特許第6379142号(P6379142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379142
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】ソレノイドアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/16 20060101AFI20180813BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01F7/16 E
   F16K31/06 305E
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-157952(P2016-157952)
(22)【出願日】2016年8月10日
(65)【公開番号】特開2018-26474(P2018-26474A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2017年12月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100193194
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】弘中 剛史
(72)【発明者】
【氏名】永溝 喜也
【審査官】 森 透
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−56414(JP,U)
【文献】 特開平7−183123(JP,A)
【文献】 特開2009−174651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/16
H01F 7/08
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される電流に応じて磁力を発生するコイルと、
前記コイルの磁力によって励磁される固定鉄心と、
励磁された前記固定鉄心に吸引され軸方向に移動する可動鉄心と、を備え、
前記固定鉄心は、前記可動鉄心に対して前記軸方向に対向する本体部と、前記本体部の外縁側から前記可動鉄心に向かって延出し前記可動鉄心の端部の周囲を包囲する延出部と、を有し、
前記延出部における飽和磁束密度は、前記本体部よりも低く設定されることを特徴とするソレノイドアクチュエータ。
【請求項2】
前記固定鉄心は、前記延出部を除く部分が磁気焼鈍されることを特徴とする請求項1に記載のソレノイドアクチュエータ。
【請求項3】
前記延出部は、前記本体部とは別部材であって、前記本体部よりも飽和磁束密度が低い材料により形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のソレノイドアクチュエータ。
【請求項4】
前記延出部における透磁率は、前記本体部よりも低く設定されることを特徴とする請求項1から3の何れか1つに記載のソレノイドアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイドアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、供給される電流に応じて磁力を発生するコイルと、コイルの磁力によって励磁される固定鉄心と、励磁された固定鉄心の吸引力によって軸方向に移動する可動鉄心と、を備えたソレノイドアクチュエータが開示されている。
【0003】
このソレノイドアクチュエータの固定鉄心は、可動鉄心の端部を包囲する延出部を有し、可動鉄心の端部は、延出部によって形成された凹部内に収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−218816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のソレノイドアクチュエータでは、固定鉄心の延出部と可動鉄心との間に生じる摩擦力により、可動鉄心の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生するおそれがある。このような現象は、特に、可動鉄心と延出部との間を通過する磁束が増加し、延出部が可動鉄心を吸引する力、すなわち、可動鉄心に対して径方向に作用する力が大きくなることで顕著となる。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ヒステリシスを抑制し、ソレノイドアクチュエータの制御性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、供給される電流に応じて磁力を発生するコイルと、コイルの磁力によって励磁される固定鉄心と、励磁された固定鉄心に吸引され軸方向に移動する可動鉄心と、を備え、固定鉄心は、可動鉄心に対して軸方向に対向する本体部と、本体部の外縁側から可動鉄心に向かって延出し可動鉄心の端部の周囲を包囲する延出部と、を有し、延出部における飽和磁束密度は、本体部よりも低く設定されることを特徴とする。
