【文献】
生物学的製剤基準血液保存液A液 ACD-A液,2008年,http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00043683.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
洗浄液の2価カチオンキレート剤の濃度が0.003〜0.6%(W/V)であり、回収液の2価カチオンキレート剤の濃度が0.003〜0.6%(W/V)である、請求項1に記載の細胞分離方法。
工程(B)において、細胞分離フィルターの上下を反転させてから、洗浄液を流入口より導入し細胞分離フィルターを洗浄する、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞分離方法。
【背景技術】
【0002】
近年、末梢血・骨髄・臍帯血・組織抽出物をはじめとする細胞懸濁液のうち、治療に有効な細胞分画のみを分離して患者に投与し、必要ない分画は投与せず、治療効果をより高め、副作用をより抑制する治療スタイルが広く普及してきた。
【0003】
例えば、白血病や固形癌の治療目的での造血幹細胞移植がその1つであり、骨髄や末梢血から赤血球を除去し、治療に有効な細胞(造血幹細胞を含む有核細胞)のみを分離・純化して患者に投与するようになってきた。臍帯血バンキングにおいても使用時まで凍結保存する必要があるため、凍結保存による赤血球溶血を防ぐことを目的に有核細胞は分離・純化され、赤血球は除去されている。
【0004】
他にも、リンパ球や樹状細胞を用いた癌免疫療法において、細胞懸濁液から赤血球を除去し、白血球を分離することが求められている。前記治療法を実施する上では培養工程が必須であるが、培養工程において赤血球が混入してしまうとリンパ球や樹状細胞の増殖力や細胞機能の低下を導くと共に、その後の精製工程等に悪影響を及ぼすことが想定されるため、細胞懸濁液から赤血球を可能な限り除去し、リンパ球や単球を含む白血球を分離することが必要である。
【0005】
これら有核細胞を分離・純化する方法としては、一般的に遠心分離またはフィコール液に代表される比重液を使用した密度勾配遠心法が用いられている。しかし、密度勾配遠心法は細胞に与える物理的な負荷、操作性の煩雑さおよび開放系での操作が必要であり、細胞治療を行う上では大型のセルプロセッシングセンター(CPC)が必須である等の問題がある。
【0006】
そこで操作性が簡便で、且つ閉鎖系で実施できる細胞分離方法として、白血球を捕捉するための不織布を充填したフィルターにより白血球を分離する方法が開示されている(特許文献1)。さらに、分離した白血球への赤血球の混入を防ぐために、生理食塩水等でフィルター内に残存する赤血球を洗い流し洗浄する方法が開示されている(特許文献2)。しかし、この方法でフィルター内に残存する赤血球を洗い流すだけでは、十分に赤血球を除去できているとはいえない。
【0007】
このように、遠心操作による細胞への負荷、操作性の煩雑さやコンタミネーション等を鑑みると、細胞を捕捉するための不織布を積層させた細胞分離フィルターによる分離方法が好ましいが、フィルターの性能だけでは赤血球の混入が多く、またフィルターに捕捉された赤血球を生理食塩水等で除去しても、その後の治療や精製工程を鑑みると、十分に赤血球を除去できているとはいえない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、細胞分離材を充填したフィルターを用いた有核細胞の分離方法における問題点を解決することを課題とする。具体的には、従来のフィルターを用いた場合でも、有核細胞分画への赤血球の混入率を減少させる細胞分離方法を提供する。更に、従来のフィルターを用いた場合でも、白血球の回収率を向上させる細胞分離方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、細胞を分離する工程において洗浄液と回収液の両方に2価カチオンキレート剤を添加し、細胞懸濁液を処理することによって、従来のフィルターを用いた場合でも白血球の回収率を向上でき、且つ赤血球の混入率を減少できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、赤血球と白血球を含む細胞懸濁液から赤血球を除去し、白血球を回収する細胞分離方法であって、
下記工程(A)〜(C):
(A)細胞懸濁液を、容器に細胞分離材を充填して得られる細胞分離フィルターの流入口より導入し、白血球を細胞分離フィルターに捕捉する工程、
(B)洗浄液を細胞分離フィルターの流入口より導入し、細胞分離フィルターを洗浄する工程、
(C)回収液を細胞分離フィルターの流出口より導入し、細胞分離フィルターに捕捉された白血球を回収する工程、
を含み、
洗浄液および回収液が2価カチオンキレート剤を含み、(洗浄液の2価カチオンキレート剤の濃度(W/V)):(回収液の2価カチオンキレート剤の濃度(W/V))が1:200〜200:1であることを特徴とする、細胞分離方法に関する。
