特許第6379306号(P6379306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6379306ハイブリッド車両の制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379306
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20180813BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20180813BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20180813BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20180813BHJP
   B60K 6/26 20071001ALI20180813BHJP
   B62M 23/02 20100101ALN20180813BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60W10/00 900
   B60K6/485ZHV
   B60W20/15
   B60K6/26
   !B62M23/02 110
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-556998(P2017-556998)
(86)(22)【出願日】2016年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2016076712
(87)【国際公開番号】WO2018016084
(87)【国際公開日】20180125
【審査請求日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-144386(P2016-144386)
(32)【優先日】2016年7月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】目黒 一由希
(72)【発明者】
【氏名】木村 光宏
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−174468(JP,A)
【文献】 特開2010−166715(JP,A)
【文献】 特開2015−076964(JP,A)
【文献】 特開2002−354607(JP,A)
【文献】 特開2013−189193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−20/50
B60K 6/20− 6/547
B62M 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に機械的に接続され、前記内燃機関の回転を受けて発電可能であるとともに前記内燃機関にトルクを付与可能なモータジェネレータと、前記モータジェネレータにより発電された電力を蓄電可能であるとともに前記モータジェネレータに電力を供給可能なバッテリと、前記バッテリが出力する直流電力を交流電力に変換して前記モータジェネレータに供給する電力変換回路とを有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記モータジェネレータが前記内燃機関に付与するトルクであるモータトルクが第1極性である第1状態から、前記第1極性と反対の第2極性である第2状態に遷移する際に、前記第1状態におけるモータトルクから前記第2状態におけるモータトルクに向けて前記モータトルクを規定の時間変化率以下で変化させるトルク移行動作を行い、
前記第1状態が、前記内燃機関を前記モータジェネレータがアシストするアシスト状態であり、かつ前記第2状態が、前記内燃機関により前記モータジェネレータが回転駆動されて発電する発電状態である場合に、前記バッテリに関するバッテリ情報に含まれる前記バッテリの充電率が低いほど、前記モータトルクの時間変化率を小さくすることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記電力変換回路は、前記バッテリの第1電極と前記モータジェネレータの入力端子との間に接続された第1半導体スイッチと、前記バッテリの第2電極と前記モータジェネレータの前記入力端子との間に接続された第2半導体スイッチとを含む複数のレグを有し、
前記制御装置は、前記電力変換回路を介して前記モータジェネレータの駆動状態を、
前記各レグについて前記第1および第2半導体スイッチをオフにした全相オープン状態、前記各レグについて前記第1半導体スイッチをオフにし且つ前記第2半導体スイッチをオンにしたショート状態、および、前記各レグについて前記第1半導体スイッチをオフにし且つ前記第2半導体スイッチのオン/オフを繰り返すチョッピング状態のうち、いずれかの駆動状態に制御可能であり、