【0008】
第1の発明では、延出部における飽和磁束密度が本体部よりも低く設定される。このため、可動鉄心と固定鉄心との間を通過する磁束は、延出部よりも本体部に流れ易くなる。この結果、延出部が可動鉄心を吸引する力、すなわち、可動鉄心に対して径方向に作用する力が低減され、延出部と可動鉄心との間に生じる摩擦力が小さくなる。
【0009】
第2の発明は、固定鉄心が、延出部を除く部分が磁気焼鈍されることを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、延出部を除く部分が磁気焼鈍されることにより、本体部の磁気特性は延出部よりも磁気飽和しにくい特性となる。このため、可動鉄心と固定鉄心との間を通過する磁束は、延出部よりも本体部に流れ易くなる。この結果、可動鉄心に対して径方向に作用する力が低減され、延出部と可動鉄心との間に生じる摩擦力も小さくなる。摩擦力が小さくなることで、可動鉄心の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生することが抑制され、結果として、ソレノイドアクチュエータの制御性を向上させることが可能となる。
【0011】
第3の発明は、延出部が、本体部とは別部材であって、本体部よりも飽和磁束密度が低い材料により形成されることを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、延出部と本体部とは別の部材で形成され、延出部は、本体部よりも飽和磁束密度が低い材料により形成される。したがって、飽和磁束密度が異なる材料を様々に組み合わせることができるため、所望のソレノイド特性を実現することが可能となる。
【0013】
第4の発明は、延出部における透磁率が、本体部よりも低く設定されることを特徴とする。
【0014】
第4の発明では、延出部における透磁率が、本体部よりも低く設定される。つまり、可動鉄心から延出部に向かって流れる磁束の密度は、磁界の強さが変化しても常に可動鉄心から本体部に向かって流れる磁束の密度よりも低い状態となる。この結果、可動鉄心に対して径方向に作用する力が低減され、延出部と可動鉄心との間に生じる摩擦力も小さくなる。摩擦力が小さくなることで、可動鉄心の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生することが抑制され、結果として、ソレノイドアクチュエータの制御性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヒステリシスを抑制し、ソレノイドアクチュエータの制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るソレノイドアクチュエータを含むアクチュエータ装置の縦断面図である。
図2】磁気回路を構成する部材の磁界の強さに対する磁束密度の変化を示すグラフ(B−H曲線)である。
図3】可動鉄心と固定鉄心との間を通過する磁束の分布状態を示す図である。
図4】可動鉄心と固定鉄心との間を通過する磁束の分布状態を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係るソレノイドアクチュエータの変形例を含むアクチュエータ装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1を参照して、本発明の実施形態に係るソレノイドアクチュエータ20を備えるアクチュエータ装置1について説明する。
【0018】
図1に示すように、アクチュエータ装置1は、ソレノイドアクチュエータ20と、ソレノイドアクチュエータ20により駆動されるバルブ装置10と、を備える。
【0019】
バルブ装置10は、作動油等の作動流体が流れる流路に設置されるスプール弁であり、円筒状のバルブスリーブ11と、バルブスリーブ11内に摺動自在に設けられるスプール12と、を有する。バルブスリーブ11の側面の開口部には図示しない流路がそれぞれ接続される。
【0020】
バルブ装置10では、スプール12の位置に応じて各流路を連通する連通開度が変更されることにより、バルブ装置10を通じて流れる作動流体の流量が変化する。スプール12の位置は、ソレノイドアクチュエータ20によって制御される。
