(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る制震装置を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、同じ作用を奏する部材または部位には、適宜に同じ符号を付している。また、各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。
【0011】
ここでは、ここで提案される制震装置について全体の構成例および当該制震装置が取り付けられる建物200の構造を説明し、さらにここで提案される制震装置の特徴的な構成に言及する。
【0012】
《建物200》
図1は、制震装置100が取り付けられた建物200の壁の構造を示す正面図である。ここで、建物200は、上下に対向した一対の横軸材(例えば、梁50(上枠50a)および土台60(下枠60a))と、一対の横軸材にそれぞれ連結された一対の縦軸材(例えば、柱70a、70b)とで囲まれた矩形の枠組み204を備えている。制震装置100は、かかる矩形の枠組み204内に配置されている。かかる建物200は、例えば、木造軸組工法と、枠組壁工法(ツーバイフォー工法とも称される)のような枠組み工法によって建てられた木造住宅が例示されうる。
【0013】
《矩形の枠組み204》
例えば、いわゆる木造軸組工法では、土台と、一対の柱と、梁とで囲まれた矩形の枠組みが構築される。また、いわゆる枠組壁工法は、例えば、2インチ×4インチあるいはその整数倍の断面の木材で木枠を作り、その上に合板などを釘打ちで止めつけて壁が組み立てられている。枠組壁工法には、いわゆる2×6、2×10、4×4、2×8などの断面の木材が用いられる場合もあり、必ずしも2インチ×4インチあるいはその整数倍の断面の木材に限定されるものではない。ここで提案される制震装置は、かかる木造軸組工法および枠組壁工法の何れにも取り付けられうる。この場合、かかる枠組壁工法によって建てられた建物に対しては、壁を構築する木枠に取り付けられうる。例えば、制震装置100は、一対の縦軸材(柱)に相当する竪枠と、一対の横軸材に相当する上枠と、下枠とで囲まれた矩形の枠組みに取り付けられる。
【0014】
図1に示す例では、制震装置100は、建物200の梁50に取り付けられた上枠50aと、土台60に取り付けられた下枠60aと、柱70a,70bとで囲まれた矩形の枠組み204に配置されている。ここで、梁50と土台60と、柱70a、70bは、それぞれ建物200の構造材である。梁50と土台60は、互いに上下に対向する梁である。
【0015】
この実施形態では、制震装置100は、建物200の1階に取り付けられている。建物200の1階では、コンクリート基礎202の上には、土台60と、基礎パッキン107と、下枠60aとが順に取り付けられている。土台60と、基礎パッキン107と、下枠60aとは、それぞれコンクリート基礎202に埋め込まれたアンカーボルト105が挿通される挿通孔を有しており、アンカーボルト105に装着されている。ここで、基礎パッキン107の厚さは、20mm程度であり、コンクリート基礎202内の通気を確保するために取り付けられている。また、梁50は天井梁(2階建ての住宅では、2階床梁とも称される)であり、以下、適宜に、「天井梁50」という。ここでは、梁50の下面に上枠50aが取り付けられている。柱70a,70bは、土台60に取り付けられた下枠60aと、梁50に取り付けられた上枠50aとの間に取り付けられている。ここで、柱70a,70b、下枠60aおよび上枠50aは、当該凡そ90mm(例えば、89mm)である。なお、基礎パッキン107の厚さや、柱70a,70b、下枠60aおよび上枠50aの寸法は、特に、上記に限定されるものではない。また、図示例では、基礎パッキン107を備えているが、基礎パッキン107は無くてもよい。
【0016】
ここでは、制震装置100は、かかる土台60(下枠60a)と、天井梁50(上枠50a)と、土台60から立ち上がり、天井梁50を支持する建物200の1階の柱70a、70bとで囲まれた矩形の枠組み204に取り付けられている。
【0017】
《制震装置100》
次に、制震装置100を説明する。
図2は、制震装置100を示す正面図である。
図3は、制震ユニット10を拡大した図である。
図4は、制震ユニット10の側面図である。
図5は、制震装置100に取り付けられる前の状態における、制震ユニット10の正面図である。