前記第1状態から前記第2状態へ遷移する前に前記ショート状態または前記チョッピング状態の場合は、前記モータジェネレータの駆動状態を前記全相オープン状態とすることにより、前記モータジェネレータに流れる電流が規定値以下になった後に前記トルク移行動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記バッテリの前記第1電極は正極であり、前記第2電極は負極であり、
前記第1半導体スイッチはハイサイドスイッチであり、前記第2半導体スイッチはローサイドスイッチであることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記バッテリの前記第1電極は負極であり、前記第2電極は正極であり、
前記第1半導体スイッチはローサイドスイッチであり、前記第2半導体スイッチはハイサイドスイッチであることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記モータトルクを規定の時間間隔で規定のステップ幅ずつ小さくすることで、前記時間変化率を小さくするように構成されており、
前記バッテリの充電率が低いほど、前記時間間隔を長くする、および/または前記ステップ幅を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記第1状態が、前記内燃機関を前記モータジェネレータがアシストするアシスト状態であり、かつ前記第2状態が、前記内燃機関により前記モータジェネレータが回転駆動されて発電する発電状態である場合は、前記内燃機関の回転速度と前記モータトルクとの関係を示す四象限特性図の第1象限における前記モータトルクの時間変化率が、前記四象限特性図の第4象限における前記モータトルクの時間変化率よりも大きくなるように前記モータトルクを変化させることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記モータトルクを、規定の時間間隔で規定のステップ幅ずつ変化させることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記モータジェネレータは、前記ハイブリッド車両が発車する際に前記内燃機関を回転始動させる始動モータとして機能することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
内燃機関に機械的に接続され、前記内燃機関の回転を受けて発電可能であるとともに前記内燃機関にトルクを付与可能なモータジェネレータと、前記モータジェネレータにより発電された電力を蓄電可能であるとともに前記モータジェネレータに電力を供給可能なバッテリと、前記バッテリが出力する直流電力を交流電力に変換して前記モータジェネレータに供給する電力変換回路とを有するハイブリッド車両の制御方法であって、
前記モータジェネレータが前記内燃機関に付与するトルクであるモータトルクが第1極性である第1状態から、前記第1極性と反対の第2極性である第2状態に遷移する際に、前記第1状態におけるモータトルクから前記第2状態におけるモータトルクに向けて前記モータトルクを規定の時間変化率以下で変化させるトルク移行動作を行い、
前記第1状態が、前記内燃機関を前記モータジェネレータがアシストするアシスト状態であり、かつ前記第2状態が、前記内燃機関により前記モータジェネレータが回転駆動されて発電する発電状態である場合に、前記バッテリに関するバッテリ情報に含まれる前記バッテリの充電率が低いほど、前記モータトルクの時間変化率を小さくすることを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関(エンジン)と電動機(モータ)を動力源とするハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両では、モータがモータジェネレータとして構成されているものがある。モータジェネレータは、内燃機関にトルクを付与して内燃機関をアシストすることが可能であるとともに、内燃機関による走行中に発電を行うことも可能である。
【0003】
従来、このモータジェネレータを用いて、エンジン始動(セル始動)、発電(回生)および、エンジン再始動の準備位置までクランク軸を逆転させる準備位置逆転駆動が行われる。図5に示すように、モータジェネレータが内燃機関に付与するトルク(以下、「モータトルク」という。)と回転速度との関係を示した四象限特性図において、エンジン始動状態は第1象限に位置し、準備位置逆転駆動状態は第3象限に位置し、発電状態は第4象限に位置する。すなわち、エンジン始動ではモータジェネレータが正転するとともに(回転速度が正)エンジンを駆動するため(モータトルクが正)、エンジン始動状態は第1象限に位置する。準備位置逆転駆動等の逆転駆動ではモータジェネレータが反転するとともに(回転速度が負)内燃機関により駆動されるため(モータトルクが負)、逆転駆動状態は第3象限に位置する。発電ではモータジェネレータが正転するとともに内燃機関により駆動されるため、発電状態は第4象限に位置する。