【0021】
ソレノイドアクチュエータ20は、ボビン40に巻き回されたコイル41と、ボビン40の内周側に嵌め込まれる固定鉄心としての固定コア50と、非磁性体53を介して固定コア50と接続されるヨーク52と、固定コア50とヨーク52とにより摺動自在に支持される可動鉄心としてのプランジャ60と、固定コア50とプランジャ60との間に圧縮された状態で介装されるスプリング62と、これらを収容するケース30と、を備える。
【0022】
プランジャ60は、軸心にシャフト61が挿通する貫通孔60aが形成された円筒状部材であり、磁性材によって形成される。プランジャ60は、固定コア50側に配置される一端面60bと、一端面60bとは反対側に設けられる他端面60cと、固定コア50とヨーク52とに摺接する外周面60dと、を有する。
【0023】
貫通孔60aを挿通するシャフト61は、ステンレス鋼等の非磁性材によって形成される棒状部材であり、シャフト61の外周面には、プランジャ60がかしめ固定される。シャフト61は、プランジャ60を軸方向に貫通しており、プランジャ60の両端面60b,60cからシャフト61の両端部が突出している。プランジャ60の一端面60b側から突出するシャフト61の端部には、貫通孔60aよりも外径が大きい鍔状のばね受け部61aが形成される。プランジャ60の他端面60c側から突出するシャフト61の端部は、図示しない結合手段によってバルブ装置10のスプール12に結合される。
【0024】
固定コア50は、磁性材によって形成される円柱状部材であり、プランジャ60に対して軸方向に対向する本体部50aと、本体部50aの外縁側からプランジャ60に向かって延出しプランジャ60の一端面60b側の端部の周囲を包囲する環状の延出部51と、本体部50aに形成されスプリング62が収容される収容穴50bと、を有する。プランジャ60の一端面60bに対向する本体部50aの対向面50cと、延出部51の内周面51aと、によって固定コア50の端部には凹部が形成され、この凹部内には、プランジャ60の一端面60b側の端部が摺動自在に収容される。
【0025】
また、固定コア50は、延出部51を除く部分が磁気焼鈍されることにより、延出部51の磁気特性と本体部50aの磁気特性とが異なるように形成される。
【0026】
ここで、図2を参照し、延出部51と本体部50aとの磁気特性の違いについて説明する。図2に示されるグラフにおいて、実線は本体部50aの磁気飽和曲線(B−H曲線)を示しており、破線は延出部51の磁気飽和曲線(B−H曲線)を示している。
【0027】
一般的に、磁性材を流れる磁束密度は磁界が強くなるのに伴って増加する。しかし、磁界がある程度の強さになると磁束密度の増加割合が減少し、磁性材の中で磁束密度が過密な状態となる。やがて、磁性材を流れる磁束密度は、磁界の強さに関わらずほぼ一定の磁束密度、いわゆる飽和磁束密度となる。
【0028】
図2に示されるように、磁気焼鈍されていない延出部51における飽和磁束密度は、磁気焼鈍された本体部50aの飽和磁束密度よりも低くなる。また、磁界の強さに対する磁束密度の変化率を示す透磁率は、磁気焼鈍された本体部50aよりも磁気焼鈍されていない延出部51の方が常に小さくなる。つまり、延出部51は、本体部50aよりも磁気飽和し易い磁気特性を有している。このように延出部51の磁気特性と本体部50aの磁気特性とを異ならせることによる作用効果については後述する。
【0029】
ヨーク52は、磁性材によって形成される部材であり、ボビン40の内周側に挿入される筒部52aと、筒部52aの端部から径方向外側に突出して形成されるフランジ部52bと、筒部52aからフランジ部52bに渡って貫通して形成される摺動孔52cと、を有する。ヨーク52の摺動孔52cによってプランジャ60の他端面60c側の端部が摺動自在に支持される。
【0030】
固定コア50とヨーク52とは、非磁性材によって形成される円筒状の非磁性体53によって軸方向に連結される。このため、ヨーク52と固定コア50とは軸方向に離間した状態となる。なお、非磁性体53は、アルミ等の透磁率が低い材料で形成されてもよいし、ヨーク52と固定コア50との間に形成される空間であってもよい。
【0031】
プランジャ60によって仕切られる固定コア50側の空間とヨーク52側の空間とは、プランジャ60の外周面60dに軸方向に沿って形成された複数の連通溝60eによって常時連通される。このため、各空間内の作動流体はプランジャ60の移動に応じて連通溝60eを通じて移動可能である。したがって、プランジャ60の移動が作動流体によって妨げられることはない。
