(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多分散性(Mw/Mn;酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値)が1.2〜2.5である請求項1又は2に記載の酢酸セルロース。
重量平均重合度(DPw;酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値)が50〜800である請求項1〜3の何れか1項に記載の酢酸セルロース。
請求項1〜4の何れか1項に記載の酢酸セルロースの製造方法であって、酢酸セルロースを90℃以上の温度で部分的に加水分解して低置換度化することを特徴とする酢酸セルロースの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の酢酸セルロースは、アセチル総置換度が0.4〜1.1であり、且つ組成分布半値幅の理論値に対する実測値の比率で定義される組成分布指数(CDI)が3.0以下である。
【0020】
(アセチル総置換度)
本発明の酢酸セルロースは、アセチル総置換度(平均置換度)が0.4〜1.1である。アセチル総置換度がこの範囲であると水に対する溶解性に優れ、この範囲を外れると水に対する溶解性が低下する。本発明の酢酸セルロースにおいて、アセチル総置換度の好ましい範囲は0.5〜1.0であり、さらに好ましい範囲は0.6〜0.95である。アセチル総置換度は、酢酸セルロースを水に溶解し、酢酸セルロースの置換度を求める公知の滴定法により測定できる。また、該アセチル総置換度は、酢酸セルロースの水酸基をプロピオニル化した上で(後述の方法参照)、重クロロホルムに溶解し、NMRにより測定することもできる。
【0021】
アセチル総置換度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定法に準じて求めた酢化度を次式で換算することにより求められる。これは、最も一般的なセルロースアセテートの置換度の求め方である。
DS=162.14×AV×0.01/(60.052−42.037×AV×0.01)
DS:アセチル総置換度
AV:酢化度(%)
まず、乾燥した酢酸セルロース(試料)500mgを精秤し、超純水とアセトンとの混合溶媒(容量比4:1)50mlに溶解した後、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液50mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。次に、0.2N−塩酸50mlを添加し、フェノールフタレインを指示薬として、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液(0.2N−水酸化ナトリウム規定液)で、脱離した酢酸量を滴定する。また、同様の方法によりブランク試験(試料を用いない試験)を行う。そして、下記式にしたがってAV(酢化度)(%)を算出する。
AV(%)=(A−B)×F×1.201/試料重量(g)
A:0.2N−水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
B:ブランクテストにおける0.2N−水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
F:0.2N−水酸化ナトリウム規定液のファクター
【0022】
(組成分布指数(CDI))
本発明の酢酸セルロースは、組成分布指数(CDI)が3.0以下(例えば、1.0〜3.0)である。組成分布指数(CDI)は、好ましくは2.8以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.8以下、特に好ましくは1.6以下であり、最も好ましくは1.3以下である。
【0023】
組成分布指数(CDI)の下限値は0であるが、これは例えば100%の選択性でグルコース残基の6位のみをアセチル化し、他の位置はアセチル化しない等の特別な合成技術をもって実現されるものであり、そのような合成技術は知られていない。グルコース残基の水酸基の全てが同じ確率でアセチル化および脱アセチル化される状況において、CDIは1.0となるが、実際のセルロースの反応においてはこのような理想状態に近付けるためには相当の工夫を要する。従来の技術においては、このような組成分布の制御についてはあまり関心が払われていなかった。
【0024】
本発明の酢酸セルロースは組成分布指数(CDI)が小さく、組成分布(分子間置換度分布)が均一であるため、低置換度であっても、フィルムとした時の強伸度が非常に高い。これは、組成分布が均一であることにより、フィルム構造の欠陥が減少するためである。また、組成分布が均一であるため、総置換度が通常よりも広い範囲で水溶性を確保できる。
【0025】
ここで、組成分布指数(Compositional Distribution Index, CDI)とは、組成分布半値幅の理論値に対する実測値の比率[(組成分布半値幅の実測値)/(組成分布半値幅の理論値)]で定義される。組成分布半値幅は「分子間置換度分布半値幅」又は単に「置換度分布半値幅」ともいう。
【0026】
酢酸セルロースのアセチル総置換度の均一性を評価するのに、酢酸セルロースの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅(「半価幅」ともいう)の大きさを指標とすることができる。なお、半値幅は、アセチル置換度を横軸(x軸)に、この置換度における存在量を縦軸(y軸)としたとき、チャートのピークの高さの半分の高さにおけるチャートの幅であり、分布のバラツキの目安を表す指標である。置換度分布半値幅は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により求めることができる。なお、HPLCにおけるセルロースエステルの溶出曲線の横軸(溶出時間)を置換度(0〜3)に換算する方法については、特開2003-201301号公報(段落0037〜0040)に説明されている。
【0027】
(組成分布半値幅の理論値)
組成分布半値幅(置換度分布半値幅)は確率論的に理論値を算出できる。すなわち、組成分布半値幅の理論値は以下の式(1)で求められる。
【数3】
m:酢酸セルロース1分子中の水酸基とアセチル基の全数
p:酢酸セルロース1分子中の水酸基がアセチル置換されている確率
q=1−p
DPw:重量平均重合度(GPC−光散乱法による)
なお、重量平均重合度(DPw)の測定法は後述する。
【0028】
さらに、組成分布半値幅の理論値を置換度と重合度で表すと、以下のように表される。本発明では下記式(2)を組成分布半値幅の理論値を求める定義式とする。
【数4】
DS:アセチル総置換度
DPw:重量平均重合度(GPC−光散乱法による)
なお、重量平均重合度(DPw)の測定法は後述する。
【0029】
ところで、式(1)および式(2)においては、より厳密には重合度分布を考慮に入れるべきであり、この場合には式(1)および式(2)の「DPw」は、重合度分布関数に置き換え、式全体を重合度0から無限大までで積分すべきである。しかしながら、DPwを使う限り、式(1)および式(2)は近似的に十分な精度の理論値を与える。DPn(数平均重合度)を使うと、重合度分布の影響が無視できなくなるので、DPwを使うべきである。
【0030】
(組成分布半値幅の実測値)
