(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周知のように、樹脂成形品は、金型のキャビティに対して溶融樹脂材料を流し込み、この溶融樹脂材料を冷却することによって形成される。ここで、冷却後の樹脂成形品を金型から容易に取り外せるよう、金型の一部に対して押上ブロックを設ける場合がある。このような押上ブロックは、冷却後の樹脂成形品を押し上げることによって、樹脂成形品を金型から剥離させる。
【0005】
しかしながら、このような押上げブロックの存在に起因して、樹脂成形品の表面に分割線(入れ子線とも言う)が形成されてしまう。押上ブロックは、樹脂成形品を剥離させるときに、金型の他の部位(例えばコア型)に対して移動する。このため、押上ブロックと金型の他の部位との間には僅かな隙間や段差が生じる。このような隙間や段差は極めて微小であるものの、溶融樹脂材料が流れ込むことにより分割線を生じさせることになる。なお、この分割線は、押上ブロックを設ける場合のみならず、スライド金型を設けた場合にも、スライド金型と他の部位との間に生じる隙間や段差によって発生する。
【0006】
このような分割線は、本来であれば溶融樹脂材料が流れ込まない領域に流れ込むことによって形成されるものであり、周囲の面に対して僅かに突出した形状となる。このような分割線が生じた樹脂成形品をそのままにして車体に対して取り付けると、取付時に分割線が車体に当たり、車体の塗装面等を傷つける場合がある。特に、樹脂成形品に対してめっき処理を施した場合には、分割線上に金属層が形成され、突出量が増大するため、より車体を傷つける可能性が高まる。このため、分割線を取り除く平坦化処理や保護テープを貼付等の後加工が必要となっており、組立作業の効率悪化を招いている。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、金型により成形される車両用樹脂成形品でおいて、成形後の後加工を行うことなく取付時の車体への損傷を防止可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、金型により成形される車両用樹脂成形品であって、成形時に生じる分割線の発生領域に形成される溝部を有するという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、車両取付後に外部から視認可能な意匠部と、車両取付後に車体に当接されると共に上記車体により被覆される当接部とを有し、上記当接部に対して上記溝部及び上記分割線が形成されているという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記分割線が、全長に亘って上記溝部の底部に形成されているという構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分割線の発生領域に溝部が設けられている。このため、分割線が溝部の内部に形成されることになり、分割線が周囲の面から突出することを防止することができる。このような本発明の車両用樹脂成形品を車体に対して取り付ける場合には、分割線が周囲の面から突出しないことから、分割線が車体に当たることを防止することができる。したがって、分割線によって車体が傷つくことを防止することができる。よって、本発明によれば、成形後の後加工を行うことなく取付時の車体への損傷を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両用樹脂成形品の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また、以下の実施形態では、本発明の車両用樹脂成形品をフロント用外装パーツに適用した例について説明を行う。
【0015】
図1は、本実施形態のフロント用外装パーツ1(車両用樹脂成形品)の概略構成を示す図であり、(a)が斜視図であり、(b)が(a)のA−A線断面図である。これらの図に示すように、本実施形態のフロント用外装パーツ1は、長尺状の部品であり、長手方向を水平にして車体のフロントに対して取り付けられる。このような本実施形態のフロント用外装パーツ1は、本体部2と、当該本体部2を車体X(
図1(b)参照)に接続する接続部3とを有している。
【0016】
本体部2は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、フロント用外装パーツ1を車体Xに対して取り付けた場合に、外部から視認できる部位である意匠部2aと、外部から視認されない部位である当接部2bとに分けることができる。意匠部2aは、
