等の黒色着色材が、前記PTFE100重量部に対して3〜20重量部の量で含まれる紡糸液を電界紡糸法に供することにより得られる黒色PTFE多孔質膜や電界紡糸法で紡糸されたPTFEナノファイバーを該PTFEナノファイバー100重量部に対して3〜20重量部となる量の前記カーボン粉末等の黒色着色材で着色した黒色PTFE多孔質膜では、上記黒色度や通気性、撥水性、引張強度などにより優れる。
【0024】
そのため、そのような黒色PTFE多孔質膜は、通気性、撥水性、引張強度なども要求される用途、例えば、フィルター、中でも特に、ベントフィルターなどにも好適に供することができる。
【0025】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、上記用途の中でも特に、黒色の携帯電話のベントフィルターなどのように、黒色であることに加えて、通気性、撥水性、引張強度なども要求される用途に非常に好適に供することができる。
【0026】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜の製造方法によれば、上記のような黒色PTFE多孔質膜を効率よく且つ生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る黒色PTFE多孔質膜、その製造方法および用途の最良の形態について詳述する。
なお、黒色PTFE多孔質膜中のPTFEや変性PTFEの量およびカーボン等の黒色着色材の量は、黒色PTFE多孔質膜の製造に原料として用いたPTFEや変性PTFEの量およびカーボン粉末等の黒色着色材の量に実質的に同じとして扱った。
【0029】
また、本明細書において、「黒色度」とは、上記明度がN9.5の白から上記明度がN1の黒までの範囲において、黒色(上記明度がN2.5以下)の範囲にあるか(黒色度が高い)、黒色(上記明度がN2.5以下)の範囲にないか(黒色度が低い)を表す用語である。「黒色度が高い」とは、明度がN2.5以下の黒を呈していることを表す。「黒色度が低い」とは、黒色(上記明度がN2.5以下)から離れた色(明度がN2.5を超えてN9.5までのグレーや白)を呈していることを表す。
【0030】
1.黒色PTFE多孔質膜
本発明に係る黒色ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノファイバー(E)および黒色着色材(B)を含む黒色着色材含有PTFEナノファイバー(D)を含み、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)が、N2.5以下であり、前記黒色着色材含有PTFEナノファイバー(D)が、少なくともPTFEまたは変性PTFE(A)を含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られることを特徴とする。
本発明に係る黒色ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜は、カーボン含有ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノファイバー(d)を含み、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)が、N2.5以下であり、前記カーボン含有PTFEナノファイバー(d)が、カーボン(b)の粉末とPTFEまたは変性PTFE(A)とを含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られることが、黒色PTFE多孔質膜の明度(V)を従来に比してより小さくできるなどの観点から好ましい。
PTFEまたは変性PTFEを電界紡糸して得られるナノファイバーを含む不織布状の多孔質膜は、繊維状部分と結束部分のような太さの異なる繊維構造が混在しているePTFEと比較して、繊維径の均一性が非常に高いため、通気性などのフィルター性能に好適に用いることができる。また、ePTFEと比較して、加熱による収縮が生じにくいため、リフロー工程などの加熱を含む製造過程によって特性がほとんど変化しないという利点を有する。
【0031】
[黒色PTFEナノファイバー(D)]
黒色PTFE多孔質膜に含まれる黒色PTFEナノファイバー(D)は、少なくともPTFEまたは変性PTFE(A)を含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られる。
