特許第6378799号(P6378799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378799
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20180813BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20180813BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B60C11/03 100C
   B60C11/13 B
   B60C11/12 D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-79943(P2017-79943)
(22)【出願日】2017年4月13日
(62)【分割の表示】特願2015-516960(P2015-516960)の分割
【原出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2017-165406(P2017-165406A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2017年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-101508(P2013-101508)
(32)【優先日】2013年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】前原 敦史
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/133940(WO,A1)
【文献】 特開2012−020714(JP,A)
【文献】 特開昭60−255506(JP,A)
【文献】 特開昭61−257303(JP,A)
【文献】 特開平10−157415(JP,A)
【文献】 特開2013−063700(JP,A)
【文献】 特開平10−029225(JP,A)
【文献】 特開2012−020695(JP,A)
【文献】 特開2010−126046(JP,A)
【文献】 特開2009−018617(JP,A)
【文献】 特開2012−218469(JP,A)
【文献】 特表2002−539998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、タイヤ周方向に連続してのびる複数本の主溝が設けられることにより、前記主溝間又は前記主溝とトレッド端との間に陸部が複数区分された重荷重用空気入りタイヤであって、
前記主溝は、タイヤ赤道の両側をのびる一対のクラウン主溝と、前記クラウン主溝のタイヤ軸方向外側をのびる一対のショルダー主溝とを含み、
前記陸部は、前記一対のクラウン主溝の間に区分され、かつ、タイヤ周方向に連続するクラウンリブ、前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間に区分されたミドル陸部、及び、前記ショルダー主溝とトレッド端との間に区分されたショルダー陸部を含み、
前記クラウンリブには、前記クラウン主溝からのびるクラウンサイプが設けられ、かつ、横溝が設けられることがなく、
前記ミドル陸部には、複数のミドル横溝が設けられ、
前記ショルダー陸部には、複数のショルダー横溝が設けられ、
前記主溝のうちの少なくとも1本は、溝の長手方向と直交する横断面において、第1溝底と、前記第1溝底からトレッド踏面へと滑らかにのびる一対の第1溝壁とを有し、
前記トレッド踏面において、前記第1溝壁間の溝幅W1が2.0〜20.0mmであり、
前記トレッド踏面から前記第1溝底までの溝深さDが10.0mm以上であり、
前記第1溝壁は、前記トレッド踏面の法線方向に対する角度α(度)と前記溝幅W1(mm)との比(W1/α)が、1.0〜2.0(mm/度)の範囲であり、
前記ミドル横溝の溝幅は、前記ショルダー横溝の溝幅よりも小さいことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記クラウンリブは、タイヤ赤道側の前記第1溝壁に連なるリブ縁に、最もタイヤ軸方向外側でタイヤ周方向に沿ってのびる出隅部と、最もタイヤ赤道側でタイヤ周方向に沿ってのびる入隅部とを含み、
前記クラウンサイプは、タイヤ軸方向に対して一方側に傾斜し、かつ、前記クラウンリブのリブ縁のタイヤ赤道の一方側と他方側の前記出隅部の間をつなぐ第1クラウンサイプと、タイヤ赤道の一方側と他方側の前記入隅部の間をつなぐ第2クラウンサイプとを含み、