本発明において、組成分布半値幅の実測値とは、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基(未置換水酸基)をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートをHPLC分析して求めた組成分布半値幅である。
【0031】
一般的に、アセチル総置換度2〜3の酢酸セルロースに対しては、前処理なしに高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析を行うことができ、それによって組成分布半値幅を求めることができる。例えば、特開2011−158664号公報には、置換度2.27〜2.56の酢酸セルロースに対する組成分布分析法が記載されている。
【0032】
一方、本発明においては、組成分布半値幅(置換度分布半値幅)の実測値は、HPLC分析前に前処理として酢酸セルロースの分子内残存水酸基の誘導体化を行い、しかる後にHPLC分析を行って求める。この前処理の目的は、低置換度酢酸セルロースを有機溶剤に溶解しやすい誘導体に変換してHPLC分析可能とすることである。すなわち、分子内の残存水酸基を完全にプロピオニル化し、その完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)をHPLC分析して組成分布半値幅(実測値)を求める。ここで、誘導体化は完全に行われ、分子内に残存水酸基はなく、アセチル基とプロピオニル基のみ存在していなければいけない。すなわち、アセチル置換度(DSac)とプロピオニル置換度(DSpr)の和は3である。これは、CAPのHPLC溶出曲線の横軸(溶出時間)をアセチル置換度(0〜3)に変換するための較正曲線を作成するために関係式:DSac+DSpr=3を使用するためである。
【0033】
酢酸セルロースの完全誘導体化は、ピリジン/N,N−ジメチルアセトアミド混合溶媒中でN,N−ジメチルアミノピリジンを触媒とし、無水プロピオン酸を作用させることにより行うことができる。より具体的には、溶媒として混合溶媒[ピリジン/N,N−ジメチルアセトアミド=1/1(v/v)]を酢酸セルロース(試料)に対して20重量部、プロピオニル化剤として無水プロピオン酸を該酢酸セルロースの水酸基に対して6.0〜7.5当量、触媒としてN,N−ジメチルアミノピリジンを該酢酸セルロースの水酸基に対して6.5〜8.0mol%使用し、温度100℃、反応時間1.5〜3.0時間の条件でプロピオニル化を行う。そして、反応後、沈殿溶媒としてメタノールを用い、沈殿させることにより、完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネートを得る。より詳細には、例えば、室温で、反応混合物1重量部をメタノール10重量部に投入して沈澱させ、得られた沈殿物をメタノールで5回洗浄し、60℃で真空乾燥を3時間行うことにより、完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を得ることができる。なお、後述の多分散性(Mw/Mn)及び重量平均重合度(DPw)も、酢酸セルロース(試料)をこの方法により完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とし、測定したものである。
【0034】
上記HPLC分析では、異なるアセチル置換度を有する複数のセルロースアセテートプロピオネートを標準試料として用いて所定の測定装置および測定条件でHPLC分析を行い、これらの標準試料の分析値を用いて作成した較正曲線[セルロースアセテートプロピオネートの溶出時間とアセチル置換度(0〜3)との関係を示す曲線、通常、三次曲線]から、酢酸セルロース(試料)の組成分布半値幅(実測値)を求めることができる。HPLC分析で求められるのは溶出時間とセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度分布の関係である。これは、試料分子内の残存ヒドロキシ基のすべてがプロピオニルオキシ基に変換された物質の溶出時間とアセチル置換度分布の関係であるから、本発明の酢酸セルロースのアセチル置換度分布を求めていることと本質的には変わらない。
【0035】
上記HPLC分析の条件は以下の通りである。
装置: Agilent 1100 Series
カラム: Waters Nova−Pak phenyl 60Å 4μm(150mm×3.9mmΦ)+ガードカラム
カラム温度:30℃
検出: Varian 380−LC
注入量: 5.0μL(試料濃度:0.1%(wt/vol))
溶離液: A液:MeOH/H
2O=8/1(v/v),B液:CHCl
3/MeOH=8/1(v/v)
グラジェント:A/B=80/20→0/100(28min);流量:0.7mL/min
【0036】
較正曲線から求めた置換度分布曲線[セルロースアセテートプロピオネートの存在量を縦軸とし、アセチル置換度を横軸とするセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布曲線](「分子間置換度分布曲線」ともいう)において、平均置換度に対応する最大ピーク(E)に関し、以下のようにして置換度分布半値幅を求める。ピーク(E)の低置換度側の基部(A)と、高置換度側の基部(B)に接するベースライン(A−B)を引き、このベースラインに対して、最大ピーク(E)から横軸に垂線をおろす。垂線とベースライン(A−B)との交点(C)を決定し、最大ピーク(E)と交点(C)との中間点(D)を求める。中間点(D)を通って、ベースライン(A−B)と平行な直線を引き、分子間置換度分布曲線との二つの交点(A'、B')を求める。二つの交点(A'、B')から横軸まで垂線をおろして、横軸上の二つの交点間の幅を、最大ピークの半値幅(すなわち、置換度分布半値幅)とする。
【0037】
このような置換度分布半値幅は、試料中のセルロースアセテートプロピオネートの分子鎖について、その構成する高分子鎖一本一本のグルコース環の水酸基がどの程度アセチル化されているかにより、保持時間(リテンションタイム)が異なることを反映している。したがって、理想的には、保持時間の幅が、(置換度単位の)組成分布の幅を示すことになる。しかしながら、HPLCには分配に寄与しない管部(カラムを保護するためのガイドカラムなど)が存在する。それゆえ、測定装置の構成により、組成分布の幅に起因しない保持時間の幅が誤差として内包されることが多い。この誤差は、上記の通り、カラムの長さ、内径、カラムから検出器までの長さや取り回しなどに影響され、装置構成により異なる。このため、セルロースアセテートプロピオネートの置換度分布半値幅は、通常、下式で表される補正式に基づいて、補正値Zとして求めることができる。このような補正式を用いると、測定装置(および測定条件)が異なっても、同じ(ほぼ同じ)値として、より正確な置換度分布半値幅(実測値)を求めることができる。
Z=(X
2−Y
2)
1/2
[式中、Xは所定の測定装置および測定条件で求めた置換度分布半値幅(未補正値)である。Y=(a−b)x/3+b(0≦x≦3)である。ここで、aは前記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた総置換度3のセルロースアセテートの見掛けの置換度分布半値幅(実際は総置換度3なので、置換度分布は存在しない)、bは前記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた総置換度3のセルロースプロピオネートの見掛けの置換度分布半値幅である。xは測定試料のアセチル総置換度(0≦x≦3)である]
【0038】
