【文献】
CIPRIANO, R. et al.,Mol Cancer Res,2014年 4月,Vol.12, No.8,p.1156-65
【文献】
RADDEN, L.A. et al.,BMC Res Notes,2013年,Vol.6,189
【文献】
VOGT, J. et al.,Open Biol,2014年 2月,Vol.4,130210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、以下の第一乃至第五の実施態様を含む。
本発明の第一の実施態様は、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを含む、HSP27リン酸化阻害剤である。
本発明の第二の実施態様は、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを含む、アポトーシス誘導剤である。
本発明の第三の実施態様は、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを含む、抗癌剤である。
本発明の第四の実施態様は、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターを含む抗癌剤である。
本発明の第五の実施態様は、配列番号1もしくは3で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1もしくは3で表されるアミノ酸配列のうち1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチド、又はそれらの薬理学的に許容される塩である。
【0013】
<1.第一の実施態様>
本発明の第一の実施態様は、FAM83Gタンパク質(本明細書では、「FAM83G」と略称することがある。)又はその部分ペプチドを含む、HSP27リン酸化阻害剤である。
【0014】
FAM83Gタンパク質としては、HSP27のリン酸化を阻害する機能を有する限り特に限定されないが、例えば、マウスやヒトのFAM83Gタンパク質が挙げられる。マウスのFAM83Gタンパク質のアミノ酸配列の一例は配列番号2で表されるアミノ酸配列であり、ヒトのFAM83Gタンパク質のアミノ酸配列の一例は配列番号4で表されるアミノ酸配列である。
【0015】
ただし、FAM83Gタンパク質はHSP27のリン酸化を阻害する機能を有する限り、配列番号2や配列番号4のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0016】
その部分ペプチドとしては、HSP27のリン酸化を阻害する機能を有する限り特に限定されないが、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、又は、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。ここで、なお、1〜数個とは、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個である。ただし、アミノ酸がN末端側及び/またはC末端側に付加される場合は、1〜20個程度であってもよい。
【0017】
配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチドとしては、例えば、配列番号2のアミノ酸配列で表されるマウスのFAM83Gタンパク質の一部(アミノ酸番号349〜363)の配列が挙げられる。
【0018】
また、HSP27のリン酸化を阻害する機能を有する限り特に限定されないが、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、又は、配列番号3で表されるアミノ酸配列のうち1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペ
プチドが挙げられる。ここで、なお、1〜数個とは、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個である。ただし、アミノ酸がN末端側及び/またはC末端側に付加される場合は、1〜20個程度であってもよい。
【0019】
配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むペプチドとしては、例えば、配列番号4のアミノ酸配列で表されるヒトのFAM83Gタンパク質の一部(アミノ酸番号349〜363)の配列が挙げられる。
【0020】
ここで、後述する実施例で実証されるように、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチドは、プロテインキナーゼC(以下、「PKC」と称することがある。)のキナーゼドメインと結合してPKCによるリン酸化を受ける。詳しくは、配列番号1で表されるYALVKAKSVDEIAKSのうち、N末端側から8残基目のS(セリン)がリン酸化される。配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチドのリン酸化が亢進することにより、HSP27のリン酸化が減少することから、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチドとHSP27は、PKCへの結合を競合しているものと考えられる。
配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むペプチドについても同様の作用効果が想定される。
【0021】
配列番号1や3で表されるアミノ酸配列を含むペプチドの長さは、配列番号1や3で表されるアミノ酸配列(15残基)を含み、HSP27のリン酸化を阻害する限りは特段限定されず、20残基以上であってもよい。
一方、細胞内へのペプチドの導入を十分に確保する観点から、好ましくは50残基以下、より好ましくは30残基以下である。
【0022】
また、付加される配列はFAM83G自体の配列(配列番号2や4におけるアミノ酸番号349〜363の前後の配列)であってもよいし、HSP27のリン酸化を阻害する限り、例えば、HISタグやFLAGタグのような由来の異なるアミノ酸配列が付加されていても
よい。
【0023】
