(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378749
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】電解質組成物およびそれを含むナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20180813BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20180813BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20180813BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20180813BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/0567
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-505760(P2016-505760)
(86)(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公表番号】特表2016-514890(P2016-514890A)
(43)【公表日】2016年5月23日
(86)【国際出願番号】EP2014055942
(87)【国際公開番号】WO2014161746
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2017年2月22日
(31)【優先権主張番号】13162606.1
(32)【優先日】2013年4月5日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リー, チーフン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ハグスー
【審査官】
式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−277000(JP,A)
【文献】
特開2009−087934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、アノードと、モノフルオロリン酸ナトリウム(Na2PO3F)、ジフルオロリン酸ナトリウム(NaPO2F2)およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのナトリウム化合物を含む電解質組成物とを含む、ナトリウムイオン電池。
【請求項2】
電池において電気を通すことができる前記電解質組成物におけるカチオンが、ナトリウムイオンからなる、請求項1に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項3】
前記電解質組成物における前記ナトリウム化合物の濃度が、前記電解質組成物の総重量に対して、0.2〜2.0重量%である、請求項1または2に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項4】
前記電解質組成物が、前記ナトリウム化合物に加えて、NaPF6、NaBF4、NaClO4、NaAsF6、NaTaF6、NaAlCl4、Na2B10Cl10、NaCF3SO3、Na(CF3SO2)2N、Na(C2F5SO2)2N、NaB(C6H5)4、NaCH3SO3、Na(SO2CF3)3C、Na(FSO2)2N、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるナトリウム塩を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項5】
前記電解質組成物が、フッ素化カーボネートであるハロゲン化有機化合物をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項6】
前記電解質組成物が、環状カーボネート、非環式カーボネートおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される非水性溶媒を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項7】
前記電解質組成物における前記溶媒が、非環式ジアルキルカーボネート、環状アルキレンカーボネート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの有機カーボネートを含む、請求項6に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項8】
前記カソードが、ナトリウム以外の少なくとも1つの金属を含有するカソード活性材料を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項9】
モノフルオロリン酸ナトリウム(Na2PO3F)、ジフルオロリン酸ナトリウム(NaPO2F2)およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのナトリウム化合物を含む電解質組成物であって、電池において電気を通すことができる前記電解質組成物におけるカチオンが、ナトリウムイオンからなる、電解質組成物。
【請求項10】
