特許第6378885号(P6378885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アマダの特許一覧

<>
  • 特許6378885-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図000002
  • 特許6378885-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図000003
  • 特許6378885-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図000004
  • 特許6378885-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図000005
  • 特許6378885-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図000006
  • 特許6378885-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378885
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/146 20140101AFI20180813BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20180813BHJP
   B23K 26/384 20140101ALI20180813BHJP
【FI】
   B23K26/146
   B23K26/382
   B23K26/384
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-12148(P2014-12148)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-139778(P2015-139778A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昇
(72)【発明者】
【氏名】水落 健
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−305387(JP,A)
【文献】 特開2007−283344(JP,A)
【文献】 特開2013−220451(JP,A)
【文献】 特開平05−224727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/146
B23K 26/382
B23K 26/384
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対し、レーザ光の照射及び前記レーザ光の照射位置の近傍における所定の噴射領域にミストの噴射を行う加工ヘッドと、
前記加工ヘッドを前記ワークに沿って移動させる移動部と、
前記加工ヘッドに前記レーザ光を供給するレーザ発振器と、
前記加工ヘッドに前記ミストとなる液体を供給する液体供給装置と、
前記移動部,前記レーザ発振器,及び前記液体供給装置の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記加工ヘッドは、移動時に、前記ミストを前記レーザ光の照射位置に対する移動方向の前方側に噴射し、
前記制御部は、
前記加工ヘッドを所定の経路で移動させながら、複数の所定形状のそれぞれの一部を連続して、前記レーザ光の照射をオン/オフで切断する際に、
前記レーザ光の照射のオン時点の加工が前記ワークにおいてピアス加工となる場合に、前記加工ヘッドを前記所定の経路で移動中の前記レーザ光の照射をオンとする前における、前記ピアス加工となる加工位置に前記所定の噴射領域が到達した時点で前記ミストの噴射をオンにし、前記加工位置及びその近傍に前記液体の膜が形成されるよう前記液体供給装置の動作を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記レーザ光の照射をオンとする前に前記液体の膜を形成するため、前記ミストの噴射をオンとするタイミングを、前記レーザ光の照射をオンとするタイミングよりも所定の時間だけ先行させると共に、前記加工ヘッドを前記所定の経路で前記レーザ光の照射をオンにして移動中の、前記レーザ光が加工終了点に達する前であって前記ミストの噴射領域が前記加工終了点に達した後に、前記ミストの噴射をオフにするよう前記液体供給装置の動作を制御することを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記所定の時間を、前記加工ヘッドの移動速度に応じて設定することを特徴とする請求項2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記レーザ光の照射のオン/オフの動作を複数回繰り返す加工において、前記照射がオフとなっているオフ期間を少なくとも一つ含んで前記ミストの噴射を連続してオンとするよう前記液体供給装置の動作を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
