特許第6378889号(P6378889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378889
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】濃厚流動食
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/00 20160101AFI20180813BHJP
   A23L 29/231 20160101ALI20180813BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20180813BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20180813BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   A23L33/00
   A23L29/231
   A23L29/256
   A61K47/02
   A61K47/36
   A61K47/12
   A61K9/08
   A61K47/42
   A61P3/02
【請求項の数】4
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-22900(P2014-22900)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-146789(P2015-146789A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】船見 孝博
(72)【発明者】
【氏名】中馬 誠
(72)【発明者】
【氏名】中尾 理美
(72)【発明者】
【氏名】礒野 舞
(72)【発明者】
【氏名】池上 聡
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/146181(WO,A1)
【文献】 特開2009−291175(JP,A)
【文献】 特開平11−206351(JP,A)
【文献】 特表2005−513077(JP,A)
【文献】 第55回レオロジー討論会講演要旨集, (2007), p.198-199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/40−5/49
A23L 31/00−33/29
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
A23L 21/00−21/25
A23L 29/20−29/206,29/231−29/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)又は(B)、及びカルシウム及びキレート剤を含有し、胃液に接触する前の粘度が250mPa・s以下であり、胃液に接触した後の粘度が2,000mPa・s以上であることを特徴とする濃厚流動食であって、カルシウムの濃厚流動食に対する含有率が0.01〜0.5質量%、キレート剤の濃厚流動食に対する含有率が0.05〜1質量%、さらにカルシウム1質量部に対してキレート剤を0.1〜3質量部含有する濃厚流動食
(A)(a−1)重量平均分子量(Mw)が100,000g/mol以下でかつグルロン酸含有率が85%以上であるアルギン酸ナトリウム、及び(a−2)Mwが100,000g/mol以上のアルギン酸又はそのナトリウム塩であって、(a−1)のアルギン酸ナトリウムの濃厚流動食に対する含有率が0.05〜3質量%、かつ、(a−1):(a−2)の質量比が0.1〜15:1
(B)(b−1)Mwが100,000g/mol以下でかつメチルエステル化度(DM)が40%以下であるペクチン、及び(b−2)Mwが100,000g/mol以上のペクチンであって、(b−1)のペクチンの濃厚流動食に対する含有率が0.1〜3質量%、かつ、(b−1):(b−2)の質量比が0.01〜1:1
【請求項2】
キレート剤が、クエン酸塩である請求項1記載の濃厚流動食。
【請求項3】
さらに未分解の乳タンパクを含有する請求項1及び2に記載の濃厚流動食。
【請求項4】
経鼻又は経口経管栄養法、或いは経胃瘻又は経腸瘻経管栄養法による投与用である、請求項1乃至に記載の濃厚流動食。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚流動食に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食物の経口摂取が難しい高齢者又は患者には、経鼻又は経口経管栄養法、及び胃瘻又は腸瘻経管栄養法が用いられている。経鼻又は経口経管栄養法は、鼻又は口から挿入して食道、胃、十二指腸、空腸の何れかの部位まで到達させたチューブを介して、また胃瘻・腸瘻経管栄養法は、食道から空腸にかけての部位(多くは胃)に手術的又は内視鏡的に外瘻を造設して留置したチューブを介して、流動食などの栄養を持続的に投与する方法である。
【0003】
経管栄養法が適用される高齢者又は患者などは胃上部の噴門の機能が著しく低下していることが多いので、流動食が液状である場合、胃内の濃厚流動食が胃食道逆流を起こしてしまうことがある。これを防止するためには摂取者の座位を長時間保つ必要があるので、介護者及び被介護者の負担が大きい。
【0004】
一方、濃厚流動食がゲル状である場合、胃食道逆流は抑制されるが、これをチューブを介して投与するためには、長時間高い圧力を加え続ける必要があり、この場合も介護者の負担が大きい。
【0005】
このような胃食道における逆流を防止し、或いは流動食の投与時の負担を軽減するため、様々な検討が行われている。具体的には、逆流性誤嚥の防止に有効なゲル化剤としてゲランガムおよびアルギン酸を含有してなる経管栄養食品(特許文献1)、同じくカラギーナンおよびアルギン酸を含有してなる経管栄養食品(特許文献2)、ローメトキシルペクチン、ジェランガム、アルギン酸等から選択される1種または2種以上の増粘剤を添加し、粘度を20〜40mPa・sに調整してなる濃厚流動食及びこれと水溶解性カルシウム塩を溶解したカルシウム水溶液とを対にしてなる嘔吐予防食(特許文献3)、ローメトキシルペクチン、縮合リン酸塩を含む溶液と、二価もしくは多価金属塩を含む溶液の二液からなり、経管投与前に栄養剤と混合してゲル化させる栄養剤用ゲル化剤(特許文献4)、カラギーナンとローカストビーンガムおよびコンニャクイモ抽出物の混合物からなり、溶液形態で使用される液体栄養食品用ゲル化剤(特許文献5)、寒天とアルギン酸および/またはその塩類を配合したゲル状経腸栄養剤(特許文献6)、(A)キサンタンガム含有溶液、(B)タンパク質含有液状食品にローカストビーンガム及び/又はグルコマンナンを添加後、80℃以上で熱処理された溶液を対にしてなるタンパク質含有液状食品の経管投与用増粘剤(特許文献7)、pHが3〜5の範囲であり、水溶性ヘミセルロース及び/又はHMペクチンを0.1〜1質量%含有する等の条件を満たしたゲル状濃厚流動食又は栄養剤(特許文献8)、アルギン酸ナトリウム、中性水不溶・難溶カルシウム塩及びキレート剤を用いた酸性濃厚流動食用ゲル化剤(特許文献9)、ゲル化剤としてι−カラギーナンを含有するゲル状経管栄養食品(特許文献10)、経腸栄養剤にカルシウムイオン供給剤を混合し、得られた混合物を経管投与する際、その混合物の経管投与の前又は後に、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸から選択される1種又は2種以上を含む溶液を経管投与することを特徴とする、嘔吐軽減又は防止方法(特許文献11)、(1)タンパク質、(2)酸性多糖類及び(3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンから選択される一種以上のカラギナンを含有し、(4)pHを2.5〜6に調整した酸性ゲル状経腸栄養剤(特許文献12)、(A)脂質、(B)酸性領域でゲル化する増粘剤、(C)アラビアガム及びガティガムよりなる群から選択される少なくとも1種の乳化安定剤、並びに(D)2価の金属塩を含有することを特徴とする乳化食品組成物(特許文献13)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−169396号公報
【特許文献2】特開2000−169397号公報
【特許文献3】特開2006−141258号公報
【特許文献4】特開2006−248981号公報
【特許文献5】特開2007−77107号公報
【特許文献6】特開2008−69090号公報
【特許文献7】特開2009−153441号公報
【特許文献8】特開2009−274964号公報
【特許文献9】特開2009−291175号公報
【特許文献10】特開2010−77068号公報
【特許文献11】特開2010−254598号公報
【特許文献12】特開2013−199469号公報
【特許文献13】国際公開第2013/146181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記記載の技術では、ゲル状であるため投与時に圧力を加え続ける必要があるか、投与時に圧力を加え続ける必要は無いものの、胃食道逆流を防止するには粘度が不十分であり、或いは2種類の液を逐次的に経管投与する必要があるなど、投与が煩雑であった。また、特許文献13で提案されている乳化食品組成物では、構成する必須成分が多く必要である点やタンパク源が分解物(低分子のもの)に限定されている点が挙げられる。
従って、本発明は投与が容易であり、かつ胃食道逆流が生じにくい濃厚流動食を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、重量平均分子量(M)が100,000g/mol以下に低減され、グルロン酸含有率が85%以上に調整されたアルギン酸ナトリウムもしくは、Mが100,000g/mol以下に低減され、かつメチルエステル化度(DM)が40%以下に調整されたペクチン、カルシウムおよびカルシウムをキレートしうるキレート剤を含有することを特徴とする濃厚流動食が、投与時には圧力を加え続ける必要が無くスムーズに投与可能であると共に、この濃厚流動食を胃液と混和するとゲル化もしくは高粘度化して胃食道逆流が生じにくくなるとの知見を得て、これらによって前記課題を解決できることを見出し本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、次の態様を含む。
