特許第6378998号(P6378998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6378998-蓄電デバイス用セパレータの製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6378998
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20180813BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20180813BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20180813BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20180813BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
   H01G11/52
   H01G11/84
   H01G9/02
   H01G9/00 290C
【請求項の数】7
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-202445(P2014-202445)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-72155(P2016-72155A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】飴山 圭太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 博
(72)【発明者】
【氏名】仲道 元則
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/066012(WO,A1)
【文献】 特開平10−154500(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024328(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/151144(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/017651(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/081035(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/147071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔基材層(A)に、
無機充填剤(b−2)、樹脂バインダー(b−1)、及び溶媒を含有する塗工液(B’)を塗工し、乾燥することにより多孔層(B)を形成する工程を経る、蓄電デバイス用セパレータの製造方法であって、
前記多孔層(B)の表面軟化温度が30〜60℃であり
前記樹脂バインダー(b−1)が、30℃以上の領域にガラス転移温度を示す第1の樹脂バインダー(b−1−1)、及び30℃未満の領域にガラス転移温度を示す第2の樹脂バインダー(b−1−2)を含有し、
前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)と前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)とは完全相溶性でなく、
前記多孔層(B)を形成する時の平均乾燥温度が、前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)の最低成膜温度以下であり、且つ前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)の最低成膜温度以上であり、
前記塗工液(B’)の平均乾燥温度における不動化時間が10〜120秒であることを特徴とする、前記セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記塗工液(B’)が、更に保水剤(b−3)を含有する、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項3】
得られるセパレータの透気度が10〜500秒/100ccである、請求項1又は2に記載のセパレータの製造方法。
【請求項4】
得られるセパレータの130℃での熱収縮率が0%以上15%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項5】
得られるセパレータのシャットダウン温度が120℃以上160℃以下であり、ただし前記シャットダウン温度は、セパレータの微多孔が閉塞する温度として定義される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のセパレータの製造方法によって、セパレータを製造する、セパレータ製造工程、及び
正極と、前記セパレータ製造工程で得られたセパレータと、負極と、積層する、積層工程
を含むことを特徴とする、積層体の製造方法
【請求項7】
請求項6に記載の積層体の製造方法によって、積層体を製造する、積層体製造工程、
前記積層体製造工程で得られた積層体を外装体内に収容する、収容工程、及び
前記収容工程で得られた前記積層体を収容した外装体内に、電解液を注入する、電解液注入工程
含むことを特徴とする、蓄電デバイスの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電デバイス用セパレータの製造方法に関する。詳しくは、例えば一次電池、二次電池、燃料電池等の電池;
電気エネルギー貯蔵装置等に好適に用いられるセパレータを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスには、多孔基材層正負極間に微多孔基材層からなるセパレータが設けられている。セパレータの機能としては、例えば正負極間の直接的な接触を防止すること、イオンを透過させること等の他、安全の観点から、
蓄電デバイスが異常加熱した場合に速やかに電池反応を停止する「ヒューズ特性」、
高温になっても当初の形状を維持して正極物質と負極物質が直接反応する危険な事態を防止する「ショート特性」
等が求められている。
このようなセパレータを構成する材料としては、例えば不織布、紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン等が知られている。
【0003】
近年、蓄電デバイスにおいて、充放電電流の均一化、リチウムデンドライトの成長抑制の観点から、電極とセパレータとの間の密着性を向上すべき要請が生じている。セパレータと電極との密接性を向上すれば、充放電電流が均一化し、リチウムデンドライトの成長が抑制されることが期待されるから、結果として、蓄電デバイスの充放電サイクル寿命が向上されることが期待されることとなる。
このような事情のもと、セパレータの、電極との間の密着性を向上させる目的で、ポリオレフィンからなる微多孔基材層に接着性のある樹脂バインダーを塗工する試みが行われている(例えば特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−59271号公報
【特許文献2】特開2011−54502号公報
【特許文献3】特表2009−518809号公報
【特許文献4】国際公開第2014/017651号
【特許文献5】特開2012−38597号公報
【特許文献6】特許第5114654号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2の技術によると、蓄電デバイスのサイクル特性の向上については、確かに一定の効果が認められる。しかし、これらの技術は、リチウムイオンの透過性が満足できるものではないことの他、セパレータの表面に「べたつき」が生じ、ハンドリング性が低下するとの問題が新たに発生する。
この点、特許文献3には、電極との密着性と、セパレータ表面のべたつきの抑制とを両立するために、2種類以上の樹脂バインダーを混合使用する技術が;
特許文献4には、2種類以上の樹脂バインダーのマイグレーションをそれぞれ制御する技術が;
特許文献5には、2種類の樹脂バインダーを重ねて塗工する技術が;
特許文献6には、ストリークの発生を抑制するための塗工液の不動化時間の概念が、
それぞれ記載されている。
【0006】
しかしながら前記の特許文献3〜5における試みは、あるものは目標未達であり、又あるものは生産性が損なわれる等、工業的に意味のある形態における改良の試みとしては、いずれも奏功していない。なお、特許文献6の技術は、塗工紙用の塗工液に関するものであり、塗工液の成分、固形分、粘度、塗工速度、塗工方法等が異なる。そのため、上記条件をそのまま本発明が所期する用途に援用することはできない。従って、特許文献6に開示されている塗工液の不動化時間を、本発明の用途には当てはめることができない。更に、特許文献6の技術を本発明の目的用途に無理矢理に適用したとしても、電極との密着性、多孔基材層との接着強度、及び無機充填材の結着強度、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性のすべてに優れるセパレータを得ることはできない。
本発明は、上記の現状を打開しようとしてなされたものである。従って、本発明の目的は、電極との密着性、多孔基材層との接着強度、及び無機充填材の結着強度に優れるとともに、セパレータ最表面がべたつき性を生じずに、良好なサイクル特性を示す蓄電デバイスを与えるセパレータを製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、
多孔基材層上に、無機充填材及び樹脂バインダーからなる多孔層を有するセパレータを製造する際に、
前記樹脂バインダーとして、ガラス転移温度が異なる複数種のものを混合使用し、多孔基材層へ塗工する塗工液の不動化時間を適切な範囲に制御することにより、複数種の樹脂バインダーのマイグレーションが所望の態様に制御され、形成される多孔層の表面軟化温度が最適の範囲に制御することができ、従って前記課題を解決できることを見出した。
即ち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1] 多孔基材層(A)に、
無機充填剤(b−2)、樹脂バインダー(b−1)、及び溶媒を含有する塗工液(B’)を塗工し、乾燥することにより多孔層(B)を形成する工程を経る、蓄電デバイス用セパレータの製造方法であって、
前記多孔層(B)の表面軟化温度が30〜60℃であり、
前記塗工液(B’)の平均乾燥温度における不動化時間が10〜120秒であり、且つ
前記樹脂バインダー(b−1)が、30℃以上の領域にガラス転移温度を示す第1の樹脂バインダー(b−1−1)、及び30℃未満の領域にガラス転移温度を示す第2の樹脂バインダー(b−1−2)を含有することを特徴とする、前記セパレータの製造方法。
[2] 前記多孔層(B)を形成する時の塗工液(B’)の平均乾燥温度が、
前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)の最低成膜温度以下であり、且つ
前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)の最低成膜温度以上である、
[1]に記載のセパレータの製造方法。
[3] 前記塗工液(B’)が、更に保水剤(b−3)を含有する、[1]又は[2]に記載のセパレータの製造方法。
[4] 得られるセパレータの透気度が10〜500秒/100ccである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセパレータの製造方法。
[5] [1]〜[4]のいずれか一項に記載のセパレータの製造方法によって製造されたことを特徴とする、蓄電デバイス用セパレータ。
[6] 正極と、[5]に記載のセパレータと、
負極と、
が積層されてなることを特徴とする、積層体。
[7] [6]に記載の積層体を具備することを特徴とする、蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によると、電極との密着性、多孔基材層との接着強度、及び無機充填材の結着強度と、最表面のべたつき性、及びハンドリング性との両方が優れるセパレータを、優れた生産性で与えることができる。
