【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
<実施例1〜15、比較例1〜5>
各実施例および各比較例は、外層の成膜条件が異なる他は、同様の製造方法で作製した。まず、基材として、83.1質量%のWCと、5.7質量%のTiCと、1.3質量%のTaCと、1.5質量%のNbCと、0.4質量%のZrCと、0.2質量%のCr
3C
2と、7.8質量%のCoという組成比となるように超硬合金の原料粉末を混合した。
【0072】
次に、上記の原料粉末をプレス成形し、真空雰囲気において1400℃で1時間保持することにより、超硬合金の原料粉末を焼結した。その後、炉内からプレス成型体を取り出して、その表面を平坦研磨処理した。次に、刃先稜線に対し、すくい面側から見て0.05mm幅のホーニング量の刃先処理をSiCブラシを用いて行なった。以上のようにして、CNMG120408N−GE(住友電工ハードメタル株式会社製)形状の基材を作製した。このようにして基材の表面に、20μmの厚みの脱β層を形成した。
【0073】
次に、基材をCVD炉にセットし、公知の熱CVD法を用いて、基材側から順に、結合層(TiN層)、内層(MT−TiCN層)、アルミナ結合層(TiCNO層)、外層(α−Al
2O
3)、および状態表示層(TiN層)をこの順に形成した。
【0074】
具体的には、まず、炉内の温度を900℃に設定し、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、1μm程度の厚みのTiN層を形成した。次に、炉内の温度を860℃に設定し、原料ガスとして2.3体積%のTiCl
4と、0.5体積%のCH
3CNと、25体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を70hPaとして、10μmの厚みのMT−TiCN層を形成した。
【0075】
そして、炉内の温度を980℃に設定し、原料ガスとして2体積%のTiCl
4と、0.1体積%のCH
4と、10体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を67hPaとしてTiCN結合層を形成した。その後、原料ガスとして2体積%のTiCl
4と、0.1体積%のCH
4と、10体積%のN
2と、1体積%のCOと、2体積%のCO
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を67hPaとすることにより、合計厚みが1μm以下のTiCNO層を形成した。
【0076】
次いで、以下の表1に示す炉内温度、圧力、原料ガスの組成比の条件によって4μmの厚みの外層を形成した。ここで、表1中の「H
2S」の原料ガスの体積比「0.30±0.05変動/30s」とは、H
2Sを導入する体積比を0.30体積%から連続的に増加させて0.35体積%とし、そこから連続的に減少させて0.25体積%とした後に、さらに連続的に増加させて0.30体積%とするH
2Sの体積比の変動を1サイクルして、この1サイクルを30秒で繰り返して外層を形成したことを意味する。
【0077】
【表1】
【0078】
最後に、外層を形成したときの炉内の温度と同一の温度で、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、1.5μm程度の厚みのTiN層を形成した。このようにして各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を作製した。
【0079】
<外層の等価ピーク強度の評価>
上記で作製した各実施例および各比較例の表面被覆切削工具の外層に対し、CuのKα
1(波長λ=1.5405A)のX線源を用いて、2θ−θ走査法のX線回折方法によりX線回析強度を測定した。その結果を表2の「X線強度」の欄に示し、X線回析強度が最大となる反射面を表2の「最大ピーク」の欄に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
そして、次式で定義される(hkl)面による等価ピーク強度PR(hkl)を算出し、このPR(hkl)によって外層の(024)面からのX線ピーク強度を定量的に評価した。
PR(024)={I(024)/I
0(024)}/[Σ{I(hkl)/I
0(hkl)}/8]。
【0082】
ただし、(hkl)は、ASTMファイルNo.10−173(powder Diffraction File Published by JCPDS International Center for Diffraction Data)に記載されているピーク強度が30以上である主なピークの反射面とし、具体的には(hkl)=(012)、(104)、(110)、(113)、(024)、(116)、(124)、(030)の8面である。PR(hkl)は、ASTMのデータに記載された等方粒子X線ピーク強度に対する、X線回折で実測した被膜の(hkl)面からのX線回折ピーク強度の相対強度を示すものである。PR(hkl)の幅が大きいほど(hkl)面からのX線ピーク強度が他のピーク強度よりも強いことを示し、(hkl)方向に配向していることを示す。表2の「PR(024)」の欄に(024)面による等価ピーク強度PR(hkl)を示す。
