(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(抗菌剤)
本発明の抗菌剤は、ニッケル(Ni)とクロム(Cr)の合金であるニッケルクロム合金が、酸素で酸化されることによって得られるニッケルクロム酸化物を、抗菌物質として含むものからなる。
【0013】
抗菌剤の形態としては、抗菌物質であるニッケルクロム酸化物が抗菌作用(抗菌性)を発揮できるものであれば特に制限はなく、例えば、後述する抗菌膜のような膜状であってもよいし、粉末状(微粒子状)であってもよい。また、抗菌剤としては、無機物質や有機物質等からなる粉末状(微粒子状)の芯材に、抗菌物質であるニッケルクロム酸化物を担持させたものとしてもよい。
【0014】
粉末状の抗菌剤は、例えば、ハードコート層等の塗膜中に分散させて用いられる。なお、抗菌剤の好ましい形態としては、抗菌物質であるニッケルクロム酸化物を全面的に露出させ易く、持続的な抗菌性を発揮させ易い等の観点より、ニッケルクロム酸化物の膜状物(抗菌膜)であることが好ましい。以下、抗菌膜について詳細に説明する。
【0015】
(抗菌膜)
抗菌膜は、成膜対象物の表面に形成され、ニッケルクロム酸化物を含む膜からなる。
図1は、本発明の一実施形態に係る抗菌膜1が成膜対象物である透明な基材フィルム2の一方の面上に形成されてなる抗菌フィルム3の模式的な断面図である。
【0016】
抗菌膜を構成するニッケルクロム酸化物は、ニッケルクロム合金が酸素で酸化されたものからなる。抗菌膜中に含まれるニッケル(Ni)とクロム(Cr)の成分比(質量比)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、Ni:Cr=70:30〜85:15が挙げられる。
【0017】
抗菌膜中に含まれる酸素(酸素原子)の量は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はない。なお、後述するように、抗菌膜中に含まれる酸素量を適宜、調節すると、抗菌膜が透明化する。
【0018】
抗菌膜中には、ニッケル、クロム、酸素以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、他の成分が含まれてもよい。
【0019】
抗菌膜の膜厚は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、2nm〜100nmの範囲に設定される。なお、抗菌膜の膜厚は、後述する方法によって測定される。
【0020】
抗菌膜の形成方法(成膜方法)としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。抗菌膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法(電子線ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビーム法、イオンアシスト法、レーザーアブレーション法等の物理的気相成長(PVD)法、熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法等の化学的気相成長(CVD)法等が挙げられる。これらの中でも、物理的気相成長(PVD)法が好ましく、特に、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、例えば、ニッケルクロム合金をターゲットとしつつ、アルゴン等の不活性ガスと共に反応性ガスとして酸素を使用した酸化反応性スパッタリングが挙げられる。
【0021】
酸化反応性スパッタリングにおいて、スパッタリング装置のチャンバー内に供給される不活性ガス(Ar)及び反応性ガス(O
2)の混合ガス中におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)を適宜、調節することによって、抗菌膜中に含まれる酸素量を調節することができる。例えば、酸化反応性スパッタリングにおいて、前記混合比率を大きくすると、抗菌膜中の酸素量を多くできる傾向がある。
【0022】
抗菌膜を、酸化反応性スパッタリングを利用して形成する場合、スパッタリング装置のチャンバー内に供給される不活性ガス(Ar)及び反応性ガス(O
2)の混合ガス中におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)の範囲は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、0.05〜1.20が好ましい。前記混合比率(O