本発明の方法によって製造されたセパレータを具備する蓄電デバイスは、高い電池容量を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例において、塗工液(B’)の不動化時間を測定するために使用した装置の一部を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法によって製造されるセパレータは、
多孔基材層(A)と、
無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む多孔層(B)と、
を有する。
【0012】
<多孔基材層(A)>
本発明における多孔基材層(A)について説明する。
上記多孔基材層(A)としては、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、孔径の微細なものが好ましい。
そのような多孔基材層(A)としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む多孔基材層;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を含む多孔基材層;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの(織布);ポリオレフィン系の繊維の不織布;紙;並びに、絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、塗工工程を経て多層多孔基材層、すなわち電池用セパレータを得る場合に塗工液(B’)の塗工性に優れ、セパレータの膜厚をより薄くして、電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン樹脂を含む多孔基材膜(以下、「ポリオレフィン樹脂多孔基材膜」ともいう。)が好ましい。
【0013】
ポリオレフィン樹脂多孔基材膜について説明する。
ポリオレフィン樹脂多孔基材膜は、電池用セパレータとした時のシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔基材層を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔基材層であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
【0014】
ポリオレフィン樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体、又は多段重合体等が挙げられる。また、これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、電池用セパレータとした時のシャットダウン特性の観点から、ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等が;
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等が;
共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレンプロピレンラバー、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体等が、
それぞれ挙げられる。
【0015】
中でも、電池用セパレータとした時に低融点且つ高強度の要求性能を満たす観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、特に高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。なお、本発明において、高密度ポリエチレンとは密度0.942〜0.970g/cm3のポリエチレンをいう。なお、本発明においてポリエチレンの密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
【0016】
また、多孔基材層(A)の耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を用いることが好ましい。この場合、ポリオレフィン樹脂組成物中の、総ポリオレフィン樹脂に対するポリプロピレンの割合は、耐熱性と良好なシャットダウン機能を両立させる観点から、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、更に好ましくは4〜10質量%である。
【0017】
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;無機材;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることがシャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0018】
多孔基材層(A)は、非常に小さな孔が多数集まって緻密な連通孔を形成した多孔構造を有しているため、イオン伝導性に非常に優れると同時に耐電圧特性も良好であり、しかも高強度であるという特徴を有する。
多孔基材層(A)は、上述した材料からなる単層であってもよく、積層であってもよい。
【0019】
多孔基材層(A)の膜厚は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上50μm以下、更に好ましくは3μm以上25μm以下である。機械的強度の観点から0.1μm以上が好ましく、電池の高容量化の観点から100μm以下が好ましい。多孔基材層(A)の膜厚は、ダイリップ間隔、延伸工程における延伸倍率等を制御すること等によって調整することができる。
【0020】
多孔基材層(A)の平均孔径は、0.03μm以上0.70μm以下が好ましく、より好ましくは0.04μm以上0.20μm以下、更に好ましくは0.05μm以上0.10μm以下、特に好ましくは0.06μm以上0.09μm以下である。高いイオン伝導性と耐電圧の観点から、0.03μm以上0.70μm以下が好ましい。多孔基材層(A)の平均孔径は、後述する測定法で測定することができる。
平均孔径は、組成比、押出シートの冷却速度、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御することや、これらを組み合わせることにより調整することができる。
【0021】
多孔基材層(A)の気孔率は、好ましくは25%以上95%以下、より好ましく30%以上65%以下、更に好ましくは35%以上55%以下である。イオン伝導性向上の観点から25%以上が好ましく、耐電圧特性の観点から95%以下が好ましい。多孔基材層(A)の気孔率は、後述する方法で測定することができる。
多孔基材層(A)がポリオレフィン樹脂多孔基材膜からなる場合、その気孔率は、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御することや、これらを組み合わせることによって調整することができる。
【0022】
多孔基材層(A)がポリオレフィン樹脂多孔基材膜である場合、該ポリオレフィン樹脂多孔基材膜の粘度平均分子量は、30,000以上12,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以上2,000,000未満、更に好ましくは100,000以上1,000,000未満である。粘度平均分子量が30,000以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり、成形性が良好になると共に、重合体同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が12,000,000以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。更に、電池用セパレータとした時に、粘度平均分子量が1,000,000未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。
【0023】
ポリオレフィン樹脂多孔基材膜を製造する方法としては特に制限はなく、公知の製造方法を採用することができる。例えば;
(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出することにより多孔化させる方法、
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法、
(3)ポリオレフィン樹脂組成物と無機材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィンと無機材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法、
(4)ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法
等が挙げられる。
【0024】
以下、ポリオレフィン樹脂多孔基材膜からなる多孔基材層(A)を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、孔形成材を抽出する方法について説明する。
【0025】
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と上記の孔形成材を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で孔形成材を導入して混練する方法が挙げられる。
【0026】
上記孔形成材としては、可塑剤、無機材又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0027】
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。更に、好ましくは、樹脂混練装置に投入する前に、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を、予めヘンシェルミキサー等を用いて所定の割合で事前混練しておく。より好ましくは、事前混練においては、可塑剤はその一部のみを投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温しサイドフィードしながら混練する。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
【0028】
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレンやポリプロピレンの場合には、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こりにくく、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とからなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%である。可塑剤の質量分率が90質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが成形性向上のために十分なものとなる傾向にある。一方、可塑剤の質量分率が20質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン分子鎖の切断が起こらず、均一且つ微細な孔構造を形成し易く、強度も増加し易い。
【0030】
無機材としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニアが好ましく、抽出が容易である点から、シリカが特に好ましい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂組成物と無機材との比率は、良好な隔離性を得る観点から、これらの合計質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、高い強度を確保する観点から、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、或いは可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むことは、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるためより好ましい。溶融混練物をTダイからシート状に押出す際のダイリップ間隔は200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジや欠点等膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において膜破断等のリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
