(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6379312
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】内部空間を有する工具ホルダー
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/12 20060101AFI20180813BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20180813BHJP
B23B 31/117 20060101ALI20180813BHJP
B23B 29/12 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
B23Q3/12 A
B23Q11/10 D
B23B31/117 601B
B23B29/12 Z
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-5156(P2018-5156)
(22)【出願日】2018年1月16日
【審査請求日】2018年1月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146087
【氏名又は名称】株式会社松浦機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084696
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 直人
(72)【発明者】
【氏名】天谷 浩一
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆三
(72)【発明者】
【氏名】加納 佳明
(72)【発明者】
【氏名】武澤 泰則
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 哲也
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0029479(US,A1)
【文献】
特開平09−248728(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1878631(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/12
B23B 29/12
B23B 31/117
B23Q 11/10
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前側に工具を着脱自在に保持するホルダー部を備え、後側に主軸と着脱可能に嵌合するシャンク部を備えている工具ホルダーにおいて、長手方向と直交する方向の断面が円形であるシャンク部における外周の内壁と回転中心軸を囲んだ状態にて延設されているクーラント通過用パイプとを、長手方向と直交又は斜交する方向に配設された複数個の板状体によって接続しており、複数個の各板状体の前側及び後側に内部空間を形成している工具ホルダー。
【請求項2】
複数個の板状体の一部に、クーラント通過用穴を設置していることを特徴とする請求項1に記載の工具ホルダー。
【請求項3】
板状体の肉厚が外周の内壁から回転中心軸に近くなるに従って順次厚い状態であることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の工具ホルダー。
【請求項4】
板状体の肉厚が長手方向の前側から遠くなるに従って順次厚い状態であることを特徴とする請求項1、2、3,4の何れか一項に記載の工具ホルダー。
【請求項5】
複数個の板状体相互の間の一部又は全てを、回転中心軸を基準として等角度にて長手方向に沿って配設された同一形状である複数個の柱形状又は板形状の補強材によって架設していることを特徴とする請求項1、2、3の何れか一項に記載の工具ホルダー。
【請求項6】
シャンク部の先端にフランジ部を備え、かつホルダー部をフランジ部と着脱自在としていることを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の工具ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部空間を有する工具ホルダーを対象としている。
【背景技術】
【0002】
前側に工具を着脱自在に保持するホルダー部を備え、後側に主軸と着脱可能に嵌合するシャンク部を備えている工具ホルダーにおいては、主軸から工具ホルダーを介して工具に対し、当該工具の作動に必要な回転モーメントが伝達されている。
【0003】
従って、工具ホルダーにおいては、上記モーメントの伝達に必要な剛性を有することを必要不可欠としている。
【0004】
このような剛性が重視された結果、工具ホルダーにおいては、回転中心軸の周囲近傍に延設されたクーラント通過用パイプ以外の内部は工具を生成する素材、具体的には、ニッケルクロム鋼等の硬度が高く耐摩耗性、耐熱性に優れた金属材料を充填した構成が採用されており、工具ホルダーの軽量化については然して重視されていなかったというのが偽らざる実状である。