なお、上記総置換度3のセルロースアセテート(もしくはセルロースプロピオネート)とは、セルロースのヒドロキシル基の全てがエステル化されたセルロースエステルを示し、実際には(理想的には)置換度分布半値幅を有しない(すなわち、置換度分布半値幅0の)セルロースエステルである。
【0039】
本発明の酢酸セルロースの組成分布半値幅(置換度分布半値幅)の実測値としては、好ましくは0.12〜0.34であり、より好ましくは0.13〜0.25である。
【0040】
先に説明した置換度分布理論式は、すべてのアセチル化と脱アセチル化が独立かつ均等に進行することを仮定した確率論的計算値である。すなわち、二項分布に従った計算値である。このような理想的な状況は現実的にはあり得ない。酢酸セルロースの加水分解反応が理想的なランダム反応に近づくような、および/または、反応後の後処理について組成について分画が生じるような特別な工夫をしない限り、セルロースエステルの置換度分布は確率論的に二項分布で定まるものよりも大幅に広くなる。
【0041】
反応の特別な工夫の一つとしては、例えば、脱アセチル化とアセチル化が平衡する条件で系を維持することが考えられる。しかし、この場合には酸触媒によりセルロースの分解が進行するので好ましくない。他の反応の特別な工夫としては、脱アセチル化速度が低置換度物について遅くなる反応条件を採用することである。しかし、従来、そのような具体的な方法は知られていない。つまり、セルロースエステルの置換度分布を反応確率論通り二項分布にしたがうよう制御するような反応の特別な工夫は知られていない。さらに、酢化過程(セルロースのアセチル化工程)の不均一性や、熟成過程(酢酸セルロースの加水分解工程)で段階的に添加する水による部分的、一時的な沈殿の発生などの様々な事情は、置換度分布を二項分布よりも広くする方向に働き、これらを全て回避し、理想条件を実現することは、現実的には不可能である。これは、理想気体があくまで理想の産物であり、実在する気体の挙動はそれとは多かれ少なかれ異なることと似ている。
【0042】
従来の低置換度酢酸セルロースの合成と後処理においては、このような置換度分布の問題について殆ど関心が払われておらず、置換度分布の測定や検証、考察が行われていなかった。例えば、文献(繊維学会誌、42、p25 (1986))によれば、低置換度酢酸セルロースの溶解性は、グルコース残基2、3、6位へのアセチル基の分配で決まると論じられており、組成分布は全く考慮されていない。
【0043】
本発明によれば、後述するように、酢酸セルロースの置換度分布は、驚くべきことに酢酸セルロースの加水分解工程の後の後処理条件の工夫で制御することができる。文献(CiBment, L., and Rivibre, C., Bull. SOC. chim., (5) 1, 1075 (1934)、Sookne, A. M., Rutherford, H. A., Mark, H., and Harris, M. J . Research Natl. Bur. Standards, 29, 123 (1942)、A. J. Rosenthal , B. B. White Ind. Eng. Chem., 1952, 44 (11), pp 2693-2696.)によれば、置換度2.3の酢酸セルロースの沈澱分別では、分子量に依存した分画と置換度(化学組成)に伴う微々たる分画が起こるとされており、本発明のように置換度(化学組成)で顕著な分画ができるとの報告はない。さらに、本発明のような低置換度酢酸セルロースについて、溶解分別や沈澱分別で置換度分布(化学組成)を制御できることは検証されていなかった。
【0044】
本発明者らが見出した置換度分布を狭くするもう1つの工夫は、酢酸セルロースの90℃以上の(又は90℃を超える)高温での加水分解反応(熟成反応)である。従来、高温反応で得られた生成物の重合度について詳細な分析や考察がなされて来なかったにもかかわらず、90℃以上の高温反応ではセルロースの分解が優先するとされてきた。この考えは、粘度に関する考察のみに基づいた思い込み(ステレオタイプ)と言える。本発明者らは、酢酸セルロースを加水分解して低置換度酢酸セルロースを得るに際し、90℃以上の(又は90℃を超える)高温下、好ましくは硫酸等の強酸の存在下、多量の酢酸中で反応させると、重合度の低下は見られない一方で、CDIの減少に伴い粘度が低下することを見出した。すなわち、高温反応に伴う粘度低下は、重合度の低下に起因するものではなく、置換度分布が狭くなることによる構造粘性の減少に基づくものであることを解明した。上記の条件で酢酸セルロースの加水分解を行うと、正反応だけでなく逆反応も起こるため、生成物(低置換度酢酸セルロース)のCDIが極めて小さい値となり、水に対する溶解性も著しく向上する。これに対し、逆反応が起こりにくい条件で酢酸セルロースの加水分解を行うと、置換度分布は様々な要因で広くなり、水に溶けにくいアセチル総置換度0.4未満の酢酸セルロース及びアセチル置換度1.1を超える酢酸セルロースの含有量が増大し、全体として水に対する溶解性が低下する。
【0045】
(2,3,6位の置換度の標準偏差)
本発明の酢酸セルロースのグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度は、手塚(Tezuka,Carbonydr.Res.273,83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。すなわち、酢酸セルロース試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、
13C−NMRスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比から、元のセルロースジアセテートにおけるグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度を求めることができる。なお、このように求めた2,3,6位の各アセチル置換度の和はアセチル総置換度であり、この方法でアセチル総置換度を求めることもできる。なお、アセチル総置換度は、
13C−NMRのほか、
1H−NMRで分析することもできる。
【0046】
2,3,6位の置換度の標準偏差σは、次の式で定義される。
【数5】
【0047】
本発明においては、酢酸セルロースのグルコース環の2,3及び6位のアセチル置換度の標準偏差が0.08以下(0〜0.08)であることが好ましい。該標準偏差が0.08以下である酢酸セルロースは、グルコース環の2,3,6位が均等に置換されており、水に対する溶解性に優れる。また、フィルムとした時の強伸度も高い。
【0048】
(多分散性(Mw/Mn))
本発明において、多分散性(Mw/Mn)は、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値である。
【0049】
本発明の酢酸セルロースの多分散性(分散度;Mw/Mn)は、1.2〜2.5の範囲であることが好ましい。多分散性Mw/Mnが上記の範囲にある酢酸セルロースは、分子の大きさが揃っており、水に対する溶解性に優れるとともに、フィルムとした時の強伸度も高い。
【0050】
酢酸セルロースの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び多分散性(Mw/Mn)は、HPLCを用いた公知の方法で求めることができる。本発明において、酢酸セルロースの多分散性(Mw/Mn)は、測定試料を有機溶剤に可溶とするため、前記組成分布半値幅の実測値を求める場合と同様の方法で、酢酸セルロース(試料)を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、以下の条件でサイズ排除クロマトグラフィー分析を行うことにより決定される(GPC−光散乱法)。
