(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379049
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】多層建築物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/20 20060101AFI20180813BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20180813BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
E04B1/20 A
E04B1/26 A
E04B1/30 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-9421(P2015-9421)
(22)【出願日】2015年1月21日
(65)【公開番号】特開2016-132949(P2016-132949A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 伸二
(72)【発明者】
【氏名】能森 雅己
(72)【発明者】
【氏名】田中 敬二
(72)【発明者】
【氏名】大山 信一
(72)【発明者】
【氏名】仙名 修二
(72)【発明者】
【氏名】平松 真一
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 耕次
(72)【発明者】
【氏名】杉本 貴一
(72)【発明者】
【氏名】西出 直樹
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭47−045038(JP,A)
【文献】
実開昭52−020044(JP,U)
【文献】
特開2008−150868(JP,A)
【文献】
特開平08−135035(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0013255(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20
E04B 1/26
E04B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート造の少なくとも2層のスラブ(以下、“コンクリート造スラブ”とする)と、該少なくとも2層のコンクリート造スラブを略平行となるように配置する部材(以下、“コンクリート造スラブ配置部材”とする)と、からなるコンクリート造ユニットを備えた多層建築物において、
木造の少なくとも1層の床スラブ(以下、“木造床スラブ”とする)と、前記コンクリート造ユニットにおける一のコンクリート造スラブと他のコンクリート造スラブとの間に該コンクリート造スラブと略平行となるように前記木造床スラブを配置する部材(以下、“床スラブ配置部材”とする)と、からなる木造ユニット、
を備えたことを特徴とする多層建築物。
【請求項2】
前記木造床スラブは、材木、又は材木を鋼材や繊維材や樹脂材により補強してなる木質ハイブリッド部材により構成された、
ことを特徴とする請求項1に記載の多層建築物。
【請求項3】
前記木造床スラブは、少なくとも一部が木製であって、該一部を取り除くことにより下階と上階とが連通するように構成された、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の多層建築物。
【請求項4】
前記コンクリート造ユニットが複数積み重ねられてなる、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造のスラブ及び柱からなるコンクリート造ユニットの間に、木造のスラブ及び柱からなる木造ユニットを配置した多層建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層建築物(複数層建築物)としては、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造のものが一般的である。
【0003】
しかしながら、近年は、木造による多層建築物が注目を浴びつつあり、種々の構造のものが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
注目を浴びる理由としては様々な理由があるが、一つには、国内の木材が有効利用されていないことや、鉄筋コンクリート造等の建築に比べてCO
2の排出量が少なくなること等を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−193546号公報
【特許文献2】特開2014−58813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、木造で多層建築物を構築する場合には使用する部材(木造の柱やスラブ等)の強度を十分に確保する必要があった。
【0007】
本発明は、上述の問題を解消することのできる多層建築物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、
図1乃至
図3に例示するものであって、コンクリート造の少なくとも2層のスラブ(符号A1,A2参照。以下、“コンクリート造スラブ”とする)と、該少なくとも2層のコンクリート造スラブ(A1,A2)を略平行となるように配置する部材(符号A3参照。以下、“コンクリート造スラブ配置部材”とする)と、からなるコンクリート造ユニット(A)を備えた多層建築物(1)において、
木造の少なくとも1層の床スラブ(符号B1参照。以下、“木造床スラブ”とする)と、前記コンクリート造ユニット(A)における一のコンクリート造スラブ(A1)と他のコンクリート造スラブ(A2)との間に該コンクリート造スラブ(A1,A2)と略平行となるように前記木造床スラブ(B1)を配置する部材(符号B2参照。以下、“床スラブ配置部材”とする)とからなる木造ユニット(B)、を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記木造床スラブ(B1)が、材木、又は材木を鋼材や繊維材や樹脂材により補強してなる木質ハイブリッド部材により構成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記木造床スラブ(B1)が、少なくとも一部が木製であって、該一部を取り除くことにより下階と上階とが連通するように構成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、前記コンクリート造ユニット(A)が複数積み重ねられてなることを特徴とする。
