(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属酸化物ゾルが、アルミナゾル、ジルコニアゾルおよびマグネシアゾルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の電池用粘着シート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔電池用粘着シート〕
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電池用粘着シート1は、基材11と、基材11の一方の面側に設けられたハードコート層12と、ハードコート層12における基材11とは反対側に設けられた粘着剤層13と、粘着剤層13におけるハードコート層12とは反対側に設けられた剥離シート14とから構成される。
【0017】
ここで、本明細書における「電池用粘着シート」は、電池の製造において電解液に接触する可能性のある箇所で使用される粘着シートであり、好ましくは電池の内部にて使用される粘着シートであり、電池内装用粘着シートであってもよい。電池としては、非水系電池であることが好ましい。したがって、当該電池に使用する電解液は非水系電解液であることが好ましい。本明細書における電池用粘着シートは、非水系電池内部の電解液に浸漬する可能性のある部位または電解液に接触する可能性のある部位に貼付される粘着シートであることが好ましい。非水系電池としては、リチウムイオン電池が特に好ましい。
【0018】
本実施形態に係る電池用粘着シート1におけるハードコート層12は、金属酸化物ゾルを含有するハードコート層用組成物から形成されたものであり、その金属酸化物ゾルは、絶縁性を有する金属酸化物のゾルである。すなわち、本実施形態に係る電池用粘着シート1におけるハードコート層12は、当該金属酸化物ゾルに由来する、絶縁性を有する金属酸化物粒子を含有する。本実施形態に係る電池用粘着シート1では、かかるハードコート層12を有することにより、当該ハードコート層12が絶縁層として機能するため、通常の状態で絶縁性に優れる。また、本実施形態に係る電池用粘着シート1では、高温に曝されて、基材11やハードコート層12中のマトリクス(有機成分)が炭化等した場合であっても、絶縁性を有する金属酸化物粒子が絶縁性の膜として残存するため、電池用粘着シート1自体の絶縁性が確保される。さらに、電池用粘着シート1に部分的に高い電圧が印加されて、電池用粘着シート1に対して厚み方向に電流が流れ、基材11における当該電流の経路が導体路に変化し、さらにハードコート層12中のマトリクスが当該電流の経路に沿って炭化等した場合であっても、当該経路に絶縁性を有する金属酸化物粒子が絶縁体として存在するため、電池用粘着シート1自体の絶縁性が確保される。さらにまた、電池用粘着シート1では、被着体により近い位置にハードコート層12、ひいては絶縁性の膜が存在することとなるため、絶縁破壊による導体路の迂回経路がより形成され難いものとなる。
【0019】
一方、本実施形態に係る電池用粘着シート1のハードコート層12に含まれる金属酸化物粒子は、電解液中の電解質であるヘキサフルオロリン酸リチウム等の塩が水と反応した際に発生するフッ化水素酸への分解溶解性が低いため、電池用粘着シート1が電池の電解液に長時間浸漬された場合でも、ハードコート層12から抜け出し難い。したがって、本実施形態に係る電池用粘着シート1は、電解液に長時間浸漬され、その後、高温加熱された場合でも、絶縁性に優れる。
【0020】
すなわち、本実施形態に係る電池用粘着シート1は、上記ハードコート層12の存在により、通常時においても、高温加熱された場合であっても、さらには、電解液に長時間浸漬された後に高温加熱された場合であっても、絶縁性に優れる。
【0021】
以上のような作用効果を有する本実施形態に係る電池用粘着シート1を使用した電池では、粘着シートに起因する性能の低下が抑制され、電池の誤作動、熱暴走および短絡が抑制され、安全性の高いものとなる。
【0022】
1.各構成要素
1−1.基材
本実施形態に係る電池用粘着シート1では、基材11は、絶縁破壊を生じる最小の電圧が高いことが好ましく、例えば、当該電圧が、1kV以上であることが好ましく、特に2kV以上であることが好ましく、さらには5kV以上であることが好ましい。当該電圧が1kV以上であることにより、基材11の絶縁破壊が生じ難く、電池用粘着シート1の信頼性がより高いものとなる。
【0023】
また、基材11は、UL94規格の難燃レベルV−0を満たす難燃性を有することが好ましい。基材11がこのような難燃性を有することにより、通常の電池の使用により発熱した場合であっても、基材11の変性や変形が抑制される。また、電池に不具合が発生し、過度に発熱した場合であっても、基材11の発火や燃焼が抑制され、重大な事故が防止される。
【0024】
基材11の材料は、絶縁性、難燃性、耐熱性、電解液との反応性、電解液の透過性等の観点から適宜選択できる。特に、基材11としては、樹脂フィルムを使用することが好ましい。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等の主鎖に窒素を含む重合体からなるフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルフォンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリウレタン樹脂フィルム、ノルボルネン系重合体フィルム、環状オレフィン系重合体フィルム、環状共役ジエン系重合体フィルム、ビニル脂環式炭化水素重合体フィルム等の樹脂フィルムまたはそれらの積層フィルムが挙げられる。特に、絶縁性および難燃性の観点から、主鎖に窒素を含む重合体のフィルム(当該重合体以外の成分を含有してもよい。本明細書にて同様。)が好ましく、特に主鎖に窒素含有環構造を有する重合体のフィルムが好ましく、さらには、主鎖に窒素含有環構造および芳香環構造を有する重合体のフィルムが好ましい。具体的には、例えば、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルムまたはポリエーテルエーテルケトンフィルムが好ましく、これらの中でも絶縁性および難燃性に特に優れるポリイミドフィルムが好ましい。
【0025】
基材11の厚さは、5〜200μmであることが好ましく、特に10〜100μmであることが好ましく、さらには15〜40μmであることが好ましい。基材11の厚さが5μm以上であることにより、基材11に適度な剛性が付与され、基材11にハードコート層12を形成する際に硬化収縮が発生した場合であってもカールの発生が効果的に抑制される。また、基材11の厚さが200μm以下であることにより、電池用粘着シート1が適度な柔軟性を有し、電極と電極取り出しタブとを固定する場合のように、段差が存在する面に電池用粘着シート1を貼付する場合であっても、当該段差に対して良好に追従することができる。
【0026】
1−2.ハードコート層
(1)ハードコート層の組成
本実施形態に係る電池用粘着シート1のハードコート層12は、絶縁性を有する金属酸化物のゾルである金属酸化物ゾルを含有するハードコート層用組成物から形成されたものである。換言すれば、本実施形態に係る電池用粘着シート1のハードコート層12は、当該金属酸化物ゾルに由来する、絶縁性を有する金属酸化物粒子を含有する。かかるハードコート層12を有する電池用粘着シート1は、前述した通り、通常時においても、高温加熱された場合であっても、さらには、電解液に長時間浸漬された後に高温加熱された場合であっても、絶縁性に優れる。
【0027】
ハードコート層12は、活性エネルギー線の照射によって硬化させたものであることが好ましい。したがって、ハードコート層12を形成するためのハードコート層用組成物は、活性エネルギー線硬化性成分と、上記金属酸化物ゾルとを含有することが好ましい。
【0028】
(1−1)活性エネルギー線硬化性成分
活性エネルギー線硬化性成分としては、活性エネルギー線の照射により硬化して所望の硬度を発揮するものであれば特に限定されない。
【0029】