装置:Shodex製 GPC 「SYSTEM−21H」
溶媒:アセトン
カラム:GMHxl(東ソー)2本、同ガードカラム
流速:0.8ml/min
温度:29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:MALLS(多角度光散乱検出器)(Wyatt製、「DAWN−EOS」)
MALLS補正用標準物質:PMMA(分子量27600)
【0051】
(重量平均重合度(DPw))
本発明において、重量平均重合度(DPw)は、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値である。
【0052】
本発明の酢酸セルロースの重量平均重合度(DPw)は、50〜800の範囲であることが好ましい。重量平均重合度(DPw)が低すぎると強伸度が低くなり傾向がある。また、重量平均重合度(DPw)が高すぎると、濾過性が悪くなりやすい。前記重量平均重合度(DPw)は、好ましくは55〜700、さらに好ましくは60〜600である。
【0053】
上記重量平均重合度(DPw)は、前記多分散性(Mw/Mn)と同じく、前記組成分布半値幅の実測値を求める場合と同様の方法で、酢酸セルロース(試料)を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、サイズ排除クロマトグラフィー分析を行うことにより求められる(GPC−光散乱法)。
【0054】
上述のように、水溶性の酢酸セルロースの分子量(重合度)、多分散性(Mw/Mn)はGPC−光散乱法(GPC−MALLS、GPC−LALLSなど)により測定される。なお、光散乱の検出は、一般に水系溶媒では困難である。これは水系溶媒は一般的に異物が多く、一旦精製しても二次汚染されやすいことによる。また、水系溶媒では、微量に存在するイオン性解離基の影響のため分子鎖の広がりが安定しない場合があり、それを抑えるために水溶性無機塩(例えば塩化ナトリウム)を添加したりすると、溶解状態が不安定になり、水溶液中で会合体を形成したりすることがある。この問題を回避するための有効な方法の一つは、水溶性酢酸セルロースを誘導体化し、異物が少なく、二次汚染されにくい有機溶媒に溶解するようにし、有機溶媒でGPC−光散乱測定を行うことである。この目的の水溶性酢酸セルロースの誘導体化としてはプロピオニル化が有効であり、具体的な反応条件及び後処理は前記組成分布半値幅の実測値の説明箇所で記載した通りである。
【0055】
(6%粘度)
本発明の酢酸セルロースの6%粘度は、例えば5〜500mPa・s、好ましくは6〜300mPa・sである。6%粘度が高すぎると濾過性が悪くなる場合がある。また、6%粘度が低すぎると、フィルムとした時の強伸度が低下しやすくなる。
【0056】
酢酸セルロースの6%粘度は、下記の方法で測定できる。
50mlのメスフラスコに乾燥試料3.00gを入れ、蒸留水を加え溶解させる。得られた6wt/vol%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約15分間整温する。計時標線間の流下時間を測定し、次式により6%粘度を算出する。
6%粘度(mPa・s)=C×P×t
C:試料溶液恒数
P:試料溶液密度(0.997g/cm
3)
t:試料溶液の流下秒数
試料溶液恒数は、粘度計校正用標準液[昭和石油社製、商品名「JS−200」(JIS Z 8809に準拠)]を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式より求める。
試料溶液恒数={標準液絶対粘度(mPa・s)}/{標準液の密度(g/cm
3)×標準液の流下秒数}
【0057】
(引張強度、破断伸度)
本発明の酢酸セルロースは、前記のように、組成分布指数(CDI)が小さいので、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、そのため、酢酸セルロースを例えばフィルム化した場合、該フィルムの引張強度及び破断伸度を高くすることができる。特に、CDIが2.0以下(好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.6以下、特に好ましくは1.3以下)の場合において、非常に高い引張強度及び破断伸度を得ることができる。
【0058】
該フィルムの引張強度(22℃、引張速度100mm/分)は、厚み50μmで、500kgf/cm
2以上(例えば、500〜1200kgf/cm
2)となり、好ましくは800kgf/cm
2以上(例えば、800〜1100kgf/cm
2)、さらに好ましくは840kgf/cm
2以上(例えば、840〜1000kgf/cm
2)にもなる。また、該フィルムの破断伸度(22℃、引張速度100mm/分)は、低置換度であるにもかかわらず、厚み50μmで、5.0%以上(例えば、5.0〜15%)となり、好ましくは7.5%以上(例えば、7.5〜13%)、さらに好ましくは8.5%以上(例えば、8.5〜11%)にもなる。
【0059】
引張強度及び破断伸度の測定は、以下の方法により行うことができる。すなわち、蒸留水に固形分濃度が5〜15重量%になるように酢酸セルロース試料を溶解させる。この溶液をバーコーターを用いてガラス板上に流延し、厚さ50μmのフィルムを得る。このフィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、室温(約22℃)で、100mm/分の速度で引っ張り、破断するときの強度(=引張強度)(kgf/cm
2)及び伸度(=破断伸度)(%)を求める。
【0060】
(低置換度酢酸セルロースの製造)
本発明の酢酸セルロースは、例えば、(A)中乃至高置換度酢酸セルロースの加水分解工程(熟成工程)、(B)沈殿工程、及び、必要に応じて行う(C)洗浄、中和工程により製造できる。
【0061】
[(A)加水分解工程(熟成工程)]
この工程では、中乃至高置換度酢酸セルロース(以下、「原料酢酸セルロース」と称する場合がある)を加水分解する。原料として用いる中乃至高置換度酢酸セルロースのアセチル総置換度は、例えば、1.5〜3、好ましくは2〜3である。原料酢酸セルロースとしては、市販のセルロースジアセテート(アセチル総置換度2.27〜2.56)やセルローストリアセテート(アセチル総置換度2.56超〜3)を用いることができる。
【0062】
加水分解反応は、有機溶媒中、触媒(熟成触媒)の存在下、原料酢酸セルロースと水を反応させることにより行うことができる。有機溶媒としては、例えば、酢酸、アセトン、アルコール(メタノール等)、これらの混合溶媒などが挙げられる。これらの中でも、酢酸を少なくとも含む溶媒が好ましい。触媒としては、一般に脱アセチル化触媒として用いられる触媒を使用できる。触媒としては、特に硫酸が好ましい。
【0063】
有機溶媒(例えば、酢酸)の使用量は、原料酢酸セルロース1重量部に対して、例えば、0.5〜50重量部、好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。
【0064】
触媒(例えば、硫酸)の使用量は、原料酢酸セルロース1重量部に対して、例えば、0.005〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.02〜0.3重量部である。触媒の量が少なすぎると、加水分解の時間が長くなりすぎ、酢酸セルロースの分子量の低下を引き起こすことがある。一方、触媒の量が多すぎると、加水分解温度に対する解重合速度の変化の度合いが大きくなり、加水分解温度がある程度低くても解重合速度が大きくなり、分子量がある程度大きい酢酸セルロースが得られにくくなる。