【0083】
上記式中のI(hkl)は、(hkl)面による実測時のX線回折強度を示すものであり、I
0(hkl)は、ASTMファイル No.10−173に記載されるX線回折強度であり、配向が等方的である粉末粒子の(hkl)面からのX線回折強度を示している。
【0084】
<切削試験>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を用いて、以下の切削条件Aで鋼の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具のすくい面摩耗量(mm)を評価した。また、切削条件Bで鋳鉄の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具の逃げ面摩耗量(mm)を評価した。
【0085】
(切削試験A)
被削材:S55C丸棒
切削速度:300m/min
送り速度:0.30mm/rev(湿式切削)
切り込み:2.0mm
切削時間:23分
(切削試験B)
被削材:FCD700丸棒
切削速度:150m/min
送り速度:0.30mm/rev(湿式切削)
切り込み:1.5mm
切削時間:15分
ここで、すくい面摩耗量および逃げ面摩耗量は、切削試験前後の表面被覆切削工具の摩耗幅を測定した。その結果を表3の「すくい面摩耗量」および「逃げ面摩耗量」の欄に示す。なお、すくい面摩耗量および逃げ面摩耗量が少ないものほど、表面被覆切削工具の耐摩耗性が優れることを示している。
【0086】
【表3】
【0087】
表3に示される結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比して、すくい面摩耗量および逃げ面摩耗量が少ないことが明らかである。この結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比し、耐摩耗性に優れたものであると言える。このように耐摩耗性が向上したのは、外層の強度が向上したことによるものと考えられる。一方、各比較例の表面被覆切削工具は、外層の強度が十分ではなかったため、すくい面および逃げ面の摩耗量が多くなったものと考えられる。
【0088】
<実施例16〜21、比較例6〜9>
各実施例および各比較例は、外層の成膜条件が異なる他は、同様の製造方法で作製した。まず、基材として、73.5質量%のWCと、9.0質量%のTaCと、6.7質量%のTiCと、0.3質量%のCr
3C
2と、10.5質量%のCoという組成比となるように超硬合金の原料粉末を混合した。
【0089】
次に、上記の原料粉末をプレス成形し、真空雰囲気において1400℃で1時間保持することにより、超硬合金の原料粉末を焼結した。その後、炉内からプレス成型体を取り出して、その表面を平坦研磨処理した。次に、刃先稜線に対し、すくい面側から見て0.04mm幅のホーニング量の刃先処理をSiCブラシを用いて行なった。以上のようにして、SPGN120412形状の基材を作製した。このようにして作製した基材の表面には、脱β層が形成されていなかった。
【0090】
次に、基材をCVD炉にセットし、公知の熱CVD法を用いて、基材側から順に、結合層(TiN層)、内層(MT−TiCN層)、アルミナ結合層(TiBN層)、外層(α−Al
2O
3)、および状態表示層(TiN層/Al
2O
3層の交互層)をこの順に形成した。
【0091】
具体的には、まず、炉内の温度を870℃に設定し、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、0.5μm程度の厚みのTiN層を形成した。次に、炉内の温度を870℃に保持し、原料ガスとして2.0体積%のTiCl
4と、0.4体積%のCH
3CNと、15体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を65hPaとして、3μmの厚みのMT−TiCN層を形成した。
【0092】
そして、炉内の温度を950℃に設定し、原料ガスとして2体積%のTiCl
4と、0.01体積%のBCl
3と、13体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を50hPaとして、0.5μm程度の厚みのTiBN層を形成した。その後、炉内にCOガスを導入することにより、TiBN層の表面を酸化した。
【0093】
次いで、以下の表4に示す炉内温度、圧力、原料ガスの組成比の条件によって、2.5μmの厚みの外層を形成した。
【0094】
【表4】
【0095】
次に、炉内の温度を900℃として、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、0.5μm以下の厚みのTiN層を形成し、再度0.5μm以下の厚みの外層を形成した。この0.5μmの厚みのTiN層と、0.5μmの厚みの外層とを交互に各3層ずつ積層した。そして、最後に、0.5μm程度の厚みのTiNからなる状態表示層を成膜した。このようにして各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を作製した。