ナトリウムイオン電池用の電解質の構成要素としてのモノフルオロリン酸ナトリウム(Na2PO3F)、ジフルオロリン酸ナトリウム(NaPO2F2)またはそれらの混合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年4月5日出願の欧州特許出願第13162606.1号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、ナトリウムイオン電池に好適な電解質組成物、およびそれを含むナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、リチウムイオン電池が二次電池として広く使用されているが、ナトリウムイオンがリチウムイオン電池のリチウムイオンの代わりに用いられるナトリウムイオン二次電池に関する研究が行われている。
【0004】
ナトリウムイオン電池は通常、アノートと、カソードと1つ以上の溶媒、ならびに1つ以上の導電性塩および/または添加剤を含有する電解質組成物とを含む。
【0005】
国際特許出願国際公開第2010/109889 A1号パンフレットは、正極と、負極活性材料を有する負極と、非水性溶媒を含有する非水性電解質液とが備わっているナトリウムイオン二次電池であって、硬質炭素が負極活性材料として使用され、そして非水性溶媒がプロピレンカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒、またはエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合溶媒から実質的になる電池を開示している。
【0006】
国際特許出願国際公開第2012/132813 A1号パンフレットはさらに、フルオロ基を有する飽和の環状カーボネートおよび/またはフルオロ基を有する鎖カーボネートからなる化合物を含有するナトリウムイオン二次電池用の添加剤、ならびにナトリウムイオン二次電池用の添加剤と飽和の環状カーボネートからなる非水性溶媒または飽和の環状カーボネートおよび鎖カーボネートからなる非水性カーボネートとを含有する非水性電解質液と;正極と;表面上にコーティングフィルムを有する負極とを含むナトリウムイオン二次電池であって、前記コーティングフィルムが、炭素、酸素、フッ素およびナトリウムを含有する複合材料からなり、そしてそれが硬質炭素からなる負極活性材料を含有する電池を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、有利な構成要素、とりわけナトリウムイオン電池用の有利な構成要素を含む電解質組成物を提供することである。別の目的は、ナトリウムイオン電池の電解質組成物用の導電性塩および/または添加剤として好適なナトリウム塩誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はそれ故、ナトリウムイオン電池に好適な、モノフルオロリン酸ナトリウム(Na
2PO
3F)、ジフルオロリン酸ナトリウム(NaPO
2F
2)およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのナトリウム化合物を含む、電解質組成物に関する。
【0009】
実際に、ある種のナトリウム誘導体を含有する電解質組成物は、とりわけ高温での、安定性などの、優れた熱特性を有することが分かった。本発明による電解質組成物が電池システムに用いられる場合の他の利点は、秀でた初期放電容量ならびに電極の、とりわけカソードの素晴らしい安定性である。さらに別の利点は、傑出した寿命である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
さらに、モノフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸ナトリウムおよびそれらの混合物の群から選択されるナトリウム化合物は有利にも、SEI(固体電解質界面)をナトリウムイオン電池において、例えばカソードおよび/またはアノードの表面上に、主としてカソードの表面上に形成し、電解質組成物のおよび/または電極の分解を防ぐことができる。
【0011】
本発明による電解質組成物は好適にも、ナトリウムイオン電池のために使用することができる。ナトリウムイオン電池では、電池システムにおいて電子を流し続けて電気を通すことを可能にする電解質組成物中のカチオンは通常、主導電性カチオンとしてナトリウムイオンを含み、任意選択的にさらに少量の他のカチオンを含んでいてもよい。したがって、本発明による電解質組成物では、電池において電気を通すことを可能にする電解質組成物中のカチオンは好ましくは、ナトリウムイオンから本質的になる。
【0012】
本発明では、電解質組成物中のナトリウム化合物の濃度は、電解質組成物の総重量に対して、好ましくは少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%、さらにより好ましくは少なくとも0.8重量%である。本発明では、電解質組成物中のナトリウム化合物の濃度は、電解質組成物の総重量に対して、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、さらにより好ましくは1.2重量%以下である。
【0013】
本発明では、ナトリウムイオン電池用の電解質組成物は、ナトリウム化合物に加えて導電性塩を含んでいてもよい。この導電性塩は好ましくは、NaPF
6、NaBF
4、NaClO
4、NaAsF
6、NaTaF
6、NaAlCl
4、Na
2B
10Cl
10、NaCF
3SO
3、Na(CF
3SO
2)
2N、Na(C
2F
5SO
2)
2N、NaB(C
6H
5)
4、NaCH
3SO
3、Na(SO
2CF