具体的な活性エネルギー線硬化性成分としては、多官能性(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリレート系プレポリマー等が挙げられるが、中でも多官能性(メタ)アクリレート系モノマーおよび/または(メタ)アクリレート系プレポリマーであることが好ましい。多官能性(メタ)アクリレート系モノマーおよび(メタ)アクリレート系プレポリマーは、それぞれ単独で使用してもよいし、両者を併用してもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0030】
多官能性(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、多官能(メタ)アクリレート系モノマーは、特に制約されないが、電解液浸漬下にてハードコート層12から金属酸化物粒子の抜け出しを防止する観点から、分子量1000未満のものであることがより好ましい。
【0031】
一方、(メタ)アクリレート系プレポリマーとしては、例えば、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系等のプレポリマーが挙げられる。プレポリマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本実施形態のハードコート層12を構成する活性エネルギー線硬化性成分は、硬化後のガラス転移点が130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、ガラス転移点が観測されないものであることが特に好ましい。活性エネルギー線硬化性成分のガラス転移点が上述の通りであることにより、ハードコート層12の耐熱性が優れたものとなり、このようなハードコート層12が設けられた電池用粘着シート1を含む電池の性能および安全性も優れたものとなる。
【0033】
なお、本実施形態のハードコート層12にて活性エネルギー線硬化性成分を2種以上使用する場合、それらの活性エネルギー線硬化性成分は、互いに相溶性に優れたものであることが好ましい。
【0034】
(1−2)金属酸化物ゾル
本実施形態で使用する金属酸化物ゾルは、絶縁性を有する金属酸化物のゾルである。金属酸化物ゾル中の金属酸化物粒子は、シリカゾル等の非金属酸化物ゾル中の非金属酸化物粒子と比較して、電解液に長時間浸漬された場合でも、ハードコート層12から抜け出し難く、当該金属酸化物粒子が有する高温加熱時の絶縁性を維持することができる。
【0035】
かかる金属酸化物ゾルとしては、アルミナゾル、ジルコニアゾル、マグネシアゾル、チタニアゾル、チタン酸バリウムゾル、ハフニアゾル、イットリアゾル、ゲルマニアゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化銅ゾル、酸化タングステンゾル、酸化コバルトゾル、酸化スズゾル等が挙げられる。これらの中でも、特に、絶縁性に優れるとともに、電解液に長時間浸漬された場合でも金属酸化物粒子がハードコート層12から抜け出し難い、アルミナゾル、ジルコニアゾルおよびマグネシアゾルが好ましく、さらには、アルミナゾルおよびジルコニアゾルが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
金属酸化物ゾルの分散媒は、活性エネルギー線硬化性成分との相溶性の観点から、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、トルエンであることが好ましい。また、金属酸化物ゾルにおける金属酸化物粒子の濃度は、10〜50質量%であることが好ましく、特に12〜40質量%であることが好ましく、さらには15〜30質量%であることが好ましい。
【0037】
金属酸化物ゾル中に含まれる金属酸化物粒子の平均粒径は、1〜1000nmであることが好ましく、5〜500nmであることが特に好ましく、10〜200nmであることがさらに好ましい。金属酸化物粒子の平均粒径が1nm以上であることで、ハードコート層12に剛性が付与され、高温下あるいは電解液浸漬下での衝撃等により電池用粘着シート1が破れたり穴が空いたりする等の破損を防止することができる。また、金属酸化物粒子の平均粒径が1000nm以下であることで、ハードコート層用組成物中における金属酸化物粒子の分散性が優れたものとなり、基材11上にハードコート層12を形成した際に、ハードコート層12における基材11とは反対側の面における凹凸の発生を効果的に防止することができる。さらに、当該面上に粘着剤層13を形成することで、粘着剤層13におけるハードコート層12とは反対側の面において非常に高い平滑性を得ることができる。これにより、粘着剤層13は被着体に対して優れた密着性を発揮することができる。なお、金属酸化物粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定したものとする。
【0038】
ハードコート層用組成物中における金属酸化物ゾルの含有量は、活性エネルギー線硬化性成分100容積部に対して、1容積部以上であることが好ましく、特に5容積部以上であることが好ましく、さらには10容積部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、500容積部以下であることが好ましく、特に200容積部以下であることが好ましく、さらには100容積部以下であることが好ましい。ハードコート層用組成物中における金属酸化物ゾルの含有量が上記の範囲にあることで、ハードコート層12の強度を維持しつつ、絶縁性、特に電解液長期浸漬後の高温加熱時の絶縁性をより優れたものにすることができる。
【0039】
また、ハードコート層12中における金属酸化物粒子の含有量は、0.01cm
3/m
2以上であることが好ましく、特に0.1cm
3/m
2以上であることが好ましく、さらには0.2cm
3/m
2以上であることが好ましい。また、当該含有量は、7cm
3/m
2以下であることが好ましく、特に5cm
3/m
2以下であることが好ましく、さらには3cm
3/m
2以下であることが好ましい。ハードコート層12中における金属酸化物粒子の含有量が上記の範囲にあることで、ハードコート層12の強度を維持しつつ、絶縁性、特に電解液長期浸漬後の高温加熱時の絶縁性をより優れたものにすることができる。
【0040】
(1−3)その他の成分
本実施形態のハードコート層12を形成するための組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤としては、例えば、光重合開始剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、老化防止剤、熱重合禁止剤、着色剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、消泡剤、有機系充填材等が挙げられる。
【0041】
活性エネルギー線として紫外線を使用してハードコート層12を形成する場合、光重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤としては、使用する活性エネルギー線硬化性成分の光重合開始剤として機能するものであれば特に限定されないが、例えば、アシルホスフィンオキサイド系化合物、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等が挙げられる。具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン―1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノンなどが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ハードコート層用組成物中における上記光重合開始剤の含有量は、通常は、活性エネルギー線硬化性成分100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、特に1〜15質量部であることが好ましい。
【0043】
(2)ハードコート層の厚さ