(カーボン含有PTFEナノファイバー(d))
黒色PTFE多孔質膜に含まれるカーボン含有PTFEナノファイバー(D)は、カーボン含有PTFEナノファイバー(d)であることが、黒色PTFE多孔質膜の明度(V)を従来に比してより小さくできるなどの観点から好ましい。
カーボン含有PTFEナノファイバー(d)は、例えば、少なくともカーボン(b)の粉末とPTFEまたは変性PTFE(A)とを含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られる。
【0032】
[PTFEまたは変性PTFE(A)]
本明細書において、変性PTFEとは、テトラフルオロエチレンの単重合体および少量(たとえば0.5モル%以下)の他の単量体を共重合させて得られる。
【0033】
PTFEまたは変性PTFEは、黒色PTFE多孔質膜に付与されるPTFE樹脂の性能が極力損なわれないようにするという観点から、多孔質膜100重量部中、80〜97重量部の量で含まれることが好ましい。
【0034】
[黒色着色材(B)]
PTFEまたは変性PTFEを着色する着色材は、黒色以外の着色材であってもよいが、実用面等の観点から黒色着色材とする。
黒色着色材(B)としては、PTFEナノファイバーをN2.5以下に着色・染色できる材料であれば限定されず、例えば、カーボン、酸化鉄および金属錯体化合物などの無機系顔料やアジン系化合物などの有機系染料が挙げられる。
これら黒色着色材の中でも、無機系顔料が、PTFEナノファイバーと一体化してPTFEファイバーから脱落しにくく、長期に亘って黒色PTFEナノファイバーの黒色を維持できるという観点から好ましく、カーボンが、PTFEナノファイバーを効率よく黒色に着色できるという観点から特に好ましい。
これら黒色着色材(B)は、黒色PTFEナノファイバーに、1種単独で配合されてもよいし、2種以上が混合されて配合されてもよい。
以下、特に好ましい形態である、PTFEまたは変性PTFEおよびカーボン粉末を含む紡糸液を電界紡糸法に供して黒色PTFE多孔質膜を得る場合における、カーボンについて詳細に記載する。
黒色着色材がカーボン粉末であると、カーボン含有PTFEナノファイバー、ひいては、PTFE系多孔質膜をより明度の低い黒色に着色することが可能となる。
(カーボン(b))
本明細書において、カーボンの粉末とPTFEまたは変性PTFEとを含む紡糸液を電界紡糸法に供して黒色PTFE多孔質膜を得る場合におけるカーボンとは、後述する、電界紡糸法に供された紡糸液中や紡糸されたPTFEまたは変性PTFEナノファイバーを着色する際に用いられるカーボン(b)の粉末に由来する成分である。
【0035】
カーボンは、カーボン含有PTFEナノファイバー、ひいては、PTFE系多孔質膜を、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)がN2.5以下となるように黒色に着色するという観点から、JIS Z 8721に準じてマンセル記号であらわした明度(V)が、N2.5以下、好ましくは、N2.0〜1である炭素粉末(カーボンの粉末)に由来する成分であることが好ましい。
【0036】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、カーボンにより黒色に着色されたPTFEナノファイバーを含むので、黒色に着色されている。
カーボンは、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレンなどのカーボン粉末に由来する成分である。カーボン含有PTFEナノファイバー、ひいては、黒色PTFE多孔質膜を効率よく安価に黒色に着色するなどの観点からは、これらカーボンの中でも、カーボンブラックに由来する成分が好ましい。
【0037】
これらカーボンは、カーボン含有PTFEナノファイバーに、1種単独で配合されてもよいし、2種以上が混合されて配合されてもよい。
カーボン等の黒色着色材は、PTFE樹脂の性能を極力損なわずにカーボン含有PTFEナノファイバー等の黒色PTFEナノファイバー、ひいては、PTFE系多孔質膜を黒色に着色するという観点から、PTFE100重量部に対して3重量部以上であることが好ましく、特に、膜の諸物性の観点から黒色PTFE多孔質膜中のPTFE100重量部に対して3〜20重量部含まれていることが好ましい。カーボン等の黒色着色材の量は、後述するように、電界紡糸法に供する紡糸液中のカーボン等の黒色着色材の量や紡糸されたPTFEまたは変性PTFEナノファイバーを着色する際に用いるカーボン等の黒色着色材の量により調整できる。