3)
3C、およびそれらの任意の組み合わせ、より好ましくはNaPF
6、NaBF
4、NaAsF
6、NaTaF
6、NaCF
3SO
3、Na(CF
3SO
2)
2N、Na(C
2F
5SO
2)
2N、Na(SO
2CF
3)
3C、およびそれらの任意の組み合わせ、さらにより好ましくはNaPF
6またはNa(CF
3SO
2)
2Nからなる群から選択される少なくとも1つのナトリウム塩である。本発明での導電性塩のさらに好ましい例は、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Na(FSO
2)
2N)である。電解質組成物中の導電性塩の濃度は、電解質組成物の総重量に対して、好ましくは0.1重量%〜3.0重量%、より好ましくは0.5重量%〜1.5重量%、さらにより好ましくは0.8重量%〜1.2重量%であるが、本発明はそれらに限定されない。
【0014】
本発明による電解質組成物は好ましくは、NaPF
6またはNa(CF
3SO
2)
2Nと組み合わせて、モノフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸ナトリウムおよびそれらの混合物の群から選択されるナトリウム化合物を含む。本発明による電解質組成物は、NaPF
6、Na(CF
3SO
2)
2N、および/またはNa(FSO
2)
2Nと組み合わせて、モノフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸ナトリウムおよびそれらの混合物の群から選択されるナトリウム化合物を含んでいてもよい。
【0015】
本発明による電解質組成物はさらに、少なくとも1つの好適な添加剤を含んでもよい。本発明の一実施形態では、ナトリウムイオン電池用の電解質組成物はさらに、ハロゲン化有機化合物を添加剤として含む。添加剤として有用なハロゲン化有機化合物は、フッ素化エチレンカーボネート、ポリフッ素化ジメチルカーボネート、フッ素化エチルメチルカーボネート、およびフッ素化ジエチルカーボネートの群から選択される、例えば、フッ素化炭酸エステルであり、他の溶媒または、好ましくは、電解質組成物中の好適な添加剤である。好ましいフッ素化カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、および4,4−ジフルオロ−5,5−ジメチルエチレンカーボネート;フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、およびビス(トリフルオロ)メチルカーボネートなどのジメチルカーボネート誘導体;2−フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、およびエチルトリフルオロメチルカーボネートなどのエチルメチルカーボネート誘導体;エチル(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル2’−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル2’−フルオロエチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、およびビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートなどのジエチルカーボネート誘導体、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネートおよび4,5−ジフルオロ−4,5−ジフェニルエチレンカーボネート、フルオロメチルフェニルカーボネート、2−フルオロエチルフェニルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフェニルカーボネートおよび2,2,2−トリフルオロエチルフェニルカーボネート、フルオロメチルビニルカーボネート、2−フルオロエチルビニルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルビニルカーボネートおよび2,2,2−トリフルオロエチルビニルカーボネート、フルオロメチルアリルカーボネート、2−フルオロエチルアリルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルアリルカーボネートおよび2,2,2−トリフルオロエチルアリルカーボネートである。添加剤として有用なハロゲン化有機化合物は、より好ましくはフッ素化環状カーボネート、さらにより好ましくはモノフルオロエチレンカーボネートである。しかし、本発明に使用することができる添加剤は、それらに限定されない。
【0016】
電解質組成物中の添加剤の含有率は、もしあれば、電解質組成物の総量に対して、好ましくは0.1〜10.0重量%、より好ましくは0.5〜5.0重量%、さらにより好ましくは0.5〜2.0重量%である。
【0017】
好ましくは、本発明による電解質組成物は、モノフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸ナトリウムおよびそれらの混合物の群から選択されるナトリウム化合物と、モノフルオロエチレンカーボネートとを含む。ある種の実施形態では、上の電解質組成物は、ナトリウム化合物とモノフルオロエチレンカーボネートとの組み合わせに加えてNaPF
6またはNa(CF
3SO
2)
2Nを含む。さらに、本発明による電解質組成物は、ナトリウム化合物とモノフルオロエチレンカーボネートとの組み合わせに加えてNaPF
6、Na(CF
3SO