ハードコート層12の厚さは、0.1〜10μmであることが好ましく、特に0.5〜7μmであることが好ましく、さらには1〜4μmであることが好ましい。ハードコート層12の厚さが0.1μm以上であることにより、電解液によるハードコート層12の透過が効果的に遮断されるとともに、前述した絶縁性がより優れたものとなる。また、ハードコート層12の厚さが10μm以下であることにより、電池用粘着シート1が適度な柔軟性を有し、電極と電極取り出しタブとを固定する場合のように、段差が存在する面に電池用粘着シート1を貼付する場合であっても、電池用粘着シート1が当該段差に対して良好に追従することができる。
【0044】
(3)ハードコート層の物性
本実施形態に係る電池用粘着シート1では、基材11に設けられた状態におけるハードコート層12は、#0000のスチールウールを用いて、250g/cm
2の荷重でハードコート層12を10cm、10往復擦り、傷が生じないことが好ましい。このような耐スチールウール性の評価を有すると、電解液のハードコート層12の透過が効果的に遮断され、ハードコート層12の膨潤による金属酸化物粒子の抜け出しが効果的に抑制される。
【0045】
1−3.粘着剤層
粘着剤層13を構成する粘着剤としては特に限定されず、電解液への溶出性、難燃性、耐熱性、絶縁性等の観点から適宜選択することができる。特に、粘着剤層13を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤およびウレタン系粘着剤が好ましい。中でも、ハードコート層12や電極等との密着性、粘着力の微妙な調整の容易さ等の観点から、特にアクリル系粘着剤が好ましい。
【0046】
アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を含有する粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)から得られるものであることが好ましい。粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)以外に、架橋剤(B)を含有することが好ましく、さらにシランカップリング剤(C)を含有することが特に好ましい。なお、本明細書において、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0047】
(1)各成分
(1−1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することで、好ましい粘着性を発現することができる。アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。中でも、粘着性をより向上させる観点から、アルキル基の炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸エステルが含まれることが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含有することが好ましく、特に60質量%以上含有することが好ましく、さらには70質量%以上含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含有すると、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は好適な粘着性を発揮することができる。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを99質量%以下含有することが好ましく、特に97質量%以下含有することが好ましく、さらには90質量%以下含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを99質量%以下とすることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入することができる。
【0049】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマー(ハードモノマー)と、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下のモノマー(ソフトモノマー)とを組み合わせて使用することも好ましい。これにより、電解液に対する耐溶出性をより優れたものにすることができる。この場合、ハードモノマーとソフトモノマーとの質量比は、5:95〜40:60であることが好ましく、特に20:80〜30:70であることが好ましい。
【0050】
上記ハードモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル(Tg10℃)、メタクリル酸メチル(Tg105℃)、アクリル酸イソボルニル(Tg94℃)、メタクリル酸イソボルニル(Tg180℃)、アクリル酸アダマンチル(Tg115℃)、メタクリル酸アダマンチル(Tg141℃)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
上記ハードモノマーの中でも、粘着性等の特性への悪影響を防止しつつハードモノマーの性能をより発揮させる観点から、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸イソボルニルが好ましく、特にアクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルが好ましい。
【0052】
上記ソフトモノマーとしては、炭素数が2〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく挙げられる。例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル(Tg−70℃)、アクリル酸n−ブチル(Tg−54℃)等が好ましく、特にアクリル酸n−ブチルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性を有する官能基を含むモノマーであってもよいし、反応性を有する官能基を含まないモノマーであってもよい。
【0054】
反応性を有する官能基を含むモノマー(反応性官能基含有モノマー)としては、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含むことが好ましい。後述する架橋剤(B)として金属キレート系架橋剤を使用したときに、カルボキシ基含有モノマー由来のカルボキシ基は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の架橋時に金属キレート系架橋剤と反応し、それによって、三次元網目構造である架橋構造が形成される。このカルボキシ基と金属キレート系架橋剤との反応による架橋構造を有する粘着剤は、電解液、特に非水系電解液に対する耐性が高く、当該電解液に接触しても溶出し難い。
【0055】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸が好ましい。アクリル酸によれば、上記の効果がより優れたものとなる。上記カルボキシ基含有モノマーは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを、下限値として0.5質量%以上含有することが好ましく、特に1質量%以上含有することが好ましく、さらには3質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを、上限値として30質量%以下含有することが好ましく、特に25質量%以下含有することが好ましく、さらには20質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量でカルボキシ基含有モノマーを含有すると、得られる粘着剤において上記の効果がより優れたものとなる。
【0057】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
アミノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸n−ブチルアミノエチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
なお、カルボキシ基と金属キレート系架橋剤との反応による架橋構造によって得られる効果を阻害しないためにも、反応性官能基含有モノマーは、前述のカルボキシ基含有モノマーのみとすることが好ましい。