【0065】
加水分解工程における水の量は、原料酢酸セルロース1重量部に対して、例えば、0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは2〜7重量部である。また、該水の量は、有機溶媒(例えば、酢酸)1重量部に対して、例えば、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜2重量部、さらに好ましくは0.5〜1.5重量部である。水は、反応開始時において全ての量を系内に存在させてもよいが、酢酸セルロースの沈殿を防止するため、使用する水の一部を反応開始時に系内に存在させ、残りの水を1〜数回に分けて系内に添加してもよい。
【0066】
加水分解工程における反応温度は、例えば、40〜130℃、好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは60〜110℃である。特に、反応温度を90℃以上(或いは90℃を超える温度)とする場合には、正反応(加水分解反応)に対する逆反応(アセチル化反応)の速度が増加する方向に反応の平衡が傾く傾向があり、その結果、置換度分布が狭くなり、後処理条件を特に工夫しなくとも、組成分布指数CDIの極めて小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。この場合、触媒として硫酸等の強酸を用いるのが好ましく、また、反応溶媒として酢酸を過剰に用いるのが好ましい。また、反応温度を90℃以下とする場合であっても、後述するように、沈殿工程において、沈殿溶媒として2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いて沈殿させたり、沈殿分別及び/又は溶解分別を行うことにより、組成分布指数CDIが非常に小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。
【0067】
[(B)沈殿工程]
この工程では、加水分解反応終了後、反応系の温度を室温まで冷却し、沈殿溶媒を加えて低置換度酢酸セルロースを沈殿させる。沈殿溶媒としては、水と混和する有機溶剤若しくは水に対する溶解度の大きい有機溶剤を使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル;アセトニトリル等の含窒素化合物;テトラヒドロフラン等のエーテル;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0068】
沈殿溶媒として2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いると、後述する沈殿分別と同様の効果が得られ、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、組成分布指数(CDI)が小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。好ましい混合溶媒として、例えば、アセトンとメタノールの混合溶媒、イソプロピルアルコールとメタノールの混合溶媒などが挙げられる。
【0069】
また、沈殿して得られた低置換度酢酸セルロースに対して、さらに沈殿分別(分別沈殿)及び/又は溶解分別(分別溶解)を行うことにより、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、組成分布指数CDIが非常に小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。
【0070】
沈殿分別は、例えば、沈殿して得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)を水に溶解し、適当な濃度(例えば、2〜10重量%、好ましくは3〜8重量%)の水溶液とし、この水溶液に貧溶媒を加え(又は、貧溶媒に前記水溶液を加え)、適宜な温度(例えば、30℃以下、好ましくは20℃以下)に保持して、低置換度酢酸セルロースを沈殿させ、沈殿物を回収することにより行うことができる。貧溶媒としては、例えば、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなどが挙げられる。貧溶媒の使用量は、前記水溶液1重量部に対して、例えば1〜10重量部、好ましくは2〜7重量部である。
【0071】
溶解分別は、例えば、前記沈殿して得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)或いは前記沈殿分別で得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)に、水と有機溶媒(例えば、アセトン等のケトン、エタノール等のアルコールなど)の混合溶媒を加え、適宜な温度(例えば、20〜80℃、好ましくは25〜60℃)で撹拌後、遠心分離により濃厚相と希薄相とに分離し、希薄相に沈殿溶剤(例えば、アセトン等のケトン、メタノール等のアルコールなど)を加え、沈殿物(固形物)を回収することにより行うことができる。前記水と有機溶媒の混合溶媒における有機溶媒の濃度は、例えば、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0072】
[(C)洗浄、中和工程]
沈殿工程(B)で得られた沈殿物(固形物)は、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなどの有機溶媒(貧溶媒)で洗浄するのが好ましい。また、塩基性物質を含む有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなど)で洗浄、中和することも好ましい。
【0073】
前記塩基性物質としては、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシドなど)、アルカリ土類金属化合物(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボン酸塩;マグネシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシドなど)などを使用できる。これらの中でも、特に、酢酸カリウム等のアルカリ金属化合物が好ましい。
【0074】
洗浄、中和により、加水分解工程で用いた触媒(硫酸等)などの不純物を効率よく除去することができる。
【0075】
[成形品]
上記本発明の酢酸セルロースを原料として、フィルムや繊維等の成形品を製造することができる。なお、成形品製造時において、本発明の効果を損なわない範囲で適宜な添加剤を添加してもよい。
【0076】
例えば、上記低置換度酢酸セルロースを水性溶媒等の溶媒に溶解させて低置換度酢酸セルロース溶液を調製し、この溶液を基板上に、バーコーターなどの塗工手段を用いて流延し、乾燥させることにより酢酸セルロースフィルムを製造することができる。前記水性溶媒としては、水;水と水溶性有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。前記低置換度酢酸セルロース溶液の濃度は、特に制限はないが、取扱性及び生産性の観点から、1〜50重量%が好ましく、より好ましくは2〜40重量%、さらに好ましくは5〜15重量%である。前記基板としては、特に制限はないが、例えば、ガラス板、プラスチック板、金属板等が挙げられる。
