特許第6379076号(P6379076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6379076単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法及びウェットエッチング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379076
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法及びウェットエッチング装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20180813BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20180813BHJP
   C30B 33/10 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01L21/308 C
   H01L21/66 N
   C30B33/10
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-161965(P2015-161965)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-41526(P2017-41526A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2017年3月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253226
【氏名又は名称】濱田重工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】阿部 耕三
【審査官】 鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−185335(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/147605(WO,A1)
【文献】 特開昭51−047372(JP,A)
【文献】 特開平09−241419(JP,A)
【文献】 特開昭50−087577(JP,A)
【文献】 特開2005−158961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 3/00−3/60
B24B 21/00−39/06
C30B 1/00−35/00
H01L 21/306−21/3063
H01L 21/308
H01L 21/465−21/467
H01L 21/64−21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
KMnOとNaOHとを含有するウェットエッチング液により単結晶SiCウェハをウェットエッチングすることを特徴とする単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法。
【請求項2】
請求項1記載の単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法において、前記ウェットエッチング液は、KMnO、NaOH、及びHOの質量比がKMnO:NaOH:HO=1:2〜13:4〜27であることを特徴とする単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法において、前記ウェットエッチング液の温度は50℃〜140℃であることを特徴とする単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法に使用されるウェットエッチング装置であって、
単結晶SiCウェハによって下面が封止され、前記ウェットエッチング液を内部に保持する筒体と、前記筒体内の前記ウェットエッチング液を加熱するヒータと、前記筒体内の前記ウェットエッチング液を撹拌する撹拌手段と、前記単結晶SiCウェハの下方に配置され、該単結晶SiCウェハの加工面を撮像する撮像装置とを備えることを特徴とする単結晶SiCウェハのウェットエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶SiCウェハの加工ダメージ除去や結晶欠陥の評価に適したウェットエッチング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、既存の半導体材料であるシリコン(Si)に比べて、広いバンドギャップ、高い絶縁破壊電界強度、高い熱伝導率等の優れた物性を有しているため、大電力制御や省エネルギーを可能とするパワーデバイス用の半導体材料として期待されている。
【0003】
半導体ウェハの製造工程は一般に、単結晶インゴットをスライスしたウェハを、面取り、機械研磨(ラッピング)、研削、エッチング、鏡面研磨(ポリシング)、及び洗浄するプロセスから構成されている。例えば、シリコンウェハの場合は、フッ硝酸などの強酸を用いるエッチングによってラッピングや研削などの機械加工工程で生じた残留クラック層や加工歪み層などのいわゆる加工ダメージ層を溶解除去することで、ポリシング後の加工キズの残留や発生を防止している。