2)
2N、および/またはNa(FSO
2)
2Nを含んでもよい。
【0018】
本発明との関連で、用語「含む(comprise)」または「含む(comprising)」は、「からなる(consist of)」または「からなる(consisting of)」をまた意味することを意図される。複数は単数を含むことを意図され、逆も同様である。
【0019】
本発明では、電解質組成物は一般に、少なくとも1つの溶媒を含む。ナトリウムイオン電池用の電解質組成物の溶媒は好ましくは、環状カーボネート、非環式カーボネートおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの非水性溶媒を含む。環状カーボネートの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニリデンカーボネートおよびブチレンカーボネートなどの、環状アルキレンカーボネートが挙げられる。非環式カーボネートの例としては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートおよびジエチルカーボネートなどの、非環式ジアルキルカーボネートが挙げられる。より好ましくは、溶媒は、非環式ジアルキルカーボネート、環状アルキレンカーボネート、およびそれらの組み合わせからなる群から、さらにより好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、およびジエチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つの有機カーボネートを含む。他の好適な溶媒は、例えば、ラクトン、ホルムアミド類、ピロリジノン、オキサゾリジノン、ニトロアルカン、N,N−置換ウレタン、スルホラン、ジアルキルスルホキシド、ジアルキルスルファイト、酢酸エステル、ニトリル、アセトアミド類、グリコールエーテル、ジオキソラン、ジアルキルオキシエタン、およびトリフルオロアセトアミド類から選択することができる。溶媒の特定例としては、ジメチルホルムアミド、カルボン酸アミド、例えば、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN,N−ジエチルアセトアミド、アセトン、アセトニトリル、ならびにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0020】
少なくとも1つの溶媒は、上に記載された構成要素に加えて、特にナトリウム化合物、導電性塩および添加剤に加えて電解質組成物の含有率の残りを占有してもよい。少なくとも1つの溶媒の含有率は、電解質組成物の総量に対して、好ましくは85〜99重量%、より好ましくは92〜98.5重量%、さらにより好ましくは95.5〜98重量%である。
【0021】
本発明による電解質組成物は、ポリマーゲル型電解質であってもよい。この場合には、本発明による電解質組成物は、ポリマーゲル電解質を形成するための少なくとも1つのポリマーを含むことができる。そのようなポリマーは、イオン伝導性ポリマー、イオン伝導性ではないポリマー、またはそれらの組み合わせであってもよい。イオン伝導性ポリマーの例としては、ポリフルオロビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられる。イオン伝導性ではないポリマーの例としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。しかし、本発明に使用することができるポリマーは、それらに限定されない。
【0022】
電解質組成物が、ハロゲン原子、特にフッ素原子を含有する少なくとも1つの導電性塩を含む場合、この導電性塩は、とりわけ高温でのその使用中に、電解質組成物中で、分解してフッ化水素酸(HF)などの、ハロゲン化水素を形成し得る。HFの形成は、ナトリウムイオン電池の電極中に含有される金属構成要素を溶解させることによって寿命の低下などの、問題のある結果を引き起こし得る。モノフルオロリン酸ナトリウムおよび/またはジフルオロリン酸ナトリウムの使用は、電解質組成物の良好な安定性をもたらすという利点を有する。この利点は結局、寿命の増加に寄与することができる。
【0023】
本発明による電解質組成物は好適にも、ナトリウムイオン電池に使用することができる。したがって、本発明の別の態様は、カソードと、アノードと本発明の電解質組成物とを含むナトリウムイオン電池に関する。
【0024】
ナトリウムイオン電池は、システム中に電力を蓄えるための方法としてナトリウムイオンを使用する再利用可能なタイプの電池であり、ナトリウムがリチウムよりも豊富であるので費用競争力および耐久性などの、今の時勢に最も頻繁に使用されている再充電可能な電池であるリチウムイオン電池を上回る、利点を有すると考えられる。
【0025】
ナトリウムイオン電池のアノードは通常、電流コレクタと、アノード活性材料と、バインダーとを含む。
【0026】
本発明での好ましいアノード活性材料は、軟質炭素および硬質炭度などの、非黒鉛炭素であり、本発明でのより好ましいアノード活性材料は硬質炭素であるが、ナトリウムイオン電池用のいかなる他の公知のアノード活性材料をも使用することができる。アノード活性材料の例としては、非黒鉛炭素、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの、炭素材料、Si、Ge、Sn、Pb、In、Zn、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、およびClなどの、ナトリウムと合金にすることができる元素、SiO、SiOx(0<x<2)、SnO