【0077】
得られる酢酸セルロースフィルムの厚さは、例えば、1〜1000μm、好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは10〜250μmである。
【0078】
こうして得られる酢酸セルロースフィルムは、前述したように、低置換度であっても、引張強度及び破断伸度が高い。
【0079】
また、上記低置換度酢酸セルロースを水性溶媒等の溶媒に溶解させて低置換度酢酸セルロース溶液(ドープ)を調製し、これを口金を通して吐出し、乾燥させることにより、酢酸セルロース繊維を得ることができる。前記低置換度酢酸セルロース溶液(ドープ)の濃度は、取扱性及び生産性の観点から、例えば、1〜60重量%が好ましく、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。前記水性溶媒としては、水;水と水溶性有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。また、紡糸の際の乾燥温度は、例えば、100℃以上、好ましくは100〜500℃程度である。
【0080】
上記紡糸により得られる繊維の繊度(単糸デニール)は、例えば、1〜30デニール(d)程度、好ましくは5〜20デニール(d)である。繊度は口金におけるドープの吐出量を調整することにより制御できる。こうして得られる酢酸セルロース繊維の強度及び伸度は、低置換度であっても高い。例えば、該酢酸セルロース繊維の温度20±2℃、相対湿度65±2%における引張強さ(JIS L 1015に準拠)は、例えば、繊度9デニールで、1.5g/d以上(例えば、1.5〜2.4g/d)、好ましくは1.6g/d以上(例えば、1.6〜2.2g/d)となり、繊度16.7デニールでは、2.1g/d以上(例えば、2.1〜2.8g/d)、好ましくは2.2g/d以上(例えば、2.2〜2.6g/d)となる。また、該酢酸セルロース繊維の温度20±2℃、相対湿度65±2%における伸び率(JIS L 1015に準拠)は、例えば、繊度9デニールで、22%以上(例えば、22〜40%)、好ましくは23%以上(例えば、23〜35%)となり、繊度16.7デニールでは、10%以上(例えば、10〜18%)、好ましくは11%以上(例えば、11〜16%)となる。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
酢酸セルロース(ダイセル社製、商品名「L−50」、アセチル総置換度2.43、6%粘度:110mPa・s)1重量部に対して、5.1重量部の酢酸および2.0重量部の水を加え、混合物を3時間攪拌して酢酸セルロースを溶解した。この溶液に0.13重量部の硫酸を加え、得られた溶液を95℃に保持し、加水分解を行った。加水分解の間に酢酸セルロースが沈殿するのを防止するために、系への水の添加を2回に分けて行った。すなわち、反応を開始して0.3時間後に0.67重量部の水を5分間にわたって系に加えた。さらに0.7時間後、1.33重量部の水を10分間にわたって系に加え、さらに1.5時間反応させた。合計の加水分解時間は2.5時間である。なお、反応開始時から1回目の水の添加までを第1加水分解工程(第1熟成工程)、1回目の水の添加から2回目の水の添加までを第2加水分解工程(第2熟成工程)、2回目の水の添加から反応終了までを第3加水分解工程(第3熟成工程)という。
加水分解を実施した後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に15重量部の沈殿溶媒(メタノール)を加えて沈殿を生成させた。
固形分15重量%のウェットケーキとして沈殿を回収し、8重量部のメタノールを加え、固形分15重量%まで脱液することにより洗浄した。これを3回繰り返した。洗浄した沈殿物を、酢酸カリウムを0.004重量%含有するメタノール8重量部でさらに2回洗浄して中和し、乾燥して、低置換度酢酸セルロースを得た。
また、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、上記低置換度酢酸セルロースからフィルム(厚さ50μm)を作製した。
得られた低置換度酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。
実験条件を表1に、得られた低置換度酢酸セルロースの物性の測定結果を表2に示す。なお、表1において、「第3熟成液組成(酢酸wt%)」とは、第3熟成工程における系内の酢酸濃度(重量%)を意味する。また、表2において、「置換度」は「アセチル総置換度」を意味し、「C2、C3、C6の標準偏差」は「2位、3位及び6位の置換度の標準偏差」を意味し、「重合度」は「重量平均重合度」を意味する。
【0083】
(実施例4)
酢酸セルロース(ダイセル社製、商品名「L−50」、アセチル総置換度2.43、6%粘度:110mPa・s)1重量部に対して、5.1重量部の酢酸および2.0重量部の水を加え、混合物を3時間攪拌して酢酸セルロースを溶解した。この溶液に0.13重量部の硫酸を加え、得られた溶液を70℃に保持し、加水分解を行った。加水分解の間に酢酸セルロースが沈殿するのを防止するために、系への水の添加は2回に分けて行った。すなわち、1時間後に0.67重量部の水を5分間にわたって系に加えた。さらに2時間後、1.33重量部の水を10分間にわたって系に加え、さらに9時間反応させた。合計の加水分解時間は12時間である。なお、反応開始時から1回目の水の添加までを第1加水分解工程(第1熟成工程)、1回目の水の添加から2回目の水の添加までを第2加水分解工程(第2熟成工程)、2回目の水の添加から反応終了までを第3加水分解工程(第3熟成工程)という。
加水分解を実施した後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に15重量部の沈殿溶媒[アセトン/メタノール1:1(重量比)混合溶媒]を加えて沈殿を生成させた。沈澱物は脱液し、固形分15重量%のウェットケーキとした。
得られた沈殿物に水に加え、8時間撹拌し、5重量%溶液とした。ここに貧溶媒であるメタノールを上記5重量%溶液の4倍量(重量基準)加え、10℃に1時間保ち、沈殿物を回収した(沈殿分別)。沈澱物は脱液し、固形分15重量%のウェットケーキとした。
この沈殿物を、実施例1と同様の方法で洗浄、中和、乾燥して、低置換度酢酸セルロースを得た。
また、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、上記低置換度酢酸セルロースからフィルム(厚さ50μm)を作製した。
得られた低置換度酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。
実験条件及び収率を表1に、得られた低置換度酢酸セルロースの物性の測定結果を表2に示す。なお、表1において、「第3熟成液組成(酢酸wt%)」とは、第3熟成工程における系内の酢酸濃度(重量%)を意味する。また、表1の沈殿分別の欄の貧溶媒の重量(重量部)は、上記沈殿物に水を加えて調製した5重量%溶液1重量部に対する値である。
【0084】
(参考比較例1)