また、部分ペプチドには、対象とする細胞に選択的に運ばれるアミノ酸配列が付加されていてもよい。例えば、大腸癌や、肺癌、肝癌、肉腫、血液腫瘍、癌幹細胞を含む腫瘍の細胞に選択的に運ばれる配列が知られている(Nature Communications 3:951 doi: 10.1038/ncomms1952.2012 Kondo E等)。
このような配列が付加されることで、正常細胞を損傷させることなく、対象とする細胞にのみ、部分ペプチドの効果を発揮させることができる。
【0024】
また、配列番号1や3で表されるアミノ酸配列のうち1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチドとしては、HSP27のリン酸化を阻害する機能を有する限り特に限定されないが、例えば、配列番号1や3で表されるアミノ酸配列における1〜数個のアミノ酸が置換されたペプチドが好ましく例示される。すなわち、FAM83Gのアミノ酸配列は多くの生物において知られており、それらは配列番号1や3のアミノ酸配列といくつか異なるが、N末端側から8残基目のS(セリン)は保存されているため、同様の効果が期待できる。配列番号1や3において1〜数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を含むペプチドはN末端側から8残基目のS(セリン)は保存されていることが好ましく、それら以外のアミノ酸はHSP27のリン酸化を阻害する機能を有する範囲内で、1〜数個置換されてもよい。ここで、置換は他の生物由来の配列のように天然に生じる置換でもよいし、人工的に導入された置換でもよい。
【0025】
また、上記置換は保存的置換が好ましく、保存的変異とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、
Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル
基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換としては、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln
、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
【0026】
また、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドは修飾されていてもよい。該修飾としては、アミド化、脂質鎖の付加(脂肪族アシル化(パルミトイル化、ミリストイル化等)、プレニル化(ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化等)等)、リン酸化(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基等におけるリン酸化)、アセチル化、糖鎖の付加(N−グリコシル化、O−グリコシル化)等を挙げることができる。
【0027】
長さが短い部分ペプチドであれば、その製造方法は特段限定されず、公知のペプチド合成法に従って製造することができる。例えば、固相合成法、液相合成法が挙げられる。部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするペプチドを製造することができる。精製方法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などを組み合わせることでき、これにより、部分ペプチドを単離精製できる。得られるペプチドが遊離体である場合には、公知の方法によって適当な塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合には、公知の方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0028】
FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドの製造方法としては、遺伝子工学操作によって製造する場合には、例えば、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを作製し、該DNAを用いて組換え発現ベクター(本明細書では、単に「ベクター」と称することがある。)を構築し、宿主に導入して発現させ、精製して製造することができる。いずれも公知の方法を用いて行うことができる。
【0029】
FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAであって、該DNAを用いてベクターを構築し、宿主に導入して発現させられるのであれば、その塩基配列は特段制限されない。導入される細胞が元来有している遺伝子配列に基づいた塩基配列であってもよいし、イントロン領域が除かれたcDNA配列に基づいた塩基配列であってもよい。また、各アミノ酸をコードするコドンは公知であるため、特定のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は容易に特定することができる。
【0030】
マウスのFAM83Gタンパク質をコードするDNAの例としては、マウスが元来有している配列番号6で表される塩基配列(配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする。)が挙げられる。また、ヒトのFAM83Gタンパク質をコードするDNAの例としては、ヒトが元来有している配列番号8で表される塩基配列(配列番号4で表されるアミノ酸配列をコードする。)が挙げられる。
【0031】
マウスのFAM83Gタンパク質をコードするDNAは、コードされるタンパク質がHSP27のリン酸化を阻害する機能を有する限り、配列番号6または8の塩基配列の相補
配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば、ハイブリダイゼーション後に、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件で洗いを行う条件が例示される。
【0032】
また、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチドをコードするDNAの例としては、マウスの場合であれば、マウスが元来有している配列番号5で表される塩基配列(配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする。)が挙げられる。また、ヒトの場合であれば、ヒトが元来有している配列番号7で表される塩基配列(配列番号3で表されるアミノ酸配列をコードする。)が挙げられる。