図6は、制震ユニット10の平面図である。
図7は、制震ユニット10が描くヒステリシスループの概略図である。制震装置100は、
図2から
図4に示すように、対向するプレート12、13、14と、粘弾性体15、16と、第1伝達部材30と、第2伝達部材40とを備えている。
【0018】
《制震ユニット10》
ここで、対向するプレート12、13、14と、粘弾性体15、16とは、制震装置100における制震機能を発揮しうる制震ユニット10を構成している。
【0019】
〈プレート12、13、14〉
対向するプレート12、13、14は、それぞれ所要の剛性を有する鋼板である。
図3から
図5に示すように、対向するプレート12、13、14は、プレート12とプレート13がプレート14を挟み、かつ、それぞれプレート14に対向するように配置されている。ここで、プレート12、13、14のうち、中間に配置された中間プレート14は適宜に中間プレートと称される。また、中間プレート14の外側に配置された一対の外側プレート12、13は、適宜に外側プレートと称される。一対の外側プレート12、13は、同形状の略長方形の鋼板である。この実施形態では、一対の外側プレート12、13は、それぞれ向きを揃えて平行に配置されている。中間プレート14は、長方形である。中間プレート14の長手方向片側は、一対の外側プレート12、13の間に配置されている。中間プレート14の反対側は、一対の外側プレート12、13からはみ出るように配置されている。
【0020】
つまり、中間プレート14の長手方向の片側は、一対の外側プレート12、13が対向する領域に対して介在している。中間プレート14の長手方向の反対側は当該領域からはみ出ている。当該領域からはみ出た中間プレート14の一端には、中間プレート14に直交するようにフランジ17が設けられている。この実施形態では、フランジ17は、中間プレート14の一端に溶接されている。フランジ17は、中間プレート14の一端よりも長い、細長い長方形の板材である。
図5に示すように、当該フランジ17には、中間プレート14の一端からはみ出た両側にボルト18を挿通するための挿通孔19が形成されている。また、一対の外側プレート12、13は、長手方向の片側を除いて、それぞれ中間プレート14が重なった領域からはみ出ている。
図4および
図5に示すように、中間プレート14が重なった領域からはみ出て互いに対向した部位12b、13bには、ボルト37(
図3および
図4参照)を挿通するための貫通孔12c、13c(
図12参照)が形成されている。
【0021】
<粘弾性体15、16>
粘弾性体15、16は、対向するプレート12、13、14の間に配置され、各プレートにそれぞれ接着されている。この実施形態では、粘弾性体15、16は、それぞれ矩形の平板状に成形されている。粘弾性体15、16は、プレート12、13、14の法線方向から見て、プレート12、13、14が重なった四角形の領域内にそれぞれ配置されている。ここで、粘弾性体15は、外側プレート12と中間プレート14の間に配置され、それぞれに接着されている。粘弾性体16は、外側プレート13と中間プレート14の間に配置され、それぞれに接着されている。粘弾性体15、16は、例えば、高減衰性を有する粘弾性ゴム(制震ゴム)で構成されている。粘弾性体15、16と、プレート12、13、14とは、それぞれ加硫接着によって接着されている。ここで、一対の外側プレート12、13は、
図4、
図5および
図6に示すように、中間プレート14の両面において粘弾性体15、16を挟んで対向している。かかる一対の外側プレート12、13について、粘弾性体15、16に接着された部位を接着部12a、13aという。中間プレート14および粘弾性体15、16からはみ出て互いに対向する部位を対向部12b、13bという。
【0022】
なお、粘弾性体15、16として用いられる高減衰性を有する粘弾性ゴム(制震ゴム)には、例えば、天然ゴム,スチレンブタジエンゴム(SBR),ニトリルブタジエンゴム(NBR),ブタジエンゴム素材(BR),イソプレンゴム(IR),ブチルゴム(IIR),ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR),クロロプレンゴム(CR)のゴム素材に、高減衰性を発揮する添加剤を加えて生成された高減衰性ゴム組成物を用いることができる。高減衰性を発揮する添加剤としては、例えば、カーボンブラックなど、種々の添加剤が知られている。