【0004】
また、従来、二輪車等の車両では、内燃機関のクランク軸に接続され、当該内燃機関の回転を受けて発電する交流発電機(Alternating Current Generator:ACG)が設けられている。交流発電機で発電された交流電力は、レギュレートレクチファイヤ(REG/RECT)によってバッテリに応じた直流電力に変換された後、バッテリに供給される。
【0005】
なお、特許文献1には、内燃機関を始動させるスタータモータを制御する始動制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4230116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ハイブリッド車両において、上記の交流発電機を、発電機として機能するだけでなく、内燃機関にトルクを付与可能な電動機としても機能することが可能なモータジェネレータとして構成し、このモータジェネレータにより内燃機関のアシストを行うことが考えられる。アシスト状態は、エンジン始動の場合と同様にモータジェネレータが正転するとともに内燃機関を駆動するため、四象限特性図において第1象限に位置する。モータジェネレータとして構成された交流発電機によりエンジンアシストを行う場合、図6の四象限特性図に示すように、アシスト状態と発電状態を往き来する制御を行うことが求められる。
【0008】
しかしながら、アシスト状態と発電状態とではモータトルクの極性が異なるため、状態遷移の際に、モータジェネレータに流れる電流が瞬時に反転することになり、大きな逆起電力が発生する。その結果、電力変換回路(ブリッジ回路)を構成する半導体スイッチ(MOSFET等)に過電流が流れるおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、ハイブリッド車両において、モータトルクの極性が異なる状態間で状態遷移を行っても、電力変換回路を構成する半導体スイッチ等の素子に過電流が流れることを防止することが可能なハイブリッド車両の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、
内燃機関に機械的に接続され、前記内燃機関の回転を受けて発電可能であるとともに前記内燃機関にトルクを付与可能なモータジェネレータを有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記モータジェネレータが前記内燃機関に付与するトルクであるモータトルクが第1極性である第1状態から、前記第1極性と反対の第2極性である第2状態に遷移する際に、前記第1状態におけるモータトルクから前記第2状態におけるモータトルクに向けて前記モータトルクを規定の時間変化率以下で変化させるトルク移行動作を行うことを特徴とする。
【0011】
また、前記制御装置において、
前記ハイブリッド車両は、前記モータジェネレータにより発電された電力を蓄電可能であるとともに前記モータジェネレータに電力を供給可能なバッテリと、前記バッテリが出力する直流電力を交流電力に変換して前記モータジェネレータに供給する電力変換回路とを有し、
前記制御装置は、前記電力変換回路を介して前記モータジェネレータの駆動制御を行うように構成されてもよい
また、前記制御装置において、
前記電力変換回路は、前記バッテリの第1電極と前記モータジェネレータの入力端子との間に接続された第1半導体スイッチと、前記バッテリの第2電極と前記モータジェネレータの前記入力端子との間に接続された第2半導体スイッチとを含む複数のレグを有し、
前記制御装置は、前記電力変換回路を介して前記モータジェネレータの駆動状態を、
前記各レグについて前記第1および第2半導体スイッチをオフにした全相オープン状態、前記各レグについて前記第1半導体スイッチをオフにし且つ前記第2半導体スイッチをオンにしたショート状態、および、前記各レグについて前記第1半導体スイッチをオフにし且つ前記第2半導体スイッチのオン/オフを繰り返すチョッピング状態のうち、いずれかの駆動状態に制御可能であり、
前記第1状態から前記第2状態へ遷移する前に前記ショート状態または前記チョッピング状態の場合は、前記モータジェネレータの駆動状態を前記全相オープン状態とすることにより、前記モータジェネレータに流れる電流が規定値以下になった後に前記トルク移行動作を行うようにしてもよい。
【0012】
また、前記制御装置において、
前記バッテリの前記第1電極は正極であり、前記第2電極は負極であり、
前記第1半導体スイッチはハイサイドスイッチであり、前記第2半導体スイッチはローサイドスイッチであってもよい。
【0013】
また、前記制御装置において、
前記バッテリの前記第1電極は負極であり、前記第2電極は正極であり、
前記第1半導体スイッチはローサイドスイッチであり、前記第2半導体スイッチはハイサイドスイッチであってもよい。
【0014】
また、前記制御装置において、
前記バッテリに関するバッテリ情報に基づいて前記モータトルクの時間変化率を変えるようにしてもよい。