【0005】
即ち、精々シンプルな設計の改善又は材質の選択によって、工具ホルダーの軽量化が行われているに過ぎない。
【0006】
因みに、特許文献1記載の工具ホルダーにおいては、シャンク部8の内側全空間を中空とする構成を採用する一方(
図1及び要約書の解決手段並びに請求項1)、特許文献2記載の工具ホルダにおいては、シャンク部2のうち、回転中心軸の周囲に配置されたクーラント通過用穴以外の領域を中空状態とする構成を採用している(
図1、2及び要約書の解決手段並びに請求項1)。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び同2のような中空構成の場合には、必然的にシャンク部の外周は、工具ホルダーに必要な剛性を得るうえで一定の肉厚を必要とし、必ずしも十分な軽量化を実現することはできない。
【0008】
他方、特許文献3記載の工具ホルダにおいては、テーパーシャンク部の主要部とホルダ部の主要部とにつき、アルミニウム合金を母材として採用し、所定の剛性を確保したうえで軽量化を実現している。
【0009】
しかしながら、特許文献3の工具ホルダにおいて、アルミニウム合金によって所定の剛性を確保し得る以上、テーパーシャンク部及びホルダ部の全てを充填する構成を採用する必要はない。
【0010】
然るに、特許文献3においては、上記充填構成が採用されており、工具ホルダーを更に軽量化するために必要な工夫が行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−252841号公報
【特許文献2】特開2006−326696号公報
【特許文献3】特開2011−11298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、シャンク部において、必要な剛性を外周だけでなく、その内側においても備えると共に、内側空間の形成によって工具ホルダーの軽量化を実現することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、
前側に工具を着脱自在に保持するホルダー部を備え、後側に主軸と着脱可能に嵌合するシャンク部を備えている工具ホルダーにおいて、長手方向と直交する方向の断面が円形であるシャンク部における外周の内壁と回転中心軸を囲んだ状態にて延設されているクーラント通過用パイプとを、長手方向と直交又は斜交する方向に配設された複数個の板状体によって接続して
おり、複数個の各板状体の前側及び後側に内部空間
を形成している工具ホルダー、
からなる。
【0014】
尚、前記基本構成において、板状体とは、例えば長方形又は楕円のように、一方側が長く、当該一方側に直交する他方側が短い状態を呈している断面を備えた平坦面形状又は湾曲面形状を意味して
いる。
【発明の効果】
【0015】
前記基本構成に立脚している本発明においては、シャンク部において鋼材、アルミニウム合金等の金属材料を採用したうえで、周壁、板状体の素材及び形状につき、工具の作動に必要な回転モーメントを主軸から工具に伝達するために必要な剛性を備えるように設計することを当然の前提としている。
【0016】
このような前提の下に、基本構成
においては、長手方向と直交する
複数個の各板状体
の前側及び後側に内部空間
を形成することによって、工具の軽量化を達成することができる。
【0017】
しかも、後述するように、シャンク部においては、外周の内壁から回転中心軸に近くなるにしたがって、主軸から工具に回転モーメントを伝達する際に負担する曲げモーメントが増大することから、必要な剛性を外周だけでなく、前記板状体、又は格子状体によって分担することができる。
【0018】
その結果、前記基本構成においては、必要な剛性の全て又は殆どを外周に備えさせている特許文献1及び同2の構成に比し、更なる軽量化を実現することができる。
【0019】
更には、
複数個の板状体
の一部にクーラント通過用穴を設置した場合には、クーラントを工具ホルダーの内部空間に充満することが可能であることから、工具ホルダーの効率的な冷却を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】基本構成を示しており、(a)は長手方向に沿った側断面図であり(尚、断面は左右方向の中央位置を示す。)、(b)、(c)は前記側断面図において、A−A、B−Bの位置の長手方向と直交する方向における板状体の断面図であり、(d)は前記長手方向において、C−Cの位置の長手方向に沿った
柱形状の補強材の断面図であ
り、(e)は前記長手方向においてC−Cの位置の長手方向に沿った板形状の補強材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、基本構成につき実施形態に即して説明する。
尚、前記基本構成においては、シャンク部11とホルダー部12とを不可欠の構成要素としているが、大抵の工具ホルダー1においては、
図1に示すように、シャンク部11の先端にフランジ部13を備え、かつホルダー部12とフランジ部13とを着脱自在とする構成を採用している。
【0022】
基本構成は、