【0023】
〈ヒステリシスループH〉
ここで、
図6は、一対の外側プレート12、13に対して中間プレート14が平行移動した状態が図示されている。制震ユニット10は、
図6に示すように、一対の外側プレート12、13に対して中間プレート14が平行移動すると、粘弾性体15、16にせん断変形が生じる。このとき、粘弾性体15、16に生じたせん断変位と、せん断荷重との関係から、
図7に示すようなヒステリシスループH(実測ヒステリシス曲線)が描かれる。
図7中、横軸はせん断方向の変位を示し、縦軸はその際のせん断荷重を示している。かかるヒステリシスループHによれば、せん断変位の増加につれてせん断荷重が高くなり、粘弾性体15、16の抵抗力が大きくなることが分かる。この粘弾性体15、16は、せん断変形を伴う振動を受けると、一周期毎に、当該ヒステリシスループHで囲まれた面積に相当する量のエネルギを吸収し得る。
【0024】
《第1伝達部材30、第2伝達部材40》
この実施形態では、制震ユニット10は、第1伝達部材30と第2伝達部材40を介して建物200に取り付けられている。第1伝達部材30と第2伝達部材40は、建物200の上枠50aと下枠60aに取り付けられ、建物200に生じたせん断変位を制震ユニット10に伝達する。以下、第1伝達部材30と第2伝達部材40を説明する。
【0025】
《第1伝達部材30》
第1伝達部材30は、制震ユニット10の対向するプレート12、13、14のうち、一対の外側プレート12、13に接続される部材である。
図8は、第1伝達部材30の平面図(上枠50aに取り付けられる前の状態において上から見た図)である。
図9は、第1伝達部材30の正面図である。
図10は、第1伝達部材30の側面図である。第1伝達部材30は、
図8、
図9および
図10に示すように、基板部31と、一対の側板部32、33とを備えている。この実施形態では、第1伝達部材30は、制震ユニット10の外側プレート12、13よりも長い略長方形の板状の部材であり、当該略長方形の板状の部材の幅方向の中間部を所定幅で残し、幅方向の両側を同方向に折り曲げた部材である。ここで、基板部31は、第1伝達部材30のうち幅方向の中間部に構成されている。また、一対の側板部32、33は、第1伝達部材30のうち幅方向の両側を同方向に折り曲げた部位に構成されている。
【0026】
〈基板部31〉
基板部31は、
図1に示すように、上枠50aに取り付けられる取付面31aを有する。この実施形態では、基板部31の取付面31aは、長さ方向を上枠50aの長さ方向に合わせ、上枠50aの下面に取り付けられる。当該取付面31aには、上枠50a(
図1)に取り付ける孔31bが形成されている。
【0027】
〈側板部32、33〉
側板部32、33は、上述のように第1伝達部材30のうち幅方向の両側を同方向に折り曲げた部位に構成されている。ここで、側板部32,33は、基板部31に対して、上枠50aに取り付けられる側とは反対側に、折り曲げられている。当該側板部32、33は、制震ユニット10の外側プレート12、13が取り付けられる部位であり、外側プレート12、13の間(
図4参照)に嵌り、かつ、所要の剛性を有する。この実施形態では、側板部32、33は、基板部31から下方に延び、かつ、中間プレート14よりも上方において、外側プレート12、13の対向部12b、13bの向かい合う内面に沿って配置されている。側板部32、33の外側プレート12、13が取り付けられる部位には、ボルト37を挿通させる貫通孔32a、33aが設けられている。この実施形態では、貫通孔32a、33aは、側板部32、33の長さ方向の中間部において、左右に離れた位置に設けられている。
【0028】
第1伝達部材30は、例えば、一枚の鋼板から
図11に示すような所定形状に打ち抜き、両側の側板部32、33を基板部31の取付面31aとは反対側の面側に折り曲げて形成するとよい。ここで、
図11中の破線b1、b2は、それぞれ側板部32、33が折り曲げられる折り曲げ線を示している。このように、建物200に取り付けられる取付面31aを有する基板部31と、制振ユニット10の外側プレート12、13に取り付けられる側板部32、33とを一枚の鋼板を折り曲げて形成することにより、溶接を用いることなく第1伝達部材30を作製でき、加工コストを低く抑えることができる。
【0029】