ワークに対し、レーザ光の照射及び前記レーザ光の照射位置の近傍における所定の噴射領域にミストの噴射を行う加工ヘッドと、前記加工ヘッドを前記ワークに沿って移動させる移動部と、前記加工ヘッドに前記レーザ光を供給するレーザ発振器と、前記加工ヘッドに前記ミストとなる液体を供給する液体供給装置と、前記移動部,前記レーザ発振器,及び前記液体供給装置の動作を制御する制御部と、を備えて、前記ミストを、前記レーザ光の照射位置に対して少なくとも前記加工ヘッドの移動方向の前方側に噴射可能なレーザ加工装置を用い、前記ワークに複数の角孔を形成するレーザ加工方法であって、
前記複数の角孔の形状をそれぞれ複数の部位に仮想分割し、前記加工ヘッドを移動させながら前記複数の角孔それぞれにおける一つの前記部位を連続して、前記レーザ光の照射をオン/オフして順次切断加工する角孔形成ステップと、
前記部位の加工開始点がピアス加工となる場合、前記加工ヘッドを前記所定の経路で移動中の、照射がオフとされた前記レーザ光の照射位置が前記部位の加工開始点に到達する前における、前記加工開始点に前記所定の噴射領域が到達した時点で前記ミストの噴射をオンにするミスト噴射ステップと、
を含むことを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に係り、特に、複数の孔の連続開孔加工に好適なレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工により、ワークに角孔を高速で開孔加工する技術を、本願出願人は特許文献1において開示している。
特許文献1に記載したレーザ加工方法は、レーザビームの加工経路を、角孔の一辺の切断終了点から次の辺の切断開始点へ繋ぐループ状の経路を有するものとし、レーザ光の照射を切断開始点でオンにして切断終了点でオフにする。これにより、加工ヘッドを減速させる必要がなくなり、角孔を高速で加工できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−080784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
開孔加工をさらに高速で行う場合には、レーザ光の照射をオンにする切断開始時点を含めて、加工ヘッドのノズル先端とワークとを可能な限り接近させるとよい。
しかしながら、開孔のための切断開始点は、ワークの孔が空いていない場所にレーザ光を照射して開孔するピアス加工となるため、スパッタが生じやすい。
そのため、ワークの切断開始点の周囲の表面にはスパッタが付着し易く、外観品質の低下を招く虞がある。
また、ノズルとワークとの距離が短くなるほど、ノズルにスパッタが付着し易くなる。ノズルにスパッタが付着すると、加工品質の低下を招く虞がある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、開孔加工を、高速、かつ高品質で行うことができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成及び手順を有する。
1)ワークに対し、レーザ光の照射及び前記レーザ光の照射位置の近傍における所定の噴射領域にミストの噴射を行う加工ヘッドと、
前記加工ヘッドを前記ワークに沿って移動させる移動部と、
前記加工ヘッドに前記レーザ光を供給するレーザ発振器と、
前記加工ヘッドに前記ミストとなる液体を供給する液体供給装置と、
前記移動部,前記レーザ発振器,及び前記液体供給装置の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記加工ヘッドは、移動時に、前記ミストを前記レーザ光の照射位置に対する移動方向の前方側に噴射し、
前記制御部は、
前記加工ヘッドを所定の経路で移動させながら、複数の所定形状のそれぞれの一部を連続して、前記レーザ光の照射をオン/オフで切断する際に、
前記レーザ光の照射のオン時点の加工が前記ワークにおいてピアス加工となる場合に、前記加工ヘッドを前記所定の経路で移動中の前記レーザ光の照射をオンとする前における、前記ピアス加工となる加工位置に前記所定の噴射領域が到達した時点で前記ミストの噴射をオンにし、前記加工位置及びその近傍に前記液体の膜が形成されるよう前記液体供給装置の動作を制御することを特徴とするレーザ加工装置である。