項1
次の(A)又は(B)、及びカルシウム及びキレート剤を含有し、胃液に接触する前の粘度が250mPa・s以下であり、胃液に接触した後の粘度が2,000mPa・s以上であることを特徴とする濃厚流動食。
(A)(a−1)重量平均分子量(M)が100,000g/mol以下でかつグルロン酸含有率が85%以上であるアルギン酸ナトリウム、及び(a−2)Mが100,000g/mol以上のアルギン酸又はそのナトリウム塩
(B)(b−1)Mが100,000g/mol以下でかつメチルエステル化度(DM)が40%以下であるペクチン、及び(b−2)Mが100,000g/mol以上のペクチン
項2
項1記載の(a−1)のアルギン酸ナトリウムを0.05〜3質量%含有する項1に記載の濃厚流動食。
項3
項1記載の(a−2)のアルギン酸ナトリウム又はそのナトリウム塩1質量部に対して(a−1)のアルギン酸ナトリウムを0.1〜15質量部含有する項1又は2に記載の濃厚流動食。
項4
項1記載の(b−1)のペクチンを0.1〜3質量%含有する項1に記載の濃厚流動食。
項5
項1記載の(b−2)のペクチン1質量部に対し、(b−1)のペクチンを0.2〜15質量部含有する項1又は4に記載の濃厚流動食。
項6
0.01〜0.5質量%のカルシウム、及び0.01〜1質量%のキレート剤を含有する項1記載の濃厚流動食。
項7
キレート剤が、クエン酸塩である項1記載の濃厚流動食。
項8
さらに未分解の乳タンパクを含有する項1乃至7に記載の濃厚流動食。
項9
経鼻又は経口経管栄養法、或いは経胃瘻又は経腸瘻経管栄養法による投与用である、項1乃至8に記載の濃厚流動食。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、投与が容易であり、かつ胃食道逆流が抑制された濃厚流動食が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、「質量%」は、%(W/W)を表す。また、以下、上付きの「TM」は商品名を示す。
本発明の濃厚流動食は、Mが100,000g/mol以下でかつグルロン酸含有率が85%以上であるアルギン酸ナトリウム及びMが100,000g/mol以上であるアルギン酸又はそのナトリウム塩の組み合わせ、もしくはMが100,000g/mol以下でかつDMが40%以下であるペクチン及びMが100,000g/mol以上であるペクチンの組み合わせを含有する。
【0012】
本発明において「濃厚流動食」とは、濃厚流動食(食品)のみならず、経腸栄養剤(医薬品)を包含する。
【0013】
1.Md−アルギン酸ナトリウム
本発明で用いられる「平均重量分子量(M)が100,000g/mol以下でかつグルロン酸含有率が85%以上であるアルギン酸ナトリウム」(以下、Md−アルギン酸ナトリウムと記載する)は、食品添加物として使用可能な物質である。アルギン酸はウロン酸から構成される直鎖状の酸性多糖類であり、αL−グルロン酸(G)とβ−D−マンヌロン酸(M)とからなる共重合体である。この意味において、本明細書に記載されたMd−アルギン酸ナトリウムは、市販されている一般のアルギン酸ナトリウムと同様である。以下、本明細書中において、αL−グルロン酸(G)とβ−D−マンヌロン酸(M)の全モル数に対するαL−グルロン酸のモル含有率(%)をグルロン酸含有率もしくはG含有率と称する。すなわち、「グルロン酸含有率が85%以上」もしくは「G含有率が85%以上」という場合、モル含有率で85%以上のαL−グルロン酸(G)と15%未満のβ−D−マンヌロン酸(M)からなるアルギン酸ナトリウムを示す。
【0014】
Md−アルギン酸ナトリウムは、商業的に入手可能である一般のアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩(以下、アルギン酸原料と記載する)を酸もしくは酵素で加水分解し、これを、特定のpH条件で沈殿させたり、マンヌロン酸をグルロン酸に変換する酵素で処理することによって製造、精製(単離)することができる。アルギン酸原料としては、食品添加物として使用可能な、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウムが使用でき、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムを使用することが好ましい。これらのアルギン酸原料は、褐藻類から抽出することもできるが、一般にも市販されており、アルギン酸の例としては、サンサポートTMP−90(商品名、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)が、アルギン酸ナトリウムの例としては、サンサポートTMP−70、P−71、P−72、P−81、及びP−82(商品名、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)が挙げられる。Md−アルギン酸ナトリウムの製造において、アルギン酸原料のMは低いほうがよく、好ましくは200,000g/mol以下であり、より好ましくは150,000g/mol以下である。また、アルギン酸原料のG含有率は高いほうがよく、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0015】
次に、Md−アルギン酸ナトリウムの製造方法を示す。
1.アルギン酸原料の低分子化
褐藻類より抽出されたアルギン酸原料のMは、110,000〜400,000g/molであり、市販されている殆どのアルギン酸原料のMもこの範囲に入っている。本発明のMd−アルギン酸ナトリウムは、これらのアルギン酸原料のMを100,000g/mol以下に分解することによって調製される。アルギン酸原料の低分子化には、酸加水分解もしくは酵素分解が用いられる。酸加水分解においては、0.1〜1.0Mに希釈した塩酸、硫酸等無機酸溶液にアルギン酸原料を懸濁させ、これを加熱することによってウロン酸糖鎖を加水分解することができる。一方、酵素分解においては、アルギン酸原料溶液にアルギン酸リアーゼ等のアルギン酸のウロン酸糖鎖を加水分解する酵素を添加し、温度、pHを調整した状態で撹拌することにより、ウロン酸糖鎖を加水分解することができる。
【0016】
2.G含有率85%以上のアルギン酸ナトリウムの調製
アルギン酸原料のG含有率は、抽出に用いる褐藻類の種類、採取された季節などにより変化するが、市販されている殆どのアルギン酸原料のG含有量は40〜80%の範囲に入っている。本発明のMd−アルギン酸ナトリウムのG含有率は85%以上であり、この高いG含有率を実現するために、選択的沈殿法もしくは、酵素法が用いられる。選択的沈殿法は、特定のpHにおける溶解度がアルギン酸糖鎖中のグルロン酸およびマンヌロン酸結合様式により異なる性質を利用する方法である。アルギン酸は、2.5未満のpH領域において、グルロン酸とマンヌロン酸が交互に現れる領域(GMブロック)の溶解度が高く、グルロン酸が主として存在する領域(Gブロック)およびマンヌロン酸が主として存在する領域(Mブロック)の溶解度は低い。また、pHが2.5以上3.8未満のpH領域においては、GMブロックおよびMブロックの溶解度が高く、Gブロックの溶解度が低い。この性質を利用して、Gブロックを選択的に沈殿させこれを回収することにより、結果としてアルギン酸糖鎖中のG含有率を高めることができる。アルギン酸を沈殿させる際のpHは3.8以下である必要があり、好ましくは2.8以上3.8未満、より好ましくは3.0以上3.6未満である。一方、酵素法においては、C5エピメラーゼとよばれるマンヌロン酸をグルロン酸に変換する酵素を用いる。アルギン酸原料溶液にC5エピメラーゼを添加し、温度、pHを調整した状態で撹拌することにより、糖鎖中のマンヌロン酸をグルロン酸に変換し、結果としてG含有率を高めることができる。
【0017】
こうして、調製されたMd−アルギン酸ナトリウムの分子量は100,000g/mol以下であることが必要であり、より好ましくは1,000〜80,000g/molであり、更に好ましくは2,000〜50,000g/molである。また、Md−アルギン酸ナトリウムのG含有率は85%以上であることが必要であり、より好ましくは90%以上である。
【0018】
また、本発明の濃厚流動食におけるMd−アルギン酸ナトリウムの含有率は、好ましくは0.05〜3.0質量%、より好ましくは0.1〜2.5質量%、更に好ましくは0.2〜1.5質量%である。当該含有率が低すぎると、本発明の濃厚流動食の胃液に接触後の粘度が十分に高くならずに十分な胃食道逆流防止効果を示さない場合があり、一方、当該含有率が高すぎると、胃液に接触前(投与時)の粘度が高すぎ十分な経管流動性を示さない場合がある。
【0019】
本発明で用いられるMd−アルギン酸ナトリウムは、アルギン酸原料との組み合わせで用いられる必要があるが、さらに他の1種以上の多糖類との組み合わせであってもよい。
【0020】
例えば、ペクチン(ペクチン原料、Md−ペクチンを含む)、カラギナン、ジェランガム、大豆多糖類、アラビアガム、ガティガム、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム等との組み合わせであることもできる。
【0021】
本発明の濃厚流動食がMd−アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸原料以外の多糖類を含有する場合、かかる多糖類の含有量は、アルギン酸又はそのナトリウム塩1質量部に対して、0.1〜50質量部、好ましくは0.2〜25質量部、更に好ましくは0.25〜20質量部である。
【0022】
2.Md−ペクチン