〈スペーサ36〉
図4、
図8〜
図10に示すように、一対の側板部32、33の間隙には、スペーサ36が収まっている。スペーサ36は、外側プレート12、13の対向部12b、13bの間に配置され、該対向部12b、13b間の間隔を保持する部材である。この実施形態では、スペーサ36は、貫通孔36aを有するスリーブ36である。
【0030】
ここで、
図12は、一対の外側プレート12、13と第1伝達部材30とスリーブ36とを組み付けた状態を示す側面図である。
図12に示すように、第1伝達部材30の一対の側板部32、33は、一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bに沿ってそれぞれ配置される。側板部32、33は、対向部12b、13bの貫通孔12c、13cに相対する位置に貫通孔32a、33aを有している。
【0031】
また、スリーブ36は、一対の側板部32、33の間において、該側板部32、33の貫通孔32a、33aに相対する位置に装着される。ここでは、スリーブ36の長さL1と側板部32、33の厚みD1、D2との総和(L1+D1+D2)は、一対の外側プレート12、13の間の距離L2と凡そ同じである。つまり、スリーブ36は、側板部32、33に組み付けられた状態で、一対の外側プレート12、13の間隙に凡そちょうど収まりうる長さを有している。これによって、スリーブ36は、一対の外側プレート12、13の間隔を適切に保つことができる。
【0032】
この実施形態では、側板部32、33と、スリーブ36とは、側板部32、33にスリーブ36を組み付けた状態で溶接されている。スリーブ36と側板部32、33との溶接は、例えば、隅肉溶接による。例えば、スリーブ36の先端と側板部32、33の内面とを、点溶接するとよい。この実施形態では、スリーブ36の一端と側板部32の内面とが、スリーブ36の周方向に沿う一箇所(ここでは周方向の下端)で点溶接されている。また、スリーブ36の他端と側板部33の内面とが、スリーブ36の周方向に沿う一箇所(ここでは周方向の下端)で点溶接されている。
図12中の当該溶接箇所には、矢印P1、P2が付されている。これによって、点溶接のような簡易な手段で側板部32、33とスリーブ36とを固定できる。
【0033】
当該スリーブ36と一対の側板部32、33と一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bとは、
図3、
図4および
図12に示すように、連結部材37によって連結されている。ここで、連結部材(37、38)は、スリーブ36と側板部32、33の貫通孔32a、33aと対向部12b、13bの貫通孔12c、13cとに通された軸材37と、該軸材37を対向部12b、13bの外面に繋ぎ止める繋止材38とを備えている。具体的には、この実施形態では、軸材37は、ボルト37のボルト軸であり、繋止材38は、ボルトを繋ぎ止めるナット38である。
【0034】
〈第1伝達部材30と一対の外側プレート12、13と上枠50aとの取り付け〉
第1伝達部材30を一対の外側プレート12、13と上枠50aとに取り付ける際には、
図1、
図4および
図12に示すように、まず、第1伝達部材30の側板部32、33に一対の外側プレート12、13を取り付ける。具体的には、第1伝達部材30の側板部32、33を一対の外側プレート12、13の向かい合う内面に沿って配置する。ここで側板部32、33の間隙には、スリーブ36が収まっている。当該スリーブ36は、あらかじめ点溶接により側板部32、33に固定されている。そして、スリーブ36と一対の側板部32、33と一対の外側プレート12、13とを、互いの貫通孔12c、13c、32a、33a、36aの位置を合わせ、ボルト37を挿通し、ナット38で締結する。
【0035】
次いで、建物200の矩形の枠組み204内において、第1伝達部材30の基板部31の取付面31aを上枠50aの下面に沿って配置する。そして、基板部31に形成されたボルト孔31bに取り付けられる締結具(例えば、ラグスクリューボルトやビス)によって、上枠50aの予め定められた位置に固定する。このようにして、第1伝達部材30を、一対の外側プレート12、13と上枠50aとに取り付けることができる。
【0036】
《第2伝達部材40》
第2伝達部材40は、
図2、
図3および