【0033】
マウスのFAM83Gタンパク質の部分ペプチドをコードするDNAは、コードされるペプチドがHSP27のリン酸化を阻害する機能を有する限り、配列番号5または7の塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば、ハイブリダイゼーション後に、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件で洗いを行う条件が例示される。
【0034】
FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを製造する際には、宿主細胞及びベクターは公知のものを用いることができる。例えば、原核生物の宿主としては、大腸菌、枯草菌、シュードモナス属の菌株を挙げることができ、該原核生物を宿主として使用する場合のベクターとしては、pUC19、pBR322、pBR327のような大腸菌株等のベクターを用いることができる。このとき、プロモーターとしては、例えば、トリプトファン・プロモーター、PLプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター等を用いることができる。マーカー遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等を用いることができる。
【0035】
真核生物の宿主としては酵母が一般に広く用いられる。このときベクターとしては、例えばYRp7等を用いることができる。また、高等動物の培養細胞を宿主とする場合には、COS細胞、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)等を用いることができる。プロモーターとしては、例えば、アデノウイルス2主後期プロモーター、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、サイトメガロウイルス、ラウスザルコーマーウイルスからのプロモーター等を用いることができる。マーカー遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、メトトレキセート耐性ジヒドロ葉酸還元酵素(DHR)遺伝子等を用いることができる。その他、BmN4細胞、Sf9細胞、Sf21細胞等の昆虫細胞を宿主として用いることができる。
【0036】
FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを分離精製するには、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。例えば、塩析や溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の荷電の差を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の主として分子量の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法等の等電点の差を利用する方法等が挙げられる。
【0037】
また、無細胞発現系を用いてFAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを発現させてもよい。例えば、ベクターをin vitro転写させて得られたmRNAを、ウサギ網状赤血球抽出液、大腸菌S30抽出液、麦芽抽出液、小麦胚抽出液等を用いたインビトロ翻訳システムにより翻訳させて、合成されたFAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを精製してもよい。
【0038】
また、ベクターを作製する際、Hisタグ、GSTタグ、FLAGタグなどのタグをコードするDNAと、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAとを融合したものをベクターに挿入し、融合タンパク質として発現させてもよい。タグを利用して、目的のFAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを容易に精製することが可能になるからである。タグは、最終段階で除去することができ、高速液体クロマトグラフィーなどの公知の方法により、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドだけを精製することができる。
【0039】
部分ペプチドは、薬理学的に許容される塩であってもよい。薬理学的に許容される塩としては、薬理学的に許容される酸(例えば、無機酸、有機酸)や、塩基(例えば、アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、薬理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。これらの薬理学的に許容される塩は公知の方法で製造することができる。
【0040】
上記した通り、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドは、HSP27のリン酸化を阻害する機能を有する。そのため、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドは、公知の製剤化のための方法を適宜採用することで、HSP27リン酸化阻害剤に用いることができる。このHSP27リン酸化阻害剤は、例えば、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドと、後述する薬理学的に許容される担体などとを含有する剤とすることができ、安定である。
【0041】
本実施態様に係るHSP27リン酸化阻害剤は、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを単独で使用することもできるが、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質を用いることもでき、その具体例としては、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などが挙げられる。製剤化の際には、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加剤を用いてもよい。