【0096】
<外層の等価ピーク強度の評価>
上記で作製した各実施例および各比較例の表面被覆切削工具の外層に対し、実施例1〜15で用いたX線回折方法と同じ方法によりX線回析強度を測定した。その結果を表5の「X線強度」の欄に示し、X線回析強度が最大となる反射面を表5の「最大ピーク」の欄に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
<切削試験>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を用いて、以下の切削条件Cで鋼の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具の逃げ面摩耗量(mm)を評価した。また、切削条件Dで鋳鉄の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具のすくい面摩耗量(mm)を評価した。
【0099】
(切削試験C)
被削材:SCM435ブロック材
切削速度:330m/min
送り速度:0.25mm/rev(湿式切削)
切り込み:2.0mm
切削長さ:10m
(切削試験D)
被削材:FC250ブロック材
切削速度:250m/min
送り速度:0.3mm/rev(乾式切削)
切り込み:1.5mm
切削長さ:12m
ここで、すくい面摩耗量および逃げ面摩耗量は、切削試験前後の表面被覆切削工具の摩耗幅を測定した。その結果を表6の「すくい面摩耗量」および「逃げ面摩耗量」の欄に示す。なお、すくい面摩耗量および逃げ面摩耗量が少ないものほど、表面被覆切削工具の耐摩耗性が優れることを示している。
【0100】
【表6】
【0101】
表6に示される結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比して、すくい面摩耗量および逃げ面摩耗量が少ないことが明らかである。この結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比し、耐摩耗性に優れたものであると言える。このように耐摩耗性が向上したのは、外層の強度が向上したことによるものと考えられる。一方、各比較例の表面被覆切削工具は、外層の強度が十分ではなかったため、すくい面および逃げ面の摩耗量が多くなったものと考えられる。
【0102】
以上の結果から、実施例の表面被覆切削工具は、比較例の表面被覆切削工具に比して、耐摩耗性および耐欠損性に優れたものであることが示された。
【0103】
<実施例22〜36、比較例10〜14>
各実施例および各比較例は、外層の成膜条件が異なる他は、同様の製造方法で作製した。まず、基材として、82.1質量%のWCと、7.7質量%のTiCと、1.2質量%のTaCと、1.4質量%のNbCと、0.2質量%のCr
3C
2と、7.4質量%のCoという組成比となるように超硬合金の原料粉末を混合した。
【0104】
次に、上記の原料粉末をプレス成形し、真空雰囲気において1410℃で1時間保持することにより、超硬合金の原料粉末を焼結した。その後、炉内からプレス成型体を取り出して、その表面を平坦研磨処理した。次に、刃先稜線に対し、すくい面側から見て0.05mm幅のホーニング量の刃先処理をSiCブラシを用いて行なった。以上のようにして、CNMG120408N−GU(住友電工ハードメタル株式会社製)形状の基材を作製した。このようにして作製した基材の表面には、脱β層が形成されていなかった。
【0105】
次に、基材をCVD炉にセットし、公知の熱CVD法を用いて、基材側から順に、結合層(TiN層)、内層(MT−TiCN層)、アルミナ結合層(TiCNO層)、外層(α−Al
2O
3)、および状態表示層(TiN層)をこの順に形成した。
【0106】
具体的には、まず、炉内の温度を890℃に設定し、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、1μm程度の厚みのTiN層を形成した。次に、炉内の温度を870℃に設定し、原料ガスとして2.1体積%のTiCl
4と、0.45体積%のCH
3CNと、26体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を68hPaとして、8μmの厚みのMT−TiCN層を形成した。
【0107】
そして、炉内の温度を980℃に設定し、原料ガスとして2.1体積%のTiCl
4と、0.1体積%のCH
4と、10体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を67hPaとしてTiCN結合層を形成した。その後、炉内の温度を1010℃に設定し、原料ガスとして2.3体積%のTiCl
4と、0.1体積%のCH
4と、10体積%のN
2と、1.1体積%のCOと、1.1体積%のCO
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を67hPaとすることにより、厚みが1μm程度のTiCNO層を形成した。