【0012】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1乃至4に係る発明によれば、前記木造ユニットを収容するように前記コンクリート造ユニットが配置されているので、建築物全体の耐震性は該コンクリート造ユニットに担わせることができる。したがって、各木造床スラブや各床スラブ配置部材に要求される強度は、前記コンクリート造ユニットを使用しない場合に比べて低くできる。また、鉄筋コンクリート造等のものに比べて加工が容易な木造床スラブを使用しているため、天井高を高くしたりするような様々なリフォームを比較的容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る多層建築物の構造の一例を示す正面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す多層建築物の外観を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る多層建築物の内部構造の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明に係る多層建築物の2階の構造の一例を示す平面図であり、同図(b)は、1階の構造の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1乃至
図4に沿って、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明に係る多層建築物は、
図1及び
図2に符号1で例示するものであって、
・ コンクリート造の少なくとも2層のスラブ(以下、“コンクリート造スラブ”とする)A1,A2と、該少なくとも2層のコンクリート造スラブA1,A2を略平行となるように配置する部材(以下、“コンクリート造スラブ配置部材”とする)A3と、からなるコンクリート造ユニットAと、
・ 木造の少なくとも1層の床スラブ(以下、“木造床スラブ”とする)B1と、前記コンクリート造ユニットAにおける一のコンクリート造スラブA1と他のコンクリート造スラブA2との間に該コンクリート造スラブA1,A2と略平行となるように前記木造床スラブB1を配置する部材(以下、“床スラブ配置部材”とする)B2と、からなる木造ユニットBと、
を備えている(該木造ユニットBは前記コンクリート造ユニットAにおける一のコンクリート造スラブA1と他のコンクリート造スラブA2との間に配置されるように構成されている)。つまり、本発明に係る建築物1は、少なくとも1層のコンクリート造スラブA1と少なくとも1層の木造床スラブB1とを有することとなり、それらのスラブA1,B1によって多層の建築物を構成することとなる。
【0017】
ここで、前記コンクリート造スラブA1,A2としては、
・ 土間コンクリートのようにコンクリートのみで構成されたもの(鉄筋や鉄骨やデッキプレートなどを有さないもの)や、
・ 鉄筋コンクリート造のものや、
・ 鉄骨鉄筋コンクリート造のものや、
・ 鉄骨コンクリート造のものや、
・ デッキプレート(Sデッキプレート)と鉄筋とをコンクリートに埋設したもの
などを挙げることができる。また、前記コンクリート造ユニットにおける“少なくとも2層のスラブ”の組み合わせとしては、具体的には、
・ 土間スラブと床スラブ
・ 土間スラブと天井スラブ
・ 床スラブと床スラブ
・ 床スラブと天井スラブ
の組み合わせを挙げることができる。
【0018】
さらに、前記コンクリート造スラブ配置部材としては、
・ 鉄骨及び/又は鉄筋を含むコンクリート造の柱や壁、又は、
・ 組石造壁
などを挙げることができる。
【0019】
なお、
図1及び
図2に示す例では、前記コンクリート造ユニットAは複数積み重ねられているが、1層だけ配置したものを本発明の範囲から排除するものではない。また、
図1及び
図2に示す例では、前記コンクリート造ユニットAは2層積み重ねられているが、もちろんこれに限られるものではなく、3層以上積み重ねるようにしても良い。さらに、前記コンクリート造ユニットAを複数層積み重ねる場合は、下側に配置されるコンクリート造ユニットAの上側のスラブと、上側に配置されるコンクリート造ユニットAの下側のスラブとを同一のスラブとしても良い。またさらに、
図1及び
図2に示す木造ユニットBにおける木造床スラブB1は1層だけであるが、もちろんこれに限られるものではなく、2層以上設けるようにしても良い。
【0020】
一方、
図1中の符号2は人工地盤を示し、符号3は免震装置を示している。
【0021】
本発明によれば、前記木造ユニットBを収容するように前記コンクリート造ユニットAが配置されているので、建築物全体の耐震性は該コンクリート造ユニットAに担わせることができる。したがって、各木造床スラブB1や各床スラブ配置部材B2に要求される強度は、前記コンクリート造ユニットAを使用しない場合に比べて低くできる。
【0022】
また、本発明に係る多層建築物1は前記木造床スラブB1を有しているが、該木造床スラブB1は、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造のスラブよりも加工が比較的容易であるため、前記木造床スラブB1を加工することによって該多層建築物1のリフォームを容易に行うことができる。例えば、前記木造床スラブB1の一部に開口部を形成して吹抜け(
図4(a)の符号C1,C2,C3参照)を形成することも比較的容易となる。また、該木造床スラブB1を取り外せば天井高が高くて広い空間を得ることができるので、高い天井高が必要な映画館やコンサートホールなどもリフォームにより構築することができる。
【0023】
ところで、上述した木造床スラブB1は、
・ 材木のみにより構成しても、或いは、
・ 材木を鋼材や繊維材や樹脂材により補強してなる木質ハイブリッド部材により構成しても、
どちらでも良い。なお、前記木造床スラブB1は、少なくとも一部が木製であって(つまり、上述の鋼材や繊維材や樹脂材が配置されておらずに材木のみで構成された部分を有し)、該一部を取り除くことにより下階と上階とが連通するように構成しておくと良い。そのようにした場合には、上述のような吹抜けを容易に構築することができる。
【0024】
また、前記床スラブ配置部材としては、
(1) 前記木造床スラブB1に立設されるように配置される柱状又は脚状の部材や、
(2) 該木造床スラブB1を上側のコンクリート造スラブA1から吊り下げるための部材や、
(3) 該木造床スラブB1を前記コンクリート造スラブ配置部材A3に取り付けるための何らかの部材(例えば、アンカーボルトなどの取付金具)
などを挙げることができる。上記(1)の部材は、
・ 材木のみにより構成しても、
・ 材木を鋼材や繊維材や樹脂材により補強してなる木質ハイブリッド部材により構成しても、
・ 金属により構成しても、
どちらでも良い。また、上記(2)や(3)の部材は金属等で構成すると良い。
【0025】
ところで、
図2には、コンクリート造スラブA1,A2とコンクリート造スラブ配置部材A3とが開示されているだけであってコンクリート造の壁は開示されていないが、もちろんこれに限られるものではなく、コンクリート造の壁(耐震壁)を設けるようにしても良い。
【0026】
なお、前記コンクリート造ユニットAを複数層積み上げる場合には、下層のコンクリート造ユニットAには強度の高いコンクリートを使用し、上層のコンクリート造ユニットAには低強度のコンクリートを使用すると良い。
【0027】
なお、緊急避難用の階段等は鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の構造物の中に配置すると良い。
【0028】
なお、本発明に係る多層建築物は、集合住宅やオフィスビルや商業施設として利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 多層建築物
A コンクリート造ユニット
A1,A2 コンクリート造スラブ
A3 コンクリート造スラブ配置部材
B 木造ユニット
B1 木造床スラブ
B2 床スラブ配置部材