2)前記制御部は、
前記レーザ光の照射をオンとする前に前記液体の膜を形成するため、前記ミストの噴射をオンとするタイミングを、前記レーザ光の照射をオンとするタイミングよりも所定の時間だけ先行させると共に、前記加工ヘッドを前記所定の経路で前記レーザ光の照射をオンにして移動中の、前記レーザ光が加工終了点に達する前であって前記ミストの噴射領域が前記加工終了点に達した後に、前記ミストの噴射をオフにするよう前記液体供給装置の動作を制御することを特徴とする1)に記載のレーザ加工装置である。
3)前記制御部は、前記所定の時間を、前記加工ヘッドの移動速度に応じて設定することを特徴とする2)に記載のレーザ加工装置である。
4)前記制御部は、前記レーザ光の照射のオン/オフの動作を複数回繰り返す加工において、前記照射がオフとなっているオフ期間を少なくとも一つ含んで前記ミストの噴射を連続してオンとするよう前記液体供給装置の動作を制御することを特徴とする1)〜3)のいずれか一つに記載のレーザ加工装置である。
5)ワークに対し、レーザ光の照射及び前記レーザ光の照射位置の近傍における所定の噴射領域にミストの噴射を行う加工ヘッドと、前記加工ヘッドを前記ワークに沿って移動させる移動部と、前記加工ヘッドに前記レーザ光を供給するレーザ発振器と、前記加工ヘッドに前記ミストとなる液体を供給する液体供給装置と、前記移動部,前記レーザ発振器,及び前記液体供給装置の動作を制御する制御部と、を備えて、前記ミストを、前記レーザ光の照射位置に対して少なくとも前記加工ヘッドの移動方向の前方側に噴射可能なレーザ加工装置を用い、前記ワークに複数の角孔を形成するレーザ加工方法であって、
前記複数の角孔の形状をそれぞれ複数の部位に仮想分割し、前記加工ヘッドを移動させながら前記複数の角孔それぞれにおける一つの前記部位を連続して、前記レーザ光の照射をオン/オフして順次切断加工する角孔形成ステップと、
前記部位の加工開始点がピアス加工となる場合、前記加工ヘッドを前記所定の経路で移動中の、照射がオフとされた前記レーザ光の照射位置が前記部位の加工開始点に到達する前における、前記加工開始点に前記所定の噴射領域が到達した時点で前記ミストの噴射をオンにするミスト噴射ステップと、
を含むことを特徴とするレーザ加工方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、開孔加工を、高速、かつ高品質で行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の実施例であるレーザ加工装置51を説明するための全体図である。
図2】レーザ加工装置51の加工ヘッド24を説明するための模式図である。
図3】加工ヘッド24のノズル25から出射されるレーザ光L,アシストガスAG,ミストFM,及びミストFM2のワークWへの到達領域を説明するための模式図である。
図4】レーザ加工装置51による加工例を説明するための図である。
図5】加工例におけるレーザ光L及びミストFMのオン/オフ動作を説明するための図である。
図6】レーザ光L及びミストFMのオン/オフタイミングの違いを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法を、実施例のレーザ加工装置51とそれを用いた加工方法とにより図1図6を参照して説明する。
【0010】
まず、実施例のレーザ加工装置51の全体構成について、図1を参照して説明する。図1は、レーザ加工装置51の全体斜視図である。
レーザ加工装置51は、ファイバレーザ加工装置であって、被加工材であるワークWにレーザ光を照射して、ワークWに対し開孔等の加工を施すものである。
レーザ加工装置51は、レーザ光源であるファイバレーザ発振器10と、ファイバレーザ発振器10から出力されたレーザ光をワークWに照射してワークWに加工を施す本体部20と、制御部30a及び記憶部30bを有してレーザ加工装置51の全体の動作を制御する制御装置30と、本体部20が備える加工ヘッド24に対し、アシストガスを制御しつつ供給するアシストガス供給装置41と、エアー(空気)を制御しつつ供給するエア供給装置42と、加工ヘッド24のノズル25からミストFMとして噴射させる液体(例えば水、或いはオイルなど)を制御しつつ供給する液体供給装置43と、を含んで構成されている。
アシストガス供給装置41,エア供給装置42,及び液体供給装置43の動作は、制御部30aにより制御される。
【0011】