図4に示すように、対向するプレート12、13、14のうち中間プレート14に接続される部材である。この実施形態では、第2伝達部材40は、ブレース41、42と、取付プレート46と、基部43、44とを備えている。
【0037】
〈取付プレート46〉
ここで、取付プレート46は、例えば、一枚の鋼板から
図13に示すようを所定形状に打ち抜き、かつ、折り曲げて成形されている。
図13は、取付プレート46の展開図である。取付プレート46は、
図3および
図13に示すように、中間プレート14の一端に設けられたフランジ17に、面を合わせて取り付けられる固定部46aと、ブレース41、42に取り付けられる一対の取付片46b、46cとを備えている。中間プレート14の一端に溶接されたフランジ17は、当該中間プレート14の一端よりも長い、細長い長方形の板材である。固定部46aは、当該フランジ17と同様に、細長い長方形の部位である。また、フランジ17には、プレート14が重なった領域からはみ出た部位に、ボルト18を挿通するための挿通孔(図示省略)が形成されている。かかる挿通孔に合わせて、取付プレート46の固定部46aにも、ボルト18を挿通するための挿通孔46a1が形成されている。一対の取付片46b、46cは、当該固定部46aから延びている。一対の取付片46bは、それぞれ当該ブレース41、42の端部を挟むように、固定部46aの両側に設けられている。ブレース41、42の当該端部は、それぞれ取付片46b、46cに溶接されている。
【0038】
取付プレート46は、例えば、一枚の鋼板から
図13に示すようを所定形状に打ち抜き、両側の取付片46b、46cを固定部46aのフランジ17に取り付けられる面とは反対側の面側に折り曲げて形成するとよい。ここで、
図13中の破線b3、b4は、それぞれ取付片46b、46cが折り曲げられる折り曲げ線を示している。ここで、一枚の鋼板から打ち抜かれた取付プレート46を、折り曲げ線b3、b4に沿って折り曲げ、2つの取付片46b、4cを、ブレース41、42に沿わせる。そして、取付片46b、46cと、ブレース41、42が重なる部分の角部を溶接するとよい。このように、フランジ17に取り付けられる固定部46aと、ブレース41、42に取り付けられる取付片46bとを一枚の鋼板を折り曲げて形成することにより、溶接を用いることなく取付プレート46を作製でき、加工コストを低く抑えることができる。
【0039】
〈ブレース41、42〉
2本のブレース41、42は、プレート14に接続された部位から、互いの間隔が徐々に拡がるように延在している。この実施形態では、ブレース41、42は中空の軸材である。2本のブレース41、42は、プレート14に接続される固定部46aから下側に延在した取付片46bに溶接されている。2本のブレース41、42は、固定部46aから互いの間隔が徐々に拡がるように延在している。また、ブレース41、42の長さ方向の中間には、ブレース41、42間に架け渡されたブリッジ45が取り付けられている。これにより、2本のブレース41、42は、所要の剛性で、互いの間隔が維持されている。なお、図示された例では、ブリッジ45は一本であるが、複数本のブリッジ45が、ブレース41、42間に設けられていてもよい。そして、反対側の端部には、基部43、44が設けられている。基部43、44は、矩形の枠組み204(この実施形態では、下枠60a)に取り付けられる部位である。この実施形態では、左右のブレース41、42には、それぞれ基部43、44が独立して設けられている。
【0040】
〈基部43、44〉
図14は、左側の基部43を図示している。右側の基部44も同様の構造を有する。基部43、44は、
図14に示すように、ベース部43a、44aと、フランジ部43b、44bと、を備えている。ベース部43a、44aは、下枠60aに沿って取り付けられる部位である。この実施形態では、ベース部43aは、ブレース41、42の端部に対向するように配置される。フランジ部43b、44bは、ベース部43a、44aから立ち上がっている。
図14ではベース部43aの片側しか図示されていないが、この実施形態では、フランジ部43b、44bは、それぞれ当該ブレース41、42の端部41b、42bを挟むように、ベース部43aの両側に設けられている。ブレース41、42の当該端部41b、42bは、それぞれフランジ部43b、44bに溶接されている。
【0041】
図1に示すように、ベース部43a、44aは、コンクリート基礎202に埋設されたアンカーボルト105に取り付けられる。このため、