【0060】
一方、反応性を有する官能基を含まないモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリロイルモルホリン等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0062】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、下限値として5万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましく、特に20万以上であることが好ましく、さらには50万以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値が上記であると、得られる粘着剤の電解液への耐溶出性がより優れたものとなる。
【0063】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、上限値として250万以下であることが好ましく、200万以下であることがより好ましく、特に150万以下であることが好ましく、さらには120万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値が上記であると、得られる粘着剤の粘着力がより優れたものとなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0064】
なお、粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
(1−2)架橋剤(B)
架橋剤(B)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性官能基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。架橋剤(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
架橋剤(B)としては、上記の中でも、金属キレート系架橋剤を使用することが好ましい。この場合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含むことが好ましい。この組み合わせにより、前述した通り、得られる粘着剤は、電解液、特に非水系電解液に対する耐性が高く、当該電解液に接触しても溶出し難い。したがって、粘着剤が電池性能に悪影響を及ぼさず、粘着剤溶出に起因する電池の誤作動等が抑制される。
【0067】
金属キレート系架橋剤としては、金属原子がアルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、鉄、スズ等である金属キレート化合物を使用することができる。中でもアルミニウムキレート化合物が特に好ましい。アルミニウムキレート化合物は、前述した電解液への耐溶出性を特に効果的に発揮する。
【0068】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビスオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノ−N−ラウロイル−β−アラネートモノラウリルアセトアセテート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(イソブチルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(2−エチルヘキシルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(ドデシルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(オレイルアセトアセテート)キレート等が挙げられる。これらの中でも、上記効果の観点から、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
また、その他の金属キレート化合物としては、例えば、チタニウムテトラプロピオネート、チタニウムテトラ−n−ブチレート、チタニウムテトラ−2−エチルヘキサノエート、ジルコニウムsec−ブチレート、ジルコニウムジエトキシ−tert−ブチレート、トリエタノールアミンチタニウムジプロピオネート、チタニウムラクテートのアンモニウム塩、テトラオクチレングリコールチタネート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
上記の金属キレート系架橋剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
本実施形態に係る粘着剤組成物P中における金属キレート系架橋剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、特に0.3質量部以上であることが好ましく、さらには0.5質量部以上であることが好ましい。また、金属キレート系架橋剤(B)の含有量は、上限値として5質量部以下であることが好ましく、特に4質量部以下であることが好ましく、さらには3質量部以下であることが好ましい。金属キレート系架橋剤(B)の含有量が上記の範囲にあることにより、前述した効果がより優れたものとなる。
【0072】
また、本実施形態に係る粘着剤組成物Pは、金属キレート系架橋剤(B)以外の架橋剤を含有してもよい。金属キレート系架橋剤(B)以外の架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。上記の中でも、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のカルボキシ基と金属キレート系架橋剤(B)との反応を阻害せずに、しかもカルボキシ基と反応するイソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0073】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートおよびトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネートが好ましく、さらにはトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
イソシアネート系架橋剤を併用する場合、金属キレート系架橋剤(B)とイソシアネート系架橋剤との質量比は、99:1〜1:99であることが好ましく、特に90:10〜5:95であることが好ましく、さらには20:80〜10:90であることが好ましい。
【0075】
(1−3)シランカップリング剤(C)
粘着性組成物Pは、シランカップリング剤(C)を含有することが好ましい。シランカップリング剤(C)を含有すると、粘着剤層13が電解液に接触した場合であっても、被着体に対して(特に金属部材に対して)優れた粘着力を発揮する。それによって、電池用粘着シート1が被着体から剥がれることがより抑制され、当該電池用粘着シート1に起因する電池性能の低下が抑制される。また、得られる粘着剤層13はハードコート層12に対する密着性がより高いものとなる。そのため、電池用粘着シート1の電解液溶媒への浸漬によってハードコート層12と粘着剤層13との界面で剥がれ等が生じることを防止し、電解液溶媒浸漬後の粘着力を高いものとすることができる。さらに、粘着剤層13から剥離シート14を剥離するときに、粘着剤層13が剥離シート14に転着してハードコート層12から剥離することを効果的に抑制することができる。
【0076】
シランカップリング剤(C)としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性がよいものが好ましい。
【0077】
かかるシランカップリング剤(C)としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。これらの中でも、上記効果の観点から、エポキシ構造を有するケイ素化合物が好ましく、特に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