【0015】
また、前記制御装置において、
前記第1状態が、前記内燃機関を前記モータジェネレータがアシストするアシスト状態であり、かつ前記第2状態が、前記内燃機関により前記モータジェネレータが回転駆動されて発電する発電状態である場合に、前記バッテリ情報に含まれる前記バッテリの充電率が低いほど、前記モータトルクの時間変化率を小さくしてもよい。
【0016】
また、前記制御装置において、
前記モータトルクを規定の時間間隔で規定のステップ幅ずつ小さくすることで、前記時間変化率を小さくするように構成されており、
前記バッテリの充電率が低いほど、前記時間間隔を長くする、および/または前記ステップ幅を小さくしてもよい。
【0017】
また、前記制御装置において、
前記第1状態が、前記内燃機関を前記モータジェネレータがアシストするアシスト状態であり、かつ前記第2状態が、前記内燃機関により前記モータジェネレータが回転駆動されて発電する発電状態である場合は、前記内燃機関の回転速度と前記モータトルクとの関係を示す四象限特性図の第1象限における前記モータトルクの時間変化率が、前記四象限特性図の第4象限における前記モータトルクの時間変化率よりも大きくなるように前記モータトルクを変化させてもよい。
【0018】
また、前記制御装置において、
前記モータトルクを、規定の時間間隔で規定のステップ幅ずつ変化させるようにしてもよい。
【0019】
また、前記制御装置において、
前記モータジェネレータは、前記ハイブリッド車両が発車する際に前記内燃機関を回転始動させる始動モータとして機能してもよい。
【0020】
本発明に係るハイブリッド車両の制御方法は、
内燃機関に機械的に接続され、前記内燃機関の回転を受けて発電可能であるとともに前記内燃機関にトルクを付与可能なモータジェネレータを有するハイブリッド車両の制御方法であって、
前記モータジェネレータが前記内燃機関に付与するトルクであるモータトルクが第1極性である第1状態から、前記第1極性と反対の第2極性である第2状態に遷移する際に、前記第1状態におけるモータトルクから前記第2状態におけるモータトルクに向けて前記モータトルクを規定の時間変化率以下で変化させるトルク移行動作を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、制御装置は、モータトルクが第1極性である第1状態から、第1極性と反対の第2極性である第2状態に遷移する際に、第1状態におけるモータトルクから第2状態におけるモータトルクに向けてモータトルクを規定の時間変化率以下で変化させる。これにより、本発明によれば、モータトルクの極性が異なる状態間で状態遷移を行っても、電力変換回路を構成する半導体スイッチ等の素子に過電流が流れることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係るハイブリッド車両30の概略的な構成を示す図である。
図2】ハイブリッド車両30の電力変換回路5の概略的な構成を示す図である。
図3】実施形態に係るトルク移行動作を説明するための図である。
図4】実施形態に係る制御方法を説明するためのフローチャートである。
図5】アシストが無い場合の四象限特性図(モータトルクと回転速度との関係を示すグラフ)である。
図6】アシストがある場合の四象限特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0024】
まず、図1を参照して、実施形態に係るハイブリッド車両30の概略的な構成について説明する。
【0025】
ハイブリッド車両30は、内燃機関と電動機の2つの動力源を有するハイブリッド型の二輪車(ハイブリッド二輪車)である。なお、ハイブリッド車両30は、二輪車に限らず、ハイブリッド型の他の車両(四輪車等)であってもよい。
【0026】
ハイブリッド車両30は、図1に示すように、制御装置1と、内燃機関(エンジン)2と、モータジェネレータ(Motor Generator:MG)3と、点火装置4と、電力変換回路5と、バッテリ装置6と、記憶装置7と、クラッチ8と、車輪9とを備えている。図1の車輪9は、ハイブリッド二輪車の後輪を示している。
【0027】
制御装置1は、ハイブリッド車両30のモータトルクを制御するように構成されている。制御装置1の詳細については後述する。なお、制御装置1は、ハイブリッド車両30全体を統御するECU(Electronic Control Unit)として構成されてもよい。
【0028】
内燃機関2は、燃料ガス(混合気)が燃焼したときの圧力を利用して、クラッチ8を介して車輪9に回転駆動力を出力する。
【0029】
なお、内燃機関2の種類は特に限定されず、例えば4ストロークエンジンでも、2ストロークエンジンでもよい。また、内燃機関2は、吸気経路に電子式スロットルバルブ(図示せず)が配設されていてもよい。より詳しくは、運転者(ライダー)のアクセル(グリップ)操作により設定されたスロットル開度をアクセルポジションセンサが読み取り、電気信号として制御装置1に送信する。その後、制御装置1は、受信した設定スロットル開度に基づいてスロットル開度を計算し、スロットル開度の調整手段(スロットルモータ等)に指令を送信する。