【0012】
洗浄液の2価カチオンキレート剤の濃度が0.003〜0.6%(W/V)であり、回収液の2価カチオンキレート剤の濃度が0.003〜0.6%(W/V)であることが好ましい。
【0013】
工程(B)の後に、洗浄液を流出口より0.008〜3.0mL/秒の流量で導入し、細胞分離フィルターを洗浄する工程を含むことが好ましい。
【0014】
工程(B)において、細胞分離フィルターの上下を反転させてから、洗浄液を流入口より導入し細胞分離フィルターを洗浄することが好ましい。
【0015】
工程(C)において、回収液を流出口より10〜100mL/秒の流速で導入することが好ましい。
【0016】
2価カチオンキレート剤がクエン酸であることが好ましい。
【0017】
工程(A)において、細胞分離フィルターの流入口が流出口よりも低い位置にあることが好ましい。
【0018】
細胞分離材が不織布からなることが好ましい。
【0019】
細胞分離フィルター内に、不織布が積層されていることが好ましい。
【0020】
不織布がポリエステル繊維からなることが好ましい。
【0021】
工程(A)の前に、プライミングを行う工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、赤血球と白血球を含む細胞懸濁液から赤血球を除去し、効率よく白血球を回収することが可能となり、赤血球混入による副作用を低減し、培養工程における細胞の増殖力・機能性低下を抑制でき、細胞治療の普及拡大に繋がる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0025】
本発明は、赤血球と白血球を含む細胞懸濁液から赤血球を除去し、白血球を回収する細胞分離方法であって、下記工程(A)〜(C):
(A)細胞懸濁液を、容器に細胞分離材を充填して得られる細胞分離フィルターの流入口より導入し、白血球を細胞分離フィルターに捕捉する工程、
(B)洗浄液を細胞分離フィルターの流入口より導入し、細胞分離フィルターを洗浄する工程、
(C)回収液を細胞分離フィルターの流出口より導入し、細胞分離フィルターに捕捉された白血球を回収する工程、
を含み、
洗浄液および回収液が2価カチオンキレート剤を含み、(洗浄液の2価カチオンキレート剤の濃度(W/V)):(回収液の2価カチオンキレート剤の濃度(W/V))が、1:200〜200:1であることを特徴とする、細胞分離方法である。
【0026】
本発明における細胞分離フィルターは、
図1に示すように流入口と流出口を有する容器内に細胞分離材を充填して得られる。容器の形態は回収する細胞種や処理時間を考慮して適時設計でき、円柱、四角柱、楕円柱、ひし形柱、球、バッグ、チューブ等が挙げられる。具体的な容器の形態として、直径5〜50mm、高さ3〜50mm、容量1〜100mLの筒状容器が挙げられる。また、一片の長さ5〜50mmの四角形で、厚みが3〜50mmの四角柱容器が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明における容器の型としては、カラムタイプ、クロスフロータイプ等が挙げられる。カラムタイプまたはクロスフロータイプのいずれも使用することができ、特に容器の型は限定されないが、回収液を均一に導入できるという観点からカラムタイプが好ましい。
【0028】
カラムタイプとは、例えばフィルター面に対して面の中心付近に流入口と流出口が位置している容器、フィルター面に対して垂直に流入口と流出口が位置している容器、フィルター面に対して垂直方向に液が流れる容器、または細胞分離材の圧縮方向に対して平行に液が流れる容器のことをいう。
【0029】
一方、クロスフロータイプとは、白血球除去フィルター(旭化成メディカル株式会社製「セパセル」、ポール社製「ピュアセルRC」に代表されるように、フィルター面に対して流入口と流出口の位置が面の中心から外れており、フィルター面に対して平行に流入口と流出口が位置している容器を指す。ここでフィルター面に対して流入口と流出口が垂直に位置しているとは、面から流入口と流出口の角度が45度以上90度未満であることを指し、フィルター面に対して流入口と流出口が平行に位置しているとは、面から流入口と流出口の角度が0度以上45度未満であることを意味する。
【0030】
容器の材質は、細胞を透過しない材料であれば任意で適時選択することができる。例えば、非反応性ポリマー、生物親和性金属、合金、ガラス等が挙げられる。上記非反応性ポリマーとしては、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。特に滅菌耐性を有する点から、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテンが好ましい。生物親和性金属および合金としては、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、およびそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、窒化チタン被覆ステンレス鋼が挙げられる。