制御装置30には外部のデータサーバ等から加工プログラムを含む加工情報が供給される。加工情報には、加工プログラムの他に、加工するワークWの材質、加工寸法等の加工に必要な情報が含まれる。供給された加工情報は記憶部30bに記憶され、制御部30aにより参照される。
【0012】
ファイバレーザ発振器10は、制御部30aの指示により、レーザ光を発振する。ファイバレーザ発振器10と後述する加工ヘッド24との間は、プロセスファイバ8で繋がれている。ファイバレーザ発振器10で生成されたレーザ光は、プロセスファイバ8を介して加工ヘッド24に供給される。
【0013】
本体部20は、ワークWを載置する載置面21aを有する加工テーブル21と、加工テーブル21に設けられ、その載置面21aに沿う一方向(X軸方向)に移動するX軸キャリッジ22と、を有している。
X軸キャリッジ22には、載置面21aに沿い、かつX軸方向と直交するY軸方向に移動するY軸キャリッジ23が設けられている。X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23を移動部とも称する。
Y軸キャリッジ23には、加工ヘッド24がZ軸方向(X軸及びY軸に直交する方向)に移動可能に取り付けられている。
X軸キャリッジ22,Y軸キャリッジ23,及び加工ヘッド24は、それぞれ制御部30aの制御下にある駆動部(図示せず)の駆動により互いに独立して移動するようになっている。
【0014】
加工ヘッド24には、上述のように、プロセスファイバ8が接続され、ファイバレーザ発振器10から出力されたレーザ光が供給される。
加工ヘッド24は、筐体24aと、筐体24aの内部に備えた焦点調節部である光学系24bと、筐体24aの先端に取り付けられたノズル25と、を有する。
光学系24bは、供給されたレーザ光に対し所定の光学的処理を施してノズル25からその軸線CL25上に加工テーブル21に向けレーザ光を照射させる。
加工ヘッド24は、光学系24bによる光学的処理において、少なくとも、照射するレーザ光(以下、レーザ光Lと称する)の焦点位置(合焦位置)をワークWの厚さ方向の所定位置に設定できるようになっている。すなわち、焦点位置をZ軸方向に調節できるようになっている。
この調節動作は、制御部30aによって制御される。
【0015】
また、レーザ加工に伴って生じたガスや溶融物を除去するための、ノズル25から吹き出されるアシストガスが、アシストガス供給装置41から供給される。
さらに、加工ヘッド24には、開孔加工において、ノズル25からワークWに噴射するミストFMとなる液体及びその液体をミスト化するためのエア(空気)が、それぞれ液体供給装置43及びエア供給装置42とから供給される。
【0016】
加工ヘッド24は、X軸キャリッジ22とY軸キャリッジ23との協働動作により、ワークWに対向する範囲において、少なくともワークWに沿う2次元的移動が可能とされている。また、ワークWの所望の加工点Wpに対してレーザ光Lを所定の焦点位置をもって照射し、加工を施すことができる。
【0017】
図2は、加工ヘッド24を詳しく説明するための模式図である。
加工ヘッド24には、ワークWにおけるレーザ光Lの照射位置の周囲に、ミストFMを噴射するためのミストノズル1が備えられている。
また、加工ヘッド24には、照射するレーザ光Lの径方向外側近傍に、ミストノズル1と同様に冷媒としてミストFMを噴射するためのミストノズル2が備えられている。
ミストノズル1及びミストノズル2には、液体供給装置43からそれぞれ開閉弁V1及びV2を経て液体が供給される。
開閉弁V1及び開閉弁V2は、制御部30aにより開閉及び流量が制御される。
従って、ミストノズル1及びミストノズル2からのミストFM及びミストFM2の噴射を、両方有り、両方無し、及びいずれか一方のみ有り、の選択肢から選択的に実行できる。また、噴射有りとした場合の噴射量を調整することができる。
【0018】
ミストノズル2は、ミストノズル1によるミストFMの噴射範囲外の位置にミストを噴射するものであり、水平面に回動自在とされたリングギヤ3に一体的に装着されている。
リングギヤ3は、モータ4の出力軸に備えられたピニオン4aに噛合し、モータ4の駆動により回動するようになっている。モータ4の駆動は、制御部30aにより制御される。
従って、モータ4の駆動を制御することで、リングギヤ3に一体化されたミストノズル2の、レーザ光Lに対する周方向位置を制御することができる。
これにより、レーザ光Lに対するミストノズル2の周方向位置を、例えば加工ヘッド24によるレーザ切断加工位置の進行方向前方側に位置させることができる。
【0019】
このように、ワークWにレーザ光Lを照射して切断加工をする際に、所定位置にミストを噴射することができる。
【0020】