【0030】
モータジェネレータ3は、図1に示すように、内燃機関2に機械的に接続されている。本実施形態では、モータジェネレータ3は、交流発電機(ACG)をベースとしたものであり、内燃機関2のクランク軸にクラッチを介さずに常時接続されている。このモータジェネレータ3は、内燃機関2の回転を受けて発電可能であるとともに、内燃機関2にトルクを付与可能に構成されている。より詳しくは、モータジェネレータ3は、内燃機関2により回転駆動されているときは発電を行って、三相交流電力を電力変換回路5に出力する。そして、電力変換回路5は、三相交流電力を直流電力に変換し、バッテリ装置6の有するバッテリB(直流電源)を充電する。一方、内燃機関2にトルクを付与するときは、モータジェネレータ3は、電力変換回路5から出力される三相交流電力により回転して、内燃機関2をアシストする。
【0031】
なお、モータジェネレータ3は、ハイブリッド車両30が発車する際に内燃機関2を回転始動させる始動モータ(セルモータ)として機能してもよい。
【0032】
点火装置4は、制御装置1から制御信号を受信し、内燃機関2のシリンダー内で圧縮された混合気に適切なタイミングで着火する。なお、点火装置4の種別は特に限定されず、CDI(Capacitive Discharge Ignition)式でもよいし、フルトランジスタ式でもよい。
【0033】
電力変換回路5は、モータジェネレータ3が内燃機関2をアシストする際には、バッテリ装置6のバッテリBから出力される直流電力を三相の交流電力に変換してモータジェネレータ3に供給し、モータジェネレータ3を駆動する。一方、モータジェネレータ3が発電する際には、電力変換回路5は、モータジェネレータ3から供給される三相交流電力を直流電力に変換してバッテリ装置6のバッテリBに出力する。
【0034】
具体的には、図2に示すように、電力変換回路5は三相フルブリッジ回路から構成される。半導体スイッチQ1,Q3,Q5はハイサイドスイッチであり、半導体スイッチQ2,Q4,Q6はローサイドスイッチである。半導体スイッチQ1〜Q6の制御端子は、制御装置1に電気的に接続されている。なお、半導体スイッチQ1〜Q6は、例えばMOSFETまたはIGBT等である。電源端子5aと電源端子5bとの間には平滑コンデンサCが設けられている。
【0035】
半導体スイッチQ1は、バッテリBの正極が接続された電源端子5aと、モータジェネレータ3の入力端子3aとの間に接続されている。同様に、半導体スイッチQ3は、バッテリBの正極が接続された電源端子5aと、モータジェネレータ3の入力端子3bとの間に接続されている。半導体スイッチQ5は、バッテリBの正極が接続された電源端子5aと、モータジェネレータ3の入力端子3cとの間に接続されている。
【0036】
半導体スイッチQ2は、バッテリBの負極が接続された電源端子5bと、モータジェネレータ3の入力端子3aとの間に接続されている。同様に、半導体スイッチQ4は、バッテリBの負極が接続された電源端子5bと、モータジェネレータ3の入力端子3bとの間に接続されている。半導体スイッチQ6は、バッテリBの負極が接続された電源端子5bと、モータジェネレータ3の入力端子3cとの間に接続されている。なお、入力端子3aはU相の入力端子であり、入力端子3bはV相の入力端子であり、入力端子3cはW相の入力端子である。
【0037】
上記のように、電力変換回路5は、第1半導体スイッチおよび第2半導体スイッチを含む複数のレグ(本実施形態では3つ)を有する。第1半導体スイッチは、バッテリBの第1電極とモータジェネレータ3の入力端子との間に接続された半導体スイッチである。第2半導体スイッチは、バッテリBの第2電極とモータジェネレータ3の入力端子との間に接続された半導体スイッチである。本実施形態では、第1電極がバッテリBの正極であり、第2電極がバッテリBの負極である。そして、第1半導体スイッチがハイサイドスイッチであり、第2半導体スイッチがローサイドスイッチである。
【0038】
バッテリ装置6は、充放電可能なバッテリBと、このバッテリBを管理するバッテリ管理ユニット(Battery Management Unit:BMU)とを含む。バッテリBは、モータジェネレータ3により発電された電力を蓄電可能であるとともに、モータジェネレータ3に電力を供給可能である。バッテリBの種類は特に限定されず、例えばリチウムイオン電池である。バッテリ管理ユニットは、バッテリBの電圧やバッテリBの状態に関する情報(以下、「バッテリ情報」と総称する。)を制御装置1に送信する。
【0039】
記憶装置7は、制御装置1により用いられる情報(内燃機関2やモータジェネレータ3を制御するための各種マップ、動作プログラム等)を記憶する。この記憶装置7は、例えば不揮発性の半導体メモリから構成される。
【0040】