【0004】
単結晶SiCウェハの製造においても、ラッピングや研削工程などの機械加工で発生する加工ダメージ層を完全に除去してポリシングすることが望ましい。そのためにはシリコンウェハと同様に、これらの加工ダメージ層を低コストで工業的に安全な方法でエッチングすることが必要となる。
【0005】
単結晶SiCは、その化学的安定性ゆえに通常の酸やアルカリ水溶液に難溶であるため、例えば結晶欠陥の評価などを目的として、高温の溶融塩を用いてウェットエッチングが行われている。なかでも水酸化カリウム(KOH)融液が最も広く用いられている。KOH融液を用いた単結晶SiCウェハの欠陥検出エッチングは一般に次のように行われる(非特許文献1参照)。
白金もしくは高純度ニッケル製の坩堝にKOH粉を入れ、これらを500℃〜530℃に加熱してKOHを融液状態とし、KOH融液中に単結晶SiCウェハを数分から10分程度浸漬してエッチングする。この処理によって生じたエッチピットを光学顕微鏡などを用いて観察し、その形態から結晶成長の過程で発生した結晶欠陥を判別する。
【0006】
また、特許文献1には、溶融KOH(460℃〜600℃)にNa,BaO,NaNO,KNOの少なくとも1種を添加したエッチング液によりn型単結晶SiCをエッチングし、形成されたエッチピットにより結晶の欠陥を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−151317号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松波弘之,外3名,「半導体SiC技術と応用」,第2版,日刊工業新聞社,2011年9月,p.213−214
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法では、KOH融液を使用するため、KOHの融点(360℃)以上の高温域でのエッチング作業が必要となる。強アルカリ性のKOHは劇物であり、作業中の安全確保に十分配慮しなければならないだけでなく、エッチングレート(エッチング速度)が高く、加工ダメージ層を除去すると同時に、結晶欠陥に起因する深いエッチピットも多発する。そのため、適切な量にエッチング制御することが難しく、加工プロセスへの適用は不向きである。単結晶SiCウェハの量産に適用可能なウェットエッチング技術としては、KOHの融点である360℃を大幅に下回る低温域で加工ダメージ層を除去することが可能なエッチング技術が求められてきているが、公知の文献では、例えば200℃以下でのウェットエッチングが可能な技術はない。
【0010】
このように、現時点においては、360℃以下の低温域において単結晶SiCウェハの加工ダメージを除去できる適切なエッチング方法が無いことから、SiCウェハの加工プロセスにおいて機械加工後の加工ダメージを完全に除去できていない懸念がある。従って、ポリシング前の工程で生じた残留加工ダメージが、ポリシング後の工程で発現する潜傷(ウェハ表面下に残存するスクラッチ状の歪)の一因となっている可能性も否定できない。
一方、このような低温域で単結晶SiCのウェットエッチングが可能となれば、結晶欠陥の評価を、より安全かつ低コストで手軽に行うことが可能となり、結晶性改善のための研究開発や実製造におけるインゴットの良否判別を効率的に行うことができるようになる。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、単結晶SiCウェハの加工ダメージを、従来に比べて大幅に低い温度域で適切に除去することができるウェットエッチング方法及びウェットエッチング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法は、KMnOとNaOHとを含有するウェットエッチング液により単結晶SiCウェハをウェットエッチングすることを特徴としている。
【0013】
本発明では、KMnOとNaOHとを含有するウェットエッチング液を用いて単結晶SiCウェハをウェットエッチングすることにより、従来に比べて大幅に低い温度域でエッチング作業を行うことができる。その結果、エッチングレートを加工プロセスに適した速度とすることができる。
【0014】
また、第1の発明に係る単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法では、前記ウェットエッチング液は、KMnO、NaOH、及びHOの質量比がKMnO:NaOH:HO=1:2〜13:4〜27であることを好適とする。
【0015】
KMnOに対するNaOHの質量比が2未満であると、KMnOによって酸化された単結晶SiCウェハの表面の生成物が効果的に除去されずエッチングレートが低くなる。一方、13超であると、KMnOによる単結晶SiCウェハの酸化作用が影響を受け、この場合もエッチングレートが低くなる。
また、KMnOに対するHOの質量比が4未満であると、KMnOがHOに溶解せずに沈殿したままになる場合があり、エッチングに寄与せず不必要に廃棄されて無駄になる場合がある。一方、27超であると、エッチング液中に存在するKMnOの量が少ないため、KMnOによる単結晶SiCウェハの酸化効率が低くなりエッチングレートが低くなる。
【0016】