前記第1クラウンサイプと前記第2クラウンサイプとは、タイヤ軸方向に対して異なる角度で傾斜する請求項1記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1クラウンサイプと前記第2クラウンサイプとは、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜する請求項2記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記主溝のうちの少なくとも1本は、前記トレッド踏面から前記第1溝底までの溝深さDが15.0〜20.0mmである請求項1ないし3のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ミドル横溝及び前記ショルダー横溝は、第2溝底と、前記第2溝底から前記トレッド踏面へと滑らかにのびる一対の第2溝壁を有し、
前記第2溝壁は、前記トレッド踏面の法線方向に対する角度が、1〜12度である請求項1ないし4のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部に、タイヤ周方向に連続してのびる複数の主溝が設けられた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレッド部に、タイヤ周方向に連続してのびる複数本の主溝が設けられたトレッドパターンが採用された空気入りタイヤが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。前記トレッド部は、キャップゴム層とベースゴム層とで形成されたトレッドゴムを含んでいる。この種のタイヤでは、耐摩耗性能と転がり性能とを両立するために、キャップゴム層及びベースゴム層の厚さがそれぞれ規制されている。
【0003】
近年、市場では、タイヤの性能表示が実施されている。タイヤの性能には、例えば、転がり性能、低ノイズ性能、ウエット性能又は耐摩耗性能等が含まれ、これらの性能の向上が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−137411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、低ノイズ性能を向上させるために、溝容積が小さな浅い主溝を設けた場合、摩耗により主溝が早期に消失し、耐摩耗性能やウエット性能が悪化する傾向にある。一方、耐摩耗性能を向上させるために、トレッドゴムに多くのカーボンを配合した場合、トレッド部が発熱し易くなり、転がり性能が悪化する傾向にある。
【0006】
このように、上記各性能は、二律背反の関係を含んでいる。従って、全ての性能において、市場が満足するレベルのタイヤを提供するのは困難であった。
【0007】
本発明は、以上のような実状に鑑みなされたもので、ウエット性能を維持しつつ、転がり性能、低ノイズ性能及び耐摩耗性能をバランス良く向上させることができる空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トレッド部に、タイヤ周方向に連続してのびる複数本の主溝が設けられることにより、前記主溝間又は前記主溝とトレッド端との間に陸部が複数区分された空気入りタイヤであって、少なくとも1つの前記陸部には、前記主溝からのびるサイプが設けられ、前記主溝のうちの少なくとも1本は、溝の長手方向と直交する横断面において、第1溝底と、前記第1溝底からトレッド踏面へと滑らかにのびる一対の第1溝壁とを有し、前記トレッド踏面において、前記第1溝壁間の溝幅W1が2.0〜20.0mmであり、前記トレッド踏面から前記第1溝底までの溝深さDが10.0mm以上であり、前記第1溝壁は、前記トレッド踏面の法線方向に対する角度α(度)と前記溝幅W1(mm)との比(W1/α)が、1.0〜2.0(mm/度)の範囲であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記主溝は、タイヤ周方向にジグザグ状にのびているのが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、少なくとも1つの前記陸部には、該陸部を横切る複数の横溝が設けられ、前記横溝は、溝の長手方向と直交する横断面において、第2溝底と、前記第2溝底からトレッド踏面へとのびる一対の第2溝壁とを有し、前記トレッド踏面において、前記第2溝壁間の溝幅W2が1.0〜12.0mmであり、前記第2溝壁は、前記トレッド踏面の法線方向に対する角度βが0〜20度であるのが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記比(W1/α)は、1.3〜1.8(mm/度)の範囲であるのが