図14に示すように、ベース部43aには、アンカーボルト105を挿通する挿通孔43a1が設けられている。また、当該挿通孔43a1の周囲には、ベース部43aを補強する補強板43cが取り付けられている。また、ベース部43aには、下枠60aと締結するための締結具(例えば、ボルト(
図1に示された例では、ラグスクリューボルト106))を挿通するための挿通孔43a2、43a3が設けられている。なお、図示例では、ベース部43aに補強板43cが取り付けられているが、例えば、ベース部43aに所要の強度が確保されている場合には補強板43cは取り付けられていなくてもよい。
【0042】
〈第2伝達部材40と下枠60aとの取り付け〉
ここで、第2伝達部材40は、
図1に示すように、建物200の矩形の枠組み204内において、上述したようにブレース41、42の下端に取り付けられた基部43、44を下枠60aに沿って配置する。そして、基部43、44のベース部43a、44aに設けられた挿通孔43a1、43a2、43a3に、締結具(例えば、アンカーボルト105、ボルト(ラグスクリューボルト106)やビス)を取り付けて、基部43、44を下枠60aの上に固定するとよい。これによって、第2伝達部材40は、矩形の枠組み204内に立った状態で設置される。
【0043】
〈中間プレート14と第2伝達部材40との取り付け〉
ここで、中間プレート14の一端(第2伝達部材40が取り付けられる側の端部)には、フランジ17が取り付けられている。第2伝達部材40は、取付プレート46の固定部46aを当該フランジ17に取り付ける。そして、これら各部材の挿通孔の位置を合わせて、
図3および
図4に示すように、ボルト18を挿通し、ナット20で止める。
【0044】
《制震装置100の取り付け構造》
この制震装置100は、
図2に示すように、制震ユニット10と、第1伝達部材30と、第2伝達部材40とを備えている。かかる制震装置100は、
図1に示すように、建物200の矩形の枠組み204内に配置される。この実施形態では、例えば、第2伝達部材40を建物200の下枠60aに取り付ける。次に第1伝達部材30を建物200の上枠50aに取り付ける。そして、制震ユニット10を第1伝達部材30と第2伝達部材40の間に配置し、それぞれに取り付けるとよい。第1伝達部材30と上枠50aとの取り付け、一対の外側プレート12、13と第1伝達部材30との取り付け、第2伝達部材40と下枠60aとの取り付け、および、中間プレート14と第2伝達部材40との取り付けは、既に説明した通りであるので、ここでは、説明を省略する。
【0045】
この制震装置100では、第1伝達部材30と第2伝達部材40によって、建物200に生じたせん断変位が制震ユニット10に伝達される。
図15(a)、(b)は、制震装置100が取り付けられた建物200について、天井梁50と土台60とが水平方向に相対的に変位した状態を示している。ここで、
図15(a)は、天井梁50が、土台60に対して右側に変位した状態を示しており、
図15(b)は、天井梁50が、土台60に対して左側に変位した状態を示している。
図15(a)、(b)は、適宜に図を簡素化しており、例えば、上枠50aや下枠60aは、図示を省略している。
【0046】
かかる建物200において、大きな地震時には、天井梁50と土台60とが水平方向に相対的な変位を伴って揺れる。このため、天井梁50に取り付けられた第1伝達部材30と、土台60に取り付けられた第2伝達部材40との間に相対的な変位が生じる。第1伝達部材30と、第2伝達部材40とが相対的に変位すると、制震ユニット10の対向するプレート(12、13)、14に相対的な変位が生じる。対向するプレート(12、13)、14に相対的な変位が生じると、
図6に示すように、粘弾性体15、16にせん断変形が生じる。大きな地震時には、天井梁50(第1伝達部材30)および一対の外側プレート12、13と、土台60(第2伝達部材40)および中間プレート14とが水平方向に相対的な変位を伴って揺れる。この際、粘弾性体15、16に、繰返しせん断荷重が入力される。
【0047】
粘弾性体15、16は、
図7に示すように、せん断荷重に対して抵抗力を有するとともに、せん断変形を伴う振動を受けると、一周期毎に、当該ヒステリシスループHで囲まれた面積に相当する量のエネルギを吸収し得る。このため、この制震装置100は、地震時に建物200の揺れを小さく抑えるとともに、振動を早期に減衰させることができ、建物200に生じる損傷や被害の程度を小さくすることができる。