本発明で用いられる「重量平均分子量(M)が100,000g/mol以下でかつDMが40%以下であるペクチン」(以下、Md−ペクチンという)は、食品添加物として使用可能な物質である。ペクチンは主鎖にガラクツロン酸から構成される領域と、ガラクツロン酸とラムノースが交互に存在する領域をもち、主鎖中のラムノースに中性糖を中心とした側鎖が結合する構造をとっている。また、主鎖の大部分を構成するガラクツロン酸の一部がメチル基もしくはアセチル基でエステル化されている。この意味において、本明細書に記載されたMd−ペクチンは、市販されている一般のペクチンと同様である。以下、本明細書中において、ガラクツロン酸の全モル数に対するメチルエステル化されたガラクツロン酸のモル含有率(%)をメチルエステル化度もしくはDMと称する。すなわち、「メチルエステル化度が40%以下」もしくは「DMが40%以下」という場合、モル含有率で40%以下のメチルエステル化されたガラクツロン酸をもつペクチンであることを示す。ペクチンのDMは、抽出に用いる植物の種類、採取された季節などにより変化するが、抽出時においては、DM50%以上のメチルエステル基高含有率ペクチンであり、これはハイメトキシルペクチン(HMペクチン)と呼ばれる。HMペクチンを酸もしくはアルカリで処理することにより、DMを減少させたものはローメトキシルペクチン(LMペクチン)と呼ばれる。LMペクチンはカルシウムと結合してゲル化することが知られている。
【0023】
Md−ペクチンは、商業的に入手可能である一般のペクチン(以下、ペクチン原料と記載する)をペクチナーゼなどのガラクツロン酸加水分解酵素で処理し、さらにペクチンメチルエステラーゼなどによりメチルエステル化されたガラクツロン酸のエステル結合を加水分解することにより製造、精製(単離)することができる。ペクチン原料としては、食品添加物として使用可能な柑橘、リンゴ、甜菜など様々な植物由来のペクチン使用できるが、柑橘由来のペクチンを使用することが好ましい。これらのペクチン原料は、植物から抽出することもできるが、一般にも市販されており、例としてサンサポートTMP−160、サンサポートTMP−161(商品名、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)が挙げられる。Md−ペクチンの製造において、ペクチン原料のMは低いほうがよく、好ましくは200,000g/mol以下であり、より好ましくは150,000g/mol以下である。また、ペクチン原料のDMは低いほうがよく、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下である。
【0024】
次に、Md−ペクチンの製造方法を示す。
1.ペクチン原料の低分子化
柑橘、リンゴ、甜菜などの植物より抽出されたペクチンのMは、150,000〜600,000g/molであり、市販されている殆どのペクチン原料のMもこの範囲に入っている。本特許のMd−ペクチンは、これらのペクチン原料を重量平均分子量(M)100,000g/mol以下に分解することによって調製される。ペクチン原料の低分子化には、酵素分解が用いられる。酵素分解において、ペクチン原料溶液にペクチナーゼ等のペクチンのガラクツロン酸糖鎖を加水分解する酵素を添加し、温度、pHを調整した状態で撹拌することにより、糖鎖を加水分解することができる。
【0025】
2.低DMペクチンの調製
上記の方法で低分子化したペクチンのDMは、ペクチン原料のDMに依存し、HMペクチンを原料として用いた場合は高く、LMペクチンを用いた場合は低くなる。低分子化されたペクチンのDMが40%を超える場合、酸やアルカリで処理するか、ペクチンメチルエステラーゼなどの脱エステル化酵素で処理して、ペクチンのガラクツロン酸のメチルエステル結合を加水分解する必要があるが、ペクチンのDMをより厳密に制御するためには、酵素を用いるほうが好ましい。
【0026】
こうして、調製されたMd−ペクチンの分子量は100,000g/mol以下であることが必要であり、より好ましくは5,000〜85,000g/mol、更に好ましくは10,000〜75,000g/molである。また、Md−ペクチンのDMは40%以下であることが必要であり、より好ましくは35%以下である。
【0027】
本発明の濃厚流動食におけるMd−ペクチンの含有量は、好ましくは0.1〜3質量%、より好ましくは0.2〜2.4質量%、更に好ましくは0.6〜1.8質量%である。
【0028】
当該含有率が低すぎると、本発明の濃厚流動食の胃液に接触後の粘度が十分に高くならずに十分な胃食道逆流防止効果を示さない場合があり、一方、当該含有率が高すぎると、胃液に接触前(投与時)の粘度が高くなりすぎ十分な経管流動性を示さない場合がある。
【0029】
本発明で用いられるMd−ペクチンは、ペクチン原料との組み合わせで用いられる必要があるが、さらに他の1種以上の多糖類との組み合わせであってもよい。
【0030】
例えば、アルギン酸ナトリウム(アルギン酸原料、Md−アルギン酸ナトリウムを含む)、カラギナン、ジェランガム、大豆多糖類、アラビアガム、ガティガム、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム等との組み合わせであることもできる。
【0031】
本発明の濃厚流動食がMd−ペクチン及びペクチン原料以外の多糖類を含有する場合、かかる多糖類の含有量は、Md−ペクチン1質量部に対して、0.1〜50質量部、好ましくは0.2〜25質量部、更に好ましくは0.25〜20質量部である。
【0032】
3.カルシウム
本発明で用いられる「カルシウム」の形態は、特に限定されず、例えば、塩又はイオンであることができる。
【0033】
本発明の濃厚流動食は、実際には、カルシウムの供給源を含有する。
【0034】
カルシウムの供給源として、具体的には、例えば、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、焼成(うに殻、貝殻、骨、造礁サンゴ、乳性、卵殻)カルシウム、未焼成(貝殻、骨、サンゴ、真珠層、卵殻)カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三水素カルシウム及びそれらの水和物から選択される1種以上、好ましくは、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、及びリン酸一水素カルシウムから選択される1種以上を用いることができる。
【0035】
カルシウムの供給源は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。また、カルシウムは、後記で説明する栄養成分に含有されるものであってもよい。
【0036】
本発明の濃厚流動食におけるカルシウムの含有率は、好ましくは0.01〜0.5質量%、より好ましくは0.03〜0.4質量%、更に好ましくは0.05〜0.2質量%である。
【0037】
本発明の濃厚流動食におけるカルシウムの含有率は、「日本人の食事摂取基準[2010年度版]」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量に従い適宜設定することが可能である。
【0038】
但し、当該含有率が低すぎると、本発明の濃厚流動食の胃内でのゲル化あるいは高粘度化が不十分になる場合があり、一方、当該含有率が高すぎると、本発明の濃厚流動食の胃液に接触前(投与時)の粘度が高くなりすぎ、経管流動性が低下する場合がある。
【0039】
4.キレート剤
本発明では「キレート剤」として、例えば、リン酸塩、縮合リン酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、グルタミン酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、グルコン酸塩、クエン酸、クエン酸塩、フィチン酸及びフィチン酸塩から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0040】
より具体的には、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸三マグネシウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素カルシウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸カルシウム、グルタミン酸マグネシウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム、グルコン酸鉄、グルコン酸銅、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸鉄及びクエン酸鉄ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。なかでも、好ましくは、例えば、クエン酸塩であり、より好ましくは、例えば、クエン酸三ナトリウム及びクエン酸三カリウムからなる群より選ばれる1種以上である。
【0041】
本発明の濃厚流動食は、キレート剤を、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.03〜0.4質量%、更に好ましくは0.05〜0.3質量%含有する。
【0042】
当該含有率が低すぎると、本発明の濃厚流動食の胃液に接触前(投与時)の粘度が高くなりすぎ経管流動性が低下する場合があり、一方、当該含有率が高すぎると、本発明の濃厚流動食の胃内でのゲル化あるいは高粘度化が不十分になる場合がある。
【0043】
本発明の濃厚流動食は、キレート剤をカルシウム1質量部に対して0.1〜3質量部、好ましくは0.2〜2質量部、より好ましくは0.5〜1.5質量部含有する。
【0044】
当該比が小さすぎると、本発明の濃厚流動食の投与時の粘度が高くなりすぎる場合があり、一方、当該比が大きすぎると、胃内での本発明の濃厚流動食の高粘度化が不十分になる場合がある。
【0045】
5.栄養成分
本発明における濃厚流動食は、好ましくはカロリー値が1kcal/mL以上であり、かつタンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなどの栄養成分を含む。
【0046】
タンパク質は、一般に食用として利用されているタンパク質であることができる。具体的には、例えば、脱脂粉乳、カゼインもしくはそのナトリウム塩、ホエイタンパク質、全乳タンパク質などの乳タンパク質、脱脂豆乳粉末、大豆タンパク質、小麦タンパク質、及びこれらタンパク質の分解物等が挙げられる。ホエイタンパク質及び全乳タンパク質等の乳タンパク質はしばしばカルシウムと塩を形成している。このようなカルシウムは、本発明の濃厚流動食の必須成分としてのカルシウムを兼ねることができる。
【0047】
乳、大豆、小麦由来の未分解のタンパク質は、良好な乳化性を示し、また、乳化された濃厚流動食を安定化させる働きがある。特に、未分解の乳タンパク質は