【0038】
なお、黒色着色材が充填剤としての役割も果たせるもの、例えばカーボンである場合、PTFEまたは変性PTFE100重量部に対するカーボンの量は、カーボン含有PTFEナノファイバーの平均繊維径や黒色PTFE多孔質膜の厚み、目付、空隙、細孔径、通気性に影響を与え、また、カーボン含有PTFEナノファイバーおよび黒色PTFE多孔質膜の黒色度などの外観、撥水性、引張強度などにも影響を与える。これは、本発明において、カーボンが着色材としてのみならず、充填材としての役割も果たすためと推察される。
【0039】
そのため、PTFEまたは変性PTFE100重量部に対するカーボン等の黒色着色材のより好ましい量は、カーボン含有PTFEナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーや黒色PTFE多孔質膜に所望する性状などに依存する。これについては、後述の実施例の項目でデータを参照しながら詳述することとする。
【0040】
なお、カーボン含有PTFEナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーは、本発明の目的を損なわない限り、その他の充填材やその他のフッ素系樹脂材料を含んでいてもよい。但し、PTFE樹脂の性能を極力損なわずにPTFEナノファイバーを黒色に着色して黒色PTFE多孔質膜を得るという観点からは、カーボン含有PTFEナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーには、後述の熱処理後において、PTFEまたは変性PTFEおよびカーボン等の黒色着色材のみが前述したような量比で含まれることが好ましい。
【0041】
1−2.黒色PTFE多孔質膜の性状
以下に、本発明に係る黒色PTFE系多孔質膜の性状について述べるが、各種項目の測定方法、評価方法は、後述の実施例に記載された測定方法、評価方法に準ずればよい。
【0042】
[黒色度]
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜の黒色度は、JIS Z 8721に準じてマンセル記号で表した明度(V)で評価され、本発明の黒色PTFE多孔質膜の該明度(V)は通常N2.5以下、好ましくは、1.8以下、特に好ましくは、1.3以下であり、その下限値はいずれの場合も1.0である(表2)。
【0043】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜の黒色度(上記明度(V))は、例えば、PTFEまたは変性PTFEに対するカーボン等の黒色着色材の量を調整することで、上記範囲に調整することができる。なお、黒色PTFE多孔質膜中のPTFEまたは変性PTFEに対するカーボン等の黒色着色材(黒色PTFE多孔質膜における状態)の量は、電界紡糸液中のPTFEまたは変性PTFEに対するカーボン粉末等の黒色着色材(原料の状態)の量に実質的に等しい。よって、黒色PTFE多孔質膜中のPTFEまたは変性PTFEに対するカーボンの量等の黒色着色材の調整は、電界紡糸液中のPTFEまたは変性PTFEに対するカーボン粉末等の黒色着色材の量や電界紡糸されたPTFEナノファイバーに対するカーボン粉末等の黒色着色材の量を調整することで行えばよい(以下同じ)。
【0044】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、上記明度(V)はN2.5以下であり、上記明度(V)が、小さくてもN5.5程度の従来の延伸PTFE多孔質膜と異なり、黒色度が高いので、例えば、黒色の携帯電話用のベントフィルターなど、黒色であることが要求される用途に好適に供することができる。
【0045】
ここで、本明細書においては、上記明度(V)がN2.5以下のものを黒色であるといい、上記明度(V)がN2.5を超えてN8未満のものをグレーといい、上記明度(V)がN8〜N10であるものを白色という。
【0046】
なお、上記明度(V)は、カーボン含有PTFEナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーのみならず、その他材料にも同様に適用される。