【0048】
《制震装置100のまとめ》
以上のように、ここで提案される制震装置100は、例えば、
図1から
図5に示すように、中間プレート14と、一対の粘弾性体15、16と、一対の外側プレート12、13と、伝達部材30、40と、連結部材37、38とを備える。一対の粘弾性体15、16は、中間プレート14を挟んで対向し、かつ、中間プレート14にそれぞれ接着されている。一対の外側プレート12、13は、中間プレート14の両面において粘弾性体15、16を挟んで対向している。一対の外側プレート12、13は、粘弾性体15、16に接着された接着部12a、13aと、中間プレート14および粘弾性体15、16からはみ出て互いに対向する対向部12b、13bと、を備えている。伝達部材30、40は、一対の外側プレート12、13に接続された第1伝達部材30と、中間プレート14に接続された第2伝達部材40とを備える。
【0049】
ここで、第1伝達部材30は、建物200に取り付けられる取付面31aを有する基板部31と、基板部31の両側縁でそれぞれ取付面31aとは反対側の面側に折り曲げられた一対の側板部32、33とを備える。一対の側板部32、33は、一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bに沿ってそれぞれ配置される。そして、一対の側板部32、33と一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bとは、連結部材37、38によって連結されている。
【0050】
かかる制震装置100によると、第1伝達部材30において、建物200に取り付けられる取付面31aを有する基板部31と、外側プレート12、13に取り付けられる側板部32、33とが一枚の板材を折り曲げて形成されている。この場合、溶接を用いることなく、第1伝達部材30と外側プレート12、13と建物200とを接続することができる。このため、従来よりも溶接箇所を減らしてコスト削減が図れる。また、第1伝達部材30と外側プレート12、13と建物200とを接続するのに溶接が用いられていないので、溶接不良などの品質リスクを回避することができる。
【0051】
この実施形態では、
図4および
図12に示すように、一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bの間には、該対向部12b、13b間の間隔を保持するスペーサ36が配置されている。このため、第1伝達部材30と一対の外側プレート12、13とを接続する構成において、所要の強度が確保される。また、一対の外側プレート12、13の間隔が適切に維持され、一対の外側プレート12、13に対する中間プレート14の相対変位に対して、粘弾性体15、16に適切にせん断変形を生じさせることができる。これによって、制震装置100は減衰機能をより適切に発揮しうる。
【0052】
本制震装置100によると、一対の側板部32、33は、一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bの向かい合う内面に沿ってそれぞれ配置されている。このようにすれば、側板部32、33を外側プレート12、13の内側に入れることで、当該部位を薄型化できる。このように当該部位を薄くすることによって、例えば、矩形の枠組み204において、一対の柱70a、70bの中間位置において、天井梁50(
図1では、上枠50a)と土台60(
図1では、下枠60a)に間柱(図示省略)を取り付ける場合などに、間柱を設置しやすくなる。
【0053】
この実施形態では、
図4および
図12に示すように、一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bは、貫通孔12c、13cを有している。一対の側板部32、33は、対向部12b、13bの貫通孔12c、13cに相対する位置に貫通孔32a、33aを有している。また、スペーサ36は、一対の側板部32、33の間において、該側板部32、33の貫通孔32a、33aに相対する位置に装着されたスリーブ36である。