粘着性組成物P中におけるシランカップリング剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましく、さらには0.4質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましく、特に3質量部以下であることが好ましく、さらには1.5質量部以下であることが好ましい。シランカップリング剤(C)の含有量が上記の範囲にあることにより、電解液溶媒浸漬後の粘着力がより優れたものとなる。
【0079】
(1−4)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば粘着付与剤、酸化防止剤、軟化剤、充填剤などを添加することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pを構成する添加剤に含まれないものとする。
【0080】
(2)粘着性組成物の製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)に、所望により、架橋剤(B)、シランカップリング剤(C)、添加剤等を加えることで製造することができる。
【0081】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法等により行うことができる。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0082】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等が挙げられる。
【0083】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0084】
なお、上記重合工程において、2−メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0085】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、所望により、架橋剤(B)、シランカップリング剤(C)、添加剤等を添加し、十分に混合することにより、粘着性組成物Pを得る。
【0086】
なお、粘着性組成物Pは、塗工に適切な粘度に調整したり、粘着剤層を所望の膜厚に調整するため、適宜、前述の重合溶媒に加え、希釈溶媒等で希釈して、後述する塗布液としてもよい。希釈溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0087】
(3)粘着剤/粘着剤層の物性
本実施形態に係る電池用粘着シート1では、粘着剤層13を構成する粘着剤を非水系電解液の溶媒に80℃で72時間浸漬した後における粘着剤のゲル分率が、下限値として50%以上であることが好ましく、特に60%以上であることが好ましく、さらには70%以上であることが好ましい。上記ゲル分率の下限値が上記であることにより、粘着剤層13が電解液に接触した場合における粘着剤の溶出量が低く抑えられることとなる。それによって、粘着剤溶出に起因する電池の誤作動等がより効果的に抑制される。
【0088】
一方、上記ゲル分率の上限値は、100%以下であることが好ましく、特に99%以下であることが好ましく、さらには98%以下であることが好ましい。ゲル分率の上限値が98%以下であると、電池用粘着シート1が適度な柔軟性を有し、電極と電極取り出しタブとを固定する場合のように、段差が存在する面に電池用粘着シート1を貼付する場合であっても、当該段差に対して良好に追従することができる。
【0089】
なお、ここにおける非水系電解液の溶媒とは、炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルを1:1の体積比で混合した調製液であり、ゲル分率の試験方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0090】
(4)粘着剤層の厚さ
粘着剤層13の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、1〜50μmであることが好ましく、特に3〜15μmであることが好ましく、さらには4〜9μmであることが好ましい。粘着剤層13の厚さが1μm以上であることにより、電池用粘着シート1は良好な粘着力を発揮することができる。また、粘着剤層13の厚さが50μm以下であることにより、粘着剤層13の端部から浸入する電解液の量を効果的に低減することができる。
【0091】
1−4.剥離シート
剥離シート14は、電池用粘着シート1の使用時まで粘着剤層を保護するものであり、電池用粘着シート1を使用するときに剥離される。本実施形態に係る電池用粘着シート1において、剥離シート14は必ずしも必要なものではない。
【0092】
剥離シート14としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0093】
剥離シート14の剥離面(粘着剤層13と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。
【0094】
剥離シート14の厚さについては特に制限はないが、通常20〜150μm程度である。
【0095】
2.電池用粘着シートの物性等
本実施形態に係る電池用粘着シート1のアルミニウム板に対する粘着力は、下限値として0.5N/25mm以上であることが好ましく、特に0.75N/25mm以上であることが好ましく、さらには1.0N/25mm以上であることが好ましい。電池用粘着シート1の電解液溶媒浸漬前の粘着力の下限値が上記であることにより、電池用粘着シート1が電解液に接触する前に、電池用粘着シート1が被着体(特に金属部材)から剥離する不具合が発生し難い。上記電解液溶媒浸漬前の粘着力の上限値は特に限定されないが、通常は50N/25mm以下であることが好ましく、特に40N/25mm以下であることが好ましく、さらには30N/25mm以下であることが好ましい。なお、本明細書における粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180°引き剥がし法により測定した粘着力をいい、詳細な測定方法は後述する試験例にて示す通りである。
【0096】
電池用粘着シート1(剥離シート14は除く)の通常時(常温、常湿、常圧下)における厚さ方向の抵抗値は、1.0×10
10Ω以上であることが好ましい。電池用粘着シート1の厚さ方向の抵抗値が上記以上であることにより、当該電池用粘着シート1は絶縁性に優れているということができ、当該電池用粘着シート1を使用した電池にて、短絡や熱暴走の発生が抑制される。上記抵抗値の上限値は、特に限定されないが、通常は、1.0×10
16Ω以下であることが好ましい。
【0097】
ここで、本明細書における電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値は、電池用粘着シートを厚さ1mmのアルミニウム板に貼付した積層体の表面に位置する電池用粘着シートと裏面に位置するアルミニウム板のそれぞれに、テスターの端子を接触させることにより測定される。詳細は、後述する試験に示す通りである。
【0098】
また、電池用粘着シート1を800℃の窒素雰囲気下で1時間加熱した後における当該電池用粘着シート1(剥離シート14は除く)の厚さ方向の抵抗値は、1.0×10
10Ω以上であることが好ましい。上記抵抗値が上記以上であることにより、電池用粘着シート1は、高温加熱された場合であっても、絶縁性に優れているということができる。
【0099】
さらに、電池用粘着シート1を非水系電解液に浸漬して80℃で4週間加熱し、続いて800℃の窒素雰囲気下で1時間加熱した後における当該電池用粘着シート1(剥離シート14は除く)の厚さ方向の抵抗値は、1.0×10
10Ω以上であることが好ましい。上記抵抗値が上記以上であることにより、電池用粘着シート1は、電解液に長時間浸漬された場合であっても、絶縁性に優れているということができる。なお、ここにおける非水系電解液とは、炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルを1:1の体積比で混合した混合液に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/Lの濃度で溶解させた調製液である。