【0042】
賦形剤の好適な例としては、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軟質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどが挙げられる。
【0043】
滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ、ポリエチレングリコール6000などが挙げられる。
【0044】
結合剤の好適な例としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0045】
崩壊剤の好適な例としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、軟質無水ケイ酸、炭酸
カルシウムなどが挙げられる。
【0046】
溶剤の好適な例としては、注射用水、生理食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
【0047】
溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0048】
懸濁化剤の好適な例としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子;ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0049】
等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール、D−ソルビトール、ブドウ糖、キシリトール、果糖などが挙げられる。
【0050】
緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
【0051】
無痛化剤の好適な例としては、プロピレングリコール、塩酸リドカイン、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0052】
防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0053】
抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
【0054】
着色剤の好適な例としては、水溶性着色タール色素(例、食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素)、不溶性レーキ色素(例、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩)、天然色素(例、β−カロチン、クロロフィル、ベンガラ)などが挙げられる。
【0055】
甘味剤の好適な例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸ニカリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。
【0056】
本実施態様に係るHSP27リン酸化阻害剤全量に対する前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドの含有量は、HSP27のリン酸化という効果が発揮されるのであれば特段限定されないが、溶解や保存等の都合から、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドとして、総量で、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、一方で、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0057】
<2.第二の実施態様>
本発明における第二の実施態様は、前記第一の実施態様で説明したFAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを含む、アポトーシス誘導剤である。
上記した通り、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドが導入された細胞では、アポトーシス誘導が活性化される。そのため、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドは、公知の製剤化のための方法を適宜採用することで、アポトーシス誘導剤に用いることができる。
【0058】
本実施態様に係るアポトーシス誘導剤は、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを単独で使用することもできるが、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質を用いることもでき、安定となる。具体例としては、上記第一の実施態様と同様である。
【0059】
本実施態様に係るアポトーシス誘導剤全量に対する前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドの含有量は、対象とする細胞にアポトーシスを誘導するという効果が発揮されるのであれば特段限定されないが、溶解や保存等の都合から、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドとして、総量で、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、一方で、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0060】
<3.第三の実施態様>
本発明における第三の実施態様は、前記第一の実施態様で説明したFAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを含む、抗癌剤である。
【0061】
