特許第6378786号(P6378786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6378786-分離膜構造体及び窒素濃度低減方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378786
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】分離膜構造体及び窒素濃度低減方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20180813BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20180813BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20180813BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20180813BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20180813BHJP
   C01B 21/04 20060101ALI20180813BHJP
   C01B 39/02 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B01D71/02 500
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D53/22
   B01D69/00
   C01B21/04 K
   C01B39/02
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-572157(P2016-572157)
(86)(22)【出願日】2016年1月28日
(86)【国際出願番号】JP2016052535
(87)【国際公開番号】WO2016121889
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2017年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-17580(P2015-17580)
(32)【優先日】2015年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-193080(P2015-193080)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−111258(JP,A)
【文献】 特開2013−226535(JP,A)
【文献】 特開2014−039896(JP,A)
【文献】 特開2014−240345(JP,A)
【文献】 特開2013−146722(JP,A)
【文献】 Ting Wu et al.,,Influence of propane on CO2/CH4 and N2/CH4 separations in CHA zeolite membranes,Journal of Membrane Science,ドイツ,ELSEVIER,2015年 1月 1日,473,201-209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00− 71/82
C02F 1/44
B01J 20/00− 20/34
C01B 5/00− 23/00
C01B 33/20− 39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともメタンと窒素を含有する混合ガス中の窒素を選択的に透過させる分離膜構造体であって、
多孔質支持体と、
前記多孔質支持体上に形成され、長径と短径を有する細孔を含むゼオライト膜と、
を備え、
前記短径に対する前記長径の比は、1.0より大きく、
前記短径は、0.30nm以上かつ0.35nm以下である、
分離膜構造体。
【請求項2】
前記短径に対する前記長径の比は、1.0より大きく、2.0以下である、
請求項1に記載の分離膜構造体。
【請求項3】
前記長径は、0.43nm以上かつ0.55nm以下である、
請求項1又は2に記載の分離膜構造体。
【請求項4】
前記ゼオライト膜の元素のモル比が、Si/Al≧3.0及びP/Al≦1.5の少なくとも一方を満たす、
請求項1乃至3のいずれかに記載の分離膜構造体。
【請求項5】
少なくともメタンと窒素を含有する混合ガス中の窒素を選択的に透過させる分離膜構造体であって、
多孔質支持体と、
前記多孔質支持体上に形成され、長径と短径をそれぞれ有する複数種の細孔を有するゼオライト膜と、
を備え、
前記複数種の細孔のうち最も大きい短径を有する細孔において、前記短径に対する前記長径の比は1.0より大きく、
前記複数種の細孔のうち最も大きい短径を有する細孔において、前記短径は0.30nm以上かつ0.35nm以下である、
分離膜構造体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の分離膜構造体を用いた窒素濃度低減方法であって、
前記混合ガスを1MPa以上の圧力で前記ゼオライト膜に供給する工程を備える
窒素濃度低減方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の分離膜構造体を用いた窒素濃度低減方法であって、
前記混合ガスを前記ゼオライト膜に供給することによって前記混合ガス中の窒素のモル濃度を当初の50%以下に低減させる工程を備える
