(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378996
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】車両構造
(51)【国際特許分類】
B62D 35/02 20060101AFI20180813BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20180813BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
B62D35/02
B62D25/20 E
B62D25/08 F
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-200465(P2014-200465)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68785(P2016-68785A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】内田 勝也
【審査官】
林 政道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−235717(JP,A)
【文献】
特開2005−161892(JP,A)
【文献】
実開昭63−050780(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 31/00−39/00
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向中央部にトンネル部が形成されているフロントフロアと、
このフロントフロアの前端部から上方に向けて延び、かつエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、
前記フロントフロアのうち、前記トンネル部を除く非トンネル部の下面部に接合され、かつ互いに車幅方向に間隔を隔てた配置で車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバと、
を有する車両構造において、
前記フロントフロアの前端部と前記ダッシュパネルの下端部との接続箇所周辺領域の外面は、丸みを帯びた曲面とされており、
前記フロントフロアの前記非トンネル部の下面部には、その前端部から後端部寄り領域にわたって後下がり状に傾斜した傾斜面領域が設けられている一方、
前記非トンネル部の下面部のうち、前記一対のフロントサイドメンバが接合され、かつ車幅方向において前記傾斜面領域に隣接した領域は、車両前後方向に延びた略水平状の水平面領域とされており、
この水平面領域と前記傾斜面領域との間には、高低段差があり、前記水平面領域に対する前記傾斜面領域の相対高さは、車両後方側に進むほど低くなるように構成されていることを特徴とする、車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両の空力性能をよくするための車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両においては、燃費性能の向上などを目的とし、Cd値(空気抵抗係数)を小さくするための種々の手段が講じられている。このような手段の一例として、たとえば特許文献1に記載の手段がある。
同文献に記載の手段においては、車両走行時に車体の下方に発生する空気流を車幅方向中央部に集めるように整流し、空力性能を向上させようとするものである。
【0003】
しかしながら、前記したような手段においては、空力性能が未だ十分に改善されているとは言えないのが実情であり、さらなる改善が求められる。本発明者が車体下方に発生する空気流について検証したところ、次に述べるような現象が生じることを発見した。
すなわち、
図4に示すように、車両前部にエンジンルーム30が設けられ、かつこのエンジンルーム30と車室31とがダッシュパネル2を介して区切られた車両構造においては、車両前方からエンジンルーム30に進入した空気は、ダッシュパネル2に当たった後に、下向きに進行する。この空気流は、車体下方を別途通過してくる空気流と合流するが、その際に円滑な合流がなされず、この部分において大きな渦流が発生する。このような渦流は、空力性能を悪化させる要因となる。フロントフロア1の下方に、空力特性を改善するためのアンダカバー9を設けた場合、このアンダカバー9の前部に段差Hを生じる場合があるが、このような場合には段差Hに起因して前記渦流がより顕著になる虞がある。
なお、フロントフロア1の下方を通過した空気流が、車両後部の下部に設けられている燃料タンク70やサスペンション部材71などに当たることによっても渦流が発生する。この渦流も、空力性能を悪化させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−298312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、エンジンルームから車体下方に進行する空気流に起因して車体下方に大きな渦流が発生することを抑制し、空力性能を高めることが可能な車両構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明により提供される車両構造は、
車幅方向中央部にトンネル部が形成されているフロントフロアと、このフロントフロアの前端部から上方に向けて延び、かつエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、
前記フロントフロアのうち、前記トンネル部を除く非トンネル部の下面部に接合され、かつ互いに車幅方向に間隔を隔てた配置で車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバと、を有する車両構造において、前記フロントフロアの前端部と前記ダッシュパネルの下端部との接続箇所周辺領域の外面は、丸みを帯びた曲面とされており、前記フロントフロアの
前記非トンネル部の下面部には、その前端部から後端部寄り領域にわたって後下がり状に傾斜した傾斜面領域が設けられている
一方、前記非トンネル部の下面部のうち、前記一対のフロントサイドメンバが接合され、かつ車幅方向において前記傾斜面領域に隣接した領域は、車両前後方向に延びた略水平状の水平面領域とされており、この水平面領域と前記傾斜面領域との間には、高低段差があり、前記水平面領域に対する前記傾斜面領域の相対高さは、車両後方側に進むほど低くなるように構成されていることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