また、第1の発明に係る単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法では、前記ウェットエッチング液の温度は50℃〜140℃であることを好適とする。
【0017】
ウェットエッチング液の温度が50℃未満であると、エッチングレートが低くなり工業的な利用効率が悪くなる。一方、140℃超であると、特にC面側の表面の荒れが大きくなってしまい、製品として不向きとなる。
【0020】
また、第の発明は、第1の発明に係る単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法に使用されるウェットエッチング装置であって、
単結晶SiCウェハによって下面が封止され、前記ウェットエッチング液を内部に保持する筒体と、前記筒体内の前記ウェットエッチング液を加熱するヒータと、前記筒体内の前記ウェットエッチング液を撹拌する撹拌手段と、前記単結晶SiCウェハの下方に配置され、該単結晶SiCウェハの加工面を撮像する撮像装置とを備えることを特徴としている。
【0021】
本発明では、単結晶SiCウェハの一方の加工面のみエッチング液に曝されるので、一方の加工面のみのエッチングが可能となる。また、単結晶SiCウェハが透明な状態となっていれば、単結晶SiCウェハの一方の加工面のエッチング状態を他方の加工面側から観察することができる。単結晶SiCウェハの下方に配置した撮像装置で単結晶SiCウェハの一方の加工面を他方の加工面側から撮像することにより、単結晶SiCウェハの一方の加工面のエッチング状態をリアルタイムで観察することができる。
【発明の効果】
【0022】
1の発明では、KMnOとNaOHとを含有するウェットエッチング液を用いて単結晶SiCウェハをエッチングすることにより、従来に比べて大幅に低い温度域において加工プロセスに適したエッチングレートでエッチング作業を行うことができる。その結果、単結晶SiCウェハの加工ダメージを適切に除去することができる。
【0023】
の発明では、単結晶SiCウェハの一方の加工面のみエッチングすることができるだけでなく、単結晶SiCウェハの下方に配置した撮像装置で単結晶SiCウェハの一方の加工面を他方の加工面側から撮像することにより、単結晶SiCウェハの一方の加工面のエッチング状態をリアルタイムで観察することができる
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法を説明するための模式図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法に使用するエッチング装置の模式図である。
図3】第1の試験における実施例と比較例1、2のエッチングレートを対比させたグラフである。
図4】第1の試験における(A)浸漬前と(B)浸漬後の実施例のSi面の表面状態を比較した画像写真である。
図5】第1の試験における(A)浸漬前と(B)浸漬後の実施例のC面の表面状態を比較した画像写真である。
図6】第1の試験における(A)浸漬前と(B)浸漬後の比較例1のSi面の表面状態を比較した画像写真である。
図7】第1の試験における(A)浸漬前と(B)浸漬後の比較例1のC面の表面状態を比較した画像写真である。
図8】第1の試験における(A)浸漬前と(B)浸漬後の比較例2のSi面の表面状態を比較した画像写真である。
図9】第1の試験における(A)浸漬前と(B)浸漬後の比較例2のC面の表面状態を比較した画像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0026】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法の手順を図1を用いて説明する。
(1)エッチング開始前に、単結晶SiCウェハ10の表面状態を表面形状測定機、レーザー顕微鏡、電子顕微鏡等を用いて観察すると共に、単結晶SiCウェハ10の質量を測定しておく。
(2)KMnO水溶液とNaOH水溶液とを透明の耐熱容器12に注いで混合し、ウェットエッチング液11を作製する。なお、ウェットエッチング液11に含まれるKMnO、NaOH、及びHOの質量比はKMnO:NaOH:HO=1:2〜13:4〜27であることが好ましい。
使用するKMnO及びNaOHの量、並びにエッチング時の処理温度は、エッチングする単結晶SiCのサイズや数量、所望するエッチング時間、得ようとするエッチング面の状態によって調整することが望ましい。例えば少量の単結晶SiCウェハをウェットエッチングする場合、室温でKMnOやNaOHを概ね溶解度程度すなわち飽和濃度程度まで溶解したウェットエッチング液とすることで、作液が容易となり簡便なウェットエッチングが可能となる。このような液を例えば100℃まで加温した場合、溶解度に対する濃度の比はKMnOの場合で概ね30%以下、NaOHの場合で少なくとも溶解度の概ね65%以下となるが、これらの濃度でもウェットエッチングは可能である。
【0027】
(3)ウェットエッチング液11を保持する耐熱容器12をヒータ13の上に載置し、ウェットエッチング液11を加熱する。その際、ウェットエッチング液11の温度は50℃〜140℃であることが好ましく、80℃〜120℃とすることがより好ましい。これらの温度はエッチングレートやエッチングされた単結晶SiCウェハの表面状態や加温することによるウェットエッチング液の蒸発量によって調整することが望ましい。