窒素濃度低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンと窒素を分離するための分離膜構造体及び窒素濃度低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタンと窒素を分離することを目的とする様々な手法が提案されている。
【0003】
例えば、分子篩活性炭を用いた圧力スイング吸着法によって窒素を吸着除去する手法(特許文献1参照)や、カチオンをバリウム交換したETS−4を用いた圧力スイング吸着法によって窒素を吸着除去する手法(特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
また、CHA型ゼオライト膜、DDR型ゼオライト膜及び有機膜それぞれを用いた膜分離法によって窒素を分離する手法(非特許文献1〜3参照)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−312824号公報
【特許文献2】特表2001−526109号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ting Wuほか6名、“Influence of propane on CO2/CH4 and N2/CH4 separations in CHA zeolite membranes”、Jornal of Membrane Science 473 (2015) 201−209
【非特許文献2】J. van den Berghほか4名、“Separation and permiation characteristics of a DD3R zeolite membrane”、Jornal of Membrane Science 316 (2008) 35−45
【非特許文献3】Lloyd M. Robeson、“The upper bound revisited”、Jornal of Membrane Science 320 (2008) 390−400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、メタンの分子径と窒素の分子径が近似しているため、特に高圧条件下では上述の手法では十分な分離性能を達成するに至っていない。
【0008】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、高圧条件下でもメタンと窒素を効率的に分離可能な分離膜構造体及び窒素濃度低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る分離膜構造体は、多孔質支持体と、多孔質支持体上に形成され、長径と短径を有する細孔を含むゼオライト膜とを備える。短径に対する長径の比は、1.0より大きい。短径は、0.30nm以上かつ0.35nm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタンと窒素を効率的に分離可能な分離膜構造体及び窒素濃度低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】分離膜構造体の断面図
図2】分離膜の表面の拡大斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。
【0013】
(分離膜構造体10の構成)
図1は、分離膜構造体10の構成を示す断面図である。分離膜構造体10は、少なくともメタン分子(以下、「メタン」と略称する。)と窒素分子(以下、「窒素」と略称する。)を含有する混合ガス中の窒素を選択的に透過させる。分離膜構造体10は、多孔質支持体20及びゼオライト膜30を備える。
【0014】
多孔質支持体20は、ゼオライト膜30を支持する。多孔質支持体20は、表面にゼオライト膜30を膜状に形成(結晶化、塗布、或いは析出)できるような化学的安定性を有する。
【0015】
多孔質支持体20は、少なくともメタンと窒素を含有する混合ガスをゼオライト膜30に供給できるような形状であればよい。多孔質支持体20の形状としては、例えばハニカム状、モノリス状、平板状、管状、円筒状、円柱状、及び角柱状などが挙げられる。
【0016】
本実施形態に係る多孔質支持体20は、基体21と中間層22と表層23を有する。
【0017】
基体21は、多孔質材料によって構成される。多孔質材料としては、例えば、セラミックス焼結体、金属、有機高分子、ガラス、或いはカーボンなどを用いることができる。セラミックス焼結体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが挙げられる。金属としては、アルミニウム、鉄、ブロンズ、ステンレスなどが挙げられる。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0018】
基体21は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。
【0019】
基体21の平均細孔径は、例えば0.5μm〜25μmとすることができる。基体21の平均細孔径は、水銀ポロシメーターによって測定できる。基体21の気孔率は、例えば25%〜50%とすることができる。基体21を構成する多孔質材料の平均粒径は、例えば5μm〜100μmとすることができる。本実施形態において、「平均粒径」とは、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いた断面微構造観察によって測定される30個の測定対象粒子の最大直径を算術平均した値である。
【0020】