濃厚流動食を安定化させる効果が高い。よって、本発明の濃厚流動食に用いられるタンパク質は、未分解のタンパク質のほうが好ましく、カゼインもしくはそのナトリウム塩などの未分解の乳タンパク質がより好ましい。すなわち、本発明の濃厚流動食は、未分解のタンパク質を含有する濃厚流動食(半消化態濃厚流動食)であることが望ましい。タンパク分解物を併用する場合においても、好ましくは未分解のタンパク質1質量部に対するタンパク分解物の比率が5.0質量部以下であり、より好ましくは2.0質量部以下である。
【0048】
また、通常、タンパク質を多く含有する濃厚流動食では、タンパク質が凝集又は沈殿して外観上美しくないだけでなく、凝集したタンパク質が経管投与時にチューブ内壁に付着して残るなどの問題が生じ易い。しかし、本発明の濃厚流動食は、このような凝集が抑制されているので、タンパク質を0.5〜20質量%、好ましくは1.0〜15質量%、好適に含有できる。
【0049】
脂質は、一般に食用として利用されている脂質であることができる。具体的には、例えば、大豆油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、ヤシ油、シソ油、ゴマ油、アマニ油、パーム油、ナタネ油等の植物油や、イワシ油、タラ肝油等の魚油、必須脂肪酸源としての長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等が挙げられる。なかでも、好ましくは、例えば、通常炭素数が8〜10であるMCTである。MCTを用いることにより、脂質の吸収性が高まる。通常、MCTを含有する濃厚流動食は付着性が高く、経管投与時に使用されるチューブ内壁の残渣が増加する傾向が見られる。しかし、本発明の濃厚流動食は、MCTを含有する場合でも、付着性が低く、チューブ内壁の残渣が少ない。本発明の栄養成分中の脂質の含有率としては、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1.0〜15質量%である。
【0050】
炭水化物は、一般に食用として利用されている糖質であることができる。具体的には、例えば、グルコース、フルクトース等の単糖類;マルトース、蔗糖等の二糖類等の通常の各種の糖類;キシリトール、ソルビトール、グリセリン、エリスリトール等の糖アルコール類;デキストリン、シクロデキストリン等の多糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトスクロース等のオリゴ糖類等が挙げられる。なかでも、味覚に与える影響の低さの観点からは、例えば、デキストリンが好ましい。本発明の栄養成分中の炭水化物の含有量は、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%である。
【0051】
カルシウム以外のミネラルとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛等が挙げられる。ミネラルは食品添加物として取り扱われる塩の形態であることができる。
【0052】
濃厚流動食中のミネラルの含有率は「日本人の食事摂取基準[2010年度版]」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量に従い適宜設定することが可能であり、通常、ナトリウムとして6,000〜20,000mg/L、カリウムとして2,000〜3,500mg/L、マグネシウムとして260〜650mg/L、鉄として10〜40mg/L、銅として1.6〜9mg/L、亜鉛として7〜30mg/Lである。
【0053】
ビタミンとしては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、D、E、K、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、及び葉酸等が挙げられる。
【0054】
濃厚流動食中のビタミンの量は「日本人の食事摂取基準[2010年度版]」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量に従い適宜設定することが可能であり、通常、ビタミンAとして0.54〜1.5mg/L、ビタミンB1として0.8〜1.0mg/L、ビタミンB2として1〜100mg/L、ビタミンB6として1.0〜1,000mg/L、ビタミンB12として2.4〜100mg/L、ビタミンCとして100〜1,000mg/L、ビタミンDとして0.0025〜0.05mg/L、ビタミンEとして8〜600mg/L、ビタミンKとして0.055〜30mg/L、ナイアシンとして13〜30mg/L、ビオチンとして0.030〜0.1mg/L、パントテン酸として5〜100mg/L、葉酸として0.2〜1.0mg/Lである。
【0055】
また、本発明の濃厚流動食は、本発明の効果が奏される限りにおいて、更に、濃厚流動食が通常含有する添加剤等を含有できる。
【0056】
6.粘度(胃液に接触前後の粘度)
本発明の濃厚流動食は、B型回転粘度計を用い、後述の測定条件で測定した粘度が250mPa・s以下である必要があり、好ましくは1〜200mPa・s、より好ましくは10〜150mPa・s以下である。
<粘度の測定条件>
B型回転粘度計にて粘度を測定する。
測定温度:20℃
回転速度:12rpm
【0057】
なお、胃液に接触する前の粘度を測定する場合、80gの濃厚流動食をキャップで密閉できる内径35mm、高さ10mmのガラス製円筒管に入れて測定する。また、胃液に接触した後の粘度を測定する場合は、上記のガラス製円筒管に16gの人工胃液(0.7%塩酸及び0.2%食塩の水溶液、pH1.2)を入れ、そこに64gの濃厚流動食を加えて、ガラス製円筒管をキャップで封をし、10回転倒させて人工胃液と濃厚流動食を混和し、37℃で30分間静置した後、20℃に戻してから粘度を測定する。
このような粘度特性をもつ本発明の濃厚流動食は、投与が容易であり、胃内環境に投与されると十分にゲル化あるいは高粘度化し、胃食道逆流を防止する。
【0058】
7.pH
本発明における濃厚流動食のpHは通常4.5〜9、好ましくは4.8〜8.5、より好ましくは5.2〜8である。
【0059】
pHが低すぎると、本発明の濃厚流動食の胃液に接触前(投与時)の粘度が高くなりすぎる場合があり、一方、pHが高すぎると、濃厚流動食の味質が悪くなる場合がある。
【0060】
pHの調整は、必要に応じて、例えば、有機酸及び又はその塩、無機酸及び又はその塩等のpH調整剤を用いて行うことができる。pH調整剤としては、例えば、フィチン酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、アジピン酸、酒石酸、及びリンゴ酸等の有機酸又はその塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、並びに水酸化ナトリウム等を挙げることができる。キレート剤として作用し得るクエン酸塩等は、本発明の濃厚流動食の必須成分としてのキレート剤を兼ねることができる。
【0061】
8.製造方法
本発明の濃厚流動食は、Md−アルギン酸ナトリウム、アルギン酸原料、Md−ペクチンもしくはペクチン原料とカルシウムとが、キレート剤の不存在下で接触しない限り、任意の方法で各成分を混合することにより、製造できる。
【0062】
具体的には、例えば、栄養成分(カルシウムを含有してもよい)、カルシウム源、及びキレート剤の水溶液又は水分散液を調製し、これにMd−アルギン酸ナトリウム、アルギン酸原料、Md−ペクチンもしくはペクチン原料を添加及び混合して、本発明の濃厚流動食を得ることができる。
【0063】
得られた本発明の濃厚流動食は、所望により、例えば、容器充填後の105〜121、5〜60分間等の条件のレトルト殺菌処理により殺菌される。
【0064】
9.使用方法
本発明の濃厚流動食は、従来の液状の濃厚流動食と同様に、経鼻又は経口経管栄養法、或いは経胃瘻又は経腸瘻経管栄養法により、投与できる。
【0065】
特に、本発明の濃厚流動食は、投与時(胃液に接触するまで)は低粘度であり、かつ高い経管流動性を有するので、細いチューブにおいても100Pa以下の弱い加圧による投与、又は加圧無しでの投与(重力のみによる投与(自然滴下による投与))が可能である。従って、摂取者の負担の少ない経鼻又は経口経管栄養法、或いは経胃瘻又は経腸瘻経管栄養法によって簡便に投与できる。ここで、胃瘻及び腸瘻は、例えば、それぞれ経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)及び経皮内視鏡的腸瘻造設術(PEJ)で造設されたものであることができる。
【0066】
これに加えて、本発明の濃厚流動食は、胃内(胃液に接触した後)では高粘度になるので、摂取者の座位を長時間保つ必要が無い。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本明細書中、「質量%」は、%(W/W)を表す。以下、上付きの「TM」は商品名を示す。
【0068】
<Md−アルギン酸ナトリウムおよび低分子量アルギン酸ナトリウムの調製方法>
本発明の実施例では、Md−アルギン酸ナトリウムを調製するためのアルギン酸原料として、サンサポートTMP−80、P−71(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いた。また、以下の方法で4種類のMd−アルギン酸ナトリウムであるMDA−01、MDA−02、MDA−03、MDA−04を調製した。さらに、対照としてMが100,000g/mol以下であるが、G含有量が85%未満である低分子アルギン酸ナトリウム、LA−01およびLA−02を調製した。
【0069】
MDA−01
20gのアルギン酸原料(サンサポートTMP−80)を200mlの0.3Mの塩酸に懸濁後、25℃で17時間攪拌した。この上清をデカントで除き、50ml の0.3M塩酸を加えて95で2時間加熱した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨て50mlの超純水に懸濁し、この操作を2回繰り返した。沈殿を50mlの超純水に懸濁し、0.5MのNaOHを用いてpHを3.5に調整し、これを25℃で17時間攪拌した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨てた。沈殿を100mlの超純水に懸濁後、4.0MのNaOHを用いてpHを7.0に調整し、沈殿を溶解させた。この溶液をGF/Aガラスフィルター(孔径1.6μm)でろ過後、フリーズドライにより粉末試料を回収した。