【0108】
次いで、以下の表7に示す炉内温度、圧力、原料ガスの組成比の条件によって4μmの厚みの外層を形成した。ここで、表7中の「H
2S」の原料ガスの体積比「0.13±0.01変動/35s」とは、H
2Sを導入する体積比を0.13体積%から連続的に増加させて0.14体積%とし、そこから連続的に減少させて0.12体積%とした後に、さらに連続的に増加させて0.13体積%とするH
2Sの体積比の変動を1サイクルして、該1サイクルを35秒で繰り返して外層を形成したことを意味する。
【0109】
【表7】
【0110】
最後に、外層を形成したときの炉内の温度と同一の温度で、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、1.0μm程度の厚みのTiN層を形成した。このようにして各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を作製した。
【0111】
<外層の等価ピーク強度の評価>
上記で作製した各実施例および各比較例の表面被覆切削工具の外層に対し、CuのKα
1(波長λ=1.5405A)のX線源を用いて、2θ−θ走査法のX線回折方法によりX線回析強度を測定した。その結果を表8の「X線強度」の欄に示し、X線回析強度が最大となる反射面を表8の「最大ピーク」の欄に示す。
【0112】
【表8】
【0113】
そして、次式で定義される(hkl)面による等価ピーク強度PR(hkl)を算出し、このPR(hkl)によって外層の(024)面からのX線ピーク強度を評価した。表8の「PR(024)」の欄に(024)面による等価ピーク強度PR(hkl)を示す。
【0114】
<外層の接線交差角の評価>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を被膜表面の法線を含む平面で切断した断面に対し、機械研磨した後に、さらにイオン研磨を行なった。そして、該研磨面の20μmの長さ領域に対し、FE−SEMを用いて5000〜20000倍で外層の表面に位置するα型酸化アルミニウム結晶粒を3視野測定することにより、外層の表面に位置するα型酸化アルミニウム結晶粒を観察した。次に、隣接するα型酸化アルミニウム結晶粒同士によって形成される凹部の最深部を起点として外層の外側に向けてα型酸化アルミニウム結晶粒に接する半直線を引き、該半直線同士が交差する角度のうちの外層に向いて凸となる角(接線交差角)を求めた。そして、20μmの長さ領域に位置するα型酸化アルミニウム結晶粒に対し、接線交差角が100°〜170°となるα型酸化アルミニウム結晶粒の割合を求め、その結果を表8の「100°〜170°割合」の欄に示した。
【0115】
<切削試験>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を用いて、以下の切削条件Aで鋼の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具の逃げ面摩耗量(mm)を評価した。また、切削条件Bでステンレス鋼の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具の境界部の摩耗量(mm)を評価した。
【0116】
(切削試験A)
被削材:S45C丸棒
切削速度:280m/min
送り速度:0.25mm/rev(湿式切削)
切り込み:1.7mm
切削時間:15分
(切削試験B)
被削材:SUS316丸棒
切削速度:180m/min
送り速度:0.4mm/rev(湿式切削)
切り込み:1.5mm
切削時間:15分
ここで、「逃げ面摩耗量」は、切削試験前後の表面被覆切削工具の逃げ面の摩耗幅を測定して得た値を採用し、表9の「逃げ面摩耗量」の欄に示した。なお、逃げ面摩耗量が少ないものほど、表面被覆切削工具の耐摩耗性が優れることを示している。
【0117】
また、「境界摩耗量」は、切削試験前後の表面被覆切削工具の横逃げ面境界摩耗を測定して得た値を採用し、表9の「境界摩耗量」の欄に示した。なお、境界摩耗量が少ないものほど、表面被覆切削工具の耐溶着性および耐酸化性が優れることを示している。
【0118】
【表9】
【0119】
表9に示される結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比して、逃げ面摩耗量および境界摩耗量が少ないことが明らかである。この結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比し、耐摩耗性に優れたものであると言える。各実施例の表面被覆切削工具の耐摩耗性が向上したのは、外層の強度が向上したことによるものと考えられる。一方、各比較例の表面被覆切削工具は、外層の強度が低いことにより、切削初期から外層が剥離し、逃げ面摩耗および境界摩耗が進んだものと考えられる。
【0120】
<実施例37〜42、比較例15〜18>
各実施例および各比較例は、外層の成膜条件が異なる他は、同様の製造方法で作製した。まず、基材として、72.5質量%のWCと、8.5質量%のTaCと、6.7質量%のTiCと、0.5質量%のCr