上記した通り、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドは、細胞内のHSP27のリン酸化を阻害し、該細胞の薬剤耐性能(抗アポトーシス作用能)を抑制して、該細胞のアポトーシス誘導を活性化する。その結果、該細胞はプログラム細胞死によって死滅する。そのため、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドは、公知の製剤化のための方法を適宜採用することで、抗癌剤に用いることができる。
【0062】
本実施態様に係る抗癌剤が投与される対象となる癌は、HSP27を発現している癌であれば特段限定されないが、大腸癌、肺癌、肝癌、肉腫、血液腫瘍、及び癌幹細胞を含む癌であることが好ましい。
【0063】
本実施態様に係る抗癌剤は、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドを単独で使用することもできるが、治療のための任意の有効成分との混合物として含有することができ、また、製剤学の技術分野において周知の方法により、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合することもできる。さらに、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質を用いることもでき、安定である。このような有効成分や担体の具体例は、上記第一の実施態様と同様である。
【0064】
本実施態様に係る抗癌剤全量に対する前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドの含有量は、対象とする腫瘍細胞の増大を抑制したり、腫瘍細胞を減少したりすることができるのであれば特段限定されないが、溶解や保存等の都合から、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドとして、総量で、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、一方で、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0065】
<4.第四の実施態様>
本発明の第四の実施態様は、前記第一の実施態様で説明したFAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターを含む抗癌剤である。
【0066】
後述する実施例で実証されるように、配列番号2で表されるマウスのFAM83Gをコ
ードするcDNAをベクターに挿入し、細胞に導入して過剰発現させると、HSP27のリン酸化が阻害されることが明らかとなった。これは、FAM83Gは、PKCのキナーゼドメインと結合してPKCによるリン酸化を受けるためと考えられる。詳しくは、N末端側から356残基目のセリン(配列番号1で表されるYALVKAKSVDEIAKSのうち、N末端側から8残基目のS(セリン)に相当する。)がリン酸化され、その結果、細胞内のHSP27のリン酸化が阻害されるためと考えられる。FAM83Gのリン酸化が亢進するとHSP27のリン酸化が減少することから、FAM83GとHSP27は、PKCへの結合を競合しているものと考えられる。
【0067】
HSP27のリン酸化が阻害されると、該細胞の薬剤耐性能(抗アポトーシス作用能)が抑制される。即ち、アポトーシス誘導が活性化される。その結果、該細胞はプログラム細胞死によって死滅する。
【0068】
このことから、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターは、腫瘍治療の用途に好ましく用いられる。
【0069】
FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含む組換えベクターは、例えば、第一の実施態様の説明に記載したような公知の方法を用いて、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを発現ベクターに挿入することで製造することができる。
【0070】
FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターを生体細胞に導入する場合の動物細胞用発現ベクターとしては、導入された生体細胞内でFAM83Gが正常に発現されれば、特に制限されない。例えば、染色体、エピソーム及びウイルスに由来する発現系、例えば、細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来、SV40のようなパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス由来のベクター、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来及びこれらの組合せに由来するベクター、例えば、コスミドやファージミドのようなプラスミドとバクテリオファージの遺伝的要素に由来するものを挙げることができる。また、宿主細胞としては上記ベクターを挿入できる公知のものを用いることができ、宿主細胞への導入も公知の方法により行うことができる。
これら発現系は、FAM83Gの発現を起こさせるだけでなく、発現を調節する制御配列を含んでいてもよい。また、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターには、リポソームも含まれる。
【0071】
上記した動物細胞用ベクターの中でも、サイトメガロウイルスベクターが、安全性や使用の便からして好ましく、例えば、pCMV6プラスミドベクターなどがより好ましい。
【0072】
上記した通り、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターは、細胞内のHSP27のリン酸化を阻害し、該細胞の薬剤耐性能(抗アポトーシス作用能)を抑制して、該細胞のアポトーシス誘導を活性化する。その結果、該細胞はプログラム細胞死によって死滅する。そのため、FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターは、公知の製剤化のための方法を適宜採用することで、抗癌剤に用いることができる。
【0073】
この抗癌剤が投与される対象となる癌は、HSP27を発現している癌であれば特段限定されないが、大腸癌、肺癌、肝癌、肉腫、血液腫瘍、及び癌幹細胞を含む癌であることが好ましい。
【0074】