【0070】
MDA−02
80gのアルギン酸原料(サンサポートTMP−80)を800mlの0.3Mの塩酸に懸濁後、25℃で17時間攪拌した。この上清をデカントで除き、200ml の0.3M塩酸を加えて95で6時間加熱した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨て600mlの超純水に懸濁し、この操作を2回繰り返した。沈殿を600mLの超純水に懸濁し、0.5MのNaOHを用いてpHを3.5に調整し、これを25℃で17時間攪拌した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨てた。沈殿に600mlの超純水に懸濁後、4.0MのNaOHを用いてpHを7.0に調整し、沈殿を溶解させた。この溶液をGF/Aガラスフィルター(孔径1.6μm)でろ過後、フリーズドライにより粉末試料を回収した。
【0071】
MDA−03
6gのアルギン酸原料(サンサポートTM P−80)を194gのpH6.5のリン酸緩衝液(200mM)に分散させた。この分散液に216Uのアルギン酸リアーゼ(商品名:アルギン酸リアーゼS、ナガセエンザイム社製)酵素液を加え、40℃で30分酵素処理後、1.0Mの水酸化ナトリウムを2.0ml添加して酵素を失活させた。この溶液を0.1Mの塩酸でpH3.5に調整し、25℃で17時間攪拌した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨てた。沈殿に100mlの超純水に懸濁後、4.0MのNaOHを用いてpHを7.0に調整し、沈殿を溶解させた。この溶液をGF/Aガラスフィルター(孔径1.6μm)でろ過後、フリーズドライにより粉末試料を回収した。
【0072】
MDA−04
6gのアルギン酸原料(サンサポートTMP−80)を194gのpH6.5のリン酸緩衝液(200mM)に分散させた。この分散液に216Uのアルギン酸リアーゼ(商品名:アルギン酸リアーゼS、ナガセエンザイム社製)酵素液を加え、40℃で60分酵素処理後、1.0Mの水酸化ナトリウムを2.0ml添加して酵素を失活させた。この溶液を0.1Mの塩酸でpH3.5に調整し、25℃で17時間攪拌した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨てた。沈殿に100mlの超純水に懸濁後、4.0MのNaOHを用いてpHを7.0に調整し、沈殿を溶解させた。この溶液をGF/Aガラスフィルター(孔径1.6μm)でろ過後、フリーズドライにより粉末試料を回収した。
【0073】
LA−01
20gのアルギン酸原料(サンサポートTMP−80)を150ml の0.3M塩酸に懸濁に懸濁後、25℃で17時間攪拌した。上清をデカントで除き、50ml の0.3M塩酸を加えて95で2時間加熱した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨て50mlの超純水に懸濁し、この操作を2回繰り返した。200mlの超純水に懸濁し、0.5Mの水酸化ナトリウムを用いてpHを4.0に調整し、これを25℃で17時間攪拌した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清のみを回収し、これを0.5Mの塩酸を用いてpH2.6に調整した。懸濁液を750ラgで15分間遠心分離し、上清を捨て100mlの超純水に懸濁後、4.0MのNaOHを用いてpHを7.0に調整し、沈殿を溶解させた。この溶液をGF/Aガラスフィルター(孔径1.6μm)でろ過後、フリーズドライにより粉末試料を回収した。
【0074】
LA−02
20gのアルギン酸原料(サンサポートTMP−71)を150ml の0.3M塩酸に懸濁に懸濁後、25℃で17時間攪拌した。上清をデカントで除き、50ml の0.3M塩酸を加えて95で2時間加熱した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨て50mlの超純水に懸濁し、この操作を2回繰り返した。200mlの超純水に懸濁し、0.5Mの水酸化ナトリウムを用いてpHを4.0に調整し、これを25℃で17時間攪拌した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清のみを回収し、これを0.5Mの塩酸を用いてpH2.6に調整した。懸濁液を750×gで15分間遠心分離し、上清を捨て100mlの超純水に懸濁後、4.0MのNaOHを用いてpHを7.0に調整し、沈殿を溶解させた。この溶液をGF/Aガラスフィルター(孔径1.6μm)でろ過後、フリーズドライにより粉末試料を回収した。
【0075】
これらのアルギン酸原料、Md−アルギン酸ナトリウムおよび低分子アルギン酸ナトリウムのG含有率及びMを後述の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0076】
(1)G含有率の測定方法
アルギン酸原料、Md−アルギン酸ナトリウムおよび低分子アルギン酸ナトリウムのG含有率は、H−NMRで測定した際に観測されるグルロン酸の1位炭素に結合したプロトンに由来する5.00〜5.15ppmのピーク面積を、この5.00〜5.15ppmのピーク面積およびマンヌロン酸の1位の炭素に結合したプロトンに由来する4.60〜4.75ppmのピーク面積の和で除した値とした。
【0077】
G含有率(%)=グルロン酸由来のピーク面積/(グルロン酸由来ピーク面積+マンヌロン酸由来のピーク面積)×100
【0078】
試料の調製方法とH−NMR測定方法を以下に記載する。
【0079】
アルギン酸原料、Md−アルギン酸ナトリウムもしくは低分子アルギン酸ナトリウムを重水に溶解した後に凍結乾燥をした。この操作を3回繰り返し、交換可能なプロトンを除いた後、更に24時間減圧乾燥した。減圧乾燥された試料を約2質量%になるように重水に溶解し、内部標準としてトリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム(TSP)を添加した。H−NMRの測定にはNMR測定装置ECA600(日本電子社)を用い、以下条件で測定した。
【0080】
H−NMRの測定条件>
フィールド磁場強度:14.096T
周波数:600MHz
パルス角度:45°
パルス時間:6.75マイクロ秒
リラクゼーション時間:5秒
積算回数:128回
測定温度:70℃
【0081】
(2)重量平均分子量(M)の測定方法
アルギン酸原料、Md−アルギン酸ナトリウムおよび低分子アルギン酸ナトリウムのMは、試料希薄溶液をサイズ分離クロマトグラフィーで分離し、多角度光散乱検出器と屈折率検出器を用いて、以下の方法で測定した。
【0082】
<M測定方法>
乾燥重量1.5gのアルギン酸原料、Md−アルギン酸ナトリウムもしくは低分子アルギン酸ナトリウムを100gのイオン交換水に添加し、ポリトロン式攪拌機を使用して、回転速度26,000rpmで1分間攪拌することによって分散させて、1.5質量%の分散液を調製した。この分散液を0.5MのNaNO水溶液で30倍希釈し、ポリトロン式攪拌機を使用して、回転速度26,000rpmで1分間攪拌することによって0.05%(W/W)の分散液を調製した。当該分散液を、孔径0.45μmのPTFEメンブランフィルターを用いてろ過することによって不溶物を除去した後、以下の条件でゲルろ過クロマトグラフィーに供し、多角度光散乱検出器(DAWN−EOS、ワイアットテクノロジー社)及び屈折率検出器(RI−101、昭和電工社)の測定値から解析ソフトウェア(ASTRA Version 4.9、ワイアットテクノロジー社)を用いて重量平均分子量:M(g/mol)を算出した。
【0083】
[ゲル濾過クロマトグラフィーの測定条件]
カラム: OHpak SB−806M HQ (昭和電工社)
カラム温度:25℃
流速:0.5 ml/min
溶出溶媒:0.5 M NaNO
試料液注入量:100μl
【0084】
【表1】

【0085】
分析の結果、アルギン酸原料であるサンサポートTMP−80、P−71のMwは、いずれも100,000g/molより高く、G含有率は85%より低かった。一方、Md−アルギン酸ナトリウムであるMDA−01〜04のMは、いずれも100,000g/molより低く、G含有率は85%より高かった。さらに、低分子アルギン酸ナトリウムであるLA−01、LA−02のMはいずれも100,000g/molより低く、G含有率は85%より低かった。
【0086】
<Md−ペクチンおよび低分子量ペクチンの調製方法>
本発明の実施例では、Md−ペクチンを調製するためのペクチン原料として、サンサポートTM P−160、P−161(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いた。
また、以下の方法で4種類のMd−ペクチン、MDP−01、MDP−02、MDP−03、MDP−04を調製した。さらに、対照としてMが100,000g/mol以下であるが、DMが40%より大きい低分子ペクチン、LP−01およびLP−02を調製した。
【0087】
MDP−01
30gのペクチン原料(サンサポートTMP−160)を970gの超純水に分散させた。この分散液に1.0ml(200U相当)のペクチナーゼ(商品名:Pectinex YieldMASH、Novozyme社製を1,000倍希釈して使用した)酵素液を添加し、40℃で120分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液に1.0ml(45U相当)のペクチンメチルエステラーゼ(商品名:Novo shape XL、Novozyme社製を100倍希釈して使用した)を添加し、40℃で360分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液からスプレードライにより粉末試料を回収した。
【0088】
MDP−02