【0033】
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し最終的に得られる多孔基材層(A)の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚み方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
【0034】
次いで、シート状成形体から孔形成材を除去して多孔基材層(A)とする。孔形成材を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して孔形成材を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。孔形成材を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔基材層(A)を構成する膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔基材層中の孔形成材残存量は多孔基材層(A)全体の質量に対して1質量%未満にすることが好ましい。
【0035】
孔形成材を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、且つ孔形成材に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。また、孔形成材として無機材を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液を抽出溶剤として用いることができる。
【0036】
また、上記シート状成形体又は多孔基材層(A)を構成する膜を延伸することが好ましい。延伸は前記シート状成形体から孔形成材を抽出する前に行ってもよい。また、前記シート状成形体から孔形成材を抽出した多孔基材層(A)を構成する膜に対して行ってもよい。更に、前記シート状成形体から孔形成材を抽出する前と後に行ってもよい。
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔基材層(A)の強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔基材層が裂けにくくなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点からは同時二軸延伸が好ましい。また面配向の制御容易性の観点からは遂次二軸延伸が好ましい。
【0037】
ここで、同時二軸延伸とは、MD(多孔基材層(A)を連続成形する時の機械方向(長さ方向))の延伸とTD(多孔基材層(A)のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0038】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上70倍以下の範囲であることがより好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍以下、TDに4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MDに5倍以上8倍以下、TDに5倍以上8倍以下の範囲であることがより好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる多孔基材層(A)に十分な強度を付与できる傾向にあり、一方、総面積倍率が100倍以下であると、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
【0039】
多孔基材層(A)を構成する膜の収縮を抑制するために、延伸工程後又は膜の成形後に、熱固定を目的として熱処理を行うこともできる。また、多孔基材層(A)を構成する膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0040】
多孔基材層(A)を構成する膜には、収縮を抑制する観点から熱固定を目的として熱処理を施すことが好ましい。熱処理の方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行っても構わない。これらの熱処理は、テンターやロール延伸機を用いて行うことができる。
【0041】
延伸操作は、膜のMD及び/又はTDに1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上の延伸を施すことが、更なる高強度且つ高気孔率な多孔基材層(A)が得られる観点から好ましい。
緩和操作は、膜のMD及び/又はTDへの縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、1.0以下であることが好ましく、0.97以下であることがより好ましく、0.95以下であることが更に好ましい。緩和率は膜品位の観点から0.5以上であることが好ましい。緩和操作は、MD、TD両方向で行ってもよいが、MD或いはTD片方だけ行ってもよい。
この可塑剤抽出後の延伸及び緩和操作は、好ましくはTDに行う。延伸及び緩和操作における温度は、ポリオレフィン樹脂の融点(以下、「Tm」ともいう。)より低いことが好ましく、Tmより1℃から25℃低い範囲がより好ましい。延伸及び緩和操作における温度が上記範囲であると、熱収縮率低減と気孔率とのバランスの観点から好ましい。
【0042】
<多孔層(B)>
無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む多孔層(B)について説明する。
前記多孔層(B)に使用する無機充填材(b−2)としては、特に限定されないが、耐熱性及び電気絶縁性が高く、且つリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機充填材(b−2)としては、例えば、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、その他化合物が挙げられる。
アルミニウム化合物としては、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
マグネシウム化合物としては、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0043】
その他化合物としては、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス、粘土鉱物、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂、ガラス繊維等が挙げられる。酸化物系セラミックスとしては、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等が挙げられる。窒化物系セラミックスとしては、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等が挙げられる。粘土鉱物としては、タルク、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、複数を併用してもよい。
【0044】
上記の中でも、電気化学的安定性及び耐熱特性の観点から、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウムが好ましい。酸化アルミニウムの具体例としては、アルミナが挙げられる。水酸化酸化アルミニウムの具体例としては、ベーマイトが挙げられる。ケイ酸アルミニウムの具体例としては、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライトが挙げられる。
【0045】
前記酸化アルミニウムとしては、電気化学的安定性の観点から、アルミナがより好ましい。多孔層を構成する無機充填材(b−2)として、アルミナを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層(B)を実現できる上に、より薄い多孔層(B)厚でも多孔基材層(A)の高温における熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等、多くの結晶形態が存在するが、いずれも好適に使用することができる。この中でα−アルミナが熱的・化学的にも安定なので最も好ましい。
【0046】
前記水酸化酸化アルミニウムとしては、リチウムデンドライトの発生に起因する内部短絡を防止する観点から、ベーマイトがより好ましい。多孔層(B)を構成する無機充填材(b−2)として、ベーマイトを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層(B)を実現できる上に、より薄い多孔層厚でも多孔基材層(A)の高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。電気化学素子の特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトが更に好ましい。
【0047】
前記ケイ酸アルミニウムの中では、カオリン鉱物で主に構成されているカオリナイト(以下、カオリンともいう)が軽量性及び透気度の観点から好ましい。カオリンには湿式カオリン及びこれを焼成処理した焼成カオリンがあるが、焼成カオリンは焼成処理の際に結晶水が放出されるのに加え、不純物が除去されるので、電気化学的安定性の点で特に好ましい。多孔層(B)を構成する無機充填材(b−2)として、焼成カオリンを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層(B)を実現できる上に、より薄い多孔層(B)厚でも多孔基材層(A)の高温における熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。
【0048】
前記無機充填材(b−2)の平均粒径は、0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上5.0μm以下であることがより好ましく、0.4μm以上3.0μm以下であることが更に好ましい。無機充填材(b−2)の平均粒径を上記範囲に調整することは、透気度及び高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。
【0049】
無機充填材(b−2)の粒度分布としては、最小粒径は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上が更に好ましい。最大粒径は20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が更に好ましい。また、最大粒径/平均粒径の比率は、50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。無機充填材(b−2)の粒度分布を上記範囲に調整することは、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。また、最大粒径と最小粒径の間に複数の粒径ピークを有してもよい。なお、無機充填材(b−2)の粒度分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて無機充填材(b−2)を粉砕し、所望の粒度分布に調整する方法、複数の粒径分布の充填材(b−2)を調整後ブレンドする方法等を挙げることができる。
【0050】
無機充填材(b−2)の形状としては、板状、鱗片状、多面体、針状、柱状、球状、紡錘状、塊状等が挙げられ、上記形状を有する無機充填材(b−2)を複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透過性向上の観点からは、板状、鱗片状、多面体が好ましい。
【0051】