2量/Ar量)がこのような範囲であると、抗菌作用を有する抗菌膜を確実に得ることができる。
【0023】
抗菌膜が形成される成膜対象物としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はない。成膜対象物としては、例えば、樹脂、ゴム、ガラス、紙、繊維、布、不織布、金属等の様々な材料が挙げられる。成膜対象物としては、平坦な表面を有するものに限られず、表面が凹凸状のものであってもよい。抗菌膜は、それらの表面に対して追従するように形成される。
【0024】
また、成膜対象物としては、
図1に示されるような、フィルム状の基材(基材フィルム2)であってもよい。
【0025】
前記基材に使用される樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が挙げられる。
【0026】
また、成膜対象物としては、三次元的な立体形状物であってもよい。
図2は、直方体状の成膜対象物21の複数の表面に亘って抗菌膜11が形成されてなる抗菌材料31を模式的に表した説明図である。
図2に示されるように、抗菌膜11は、直方体状の成膜対象物21の表面を覆うように形成されてもよい。なお、立体形状物としては、球面等の曲面を備えるものであってもよく、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はない。
【0027】
抗菌膜は、成膜対象物の表面に対し、直接、形成してもよいし、下地層等の他の層を介して形成してもよい。なお、抗菌膜は、ニッケルクロム酸化物を含むため、成膜対象物によっては、成膜対象物に対する密着性に優れる。例えば、成膜対象物が、PET等の樹脂や金属等からなる場合、抗菌膜は、密着性に優れ、成膜対象物に対して直接、形成することができる。
【0028】
成膜対象物に対する抗菌膜の形成範囲は、特に制限されるものではなく、適宜、設定される。例えば、抗菌膜は、成膜対象物の全面に形成されてもよいし、部分的に形成されてもよい。
【0029】
抗菌膜は、抗菌性(抗菌作用)を発揮するために、通常は、成膜対象物の最表面に形成される。なお、抗菌膜を部分的に露出させる開口部を有する保護層を、抗菌膜上に形成してもよい。
図3は、抗菌膜12を部分的に露出させる開口部4を有する保護層41が、抗菌膜12上に形成された状態を模式的に表した説明図(平面図)である。保護層41としては、例えば、公知の透明な樹脂製おハードコート層が用いられる。
図3に示されるように、本発明の目的を損なわない限り、抗菌膜12上に、保護層41等の他の層が形成されてもよい。
【0030】
また、抗菌膜としては、抗菌作用を有する領域(抗菌領域)と、抗菌作用を示さない領域(非抗菌領域)とを1つの膜(抗菌膜)中に含むものであってもよい。その際、抗菌領域は、最表面に形成されたニッケルクロム酸化物膜からなり、非抗菌領域は、最表面に形成されたニッケルクロム膜からなる。
【0031】
図4は、抗菌領域13A,13Aと非抗菌領域5B,5Bとを含む抗菌膜13を模式的に表した説明図(平面図)である。抗菌膜13は、抗菌領域13Aと非抗菌領域5Bとが交互に並ぶように形成されている。抗菌領域13A及び非抗菌領域5Bは、一体的に形成されている。抗菌膜13は、例えば、以下に示される方法により、形成することができる。
【0032】
抗菌膜13を、酸化反応性スパッタリングを利用して形成する場合、例えば、スパッタリング装置のチャンバー内に不活性ガス(Ar)のみを供給して(つまり、O
2量/Ar量=0)、所定の成膜対象物の表面上に、ニッケルクロム膜を形成する。そして、そのニッケルクロム膜のうち、非抗菌領域5B,5Bとする部分のみに所定のマスキングを施し、その状態で、スパッタリング装置のチャンバー内に供給される不活性ガス(Ar)及び反応性ガス(O
2)の混合ガス中におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)の範囲を、例えば、0.10〜1.20の範囲に設定することによって、ニッケルクロム膜上に、ニッケルクロム酸化物からなる抗菌領域13A,13Aを形成する。このようにして、抗菌膜13を形成することができる。
【0033】
(透明抗菌膜)
抗菌膜は、ニッケルクロム酸化物中に含まれる酸素量を調節することによって、透明性(光透過性)を調節することができる。抗菌膜は、ニッケルクロム酸化物中に含まれる酸素量が所定範囲であると、透明性(光透過性)に優れる。本明細書において、透明性(光透過性)に優れた抗菌膜を特に、「透明抗菌膜」と称する場合がある。透明抗菌膜の全光線透過率(%)は、少なくとも70.0%以上であり、好ましくは75.0%以上であり、より好ましくは80.0%以上である。なお、透明抗菌膜の全光線透過率(%)は、後述する方法によって測定される。