30gのペクチン原料(サンサポートTMP−160)を970gの超純水に分散させた。この分散液に1.0ml(200U相当)のペクチナーゼ(商品名:Pectinex YieldMASH、Novozyme社製を超純水で1,000倍希釈)酵素液を添加し、40℃で120分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液に1.0ml(45U相当)のペクチンメチルエステラーゼ(商品名:Novo shape XL、Novozyme社製を超純水で100倍希釈)を添加し、40℃で600分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液からスプレードライにより粉末試料を回収した。
【0089】
MDP−03
30gのペクチン原料(サンサポートTMP−160)を970gの超純水に分散させた。この分散液に1.0ml(200U相当)のペクチナーゼ(商品名:Pectinex YieldMASH、Novozyme社製を超純水で1,000倍希釈)酵素液を添加し、40℃で120分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液に1.0ml(45U相当)のペクチンメチルエステラーゼ(商品名:Novo shape XL、Novozyme社製を超純水で100倍希釈)を添加し、40℃で900分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液からスプレードライにより粉末試料を回収した。
【0090】
MPD−04
30gのペクチン原料(サンサポートTMP−161)を970gの超純水に分散させた。この分散液に1.0ml(200U相当)のペクチナーゼ(商品名:Pectinex YieldMASH、Novozyme社製を超純水で1,000倍希釈)酵素液を添加し、40℃で30分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液に1.0ml(45U相当)のペクチンメチルエステラーゼ(商品名:Novo shape XL、Novozyme社製を超純水で100倍希釈)を添加し、40℃で360分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液からスプレードライにより粉末試料を回収した。
【0091】
LP−01
30gのペクチン原料(サンサポートTMP−160)を970gの超純水に分散させた。この分散液に1.0ml(200U相当)のペクチナーゼ(商品名:Pectinex YieldMASH、Novozyme社製を超純水で1,000倍希釈)酵素液を添加し、40℃で120分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液からスプレードライにより粉末試料を回収した。
【0092】
LP−02
30gのペクチン原料(サンサポートTMP−160)を970gの超純水に分散させた。この分散液に1.0ml(200U相当)のペクチナーゼ(商品名:Pectinex YieldMASH、Novozyme社製を超純水で1,000倍希釈)酵素液を添加し、40℃で180分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液に1.0ml(45U相当)のペクチンメチルエステラーゼ(商品名:Novo shape XL、Novozyme社製を超純水で100倍希釈)を添加し、40℃で120分酵素処理後、90℃以上で30分間加熱して酵素を失活させた。この溶液からスプレードライにより粉末試料を回収した。
【0093】
これらのペクチン原料、Md−ペクチンおよび低分子ペクチンのDMおよびMを後述の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0094】
(1)DMの測定方法
0.1gのペクチン原料、Md−ペクチンもしくは低分子ペクチンをマグネットスターラーで撹拌しながら9.9gの超純水に分散させた。この分散液0.675ml を測りとり、これに0.075mlの100mM硫酸銅溶液を添加して撹拌混合した。これに0.75mlの1.0M水酸化ナトリウムを添加し混合後、4℃で1.5時間静置した。これを10,000×gで12分間遠心分離し、上清を1.0M塩酸でpH7.5に調整し、2.0mlに定容した。0.5ml(12.5Uに相当)のアルコールオキシダーゼ(EC 1.1.3.13、シグマ社製)を添加撹拌し、25℃で1時間以上静置後、2.5mlの2,4−pentandione試薬(シグマ社製)を添加撹拌した。これを40℃で30分静置、さらに25℃で30分静置後、412nmの吸光度からメタノールを定量した。
【0095】
DM(%)=(メタノールのモル数/ガラクツロン酸のモル数)×100
【0096】
(2)重量平均分子量(M)の測定方法
ペクチン原料、Md−ペクチンおよび低分子ペクチンのMは、試料希薄溶液をサイズ分離クロマトグラフィーで分離し、多角度光散乱検出器と屈折率検出器を用いて、以下の方法で測定した。
【0097】
<M測定方法>
乾燥重量1.5gのペクチン原料、Md−ペクチンもしくは低分子ペクチンを100gのイオン交換水に添加し、ポリトロン式攪拌機を使用して、回転速度26,000rpmで1分間攪拌することによって分散させて、1.5質量%の分散液を調製した。この分散液を0.5MのNaNO水溶液で30倍希釈し、ポリトロン式攪拌機を使用して、回転速度26,000rpmで1分間攪拌することによって0.05%(W/W)の分散液を調製した。当該分散液を、孔径0.45μmのPTFEメンブランフィルターを用いてろ過することによって不溶物を除去した後、以下の条件でゲルろ過クロマトグラフィーに供し、多角度光散乱検出器(DAWN−EOS、ワイアットテクノロジー社)及び屈折率検出器(RI−101、昭和電工社)の測定値から解析ソフトウェア(ASTRA Version 4.9、ワイアットテクノロジー社)を用いて重量平均分子量:M(g/mol)を算出した。
【0098】
[ゲル濾過クロマトグラフィーの測定条件]
カラム: OHpak SB−806M HQ (昭和電工社)
カラム温度:25℃
流速:0.5 ml/min
溶出溶媒:0.5 M NaNO
試料液注入量:100μl
【0099】
【表2】
【0100】
分析の結果、ペクチン原料であるサンサポートTMP−160のMwは100,000g/molより高く、DMは40%より高かった。サンサポートTMP−161のMは、100,000g/molより高く、DMは40%より低かった。一方、Md−ペクチンであるMDP−01〜04のMは、いずれも100,000g/molより低く、DMは40%より低かった。さらに、低分子ペクチンである、LP−01、LP−02のMはいずれも100,000g/molより低く、DMは40%より高かった。
【0101】
実験例1
Md−アルギン酸ナトリウム、アルギン酸原料および低分子アルギン酸ナトリウムを用いて、後記(1−1)に記載の方法により濃厚流動食を調製し、後記(1−2)に記載の方法で、人工胃液と接触する前後の濃厚流動食の粘度および人工胃液に接触後の外観を評価した。
【0102】
(1−1)濃厚流動食の調製
4.7gのデキストリン、7.3gのグラニュー糖、0.40gの塩化カルシウム(2水和物)、0.34gの塩化マグネシウム(6水和物)、0.12gの塩化カリウム(無水)および0.20gのクエン酸三ナトリウムを80gのイオン交換水に添加混合し分散させた。この分散液を80℃まで加熱し、乳化剤製剤であるホモゲンTM897(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を0.1g添加撹拌後、40℃以下まで冷却した。これに3.0gのカゼインナトリウムを添加撹拌した。この分散液に3.5gのコーン油を添加混合し、撹拌した後、0.30gのアルギン酸原料(サンサポートTMP−71、三栄源エフ・エフ・アイ社製)および表3に記載の分量のMd−アルギン酸ナトリウムもしくは、表4に記載の分量のアルギン酸原料もしくは低分子アルギン酸ナトリウムを添加混合し、イオン交換水で全量を100.0gに調整した。この分散液を14.7MPaで1回ホモジナイズすることによって実施例1〜4および比較例1〜5の濃厚流動食を調製した。なお、ここで調製した濃厚流動食のpHは6.8〜7.0であった。
【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
(1−2)粘度測定および外観の観察
粘度測定
人工胃液に接触する前の粘度を測定する場合、80g濃厚流動食をキャップで密閉できる内径35mm、高さ10mmのガラス製円筒管に入れて測定した。また、人工胃液に接触した後の粘度を測定する場合は、上記のガラス製円筒管に16gの人工胃液(0.7%塩酸及び0.2%食塩の水溶液、pH1.2)を入れ、そこに64gの濃厚流動食を加えて、ガラス製円筒管をキャップで封をし、10回転倒させて人工胃液と濃厚流動食を混和し、37℃で30分間静置した後、20℃に戻してから粘度を測定した。
【0106】
<粘度の測定条件>
B型回転粘度計(BLII型、東京計器株式会社製)にて粘度を測定した。
測定温度:20℃
回転速度:12rpm
【0107】
外観の観察
人工胃液に接触後の濃厚流動食の外観を主に胃液部と濃厚流動食部との分離の観点から観察した。分離した人工胃液は濃厚流動食の上部に透明もしくは白濁した半透明の層として観察される。分離の有無を以下の4段階で評価した。
◎ 人工胃液層の分離が見られない。
○ 人工胃液層の分離が僅かに見られる。
△ 人工胃液層の分離が見られる。
× 人工胃液層の分離が際立って見られる。
【0108】
(1−3)結果
人工胃液に接触前後の濃厚流動食の粘度及び両者の比(粘度の増加率)、及び外観を表5に示す。
【0109】
【表5】

【0110】
実施例1〜4の各濃厚流動食は、人工胃液に接触前の粘度がいずれも250mPa・s以下であった。また、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s以上であった。さらに、人工胃液に接触後の外観を観察すると、実施例1〜4の濃厚流動食は、柔軟なゲル状であり、人工胃液を取り込んで一体的にゲル化していた。
本粘度測定法で250mPa・s以下の粘度であるとき、経鼻用の細管を通した場合においても重力のみで流動(流出)させることが可能であるため、本発明の濃厚流動食は介護者や被介護者の負担を低減させ、かつ胃内では十分に高粘度になって胃食道逆流を防ぐことができる。
【0111】