第1に、車両前方からエンジンルーム内に進入した空気が、ダッシュパネルに当たり、
このダッシュパネルに沿って下向きに進行した場合、フロントフロアの前端部とダッシュパネルの下端部との接続箇所周辺領域の丸みを帯びた曲面に沿って流れる。また、この曲面を通過した空気流は、フロントフロアの後下がり状の傾斜面領域に沿って、後下がり状に進行する。ダッシュパネルに当たった空気が、このような空気流になると、車両前方からフロントフロアの下方を別途進行してくる他の空気流に対して斜めに、かつ円滑に合流することとなり、これらの空気流の合流箇所において大きな渦流を生じないようにすることができる。その結果、空力性能を高め、車両の燃費性能をよくすることが可能である。
第2に、後下がり状の傾斜面領域にその前方から空気流が当たると、ダウンフォースが発生する効果も期待できる。
第3に、フロントフロアの下方を空気が後下がり状に流れると、この空気流は車両後部の下部に設けられている燃料タンクやサスペンション部材などに当たり難くなる。したがって、それらの部材に空気流が衝突することに起因する渦流の発生を抑制する上でも好ましいものとなる。
【0009】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る車両構造の一例を示す概略側面断面図である。
【
図2】(a)は、
図1に示す車両構造の要部断面斜視図であり、(b)は、(a)のIIb-IIb断面図である。
【
図3】
図1に示す車両構造のフロントフロアおよびその周辺部の構成を示す底面斜視図である。
【
図4】従来技術の一例を示す概略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
図面において、矢印Frは車両前方、矢印Wは車幅方向、矢印Upは車両高さ方向の上方を示している。
また、理解を容易にするため、
図4に示した従来技術と同一または類似の要素には、
図4と同一符号を適宜用いる。
【0012】
図1に示す車両構造Aは、フロントフロア1(フロントフロアパネル)と、ダッシュパネル2とを備えている。ダッシュパネル2は、エンジンルーム30と車室31とを仕切る部材であり、フロントフロア1の前端部から上向きに起立し、その上端はカウル40に接合されている。ただし、フロントフロア1の前端部とダッシュパネル2の下端部との接続箇所周辺領域8の外面は、所定の曲率半径Raをもつ凸状の曲面とされており、ダッシュパネル2とフロントフロア1とは外面が滑らかなかたちとなるように接合されている。
【0013】
フロントフロア1の下面部には、その前端部(厳密には、接続箇所周辺領域8の曲面の終端)からフロントフロア1の後端部寄り領域にわたって適当な角度αで後下がり状に傾斜した傾斜面領域10が設けられている。より具体的には、
図2に示すように、フロントフロア1は、その車幅方向の両側縁部が左右のロッカメンバ41に接合され、かつ車幅方向中央部にトンネル部42が形成された構成を有している。また、フロントフロア1の下面部には、車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバ5が接合されている。フロントフロア1のうち、各フロントサイドメンバ5の車幅方向両側に位置する一定領域(
図3においては、クロスハッチングが入れられた部分)が、後下がり状の傾斜面領域10である。
図2(a)に示すように、フロントフロア1のうち、傾斜面領域10には相当しない領域(符号19の領域など)は、略水平状であり、この領域と傾斜面領域10との間には、車両後方側に進むほど高低差が徐々に大きくなる段差が生じることとなる。
【0014】
フロントフロア1の後端部には、この後端部から上向きに起立した起立壁部60を介してリヤフロア61が繋がっている。燃料用タンク70やサスペンション部材71は、起立壁部60の車両後方側に位置しているが、好ましくは、これら燃料用タンク70やサスペンション部材71の略全体または大部分は、傾斜面領域10の延長線Laよりも高い位置に配されている。
【0015】
次に、前記した車両構造Aの作用について説明する。
【0016】
まず、
図1において、車両前方からエンジンルーム30内に進入した空気が、ダッシュパネル2に当たり、このダッシュパネル2に沿って下向きに進行すると、この空気流は、フロントフロア1とダッシュパネル2との接続箇所周辺領域8の曲面に沿って流れる。次いで、前記空気流は、フロントフロア1の傾斜面領域10に沿って、後下がり状に流れる。ダッシュパネル2に当たった空気が、前記したように流れると、車両前方からフロントフロア1の下方に向けて別途進行してくる他の空気流に対して斜めに傾いた角度で円滑に合流することとなる。このため、前記した空気流の合流箇所において大きな渦流を生じないようにすることができる。その結果、空力性能を高め、車両の燃費性能をよくすることができる。傾斜面領域10は、フロントサイドメンバ5の車幅方向両側に設けられているために、フロントサイドメンバ5を整流フィンとして活用することもできる。また、後下がり状の傾斜面領域10に空気流が当たった場合、フロントフロア1にダウンフォースを生じさせる効果も期待できる。
【0017】
さらに、本実施形態においては、フロントフロア1の下方を通過した後の空気流は、タンク70やサスペンション部材71に当たり難くなっている。このため、タンク70やサスペンション部材71が設けられている箇所においても、空気の渦流を生じ難くし、空力性能をさらに高めることが可能となる。
【0018】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0019】
上述の実施形態では、フロントフロアを構成するフロントフロアパネル自体に傾斜面領域が形成され、かつダッシュパネルとの接続箇所周辺領域の外面が丸みを帯びた構成とされているが、本発明はこれに限定されない。フロントフロアパネルの下面側に、アンダカバーを取り付け、かつこのアンダカバーを利用することによって本発明が意図する構成を実現してもよい。本発明でいう傾斜面領域は、後下がり状であればよく、平面状に代えて、曲面状とすることもできる。勿論、複数の凹凸部などが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0020】
A 車両構造
1 フロントフロア
10 傾斜面領域
2 ダッシュパネル
30 エンジンルーム
8 接続箇所周辺領域