【0034】
透明抗菌膜の膜厚は、透明抗菌膜の全光線透過率(%)が上記範囲となれば、特に制限はないが、例えば、2nm〜10nmの範囲に設定される。
【0035】
透明抗菌膜を、酸化反応性スパッタリングを利用して形成する場合、スパッタリング装置のチャンバー内に供給される不活性ガス(Ar)及び反応性ガス(O
2)の混合ガス中におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)の範囲は、好ましくは0.10〜1.20であり、より好ましくは0.20〜1.10であり、更に好ましくは0.30〜1.10である。前記混合比率(O
2量/Ar量)がこのような範囲であると、優れた透明性を有すると共に、持続的な抗菌性を有する透明抗菌膜が得られる。
【0036】
透明抗菌膜は、透明な成膜対象物のみならず、不透明な成膜対象物に形成されてもよい。
【0037】
透明抗菌膜のb値は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2.0以下であり、更に好ましくは1.5以下である。なお、b値とは、抗菌膜の色調を評価するための指標であり、黄色−青系の色相を表す。このb値が高くなると、透明抗菌膜の黄色味が増加することになる。つまり、b値が、上記のような範囲であると、透明抗菌膜の黄色味が抑制され、透明抗菌膜の無色透明性が確保される。b値は、後述する方法によって測定される。
【0038】
なお、透明抗菌膜は、ニッケルクロム酸化物中に含まれる酸素量を調節することによって、透明性(光透過性)のみならず、非導電性にも優れるものとなる。このような透明抗菌膜の表面抵抗(Ω/□)は、好ましくは1.0×10
10(Ω/□)以上であり、より好ましくは、3.0×10
11(Ω/□)以上である。特に、透明抗菌膜を、酸化反応性スパッタリングを利用して形成する場合、前記混合比率(O
2量/Ar量)が、0.20以上、より好ましくは0.30以上であると、透明抗菌膜は、優れた絶縁性を有する。
【0039】
また、透明抗菌膜としては、光透過性に優れる領域(光透過領域)と、光透過性が抑制された領域(光透過抑制領域)とを1つの膜(抗菌膜)中に含むものであってもよい。
【0040】
このような透明抗菌膜を、酸化反応性スパッタリングを利用して形成する場合、例えば、スパッタリング装置のチャンバー内に供給される不活性ガス(Ar)及び反応性ガス(O
2)の混合ガス中におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)の範囲を、例えば、0.10〜1.20の範囲に設定することによって、所定の成膜対象物の表面上に、透明なニッケルクロム酸化物膜を形成する。そして、そのニッケルクロム酸化物膜のうち、光透過領域とする部分のみに、所定のマスキングを施し、その状態でスパッタリング装置のチャンバー内に不活性ガス(Ar)のみを供給して(つまり、O
2量/Ar量=0)、マスキングされていない残りのニッケルクロム酸化物膜の表面上に、ニッケルクロム膜を形成して光透過抑制領域とする。このようにして、1つの膜中に、光透過領域と、光透過抑制領域とを含む透明抗菌膜を形成することができる。
【0041】
なお、前記光透過領域は、非導電性領域となっており、前記光透過抑制領域は、導電性領域となっている。
【0042】
以上のような本発明の抗菌膜は、持続的な抗菌性に優れる。また、本発明の抗菌膜は、抗菌物質として、ニッケルクロム酸化物を使用するため、銀等の従来の高価な抗菌物質と比べて、コスト的にも優れている。
【0043】
特に、透明抗菌膜は、持続的な抗菌性に優れると共に、更に、光透過性、及び非導電性にも優れている。透明抗菌膜は、光透過性に優れているため、その下側に配されている成膜対象物の表面(色、文字、図形等の各種情報)を、透明抗菌膜越しに容易に視認することができる。また、透明抗菌膜は、非導電性にも優れているため、電気的なショートやノイズの発生を防止したい箇所での使用に好適である。
【0044】
なお、本発明における抗菌膜の抗菌性(抗菌作用)、及び抗菌作用の持続性の評価は、後述する方法によって行われる。
【0045】
本発明の抗菌膜は、医療機器、生活住設関係、家電、液晶モニタ等の表示装置、窓ガラス等の様々な技術分野で利用することが可能である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