2、SnOx(0<x<2)およびSnSiO
3などの、前記元素を含む酸化物、またはSiCなどの、炭化物、ナトリウム金属などの、金属、またはナトリウム−チタン混合酸化物(Na
4Ti
5O
12)などの、ナトリウム−遷移金属混合酸化物が挙げられるが、本発明はそれらに限定されない。
【0027】
アノード用のバインダーの例としては、ポリフルオロビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル(PAN)などの、熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂などの、熱硬化性樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)などの、ゴム、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、またはそれらの誘導体などの、多糖類、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、本発明はそれらに限定されない。
【0028】
ナトリウムイオン電池のカソードは通常、少なくとも電流コレクタと、カソード活性材料と任意選択のバインダーとを含む。任意選択のバインダーに関しては、アノードについての上記のバインダーを同様に使用することができる。
【0029】
本発明でのカソード活性材料としては、ナトリウムをインターカレートするおよび脱インターカレートすることができる少なくとも1つの材料が挙げられ、特にナトリウム含有化合物が挙げられる。特定クラスのカソード活性材料は、ナトリウム−金属混合酸化物である。本発明でのカソード活性材料の例としては、NaFeO
2、NaCoO
2、NaCrO
2、NaMnO
2、NaNiO
2、NaNi
1/2Ti
1/2O
2、NaNi
1/2Mn
1/2O
2、Na
2/3Fe
1/3Mn
2/3O
2、NaNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、NaMn
2O
4、NaNi
1/2Mn
3/2O
2、NaFePO
4、NaMnPO
4、NaCoPO
4、Na
2FePO
4F、Na
2MnPO
4F、Na
2CoPO
4F、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、本発明はそれらに限定されない。
【0030】
カソード活性材料は通常、高価な遷移金属を含むので、無傷のカソード活性材料のような、容量などの、その性能を保ちながら安価なカソード活性材料を求める継続的要求が存在する。例えば、カソード活性材料中のCoの好ましくはNiとの、より好ましくはFeまたはMnとの交換は、カソード調製のための費用の削減をもたらすであろうと考えられる。しかし、Mnがカソード活性材料中に含められる場合、Mnは、電極から溶け出す可能性があり、結局カソード電極の劣化を引き起こす。
【0031】
本発明において、ナトリウム化合物を含む電解質組成物はナトリウムイオン電池の電極の安定性を増加させることが分かった。本発明によるナトリウムイオン電池は優れた寿命を達成できることがまた分かった。本発明による電解質組成物中のナトリウム化合物の存在は電極中の活性材料に含有される金属の溶解、とりわけマンガンの溶解を防ぐまたは少なくとも減速することを可能にする。
【0032】
したがって、特定の実施形態では、本発明によるナトリウムイオン電池は、本発明による電解質組成物に加えて、ナトリウム金属以外の少なくとも1つの金属、とりわけマンガンを含有するカソード活性材料を含むカソードを含む。
【0033】
本発明の好ましい実施形態が示され、記載されてきたが、当業者によるその変更が、本発明の趣旨または教示から逸脱することなく行われ得る。本明細書に記載される実施形態は、単なる例示であり、限定的ではない。システムおよび方法の多くの変形および変更が可能であり、これらも本発明の範囲内である。したがって、保護の範囲は、本明細書に記載される実施形態に限定されることはなく、以下の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲には、特許請求の範囲の主題のすべての等価物が含まれるものとする。
【0034】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、および刊行物の開示が、用語を不明確にする程度に本出願の説明と矛盾する場合には、本説明が優先するものとする。
【0035】
以下の実施例は、より詳細に本発明を説明することが意図されるが、限定する意図はない。
【実施例】
【0036】
実施例1
硬質炭素と、PVDFバインダーと、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)とを混合することによって調製されたアノード活性材料組成物を含むアノード、およびNaNi
1/2Mn
1/2O
2と、PVDFバインダーと、アセチレンブラックと、N−メチル−2−ピロリドンとを混合することによって調製されたカソード活性材料組成物を含むカソードを調製する。本発明によるナトリウム化合物(ジフルオロリン酸ナトリウム(NaPO
2F
2))を含む1.0M NaPF
6/プロピレンカーボネート(PC)+ジエチルカーボネート(DEC)の電解質組成物を使用する。アノードと、カソードと電解質組成物とを含む電池を数回充電し、放電する。結果は、本発明による電解質組成物を含む電池が秀でた寿命を有することを示す。