アシストガスAG(図3参照)は、ノズル25から、レーザ光Lと共にワークWに向け噴射される。
【0021】
図3は、ミストノズル1から出射するレーザ光L,噴射するアシストガスAG,及び噴射されるミストFMがワークWに到達した際の到達領域を、概念的に示している。
すなわち、レーザ光Lの光束を含む円形範囲(ハッチング付与)が、アシストガスAGの到達領域であり、アシストガスAGの到達領域の外側に、ミストノズル1によるリング状なるミストFMの到達領域が存在する。また、ミストFMの到達領域の外側に、ミストノズル2によるスポット状なるミストFM2の到達領域が存在する。
【0022】
次に、上述の加工ヘッド24を備えたレーザ加工装置51によって、ワークに対し孔を形成する加工例を説明する。
【0023】
詳しくは、図4図6を参照して、ワークW1に格子状に複数の角孔W1aを形成する加工例を説明する。この例は、レーザ加工時にミスト噴射を伴う。まず、理解容易のため、図4(a),(b)を参照して、加工ヘッド24の移動経路とレーザ光Lのオン/オフ動作などについて説明し、その後、ミスト噴射動作について説明する。
【0024】
図4(a)は、ワークW1の加工後の状態、すなわち、複数の角孔W1aが格子状に配列されている状態を示した平面図である。この例では、ワークW1を、3行3列の9個の角孔W1aが形成されたものとしている。各角孔W1aは、同じ形状であり、縦辺(列の辺)の長さD1、横辺(行の辺)の長さD2として形成される。
図4(b)は、複数の角孔W1aの開孔加工での、ワークW1に対するレーザ光L(軸線CL25)の位置の軌跡が示されている。制御部30aは、レーザ光Lがこの軌跡で移動するように、X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23の動作を制御する。
実線は、制御部30aによりレーザ光Lの照射がオンとされレーザ光LがワークW1に対して照射されている状態であり、破線は、オフとされレーザ光LがワークW1に対して照射されていない状態である。
説明のため、各角孔における行に対応する辺をアルファベット順で規定し、列に対応する辺をイロハ順で規定している。
【0025】
まず最初に、加工ヘッド24は、ワークW1の外側からレーザをオフとして辺イ1の加工開始点イ1aに移動し、イ列に対応する辺イ1,イ2,イ3をこの順に切断加工する。加工ヘッド24が各辺に対応する位置を移動するときにレーザ光Lがオン(実線)とされ、非対応の位置を移動するときにはオフ(破線)とされる。
【0026】
加工ヘッド24が辺イ3の加工終了点イ3bに達したら、レーザ光Lがオフとされて半弧状の経路K1aを移動し、ロ列に対応する辺ロ3,ロ2.ロ1をこの順に、イ列と同様のオン/オフ動作を実行して加工する。
加工ヘッド24が辺ロ1の加工終了点ロ1bに達したら、レーザ光Lがオフとされて半弧状の経路K1bを移動し、ハ列に対応する辺ハ1,ハ2,ハ3を、この順にイ列及びロ列と同様のオン/オフ動作を実行して加工する。以下、同様に、ニ列〜ヘ列の辺を加工する。
列の加工では、各辺の加工開始点が、ワークW1の孔のない場所に開孔するピアス加工となる。
【0027】
加工ヘッド24が、列に対応する辺の最後に加工する辺ヘ1の加工終了点ヘ1bを通過したら、ループ状の経路K1Rを移動し、辺ヘ1と同じ角孔のA行に対応する辺A3を最初に加工し、以下、辺A2,A1の順に加工する。尚、この経路K1Rは、加工ヘッド24が速度変化の極力少ない経路を移動するように設定すればよく、半弧状の経路のみならず、他の移動経路で移動するように設定してもよい。
加工ヘッド24は、各辺に対応する位置を移動するときに、レーザ光Lがオン(実線)とされ、非対応の位置を移動するときにはオフ(破線)とされる。
辺A1の加工終了点A1bを通過したら、レーザ光Lがオフとされて半弧状のa3を移動し、B行に対応する辺B1,B2,B3を、この順にA行と同様のオン/オフ動作を実行して加工する。加工終了点A1bは、辺イ1の加工開始点イ1aと同じ点(位置)である。
以下、同様に、C行〜F行の辺の加工をする。
加工ヘッド24は、軸線CL25の位置が、行に対応する辺の最後に加工する辺F3の加工終了点F3bを通過したら、レーザ光LをオフとしてワークW1の外へ退避する。これにより、加工は終了(END)する。
【0028】
図5は、制御部30aによるレーザ光Lのオン/オフ動作の指令(以下、ビーム指令とも称する)について説明するための図である。
図5には、加工例におけるオン/オフ動作の指令が示されている。ビーム指令Sg1は、制御部30aからファイバレーザ発振器10に向け送出される指令である。
【0029】