【0031】
細胞分離材は特に限定されないが、メッシュ、繊維塊、織布、スポンジ状構造体、粒子集合体、不織布等を用いることができる。細胞分離材と細胞懸濁液の接触時間の観点から、繊維状であって容易に作製や入手ができる不織布を用いることが好ましい。さらに、細胞分離材の素材としては、滅菌耐性や細胞への安全性の観点から、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリプロピレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート)、ナイロン、ポリイミド、アラミド(芳香族ポリアミド)、ポリアミド、キュプラ、カーボン、フェノール、ポリエステル、パルプ、麻、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート等の合成高分子、アガロース、セルロース、セルロースアセテート、キトサン、キチン等の天然高分子、ガラス等の無機材料や金属等が挙げられる。特に、白血球捕捉能と赤血球通過能が高いという観点から、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリウレタンが好ましく、ポリエステルがより好ましい。
【0032】
また、細胞分離材として、必要に応じて上記素材を複合、混合、または融合して用いてもよい。さらに、細胞の回収率を向上させるために、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、糖類を細胞分離材に固定してもよい。
【0033】
細胞分離材は、不織布を適当な大きさに切断し、1〜200mmの厚みに、体液の流れる方向に1枚または複数枚積層して使用されることが好ましい。細胞の分離効率の観点から、積層の厚みは2〜200mmであることがより好ましく、5〜50mmであることがさらに好ましい。また、細胞分離材の繊維径、密度、目付および孔径等は、当業者であれば回収する細胞の種類に応じて周知技術に基づき設計することができる。例えば、間葉系幹細胞を回収することが目的であれば国際公開第2007/046501号に記載されているフィルターを使用することができ、造血幹細胞を回収することが目的であれば国際公開第2011/001936号に記載されているフィルターを使用することができる。
【0034】
また、細胞分離材を容器に充填する際には、体液の流れる方向に圧縮して容器に充填してもよいし、圧縮せずに容器充填してもよい。圧縮の有無は、細胞分離材の材質等に応じて適宣選定することができる。容器に充填する方法としては、細胞分離材を適当な大きさに切断して平板状で充填されてもよいし、ロール状に巻いた形状で充填されてもよい。
【0035】
本発明における細胞懸濁液は、赤血球と白血球を含む溶液であればよく、末梢血、骨髄、臍帯血、月経血、組織抽出物等の細胞を含有する体液、あるいはこれらの体液を生理食塩液やリンゲル液等で希釈したもの、あるいは体液から細胞を粗分離したものであってもよい。また、細胞懸濁液の採取源となる動物種としては、ヒト、ウシ、マウス、ラット、ブタ、サル、イヌ、ネコ等の哺乳動物が挙げられる。
【0036】
細胞懸濁液は前もって抗凝固剤で処理されたものであってもよい。抗凝固剤は特に限定されないが、例えば、ヘパリン、低分子ヘパリン、フサン(メシル酸ナファモスタット)、EDTA、クエン酸抗凝固剤等が挙げられる。クエン酸抗凝固剤として、例えば、ACD(acid−citrate−dextrose)液、CPD(citrate−phosphate−dextrose)液等が挙げられる。各分画の使用目的に影響がなければ、体液の保存条件は特に限定されない。
【0037】
本発明の細胞分離方法において、工程(A)では、細胞懸濁液が入った容器から、細胞分離フィルターの流入口へと細胞懸濁液を送液することで、血小板や赤血球等は前記フィルターを通過し、一方、白血球をフィルター内に捕捉する。
【0038】
細胞分離フィルターの疎水性が高い場合は、工程(A)の前に、プライミング操作を行うことが好ましい。プライミング操作とは、分離材を溶液で浸漬させ、細胞分離フィルター内のエアーを除去し、細胞懸濁液の流路を確保することをいう。
【0039】
プライミング操作で使用する溶液は特に限定されないが、分離工程の簡素化のために、工程(B)で使用する洗浄液と同一であってもよい。具体的には、生理食塩水、リンゲル液、細胞培養に用いられる培地、リン酸緩衝液等が挙げられるがこれらに限定されない。プライミング操作で導入するプライミング液の量は、細胞分離フィルターを構成する容器の1〜100倍程度であることが、細胞分離フィルター内のエアー除去性の観点から実用的であり好ましい。また、工程(A)において分離効率を向上させる観点から、細胞分離フィルターの流入口が流出口よりも低い位置になるように回路を設計することが好ましい。