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記サイプの幅は、0.5〜1.5mmであるのが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記主溝は、タイヤ赤道の両側をのびる一対のクラウン主溝と、前記クラウン主溝のタイヤ軸方向外側をのびる一対のショルダー主溝とを含み、前記ショルダー主溝の溝幅W1Sは、前記クラウン主溝の溝幅W1Cより大きいのが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記トレッド部は、前記一対のクラウン主溝の間に区分され、かつ、タイヤ周方向に連続するクラウンリブを含み、前記クラウンリブは、タイヤ赤道側の前記第1溝壁に連なるリブ縁に、最もタイヤ軸方向外側でタイヤ周方向に沿ってのびる出隅部と、最もタイヤ赤道側でタイヤ周方向に沿ってのびる入隅部とを含んでいるのが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記クラウンリブは、一対のクラウン主溝間を連通する複数のクラウンサイプを含み、前記クラウンサイプは、タイヤ軸方向に対して一方側に傾斜し、かつ、前記クラウンリブのリブ縁のタイヤ赤道の一方側と他方側の前記出隅部の間をつなぐ第1クラウンサイプと、タイヤ赤道の一方側と他方側の前記入隅部の間をつなぐ第2クラウンサイプとを含んでいるのが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の空気入りタイヤは、少なくとも1つの陸部に、主溝からのびるサイプが設けられている。前記主溝は、溝の長手方向と直交する横断面において、第1溝底と、前記第1溝底からトレッド踏面へと滑らかにのびる一対の第1溝壁とを有している。トレッド踏面において、前記第1溝壁間の溝幅W1は、2.0〜20.0mmである。前記トレッド踏面から前記第1溝底までの溝深さDは、10.0mm以上である。第1溝壁は、前記トレッド踏面の法線方向に対する角度α(度)と前記溝幅W1(mm)との比(W1/α)が、1.0〜2.0(mm/度)の範囲である。
【0017】
本発明の空気入りタイヤでは、主溝の溝幅W1及び溝深さDの範囲が規制され、さらに、第1溝壁の角度αの範囲が規制される。このため、タイヤが路面に接する接地面では、荷重負荷のトレッド部の変形により、主溝の第1溝壁同士が接触することが可能になる。即ち、トレッド踏面側では、主溝を挟んで隣り合う陸部が互いに接し、トレッド部の見かけの剛性が一時的に向上する。従って、主溝の第1溝壁同士が接触した後のトレッド部の変形が抑制されて、タイヤのエネルギーロスが減少し、転がり性能が向上する。また、前記トレッド踏面側の剛性が高められることにより、接地時、陸部の路面に対する滑り量が減少し、耐摩耗性能が向上する。
【0018】
さらに、本発明の空気入りタイヤでは、第1溝壁同士が互いに接触することにより、主溝の溝容積が小さくなり、主溝内の気柱共鳴音等のノイズが抑制され、耐ノイズ性能も向上する。このとき、溝容積が小さくなり、主溝による排水性は低下する傾向にあるが、陸部に設けられたサイプのエッジ効果により、ウエット性能が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の空気入りタイヤのトレッド部の展開図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3図2の主溝の接地面での変形を説明するトレッド部の部分断面図である。
図4図1のB−B断面図である。
図5図1のタイヤ赤道付近の部分拡大図である。
図6】閉じた主溝付近の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が、図面に基づき説明される。
図1には、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」と記載される場合がある)1のトレッド部2の展開図が示されている。タイヤ1として、本実施形態では、重荷重用のタイヤが示されている。タイヤ1は、例えば、乗用車用など、種々のカテゴリーのものを含んでいる。
【0021】
図1に示されるように、タイヤ1は、トレッド部2に、タイヤ周方向に連続してのびる複数本、本実施形態では、4本の主溝3が設けられている。主溝3は、例えば、タイヤ赤道Cの両側をのびる一対のクラウン主溝4、4と、クラウン主溝4のタイヤ軸方向外側をのびる一対のショルダー主溝5、5とを含んでいる。
【0022】