【0032】
スプリング62は、コイル41への通電時にプランジャ60に作用する吸引力とは反対の方向にプランジャ60を付勢するコイルスプリングである。スプリング62の一端は、シャフト61のばね受け部61aに係止され、スプリング62の他端は、固定コア50の収容穴50b内に収容され係止される。
【0033】
ケース30は、磁性材によって形成される有底円筒状部材であり、ソレノイドアクチュエータ20を構成する各部材を収容する。ケース30の開口端は、ボビン40とバルブスリーブ11との間にヨーク52のフランジ部52bを挟み込んだ状態で、バルブスリーブ11の一端をかしめ固定するかしめ部として構成される。
【0034】
ボビン40は、両端に鍔部を有する円筒状部材であり、電気絶縁性を有する樹脂によって形成される。鍔部の間のボビン胴体部の外周面に巻き回された導電性線材がコイル41を構成する。ボビン40の一方の鍔部には、コイル41に電気的に接続される端子42が設けられる。
【0035】
端子42の一端は、ボビン40がケース30内に配置された状態で、ケース30の切欠部を通じて外部に突出する。端子42を介してコイル41に電流が供給されることで、コイル41の周囲に磁界が発生する。また、コイル41を取り囲むように配置された固定コア50,プランジャ60,ヨーク52,及びケース30は、コイル41の周囲に磁界が発生した際に磁束が流れる通路、いわゆる磁気回路となる。なお、磁気回路を構成するこれらの部材を形成する磁性材としては、例えば、SUM23やMES3F,SUY,SS330,ELCH2等の比較的透磁率が高い鋼材が用いられる。
【0036】
次に、上記構成のアクチュエータ装置1の作動について説明する。
【0037】
アクチュエータ装置1では、ソレノイドアクチュエータ20のコイル41に電流が通電されていない場合、プランジャ60は、スプリング62によって図1の矢印Aの方向へ付勢される。この時、スプール12はバルブスリーブ11に設けられたストッパ部に当接し、プランジャ60とスプール12とは、図1に示される初期位置で停止した状態となる。
【0038】
ソレノイドアクチュエータ20のコイル41に所定以上の電流が供給されると、コイル41の周囲に発生した磁界によって固定コア50が励磁され、プランジャ60は固定コア50に向けて軸方向に引き寄せられる。つまり、プランジャ60は、図1の矢印Bの方向へと移動する。プランジャ60の移動に伴って、シャフト61を介してプランジャ60と連結されるスプール12も移動する。スプール12は、プランジャ60に作用する磁気吸引力と、プランジャ60に作用するスプリング62の付勢力と、が釣り合う位置に至るまで移動する。スプール12が移動することで、バルブスリーブ11を通過して流路に流れ込む作動油の流量が調整される。
【0039】
プランジャ60に作用する磁気吸引力は、コイル41に供給される電流の大きさに応じて変化するため、コイル41に供給される電流値を変更することによって、スプール12のストローク量、すなわち、バルブスリーブ11を通じて流路に流れ込む作動油の流量を任意に制御することができる。このようにソレノイドアクチュエータ20は、比例ソレノイドアクチュエータとして作動する。
【0040】
続いて、図3及び図4を参照し、コイル41に電流が供給されたときにプランジャ60と固定コア50との間を通過する磁束と磁束の影響について説明する。図3は、従来のように、固定コア50の延出部51と本体部50aとが同じ磁気特性である場合の磁束の分布状態を概略的に示した図であり、図4は、上述のように、延出部51における飽和磁束密度が、本体部50aの飽和磁束密度よりも低く設定される場合の磁束の分布状態を概略的に示した図である。
【0041】
延出部51と本体部50aとが同じ磁気特性である場合、図3に示されるように、プランジャ60の外周面60dから延出部51に向かって流れる径方向磁束65aと、プランジャ60の一端面60bから本体部50aに向かって流れる軸方向磁束65bと、は、ほぼ均等な間隔で分布することとなる。
【0042】
一方、延出部51における飽和磁束密度が、本体部50aの飽和磁束密度よりも低く設定される場合、図4に示されるように、プランジャ60の外周面60dから延出部51に向かって流れる径方向磁束65aは、プランジャ60の一端面60bから本体部50aに向かって流れる軸方向磁束65bよりも少なくなる。これは、本体部50aの方が延出部51よりも磁気飽和しにくい磁気特性を有することで、プランジャ60と固定コア50との間を通過する磁束は、延出部51よりも本体部50aに向かって流れ易くなるためである。
【0043】