図1(a)、(b)、(c)に説明するように、ホルダー部12の後方に位置しているシャンク部11において、外周6の内壁5と回転中心軸7を囲んだ状態にて延設されているクーラント通過用パイプ8とを、長手方向と直交又は斜交する方向に配設された1個又は複数個の板状体2によって接続している。
【0023】
上記板状体2の個数については、工具ホルダー1の長さ及び板状体2の厚さによって適宜選択することができる。
【0024】
基本構成においては、クーラント通過用パイプ8を延設していることから、板状体2については、
図1(b)に示すように、内壁5の全領域と接続し、かつクーラント通過用穴20を設置しない実施形態を選択することができる。
【0025】
但し、基本構成においても、
図1示すように、
複数個の板状体2の一部に、クーラント通過用穴20を設置するような実施形態も選択可能であって(
図1(c)は、クーラント通過用穴20を、内壁5との隙間状態によって形成している。)、その場合には、クーラント通過用パイプ8の存在は無意味であるが如くである。
【0026】
しかしながら、大抵の工具9においては、回転中心軸7を囲んだ状態にてクーラント通過用パイプを配置している。
【0027】
したがって、基本構成のクーラント通過用パイプ8は、工具9におけるクーラント通過用パイプとの接続を円滑に実現する一方、長手方向に沿って、クーラント放出用穴(図示せず)を設置した場合には、内部空間にクーラントを充満させた状態にて、工具ホルダー1の効率的な冷却を実現することができ、決して無意味な存在ではない。
【0028】
基本構成においては、前記外周6及び前記板状体2における金属材料の素材及び形状の選択によって、作動に必要な剛性を確保することを当然の前提としている。
【0029】
基本構成においては、
図1(a)に示すように、
複数個の板状体2の肉厚が外周6の内壁5から回転中心軸7に近くなるに従って
順次厚い状態であることを特徴とする実施形態を採用することができる。
【0030】
工具9に回転モーメントを伝達する際、工具ホルダー1において発生する曲げモーメントは、内壁5から回転中心軸7に近くなるにしたがって増加するが、上記実施形態は、このような曲げモーメントの増加に適合することができる。
【0031】
更には、基本構成においては、図
1(a)に示すように、
複数個の板状体2の肉厚が長手方向の前側から遠くなるに従って
順次厚い状態であることを特徴とする実施形態を採用することができる。
【0032】
工具ホルダー1においては、工具9を保持している前側から遠くなるにしたがって、工具9に回転モーメントを伝達する際発生する曲げモーメントが増加するが、上記実施形態はこのような増加状態に適合することができる。
【実施例】
【0034】
実施例は、基本構成において、
図1(a)、(d)、(
e)に示すように、複数個の板状体2相互の間の一部又は全てを、回転中心軸7を基準として等角度にて長手方向に沿って配設された同一形状である複数個の柱
形状の補強材41又は板
形状の補強材42によって架設していることを特徴としている。
【0035】
実施例において、同一形状である複数個の柱
形状体補強材41又は板
形状の補強材42を、長手方向に沿って、回転中心軸7を基準として等角度にて架設しているのは、工具ホルダー1の回転軸のバランスを確保することに由来している。
【0036】
このような柱
形状の補強材41又は板
形状の補強材42の架設によって、実施例においては、工具ホルダー1に必要な剛性を十分補強することができる。
【0037】
尚、作動時における曲げモーメントが、作動が行われる前側から離れるに従って、増加することを考慮するならば、上記柱
形状の補強材41又は板
形状の補強材42は、前側から離れるに従って、耐剛性に関する補強効果を発揮することができる。
【0038】
したがって、柱
形状の補強材41又は板
形状の補強材42の断面積については、図
1(a)に示すように、前側から離れるに従って増加させるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
このように、本発明においては、工具ホルダーにおいて外周の内側において内部空間を形成することによって、工具ホルダーの軽量化を実現することができ、その利用価値は絶大である。
【符号の説明】
【0040】
1 工具ホルダー
11 シャンク部
12 ホルダー部
13 フランジ部
2 板状体
20 クーラント通過用穴
3 柱
形状
41 柱
形状の補強材
42 板
形状の補強材
5 内壁
6 外周
7 回転中心軸
8 クーラント通過用パイプ
9 工具
【要約】
【課題】シャンク部において、必要な剛性を外周だけでなく、その内側においても備えると共に、内側空間の形成によって工具ホルダーの軽量化を実現すること。
【解決手段】前側に工具9を着脱自在に保持するホルダー部12を備え、後側に主軸と着脱可能に嵌合するシャンク部11を備えている工具ホルダー1において、外周6の内壁5
とクーラント通過用パイプ8とを、長手方向と直交又は斜交する複数個の板状体2
によって接続しており、複数個の各板状体の前側及び後側に、内部空間を形成することによって、前記課題を達成することができる工具ホルダー1。
【選択図】図
1