次に、制御装置1によるモータジェネレータ3の駆動制御について説明する。制御装置1は、電力変換回路5を介してモータジェネレータ3の駆動状態を、全相オープン状態、ショート状態およびチョッピング状態のうちいずれかの駆動状態に制御可能に構成されている。
【0041】
ここで、「全相オープン状態」は、電力変換回路5の3つの各レグについて、ハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチをオフにした状態である。すなわち、電力変換回路5に含まれる6つの半導体スイッチQ1〜Q6をすべてオフにした状態である。
【0042】
「ショート状態」は、各レグについて、ハイサイドスイッチ(すなわち、半導体スイッチQ1,Q3,Q5)をオフにし且つローサイドスイッチ(すなわち、半導体スイッチQ2,Q4,Q6)をオンにした状態である。本実施形態では、ショート状態は、厳密に言えばローサイドショート状態である。ショート状態は、バッテリBが満充電の場合や、比較的強いブレーキをかける際に用いられる。ショート状態では、バッテリBに電流が流れないため、バッテリBは充電されない。
【0043】
「チョッピング状態」は、各レグについて、ハイサイドスイッチをオフにし且つローサイドショート状態のオン/オフを繰り返す状態である。チョッピング状態は、バッテリBが満充電ではなく、比較的弱いブレーキをかける際に用いられる。チョッピング状態では、バッテリBは充電される。
【0044】
なお、ショート状態およびチョッピング状態の少なくともいずれか一方について、ハイサイドとローサイドを逆にしてもよい。この場合、ショート状態は、ローサイドではなくハイサイドをショートした状態であり、より詳しくは、各レグについて、ローサイドスイッチ(すなわち、半導体スイッチQ2,Q4,Q6)をオフにし且つハイサイドスイッチ(すなわち、半導体スイッチQ1,Q3,Q5)をオンにした状態である。チョッピング状態は、ローサイドスイッチをオフにし、且つハイサイドスイッチのオン/オフを繰り返す状態である。このようにハイサイドとローサイドを逆にした場合は、前述の電力変換回路5の一般的表現において、バッテリBの第1電極が負極、第2電極が正極、第1半導体スイッチがローサイドスイッチ、第2半導体スイッチがハイサイドスイッチであることに相当する。
【0045】
次に、制御装置1によるモータトルクの制御について説明する。
【0046】
制御装置1は、電力変換回路5を介してモータジェネレータ3のトルク制御を行う。より具体的には、制御装置1は、電力変換回路5の半導体スイッチQ1〜Q6に出力する制御信号(PWM信号)の通電タイミング(進角)およびデューティ比を制御することにより、モータジェネレータ3のトルクを制御する。
【0047】
制御装置1は、モータトルクが第1極性である第1状態から第1極性と反対の第2極性である第2状態に遷移する際に、モータトルクを徐々に変化させるトルク移行動作を行う。トルク移行動作は、厳密に言えば、第1状態におけるモータトルクから第2状態におけるモータトルクに向けてモータトルクを規定の時間変化率以下で変化させる動作である。
【0048】
規定の時間変化率は、電力変換回路5の半導体スイッチQ1〜Q6への電気的負荷が過大とならないように選択される。状態遷移時に半導体スイッチに流れる電流は、モータトルクの時間変化率が大きいほど大きくなる。よって、半導体スイッチに流れる電流が許容値以下となるようにモータトルクの時間変化率が選択される。ただし、時間変化率が小さすぎると、運転者が違和感を覚えるおそれがある。したがって、モータトルクの時間変化率は、半導体スイッチに過電流が流れない程度に小さく、かつ運転者に違和感を与えない程度に大きいことが好ましい。
【0049】
制御装置1は、例えばアシスト状態から発電状態に遷移する際に、モータトルクを徐々に変化させる。アシスト状態は、モータジェネレータ3が内燃機関2をアシストする状態であり、モータトルクが正である。発電状態は、内燃機関2によりモータジェネレータ3が回転駆動されて発電する状態であり、モータトルクが負である。状態遷移前後でモータトルクの極性が異なるため、制御装置1はトルク移行動作を行う。
【0050】
この際、本実施形態では、制御装置1は、図3に示すように、モータトルクを階段状に変化させる。すなわち、制御装置1は、モータトルクを規定の時間間隔で、規定のステップ幅ずつ変化させる。時間間隔は、例えばミリ秒のオーダーである。時間間隔およびステップ幅は、状態遷移をハイブリッド車両の運転者に気付かれず、且つ電力変換回路5の半導体スイッチへの電気的負荷が大きくならないように選択されることが好ましい。なお、制御装置1は、モータトルクを階段状に変化させる場合に限らず、滑らかな曲線に沿って変化させてもよい。
【0051】
上記のように、本実施形態では、制御装置1は、モータトルクが第1極性である第1状態から、第1極性と反対の第2極性である第2状態に遷移する際に、第1状態におけるモータトルクから第2状態におけるモータトルクに向けてモータトルクを規定の時間変化率以下で変化させる。これにより、本実施形態によれば、モータトルクの極性が異なる状態間で状態遷移を行っても、電力変換回路を構成する半導体スイッチ等の素子に過電流が流れることを防止することができる。