JIS Z 8721に準じてマンセル記号で表した明度(V)は、無彩色(白、灰色、黒のように色味のない色)の場合、例えば、「N2.5」のように、N(無彩色であることを表す表示記号)と数値(色の明るさ、すなわち明度を表す)で表され、有彩色(赤、青、黄のように色味のある色)の場合と異なり、色相、彩度は表示されない。
【0047】
明度は、色の明るさを示し、通常、評価対象物の色と、色見本との色を比較して決定される。ここで、物理的定義上は、光の全反射する白が最高明度の白(即ちN10)であり、光を全吸収する黒が最低明度の黒(即ちN0)であるが、現実の色票(色見本)などではそのような白、黒の実現は不可能なので、通常は、最高明度の白をN9.5、最低明度の黒は1の値が用いられる。
【0048】
カーボン含有ナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーの表面にカーボンブラックなどの黒色着色材を選択的に露出することが出来るため、カーボン含有e−PTFE(後述の参考例1)と比較して高い黒色度を発揮することが出来ると推察される。また、カーボン含有ナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーは、PTFEまたは変性PTFEと例えばカーボン粉末とを含む紡糸液を電界紡糸法に供して得られる物である場合、後処理によるナノファイバー表面へのカーボン担持と比較して、カーボンの粉落ち(カーボン汚染)・剥離、色落ちがないという利点を保有している。
【0049】
[平均繊維径]
カーボン含有PTFEナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーの平均繊維径は、黒色PTFE多孔質膜に優れた通気性、撥水性などを付与するという観点から、400〜3000nmであることが好ましく、400〜1500nmであることがより好ましく、400〜1000nmであることがさらに好ましい。
【0050】
[厚み]
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜の厚みは、該多孔質膜の引っ張り強度、通気性などの観点から、10μm以上であることが好ましく、30〜300μmであることがより好ましい。
【0051】
[平均流量径]
本発明に係る黒色PTFE系多孔質膜の平均流量径(測定方法:バブルポイント法)は、優れた通気性を付与するという観点から、0.5〜5.0μmであることが好ましく、1.0〜3.0μmであることがより好ましく、1.0〜2.0μmであることがさらに好ましい。
【0052】
[通気性]
本発明に係る黒色PTFE系多孔質膜の通気性は、平均ガーレー値によって評価される。
本発明に係る黒色PTFE系多孔質膜のJIS P8117に準じて測定した平均ガーレーは、透気度(sec/100cc)に25(μm)/膜厚(μm)を乗じる事によって、25μm換算透気度(sec/100cc)とした。その黒色PTFE系多孔質膜に優れた通気性を付与するという観点から、0.3〜10.0s/100ccであることが好ましく、0.3〜3.0s/100ccであることがより好ましく、特に0.3〜2.0s/100ccであることがさらに好ましい。
【0053】
[撥水性]
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜の撥水性は、水接触角によって評価される。
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜の水接触角は、黒色PTFE多孔質膜に優れた撥水性を付与するという観点から、110〜150°であることが好ましく、130〜150°であることがより好ましい。
【0054】
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、水接触角が上記範囲にあると、撥水性などに優れるので、撥水性の要求される用途、例えば、携帯電話のベントフィルターなどに好適に供することができる。
【0055】
[引っ張り強度]
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜の引っ張り強度は、0.3〜20N/mm
2であることが好ましく、0.5〜10N/mm
2であることがより好ましく、1.2〜1.7N/mm
2であることがさらに好ましい。
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、引っ張り強度が上記範囲にあると、フィルターなどの用途に供しても、容易に破壊されたりしない。