前記無機充填材(b−2)が前記多孔層(B)中に占める割合としては、セパレータの透過性及び耐熱性、並びに多孔層(B)中に無機充填材(b−2)を結着させる樹脂バインダー(b−1)の必要量等の観点から、適宜決定することができる。上記無機充填材(b−2)の割合は、セパレータの透過性及び耐熱性の観点から、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは93質量%以上、最も好ましくは96質量%以上である。また、また多孔層(B)中に無機充填材(b−2)を結着させる樹脂バインダー(b−1)の必要量の観点から、無機充填材(b−2)の割合は、100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、特に好ましくは98質量%以下である。
【0052】
多孔層(B)中の無機充填材(b−2)は、多孔層(B)中に均一に存在していることが好ましい。その指標として、多孔層(B)の外表面から0〜50%の厚み範囲にある無機充填材量(b−2U)/50%を超えて100%までの厚み範囲に存在する無機充填材量(b−2D)の比率が0.8〜1.2であることが好ましく、0.85〜1.15であることがより好ましく、0.9〜1.1であることが更に好ましい。該比率が0.8〜1.2であることにより、多孔層(B)中の孔径分布が均一になり、電池のサイクル特性の再現性が向上する。
多孔層(B)中の無機充填材(b−2)の存在位置は、多孔層(B)の断面写真と元素マッピングとを組み合わせる手法を用いて知ることができる。前記断面写真としては、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)像を;
前記元素マッピング法としては、例えばEDX(エネルギー分散型X線分光法)を、それぞれ採用することができる。これらの分析において、無機充填材(b−2)の主成分を構成する金属元素に着目して断面方向にマッピングすることにより、当該無機充填材(b−2)の存在位置を知ることができる。無機充填材(b−2)が例えばベーマイト又はカオリンである場合、その主成分を構成するAl(アルミニウム)元素の断面方向のマッピングにより、その存在位置を知ることができる。
【0053】
樹脂バインダー(b−1)は、前述した無機充填材(b−2)を相互に結着する役割を果たす樹脂である。また、無機充填材(b−2)と多孔基材層(A)とを相互に結着する役割を果たす樹脂であることが好ましい。
樹脂バインダー(b−1)の種類としては、セパレータとしたときにリチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、且つリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
【0054】
樹脂バインダー(b−1)の具体例としては、以下の1)〜6)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体;
【0055】
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体;
6)融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル。特に、耐久性の観点から全芳香族ポリアミド、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
中でも、電極との馴染み易さの観点からは上記2)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記3)アクリル系重合体及び5)含フッ素樹脂が好ましい。
【0056】
上記2)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0057】
上記3)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つを示す。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸を挙げることができる。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート;
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
上記2)共役ジエン系重合体及び3)アクリル系重合体は、これらと共重合可能な他の単量体をも共重合させて得られるものであってもよい。用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマール酸、イタコン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、上記2)共役ジエン系重合体は、他の単量体として上記(メタ)アクリル系化合物を共重合させて得られるものであってもよい。
【0059】
樹脂バインダー(b−1)は、
30℃以上の領域にガラス転移温度を示す第1の樹脂バインダー(b−1−1)と、
30℃未満の領域にガラス転移温度を示す第2の樹脂バインダー(b−1−2)と、
を含む混合物である。
高いガラス転移温度を示す第1の樹脂バインダー(b−1−1)のガラス転移温度は、30℃以上であり、好ましくは45℃以上、更に好ましくは70℃以上である。ガラス転移温度が30℃以上の場合、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性の観点から好ましい。
低いガラス転移温度を示す第2の樹脂バインダー(b−1−2)のガラス転移温度は、30℃未満であり、好ましくは5℃以下であり、更に好ましくは−10℃以下である。ガラス転移温度が30℃未満の場合、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度の観点から好ましい。
【0060】
第1の樹脂バインダー(b−1−1)及び第2の樹脂バインダー(b−1−2)として、それぞれ前記のガラス転移温度を示すバインダーを選択し、ガラス転移温度が相異なる樹脂バインダー(b−1)を分離してマイグレーションさせることができる。その結果、得られる多孔層(B)において、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度と、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性とを両立させることができるようになる。
マイグレーションとは,塗工液(B’)を多孔層基材層(A)に塗工した後の塗工層乾燥過程において,ラテックス等の樹脂バインダー(b−1)が多孔層(B)の外表面側に移動する現象である。
【0061】
第1の樹脂バインダー(b−1−1)と第2の樹脂バインダー(b−1−2)とは、完全相溶性を示さないことが好ましい。これら2種の樹脂バインダーが完全相溶性を示さないことにより、性質の異なる樹脂バインダーが分離して存在し、それぞれの特性を示すことができる。そのため、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度と、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性とを、高いレベルで両立することができる。ここで、2種類の樹脂が完全相溶性を示すと、性質の異なる樹脂バインダーが1種類のポリマーであるかのような挙動をすることとなる。その結果、相溶後に示す、混合物の総体としてのガラス転移温度に依存して、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、無機充填材(b−2)の結着強度、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性において、平均化された性能を示すに留まることとなるため、好ましくない。
【0062】
樹脂バインダー(b−1)の使用量は、多孔層(B)の全量に対して、0.5〜30質量%とすることが好ましく、1〜20質量%とすることがより好ましく、1.5〜10質量%とすることが更に好ましい。0.5質量%以上であることが、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度の観点から好ましく、30質量%以下であることが、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性の観点から好ましい。
第1の樹脂バインダー(b−1−1)と第2の樹脂バインダー(b−1−2)との使用割合は、樹脂バインダー(b−1)の全量に対する第1の樹脂バインダー(b−1−1)の使用割合{(b−1−1)/(b−1)の質量比}として、0.05〜0.95とすることが好ましく、0.1〜0.7とすることがより好ましく、0.15〜0.5とすることが更に好ましい。0.05以上であることが、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性の観点から好ましく、0.95以下であることが、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度の観点から好ましい。
【0063】
<その他の成分>
多孔層(B)は、前記の無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)のみから成っていてもよいし、これら以外にその他の成分を含有していてもよい。ここで使用されるその他の成分としては、例えば保水剤、分散剤、増粘剤、安定剤、pH調整剤等を挙げることができる。
多孔層(B)を形成する塗工液(B’)に保水剤(b−3)を含むことにより、塗工液(B’)の不動化時間(後述)を長くすることができる。その結果、前記の2種類のバインダーのマイグレーション差を明確に発現させ、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度と、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性と、の双方を両立させることができる。
【0064】
保水剤(b−3)の種類としては、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩、ヒドロキシエチルセルロース、多分岐ポリエステルアミド、アクリル酸アクリルアミド共重合物、アクリル系変性ポリマー、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、その他水溶性可塑剤等が挙げられる。
前記多分岐ポリエステルアミドとは、骨格にエステル基及び少なくとも1つのアミド基を含有する共重合体のことであり、保水性の点で800〜16,000g/molのモル質量を有する場合が好ましい。
前記アクリル酸アクリルアミド共重合物は、吸水時の膨潤性が著しく高いため、樹脂バインダー(b−1)及び多孔基材層(A)への浸透が抑制される点で、好ましい。
前記カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩又はアンモニウム塩は、塗工面が均一な塗工を容易に行うことができる。特に、エーテル化度が0.60〜1.00であり、重合度600〜1,200である場合、取り扱い性が良好な点で好ましい。
【0065】
その他水溶性可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンタエリトリット、ソルビット、ソルビタン、蔗糖等の多価アルコール類;各種重合度のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類等が挙げられる。粉落ち防止の点から、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、又はジプロピレングリコールが好ましい。
保水剤(b−3)は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0066】
なお、保水剤(b−3)量は、樹脂バインダー(b−1)及び無機充填材(b−2)の合計を100質量部とした時、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下である。保水剤(b−3)量を5質量部以下にすることは、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度の観点から好ましい。