中間層22は、基体21上に形成される。中間層22は、基体21に用いることのできる上記多孔質材料によって構成することができる。中間層22の平均細孔径は、基体21の平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.005μm〜2μmとすることができる。中間層22の平均細孔径は、細孔径の大きさに合わせて、パームポロメーターまたはナノパームポロメーターによって測定することができる。中間層22の気孔率は、例えば20%〜60%とすることができる。中間層22の厚みは、例えば30μm〜300μmとすることができる。
【0021】
表層23は、中間層22上に形成される。表層23は、基体21に用いることのできる上記多孔質材料によって構成することができる。表層23の平均細孔径は、中間層22の平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.001μm〜1μmとすることができる。表層23の平均細孔径は、細孔径の大きさに合わせて、パームポロメーターまたはナノパームポロメーターによって測定することができる。表層23の気孔率は、例えば20%〜60%とすることができる。表層23の厚みは、例えば1μm〜50μmとすることができる。
【0022】
ゼオライト膜30は、多孔質支持体20(具体的には、表層23)上に形成される。ゼオライト膜30の厚みは特に制限されるものではないが、例えば0.1μm〜10μmとすることができる。ゼオライト膜30を厚くすると窒素の分離性能が向上する傾向があり、ゼオライト膜30を薄くすると窒素の透過速度が増大する傾向がある。
【0023】
ここで、図2は、ゼオライト膜30の表面30Sの拡大斜視図である。ゼオライト膜30は、表面30Sに開口する複数の細孔30aを含む。複数の細孔30aそれぞれは、表面30Sから多孔質支持体20に向かって延びる。複数の細孔30aそれぞれは、表面30Sからゼオライト膜30と多孔質支持体20との界面まで連なる。なお、図2では1つの細孔30aのみが図示されている。
【0024】
表面30Sにおける細孔30aの開口形状は、非真円形である。そのため、細孔30aは、長径Dと短径Dを有する。長径Dは、細孔30aの最大直径(酸素原子間距離の最大値)である。短径Dは、長径Dと概垂直な方向における細孔30aの直径である。長径Dは、短径Dより小さい。従って、短径Dに対する長径Dの比(長径D/短径D)は1.0より大きい。短径Dに対する長径Dの比は、1.1以上であることが好ましい。短径Dに対する長径Dの比を1.0より大きくすることによって、加圧状態の窒素が細孔30a内に入ることが促進される。短径Dに対する長径Dの比は、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましい。短径Dに対する長径Dの比を2.0以下とすることによって、細孔の変形が抑制されるため、細孔へのメタンの侵入を抑制することができる。なお、「非真円形状」には、全体的に扁平な星形多角形状が含まれる。
【0025】
ここで、ゼオライトの細孔を形成する骨格が酸素n員環以下の環からなる場合、酸素n員環細孔の長径と短径をそれぞれ長径Dと短径Dとする。なお、酸素n員環とは、貫通孔(チャンネル)を形成しているものをいい、貫通孔を形成していないものは含まない。酸素n員環とは、単にn員環とも称し、細孔を形成する骨格を構成する酸素原子の数がn個であって、Si原子、Al原子、P原子の少なくとも1種を含み、各酸素原子がSi原子、Al原子またはP原子などと結合して環状構造をなす部分のことである。例えば、ゼオライトが、酸素8員環、酸素6員環、酸素5員環、酸素4員環からなる細孔を有する(つまり、酸素8員環以下の環からなる細孔のみを有する)場合、酸素8員環細孔の長径と短径をそれぞれ長径Dと短径Dとする。
【0026】
また、ゼオライトが、nが等しい複数種の酸素n員環細孔を有する場合には、最も大きい短径を有する酸素n員環細孔の長径と短径をそれぞれ長径Dと短径Dとする。例えば、ゼオライトが、酸素8員環以下の環からなる細孔のみを有し、かつ、複数種の酸素8員環細孔を有する場合、最も大きい短径を有する酸素8員環細孔の長径と短径をそれぞれ長径Dと短径Dとする。
【0027】
細孔30aの短径Dは、0.30nm以上かつ0.35nm以下である。短径Dは、窒素の透過速度を考慮すると、0.31nm以上であることが好ましい。細孔30aの長径Dは特に制限されるものではないが、窒素の透過速度を考慮すると0.43nm以上が好ましく、窒素の分離性能を考慮すると0.55nm以下であることが好ましい。
【0028】
このようなゼオライト膜30の表面30Sに少なくともメタンと窒素を含有する混合ガスを加圧状態(例えば、1MPa程度)で接触させると、全体として細長形状の窒素は開口を押し広げて細孔30a内に入ることができる一方で、全体として球状のメタンは開口を押し広げて細孔30a内に入り難い。細孔30a内に入った窒素は、細孔30aに次々に入ってくる窒素に押されて多孔質支持体20側に移動する。このように、ゼオライト膜30は、メタンと窒素を含有する混合ガス中の窒素を選択的に透過させる。
【0029】
長径Dと短径Dは、骨格構造によって一義的に決定される。上述した長径Dと短径Dの関係を満たすゼオライト膜30の骨格構造(型)としては、ABW、AEN、AFN、AFV、AFX、AHT、APC、ATV、AVL、CDO、CGS、DAC、ESV、GIS、HEU、IHW、IRN、LTJ、MVY、OWE、PAR、SAT、UEI、WEI、YUGなどが挙げられる。骨格構造ごとの長径Dと短径Dは、The International Zeolite Association (IZA) “Database of Zeolite Structures” [online]、[平成27年1月22日検索]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。