【0056】
2.黒色PTFE多孔質膜の製造方法
本発明に係る黒色PTFE多孔質膜は、例えば、PTFEまたは変性PTFEおよびカーボン粉末等の黒色着色材を原料として、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)によりカーボン含有PTFEナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーを形成(あるいは製造)し、次いで、得られたカーボン含有PTFEナノファイバー等の黒色着色材含有PTFEナノファイバーを特定の条件下で熱処理することで製造できる。
紡糸液には、少なくともPTFEまたは変性PTFEが含まれていればよいが、以下では、黒色着色材がカーボンであり、少なくともカーボンの粉末とPTFEまたは変性PTFEとを含む紡糸液を電界紡糸法に供する場合を例に挙げて、順を追って説明する。
下記製造方法は、黒色着色材がカーボン粉末以外である場合にも、同様に適用できる。
また、例えば、PTFE粒子または変性PTFE粒子およびカーボン粉末が水および/または有機溶媒に分散されたディスパージョンの状態で添加された形態を、あらかじめPTFE粒子または変性PTFE粒子とカーボン粉末とを一体化(着色)処理して得られた粒子が水および/または有機溶媒に分散されたディスパージョンの状態で添加された形態に変えて応用することもできる。
【0057】
2−1.紡糸液の調整
まず、エレクトロスピニング(電界紡糸)に供するための紡糸液を調製する。
紡糸液には、PTFEまたは変性PTFEおよびカーボン粉末を、水および/または有機溶媒(例:クロロホルム、メタノール、ギ酸、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなど)に添加し、さらに粘度調整ポリマー(C)を必要に応じて添加して、紡糸液を調製する。
【0058】
粘度調整ポリマー(C)は、PTFEなど溶媒に不溶な材料の電界紡糸において用いるもので、紡糸液の粘度を所望の範囲に調整し、所望のカーボン含有PTFEナノファイバーを成形するために用いられ、その後の加熱処理により除去される。粘度調整ポリマー(C)としては、例えばポリエチレンオキサイド、デキストラン、アルギン酸、キトサン、でんぷん、ポリビニルピリジンコンパウンド、セルロースコンパウンド、セルロースエーテル、加水分解ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリカルボン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸などが挙げられる。
【0059】
また、溶媒としては、水、クロロホルム、メタノール、ギ酸、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらのうち、PTFE、カーボンなどを分散させる媒体としては、環境負荷の低減やコスト低減、取扱いの容易性、電界紡糸時の媒体の揮発性などの観点から、水が好ましい。
【0060】
紡糸液を調製する際、PTFEまたは変性PTFEやカーボン粉末は、紡糸液を調製できる限り、どのような形で紡糸液に添加されてもよい。均一に分散し、所望の紡糸を可能にするなどの観点から、水および/または有機溶媒に分散されたディスパージョンの状態で添加されることが好ましい。またPTFEまたは変性PTFE粒子とカーボン粉末の付着性制御のため、ディスパージョンの状態で撹拌処理、加熱冷却処理、電荷(pH)調整処理等を行ってもよい。
【0061】
カーボン粉末の分散液においては、ナノファイバーの繊維径を大きく増加させずにPTFEナノファイバーとカーボンを一体化させると共にPTFE樹脂の性能を極力損なわずに、カーボン含有PTFEナノファイバー、ひいては、多孔質膜を黒色に着色するなどの観点から、カーボン粉末の平均2次粒子径が、50〜1000nmであることが好ましく、80〜550nmであることがより好ましく、80〜280nmであることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、平均2次粒子径とは、単一の粒子である一次粒子(分割することのできない最小粒子)の凝集体である2次粒子の平均直径を示すものであり、分散液等における実測の粒子径として観測される。またカーボン粉末の好ましい平均一次粒子径は、PTFEナノファイバーを効率よく黒色に着色するなどの観点から、1〜100nmであることが好ましく、5〜80nmであることがより好ましく、8〜20nmであることが更に好ましい。