ビーム指令Sg1は、加工ヘッド24の移動において、レーザ光Lが、図4(b)に示される実線矢印の経路上にあるときオン(ON)とされ、軸線CL25の位置が、破線の経路上にあるときにオフ(OFF)とされる。
ここで、ビーム指令Sg1におけるオンの期間d1は、列加工における一つの辺(例えば、イ2など)に対応する期間である。また、オンの期間d2は、行加工における一つの辺(例えば、A2など)に対応する期間である。
従って、d1/d2=D1/D2 である。
【0030】
オフの期間は、図4(b)に示される破線の経路長さ等に応じて異なる(図5では、便宜的に等しく示されている)。
例えば、図5のビーム指令Sg1において、イ3に対応するオン期間とロ3に対応するオン期間との間のオフ期間は、経路K1aに対応する。また、ヘ1に対応するオン期間とA3に対応するオン期間との間のオフ期間は、経路K1Rに対応する。
【0031】
図5に示されるミスト指令Sg2は、制御部30aから液体供給装置43に向け送出される指令である。
ミスト指令Sg2は、列加工において、ビーム指令Sg1のそれぞれのオンに対応してオンとされ、列加工が完了した後の行加工ではオフとされる。
【0032】
このミスト指令Sg2により、ミストFMは、レーザ光Lによってピアス加工が施される部位に対し、レーザ光Lが照射される前に噴射されるようになっている。
この噴射により、ワークW1の表面に、液体(この例では水)の膜が形成され、その液体膜にレーザ光Lが照射される。これにより、ピアス加工でありながら、ワークW1の表面に付着するスパッタの量が低減される。
また、スパッタはノズル25にも付着し難くなるので、ノズル25をワークW1により接近させることができる。
列加工が完了した後に行う行加工において、加工例では、行の各辺の加工開始点を、予め列加工で形成された辺の加工終了点に合致させている。これにより、行の加工はピアス加工とならず、スパッタの発生は極めて少ない。
そのため、行加工において、ミストFMの噴射は必ずしも行わなくてもよい。
図5には、行加工でミストFMの噴射を停止するミスト指令Sg2が示されている。
【0033】
ミスト指令Sg2における各オン期間の開始時期は、対応するビーム指令Sg1の各オン期間の開始時期と同時ではなく、時間Δt1だけ先行して開始するようになっている。
また、ミスト指令Sg2における各オン期間の終了時期は、対応するビーム指令Sg1の各オン期間の終了時期と同時ではなく、時間Δt2だけ先行して終了するようになっている。
これについて、図6(a)及び図6(b)を参照して説明する。
【0034】
ここでは、ミストは、ミストノズル1のみから噴出されるものとして説明する。図6(a)は、レーザ光Lをオンにして加工する辺LN1と、辺LN1に向かうレーザ光Lの位置及びミストFMの噴射範囲(図3に対応)と、を示した図である。
辺LN1における未加工の部分は、一点鎖線の白抜きで示され、加工済みの部分は墨ベタで示されている。また、平行な二点鎖線で挟まれた領域AR1及び噴射範囲で囲まれた領域AR2は、ミストFMが噴射済みの領域となる。これらは、図6(b)も同様である。
【0035】
図6(a)に示されるように、リング状なる噴射領域の進行方向の先端位置FM1は、辺LN1の加工開始位置にレーザ光Lが到達する前に到達する。
噴射領域はリング状であるから、この時点でミスト噴射をオンにすることで、レーザ光Lによる辺LN1の加工開始時点で、加工開始位置の近傍に予め液体膜が形成されている。
このように、ミスト噴射をオンにした時点から、レーザ光Lが辺LN1の加工開始位置に到達する迄の時間が時間Δt1となる。
【0036】
図6(b)は、レーザ光Lがオンとされて辺LN1を加工途中であって、噴射領域の先端位置FM1が、辺LN1の加工終了位置に達した状態を示す図である。
図6(b)に示されるように、リング状なる噴射領域の進行方向の先端位置FM1は、辺LN1の加工終了位置にレーザ光Lが到達する前に到達する。
そのため、この時点でミスト噴射をオフにしても、辺LN1の加工終了位置まで既にミストの膜が形成されている。
このように、ミスト噴射をオフにした時点から、レーザ光が辺LN1の加工終了位置に到達する迄の時間が時間Δt2となる。
制御部30aは、時間Δt1及び時間Δt2を、所定の時間として加工ヘッド24の移動速度に応じて設定する。加工ヘッド24の移動速度が速いほど、時間Δt1及び時間Δt2を短くする。また、加工ヘッド24の移動速度が一定の場合、Δt1=Δt2とする。
【0037】
ミスト噴射を、ビーム指令に対応させてパルス的に制御することにより、使用する液体の量を最少に抑えることができる。例えば、時間Δt1とミスト噴射がオンとなっている時間とを等しくすることが望ましい。すなわち、時間Δt1経過後にミスト噴射をオフすることで、必要最少量のミストでスパッタの付着効果を得ることができ、効率的である。