本実施形態のトレッド部2には、主溝3間又は主溝3とトレッド端Teとの間で区分された陸部7が複数設けられている。陸部7は、例えば、クラウン陸部8と、一対のミドル陸部9、9と、一対のショルダー陸部10、10とを含んでいる。クラウン陸部8は、一対のクラウン主溝4、4の間に区分されている。ミドル陸部9は、クラウン主溝4とショルダー主溝5との間に区分されている。ショルダー陸部10は、ショルダー主溝5とトレッド端Teとの間に区分されている。
【0023】
前記「トレッド端」とは、正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0°にて平面に接地させたときの接地面のタイヤ軸方向最外端である。
【0024】
前記「正規状態」とは、タイヤ1が、正規リム(図示省略)にリム組みされかつ正規内圧が充填されしかも無負荷の状態である。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ1の各部の寸法は、正規状態での値である。
【0025】
前記「正規リム」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである。正規リムは、例えば、JATMAであれば"標準リム"、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0026】
前記「正規内圧」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。正規内圧は、例えば、JATMAであれば"最高空気圧"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0027】
前記「正規荷重」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重である。正規荷重は、例えば、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0028】
少なくとも1つの陸部7には、主溝3からのびるサイプ11が設けられている。本実施形態のサイプ11は、例えば、クラウン陸部8に設けられたクラウンサイプ12、ミドル陸部9に設けられたミドルサイプ13及びショルダー陸部10に設けられたショルダーサイプ14を含んでいる。これらのサイプ11は、ワイピング効果及びエッジ効果により、タイヤ1のウエット性能を向上させる。
【0029】
サイプ11の幅は、例えば、0.5〜1.5mmの範囲であるのが望ましい。サイプ11の幅が0.5mm未満の場合、その形成が困難になるとともに、エッジ効果も十分に発揮できないおそれがある。逆に、サイプ11の幅が1.5mmより大きい場合、各陸部7の剛性を過度に低下させるおそれがある。
【0030】
図2には、図1のA−A断面図として、主溝3の長手方向と直交する横断面図が示されている。図2に示されるように、主溝3は、第1溝底3Aと、第1溝底3Aからトレッド踏面Sへと滑らかにのびる一対の第1溝壁3Bとを有している。第1溝壁3Bは、その溝幅がトレッド踏面Sに向かって漸増する向きに夫々傾斜している。
【0031】
トレッド踏面Sにおいて、第1溝壁3B、3B間の間隔である主溝3の溝幅W1は、2.0〜20.0mmの範囲に規制されている。溝幅W1が2.0mm未満の場合、主溝3の溝容積を十分に確保できないおそれがある。逆に、溝幅W1が20.0mmより大きい場合、陸部7の剛性が過度に低下するおそれがある。
【0032】
トレッド踏面Sから第1溝底3Aまでの深さである主溝3の溝深さDは、10.0mm以上の範囲に規制されている。溝深さDが10.0mm未満の場合、主溝3の溝容積を十分に確保できないおそれがある。このような観点及びトレッド部2の剛性を十分に確保する観点から、溝深さDは、例えば、15.0〜20.0mmであるのが望ましい。
【0033】
第1溝壁3Bは、トレッド踏面Sの法線方向に対する角度α(度)と溝幅W1(mm)との比(W1/α)が1.0〜2.0(mm/度)の範囲に規制されている。
【0034】
図3には、正規荷重が負荷されて変形したトレッド部2の主溝3の部分拡大図が示されている。本実施形態のタイヤ1では、主溝3の溝幅W1、溝深さD及び第1溝壁3Bの角度αと溝幅W1との比(W1/α)の範囲がそれぞれ規制されている。このため、図3に示されるように、接地面では、トレッドゴムの変形により、主溝3の第1溝壁3Bが、例えば、トレッド踏面S側で互いに接触することが可能になる。即ち、主溝3を挟んで隣り合う陸部7が互いに接し、陸部7の変形が互いに抑制される。これにより、陸部7の見かけの剛性が一時的に向上する。従って、タイヤ1が転がる際のエネルギーロスが減少し、転がり性能が向上する。また、トレッド踏面S側の剛性が高められることにより、接地時、陸部7の路面に対する滑り量が減少し、耐摩耗性能が向上する。
【0035】