ここで、図3に示されるように、プランジャ60の外周面60dから延出部51に向かって流れる径方向磁束65aが比較的多いと、延出部51がプランジャ60を吸引する力、すなわち、プランジャ60に対して径方向に作用する力が大きくなる。このようにプランジャ60に作用する径方向の力が大きいと、プランジャ60が延出部51に対して押し付けられた状態となり、延出部51とプランジャ60との間に生じる摩擦力が大きくなる。したがって、プランジャ60の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生するおそれがある。
【0044】
これに対して、本実施形態では、図4に示されるように、プランジャ60の外周面60dから延出部51に向かって流れる径方向磁束65aが比較的少なくなる。このため、プランジャ60に対して径方向に作用する力が低減され、延出部51とプランジャ60との間に生じる摩擦力も小さくなる。したがって、プランジャ60の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生することが抑制され、結果として、ソレノイドアクチュエータ20の制御性を向上させることが可能となる。
【0045】
上記実施形態に係るアクチュエータ装置1のソレノイドアクチュエータ20によれば、以下に示す効果を奏する。
【0046】
ソレノイドアクチュエータ20では、延出部51における飽和磁束密度が、本体部50aよりも低く設定される。このため、プランジャ60と固定コア50との間を通過する磁束は、延出部51よりも本体部50aに向かって流れ易くなる。この結果、プランジャ60に対して径方向に作用する力が低減され、延出部51とプランジャ60との間に生じる摩擦力も小さくなる。摩擦力が小さくなることで、プランジャ60の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生することが抑制され、結果として、ソレノイドアクチュエータ20の制御性を向上させることが可能となる。
【0047】
次に、上記実施形態に係るソレノイドアクチュエータ20の変形例について説明する。
【0048】
上記ソレノイドアクチュエータ20では、延出部51は本体部50aと一体的に形成される。これに代えて、図5に示すように、延出部51を本体部50aとは別の部材で形成してもよい。
【0049】
この変形例では、延出部51は、円環状に形成され、本体部50aの対向面50cに形成された段部50dに嵌合固定される。そして、延出部51は、本体部50aよりも磁気飽和し易い鋼材、すなわち、飽和磁束密度が低い鋼材で形成される。具体的には、本体部50aをELCH2により形成し、延出部51をELCH2より磁気飽和し易いSUM23により形成する。なお、本体部50aと延出部51の材料の組み合わせとしては、これに限定されず、延出部51が本体部50aよりも磁気飽和し易い鋼材で形成されていればよく、例えば、本体部50aを磁気焼鈍されたELCH2により形成し、延出部51を磁気焼鈍されていないELCH2より形成してもよい。
【0050】
このように延出部51を本体部50aとは別の部材で形成することで、飽和磁束密度が異なる鋼材を様々に組み合わせることができるため、所望のソレノイド特性を実現することが可能となる。また、延出部51と本体部50aとが一体的に形成された固定コア50の延出部51を除く部分を磁気焼鈍する場合と比較し、固定コア50を容易に形成することができる。
【0051】
また、上記ソレノイドアクチュエータ20では、磁気回路を構成するプランジャ60,ヨーク52,及びケース30の材料は特定されていないが、これらは延出部51よりも飽和磁束密度が高い材料で形成されることが好ましい。例えば、固定コア50,プランジャ60,ヨーク52,及びケース30を同じ磁性材で形成し、固定コア50の延出部51を除く部分を磁気焼鈍することで延出部51よりも磁気飽和しにくい磁気特性となるようにしてもよい。固定コア50,プランジャ60,ヨーク52,及びケース30の材料としては、比較的透磁率が高い鋼材であれば、SUM23やMES3F,SUY,SS330,ELCH2以外の鋼材が用いられてもよい。
【0052】
また、上記ソレノイドアクチュエータ20では、シャフト61はプランジャ60に固定されている。これに代えて、シャフト61はプランジャ60の貫通孔60aに遊びを持って挿入されてもよい。この場合、プランジャ60がヨーク52から抜け出ることを防止するために、ヨーク52の摺動孔52cにC字状リング等の抜止部材が設けられる。
【0053】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0054】