【0052】
なお、状態遷移は上記の例(アシスト状態から発電状態)に限られない。例えば、発電状態からアシスト状態への遷移であってもよいし、アシスト状態から準備位置逆転駆動状態への遷移であってもよい。また、エンジン始動状態から発電状態への遷移であってもよいし、あるいはアシスト状態から逆転ブレーキ状態への遷移でもよい。ここで、逆転ブレーキ状態は、モータジェネレータ3(例えば交流発電機ACGをベースにしたモータジェネレータ)に負のモータトルクを発生させて電磁的にブレーキをかける状態のことをいう。いずれにせよ、制御装置1は、遷移前後でモータトルクの極性が異なる状態遷移を行う際にトルク移行動作を行う。
【0053】
また、制御装置1は、第1状態がアシスト状態であり、かつ第2状態が発電状態である場合、図3に示すように、内燃機関2の回転速度とモータトルクの関係を示す四象限特性図の第1象限におけるモータトルクの時間変化率が、当該四象限特性図の第4象限におけるモータトルクの時間変化率よりも大きくなるようにモータトルクを変化させてもよい。これにより、運転者が気付きやすい、第4象限における発電状態への移行が、比較的ゆっくり進む。このため、状態遷移によるハイブリッド車両30の乗り心地への影響を抑制することができる。モータトルクの時間変化率は、図3のように、時間間隔を変えることで調整する。なお、モータトルクの時間変化率はステップ幅を変えることで調整してもよい。また、時間間隔とステップ幅の両方を変えることにより、モータトルクの時間変化率を調整してもよい。
【0054】
また、制御装置1は、第1状態から第2状態へ遷移する前にショート状態またはチョッピング状態の場合は、モータジェネレータ3の駆動状態を全相オープン状態とし、これによりモータジェネレータ3に流れる電流が規定値以下になった後にトルク移行動作を行うようにしてもよい。ここで、既定値とは、例えば、モータジェネレータ3の仕様で定められた基準値である。このようにすることで、電力変換回路5に流れる過電流の発生をより確実に防止することができる。
【0055】
また、制御装置1は、バッテリBに関するバッテリ情報に基づいて、モータトルクの時間変化率を変えるようにしてもよい。例えば、第1状態がアシスト状態であり、かつ第2状態が発電状態である場合に、制御装置1は、バッテリ情報に含まれるバッテリの充電率が低いほど、モータトルクの時間変化率を小さくする。バッテリBの充電率が低いほどバッテリBに電流が流れやすくなることから、このように充電率に応じて時間変化率を制御することにより、状態遷移の際にバッテリBに過電流が流れることを防止できる。なお、モータトルクを階段状に小さくする場合は、バッテリBの充電率が低いほど、時間間隔を長くする、および/またはステップ幅を小さくすることにより、モータトルクの時間変化率を小さくしてもよい。
【0056】
次に、図4のフローチャートを参照して、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御方法について説明する。
【0057】
モータトルクの極性が異なる状態遷移を行う際、制御装置1は、モータ駆動状態がショート状態またはチョッピング状態であるかどうか判定する(ステップS1)。そして、モータ駆動状態がショート状態またはチョッピング状態である場合(S1;Yes)、制御装置1は、電力変換回路5を制御して全相オープン状態にする(ステップS2)。
【0058】
次に、制御装置1は、モータジェネレータ3に流れる電流が既定値以下であるかどうかを判定する(ステップS3)。そして、モータジェネレータ3に流れる電流が既定値以下である場合(S3;Yes)、制御装置1は、モータトルクを徐々に変化させる(ステップS4)。より詳しくは、制御装置1は、第1状態におけるモータトルクから第2状態におけるモータトルクに向けてモータトルクを規定の時間変化率以下で変化させるトルク移行動作を行う。
【0059】
上記制御方法によれば、モータトルクの極性が異なる状態間で状態遷移を行っても、電力変換回路を構成する半導体スイッチ等の素子に過電流が流れることを防止することができる。また、トルク移行動作の前に全相オープン状態にすることで、電力変換回路5に流れる過電流の発生をより確実に防止することができる。
【0060】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではない。異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 制御装置
2 内燃機関(エンジン)
3 モータジェネレータ
3a,3b,3c 入力端子
4 点火装置
5 電力変換回路
5a,5b 電源端子
6 バッテリ装置
7 記憶装置
8 クラッチ
9 車輪
30 ハイブリッド車両
B バッテリ
C 平滑コンデンサ
Q1〜Q6 半導体スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6