そして、連結部材(37、38)は、スリーブ36と側板部32、33の貫通孔32a、33aと対向部12b、13bの貫通孔12c、13cとに通された軸材37と、該軸材37を対向部12b、13bの外面に繋ぎ止める繋止材38とを備えている。このようにすれば、第1伝達部材30と一対の外側プレート12、13とを精度よく組み付けることができる。これによって、粘弾性体15、16に適切にせん断変形を生じさせることができる。
【0054】
さらに当該スリーブ36に軸材37を通し、繋止材38によって、当該軸材を一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bに繋ぎ止めることができる。この場合、スリーブ36に通した軸材37は、スリーブ36の内周面によって受けられる。この制震装置100は、地震時に、粘弾性体15、16のせん断変形に対する大きな反力が、当該スリーブ36の内周面と軸材37に作用する。この際、軸材37はスリーブ36の内周面によって広い面積で受けられている。このため、軸材37およびスリーブ36の損傷が免れる。これによって、地震時に、粘弾性体15、16に適切にせん断変形を生じさせることができる。
【0055】
本制震装置100によると、一対の側板部32、33の内面とスリーブ36の先端とが、点溶接されている。この場合、点溶接のような簡易な手段で側板部32、33とスリーブ36とを固定できるので、該固定に要する時間および手間を大幅に削減することができる。また、スリーブ36と側板部32、33とを一体に取り扱えるようになるので、スリーブ36と側板部32、33と外側プレート12、13との連結作業が容易となる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態に係る制震装置100を説明した。制震装置100は、上述した実施形態に限定されない。なお、同様の作用を奏する部材または部位には、同じ符号を付して説明する。
【0057】
例えば、第1伝達部材30の一対の側板部32、33は、一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bに沿ってそれぞれ配置されていればよく、上述した実施形態に限定されない。例えば、
図16および
図17に示すように、一対の側板部32、33は、一対の外側プレートの対向部の外側を向いた外面に沿ってそれぞれ配置されていてもよい。図示した例では、一対の側板部32、33は、貫通孔32a、33aを有している。また、一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bは、側板部32、33の貫通孔32a、33aに相対する位置に貫通孔12c、13cを有している。
【0058】
スリーブ36は、一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bの間において、当該対向部12b、13bの貫通孔12c、13cに相対する位置に装着される。ここでは、スリーブ36の長さL1は、一対の外側プレート12、13の間の距離L2と凡そ同じである。つまり、スリーブ36は、一対の外側プレート12、13の間隙に凡そちょうど収まりうる長さを有している。これによって、スリーブ36は、一対の外側プレート12、13の間隔を適切に保つことができる。また、所要の強度が確保される。
【0059】
そして、当該スリーブ36と一対の側板部32、33と一対の外側プレート12、13の対向部12b、13bとは、連結部材37(
図3、
図4)によって連結されている。ここで、連結部材(37、38)は、スリーブ36と対向部12b、13bの貫通孔12c、13cと側板部32、33の貫通孔32a、33aとに通された軸材37と、該軸材37を側板部32、33の外面に繋ぎ止める繋止材38とを備えている。このような構成であっても、溶接を用いることなく、第1伝達部材30と外側プレート12、13とを接続することができる。このため、従来よりも溶接箇所を減らしてコスト削減が図れる。また、第1伝達部材30と外側プレート12、13と建物200とを接続するのに溶接が用いられていないので、溶接不良などの品質リスクを回避することができる。
【0060】
また、上述した実施形態では、制震装置100は、建物200の1階に取り付けた例を例示したが、制震装置100は、建物200の2階以上の階に取り付けてもよい。また、上述した実施形態では、制震装置100は、制震ユニット10の粘弾性体15、16によって振動エネルギを吸収する形態を例示したが、制震ユニット10の構造は、上記に限定されない。