ソレノイドアクチュエータ20は、供給される電流に応じて磁力を発生するコイル41と、コイル41の磁力によって励磁される固定コア50と、励磁された固定コア50に吸引され軸方向に移動するプランジャ60と、を備え、固定コア50は、プランジャ60に対して軸方向に対向する本体部50aと、本体部50aの外縁側からプランジャ60に向かって突出しプランジャ60の端部の周囲を包囲する延出部51と、を有し、延出部51における飽和磁束密度は、本体部50aよりも低く設定される。
【0055】
この構成では、延出部51における飽和磁束密度が、本体部50aよりも低く設定される。つまり、延出部51は、本体部50aよりも磁気飽和し易い磁気特性を有する。このため、プランジャ60と固定コア50との間を通過する磁束は、延出部51よりも本体部50aに向かって流れ易くなる。この結果、プランジャ60に対して径方向に作用する力が低減され、延出部51とプランジャ60との間に生じる摩擦力も小さくなる。摩擦力が小さくなることで、プランジャ60の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生することが抑制され、結果として、ソレノイドアクチュエータ20の制御性を向上させることが可能となる。
【0056】
また、固定コア50は、延出部51を除く部分が磁気焼鈍される。
【0057】
この構成では、延出部51を除く部分が磁気焼鈍されることにより、本体部50aの磁気特性は延出部51よりも磁気飽和しにくい特性となる。このため、プランジャ60と固定コア50との間を通過する磁束は、延出部51よりも本体部50aに向かって流れ易くなる。この結果、プランジャ60に対して径方向に作用する力が低減され、延出部51とプランジャ60との間に生じる摩擦力も小さくなる。摩擦力が小さくなることで、プランジャ60の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生することが抑制され、結果として、ソレノイドアクチュエータ20の制御性を向上させることが可能となる。
【0058】
また、延出部51は、本体部50aとは別部材であって、本体部50aよりも飽和磁束密度が低い材料により形成される。
【0059】
この構成では、延出部51と本体部50aとは別の部材で形成され、延出部51は、本体部50aよりも磁気飽和し易い材料によって形成される。したがって、飽和磁束密度が異なる鋼材を様々に組み合わせることができるため、所望のソレノイド特性を実現することが可能となる。
【0060】
また、延出部51における透磁率は、本体部50aよりも低く設定される。
【0061】
この構成では、延出部51における透磁率が、本体部50aよりも低く設定される。つまり、プランジャ60から延出部51に向かって流れる磁束の密度は、磁界の強さが変化しても常にプランジャ60から本体部50aに向かって流れる磁束の密度よりも低い状態となる。この結果、プランジャ60に対して径方向に作用する力が低減され、延出部51とプランジャ60との間に生じる摩擦力も小さくなる。摩擦力が小さくなることで、プランジャ60の移動方向が変化する際にヒステリシスが発生することが抑制され、結果として、ソレノイドアクチュエータ20の制御性を向上させることが可能となる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0063】
例えば、ソレノイドアクチュエータ20は、コイル41に通電することで、スプール12をコイル41側に変位させるいわゆるプル式である。これに代えて、ソレノイドアクチュエータは、コイル41に通電することで、スプール12をコイル41とは反対側に変位させるいわゆるプッシュ式であってもよい。
【0064】
また、ソレノイドアクチュエータ20は、プランジャ60に連結されたスプール12を駆動するものである。これに代えて、ソレノイドアクチュエータ20,21は、プランジャ60によりポペット弁を駆動させるものであってもよい。なお、プランジャ60により駆動される弁体としては、流路の開度を調整するものであれば、どのような形式の弁体であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1・・・アクチュエータ装置、10・・・バルブ装置、20・・・ソレノイドアクチュエータ、50・・・固定コア(固定鉄心)、50a・・・本体部、51・・・延出部、52・・・ヨーク、60・・・プランジャ(可動鉄心)、60b・・・一端面、60c・・・他端面、60d・・・外周面、62・・・スプリング、65a・・・径方向磁束、65b・・・軸方向磁束
図1
図2
図3
図4
図5