酢酸セルロース(ダイセル社製、商品名「L−50」、アセチル総置換度2.43、6%粘度:110mPa・s)1重量部に対して、5.1重量部の酢酸および2.0重量部の水を加え、混合物を3時間攪拌して酢酸セルロースを溶解した。この溶液に0.13重量部の硫酸を加え、得られた溶液を70℃に保持し、加水分解を行った。加水分解の間に酢酸セルロースが沈殿するのを防止するために、系への水の添加は2回に分けて行った。すなわち、1時間後に0.67重量部の水を5分間にわたって系に加えた。さらに3時間後、1.33重量部の水を10分間にわたって系に加え、さらに13時間反応させた。合計の加水分解時間は17時間である。なお、反応開始時から1回目の水の添加までを第1加水分解工程(第1熟成工程)、1回目の水の添加から2回目の水の添加までを第2加水分解工程(第2熟成工程)、2回目の水の添加から反応終了までを第3加水分解工程(第3熟成工程)という。
加水分解を実施した後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に15重量部の沈澱溶媒(メタノール/イソプロピルアルコール1:2(重量比)混合溶媒)を加えて沈殿を生成させた。沈澱物は脱液し、固形分15重量%のウェットケーキとした。
得られた沈殿物の固形分1重量部に対し、15重量部のアセトン/水の混合溶剤(アセトン濃度15重量%)を加え、20℃で8時間撹拌後、遠心分離により、濃厚相を除き、希薄相にアセトン(沈殿溶剤)を加え、沈殿物(固形物)を回収した(溶解分別)。沈澱物は脱液し、固形分15重量%のウェットケーキとした。
この沈殿物を、実施例1と同様の方法で洗浄、中和、乾燥して、低置換度酢酸セルロースを得た。
また、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、上記低置換度酢酸セルロースからフィルム(厚さ50μm)を作製した。
得られた低置換度酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。
実験条件及び収率を表1に、得られた低置換度酢酸セルロースの物性の測定結果を表2に示す。なお、表1において、「第3熟成液組成(酢酸wt%)」とは、第3熟成工程における系内の酢酸濃度(重量%)を意味する。また、表1の溶解分別の欄の「溶媒」とは水と混合した有機溶媒の種類を意味し、「濃度」とは当該有機溶媒と水の混合物調製における当該有機溶媒の濃度を意味する。
【0085】
(実施例8)
酢酸セルロース(ダイセル社製、商品名「L−50」、アセチル総置換度2.43、6%粘度:110mPa・s)1重量部に対して、5.1重量部の酢酸および2.0重量部の水を加え、混合物を3時間攪拌して酢酸セルロースを溶解した。この溶液に0.13重量部の硫酸を加え、得られた溶液を40℃に保持し、加水分解を行った。加水分解の間に酢酸セルロースが沈殿するのを防止するために、系への水の添加は2回に分けて行った。すなわち、14時間後に0.67重量部の水を5分間にわたって系に加えた。さらに34時間後、1.33重量部の水を10分間にわたって系に加え、さらに107時間反応させた。合計の加水分解時間は155時間である。なお、反応開始時から1回目の水の添加までを第1加水分解工程(第1熟成工程)、1回目の水の添加から2回目の水の添加までを第2加水分解工程(第2熟成工程)、2回目の水の添加から反応終了までを第3加水分解工程(第3熟成工程)という。
加水分解を実施した後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に15重量部の沈澱溶媒(アセトン/メタノール1:1(重量比)混合溶媒)を加えて沈殿を生成させた。沈澱物は脱液し、固形分15%のウェットケーキとした。
得られた沈殿物に水に加え、8時間撹拌し、5重量%溶液とした。ここに貧溶媒であるメタノールを上記5重量%溶液の4倍量(重量基準)加え、10℃に1時間保ち、沈殿物を回収した(沈殿分別)。沈澱物は脱液し、固形分15重量%のウェットケーキとした。
得られた沈殿物の固形分1重量部に対し、15重量部のアセトン/水の混合溶剤(アセトン濃度15重量%)を加え、20℃で8時間撹拌後、遠心分離により、濃厚相を除き、希薄相にアセトン(沈殿溶剤)を加え、沈殿物(固形物)を回収した(溶解分別)。沈澱物は脱液し、固形分15重量%のウェットケーキとした。
この沈殿物を、実施例1と同様の方法で洗浄、中和、乾燥して、低置換度酢酸セルロースを得た。
また、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、上記低置換度酢酸セルロースからフィルム(厚さ50μm)を作製した。
得られた低置換度酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。
実験条件及び収率を表1に、得られた低置換度酢酸セルロースの物性の測定結果を表2に示す。なお、表1において、「第3熟成液組成(酢酸wt%)」とは、第3熟成工程における系内の酢酸濃度(重量%)を意味する。また、表1の沈殿分別の欄の貧溶媒の重量(重量部)は、上記沈殿物に水を加えて調製した5重量%溶液1重量部に対する値である。さらに、表1の溶解分別の欄の「溶媒」とは水と混合した有機溶媒の種類を意味し、「濃度」とは当該有機溶媒と水の混合物調製における当該有機溶媒の濃度を意味する。
【0086】
(実施例2〜3、実施例5、参考比較例2、実施例9〜28、比較例1、比較例3〜4)
表1に示す条件で、沈殿分別、溶解分別をしない場合は上記実施例1と同じようにして、また、沈殿分別、溶解分別をする場合は実施例4、又は8、若しくは参考比較例1と同じようにして、反応及び沈殿を行い、低置換度酢酸セルロースを得た。また、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。実験条件を表1に、得られた低置換度酢酸セルロースの物性の測定結果を表2に示す。
【0087】
(比較例2)
特開平4-261401号公報の実施例1に記載の方法に従って低置換度酢酸セルロースを製造した。この酢酸セルロースから、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。得られた酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。収率を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0088】
(比較例5)
低粘度品として実施例19で得られた酢酸セルロース、高粘度品として参考比較例2で得られた酢酸セルロースを、前者/後者(重量比)=50/50の割合で混合した。この2種の酢酸セルロースの混合物から、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。得られた酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。各物性の測定結果を表2に示す。
【0089】
(比較例6)
特表平5−500684号公報の実施例1に記載の方法(反応溶媒:メタノール)に従って低置換度酢酸セルロースを製造した。この酢酸セルロースから、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。得られた酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。収率を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0090】
(比較例7)
特表平5−500684号公報の実施例6に記載の方法(反応溶媒:メタノール)に従って低置換度酢酸セルロースを製造した。この酢酸セルロースから、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。得られた酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。収率を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0091】