【0100】
電池用粘着シート1の厚さ(剥離シート14の厚さを除く)は、10〜250μmであることが好ましく、特に15〜110μmであることが好ましく、さらには20〜45μmであることが好ましい。電池用粘着シート1の厚さが上記の範囲にあることにより、電池用粘着シート1は粘着力および絶縁性を両立した、より好適なものとなる。
【0101】
3.電池用粘着シートの製造方法
本実施形態に係る電池用粘着シート1は、例えば、基材11とハードコート層12との積層体、および粘着剤層13と剥離シート14との積層体をそれぞれ作製し、ハードコート層12と粘着剤層13とが接するようにこれらの積層体を貼合することで製造することができる。なお、ハードコート層12と粘着剤層13との密着性を向上させる観点から、これらのいずれかの層の貼合する面または両方の層の貼合する面に対し、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を行ってから両層を貼合することも好ましい。
【0102】
基材11とハードコート層12との積層体は、例えば、次のように作製することができる。まず、基材11の一方の主面に対して、ハードコート層用組成物と、所望によりさらに溶媒とを含有する塗布液を塗布し、乾燥させる。塗布液の塗布は、常法によって行えばよく、例えば、バーコート法、ナイフコート法、マイヤーバー法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法によって行えばよい。乾燥は、例えば80〜150℃で30秒〜5分程度加熱することによって行うことができる。
【0103】
その後、上記塗布液を乾燥させてなる層に活性エネルギー線を照射することにより、当該層を硬化させてハードコート層12を形成する。活性エネルギー線としては、例えば、電磁波または荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを使用でき、具体的には、紫外線や電子線などを使用することができる。特に、取扱いが容易な紫外線が好ましい。紫外線の照射は、高圧水銀ランプ、キセノンランプ等によって行うことができ、紫外線の照射量は、照度が50〜1000mW/cm
2程度であることが好ましい。また、光量は、50〜10000mJ/cm
2であることが好ましく、80〜5000mJ/cm
2であることがより好ましく、200〜2000mJ/cm
2であることが特に好ましい。一方、電子線の照射は、電子線加速器等によって行うことができ、電子線の照射量は、10〜1000krad程度が好ましい。
【0104】
粘着剤層13と剥離シート14との積層体は、例えば以下のように作製することができる。
【0105】
前述した粘着性組成物Pおよび所望により溶剤を含有する塗布液を、剥離シート14の剥離面に塗布し、加熱処理を行って、塗膜を形成する。形成された塗膜は、養生期間が不要な場合は、そのまま粘着剤層13となり、養生期間が必要な場合は、養生期間経過後に粘着剤層13となる。
【0106】
上記加熱処理は、塗布液の希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。加熱処理を行う場合、加熱温度は、50〜150℃であることが好ましく、特に70〜120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、30秒〜10分であることが好ましく、特に50秒〜2分であることが好ましい。加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1〜2週間程度の養生期間を設けてもよい。
【0107】
そして、上記2つの積層体を、粘着剤層13とハードコート層12とが互いに接するように積層することにより、電池用粘着シート1が製造される。なお、粘着剤層13の養生期間は、ハードコート層12と積層した後に設けてもよい。
【0108】
本実施形態に係る電池用粘着シート1の他の製造方法として、基材11上にハードコート層12および粘着剤層13を順に形成することで、電池用粘着シート1を製造してもよい。
【0109】
〔リチウムイオン電池〕
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池は、電池の内部にて、前述した電池用粘着シートを用いて、2つ以上の導電体同士が接触した状態で固定されているものである。2つ以上の導電体の少なくとも1つはシート状であり、少なくとも1つは線状またはテープ状であることが好ましい。以下、好ましい実施形態に係るリチウムイオン電池について説明する。
【0110】
図2に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン電池2は、底部が負極端子23を構成する有底円筒状の外装体21と、外装体21の開口部に設けられた正極端子22と、外装体21の内部に設けられた電極体24とを備えている。また、当該リチウムイオン電池2の内部には、電解液が封入されている。
【0111】
電極体24は、それぞれシート状(帯状)の、正極活物質層241aが積層された正極集電体241と、負極活物質層242a層が積層された負極集電体242と、それらの間に介在するセパレータ243とを備えている。なお、正極集電体241および正極活物質層241aの積層体を正極という場合があり、負極集電体242および負極活物質層242aの積層体を負極という場合があり、それら正極および負極を包括して電極という場合がある。正極、負極およびセパレータ243は、それぞれ巻回されて、外装体21の内部に挿入される。
【0112】
また、
図3に示すように、正極集電体241には、線状またはテープ状の電極取り出しタブ244が、前述した電池用粘着シート1によって貼り付けられており、それによって電極取り出しタブ244は正極集電体241に電気的に接続している。この電極取り出しタブ244は、上記正極端子22にも電気的に接続している。なお、負極集電体242は、図示しない電極取り出しタブを介して負極端子23に電気的に接続している。
【0113】
一般的に、正極集電体241および負極集電体242は、アルミニウムといった金属を材料とし、電極取り出しタブ244は、アルミニウムまたは銅といった金属を材料とする。
【0114】
リチウムイオン電池2で使用される電解液は、通常、非水系電解液である。この非水系電解液としては、例えば、電解質としてのリチウム塩が、環状炭酸エステルと低級鎖状炭酸エステルとの混合溶媒に溶解したものが好ましく挙げられる。リチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)といったフッ素系錯塩や、LiN(SO
2Rf)
2・LiC(SO
2Rf)
3(ただしRf=CF
3,C
2F
5)等が使用される。また、環状炭酸エステルとしては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等が使用され、低級鎖状炭酸エステルとしては、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等が好ましく挙げられる。
【0115】
本実施形態に係るリチウムイオン電池2は、電極取り出しタブ244の固定に前述した電池用粘着シート1を使用する以外、通常の方法によって製造することができる。
【0116】
本実施形態に係るリチウムイオン電池2では、電極取り出しタブ244の正極241への貼付を電池用粘着シート1により行っている。この電池用粘着シート1は、金属酸化物ゾルを使用して得られたハードコート層12を有することにより、通常時においても、高温加熱された場合(基材11、粘着剤層13、ハードコート層12のマトリックス等が炭化した場合)であっても、さらには、電解液に長時間浸漬された後に高温加熱された場合であっても、絶縁性に優れる。
【0117】
上記のことから、本実施形態に係るリチウムイオン電池2は、粘着シートに起因する性能の低下、誤作動、熱暴走および短絡が抑制され、電池としての信頼性が高いものであり、また、大電流での条件下においても温度安定性や安全性に優れることが期待される。
【0118】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0119】