【0030】
ゼオライト膜30におけるSi原子、Al原子、P原子のモル比については、Si/Al≧3.0及びP/Al≦1.5の少なくとも一方を満たすことが好ましく、Si/Al≧8.0及びP/Al≦1.2の少なくとも一方を満たすことがより好ましい。Si/Al≧3.0及びP/Al≦1.5の少なくとも一方を満たすことにより、ゼオライト膜の耐水性が向上し、水蒸気の影響を抑制することができるため、メタンと窒素を効率的に分離することが可能となる。なお、ゼオライト膜30には、Si、Al、P、O以外の元素が含まれていてもよい。
【0031】
(分離膜構造体の製造方法)
分離膜構造体10の製造方法について説明する。
【0032】
(1)多孔質支持体20の形成
まず、押出成形法、プレス成形法あるいは鋳込み成形法などを用いて、基体21の原料を所望の形状に成形することによって基体21の成形体を形成する。次に、基体21の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して基体21を形成する。
【0033】
次に、所望の粒径のセラミックス原料を用いて中間層用スラリーを調整し、基体21の表面に中間層用スラリーを成膜することによって中間層22の成形体を形成する。次に、中間層22の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して中間層22を形成する。
【0034】
次に、所望の粒径のセラミックス原料を用いて表層用スラリーを調整し、中間層22の表面に表層用スラリーを成膜することによって表層23の成形体を形成する。次に、表層23の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して表層23を形成する。
【0035】
以上によって多孔質支持体20が形成される。
【0036】
(2)ゼオライト膜30の形成
多孔質支持体20の表面にゼオライト膜30を形成する。ゼオライト膜30は、骨格構造に応じた従来既知の手法で形成することができる。
【0037】
まず、種結晶としてのゼオライトを予め表層23の表面に塗布した後、シリカ源、アルミナ源、有機テンプレート、アルカリ源及び水などを含む原料溶液が入った耐圧容器に多孔質支持体20を浸漬する。
【0038】
次に、耐圧容器を乾燥器に入れ、100〜200℃で1〜240時間ほど加熱処理(水熱合成)を行うことによってゼオライト膜を形成する。次に、ゼオライト膜が形成された多孔質支持体20を洗浄して、80〜100℃で乾燥する。
【0039】
次に、原料溶液中に有機テンプレートが含まれる場合には、多孔質支持体20を電気炉に入れ、大気中にて400〜800℃で1〜200時間ほど加熱することによって有機テンプレートを燃焼除去する。
【0040】
なお、原料溶液組成や加熱処理条件などについては、既報を参考とすることができる。例えば、HEU型ゼオライトの合成については、特開2000−237584を参考とすることができる。また、GIS型ゼオライトの合成については、特開2011−111337を参考とすることができる。
【0041】
(窒素濃度低減方法)
分離膜構造体10を用いた窒素濃度低減方法について説明する。
【0042】
少なくともメタンと窒素を含有する混合ガスを1MPaの圧力でゼオライト膜30に供給する。この際、窒素は細孔30aの開口を押し広げて入ることができる一方で、メタンは細孔30aに入りにくい。
【0043】
その結果、混合ガス中の窒素濃度が低減してメタンが濃縮される。具体的には、1MPaとした混合ガスを短径Dが0.30nm以上かつ0.35nm以下であるゼオライト膜30に供給した場合、混合ガス中の窒素のモル濃度を当初の50%以下に低減させることができる。
【0044】
なお、混合ガスの圧力は1MPaに限られるものではなく、1MPa以上であればよいが、膜の耐圧性を考慮すると10MPa以下であることが好ましい。混合ガスの圧力は、必要に応じて所定の値に調整することができる。
【0045】
(作用及び効果)
本実施形態に係る分離膜構造体10は、多孔質支持体20と、多孔質支持体20上に形成され長径Dと短径Dを有する細孔30aを含むゼオライト膜30とを備える。短径Dに対する長径Dの比は、1より大きい。短径Dは、0.30nm以上かつ0.35nm以下である。
【0046】
従って、少なくともメタンと窒素を含有する混合ガスを加圧状態で供給すると、ゼオライト膜30における分子篩効果によって窒素を選択的に透過させることができるため、メタンと窒素を効率的に分離することができる。
【0047】
(その他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0048】
例えば、多孔質支持体20は、基体21と中間層22と表層23を有することとしたが、中間層22と表層23の何れか一方もしくは両方を有していなくてもよい。
【0049】
また、分離膜構造体10は、多孔質支持体20上に積層されたゼオライト膜30を備えることとしたが、ゼオライト膜30上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜に限られず炭素膜やシリカ膜などの無機膜やポリイミド膜やシリコーン膜などの有機膜であってもよい。また、分離膜30上に積層された機能膜や保護膜には、メタンに比べて窒素を吸着しやすい金属カチオンや金属錯体が添加されていてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、分離膜構造体の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0051】