カーボン粉末の一次粒子の大きさは、上記観点からPTFE粒子の一次粒子の大きさに対して、1/5〜1/50が好ましく、1/10〜1/20がより好ましい。
上記平均2次粒子径は、レーザー回折法で測定する。
なお、PTFE粒子の平均一次粒子は、10〜500nmであることが好ましく、30〜400nmであることがより好ましく、50〜300nmであることが更に好ましい。
【0062】
また、分散液中のカーボン粉末の含量は、紡糸液の粘度やカーボン含有PTFEナノファイバーの繊維径、引っ張り強度などの観点から、1〜20重量部であることがより好ましく、30重量部以下であることが好ましく、3〜20重量部であることがさらに好ましい。
【0063】
また、市販されているカーボン粉末の分散液としては、アクアブラック162(親水性カーボンブラック、東海カーボン株式会社製、平均2次粒子径110nm、カーボンブラック濃度20重量%)、アクアブラック001などが挙げられる。
【0064】
PTFEや変性PTFEは、従来法に従って製造したものであってもよいし、市販のものでもよい。
また、市販されているPTFEまたは変性PTFEのディスパージョンとしては、D210−C(ダイキン工業株式会社製、PTFE含有量60重量%、平均粒子径230nm)などが挙げられる。
【0065】
また、紡糸液の粘度は、得られるカーボン含有PTFE系ナノファイバーの形状や性状(例えば繊維径、引っ張り強度など)に影響を与えるため、500〜300000mPa・sであることが好ましく、500〜50000mPa・sであることがより好ましく、特に、1000〜30000mPa・sであることが好ましい。
【0066】
紡糸液の粘度は、粘度調整剤を適宜の量で紡糸液に添加することで上記範囲に調整すればよい。紡糸液の粘度が上記範囲より高い場合は、紡糸液に、水および/または有機溶媒を添加するなどして上記範囲に調整すればよい。
【0067】
2−2.電界紡糸(エレクトロスピニング)
上記のように調製された紡糸液は、電界紡糸装置に供されて、次いで、電界紡糸が実施される。
【0068】
電界紡糸は、例えば、米国特開2010/0193999 A1号公報に記載の方法などにより実施することができる。
ここで、
図1を電界紡糸法の一例として取り挙げ、これを参照しながら電界紡糸法の概略を説明する。
【0069】
電界紡糸装置1には、紡糸液を貯留した容器2と直流電圧電源4に接続されたターゲット電極とが設けられる。容器2の先端(下端)には、紡糸液を放出可能なスピナレット3が設けられている。ここで、スピナレット3とコレクター5との間に高電圧をかけた状態で、スピナレット3から紡糸液を放出させると、紡糸液がスピナレット3を通過する際にPTFE、カーボンなどが静電的に帯電し、紡糸液がスピナレット3から(その下方の)コレクター5に移動する間に、電気力線に沿って繊維(ナノファイバー6)が形成され、コレクター5上にナノファイバー6が集積され、ナノファイバーの不織布7が形成される(ナノファイバーの不織布の電子顕微鏡写真8も参照)。
【0070】
上記コレクター5としては、シート型、ドラム型、移動ベルト型などが挙げられる。コレクター5を構成する材料としては、鉄、アルミニウムや銅などの金属などが挙げられる。コレクター5の型や材料種は、上記電界紡糸が実施できる限り、特に制限されず、目的に応じて適宜選択すればよい。スピナレット3には、必要により、紡糸効率を向上させる等のために、紡糸液加熱機構が設けられる。
【0071】
このような、電界紡糸装置(例えば、ES−2300、株式会社ヒューエンス製)に供して電界紡糸を実施することで、カーボン含有PTFEナノファイバーが紡糸される。紡糸されたカーボン含有PTFEナノファイバーは、通常、予め設置されたコレクター上に集積され、カーボン含有PTFEナノファイバーからなるシート状の堆積物が形成される。
【0072】
2−3.加熱処理
上記のようにして得られたカーボン含有PTFEナノファイバーのシート状の堆積物を以下のように加熱処理すると、本発明に係る黒色PTFE多孔質膜を得ることができる。
【0073】
該加熱処理は、通常カーボン含有PTFEナノファイバー(D)のシート状の堆積物を、200〜390℃、30〜300分間の条件で熱処理して行われる。