図1(b)に示すように、平板状の中央部2a1と、当該中央部2a1の両端(
図1(b)における上下両端)に接続されると共に中央部2a1から車体X側に屈曲するように設けられる端部2a2とを有しており、断面形状が略Uの字状とされている。
【0017】
当接部2bは、意匠部2aが有する2つの端部2a2のうち1つ(
図1(b)における下側の端部2a2)に対して、当該端部2a2を延長するように接続されている。この当接部2bの厚さは、意匠部2aの端部2a2と略同一とされている。また当接部2bの長さは、フロント用外装パーツ1の全長と一致する長さとされている。この当接部2bは、フロント用外装パーツ1を車体Xに対して取り付けた場合に、車体Xに対して当接する部位であり、車体Xに被覆されることによって外部から視認することできない。
【0018】
また、当接部2bは、溝部2b1と、分割線2b2とを有している。溝部2b1は、当接部2bの表面(
図1(b)の下面)であって分割線2b2の発生領域に形成されている。この溝部2b1は、分割線2b2が全長に亘って溝部2b1の底部に形成されるように幅及び長さが設定されている。つまり、溝部2b1の幅は、分割線2b2の幅よりの広く設定されている。また、溝部2b1の長さは、分割線2b2の長さと一致するように設定されている。なお、
図1(a)に示すように、分割線2b2は、当接部2bに対して2本形成されている。このため、溝部2b1は、各々の分割線2b2の発生領域に設けられることによって2つ設けられている。分割線2b2は、本実施形態のフロント用外装パーツ1の成形時に余剰物として生じる直線状の突出部である。本実施形態のフロント用外装パーツ1において分割線2b2は、溝部2b1の底部に発生しており、溝部2b1の底部から溝部2b1の深さを超えない高さで設けられている。
【0019】
このような意匠部2aと当接部2bとからなる本体部2の表面には、必要に応じてメッキ処理が施される。本体部2の表面に対してメッキ処理が施されることによって、外部から視認される領域に金属調の光沢が付与される。これによって、本実施形態のフロント用外装パーツ1が取り付けられた車両の外観デザインが向上される。
【0020】
接続部3は、意匠部2aの中央部2a1の裏面より車体X側に延在するプレート状の部位である。この接続部3は、本体部2の長手方向に複数設けられている。これらの接続部3は、車体Xに対して固定される部位であり、本体部2を車体Xに対して接続する。
【0021】
次に、上述のような構成を有する本実施形態のフロント用外装パーツ1の製造方法について説明する。
【0022】
図2は、本実施形態のフロント用外装パーツ1の成形を行う金型10の一部を概略的に示す縦断面図である。
図2に示すように、金型10は、固定金型11と、可動金型12と、押上ブロック13とを備えている。固定金型11と可動金型12とは、対向配置されている。可動金型12は、不図示の移動機構により、固定金型11に対して接離可能とされている。これらの固定金型11と可動金型12とは、当接した場合に、その境界部分にフロント用外装パーツ1の形状とされたキャビティが形成されるよう、形状設定されている。
【0023】
押上ブロック13は、可動金型12に埋設されるように設けられており、不図示の押上げ機構によって昇降可能とされている。この押上ブロック13は、
図2に示すように、フロント用外装パーツ1の当接部2bを下方から支えかつ両側から挟むように略U字状に形状設定されている。
【0024】
また、
図3は、押上ブロック13とフロント用外装パーツ1との関係を模式的に示す図であり、
図2の矢印B方向から見た矢視図である。この図に示すように、押上ブロック13は、フロント用外装パーツ1の長手方向における中央部のみに設けられている。つまり、フロント用外装パーツ1の長手方向において、中央部にのみ押上ブロック13が設けられ、その周囲は可動金型12となっている。
【0025】
また、
図4は、
図2の矢印C方向から見た矢視図である。この図に示すように、可動金型12と押上ブロック13とには、フロント用外装パーツ1に溝部2b1を形成するための突出部14を有している。この突出部14は、押上ブロック13の端部に設けられた凸部14aと、可動金型12の端部(押上ブロック13の端部と当接する部位)に設けられた凸部14bとが合わさることによって形成されている。このような突出部14は、
図4に示すように、可動金型12と押上ブロック13との境界を含むように設けられており、当該境界によって生じる分割線2b2の発生領域に溝部2b1を形成する。