【0040】
工程(B)は、洗浄液を細胞分離フィルターの流入口より導入し、細胞分離フィルターを洗浄し、細胞分離フィルター内に残存する赤血球を除去する工程である。上記洗浄液は、雑菌が混入していない水溶液であれば特に限定されず、例えば、生理食塩水、リンゲル液、細胞培養に用いられる培地、リン酸緩衝液が挙げられる。
【0041】
上記洗浄液には2価カチオンキレート剤が含まれ、その濃度は0.003〜0.6%(W/V)であることが好ましく、0.03〜0.6%(W/V)であることがより好ましく、0.06〜0.6%(W/V)であることがさらに好ましく、0.3〜0.6%(W/V)であることが特に好ましい。洗浄液に含まれる2価カチオンキレート剤の濃度が0.003%(W/V)よりも小さいと、赤血球の除去効率が低下する傾向がある。また、2価カチオンキレート剤の濃度が0.6%(W/V)よりも大きいと細胞へダメージを与えてしまう傾向がある。
【0042】
洗浄液に含まれる2価カチオンキレート剤は、2価カチオンをキレートする物質であれば特に限定されないが、具体的にはEDTA−2ナトリウム、EDTA−2カリウム、EDTA−3カリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カリウム、クエン酸、クエン酸−ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等が挙げられる。また、2価カチオンキレート剤として、入手の容易性の観点から、血液保存液として市販されているクエン酸およびその塩類を含む溶液がより好ましい。上記クエン酸およびその塩類を含む溶液として、例えば、ACD−A液、ACD−B液、CPD液等が挙げられる。また、分離効率を向上させるために、2価カチオンキレート剤の他に、さらにアルブミン等の蛋白質や、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン等を洗浄液に添加してもよい。
【0043】
さらに、工程(B)において、分離効率を向上させるために、細胞分離フィルターの上下を反転させてから、洗浄液を前記フィルターの流入口より導入し洗浄することが好ましい。また、分離効率を向上させるために、上記洗浄において、細胞分離フィルターの流入口が流出口よりも高い位置になるように回路を設計することが好ましい。
【0044】
さらに、分離効率を向上させるために、工程(B)の工程後に、洗浄液を流出口より導入し、追加洗浄する工程を含むことが好ましい。このとき、洗浄液を流出口から導入する流速は、0.008〜3.0mL/秒であることが好ましい。3.0mL/秒より流量が大きいと捕捉された細胞が剥離してしまい、また0.008mL/秒より流量が小さいと追加洗浄の効果が発揮されない傾向がある。
【0045】
工程(C)は、2価カチオンキレート剤を含む回収液を、細胞分離フィルターの流出口より導入し、前記フィルター内に捕捉された白血球を回収する工程である。上記回収液は、培養や移植等に使用することができる溶液であれば特に限定されず、例えば、生理食塩水、リンゲル液、細胞培養に用いられる培地、リン酸緩衝液が挙げられる。
【0046】
また、上記回収液には2価カチオンキレート剤が含まれ、その濃度は0.003〜0.6%(W/V)であることが好ましく、0.03〜0.6%(W/V)であることがより好ましく、0.06〜0.6%(W/V)であることがさらに好ましく、0.3〜0.6%(W/V)であることが特に好ましい。回収液に含まれる2価カチオンキレート剤の濃度が0.003%(W/V)よりも小さいと、白血球回収率が低下する傾向がある。また、2価カチオンキレート剤の濃度が0.6%(W/V)よりも大きいと細胞へダメージを与えてしまう傾向がある。
【0047】
回収液に含まれる2価カチオンキレート剤は、2価カチオンをキレートする物質であれば特に限定されないが、具体的にはEDTA−2ナトリウム、EDTA−2カリウム、EDTA−3カリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カリウム、クエン酸、クエン酸−ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等が挙げられる。また、2価カチオンキレート剤として、入手の容易性の観点から、血液保存液として市販されているクエン酸およびその塩類を含む溶液がより好ましい。上記クエン酸およびその塩類を含む溶液として、例えば、ACD−A液、ACD−B液、CPD液等が挙げられる。また、分離効率を向上させるために、2価カチオンキレート剤の他に、さらにアルブミン等の蛋白質や、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン等を洗浄液に添加してもよい。工程(C)において、回収液を流出口へ導入する流量は、捕捉された細胞の効率的な回収のために、10〜100mL/秒であることが好ましい。
【0048】