カーボン含有PTFE系ナノファイバーのシート状の堆積物は、例えば、DRH453WA(アドバンテック東洋株式会社製)のような電気炉などの中で、昇温速度1〜10℃/分で、室温(通常25℃程度)から200〜390℃程度まで昇温し、該200〜390℃程度に達したら、該温度で30〜300分間維持する。
【0074】
但し、200〜390℃での加熱時間が全体で300分間以下となるように調整することが好ましい。
この加熱処理により、シート状の堆積物に残留している前記水および/または有機溶媒および前記粘度調整ポリマーが除去される。
このようにして、カーボン含有PTFE系ナノファイバーを含むPTFE多孔質膜(PTFE不織布)を製造することができる。
【実施例】
【0075】
次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]
PTFEディスパージョン45重量部に、親水性カーボンブラックディスパージョン4.2重量部、ポリエチレンオキサイド2.3重量部を添加して紡糸液を調製した。得られた紡糸液を電界紡糸装置(ES−2300、株式会社ヒューエンス製)に供して、下記表1に記載された条件で電界紡糸を行い、電界紡糸された黒色のカーボンブラック含有PTFEナノファイバーをコレクター上に集積させて、シート状の堆積物を得た。
【0076】
原材料の詳細は、以下の通りである。
・PTFEディスパージョン:製品番号D210−C、ダイキン工業株式会社製、PTFE含有量60重量%、平均1次粒子径220nm(カタログ値)。
・親水性カーボンブラックディスパージョン:製品名アクアブラック162、東海カーボン株式会社製、平均2次粒子径110nm(カタログ値)、カーボンブラック(CB)濃度20重量%。
・ポリエチレンオキサイド(PEO):SIGMA-ALDRICH Co.社製、分子量300000。
【0077】
【表1】
【0078】
次いで、得られたカーボンブラック含有PTFEナノファイバーの堆積物を、電気炉(DRH453WA、アドバンテック東洋株式会社製)に供して、室温から360℃まで昇温速度2℃/minで加熱し、360℃で30分間維持して、カーボンブラック含有PTFEナノファイバーの不織布からなる黒色PTFE多孔膜を製造した。得られた黒色PTFE多孔膜について、以下の評価を行い、各種評価結果は表2に示した。
【0079】
なお、表2中のPTFE100重量部に対するCB重量部を算出するに当たっては、紡糸液中のPTFEの量およびカーボン粉末の量が、得られた多孔質PTFE膜中のPTFEの量およびカーボン粉末の量と等しいものとした。そして、CBの量は、(親水性カーボンブラックディスパージョンの量×該親水性カーボンブラックディスパージョン中のカーボンブラックの重量%濃度)/100より求め、PTFEの量は、(PTFEディスパージョンの量×該PTFEディスパージョン中のPTFE含量%濃度)/100により求めた。
【0080】
(1)紡糸液の粘度測定
粘度測定は、東機産業株式会社製粘度計(TVB−10H)及び少量サンプルアダプターを利用し、25℃で測定を行った。
(2)PTFE多孔膜の明度測定
コニカミノルタ株式会社製色彩色差計(CR−400)を使用して、PTFE多孔膜について明度(マンセル記号表記)の測定を行った。
(3)PTFE多孔膜の外観観察
デジタルカメラで撮影し、PTFE多孔膜の外観と色を評価した。
(4)PTFEナノファイバーの平均繊維径
株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査型電子顕微鏡(S−3400N)を用い、測定対象となるPTFE多孔膜について、無作為にSEM観察の領域を選択し、この領域をSEM観察(倍率:10,000倍)して無作為に10本のPTFEナノファイバーを選択し、それらナノファイバーの断面を観察し、繊維径の平均値を算出して得られた値を平均繊維径とした。
(5)厚み
株式会社ミツトヨ社製高精度デジタル測長機(LITEMATIC VL-50)を用いて、測定力0.01Nの条件で膜厚の測定を実施した。
(6)空孔率
測定した厚み、目付け、及び使用した各素材の比重より次式より算出した。
空孔率(%)={1−目付け(g/m
2)/比重(g/cm
3)/厚み(mm)/1000)}×100
(7)PTFE多孔膜の平均流量孔径
ASTM F316−86に準じて、Porous Materials Inc.社製パームポロメーター(CFP−1200−AEL 多孔質材料自動細孔径分布測定システム)でバブルポイント法により測定を行った。