抗癌剤には、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターを単独で使用することもできるが、抗癌剤に含まれるベクターが安定であれば、治療のための任意の有効成分との混合物として含有することができ、また、製剤学の技術分野において周知の方法により、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合することもできる。さらに、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質を用いることもできる。このような有効成分や担体の具体例は、上記第一の実施態様と同様である。
【0075】
抗癌剤全量に対する前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターの含有量は、対象とする癌細胞の増大を抑制したり、癌細胞を減少したりすることができるのであれば特段限定されないが、溶解や保存等の都合から、該ベクターとして、総量で、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、一方で、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0076】
癌の治療において、前記FAM83Gタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを含むベクターを病変部位に直接投与することもできる。例えば、サイトメガロウイルスベクター発現ベクターを利用する場合は、癌組織等の病変部位に本実施態様に係るベクターの懸濁液を直接接種することができる。また、FAM83GをコードするDNAを収納したリポソームを用いる場合も、癌組織等の病変部位に該リポソームの懸濁液を直接接種することができる。
【0077】
<5.第五の実施態様>
本発明の第五の実施態様は、配列番号1または3で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1または3で表されるアミノ酸配列のうち1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチド、又はそれらの薬理学的に許容される塩である。
【0078】
配列番号1または3で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチド(HSP27のリン酸化を阻害する機能を有する)については、前記第一の実施態様の説明が援用される。
【0079】
本実施態様に係る配列番号1または3で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、及び、配列番号1または3で表されるアミノ酸配列のうち1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチドの薬理学的に許容される塩としては、薬理学的に許容される酸(例えば、無機酸、有機酸)や、塩基(例えば、アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、薬理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
これらの薬理学的に許容される塩は公知の方法で製造することができる。例えば、第一の実施態様で説明した方法などで製造することができる。
【実施例】
【0080】
以下実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことはいうまでもない。
【0081】
<1.CHOIE細胞株の調製>
以下の実施例では、汎用されているCHO細胞株(チャイニーズハムスター卵巣細胞株
)に、上皮成長因子(EGF)受容体とインスリン受容体とを恒常的に発現させたCHOIE細胞株を用いて行った。
−80℃でフリーズストックしておいた該細胞株を、37℃の恒温槽で解凍し、10mlのα-MEM培地(GIBCO)+ウシ胎児血清(HyClone)に溶解後、150mmディッシュ(Nunc)に、5×10
6個/ディッシュの細胞濃度で播種した。その後、37℃、CO
2/空気=6%/94%の環境下で、CHOIE細胞を24時間培養した。また、DMSOを除去するため、24時間後に培地の交換を行った。
培養は、80〜90%コンフルエント(confluent)の状態になったら継代した。
【0082】
<2.cDNA、発現ベクターpCMV6、組換えベクターpCMV6−FAM83G>
Myc-DDK-tagged Mouse Fam83g cDNA cloneとしてOriGen社から購入した。ベクターはpCMV6でDDK=FLAG tagである。cDNAのシークエンスは全長に渡って確認して実験に用いた。
プラスミドはCsCl double banding法で精製した。
【0083】
<3.pCMV6−FAM83G導入後の細胞観察>
[実施例1]
エレクトロポーレーション法によって、CHOIE細胞内にpCMV6−FAM83Gを導入した後、そのCHOIE細胞を37℃、CO
2/空気=6%/94%の環境下で培養した。pCMV6−FAM83G導入後に再度培養を開始してから48時間経過後の細胞の様子を
図1に示す。尚、
図1には独立に実施した3回の結果を示している(#1〜3で示している)。
【0084】
[比較例1]
FAM83GをコードするcDNAを挿入しなかった発現ベクターpCMV6を用いたこと以外は実施例1と同様にしたものを比較例1とした。
【0085】
図1から分かるように、比較例1(pCMV6が導入された細胞)ではCHOIE細胞は非常に高密度な状態となったが、実施例1(pCMV6−FAM83Gが導入された細胞)では、比較例1に比べて細胞密度が非常に小さいことが分かった。
【0086】
<4.アポトーシスの検出>
[実施例2、比較例2]
比較例1(pCMV6が導入された細胞)に比べて、実施例1(pCMV6−FAM83Gが導入された細胞)では細胞密度が非常に小さかったことの原因として、細胞がアポトーシスを起こしているのではないかと考えられた。それを確かめるために、DNA ladder法でアッセイを行った。尚、ここでは、上記した実施例1の細胞を用いたものを実施例2と、比較例1の細胞を用いたものを比較例2とする。
【0087】
アッセイは市販のキット(アポトティックDNAラダーキット;ロシュ社)を用いて行った。その結果を