本発明の細胞分離方法は、(洗浄液の2価カチオンキレート剤の濃度(W/V)):(回収液の2価カチオンキレート剤の濃度(W/V))が、1:200〜200:1であることを特徴とする。2価カチオンキレート剤の濃度比をこの範囲に設定することにより、白血球の回収率を向上し、赤血球の混入率を低減することができる。この範囲内で、当業者の目的に沿って自由に設計変更することができるが、白血球の回収率を向上するために、1:100〜100:1であることが好ましく、1:20〜20:1であることがより好ましく、1:10〜10:1であることがさらに好ましく、1:2〜2:1であることが特に好ましい。また、洗浄液と回収液を同一の溶液にすることで、分離工程を簡便にすることができる。
【0049】
本発明において、各工程で使用される細胞懸濁液、洗浄液、回収液を送液する手段としては、例えば、自然落下、ローラークランプ、ポンプ、またはシリンジ等が挙げられる。ローラークランプやポンプにより送液する場合には、送液速度が速過ぎると分離効率が落ち、遅過ぎると処理時間がかかる傾向があるため、送液速度は0.1〜100mL/分であることが好ましい。
【0050】
本発明の細胞分離方法を閉鎖的に行うには、下記のような回路を用いることが可能である。すなわち、細胞分離フィルターの流入口側に細胞懸濁液を収容する手段が配置され、流出口側に、細胞分離フィルターを通過した細胞懸濁液を収容する手段が配置される。
【0051】
また、細胞分離フィルターの流入口側、または流出口側に、回収液を収容する手段、または細胞分離フィルターを通過した回収液を収容する手段を配置することができる。なお、回収液を流す方向によって、回収液を収容する手段、および細胞分離フィルターを通過した回収液を収容する手段を、それぞれ細胞分離フィルターの流入口または流出口側のいずれに配置するか、適宜決定することができる。
【0052】
また、細胞分離フィルターの流出口側、または流入口側に、追加洗浄工程の洗浄液を収容する手段、または追加洗浄工程の細胞分離フィルターを通過した洗浄液を収容する手段を配置することができる。なお、追加洗浄工程の洗浄液を流す方向によって、追加洗浄工程の洗浄液を収容する手段、および追加洗浄工程の細胞分離フィルターを通過した洗浄液を収容する手段を、それぞれ流入口または流出口側のいずれに配置するか、適宜決定することができる。
【0053】
また、細胞分離フィルター内のエアーを除去し、細胞捕捉効率の向上と血液流路を確保する目的でプライミングする工程を実施する場合は、通常、細胞分離フィルターの流入口側、または流出口側に、プライミング溶液を収容する手段、または細胞分離フィルターを通過したプライミング溶液を収容する手段を配置することができる。なお、プライミング溶液を流す方向によって、プライミング溶液を収容する手段、および細胞分離フィルターを通過したプライミング溶液を収容する手段を、それぞれ流入口または流出口側のいずれに配置するか、適宜決定することができる。
【0054】
また、細胞懸濁液を収容する手段とは別個に回路を設けることも可能であり、あるいはこれらと差し替えて使用することも可能である。また、上記各手段は、本発明の細胞分離方法の各工程に応じて各活栓等が開閉される。またこれらの回路は液の流れを制御するために、三方活栓、ローラークレンメ、クランプ等も備えていることが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例において本発明に関して詳細に述べるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
高さ(内寸)12mm、直径(内径)44mmの容器に、直径44mmの丸型にカットしたポリエステル不織布(目付35g/m
2)を112枚充填し、細胞分離フィルターを作製した。細胞分離フィルターの流入口と流出口に
図2で示した回路を接続し、細胞分離操作を実施した。まず生理食塩水50mLを用いてプライミング操作を行い、廃液バッグに細胞分離フィルター通過液を回収した。
【0057】
次にCPDで抗凝固したウシ末梢血Aから遠心分離を行って得られたバフィーコート分画100mLを、重力により流入口から細胞分離フィルターに流し、通過液は廃液バッグに回収した。この際、容器の流入口を流出口より下にし、反重力方向に細胞懸濁液の通液を行った。次に溶液の流入口と流出口を反転させ、容器の流入口を流出口よりも上にした。
【0058】
流路を切り替え、0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水250mLを流入口より通液し、廃液バッグに回収した。
【0059】
最後に、0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水30mLを15mL/秒の流量で、シリンジを用いて手動で細胞分離フィルターの流出口より導入し、流入口に配置した回収バッグに回収した。
【0060】