なお、以下に示される実施例、及び比較例では、ロール・トウ・ロール方式のマグネトロンスパッタリング装置を用いて、基材フィルム上に抗菌膜を成膜した。また、スパッタリング装置の各チャンバー内に供給されるガス(例えば、アルゴンガス、酸素ガス)の流量は、所定のマスフローコントローラを用いて適宜、調節した。抗菌膜中に含まれる酸素量は、以下に示されるようにスパッタリング成膜時の酸素ガス導入量で調整した。
【0048】
〔実施例1〕
透明なPETフィルム(厚み:100μm)の一方の面上に、スパッタリング(酸化反応性スパッタリング)により、以下に示される成膜条件に基づいて、ニッケルクロム酸化物からなる抗菌膜を形成し、抗菌フィルムを得た。
<成膜条件>
ターゲット:NiCr(Ni80wt%、Cr20wt%、住友金属鉱山株式会社製)
成膜圧力:0.4Pa
DCパワー:4W/cm
2
不活性ガス(Ar)及び反応性ガス(O
2)の混合ガス中におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量):0.13
O
2量:10sccm
Ar量:80sccm
【0049】
実施例1の抗菌フィルムから、直径約50mmの円形状に試験片を切り出し、その試験片における抗菌膜の膜厚を、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX−100e)を用いて測定した。実施例1における抗菌膜の厚みは、3.0nmであった。なお、後述するその他の実施例及び比較例における膜厚についても、実施例1と同様の方法で測定した。
【0050】
〔実施例2〕
実施例1の成膜条件におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)を、0.33に替えたこと(O
2量:20sccm、Ar量:60sccm)以外は、実施例1と同様にして、抗菌フィルムを得た。抗菌膜の膜厚は、2.9nmであった。
【0051】
〔実施例3〕
実施例1の成膜条件におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)を、0.50に替えたこと(O
2量:30sccm、Ar量:60sccm)以外は、実施例1と同様にして、抗菌フィルムを得た。抗菌膜の膜厚は、2.9nmであった。
【0052】
〔実施例4〕
実施例1の成膜条件におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)を、0.67に替えたこと(O
2量:40sccm、Ar量:60sccm)以外は、実施例1と同様にして、抗菌フィルムを得た。抗菌膜の膜厚は、3.0nmであった。
【0053】
〔実施例5〕
実施例1の成膜条件におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)を、0.83に替えたこと(O
2量:50sccm、Ar量:60sccm)以外は、実施例1と同様にして、抗菌フィルムを得た。抗菌膜の膜厚は、3.1nmであった。
【0054】
〔実施例6〕
実施例1の成膜条件におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)を、1.00に替えたこと(O
2量:60sccm、Ar量:60sccm)以外は、実施例1と同様にして、抗菌フィルムを得た。抗菌膜の膜厚は、3.1nmであった。
【0055】
〔比較例1〕
実施例1の成膜条件におけるO
2の混合比率(O
2量/Ar量)を、0に替えたこと(O
2量:0sccm、Ar量:60sccm)以外は、実施例1と同様にして、透明なPETフィルムの一方の面上に、スパッタリングにより、ニッケルクロムからなる膜(ニッケルクロム膜)を形成し、ニッケルクロム膜付きフィルムを得た。ニッケルクロム膜の膜厚は、3.0nmであった。
【0056】
〔比較例2〕
透明なPETフィルム(厚み:100μm)の一方の面上に、スパッタリングにより、以下に示される成膜条件に基づいて、ステンレス鋼(SUS)からなる抗菌膜(SUS膜)を形成し、抗菌フィルムを得た。抗菌膜の膜厚は、50.0nmであった。
<成膜条件>
ターゲット:SUSターゲット(日本冶金工業株式会社製)
成膜圧力:0.4Pa
DCパワー:4W/cm
2
【0057】
〔比較例3〕
透明なPETフィルム(厚み:100μm)の一方の面上に、スパッタリングにより、以下に示される成膜条件に基づいて、銅からなる抗菌膜を形成し、抗菌フィルムを得た。抗菌膜の膜厚は、50.0nmであった。
<成膜条件>
ターゲット:Cuターゲット(三菱伸銅株式会社製)
成膜圧力:0.4Pa
DCパワー:4W/cm
2
【0058】
〔評価1:抗菌性〕
実施例1〜6の抗菌膜における抗菌性を以下に示される方法で評価しまた。また、比較例2,3の抗菌膜についても、同様に抗菌性を評価した。