透気度はJIS P−8117に準拠した評価測定を行い、透気度(sec/100cc)に25(μm)/膜厚(μm)を乗じる事によって、25μm換算透気度(sec/100cc)とした。
(8)PTFE多孔膜の撥水性
撥水性評価としての水接触角はJIS R3257に準拠し、協和界面化学株式会社製接触角計(CA−X)を用いて、PTFE多孔膜の膜表面を評価した。
(9)PTFE多孔膜の引っ張り強度
引張強度測定はJIS K7161に準拠し、株式会社島津製作所社製引張試験機(EZ−TEST)にて評価した。
【0081】
[実施例2〜3、比較例1〜3]
PTFEディスパージョン、CBディスパージョン、PEOの量を表2に記載の通りに替えた以外は、実施例1と同様に、PTFE多孔膜を製造し、各種測定を行った。
結果を表2に示す。
【0082】
[参考例1]
PTFEファインパウダーにカーボンブラックを1.5wt%添加混合し、次に液状潤滑剤を混合し予備成形し、予備成形体をペースト押出しして、テープ状に形成したものを、2軸方向に延伸して多孔化されて得られた、厚み32μm、空孔率80%のグレー色のePTFE膜について各種測定を行った。
【0083】
【表2】
以下に、上記実施例、比較例に関して考察を述べるが、上記結果から理解できる事項が下記に限られるものではない。
【0084】
[外観観察、黒色度]
図2から分かるように、PTFEの量に対するカーボンブラック(CB)の量を増加させる(即ち「PTFE100重量部に対するCB重量部を増加させる)ことで、CB含有PTFEナノファイバーの黒色化が進行し、PTFE多孔質膜の黒色化も進行した。CB不含有PTFEナノファイバー(PTFE100重量部に対してCB0重量部)は白色であり、PTFE100重量部に対するCB重量部が1.5であるCB含有PTFEナノファイバーは明度3.2のグレーであった。PTFE100重量部に対するカーボン(CB)重量部が3.0重量部以上であるCB含有PTFEナノファイバーは黒色(明度がN2.5以下)であることが確認された。
【0085】
また、PTFE多孔質膜を、電界紡糸法により得られるCB含有PTFEナノファイバーをシート状にして製造するのではなく、押出・圧延法によって製造した場合は、PTFE100重量部に対するCB重量部が1.5重量部で明度5.5のグレーであった。
【0086】
[CB含有PTFEナノファイバーの平均繊維径]
PTFE100重量部に対するCB重量部が0〜10重量部までは、CB含有PTFEナノファイバーの平均繊維径はほとんど変化せず、PTFE100重量部に対するCB重量部が20重量部以上では、CB含有PTFEナノファイバーの平均繊維径が細くなることが確認された。これは、CBが紡糸液に添加されることにより紡糸液の導電性が向上することで、電界紡糸法によってより細いナノファイバーの形成が可能となったと推察される。また、CB一次粒子の大きさがPTFE一次粒子の大きさに比べて非常に小さい(CB一次粒子の粒子径がPTFE一次粒子の粒子径に対して約1/10〜1/20と考えられる)と考えられ、PTFE粒子及びCB粒子を電界紡糸法に供すると、CB粒子の一部がPTFEナノファイバーを形成しているPTFE粒子間の隙間に入り込むことが可能となり、CB含有PTFEナノファイバーの繊維径が大きく増加しなかったと推測される。
【0087】
[PTFE多孔質膜の通気性]
図3にPTFE100重量部に対するCB重量部とPTFE多孔質膜の通気性評価結果を示した。
【0088】
図3から分かるように、PTFE100重量部に対するCB重量部が増加するにしたがって、通気性は向上する。これは、PTFE多孔膜のCB量増加による空孔率の増加と細繊維化によるものであると評価する事が出来る。
【0089】
[PTFE多孔質膜の撥水性]
図4に、PTFE100重量部に対するCB重量部とPTFE多孔質膜の接触角の変化を示した。
【0090】
PTFE100重量部に対するCB重量部が3〜20重量部の範囲ではPTFE多孔質膜の接触角が144〜145°程度と、CB不含有PTFE多孔膜より高い接触角を示した。これは、空孔率増加と細繊維化により撥水性が向上したと考察する。
【0091】
[引っ張り強度]
PTFE100重量部に対するCB重量部が20重量部までの範囲では、CB不含有PTFEナノファイバーからなるPTFE多孔質膜と同程度もしくは優れた引っ張り強度を示したが、PTFE100重量部に対するCB重量部が30重量部の黒色PTFE多孔質膜では、引っ張り強度が大きく低下していた。