(4)耐熱容器12に単結晶SiCウェハ10を投入して単結晶SiCウェハ10をウェットエッチング液11に浸漬し、単結晶SiCウェハ10加工面の状態を観察する。浸漬時間は10分〜30分程度とする。浸漬時間が短い場合は、単結晶SiCウェハの表面状態やエッチング量の測定結果から追加エッチングすることが可能である。加温してウェットエッチング液が沸騰してもエッチングは可能であるが、ウェットエッチング液が減少してしまうため、ウェットエッチング液の沸点以下でエッチング処理をすることが望ましい。なお、ウェットエッチング液の沸点は、投入するKMnOやNaOHの量によって上昇するため、使用する配合によって沸点が変わる。そのため予め確認しておくことが好ましい。
【0028】
(5)浸漬した単結晶SiCウェハ10をウェットエッチング液11から取り出して洗浄し、単結晶SiCウェハ10の質量を測定する。
(6)浸漬前後における単結晶SiCウェハ10の質量差からエッチング量を算出する。そして、エッチング量及び浸漬時間からエッチングレートを算出する。また、浸漬後における単結晶SiCウェハ10の表面状態を表面形状測定機、レーザー顕微鏡、電子顕微鏡等を用いて観察する。
なお、本実施形態におけるエッチングレートは、単結晶SiCウェハ10のSi面(一方の加工面)のエッチングレートとC面(他方の加工面)のエッチングレートを合算した値となる。
【0029】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る単結晶SiCウェハのウェットエッチング方法では、図2に示すウェットエッチング装置20を使用する。
ウェットエッチング装置20は、単結晶SiCウェハ10によって下面が封止され、ウェットエッチング液11を内部に保持する円筒状の筒体21と、筒体21内のウェットエッチング液11を加熱するヒータ23と、筒体21内のウェットエッチング液11を撹拌する撹拌羽根22(撹拌手段の一例)と、単結晶SiCウェハ10の下方に配置され、単結晶SiCウェハ10の加工面を撮像するCCDカメラ24(撮像装置の一例)とを備えている。CCDカメラ24は、XYステージなどで移動可能とすることによって単結晶SiCウェハの任意の位置を観察することができる。
なお、単結晶SiCウェハ10の周縁部からウェットエッチング液11が漏れ出ないように、単結晶SiCウェハ10の周縁部は、図示しないOリング等を介して筒体21の下端部に水密に装着されている。
【0030】
次に、ウェットエッチング装置20を用いた単結晶SiCウェハ10のウェットエッチング方法の手順を説明する。
(1)第1の実施形態と同様、ウェットエッチング開始前に、単結晶SiCウェハ10の表面状態を電子顕微鏡等を用いて観察すると共に、単結晶SiCウェハ10の質量を測定しておく。なお、単結晶SiCウェハ10はCCDカメラ24を用いて透過観察できるように予め透明な状態に加工しておくことが望ましい。
(2)筒体21内を、KMnOとNaOHとを含有するウェットエッチング液11で満たした後、筒体21内のウェットエッチング液11を撹拌羽根22で撹拌しながら、ヒータ23で加熱する。ウェットエッチング液11の配合や加熱温度は第1の実施形態と同様である。
【0031】
(3)筒体21の下面に配置された単結晶SiCウェハ10の一方の加工面のエッチング状態をCCDカメラ24で定期的あるいは適時撮像する。撮像した画像をモニター(図示省略)等に出力し、エッチング中における単結晶SiCウェハ10の一方の加工面の状態をリアルタイムで観察する。このように、本実施の形態によれば、エッチングによって時間とともに変化する加工ダメージの形態変化や結晶欠陥に起因するエッチピットの形態変化を刻々と観察できるようになり、過剰エッチングを防ぐための条件を的確に設定することができる。従来はエッチング前後でしかウェハの表面状態を観察することができず、またエッチング速度も速いため、適正なエッチング条件を決めるにはトライアンドエラーでの繰り返し試行が必要であった。
(4)単結晶SiCウェハ10加工面の状態観察が終了した時点で、単結晶SiCウェハ10をエッチング装置20から取り外して洗浄する。そして、単結晶SiCウェハ10の質量を測定し、浸漬前後における単結晶SiCウェハ10の質量差からエッチング量を算出する。そして、エッチング量及び浸漬時間からエッチングレートを算出する。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施形態や変形例も含むものである。
【実施例】
【0033】
本発明の効果について検証するために実施した検証試験について説明する。
[第1の試験]
単結晶SiCウェハには、オフ角4°の単結晶3インチ4H−SiCウェハを使用した。なお、単結晶SiCウェハの加工面はダイヤモンドポリシングされている。
【0034】
単結晶SiCウェハのエッチングは第1の実施形態と同様の方法で行った。具体的には、ウェットエッチング液をビーカーに入れてホットプレート上で加熱し、液温が100℃に達した後、ウェットエッチング液に単結晶SiCウェハを20分間浸漬した。その後、ウェットエッチング液から単結晶SiCウェハを取り出して洗浄し、単結晶SiCウェハの表面状態の観察とエッチングレートの算出を行った。なお、エッチングレートはSi面とC面の和となる。