一方、0.3質量%のアルギン酸原料を含有するがMd−アルギン酸ナトリウムを含有しない比較例1は、人工胃液に接触前の粘度は低く投与しやすいが、人工胃液に接触後の粘度が2,000mPa・s以下であり、十分な粘度増加がみられなかった。また、合計0.7質量%のアルギン酸原料を含有するがMd−アルギン酸ナトリウムを含有しない比較例2および3は、人工胃液に接触前の粘度が高くなりすぎた。また、比較例1〜3の人工胃液に接触後の外観を観察した結果、ゲル化した濃厚流動食部と胃液部が分離していた。ゲル化した濃厚流動食部は胃食道逆流しないが、分離している胃液部は粘度が低いため胃食道逆流の原因になる可能性がある。
【0112】
低分子アルギン酸を含有するがMd−アルギン酸ナトリウムを含有しない比較例4および5は人工胃液に接触前の粘度は250mPa・s以下と十分に低かったが、人工胃液に接触後の粘度が2,000mPa・s以下であり、十分な粘度増加がみられなかった。また、外観観察の結果、ゲル化した濃厚流動食部と胃液部がわずかに分離していることが確認された。
【0113】
以上の結果から、投与しやすく、胃内で増粘して胃食道逆流を防止する本特許の濃厚流動食を調製するためには、Md−アルギン酸ナトリウムが必須であることが確認された。
【0114】
実験例2
Md−アルギン酸ナトリウムおよびアルギン酸原料を用いて、後記(2−1)に記載の方法により濃厚流動食を調製し、後記(2−2)に記載の方法で、人工胃液と接触する前後の濃厚流動食の粘度および人工胃液に接触後の外観を評価した。
【0115】
(2−1)濃厚流動食の調製
4.7gのデキストリン、7.3gのグラニュー糖、0.40gの塩化カルシウム(2水和物)、0.34gの塩化マグネシウム(6水和物)、0.12gの塩化カリウム(無水)および0.20gのクエン酸三ナトリウムを80gのイオン交換水に添加混合し分散させた。この分散液を80℃まで加熱し、乳化剤製剤であるホモゲンTM897(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を0.1g添加撹拌後、40℃以下まで冷却した。これに3.0gのカゼインナトリウムを添加撹拌した。この分散液に3.5gのコーン油を添加混合し、撹拌した後、表6に記載のアルギン酸ナトリウム、Md−アルギン酸ナトリウムおよび/もしくは低分子アルギン酸ナトリウムを添加混合し、イオン交換水で全量を100.0gに調整した。この分散液を14.7MPaで1回ホモジナイズすることによって実施例2、実施例5〜19および比較例6〜16の濃厚流動食を調製した。なお、ここで調製した濃厚流動食のpHは6.6〜6.9であった。
【0116】
【表6】

【0117】
(2−2)粘度測定および外観の観察
粘度測定および外観の観察は、(1−2)と同じ方法を用いた。

(2−3)結果
人工胃液に接触前後の濃厚流動食の粘度及び両者の比(粘度の増加率)、及び外観を表7に示す。
【0118】
【表7】
【0119】
アルギン酸原料であるサンサポートTMP−71及びMd−アルギン酸ナトリウムであるMDA−02を含有している実施例2および実施例5〜19の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、いずれも250mPa・s以下であった。また、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s以上であった。さらに、人工胃液に接触後の外観を観察すると、実施例2、7、8、9、13、14、18、19の濃厚流動食は、柔軟なゲル状であり、人工胃液を取り込んで一体的にゲル化し、人工胃液部の分離も見られなかった。また、実施例5、6、10、11、12、15、16、17の濃厚流動食は、人工胃液に接触後、比較的硬くて脆いゲルを形成するものの、人工胃液部の分離は僅かだった。
Md−アルギン酸ナトリウムのみを含有する比較例6〜11について濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、いずれも250mPa・s以下だったが、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s未満であり、十分な粘度増加がみられなかった。また、比較例6〜11の濃厚流動食は、人工胃液に接触後、部分的に凝集・不溶化し、胃液部と濃厚流動食部が完全に分離した。
また、Md−アルギン酸ナトリウムと低分子アルギン酸ナトリウムとの組み合わせである比較例12〜16の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、いずれも250mPa・s以下だったが、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s未満であり、十分な粘度増加が見られなかった。また、比較例12〜16の濃厚流動食は、比較例6〜11の濃厚流動食と同様に、人工胃液に接触後、部分的に凝集・不溶化し、胃液部と濃厚流動食部が完全に分離した。
【0120】
以上の結果から、濃厚流動食が投与しやすく、胃内で増粘して胃食道逆流を防止する本特許の濃厚流動食を調製するためには、Md−アルギン酸ナトリウムとアルギン酸原料が共に必要であることが確認された。

実験例3
Md−アルギン酸ナトリウムおよびアルギン酸原料用いて、後記(3−1)に記載の方法により濃厚流動食を調製し、後記(3−2)に記載の方法で、人工胃液と接触する前後の濃厚流動食の粘度および人工胃液に接触後の外観を評価した。

(3−1)濃厚流動食の調製
4.7gのデキストリン、7.3gのグラニュー糖、0.34gの塩化マグネシウム(6水和物)、0.12gの塩化カリウム(無水)および表8に記載の塩化カルシウム(2水和物)およびクエン酸三ナトリウムを80gのイオン交換水に添加混合し分散させた。この分散液を80℃まで加熱し、乳化剤製剤であるホモゲンTM897(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.1gを添加撹拌後、40℃以下まで冷却した。これに3.0gのカゼインナトリウムを添加撹拌した。この分散液に3.5gのコーン油を添加混合し、撹拌した後、0.3gのアルギン酸ナトリウム(サンサポートTMP−71)、0.4gのMd−アルギン酸ナトリウム(MDA−02)を添加混合し、イオン交換水で全量を100.0gに調整した。この分散液を14.7MPaで1回ホモジナイズすることによって実施例2、実施例20〜29および比較例17〜22の濃厚流動食を調製した。なお、ここで調製した濃厚流動食のpHは6.7〜7.1であった。
【0121】
【表8】

*実験例1の実施例2と同じ組成である。
【0122】
(3−2)粘度測定および外観の観察
粘度測定および外観の観察は、(1−2)と同じ方法を用いた。
(3−3)結果
人工胃液に接触前後の濃厚流動食の粘度及び両者の比(粘度の増加率)、及び外観を表9に示す。
【0123】
【表9】
【0124】
カルシウムとキレート剤であるクエン酸三ナトリウムを含有する実施例2および実施例20〜29の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、いずれも250mPa・s以下であった。また、人工胃液と接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s以上であった。さらに、人工胃液に接触後の外観を観察すると、カルシウム含有率が0.03〜0.11質量%である、実施例2および実施例20〜25の濃厚流動食は、柔軟なゲル状であり、人工胃液を取り込んで一体的にゲル化し、人工胃液部の分離も見られなかった。また、カルシウム含有率が0.22〜0.44質量%である実施例26〜29の濃厚流動食は、人工胃液に接触後、比較的硬くて脆いゲルを形成するものの、人工胃液部の分離は僅かだった。
カルシウム、キレート剤ともに含有しない比較例17およびキレート剤を含有するがカルシウムを含有しない比較例18の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、250mPa・s以下だったが、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも殆ど増粘せず、粘度は2,000mPa・s未満であった。これらの濃厚流動食は人工胃液に接触後、低粘度の溶液状であったため、人工胃液との分離は見られなかった。
また、カルシウムを含有するが、キレート剤を含有しない比較例19、あるいはキレート剤の含有率が0.01質量%と極端に低い比較例20の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、800mPa・sを超え、柔らかいゲル状になっていた。一方、キレート剤の含有率が1.50質量%と極端に高い比較例21の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は250mPa・sより高く、人工胃液に接触後も粘度増加がみられなかった。さらに、カルシウムの含有率が2.50質量%と極端に高い比較例22の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は1,000mPa・sを超え、柔らかいゲル状になっていた。
【0125】
以上の結果から、濃厚流動食が投与しやすく、胃内で増粘して胃食道逆流を防止する本特許の濃厚流動食を調製するためには、カルシウムとキレート剤が共に必要であることが確認された。
【0126】
実験例4
Md−ペクチン、ペクチン原料および低分子ペクチンを用いて、後記(4−1)に記載の方法により濃厚流動食を調製し、後記(4−2)に記載の方法で、人工胃液と接触する前後の濃厚流動食の粘度および人工胃液に接触後の外観を評価した。
【0127】
(4−1)濃厚流動食の調製
4.7gのデキストリン、7.3gのグラニュー糖、0.40gの塩化カルシウム(2水和物)、0.34gの塩化マグネシウム(6水和物)、0.12gの塩化カリウム(無水)および0.20gのクエン酸三ナトリウムを80gのイオン交換水に添加混合し分散させた。この分散液を80℃まで加熱し、0.1gの乳化製剤であるホモゲンTM897(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を添加撹拌後、40℃以下まで冷却した。これに3.0gのカゼインナトリウムを添加撹拌した。この分散液に3.5gのコーン油を添加混合し、撹拌した後、0.30gのペクチン原料(サンサポートTMP−161、三栄源エフ・エフ・アイ社製)および表10に記載のMd−ペクチンもしくは、表11に記載の分量のペクチン原料もしくは低分子ペクチンを添加混合し、イオン交換水で全量を100.0gに調整した。この分散液を14.7MPaで1回ホモジナイズすることによって実施例30〜33および比較例23〜27の濃厚流動食を調製した。なお、ここで調製した基本濃厚流動食のpHは5.6〜5.8であった。