【0026】
なお、図示していないが、固定金型11には射出成形機との位置決めを行うロケートリングや、キャビティに供給される溶融樹脂材料を案内するスプール等の周知の機構が設けられている。
【0027】
このような金型10によって本実施形態のフロント用外装パーツ1を形成する場合には、固定金型11と可動金型12とを当接させてキャビティを形成し、このキャビティに溶融樹脂材料を供給する。その後、溶融樹脂材料を冷却して固化させることによって成形する。このように溶融樹脂材料を固化させることによってフロント用外装パーツ1の形状が作られる。そして、溶融樹脂材料が固化された後に、可動金型12を固定金型11から離間させ、可動金型12に貼り付いたフロント用外装パーツ1を押上ブロック13を押し上げることによって可動金型12から剥離する。これによってフロント用外装パーツ1が形成される。なお、その後の必要に応じて、フロント用外装パーツ1にメッキ処理等が行われる。
【0028】
以上のような本実施形態のフロント用外装パーツ1は、
図5に示すように、当接部2bの下にして、当接部2bを車体Xに対して摺動あるいは近接させた状態で移動することによって車体Xに対して取り付けられる。
【0029】
ここで、本実施形態のフロント用外装パーツ1においては、当接部2bの分割線2b2の発生領域に溝部2b1が設けられている。このため、分割線2b2が溝部2b1の内部に形成されることになり、分割線2b2が当接部2bの表面から突出することを防止することができる。このような本実施形態のフロント用外装パーツ1を車体Xに対して取り付ける場合には、分割線2b2が当接部2bの表面から突出しないことから、分割線2b2が車体Xに当たることを防止することができる。したがって、分割線2b2によって車体Xが傷つくことを防止することができる。よって、本実施形態のフロント用外装パーツ1によれば、成形後において分割線2b2に対する後加工を行うことなく取付時の車体Xへの損傷を防止することができる。
【0030】
また、本実施形態のフロント用外装パーツ1においては、本体部2が、車両取付後に外部から視認可能な意匠部2aと、車両取付後に車体Xに当接されると共に車体Xにより被覆される当接部2bとを有している。また、この本体部2において、当接部2bに対して溝部2b1及び分割線2b2が形成されている。このような本実施形態のフロント用外装パーツ1によれば、車体Xへの取付後に外部から視認されることのない当接部2bに対して溝部2b1が形成されている。したがって、溝部2b1が車両の外観デザインに影響を与えることを防止することができる。
【0031】
また、本実施形態のフロント用外装パーツ1においては、分割線2b2が、全長に亘って溝部2b1の底部に形成されている。このため、分割線2b2が一部も当接部2bの表面から突出しておらず、より確実に車体Xへの損傷を防止することができる。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態においては、本発明の車両用樹脂成形品がフロント用外装パーツ1である構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、他の車両用樹脂成形品に適用可能である。例えば、バックドアフィニッシャやサッシュカバーに本発明の車両用樹脂成形品を適用することも可能である。
【0034】
また、上記実施形態においては、分割線2b2が、可動金型12と押上ブロック13との境界によって生じる例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、金型10がスライドを有している場合には可動金型12とスライドとの境界によって生じる分割線の突出を防止するために溝部を設ける構成に適用することも可能である。
【0035】
また、上記実施形態においては、2本の分割線2b2の各々に対して溝部2b1を形成する構成について説明した。しかしながら、例えばさらに多数の分割線2b2を有し、全ての分割線2b2に対して溝部2b1を設ける構成を採用することも可能である。ただし、複数の分割線が存在する場合に、必ずしも全ての分割線に対して溝部を設ける必要はない。例えば、車両用樹脂成形品の車体への取付時に、車体に対して接触する心配のない部位に形成される分割線に対しては、溝部を設けなくとも良い。このように、車体に対して接触する心配がある分割線のみに溝部を設けることによって、溝部の数を減少させ、例えば金型の形状を単純化することが可能となる。