(分離膜構造体の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1〜12に係る分離膜構造体を作製した。
【0052】
まず、直径10mm、長さ30mmのチューブ形状の多孔質アルミナ基材を準備した。多孔質アルミナ基材の外表面に開口する細孔径は、0.1μmであった。
【0053】
次に、表1に示す各種ゼオライト粉末を周知の手法で合成した。具体的に、サンプルNo.1に係るCDOゼオライト粉末(特開2008−137856号公報参照)、サンプルNo.2に係るIHWゼオライト粉末(Journal of American Chemical Society, 127, 11560-11561 (2005)参照)、サンプルNo.3に係るATVゼオライト粉末(Inorganic Chemistry, 40(23), 5812-5817 (2001)参照)、サンプルNo.4に係るSATゼオライト粉末(Journal of the Chemical Society, Dalton Transactions, 1997, 4485-4490参照)、サンプルNo.5に係るGISゼオライト粉末(特開2011−111337号公報参照)、サンプルNo.6に係るABWゼオライト粉末(特開2012−87000号公報参照)、サンプルNo.7に係るAFXゼオライト粉末(Chemistry of Materials, 8(10), 2409-2411 (1996)参照)、サンプルNo.8に係るCGSゼオライト粉末(Microporous and Mesoporous Materials, 28(1), 163-172 (1999)参照)、サンプルNo.9に係るHEUゼオライト粉末(特開2000−237584号公報参照)、サンプルNo.10に係るCHAゼオライト粉末(特開2013−126649号公報参照)、サンプルNo.11に係るRHOゼオライト粉末(Ceramics International, 39, 7149-7158 (2013)参照)、及びサンプルNo.12に係るMFIゼオライト粉末(特開2012−81437号公報参照)を合成した。
【0054】
次に、ゼオライト粉末を多孔質アルミナ基材の外表面に塗布した。そして、ゼオライト粉末の合成に用いた合成ゾル中に多孔質アルミナ基材を浸漬して、水熱合成によってゼオライト膜を成膜した。各種ゼオライト膜におけるSi原子、Al原子及びP原子のモル数に基づくモル比Si/Al及びモル比P/Alは表1に示すとおりであった。
【0055】
次に、サンプルNo.1〜12のうち有機テンプレートを用いたサンプルについて、有機テンプレートを燃焼除去した。
【0056】
次に、多孔質アルミナ基材の一端にエポキシ樹脂でガラス板を接着することによって、多孔質アルミナ基材の一端を封止した。続いて、多孔質アルミナ基材の他端にエポキシ樹脂でガラス管を接続した。以上により、サンプルNo.1〜12に係る分離膜構造体が完成した。
【0057】
(ガス分離試験)
サンプルNo.1〜12に係る分離膜構造体を用いてガス分離試験を行った。
【0058】
まず、分離膜構造体を十分に乾燥させた後、窒素とメタンの混合ガス(モル比で1:1)を温度23℃、圧力1MPaで分離膜構造体の外側に供給した。
【0059】
次に、ゼオライト膜を透過してガラス管から流出する透過ガスの流量と組成を分析した。透過ガスの流量は、マスフローメーターで測定した。透過ガスの組成は、ガスクロマトグラフィーで測定した。そして、透過ガスの流量と組成に基づいて、単位膜面積・単位圧力差・単位膜厚あたりの窒素とメタンの透過速度を算出し、(窒素透過速度)/(メタン透過速度)を窒素分離性能とした。表1では、窒素分離性能が高い順にA、B、C、Dと評価され、窒素透過速度が高い順にA、B、Cと評価されている。
【0060】
次に、上記混合ガスに水蒸気(100ppm)を添加した供給ガスを温度23℃、圧力1MPaで分離膜構造体の外側に供給した。
【0061】
次に、ゼオライト膜を透過してガラス管から流出する透過ガスの流量をマスフローメーターで測定した。そして、(水蒸気添加していない場合の透過ガスの流量−水蒸気添加した場合の透過ガスの流量)/(水蒸気添加していない場合の透過ガスの流量)を透過ガス低下割合とした。透過ガス低下割合が小さいほど水蒸気耐性は高いものとして、表1では、水蒸気耐性が高い順にA、B、Cと評価されている。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示されるように、短径に対する長径の比が1.0より大きく、短径が0.30nm以上かつ0.35nm以下であるサンプルNo.1〜9では、窒素分離性能を向上させることができた。
【0064】
また、サンプルNo.1〜9のうち短径に対する長径の比が1.0より大きく2.0以下であるサンプルNo.1〜7では、窒素分離性能をさらに向上させることができた。
【0065】
また、表1に示されるように、長径が0.43nm以上かつ0.55nm以下であるサンプルでは、窒素透過速度を向上させることができた。
【0066】
また、表1に示されるように、モル比Si/Alが3.0以上であるサンプルと、モル比P/Alが1.5以下であるサンプルでは、水蒸気耐性を向上させることができた。さらに、モル比Si/Alを8.0以上であるサンプルでは、水蒸気耐性をさらに向上させることができた。
【符号の説明】
【0067】
10 分離膜構造体
20 多孔質支持体
21 基体
22 中間層
23 表層
30 ゼオライト膜
30a 細孔
30S 開口
長径
短径
図1
図2