3C
2と、11.8質量%のCoという組成比となるように超硬合金の原料粉末を混合した。
【0121】
次に、上記の原料粉末をプレス成形し、真空雰囲気において1395℃で1.5時間保持することにより、超硬合金の原料粉末を焼結した。その後、炉内からプレス成型体を取り出して、その表面を平坦研磨処理した。次に、刃先稜線に対し、すくい面側から見て0.04mm幅のホーニング量の刃先処理をSiCブラシを用いて行なった。以上のようにして、SPGN120412形状の基材を作製した。このようにして作製した基材の表面には、脱β層が形成されていなかった。
【0122】
次に、基材をCVD炉にセットし、公知の熱CVD法を用いて、基材側から順に、結合層(TiN層)、内層(MT−TiCN層)、アルミナ結合層(TiBN層)、外層(α−Al
2O
3)、および状態表示層(TiN層/Al
2O
3層の交互層)をこの順に形成した。
【0123】
具体的には、まず、炉内の温度を880℃に設定し、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、0.5μm程度の厚みのTiN層を形成した。次に、炉内の温度を880℃に保持し、原料ガスとして2.1体積%のTiCl
4と、0.3体積%のCH
3CNと、15体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を65hPaとして、3μmの厚みのMT−TiCN層を形成した。
【0124】
そして、炉内の温度を950℃に設定し、原料ガスとして2体積%のTiCl
4と、0.01体積%のBCl
3と、13体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を50hPaとして、1μm程度の厚みのTiBN層を形成した。その後、炉内にCOガスを導入することにより、TiBN層の表面を酸化した。
【0125】
次いで、以下の表10に示す炉内温度、圧力、原料ガスの組成比の条件によって、2.5μmの厚みの外層を形成した。
【0126】
【表10】
【0127】
次に、炉内の温度を900℃として、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、0.4μm程度の厚みのTiN層を形成し、再度0.5μm程度の厚みの外層を形成した。この0.5μmの厚みのTiN層と、0.5μmの厚みの外層とを交互に各4層ずつ積層した。そして、最後に、0.4μm程度の厚みのTiNからなる状態表示層を成膜した。このようにして各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を作製した。
【0128】
<外層の等価ピーク強度の評価>
上記で作製した各実施例および各比較例の表面被覆切削工具の外層に対し、実施例22〜36で用いたX線回折方法と同様の方法によりX線回析強度を測定した。その結果を表11の「X線強度」の欄に示し、X線回析強度が最大となる反射面を表11の「最大ピーク」の欄に示す。
【0129】
<外層の接線交差角の評価>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を被膜表面の外層に対し、実施例22〜36で用いた方法と同様の方法により、接線交差角が100°〜170°となるα型酸化アルミニウム結晶粒の割合を算出し、その結果を表11の「100°〜170°割合」の欄に示した。
【0130】
【表11】
【0131】
<切削試験>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を用いて、以下の切削条件Cで鋼の旋削試験を行なうとともに、切削条件Dで鋳鉄の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具のすくい面摩耗量(mm)を評価した。
【0132】
(切削試験C)
被削材:SCM435ブロック材
切削速度:320m/min
送り速度:0.25mm/rev(湿式切削)
切り込み:1.5mm
切削長さ:10m
(切削試験D)
被削材:FC250ブロック材
切削速度:260m/min
送り速度:0.25mm/rev(乾式切削)
切り込み:1.5mm
切削長さ:12m
ここで、「逃げ面摩耗量」は、切削試験前後の表面被覆切削工具の摩耗幅を測定することにより得た。その結果を表12に示す。なお、逃げ面摩耗量が少ないものほど、表面被覆切削工具の耐摩耗性が優れることを示している。
【0133】
【表12】
【0134】
表12に示される結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比して、逃げ面摩耗量が少ないことが明らかである。各比較例の表面被覆切削工具は、外層の強度が弱いため、切削加工の所期の段階から外層が剥離し、逃げ面摩耗が進んだものと考えられる。したがって、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比し、耐摩耗性に優れたものであると言える。このように耐摩耗性が向上したのは、外層の強度が向上したことによるものと考えられる。