例えば、電池用粘着シート1において、剥離シート14は省略されてもよい。また、電池用粘着シート1において、基材11とハードコート層12との間、またはハードコート層12と粘着剤層13との間には、他の層が設けられてもよい。
【実施例】
【0120】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0121】
〔実施例1〕
1.基材上におけるハードコート層の形成
活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(硬化後にガラス転移点が観測されない材料)25質量部と、光重合開始剤としてのヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン5質量部と、金属酸化物ゾルとしてのジルコニアゾル(平均粒径15nm)75質量部(固形分換算値;以下同じ)とを混合し、メチルエチルケトンで希釈することにより、ハードコート層用塗布液を調製した。なお、上記ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジルコニアゾルとの容積比は、65:35(≒100:54)であった。
【0122】
基材としてのポリイミドフィルム(東レデュポン社製,商品名「カプトン100H」,厚さ25μm,UL94規格の難燃レベルV−0)の一方の面に、上記塗布液をナイフコーターで塗布した後、70℃で1分間乾燥させた。次に、その塗膜に対して紫外線(照度230mW/cm
2,光量510mJ/cm
2)を照射することにより、当該塗膜を硬化させた。これにより、基材の一方の面に、金属酸化物粒子含有量0.7cm
3/m
2、厚さ2μmのハードコート層が形成された第1の積層体を得た。
【0123】
2.剥離シート上における粘着性組成物の塗膜の形成
アクリル酸ブチル76.8質量部、アクリル酸メチル19.2質量部およびアクリル酸4質量部を溶液重合法により共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を調製した。この重合体の分子量を後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は100万であった。
【0124】
次に、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部と、金属キレート系架橋剤としてのアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)(綜研化学社製,商品名「M−5A」)0.31質量部と、イソシアネート系架橋剤としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(トーヨーケム社製,商品名「BHS8515」)2.35質量部と、シランカップリング剤としての3−グリシドキプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学社製,商品名「KBM−403」)0.5質量部とを混合し、メチルエチルケトンで希釈することにより、粘着性組成物の塗布液を調製した。
【0125】
得られた塗布液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート(リンテック社製,商品名「PET251130」)の剥離処理面にナイフコーターで塗布したのち、120℃で1分間加熱処理した。これにより、剥離シートの剥離処理面に、粘着性組成物の塗膜が積層された第2の積層体を得た。
【0126】
3.電池用粘着シートの作製
上記の通り作製した第1の積層体のハードコート層側の面と、上記の通り作製した第2の積層体の粘着性組成物の塗膜側の面とを貼合し、その後、23℃、50%RHで7日間養生した。これにより、粘着性組成物の塗膜が粘着剤層となった電池用粘着シートを得た。なお、粘着剤層の厚さは7μmであった。当該粘着剤層の厚さは、電池用粘着シートの総厚を求め、当該総厚から第1の積層体および上記剥離シートの厚さを差し引くことにより算出した。
【0127】
ここで、得られた電池用粘着シートの粘着剤層を構成する粘着剤の電解液溶媒浸漬によるゲル分率を、次のようにして測定した。
上記第2の積層体の粘着性組成物の塗膜側の面と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート(リンテック社製,商品名「PET251130」)の剥離処理面とを貼合した。その後、23℃、50%RHで7日間養生して、両面を剥離シートで保護された粘着剤層単独からなる測定用シートを得た。
【0128】
得られた測定用シートを80mm×80mmのサイズに裁断し、粘着剤層の両面を保護する剥離シートを剥がし、ポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、電解液溶媒としての、炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルを1:1の体積比で混合した調製液に80℃で72時間浸漬させた。その後粘着剤層を取り出し、エタノール中に一旦浸漬することにより、付着した電解液溶媒を溶解除去した後、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)を、(M2/M1)×100という計算式から算出した。その結果、粘着剤の電解液溶媒浸漬によるゲル分率は72%であった。
【0129】
〔実施例2〕
活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(硬化後にガラス転移点が観測されない材料)30質量部と、光重合開始剤としてのヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン5質量部と、金属酸化物ゾルとしてのアルミナゾル(平均粒径15nm)70質量部とを混合し、メチルエチルケトンで希釈することにより、ハードコート層用塗布液を調製した。なお、上記ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとアルミナゾルとの容積比は、60:40(≒100:67)であった。得られたハードコート層用塗布液を使用して実施例1と同様に処理することにより、基材の一方の面に、金属酸化物粒子含有量0.8cm
3/m
2、厚さ2μmのハードコート層を形成した。その後、実施例1と同様にして電池用粘着シートを製造した。
【0130】
〔実施例3〕
活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(硬化後にガラス転移点が観測されない材料)22質量部と、光重合開始剤としてのヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン5質量部と、アルミナゾル(平均粒径15nm)78質量部とを混合し、メチルエチルケトンで希釈することにより、ハードコート層用塗布液を調製した。なお、上記ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとアルミナゾルとの容積比は、50:50(=100:100)であった。得られたハードコート層用塗布液を使用して実施例1と同様に処理することにより、基材の一方の面に、金属酸化物粒子含有量1.9cm
3/m
2、厚さ3.8μmのハードコート層を形成した。その後、実施例1と同様にして電池用粘着シートを製造した。
【0131】
〔実施例4〕
活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(硬化後にガラス転移点が観測されない材料)70質量部と、光重合開始剤としてのヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン5質量部と、アルミナゾル(平均粒径15nm)30質量部とを混合し、メチルエチルケトンで希釈することにより、ハードコート層用塗布液を調製した。なお、上記ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとアルミナゾルとの容積比は、90:10(≒100:11)であった。得られたハードコート層用塗布液を使用して、実施例1と同様に処理することにより、基材の一方の面に、金属酸化物粒子含有量0.27cm