レーザ加工装置51では、ビーム指令Sg1におけるオンとオフとの切り換えは、比較的高速で実行される。一方、ミスト噴射は液体の吐出制御であるために、切り換えの高速制御が難しく、ビーム指令Sg1のオン/オフの切り換えと同期させるのが難しくなる。
そのため、図5のミスト指令Sg3に示されるように、列加工において、オフ期間を設けることなく、ミスト指令Sg2の最初のオンのタイミングから最後のオフのタイミングまで、連続的にオンとしてもよい。
また、この連続的にオンする場合のオンとするタイミングは、ミスト指令Sg2の最初のオンのタイミングでなくてもよい。また、連続的にオンする場合のオフとするタイミングは、ミスト指令Sg2の最後のオフのタイミングでなくてもよい。
換言するならば、ミスト指令Sg2の複数のオン/オフの動作におけるオフとなっているオフ期間を、少なくとも一つ含んでオンとするミスト指令であってもよい。
また、ピアスとなる全ての位置に予めミストを噴射した後に、レーザ光Lのオン/オフで加工を行ってもよい。
【0038】
以上のように、実施例のレーザ加工装置及びレーザ加工方法によれば、レーザ光の照射前のワークの表面に、予め液体をミストとして噴射して液体膜を形成することができる。そのため、ワークの表面に付着するスパッタが抑制され、ワークの外観品質が向上する。また、加工ヘッドのノズルへのスパッタの付着が抑制される。
また、ミスト噴射を併用することで、ワーク表面及びノズルへのスパッタの付着が抑制されるので、ピアス加工を含めて最短の加工経路を設定することができる。これにより、複数の孔の連続開孔加工を高速かつ安定して行うことができる。
【0039】
制御部30aが経路設定部を備え、加工プログラムに基づいて、連続開孔加工経路の設定及びその最短化設定と、ミスト指令のオンタイミングの設定と、を行えるようにしてもよい。
また、これらの設定を作業者側で行い、経路プログラムを記憶部30bに記憶させ、制御部30aがその経路プログラムを参照して連続開孔加工を実行してもよい。
【0040】
実施例のレーザ加工方法によれば、ピアス加工を、ワークの製品となる部分に施さなければならない場合でも、ミストを噴射することにより、スパッタspの発生を抑制できる。これにより、開孔形状によらず、高品質な加工を行うことができる。
【0041】
上述のレーザ加工方法によれば、制御部30aは、形成する孔が角孔の場合、加工手順に、角孔の形状を複数の部位(他例えば辺)に仮想分割し、加工ヘッド24を移動させながら各部位毎にレーザ光Lの照射をオン/オフして順次切断加工する角孔形成ステップと、複数の部位のいずれかの加工開始点がピアス加工となる場合、レーザ光Lが部位の加工開始点に到達する前にミストの噴射をオンとするミスト噴射ステップと、を含むようにレーザ加工装置51を制御する。
【0042】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0043】
開孔加工する孔の形状は、上述の角孔に限定されない。例えば丸孔や六角孔でもよい。また、一つのワークに同じ形状の孔を複数有するものに限定されず、異なる形状の孔が混在していてもよい。
複数の孔の配列も、上述の格子状及び千鳥状に限定されない。不規則な配列であってもよい。
制御部30aは、レーザ加工装置51に対する外部に配置されていてもよい。
レーザの種類は、ファイバーレーザに限定されない。YAGレーザなどの他の固体レーザでもよく、また、炭酸ガス(CO)レーザなどのガスレーザであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1,2 ミストノズル
3 リングギヤ
4 モータ、 4a ピニオン
8 プロセスファイバ
10 ファイバレーザ発振器
20 本体部
21 加工テーブル、 21a 載置面
22 X軸キャリッジ、 23 Y軸キャリッジ
24 加工ヘッド、 24a 筐体、 24b 光学系
25 ノズル
30 制御装置、 30a 制御部、 30b 記憶部
41 アシストガス供給装置
42 エア供給装置
43 液体供給装置
51 レーザ加工装置
AG アシストガス、 AR1,AR2 領域
CL25,CL26 軸線
D1,D2 長さ、 d1,d2 期間
FM,FM2 ミスト、 FM1 先端位置
K1a,K1b,K1R 経路
KD 駆動部
L レーザ光、 LN1 辺
SF1 仮想平面
Sg1 ビーム指令、 Sg2,Sg3 ミスト指令
sp スパッタ
V1,V2 開閉弁
W1 ワーク、 W1a 角孔
Δt1,Δt2 時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6