本実施形態のタイヤ1では、第1溝壁3Bが互いに接触することにより、主溝3の溝容積が小さくなり、主溝3内の気柱共鳴音等のノイズが抑制され、耐ノイズ性能も向上する。このとき、溝容積が小さくなり、主溝3による排水性は低下する傾向にある。しかしながら、陸部7に設けられたサイプ11のエッジ効果により、ウエット性能が維持される。
【0036】
図2に示されるように、トレッド踏面Sの法線方向に対する角度α(度)と溝幅W1(mm)との比(W1/α)が2.0(mm/度)より大きい場合、荷重負荷による変形に際し、主溝3の第1溝壁3Bが互いに接触し難い。逆に、前記比(mm/度)が1.0(mm/度)未満の場合、ウエット性能の低下や荷重負荷による変形に際し、第1溝壁3Bが過度に接するおそれがある。これらの場合、上記作用・効果が十分に発揮されないおそれがある。このような観点から、前記比(W1/度)は、より好ましくは、1.3〜1.8(mm/度)の範囲である。
【0037】
本実施形態のクラウン主溝4は、クラウン第1溝底4Aと、クラウン第1溝底4Aからトレッド踏面Sへと滑らかにのびる一対のクラウン第1溝壁4B、4Bとを有している。
同様に、ショルダー主溝5は、ショルダー第1溝底5Aと、ショルダー第1溝底5Aからトレッド踏面Sへと滑らかにのびる一対のショルダー第1溝壁5B、5Bとを有している。
【0038】
トレッド踏面Sのプロファイルにより、ショルダー主溝5の溝幅W1Sは、例えば、クラウン主溝4の溝幅W1Cより大きいのが望ましい。具体的には、クラウン主溝4の溝幅W1Cは、例えば、2.0〜10.0mmであるのが好ましい。他方、ショルダー主溝5の溝幅W1Sは、例えば、10.0〜20.0mmであるのが好ましい。このような主溝3の構成によれば、接地圧の違いにより異なる排水性がバランス良く向上され、ウエット性能を維持しつつ、転がり性能、耐摩耗性能及び耐ノイズ性能をより一層効果的に発揮することができる。
【0039】
図1に示されるように、本実施形態の主溝3は、例えば、タイヤ周方向へジグザグ状にのびている。ジグザグ状の主溝3では、一対の第1溝壁3Bが互いに接した際、一方の第1溝壁3Bと他方の第1溝壁3Bとが噛み合うため、これらのタイヤ周方向のずれが抑制される。従って、トレッド踏面S側の剛性がより一層向上され、転がり性能及び耐摩耗性能がさらに向上される。
【0040】
少なくとも1つの陸部7には、該陸部7を横切る複数の横溝20が設けられている。本実施形態の横溝20は、例えば、ミドル陸部9に設けられた複数のミドル横溝21と、ショルダー陸部10に設けられた複数のショルダー横溝22とを含んでいる。
【0041】
各ミドル横溝21は、一端がクラウン主溝4に、他端がショルダー主溝5にそれぞれ連通している。ミドル横溝21は、ミドル陸部9を複数のブロック9Bに区分している。他方、各ショルダー横溝22は、一端がショルダー主溝5に連通しかつ他端がトレッド端Teに連通している。ショルダー横溝22は、ショルダー陸部10を複数のブロック10Bに区分している。
【0042】
図4には、図1のB−B断面図として、横溝20の長手方向と直交する横断面図が示されている。
【0043】
図4に示されるように、横溝20は、第2溝底20Aと、第2溝底20Aからトレッド踏面Sへと滑らかにのびる一対の第2溝壁20B、20Bとを有している。トレッド踏面Sにおいて、第2溝壁20B間の間隔である横溝20の溝幅W2は、例えば、1.0〜12.0mmであるのが望ましい。
【0044】
横溝20の第2溝壁20Bは、主溝3と同様の観点から、トレッド踏面Sの法線方向に対する角度βが、例えば、1〜12度であるのが望ましい。
【0045】
横溝20は、主溝3と同様に、溝幅W2及び第2溝壁20Bの角度βの範囲がそれぞれ規制されている。このため、接地面では、トレッドゴムの変形により、横溝20の第2溝壁20Bが、例えば、トレッド踏面S側で互いに接触することが可能になる。即ち、横溝20を挟んで隣り合うブロック、本実施形態ではブロック9B、9B又はブロック10B、10Bが互いに接し、ブロック9B、10B同士の変形が互いに抑制される。従って、各ブロック9B、10B、ひいては各陸部7の見かけの剛性が一時的に向上し、転がり性能及び耐摩耗性能がより一層向上する。
【0046】
ミドル横溝21の溝幅W2は、主溝3の溝幅W1と同様の観点から、例えば、ショルダー横溝22の溝幅よりも小さいのが望ましい。
【0047】
図5には、図1のタイヤ赤道C付近の部分拡大図が示されている。図5に示されるように、本実施形態のクラウン陸部8には、横溝が設けられていない。このため、クラウン陸部8は、タイヤ周方向に連続するリブ状のクラウンリブ8Aである。
【0048】