【0128】
【表10】
【0129】
【表11】
【0130】
(4−2)粘度測定および外観の観察
粘度測定および外観の観察は、(1−2)と同じ方法を用いた。
(4−3)結果
人工胃液に接触前後の濃厚流動食の粘度及び両者の比(粘度の増加率)、及び外観を表12に示す。
【0131】
【表12】
【0132】
実施例30〜33の各濃厚流動食は、人工胃液に接触前の粘度がいずれも250mPa・s以下であった。また、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも2000mPa・s以上であった。さらに、人工胃液に接触後の外観を観察すると、実施例30〜33の濃厚流動食は、人工胃液とともに粘ちょうなゾル状になっていた。
本粘度測定法で250mPa・s以下の粘度であるとき、経鼻用の細管を通した場合においても重力のみで流動(流出)させることが可能であるため、本発明の濃厚流動食は介護者および被介護者の負担を低減させ、かつ胃内では十分に高粘度になって胃食道逆流を防ぐことができる。
【0133】
一方、0.3%のペクチン原料を含有するがMd−ペクチンを含有しない比較例23の濃厚流動食は、人工胃液に接触前の粘度は250mPa・s以下の粘度であったが、人工胃液に接触後の粘度が2,000mPa・s以下であり、十分な粘度増加がみられなかった。また、合計1.5質量%のペクチン原料を含有する比較例24および25は、人工胃液に接触前の粘度が著しく高く、人工胃液に接触後も濃厚流動食と人工胃液が混ざらず分離した。
【0134】
低分子ペクチンを含有する比較例26および27の人工胃液に接触前の粘度は250mPa・s以下と十分に低かったが、人工胃液に接触後の粘度が2,000mPa・s以下であり、十分な粘度増加がみられなかった。また、外観観察の結果、粘ちょうなゾル状となった濃厚流動食部と胃液部が僅かに分離していることが確認された。
【0135】
以上の結果から、投与しやすく、胃内で増粘して胃食道逆流を防止する本特許の濃厚流動食を調製するためには、Md−ペクチンが必須であることが確認された。
【0136】
実験例5
Md−ペクチンおよびペクチン原料用いて、後記(5−1)に記載の方法により調製した濃厚流動食を調製し、後記(5−2)に記載の方法で、人工胃液に接触する前後の濃厚流動食の粘度および人工胃液に接触後の外観を評価した。
【0137】
(5−1)濃厚流動食の調製
4.7gのデキストリン、7.3gのグラニュー糖、0.40gの塩化カルシウム(2水和物)、0.34gの塩化マグネシウム(6水和物)、0.12gの塩化カリウム(無水)および0.20gのクエン酸3ナトリウムを80gのイオン交換水に添加混合し分散させた。この分散液を80℃まで加熱し、乳化剤製剤であるホモゲンTM897(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を0.1g添加撹拌後、40℃以下まで冷却した。これに3.0gのカゼインナトリウムを添加撹拌した。この分散液に3.5gのコーン油を添加混合、撹拌した後、表13に記載分量のペクチン原料、Md−ペクチンおよび/もしくは低分子ペクチンを添加混合し、イオン交換水で全量を100.0gに調整した。14.7MPaで1回ホモジナイズすることによって実施例31、実施例34〜42および比較例28〜34の濃厚流動食を調製した。なお、ここで調製した基本濃厚流動食のpHは5.5〜5.8であった。
【0138】
【表13】
*実験例4の実施例31と同じ組成である。
【0139】
(5−2)粘度測定および外観の観察
粘度測定および外観の観察は、(1−2)と同じ方法を用いた。
(5−3)結果
人工胃液に接触前後の濃厚流動食の粘度及び両者の比(粘度の増加率)、及び外観(人工胃液部の分離)を表14に示す。
【0140】
【表14】
*実験例4の実施例31と同じ組成である。
【0141】
ペクチン原料であるサンサポートTMP−161及びMd−ペクチンであるMDP−02を含有している実施例31および実施例34〜42の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、いずれも250mPa・s以下であった。また、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s以上であった。さらに、人工胃液に接触後の外観を観察すると、実施例31および実施例34〜40の濃厚流動食は、粘ちょうなゾル状であり、人工胃液部の分離は見られなかった。また、実施例41、42の濃厚流動食は、人工胃液に接触後、柔らかいゲルを形成しており、僅かに人工胃液部の分離が見られた。
【0142】
Md−ペクチンのみを含有する比較例28〜31の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、いずれも250mPa・s以下だったが、人工胃液と接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s未満であり、十分な粘度増加がみられなかった。Md−ペクチンと低分子ペクチンを含有するがペクチン原料を含有しない比較例32〜34の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、いずれも250mPa・s以下だったが、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s未満であり、十分な粘度増加が見られなかった。また、比較例28〜34の濃厚流動食は、僅かにとろみのついた溶液状であり、人工胃液部の分離は見られなかった。
【0143】
以上の結果から、投与しやすく、胃内で増粘して胃食道逆流を防止する本特許の濃厚流動食を調製する為には、Md−ペクチンとペクチン原料が共に必要であることが確認された。
【0144】
実験例6
Md−ペクチンおよびペクチン原料用いて、後記(6−1)に記載の方法で濃厚流動食を調製し、後記(6−2)に記載の方法で、人工胃液に接触する前後の濃厚流動食の粘度および人工胃液に接触後の外観を評価した。
【0145】
(6−1)濃厚流動食の調製
4.7gのデキストリン、7.3gのグラニュー糖、0.34gの塩化マグネシウム(6水和物)、0.12gの塩化カリウム(無水)および表15に記載の分量の塩化カルシウム(2水和物)及びクエン酸三ナトリウムを80gのイオン交換水に添加混合し分散させた。この分散液を80℃まで加熱し、乳化剤製剤であるホモゲンTM897(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を0.1g添加撹拌後、40℃以下まで冷却した。これに3.0gのカゼインナトリウムを添加撹拌した。この分散液に3.5gのコーン油を添加混合し、撹拌した後、0.3gのペクチン原料(サンサポートTMP−161)、1.2gのMd−ペクチン(MDP−02)を添加混合し、イオン交換水で全量を100.0gに調整した。14.7MPaで1回ホモジナイズすることによって実施例31、実施例43〜50および比較例36〜41の濃厚流動食を調製した。なお、ここで調製した基本濃厚流動食のpHは5.6〜5.8であった。
【0146】
【表15】
*実験例4の実施例31と同じ組成である。
【0147】
(6−2)粘度測定および外観の観察
粘度測定および外観の観察は、(1−2)と同じ方法を用いた。
(6−3)結果
人工胃液に接触前後の濃厚流動食の粘度及び両者の比(粘度の増加率)、及び外観(人工胃液部の分離)を表16に示す。
【0148】
【表16】
* 実験例4の実施例31と同じ組成である。
【0149】
カルシウムとキレート剤であるクエン酸三ナトリウムを含有する実施例31および実施例43〜50の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、いずれも250mPa・s以下であり、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも2,000mPa・s以上であった。さらに、これら全ての実施例の人工胃液に接触後の外観は、粘ちょうなゾル状であり、人工胃液部の分離も見られなかった。
【0150】
カルシウム、キレート剤ともに含有しない比較例36およびキレート剤を含有するがカルシウムを含有しない比較例37の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、250mPa・s以下だったが、人工胃液に接触後の粘度は、いずれも殆ど増粘せず、粘度は2,000mPa・s未満であった。これらの濃厚流動食は人工胃液に接触後、低粘度の溶液状であったため、人工胃液との分離は見られなかった。
【0151】
また、カルシウムを含有するが、キレート剤を含有しない比較例38、あるいはキレート剤の含有率が0.01質量%と極端に低い比較例39の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は、1,000mPa・sを超え、粘ちょうなゾル状になっていた。一方、キレート剤の含有率が1.50質量%と極端に高い比較例40の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は250mPa・sより高く、人工胃液に接触後も十分な粘度増加がみられなかった。さらに、カルシウムの含有率が2.00質量%と極端に高い比較例22の濃厚流動食の人工胃液に接触前の粘度は1,000mPa・sを超え、粘ちょうなゾル状になっていた。
【0152】
以上の結果から、投与しやすく、胃内で増粘して胃食道逆流を防止する本特許の濃厚流動食を調製する為には、カルシウムとキレート剤が共に必要であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明によれば、投与が容易であり、かつ胃食道逆流が抑制された濃厚流動食が提供される。