処理前の細胞懸濁液、および処理後の回収液中の、白血球濃度、および赤血球濃度をそれぞれ血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定し、処理前の細胞懸濁液と回収液の体積より赤血球数と白血球数を算出した。さらに、赤血球に対する白血球の回収率比を算出した。結果は表1に示した。
【0061】
(比較例1)
洗浄液および細胞回収液として、0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水の代わりに生理食塩水を使用した以外は、実施例1と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0062】
(実施例2)
CPDで抗凝固したウシ末梢血Aから遠心分離を行って得られたバフィーコート分画の代わりに、CPDで抗凝固したウシ末梢血Bから遠心分離を行って得られたバフィーコート分画を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果は表1に示した。
【0063】
(実施例3)
洗浄液および細胞回収液として、0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水の代わりに0.003%(w/v)ACD−Aを含む生理食塩水を使用した以外は、実施例2と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0064】
(実施例4)
洗浄液および細胞回収液として、0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水の代わりに0.06%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水を使用した以外は、実施例2と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0065】
(実施例5)
洗浄液および細胞回収液として、0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水の代わりに0.6%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水を使用した以外は、実施例2と同様の操作を実施した。結果は表1に示した。
【0066】
(実施例6)
高さ(内寸)12mm、直径(内径)44mmの容器に、直径44mmの丸型にカットしたポリエステル不織布(目付35g/m
2)を112枚充填し、細胞分離フィルターを作製した。細胞分離フィルターの流入口と流出口に
図2で示した回路を接続し、細胞分離操作を実施した。まず生理食塩水50mLを用いてプライミング操作を行い、廃液バッグに細胞分離フィルター通過液を回収した。
【0067】
次にCPDで抗凝固したウシ末梢血Cから遠心分離を行って得られたバフィーコート分画100mLを、重力により流入口から細胞分離フィルターに流し、通過液は廃液バッグに回収した。この際、容器の流入口を流出口より下にし、反重力方向に細胞懸濁液の通液を行った。以下の操作も、この細胞分離フィルターの位置は固定したまま行った。
【0068】
流路を切り替え、0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水250mLを流入口より通液し、廃液バッグに回収した。
【0069】
次に0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水30mLを3.0mL/秒の流量で、シリンジを用いて手動で細胞分離フィルターの流出口より導入し、流入口に配置した容器に回収した。
【0070】
最後に、0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水30mLを15mL/秒の流量で、シリンジを用いて手動で細胞分離フィルターの流出口より導入し、流入口に配置した回収バッグに回収した。結果は表1に示した。
【0071】
(実施例7)
0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水30mLを細胞分離フィルターの流出口から3.0mL/秒の流量で導入する代わりに、0.008mL/秒の流量で導入した以外は、実施例6と同様の操作を行った。結果は表1に示した。
【0072】
(実施例8)
0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水30mLを細胞分離フィルターの流出口から3.0mL/秒の流量で導入する代わりに、10mL/秒の流量で導入した以外は、実施例6と同様の操作を行った。結果は表1に示した。
【0073】
(実施例9)
0.3%(w/v)ACD−A液を含む生理食塩水30mLを細胞分離フィルターの流出口から3.0mL/秒の流量で導入する工程を実施しなかった以外は、実施例6と同様の操作を行った。結果は表1に示した。
【0074】
【表1】