【0067】
<多孔層(B)のその他の特性>
多孔層(B)の層厚は、耐熱性及び絶縁性を向上させる観点から、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上、更に好ましくは1.2μm以上、特に好ましくは1.5μm以上、とりわけ好ましくは1.8μm以上、最も好ましくは2.0μm以上である。また、電池の高容量化と透過性を向上させる観点から、50μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下、特に好ましくは7μm以下である。
【0068】
多孔層(B)における無機充填材(b−2)の充填率としては、軽量性及び高透過性の観点から、95体積%以下が好ましく、80体積%以下がより好ましく、70体積%以下が更に好ましく、60体積%以下が特に好ましい。熱収縮抑制及びデンドライト抑制の観点から、下限は20体積%以上が好ましく、30体積%以上がより好ましく、40体積%以上が更に好ましい。無機充填材(b−2)の充填率は、多孔層の層厚、並びに無機充填材(b−2)の質量及び比重から算出することができる。
【0069】
多孔層(B)の表面軟化温度は、30〜60℃であり、好ましくは30〜50℃であり、より好ましくは30〜45℃であり、更に好ましくは35〜45℃である。表面軟化温度が30℃以上であることにより、製造時にセパレータをロール状に巻いた後、電極との圧着時にセパレータを巻出そうとした時に、セパレータ同志の密着がなく、シワなくセパレータの巻き出すことができる点で好ましい。表面軟化温度が60℃以下であることにより、電極とセパレータとを高温プレス機を用いて圧着させて得られる積層体にシワが発生しない点で好ましい。セパレータ材料として一般的に使用されるポリオレフィン系ポリマーは、そのガラス転移温度がさほど高くはない。しかし、本発明の方法によって製造されるセパレータの構成によると、高温における圧着後であっても、得られる積層体にシワが発生しない利点を有する。
多孔層(B)は、多孔基材層(A)の片面にのみ形成されていても、両面に形成されていてもよい。
【0070】
<多孔層(B)の形成方法>
本発明における多孔層(B)の形成方法としては、好ましくはポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔基材層(A)の少なくとも片面に、無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)、並びに必要に応じて使用されるその他の成分を含む塗工液を塗工して多孔層(B)を形成する方法である。
塗工液中の樹脂バインダー(b−1)の形態としては、水に溶解又は分散した水系溶液であっても、一般的な有機媒体に溶解又は分散した有機媒体系溶液であってもよいが、樹脂ラテックスが好ましい。「樹脂ラテックス」とは樹脂が溶媒に分散した状態のものを示す。樹脂ラテックスを樹脂バインダー(b−1)として用いた場合、無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む多孔層(B)を、多孔基材層(A)の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下しにくく高出力特性が得られ易い。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られ易い。
【0071】
樹脂ラテックス中の樹脂バインダー(b−1)粒子の平均粒径は、50〜1,000nmであることが好ましく、より好ましくは60〜500nm、更に好ましくは80〜250nmである。平均粒径が50nm以上である場合、無機充填剤(b−2)と樹脂バインダー(b−1)とを含む多孔層(B)を多孔基材層(A)の少なくとも片面に積層した際、良好な結着性を発現し、セパレータとした場合に熱収縮が良好となり安全性に優れる傾向にある。平均粒径が1,000nm以下である場合、イオン透過性が低下しにくく高出力特性が得られ易い。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られ易い。平均粒径は、樹脂ラテックスを製造する際の重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、pH、撹拌速度等を調整することで制御することが可能である。
【0072】
塗工液の媒体としては、前記無機充填材(b−2)及び前記樹脂バインダー(b−1)を、均一且つ安定に分散又は溶解できるものが好ましく、例えば、水、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0073】
塗工液には、分散安定化や塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むpH調整剤等の各種添加剤を加えてもよい。これら添加剤の総添加量は、無機充填材(b−2)100質量部に対して、その有効成分量(添加剤が溶媒に溶解している場合は溶解している添加剤成分の質量)として、20質量部以下が好ましく、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0074】
無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を、塗工液(B’)の媒体に分散又は溶解させる方法については、塗工工程に必要な塗工液の分散特性を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
【0075】
多孔層(B)を形成するために用いる塗工液(B’)の固形分の上限は、好ましくは55%質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。塗工液(B’)の固形分の下限は、好ましくは5%質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。塗工液(B’)の固形分の上限を60質量%以下にすることで塗工液(B’)の不動化を遅くすることでき、また塗工液(B’)の固形分の下限を5質量%以上にすることで、塗工液(B’)の不動化を速くすることができる。その結果、塗工液(B’)の不動化時間を最適範囲に制御することができ、塗工液(B’)中の2種類以上の樹脂バインダーのマイグレーション差を明確に発現させ、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度と、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性とを両立させることができる。
【0076】
無機充填剤(b−2)、樹脂バインダー(b−1)、及び溶媒を含有する塗工液(B’)の不動化時間は10〜120秒であり、好ましくは10〜100秒、より好ましくは10〜80秒、更に好ましくは10〜60秒である。不動化時間が10秒以上の場合、2種類の樹脂バインダー(b−1)のマイグレーション差を明確に発現させ、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度と、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性とを両立させる観点で好ましく、不動化時間が120秒以下の場合、生産性の観点で好ましい。
塗工液(B’)の不動化時間を制御する因子としては、
塗工液(B’)に関する因子(固形分濃度、保水性、ハイシェア粘度、溶剤の種類等)、
塗工液(B’)を塗工する多孔基材層(A)に関する因子(透気度、表面張力、等)、及び
塗工工程における塗工液(B’)の乾燥条件に関する因子(平均乾燥温度、乾燥風量、乾燥ゾーン長、乾燥時間、乾燥ゾーンのライン速度、乾燥方法(熱風、赤外線等)等)
が挙げられ、上記各種因子のバランスを考慮して、塗工液(B’)の不動化時間を制御することができる。
【0077】
例えば、塗工液(B’)の固形分を高くすると、不動化時間を短くすることができる。しかしその反面、塗工面にストリークが発生し易くなる不利益が生ずる。逆に、塗工液(B’)の固形分を低くすると、不動化時間を長くすることができる。しかしその反面、乾燥時間を長くすることが必要になり、生産性が低下する。
平均乾燥温度(後述)を高くすると、不動化時間を短くすることができる。しかしその反面、乾燥後の塗工表面状態が悪くなる。逆に、平均乾燥温度を低くすると、不動化時間を長くすることができる。しかしその反面、乾燥時間を長くすることが必要になり、生産性が低下する。
塗工液(B’)に保水性を添加すると、塗工液(B’)中の水保持力が向上するため、不動化時間を長くすることができるが、電池性能等に悪影響を及ぼす場合がある。
【0078】
塗工液(B’)の不動化時間とは、該塗工液を塗布して塗膜を形成した後に、該塗膜の粘度が急激に上昇するまでに要する時間をいう。不動化時間は、特許文献6(特許第5114654号明細書)の記載に準拠して、レオメーターと、イモビリゼーションセルと、を組み合わせてなる装置を用いて測定することができる。具体的には、該装置内に塗工液(B’)の塗膜を形成し、該塗膜を一定の減圧下に置いて、粘度上昇に要した時間(急激な粘度上昇が完了するまでの時間)を測定し、この時間を塗工液(B’)の不動化時間とする。具体的な測定条件は、以下の通りである;
減圧度:700hPa
せん断速度:1(1/s)
初期ギャップ:0.5mm
塗布基材:多孔基材層(A)
測定温度:平均乾燥温度
【0079】
塗工液(B’)を多孔基材層(A)に塗工する方法については、必要とする層厚、及び塗工面積を実現できる方法であれば特に限定はなく、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗工法等が挙げられる。
【0080】
更に、塗工液(B’)の塗工に先立ち、多孔基材層(A)の表面に表面処理を施すと、塗工液を塗工し易くなると共に、塗工後の多孔層(B)と多孔基材層(A)表面との間の接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、多孔基材層(A)の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0081】
塗工液(B’)を多孔基材層(A)塗工後に、塗膜から溶媒を除去する方法については、多孔基材層(A)に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はなく、例えば、多孔基材層(A)を固定しながらその融点以下の温度において乾燥する方法、低温において減圧乾燥する方法、抽出乾燥する方法等が挙げられる。また電池特性に著しく影響を及ぼさない範囲においては溶媒を一部残存させても構わない。多孔基材層(A)、及びセパレータ(多孔層(B)を積層した多孔基材層(A))のMD方向の収縮応力を制御する観点から、乾燥温度、巻取り張力等は適宜調整することが好ましい。
【0082】
多孔層(B)を形成する際の平均乾燥温度は、前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)の最低成膜温度以下であり、且つ前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)の最低成膜温度以上であることが好ましい。
平均乾燥温度とは、加熱工程における乾燥機の設定温度を指す。乾燥ゾーンが複数ある場合には、各乾燥ゾーンにおける設定温度と乾燥ゾーン長の相加平均を平均乾燥温度とする。
樹脂バインダーの最低成膜温度とは、熱勾配試験機(高温側:100℃、低温側:−30℃に設定)上に設置したアルミ板からなる基材上に、該樹脂バインダーラテックスを厚み0.1mmで塗工して塗膜を形成した時に、きれいに成膜できた領域とクラックが生じた領域との境界の温度をいう。最低成膜温度の高低は、樹脂バインダーのガラス転移温度の高低と、概ね正の相関がある。ただし、水素結合性の官能基(例えば、アミド基、イミド基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、水酸基等)を有する樹脂バインダーの場合には、最低成膜温度がガラス転移温度との正の相関から外れる場合がある。
【0083】
従って、上記の平均乾燥温度を上記の温度範囲内に設定にすることにより、第1の樹脂バインダー(b−1−1)と第2の樹脂バインダー(b−1−2)間の成膜し易さの温度依存性の差により、以下のような現象が起こる。すなわち、