【0059】
各実施例及び各比較例で得られた抗菌フィルムからそれぞれ試験片(サイズ:5cm角)を切り出し、その試験片を用いて、JIS Z 2801に準拠して、抗菌活性値Rを測定した。対象菌種は、大腸菌及び黄色ブドウ球菌である。
【0060】
抗菌活性値Rは、下記式(1)で求められる。なお、抗菌活性値Rが、2.0以上であれば、抗菌性(抗菌効果)があると認められる。
R=log[(B/A)−log(C/A)]=[log(B/C)]・・・・・(1)
R:抗菌活性値
A:無加工試験片の接種直後の平均生菌数(個)
B:無加工試験片の24時間後の平均生菌数(個)
C:抗菌加工試験片の24時間後の平均生菌数(個)
【0061】
なお、上記式(1)中のAの平均生菌数(個)については、通常の方法で測定し、また上記式(1)中のB及びCの平均生菌数(個)についても、以下に示される通常の方法で測定した。試験片をシャーレ内に入れ、その試験片の表面に1/500普通ブイヨン培地で調製した菌液を滴下し、その菌液に所定のフィルムを密着するように被せた状態で、35℃で24時間培養した。そして、その試験片上の菌液について、生菌数(24時間後の平均生菌数)を測定した。
【0062】
実施例1〜6及び比較例2,3の抗菌フィルムの抗菌性の評価結果は、表1に示した。
【0063】
〔評価2:抗菌作用の持続性〕
各実施例を代表して実施例2で得られた抗菌フィルムについては、以下に示されるヒートサイクル試験を行った後に、上述したJIS Z 2801に準拠した方法により、抗菌活性値Rを測定した。評価結果は、表1に示した。
【0064】
(ヒートサイクル試験)
ヒートサイクル試験(熱衝撃試験)は、低温側保持温度:−20℃、低温側保持時間:2時間、高温側保持温度:70℃、高温側保持時間:2時間、昇温時間:1時間、降温時間:1時間の条件の下、低温保持、昇温、高温保持、降温を1サイクル6時間として、合計100時間行った。試験は常温から開始し、常温から昇温1時間、高温保持2時間及び降温1時間(合計4時間)を行ってから、1サイクル目を開始した。なお、ヒートサイクル試験としては、常温から降温1時間、低温保持2時間及び昇温1時間を行ってから、高温保持、降温、低温保持、昇温を1サイクル6時間として、行ってもよい。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されるように、各実施例におけるニッケルクロム酸化物からなる抗菌膜は、比較例2のSUS膜からなる抗菌膜及び比較例3のCu膜からなる抗菌膜と同等以上の抗菌性を備えていることが確かめられた。また、ヒートサイクル試験後の実施例2の抗菌膜についても、十分な抗菌性を備えていることが確かめられた。なお、ニッケルクロム膜について、同様の抗菌性評価を行ったところ、各実施例における抗菌膜のような抗菌性は認められなかった。
【0067】
〔評価3:全光線透過率〕
上記実施例1〜6及び比較例1で得られた抗菌フィルム等から試験片(サイズ:5cm角)を切り出し、その試験片を用いて全光線透過率(%)を測定した。全光線透過率は、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメーター(HZ−2、スガ試験機株式会社製)を用いて測定した。結果は、表2に示した。
【0068】
〔評価4:b値〕
上記実施例1〜6及び比較例1で得られた抗菌フィルム等から試験片(サイズ:5cm角)を切り出し、その試験片を用いてb値を測定した。b値は、JIS Z8729に準拠し、カラーメーター(Colour cute i、スガ試験機株式会社製)を用いて測定した。結果は、表2に示した。
【0069】
〔評価4:表面抵抗〕
上記実施例1〜6及び比較例1で得られた抗菌フィルム等から試験片(サイズ:5cm角)を切り出し、その試験片を用いて、MCC−B法(三菱化学法)に準拠しつつ表面抵抗値(Ω/□)を測定した。測定装置としては、Hiresta−UP MCP−HT450(三菱化学株式会社製)を用いた。測定装置のプローブ(電極)を、試験片の抗菌膜(比較例1の場合は、ニッケルクロム膜)の表面に押し当て、その表面を流れる電流値(温度条件:20℃)を測定し、その電流値から表面抵抗値(Ω/□)を求めた。結果は、表2に示した。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示されるように、実施例1〜6の抗菌膜については、全光線透過率(%)が70.0%以上であり、透明性に優れるものであった。特に、実施例2〜6の抗菌膜は、表面抵抗値(Ω/□)が1.0×10
10(Ω/□)以上であり、非導電性に優れるものであった。