3/m
2、厚さ2.7μmのハードコート層を形成した。その後、実施例1と同様にして電池用粘着シートを製造した。
【0132】
〔比較例1〕
活性エネルギー線硬化性成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(硬化後にガラス転移点が観測されない材料)40質量部と、光重合開始剤としてのヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン5質量部と、オルガノシリカゾル(平均粒径30nm)60質量部とを混合し、メチルエチルケトンで希釈することにより、ハードコート層用塗布液を調製した。なお、上記ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとオルガノシリカゾルとの容積比は、55:45(≒100:82)であった。得られたハードコート層用塗布液を使用して、実施例1と同様に処理することにより、基材の一方の面に、粒子含有量0.9cm
3/m
2、厚さ2μmのハードコート層を形成した。その後、実施例1と同様にして電池用粘着シートを製造した。
【0133】
〔比較例2〕
基材にハードコート層を形成することなく、剥離シート上の粘着剤層を直接基材に積層する以外、実施例1と同様にして電池用粘着シートを製造した。
【0134】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC−8020
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK guard column HXL−H
TSK gel GMHXL(×2)
TSK gel G2000HXL
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0135】
〔試験例1〕(耐スチールウール性試験)
実施例および比較例の電池用粘着シートの製造の際に得られた第1の積層体におけるハードコート層の表面について、#0000のスチールウールを用いて、250g/cm
2の荷重で10cm、10往復擦り、そのハードコート層の表面を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
〇:線状の傷が全く見られなかった。
×:線状の傷が見られた。
【0136】
〔試験例2〕(粘着力の測定)
本試験例による電池用粘着シートの粘着力は、以下に示す操作以外、JIS Z0237:2009に準じて測定した。
【0137】
実施例および比較例で得られた電池用粘着シートを幅25mm、長さ250mmに裁断した後、剥離シートを剥離することで試験片を得た。この試験片の露出した粘着剤層を、23℃、50%RHの環境下で、被着体としてのアルミニウム板に2kgゴムローラーを用いて貼付した。その直後、万能型引張試験機(オリエンテック社製,商品名「テンシロンUTM−4−100」)を用いて、剥離角度180°、剥離速度300mm/minで試験片を上記アルミニウム板から剥離することにより、粘着力(N/25mm)を測定した。結果を表1に示す。
【0138】
〔試験例3〕(通常時の絶縁性評価)
実施例および比較例で得られた電池用粘着シートから剥離シートを剥離して、露出した粘着剤層をアルミニウム板(厚さ:1mm)に貼付し、これを試験片とした。テスター(日置電機社製,商品名「デジタルハイテスタ 3802−50」)を用いて、試験片の表面に位置する電池用粘着シートと裏面に位置するアルミニウム板のそれぞれにテスターの端子を接触させ、電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値を測定した。この厚さ方向の抵抗値に基づいて、以下の判断基準により電池用粘着シートの通常時の絶縁性を評価した。結果を表1に示す。
○…電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値が1.0×10
10Ω以上
×…電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値が1.0×10
10Ω未満
【0139】
〔試験例4〕(高温加熱後の絶縁性評価)
試験例5と同様にして得た試験片を、800℃の窒素雰囲気環境下にて1時間加熱した。その後、試験例5と同様にして電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値を測定した。この厚さ方向の抵抗値に基づいて、以下の判断基準により電池用粘着シートの高温加熱後の絶縁性を評価した。結果を表1に示す。
○…電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値が1.0×10
10Ω以上
×…電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値が1.0×10
10Ω未満
【0140】
〔試験例5〕(電解液耐久後及び高温加熱後の絶縁性評価)
試験例5と同様にして得た試験片を、電解液としての、炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルを1:1の体積比で混合した混合液にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/Lの濃度で溶解させた調製液とともにアルミラミネート袋に封入し、80℃の環境下で4週間加熱した(電解液耐久試験)。その後、試験例5と同様にして電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値(電解液耐久後)を測定した。
【0141】
また、上記電解液耐久試験後に、試験例6と同様にして試験片を加熱した。その後、試験例5と同様にして電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値(電解液耐久試験+高温加熱後)を測定した。
【0142】
上記厚さ方向の抵抗値に基づいて、以下の判断基準により電池用粘着シートの電解液耐久後及び高温加熱後(電解液耐久試験+高温加熱後)の絶縁性を評価した。結果を表1に示す。
○…電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値が1.0×10
10Ω以上
×…電池用粘着シートの厚さ方向の抵抗値が1.0×10
10Ω未満
【0143】
〔試験例6〕(電解液耐久試験後のハードコート層評価)
実施例および比較例で得られた電池用粘着シートから剥離シートを剥離して、露出した粘着剤層をアルミニウム板(厚さ:1mm)に貼付し、これを試験片とした。得られた試験片を、電解液としての、炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルを1:1の体積比で混合した混合液にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/Lの濃度で溶解させた調製液とともにアルミラミネート袋に封入し、80℃の環境下で4週間加熱した。
【0144】
その後、電池用粘着シートをアルミニウム板から剥がし、電池用粘着シートの断面について、エネルギー分散形X線分光器(EDX;エダックス社製,商品名「エネルギー分散型X線分析装置 Genesis Serines Standard」)を用いてX線分析を行った。そして、ハードコート層に添加した無機元素(Zr,Al,Si)のピークの有無を確認し、以下の判断基準により電解液耐久試験後のハードコート層(無機粒子の抜け出し性)を評価した。結果を表1に示す。
○…無機元素のピーク有り
×…無機元素のピーク無し
【0145】
【表1】
【0146】
表1から明らかなように、実施例の電池用粘着シートの粘着剤層は、通常時においても、高温加熱された場合であっても、電解液に長時間浸漬された場合であっても、電解液に長時間浸漬された後に高温加熱された場合であっても、絶縁性に優れるものであった。なお、比較例1の電池用粘着シートでは、電解液浸漬によってハードコート層中の無機粒子(シリカ)が電解液に抜け出し、それによって絶縁性が悪化していると考えられる。