最低成膜温度が低い第2の樹脂バインダー(b−1−2)は不動化が速いため、ほとんどマイグレーションし難いため、多孔膜(A)の表面近傍に多く存在し;
一方の最低成膜温度が高い第1の樹脂バインダー(b−1−1)は不動化が遅いため、マイグレーションをし易いため、多孔基材層(A)から遠い多孔層(B)の外表面近傍に多く存在するようになる。
【0084】
<セパレータ>
本発明の方法によって得られるセパレータについて説明する。
多孔基材層(A)と、無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む多孔層(B)とを有する上記セパレータは、耐熱性に優れ、シャットダウン機能を有しているので電池の中で正極と負極を隔離する電池用セパレータに適している。
特に、上記セパレータは高温においても短絡し難いため、高起電力電池用のセパレータとしても安全に使用できる。
【0085】
上記セパレータの透気度は、10秒/100cc以上500秒/100cc以下であることが好ましく、より好ましくは20秒/100cc以上500秒/100cc以下、更に好ましくは30秒/100cc以上400秒/100cc以下、特に好ましくは50秒/100cc以上300秒/100cc以下である。透気度が10秒/100cc以上であると電池用セパレータとして使用した際の自己放電が少なくなる傾向にあり、500秒/100cc以下であると良好な充放電特性が得られる傾向にある。
【0086】
セパレータの最終的な膜厚は、2μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上100μm以下、更に好ましくは7μm以上30μm以下である。膜厚が2μm以上であると機械強度が十分となる傾向にあり、また、200μm以下であるとセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向にある。
セパレータの130℃での熱収縮率としては、0%以上15%以下であることが好ましく、0%以上10%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが特に好ましい。熱収縮率を15%以下とすることにより、電池の異常発熱時においてもセパレータの破膜を良好に防止し、正負極間の接触を抑制する観点(より良好な安全性能を実現する観点)から好ましい。なお、熱収縮率についてはMD方向、TD方向ともに上記範囲に設定することが好ましい。
セパレータのシャットダウン温度(電池が異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞する温度)としては、好ましくは120℃以上である。上限として好ましくは160℃以下、好ましくは150℃以下である。シャットダウン温度を160℃以下とすることは、電池が発熱した場合等において、電流遮断を速やかに実行し、より良好な安全性能が得られる観点から好ましい。一方、シャットダウン温度を120℃以上とすることは、例えば100℃前後の高温下における使用を可能とすべき観点、種々の熱処理を施し得る観点等から好ましい。
【0087】
<蓄電デバイス>
以下、蓄電デバイスについて説明する。上記蓄電デバイスは、上記セパレータを備えるものであり、それ以外の構成は、従来知られているものと同様であってもよい。蓄電デバイスは、特に限定されないが、例えば、非水電解液電池等の電池、コンデンサー及びキャパシタが挙げられる。それらの中でも、本発明による作用効果による利益がより有効に得られる観点から、非水電解液電池が好ましく、非水電解液二次電池がより好ましく、リチウムイオン二次電池が更に好ましい。以下、蓄電デバイスが非水電解液電池である場合についての好適な態様について説明する。
【0088】
正極、負極、及び非水電解液に限定はなく、公知のものを用いることができる。
正極材料としては、例えば、LiCoO、LiNiO、スピネル型LiMnO、オリビン型LiFePO等のリチウム含有複合酸化物等が、負極材料としては、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、複合炭素体等の炭素材料;シリコン、スズ、金属リチウム、各種合金材料等が挙げられる。
【0089】
また、非水電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が、電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩が挙げられる。
【0090】
上記蓄電デバイスは、特に限定されないが、例えば、下記のようにして製造される。すなわち、上記セパレータを幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして作製する。次に、当該セパレータを、正極及び負極と共に、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ねて積層物を得る。次いで、その積層物を、円筒形の又は扁平な渦巻状に巻回して巻回体を得る。そして、当該巻回体を外装体内に収納し、更に電解液を注入する等の工程を経ることにより、蓄電デバイスが得られる。
また、上記蓄電デバイスは、セパレータ、正極、及び負極を平板状に形成した後、正極−セパレータ−負極−セパレータ−正極、又は負極−セパレータ−正極−セパレータ−負極の順に積層して積層体を得た後、外装体内に収容し、そこに電解液を注入する等の工程を経て製造することもできる。
なお、上記外装体としては、電池缶や袋状のフィルムを用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明をするが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の製造例、実施例、及び比較例における各種物性の測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。特に記載のない限り、各種の測定及び評価は、室温23℃、1気圧、相対湿度50%の条件下で行った。
【0092】
<測定方法>
(1)樹脂バインダー(b−1)のガラス転移温度(Tg)
樹脂バインダー(b−1)を含有するラテックスを、アルミ皿に適量とり、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥し、フィルム状サンプルを得た。このフィルム状サンプルを、幅10mm、長さ35mmのサイズにカットし、動的粘弾性測定装置「ARES」(商品名、ティーエイインスツルメントー株式会社製)の捻りタイプのジオメトリーにセットし、実効測定長さ25mm、歪み0.5%、周波数1Hzにて、−70℃から150℃まで昇温速度3℃/分の条件で測定し、得られたtanδピーク温度をガラス転移温度とした。tanδピーク温度は、「RSI Orchestrator」(商品名、ティーエイインスツルメントー株式会社製)により自動検出されるピークから求めた。
【0093】
(2)最低成膜温度(℃)
熱勾配試験機(高温側:100℃、低温側:−30℃に設定)の上に置いたアルミ板上に、得られた樹脂バインダー(b−1)のラテックスをクリアランス0.1mmのアプリケーターにより塗工し、乾燥した。得られた塗付膜において、成膜できた領域とクラックが生じた領域との境界の温度を最低成膜温度とした。
表1の「最低成膜温度」欄における「0>」の表記は、最低成膜温度が0℃未満であったことを示す。
【0094】
(3)厚み(膜厚、μm)
(3)−1 ポリオレフィン樹脂多孔基材層(A)及び蓄電デバイス用セパレータの厚み(μm)
ポリオレフィン樹脂多孔基材層(A)及び蓄電デバイス用セパレータから、それぞれ、10cm×10cm角のサンプルを切り出し、格子状に選んだ9箇所(3点×3点)の膜厚を、微小測厚器(東洋精機製作所(株) タイプKBM)を用いて室温23±2℃において測定した。9箇所の測定値の平均値を、ポリオレフィン樹脂多孔基材層(A)又は蓄電デバイス用セパレータの厚み(μm)とした。
(3)−2 多孔層(B)の厚み(μm)
多孔層(B)の厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)「型式S−4800、HITACHI社製」を用い、セパレータの断面観察により測定した。サンプルのセパレータを1.5mm×2.0mm程度に切り取り、ルテニウム染色した。ゼラチンカプセル内に染色サンプル及びエタノールを入れて液体窒素により凍結させた後、ハンマーでサンプルを割断した。サンプルをオスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、30,000倍にて観察し、多孔層の厚さを算出した。この時、SEM画像において、ポリオレフィン樹脂多孔基材層断面の多孔構造が見えない最表面領域を、多孔層の領域とした。
【0095】
(4)ポリオレフィン樹脂多孔基材層(A)の気孔率(体積%)
ポリオレフィン樹脂多孔基材層から10cm×10cm角の試料を多孔基材層切り取り、その体積(cm)と質量(g)を測定し、膜密度を0.95(g/cm)として、下記数式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/膜密度)/体積×100
【0096】
(5)ポリオレフィン樹脂多孔基材層(A)の突刺強度(g)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径が11.3mmの試料ホルダーでポリオレフィン樹脂多孔基材層(A)を固定した。次に固定されたポリオレフィン樹脂多孔基材層(A)の中央部を、針先端の曲率半径が0.5mmのピンにより、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行った。ここで測定された最大突刺荷重を突刺強度(g)とした。
【0097】
(6)塗工液(B’)の不動化時間
特許第5114654号明細書の記載に従って、Annton Paar社製レオメーターMCR101型と同社のイモビリゼーションセルとを組み合わせた装置を作製した。この装置の一部を示す概略断面図を図1に示した。図1において、パラレルプレート下部11bを含めて下の部分がイモビリゼーションセルに相当する。
この装置を使用して、
測定対象塗工液(B’)として、無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む塗工液(B’)を、
紙基材19に相当する材料として多孔膜(A)を、
それぞれ用いて、不動化時間の測定を行った。
測定治具としては、直径50mmのパラレルプレート上部11aを使用し、初期ギャップは0.5mm、塗工液(B’)17の容量は2mlとし、回転制御部15の動作によって測定中のせん断速度は1(1/s)の一定値とした。吸気口13bから吸気して減圧室13aの減圧度を700hPaとして、減圧開始後に塗工液(B’)粘度の測定を開始し、塗工液(B’)粘度が急激に上昇した後に粘度上昇が完了した時間を、塗工液(B’)の不動化時間とした。なお、測定温度は、塗工液(B’)の平均乾燥温度とした。
【0098】
(7)多孔層(B)の表面軟化温度
セパレータの表面と黒ラシャ紙を合わせて、カレンダーを用い、ロール温度20℃、カレンダーロール間線圧10kgf/cmの条件下で圧着させた。その後、両者を引き離して、セパレータへの黒ラシャ紙の転写有無を確認した。転写が確認されなかった場合、カレンダーのロール温度を5℃上昇させ、同様の試験を実施した。以降、5℃刻みでロール温度を上昇させつつ同様の試験を繰り返し、黒ラシャ紙のセパレータへの転写が見られた時の温度を、多孔層(B)の表面軟化温度とした。
表1の「多孔層(B)の表面軟化温度」欄における「20>」の表記は、表面軟化温度が20℃未満であったことを示す。
【0099】
(8)セパレータの透気度(sec/100cc)
JIS P−8117に準拠し、(株)東洋精機製作所製のガーレー式デンソメータG−B2(商標)により測定した透気抵抗度を透気度とした。
【0100】
(9)セパレータと電極の密着性
セパレータと電極(負極)との密着性は、以下の手順で評価した。
(負極の作製)