クラウンリブ8Aのリブ縁8Bは、例えば、最もタイヤ軸方向外側でタイヤ周方向に沿ってのびる出隅部25と、最もタイヤ赤道C側でタイヤ周方向に沿ってのびる入隅部26と、これらの間をつなぐ傾斜部27とを含んでいる。出隅部25及び入隅部26は、クラウン主溝4の溝幅W1Cを局部的に増大させる。このような出隅部25及び入隅部26は、クラウン主溝4のトレッド踏面S側が閉じた際、クラウン主溝4の溝底4A側に、タイヤ周方向に沿った排水路を形成するのに役立つ。
【0049】
図6には、トレッド踏面S側が閉じたクラウン主溝4付近の部分拡大図が示されている。図6に示されるように、出隅部25は、例えば、クラウン主溝4のトレッド踏面S側が閉じた際、向かい合う第1溝壁3Bとの間に隙間Gを形成する。該隙間Gは、接地面とクラウン主溝4の溝底4A側の排水路とに連通している。このため、隙間Gは、ウエット路面において、接地面から水膜を吸収し、かつ、水膜を溝底4A側の排水路へ排水することができ、ウエット性能を向上させる。
【0050】
入隅部26は、第1溝壁3Bが互いに接した際、向かい合う第1溝壁3Bと合致する。同様に、傾斜部27も、向かい合う第1溝壁3Bと合致する。これら、入隅部26及び傾斜部27は、第1溝壁3Bが互いに接する際の衝撃を分散する。従って、例えば、クラウンリブ8Aのリブ縁8Bにおいて、前記衝撃により生じるクラック等の発生が抑制される。
【0051】
本実施形態の一対のクラウン主溝4、4は、タイヤ周方向にずらして配されている。このため、各出隅部25及び各入隅部26は、タイヤ赤道Cを挟んで、タイヤ周方向の一方側にずれて配されている。また、クラウンサイプ12は、例えば、タイヤ赤道Cの一方側と他方側の出隅部25の間及びタイヤ赤道Cの一方側と他方側の入隅部26の間をのびている。従って、本実施形態のクラウンサイプ12は、タイヤ軸方向に対して一方側に傾斜している。このようなクラウンサイプ12は、旋回時にもエッジ効果を発揮することができる。
【0052】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明はこの実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0053】
図1に示される基本パターンを有し、かつ、表1の仕様に基いたタイヤ(タイヤサイズ:315/80R22.5)が試作され、それらがテストされた。
各テスト方法は次の通りである。
【0054】
<転がり性能>
各試供タイヤの転がり抵抗が、転がり抵抗試験機にて測定された。詳細な条件は下記の通りである。結果は、転がり抵抗の逆数であり、「実施例1」の値を100とする指数で示される。数値が大きい程、転がり性能に優れる。
リム:22.5×9.00
内圧:850kPa
縦荷重:33.34kN
速度:80km/h
【0055】
<低ノイズ性能>
ECE−R117−02に規定するタイヤ単体騒音試験法に準拠して、中心速度70km/hで走行した時の各試供タイヤの通過騒音レベルが測定された。結果は、通過騒音レベルの逆数であり、「実施例1」の値を100とする指数で示される。数値が大きい程、低ノイズ性能に優れる。
【0056】
<耐摩耗性能>
各試供タイヤをテスト車両に装着し、ロードテストが実施され、パターン溝深さの単位減少量あたりの走行距離(例えば、減少量1mmあたりの走行距離km)が算出された。詳細な条件は下記の通りである。結果は、「実施例1」の値を100とする指数で示される。数値が大きい程、耐摩耗性能に優れる。
リム:22.5×9.00
内圧:830kPa
荷重:36.77kN
走行路面:舗装路
走行距離:10〜30万km
【0057】
<ウエット性能>
各試供タイヤが全輪に装着されたテスト車両を、ウエット路面において、2速−1500rpm固定で走行させ、クラッチを繋いだ瞬間から10mを通過するまでの通過タイムが測定された。詳細な条件は下記の通りである。結果は、通過タイムの逆数であり、「実施例1」の値を100とする指数で示される。数値が大きい程、ウエット性能に優れる。
リム:22.5×9.00
内圧:850kPa
テスト車両:10t積みトラック(2−D車)
荷重:半積前荷重
路面:5mmの水膜を有するウエットアスファルト路
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示されるように、実施例のタイヤは、ウエット性能を維持しつつ、転がり性能、低ノイズ性能及び耐摩耗性能が向上されることが確認できた。
【符号の説明】
【0060】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 主溝
3A 第1溝底
3B 第1溝壁
7 陸部
11 サイプ
S トレッド踏面
C タイヤ赤道
図1
図2
図3
図4
図5
図6