(比較例8)
特表平5−501129号公報の実施例1に記載の方法(反応溶媒:メタノール)に従って低置換度酢酸セルロースを製造した。この酢酸セルロースから、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。得られた酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。収率を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0092】
(比較例9)
特公平1−13481号公報の実施例1に記載の方法に従って低置換度酢酸セルロースを製造した。この酢酸セルロースから、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。得られた酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。収率を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0093】
(比較例10)
特開平4-261401号公報の実施例1に記載の方法に従い、但し加水分解時間を20.7時間から11.5時間に短縮し、低置換度酢酸セルロースを製造した。この酢酸セルロースから、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。得られた酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。収率を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0094】
(比較例11)
接触時間を12時間から11時間に短縮したこと以外は、比較例8と同様の方法で、低置換度酢酸セルロースを製造した。この酢酸セルロースから、前記の方法(引張強度及び破断伸度の説明箇所で記載した方法)に従い、フィルム(厚さ50μm)を作製した。得られた酢酸セルロースのアセチル総置換度、2位、3位及び6位の置換度の標準偏差、6%粘度(mPa・s)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(Mw/Mn)、分子間置換度分布半値幅(実測値)、組成分布指数(CDI)、フィルムの引張強度(kgf/cm
2)及び破断伸度(%)を前記の方法で測定した。収率を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0095】
[繊度16.7dの繊維の調製]
特公平1−13481号公報の実施例1に記載の方法で、上記実施例および(参考)比較例で得られた低置換度酢酸セルロースから繊度16.7dの繊維を調製した。すなわち、低置換度酢酸セルロース試料を15重量%の濃度で水に溶解してドープを得た。かかるドープを巻取速度100m/分、乾燥温度400℃、吐出量2.22g/分、口金孔数12、口金孔径0.5mmの条件で乾式紡糸し、単糸デニール16.7の繊維(糸)を得た。得られた繊維の温度20±2℃、相対湿度65±2%における引張強さ(g/d)と伸び率(%)をJIS L 1015に準じて測定した。結果を表2に示す。なお、表2おいては、ドープの口金詰まりを主な理由として紡糸ができなかったものを「紡糸不可」と記載した。
【0096】
[繊度9dの繊維の調製(380℃)]
特開平7−268724号公報の実施例2に記載の方法で、上記実施例および(参考)比較例で得られた低置換度酢酸セルロースから繊度9d(10dtex)の繊維を調製した。すなわち、低置換度酢酸セルロース試料900gを、95℃の熱水1.9Lに溶解した。これを、ろ過し、脱ガスした溶液を125℃に加熱し、紡糸ポンプを介して、20ホール(孔径0.15mm)を有する口金を通して吐出し、380℃で乾燥しながら、305m/分で巻取り、口金吐出量を調整することで単糸デニール9d(10dtex)の繊維(糸)を得た。得られた繊維の温度20±2℃、相対湿度65±2%における引張強さ(g/d)と伸び率(%)をJIS L 1015に準じて測定した。結果を表2に示す。なお、表2おいては、ドープの口金詰まりを主な理由として紡糸ができなかったものを「紡糸不可」と記載した。
【0097】
[繊度9dの繊維の調製(120℃)]
上記実施例および(参考)比較例で得られた低置換度酢酸セルロース試料900gを9100gの水に溶解し、濃度9重量%のドープを得た。これをろ過し、濃縮することで、濃度31重量%のドープを得た。これを95℃に加熱し、脱泡し、紡糸ポンプを介して18ホール(孔径0.1mm)を有する口金を通して4ml/分で吐出し、120℃で乾燥しながら巻取り速度を約10〜15mで調整し、単糸デニール9dの繊維(糸)を得た。得られた繊維の温度20±2℃、相対湿度65±2%における引張強さ(g/d)と伸び率(%)をJIS L 1015に準じて測定した。結果を表2に示す。なお、表2おいては、ドープの口金詰まりを主な理由として紡糸ができなかったものを「紡糸不可」と記載した。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
また、実施例及び(参考)比較例で得られた酢酸セルロースから形成したフィルム(50μm厚)について、CDIと引張強度(kgf/cm
2)との関係をグラフ化したものを
図1に、CDIと破断伸度(%)との関係をグラフ化したものを
図2に示す。さらに、実施例及び比較例で得られた酢酸セルロースから調製した繊度16.7dの繊維(糸)及び繊度9d(380℃)の繊維(糸)について、CDIと引張強さ(g/d)との関係をグラフ化したもの
図3に、CDIと伸び率(%)との関係をグラフト化したものを
図4に示す。
図3において、白三角印(△)は、繊度16.7dの繊維(糸)のデータ、黒三角印(▲)は、繊度9d(380℃)の繊維(糸)のデータである。また、
図4において、白四角印(□)は、繊度16.7dの繊維(糸)のデータ、黒四角印(■)は、繊度9d(380℃)の繊維(糸)のデータである。
【0101】
表2、
図3及び
図4に示す結果から分かるように、実施例で得られた低置換度酢酸セルロースから調製した繊維(糸)は、組成分布指数(CDI)が3.0以下であり、低置換度であるにもかかわらず、引張強さ及び伸び率が高い。また、表2、
図1及び
図2に示す結果から分かるように、特に、組成分布指数(CDI)が2.0以下の低置換度酢酸セルロースから作製されたフィルムは、低置換度であるにもかかわらず、引張強度及び破断伸度が高い。
【0102】
(水に対する溶解性の評価)
実施例19で得られた酢酸セルロース、実施例14と同様の合成法(但し、第3熟成時間を107時間から95時間に短縮)で得られた酢酸セルロース(実施例28として記載)、比較例8と同様の合成法(但し、接触時間を12時間から11時間に短縮)で得られた酢酸セルロース(比較例11として記載)をイオン交換水に溶解し、それぞれ5重量%及び10重量%の水溶液を調製した。調製した酢酸セルロース水溶液の光線透過率(波長:500nm)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、商品名「UV−1700」)で測定した。その結果を表3に示す。表3より、組成分布指数(CDI)が小さい酢酸セルロースほど光線透過率が高く、水溶性に優れることが分かる。
【0103】
【表3】