【0035】
本試験では3種類のウェットエッチング液を使用した。実施例では、KMnO、NaOH、及びHOの質量比がKMnO:NaOH:HO=1:2:4であるウェットエッチング液を使用した。また、比較例1として、KFe(CN)の飽和水溶液とNaOHの飽和水溶液と純水とを混合してなるエッチング液を使用した。比較例2では、NaOH水溶液をウェットエッチング液として使用した。
【0036】
図3に算出したエッチングレートを示す。
実施例のエッチングレートは95nm/minとなり、1時間当たりに換算すると5.7μm/hrであった。
一方、比較例1のエッチングレートは34nm/minとなり、1時間当たりに換算すると約2μm/hrであった。比較例2では、質量変化がほとんど認められず、エッチングレートは2nm/minとなり、1時間当たりに換算すると120nm/hrと極めて低い値であった。
【0037】
また、浸漬前後における単結晶SiCウェハの表面状態を、Si面とC面それぞれについてZygo社製のコヒーレンス走査型干渉計New View 5320によって得られた画像で比較した。図4図9に得られた画像を示す。なお、浸漬前後における画像比較を行うに当たり、同一箇所観察用の目標キズ(図中の丸で囲んだもの)を導入した。
【0038】
実施例では、浸漬前におけるSi面の表面状態は、比較的、研磨キズが少ない外観を呈していたが(図4(A)参照)、浸漬後のSi面には多数の新たな研磨キズが現出し、それぞれが鮮明であった(図4(B)参照)。一方、C面については、図5(A)、(B)の画像から浸漬前後における有意差は認められなかった。
比較例1では、Si面においてダイヤモンドポリシング時の砥粒条痕が明瞭になっており、浸漬前の表面の小さな凹凸が平滑化されていることが確認できる(図6(A)、(B)参照)。これに対して、C面では極めて大きな変化が起きており、浸漬前は概ね一様な表面状態であったが、浸漬後は表面が極端に荒れていることが確認された(図7(A)、(B)参照)。
比較例2では、Si面、C面ともにダイヤモンドポリシング後の表面状態に有意な変化は認められず、エッチング前後の質量変化がほとんど認められていないことと合わせ、単結晶SiCウェハがエッチングされていないことが裏付けられた(図8(A)、(B)、図9(A)、(B)参照)。
【0039】
このように、実施例は、比較例1に比べて3倍近いエッチングレートでありながら、Si面、C面とも加工面全体を大きく荒らすことが無いことが確認された。
【0040】
[第2の試験]
単結晶SiCウェハには、オフ角4°の単結晶4インチ4H−SiCウェハを使用した。なお、単結晶SiCウェハの加工面は化学機械研磨されており、Sa(面粗さの評価指標であり、平均面に対する凹凸高さを算術平均した値である。)は0.1nm以下であった。
第1の実施形態と同様の方法により、本発明の温度範囲内における高温域長時間浸漬試験(第2の試験では高温・長時間試験と呼ぶ。)と本発明の温度範囲内における低温域浸漬試験の2種類実施した。
【0041】
高温・長時間浸漬試験では、KMnOが6.1g、NaOHが79.2g、HOが169.3gからなるウェットエッチング液を使用した。液温は140℃、浸漬時間は60分とした。試験後に算出したエッチングレートは80.9nm/minであった。
【0042】
また、低温域浸漬試験では、KMnOが3.1g、NaOHが39.6g、HOが84.6gからなるウェットエッチング液を使用した。液温は70℃、浸漬時間は20分とした。試験後に算出したエッチングレートは18.6nm/minであった。
【0043】
単結晶SiCウェハの表面状態を、Si面とC面それぞれについて、Taylor Hobson社製の光干渉式表面形状測定機Talysurf CCI Liteを用いて測定した。測定箇所はSi面、C面それぞれについて任意3点とした。測定結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
単結晶SiCウェハをウェットエッチング液に高温・長時間浸漬した場合、Si面では、スクラッチの露呈以上に深いエッチピットが散見されたが、表1に示すように、表面状態は概ね平滑であった。一方、C面は全体が大きく荒れており、Saは浸漬前の約60倍となった。
また、単結晶SiCウェハをウェットエッチング液に低温域で浸漬した場合、Si面では、エッチピットが発生していないこともあってスクラッチが明瞭に現れ、表1に示すように、表面状態も概ね平滑であった。一方、C面は全体が荒れていたが、その程度は高温・長時間浸漬試験の場合に比べて極めて軽度であり、Saは浸漬前の約2倍であった。
【0046】
KMnOとNaOHとを含有するウェットエッチング液を単結晶SiCウェハのエッチングに用いることにより、KOHの融点(360℃)を大幅に下回る低温域でのウェットエッチングが可能であることが上記試験より確認された。
【符号の説明】
【0047】
10:単結晶SiCウェハ、11:ウェットエッチング液、12:耐熱容器、13、23:ヒータ、20:ウェットエッチング装置、21:筒体、22:撹拌羽根(撹拌手段の一例)、24:CCDカメラ(撮像装置の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9