図2に示す。比較例2では起点付近に濃染されるバンドを認識できるが、実施例2ではスメアーの中にバンドも検出されてアポトーシスが惹起されていることが示唆された。通常の培養後の観察であって、紫外線照射等のアポトーシスを誘導する刺激は全く与えていないにも拘わらず、アポトーシスが誘導されたわけでもあり非常に興味深い結果である。
【0088】
<5.FAM83Gのリン酸化の検出>
[実施例3]
3.と同様にして、エレクトロポーレーション法によってCHOIE細胞内にpCMV6−FAM83Gを導入し、細胞を培養した。CHOIE細胞に発現させたFAM83G
を、myc抗体(Millipore社)を用いて免疫沈降法で回収し、SDS−PAGEにて展
開した。その後、セリン残基の燐酸化を特異的に認識する抗体である抗ホスフォセリン抗体(abcam社)、又はFLAGタグを特異的に認識する抗体である抗FLAG抗体(シグマア
ルドリッチ社)でウエスタンブロットを行った。
【0089】
[比較例3]
FAM83GをコードするcDNAを挿入しなかった発現ベクターpCMV6を用いたこと以外は実施例3と同様にしたものを比較例3とした。
【0090】
結果を
図3に示す。
図3中の(a)はFLAG抗体を用いた場合であり、(b)はホスフォセリン抗体を用いた場合である。
図3から分かるように、実施例3ではFAM83Gがリン酸化されていることが分かる。一方、比較例3ではバンドが検出されなかった。
【0091】
<6.HSP27リン酸化阻害の検出>
[実施例4]
3.と同様にして、エレクトロポーレーション法によってCHOIE細胞内にpCMV6−FAM83Gを導入し、細胞を培養した。ただし、後述する試験のために、血清を含むものと含まないものとに分けて培養を行った。
【0092】
pCMV6−FAM83Gが導入されたCHOIE細胞中のタンパク質をSDS−PAGEにて展開後、HSP27のリン酸化を特異的に認識する抗体である抗HSP27(Ser82)抗体(CSTジャパン社)でウエスタンブロットを行った。尚、この抗体は、HSP27のN
末端側から82残基目のセリン残基のリン酸化を特異的に認識する抗体である。
【0093】
[比較例4]
FAM83GをコードするcDNAを挿入しなかった発現ベクターpCMV6を用いたこと以外は実施例4と同様にしたものを比較例4とした。
【0094】
結果を
図4に示す。
図4から分かるように、培地が血清を含まない場合には、FAM83Gを過剰発現していない比較例4では、HSP27がリン酸化されていることが分かる。これは、細胞がHSP27のリン酸化を高めて細胞死を防ごうとしているものと考えられる。一方で、FAM83Gを過剰発現させた実施例4では、そのリン酸化が顕著に低下していることが分かる。
また、培地が血清を含有する場合には、血清を含有しない場合に比べて、FAM83Gを過剰発現しているか、していないかに拘わらず、どちらのHSP27のリン酸化も減少したが、FAM83Gが過剰発現している細胞では、さらに顕著に低下したことが分かる。
【0095】
<7.FAM83Gにおけるリン酸化部位の特定>
[参考例1]
<7−1.組換えベクターpCMV6−S356A−FAM83Gの調製>
FAM83GのN末端側から356残基目のセリン残基をアラニン残基に置換してリン酸化が起きないようにした変異型のタンパク質を産生するようにcDNAを調製し、発現ベクターpCMV6に挿入し、組換えベクターpCMV6−S356A−FAM83Gを調製した。
【0096】
[参考例2]
<7−2.組換えベクターpCMV6−Y586F−FAM83Gの調製>
FAM83GのN末端側から586残基目のチロシン残基をフェニルアラニン残基に置換した変異型のタンパク質を産生するようにcDNAを調製し、発現ベクターpCMV6
に挿入し、組換えベクターpCMV6−Y586F−FAM83Gを調製した。
これは、前記したpCMV6−S356A−FAM83Gの356残基目のセリン残基はリン酸化を受けるが、アミノ酸を置換することでartifactが起きないか検証するための対照として用意したものである。
【0097】
[参考例3]
<7−3.組換えベクターpCMV6−WT−FAM83Gの調製>
pCMV6−FAM83Gを用いたこと以外は参考例1と同様にしたものを参考例3とした。
【0098】
[参考例4]
<7−4.ベクターpCMV6の調製>
また、cDNAを挿入しなかった発現ベクターpCMV6を用いたこと以外は参考例1と同様にしたものを参考例4とした。
【0099】
<7−5.ベクター導入後の細胞観察>
調製した参考例1〜4のベクターを、3.と同様にして、エレクトロポーレーション法によってCHOIE細胞内に導入し、細胞を培養した。
結果を
図5に示す。
図5から分かるように、参考例1および参考例2では、CHOIE細胞は非常に高密度な状態となったが、参考例3および参考例4では、上記比較試験例に比べて細胞密度が非常に小さいことが分かった。
【0100】
<7−6.総タンパク質量を用いた細胞数の評価>
上記の観察に加えて、総タンパク質量を用いた細胞数の評価を行った。
【0101】
結果を
図6に示す。
図6から分かるように、参考例1および参考例2に比べ、参考例3および参考例4では、総タンパク質量が少ないことが分かった。これは細胞数が少ないことによるものと考えられる。
【0102】
<8.配列番号1で表されるペプチドの合成>
配列番号1で表されるペプチド(YALVKAKSVDEIAKS)は、株式会社ペプチド研究所に合成を委託した。尚、純度(HPLCグレード)は99.6%であった。
【0103】
<9.ペプチド導入後の細胞観察>
[実施例5]
エレクトロポーレーション法によって、CHOIE細胞内に配列番号1で表されるペプチドを導入した後、そのCHOIE細胞を37℃、CO
2/空気=6%/94%の環境下で培養した。ペプチド導入後に再度培養を開始してから14時間経過後の細胞の様子を
図7に示す。
【0104】
[実施例6]
また、配列番号1で表されるペプチドの最終濃度を580μMとしたこと以外は実施例5と同様にしたものを実施例6とした。
【0105】
[比較例5]
一方、配列番号1で表されるペプチドを含まないこと以外は実施例5と同様にしたものを比較例5とした。
【0106】
図7に示すように、比較例5ではCHOIE細胞は非常に高密度な状態となったが、実施例5では、比較例1に比べて細胞密度が小さく、実施例6では、さらに細胞密度が小さ
いことが分かった。