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、負極用バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%、及びスチレン−ブタジエンコポリマー系ラテックス(後述する製造例1e)1.7質量%(固形分換算)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚み12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗工し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を得た。この時、負極の活物質塗工量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにした。
【0101】
(密着性試験)
上記方法により得られた負極を、幅20mm、長さ40mmにカットした。この負極上に、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液(富山薬品工業製)を負極が浸る程度にたらした上にセパレータを重ね、積層体を得た。この積層体をアルミジップに入れ、80℃、10MPaの条件で、2分間プレスを行った。
その後、積層体を取り出し、セパレータを電極から剥がして目視による観察を行い、以下の基準により評価した。
(評価基準)
◎(優良):セパレータ面積の40%以上に負極活物質が付着した場合
○(良好):セパレータ面積の30%以上40%未満に負極活物質が付着した場合
△(可):セパレータ面積の10%以上30%未満に負極活物質が付着した場合
×(不良):セパレータ面積の10%未満に負極活物質が付着した場合
【0102】
(10)べたつき性及び塗工層剥離強度
被着体として正極集電体(冨士加工紙(株)アルミ箔20μm)を30mm×150mmに切り取ったものを、セパレータと重ね合わせて積層体を得た。得られた積層体を、2枚のテフロン(登録商標)シート(ニチアス(株)ナフロンPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート TOMBO−No.9000)により挟み、プレス条件を下記のように変量してそれぞれプレスを行うことにより、プレス条件の異なる2種の試験用サンプルを得た。
条件1)温度25℃、圧力5MPaで3分間加圧
条件2)温度80℃、圧力10MPaで3分間加圧
【0103】
得られた各試験用サンプルの剥離強度を、JIS K6854−2に準じて引張速度200mm/分で測定した。測定装置としては、島津製作所製のオートグラフAG−IS型(商標)を用いた。
得られた結果に基づいて、下記の評価基準でセパレータの剥離強度を評価した。
[ベタツキ性]
条件1)のプレス後のサンプルについて、
◎(優良):剥離強度が4gf/cm以下であった場合
○(良好):剥離強度が4gf/cmを超えて6gf/cm以下であった場合
△(可):剥離強度が6gf/cmを超えて8gf/cm以下であった場合
×(不良):剥離強度が8gf/cmを超得た場合
とし、ベタつき性、及びハンドリング性の指標とした。
[塗工層剥離強度]
条件2)のプレス後のサンプルについて、
◎(優良):剥離強度が15gf/cm以上であった場合
○(良好):剥離強度が10gf/cm以上15gf/cm未満であった場合
×(不良):剥離強度が10gf/cm未満であった場合
とし、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度の指標とした。
【0104】
(11)ポリオレフィン微多孔基材層(A)の平均孔径(μm)、曲路率、及び孔数
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、多孔基材層(A)の透気度測定における空気の流れはクヌーセンの流れに、多孔基材層(A)の透水度測定における水の流れはポアズイユの流れに、それぞれ従うと仮定する。
平均孔径d(μm)及び曲路率τa(無次元)は、空気の透過速度定数Rgas(m/(m・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m/(m・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力Ps(=101,325Pa)、気孔率ε(%)、及び膜厚L(μm)から、下記数式を用いて求めた。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×106
τa= (d×(ε/100)×ν/(3L×Ps×Pgas))1/2
【0105】
ここで、Rgas及びRliqは、それぞれ、下記数式を用いて求められる。
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10−4)×(0.01276×101,325))
liq=透水度/100
透気度及び透水度は、それぞれ、次のように求められる。
[透気度]
ここでいう透気度は、ポリオレフィン多孔基材層(A)について前記「(8)セパレータの透気度」の記載に準拠して測定することにより、透気抵抗度として得ることができる。
[透水度]
直径41mmのステンレス製の透液セルに、予めエタノールに浸しておいたポリオレフィン多孔基材層(A)をセットし、該膜のエタノールを水で洗浄した。その後、約50,000Paの差圧で水を透過させ、120sec経過した際の透水量(cm)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、空気の分子速度νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、及び空気の平均分子量M(=2.896×10−2kg/mol)から、下記数式を用いて求められる。
ν={(8R×T)/(π×M)}1/2
孔数B (個/μm) は、下記数式により求められる。
B=4×(ε/100)/(π×d×τa)
【0106】
(12)電池のサイクル特性
(12)−1 評価用サンプルの作製
[電極の作製]
負極を前記「(9)セパレータと電極との密着性」における「(負極の作製)」と同様にして作製した。
正極は、以下のようにして作製した。
(正極の作製)
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイト及びアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%ずつ、並びにバインダーとしてポリフッ化ビニリデン3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗工し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、正極を得た。この時、正極の活物質塗工量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにした。
【0107】
正極は幅約57mmに、負極は幅約58mmに、それぞれ切断して帯状にすることにより、評価用電極を作製した。
[非水電解液の調整]
非水電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2(体積比)からなる混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより調製した。
[セパレータの作製]
実施例及び比較例で得られた各セパレータを60mmに切断して帯状にすることにより、評価用セパレータを作製した。
【0108】
(12)−2 電池のサイクル特性の評価
[電池の組立て]
(12−1)で得られた、電極及びセパレータを、負極、セパレータ、正極、セパレータの順に重ね、巻取張力を250gf、捲回速度を45mm/秒として、渦巻状に複数回捲回して、電極積層体を作製した。この電極積層体を、外径18mm、高さ65mmのステンレス製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製タブを容器蓋端子部に、負極集電体から導出したニッケル製タブを容器壁に溶接した。その後、真空下、80℃で12時間の乾燥を行った。アルゴンボックス内において、組立てた電池容器内に前記の非水電解液を注入し、封口することにより、評価用電池を作製した。
[前処理]
前記のように組立てた電池につき、1/3C(クーロン)の電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を8時間行い、その後1/3Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。次に、1Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を3時間行い、その後1Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。最後に1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電をした後、4.2Vの定電圧充電を3時間行って、前処理を終了した。
なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表す。
【0109】
[サイクル試験]
上記前処理を行った電池につき、温度25℃の条件下で、放電電流1Aで放電終止電圧3Vまで放電を行った後、充電電流1Aで充電終止電圧4.2Vまで充電を行った。これを1サイクルとして充放電を繰り返し、初期容量に対する200サイクル後の容量保持率を調べ、以下の基準でサイクル特性を評価した。
(評価基準)
◎(優良):容量保持率が95%以上100%以下であった場合
○(良好):容量保持率が90%以上95%未満であった場合
×(不良):容量保持率90%未満であった場合
【0110】
<樹脂バインダー(b−1)の製造>
(製造例1a)アクリル系ポリマーラテックスの製造
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(商品名、第一工業製薬株式会社製、25質量%水溶液)0.085質量部(固形分換算)と、「アデカリアソープSR1025」(商品名、株式会社ADEKA製、25質量%水溶液)0.085質量部(固形分換算)と、を投入し、反応容器内部温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液)0.15質量部(固形分換算)添加した。
過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に、メタクリル酸メチル85質量部、アクリル酸n−ブチル5.4質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル2質量部、メタクリル酸0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、アクリルアミド5質量部、メタクリル酸グリシジル0.4質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT、新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、「アクアロンKH1025」(商品名、第一工業製薬株式会社製、25質量%水溶液)0.75質量部(固形分換算)、「アデカリアソープSR1025」(商品名、株式会社ADEKA製、25質量%水溶液)0.75質量部(固形分換算)、p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.05質量部、過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液)0.15質量部(固形分換算)、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。得られた乳化液を、滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンに水酸化アンモニウム水溶液(25質量%水溶液)を加えて、pH=9.0に調整することにより、濃度40質量%のアクリル系ポリマー(1a)を含有するラテックスを得た。
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、アクリル系ポリマー(1a)は、粒子径161nmの球形、単分散であることが分かった。また、得られたアクリル系ポリマー(1a)のガラス転移温度は90℃、最低成膜温度は80℃であった。
【0111】
(製造例1b)アクリル系ポリマーラテックスの製造
以下の成分の使用量を以下に記載したとおりに変更した他は、前記製造例1aと同様に操作することにより、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー(1b)を含有するラテックスを得た。
[初期仕込み]
アクアロンKH1025:0.45質量部(固形分換算)
アデカリアソープSR1025:0.45質量部(固形分換算)
過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液):0.15質量部(固形分換算)
[乳化液中のモノマー]
メタクリル酸メチル:30.5質量部
アクリル酸n−ブチル:60.8質量部
アクリル酸2−エチルヘキシル:2質量部
メタクリル酸:1質量部
アクリル酸:1.5質量部
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:2質量部
アクリルアミド:0.2質量部
メタクリル酸グリシジル:2質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート:0.7質量部
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、アクリル系ポリマー(1b)は、粒子径121nmの球形、単分散であった。また、得られたアクリル系ポリマー(1b)のガラス転移温度は−20℃、最低成膜温度は0℃以下であった。
【0112】
(製造例1c)アクリル系ポリマーラテックスの製造
以下の成分の使用量を以下に記載したとおりに変更した他は、前記製造例1aと同様に操作することにより、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー(1c)を含有するラテックスを得た。
[初期仕込み]
アクアロンKH1025:0.45質量部(固形分換算)
アデカリアソープSR1025:0.45質量部(固形分換算)
過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液):0.15質量部(固形分換算)
[乳化液中のモノマー]
メタクリル酸メチル:44.3質量部
アクリル酸n−ブチル:47.0質量部
アクリル酸2−エチルヘキシル:2質量部
メタクリル酸:1質量部
アクリル酸:1.5質量部
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:2質量部
アクリルアミド:0.2質量部
メタクリル酸グリシジル:2質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート:0.7質量部
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、アクリル系ポリマー(1c)は、粒子径119nmの球形、単分散であった。また、得られたアクリル系ポリマー(1c)のガラス転移温度は5℃、最低成膜温度は10℃であった。
【0113】
(製造例1d)スチレン−ブタジエン系ポリマーラテックスの製造方法
撹拌機を備えた温度調節可能な反応器の内部を予め窒素置換した後、イオン交換水850質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部(固形分換算)、水酸化ナトリウム0.1質量部、亜硫酸水素ナトリウム0.5質量部、及び硫酸第二鉄0.0005質量部を仕込んだ。その後、スチレン15質量部、メタクリル酸メチル30質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル51質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、イタコン酸2質量部からなる単量体混合物を全量加えて、重合系内温度を90℃に調節した後、過硫酸アンモニウム1質量部及びイオン交換水50質量部からなる均一な開始剤水溶液を一括添加した。その後2時間、重合系内温度を90℃に保持してから重合系内温度を下げ、シードラテックスAを得た。得られたシードラテックスAの固形分は約10質量%、ポリマーの体積平均粒子径は16nm、ガラス転移温度は2℃、及び重量平均分子量(Mw)は7万であった。
【0114】
次に、撹拌装置及び温度調節用ジャケットを取り付けた耐圧反応容器に、上記で得たシードラテックスA0.05質量部(固形分換算)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部(固形分換算)、及びイオン交換水200質量部を入れ、液温を60℃にした後、過硫酸アンモニウム1.0質量部(固形分換算)を添加した。ここに、単量体として、スチレン70質量部、ブタジエン15質量部、メチルメタクリレート7質量部、アクリロニトリル3質量部、アクリル酸1質量部、メタクリル酸グリシジル2質量部、及びイタコン酸2質量部、並びに連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー0.2質量部、及びt−ドデシルメルカプタン0.5質量部からなる混合液を、液温70℃に維持したまま6時間にわたって追添した。最終重合率は98%であった。生成したラテックスは、200メッシュ金網で濾過した。
濾過後のラテックスに水酸化アンモニウム水溶液(25質量%)を添加して、pH=8に調整した後、未反応単量体を除去した。更にこれを濃縮した後、ポリアクリル酸ナトリウム0.5質量部及び水酸化カリウムを加えることにより、スチレン−ブタジエン系ポリマー(1d)を含有する固形分濃度50%、pH=8のラテックスを得た。
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、スチレン−ブタジエン系ポリマー(1d)は、粒子径200nmの球形、単分散であった。また、このラテックスポリマー(1d)のガラス転移温度は70℃、最低成膜温度は75℃であった。
【0115】
(製造例1e)スチレン−ブタジエン系ポリマーラテックスの製造方法
前記製造例1dと同様にして得たシードラテックスAを用い、該シードラテックスA及び各モノマー、並びに以下に記載の添加剤の使用量をそれぞれ以下のとおりとした他は、前記製造例1d後段と同様に操作することにより、固形分濃度50質量%のスチレン−ブタジエン系ポリマー(1e)を含有するラテックスを得た。
[初期仕込み]
シードラテックスA:0.8質量部(固形分換算)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:1質量部(固形分換算)
[一括添加モノマー]
スチレン:40質量部
ブタジエン:40質量部
メチルメタクリレート:10質量部
アクリロニトリル:5質量部
アクリル酸:1質量部
メタクリル酸グリシジル:2質量部
イタコン酸:2質量部
最終重合率は98%であった。
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、スチレン−ブタジエン系ポリマー(1e)は、粒子径80nmの球形、単分散であった。また、このラテックスポリマー(1e)のガラス転移温度は−40℃、最低成膜温度は0℃以下であった。
【0116】
実施例1
体積平均分子量70万のホモポリマーのポリエチレン47.5質量部と体積平均分子量25万のホモポリマーのポリエチレン47.5質量部と体積平均分子量40万のホモポリマーのポリプ口ピレン5質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリマー混合物99質量部に対して、酸化防止剤としてペンタエリスリチルーテトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)フロピオネー卜]を1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマ一等混合物を得た。
得られたポリマ一等混合物は、窒素置換した後に、窒素雰囲気下でフィーダーにより、二軸押出機へ供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)を、プランジャーポンプにより押出機シリンダーに注入した。溶融混練して押し出される全混合物中に占める流動パラフィンの量比が67質量%(ポリマー等混合物濃度が33質量%)となるように、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリユ一回転数100rpm、及び吐出量12kg/hとして、混練を行った。
【0117】
得られた溶融混練物を、表面温度25℃に制御された冷却ロール上にT−ダイ経由で押出しキャス卜することにより、厚み1,600μmのゲルシートを得た。次に、このゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.1倍、設定温度121℃とした。延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去した後、メチルエチルケトンを乾燥除去した。次に、前記処理後のシートをTDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定温度は120℃、TD最大倍率は2.0倍、緩和率は0.90とした。
これら一連の処理の結果、膜厚17μm、気孔率60%、透気度84秒/100cc、平均孔径d=0.057μm、曲路率τa=1.45、孔数B=165個/μm、突刺強度が25μm換算で5,679fのポリオレフィン樹脂多孔基材層(A1)を得た。
【0118】
[塗工液(B’)の調製]
次に、無機充填材(b−2)として、焼成カオリン(2a)(カオリナイト(AlSi(OH))を主成分とする湿式カオリンを高温焼成処理したもの、体積平均粒径1.0μm)を93.0質量部と、
樹脂バインダー(b−1)として、
前記製造例1aで得たアクリル系ポリマー(1a)ラテックスを固形分換算で2.0質量部、及び
前記製造例1bで得たアクリル系ポリマー(1b)ラテックスを固形分換算で5.0質量部と、
ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製、SNディスパーサント5468)0.5質量部と
を180質量部の水に均一に分散させることにより、塗工液(B’)を調製した。得られた塗工液(B’)の不動化時間は、60℃において80秒であった。
【0119】
[多孔層(B)の形成(セパレータの製造)]
前記[ポリオレフィン樹脂多孔基材層の製造]で得たポリオレフィン系多孔基材層(A1)の片面に、前記[塗工液の調製]で得た塗工液を、マイクログラビアコーターにより塗工した。得られた塗膜を、60℃において乾燥して水を除去し、多孔基材層(A)の片面に厚み2μmの多孔層(B)を形成することにより、セパレータを得た。
得られたセパレータについて、前記方法に従い、評価した。得られた結果を表1に示した。
【0120】
実施例2〜7、並びに比較例1〜6
前記実施例1において、樹脂バインダー(b−1)として、表1に記載のものを各所定量使用した他は、実施例1と同様にして塗工液を調製し、セパレータを製造した。
なお、実施例7は無機充填材(b−2)として、ベーマイト(2b)(水酸化酸化アルミニウム、平均体積粒径1.0μm)を使用した。
得られたセパレータについて、上記方法により評価した。得られた結果を表1に示した。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
保水剤欄における略称「CMC」は、カルボキシメチルセルロースを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の方法によって製造されたセパレータは、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度と、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性とが両立されている。
本発明の方法によって製造されたセパレータを具備する蓄電デバイスは、高い容量を長期間維持することができるとともに、生産性にも優れている。
従って、本発明の方法によって製造されたセパレータは、非水系電解液二次電池等の電池;コンデンサー;キャパシタ等の蓄電デバイス用セパレータとしてとして、好適に利用できる。
【符号の説明】
【0125】
11a パラレルプレート上部
11b パラレルプレート下部
13a 圧室
13b 吸気口
15 回転制御部
17 塗工液(B’)
19 紙基材
図1