【0135】
以上の結果から、実施例の表面被覆切削工具は、比較例の表面被覆切削工具に比して、耐摩耗性に優れたものであることが示された。
【0136】
<実施例43〜52、比較例19〜23>
各実施例および各比較例は、外層の成膜条件が異なる他は、同様の製造方法で作製した。まず、基材として、81.4質量%のWCと、6.7質量%のTiCと、1.4質量%のTaCと、1.2質量%のNbCと、2.0質量%のZrCと、0.4質量%のCr
3C
2と、6.9質量%のCoという組成比となるように超硬合金の原料粉末を混合した。
【0137】
次に、上記の原料粉末をプレス成形し、真空雰囲気において1390℃で1時間保持することにより、超硬合金の原料粉末を焼結した。その後、炉内からプレス成型体を取り出して、その表面を平坦研磨処理した。次に、刃先稜線に対し、すくい面側から見て0.06mm幅のホーニング量の刃先処理をSiCブラシを用いて行なった。以上のようにして、CNMG120408N−GE(住友電工ハードメタル株式会社製)形状の基材を作製した。このようにして作製した基材の表面には、10μmの厚みの脱β層が形成されていた。
【0138】
次に、基材をCVD炉にセットし、公知の熱CVD法を用いて、基材側から順に、結合層(TiN層)、内層(MT−TiCN層)、アルミナ結合層(TiCNO層)、外層(α−Al
2O
3)、および状態表示層(TiN層)をこの順に形成した。
【0139】
具体的には、まず、炉内の温度を890℃に設定し、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、1μm程度の厚みのTiN層を形成した。次に、炉内の温度を860℃に設定し、原料ガスとして2.2体積%のTiCl
4と、0.47体積%のCH
3CNと、25体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を70hPaとして、10μmの厚みのMT−TiCN層を形成した。
【0140】
そして、炉内の温度を後述する外層の成膜温度と同一の温度(表13の「炉内温度」)に設定し、原料ガスとして2.0体積%のTiCl
4と、0.2体積%のCH
4と、10体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を70hPaとしてTiCN結合層を形成した。その後、炉内の温度を保持したまま、原料ガスとして2.2体積%のTiCl
4と、0.2体積%のCH
4と、10体積%のN
2と、1.2体積%のCOと、1.2体積%のCO
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を70hPaとすることにより、厚みが1μm程度のTiCNO層を形成した。
【0141】
次いで、以下の表13に示す炉内温度、圧力、原料ガスの組成比の条件によって4.5μmの厚みの外層を形成した。ここで、表13中の「H
2S」の原料ガスの体積比「0.14±0.01変動/35s」とは、H
2Sを導入する体積比を0.14体積%から連続的に増加させて0.15体積%とし、そこから連続的に減少させて0.13体積%とした後に、さらに連続的に増加させて0.14体積%とするH
2Sの体積比の変動を1サイクルして、該1サイクルを35秒で繰り返して外層を形成したことを意味する。
【0142】
【表13】
【0143】
最後に、外層を形成したときの炉内の温度と同一の温度で、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、1.0μm程度の厚みのTiN層を形成した。このようにして各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を作製した。
【0144】
<外層の等価ピーク強度の評価>
上記で作製した各実施例および各比較例の表面被覆切削工具の外層に対し、CuのKα
1(波長λ=1.5405A)のX線源を用いて、2θ−θ走査法のX線回折方法によりX線回析強度を測定した。その結果を表14の「X線強度」の欄に示す。
【0145】
【表14】
【0146】
そして、次式で定義される(hkl)面による等価ピーク強度PR(hkl)を算出し、このPR(hkl)によって外層の(024)面、(110)面、および(012)面からのX線ピーク強度を定量的に評価した。
PR(024)={I(024)/I
0(024)}/[Σ{I(hkl)/I
0(hkl)}/8]
PR(110)={I(110)/I
0(110)}/[Σ{I(hkl)/I
0(hkl)}/8]
PR(012)={I(012)/I
0(012)}/[Σ{I(hkl)/I
0(hkl)}/8]
<α型酸化アルミニウム結晶粒の表面Rの評価>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を被膜表面の法線を含む平面で切断した断面に対し、機械研磨した後に、さらにイオン研磨を行なった。そして、該研磨面の20μmの長さ領域に対し、FE−SEMを用いて10000倍で外層の表面に位置するα型酸化アルミニウム結晶粒を3視野測定することにより、外層の表面に位置するα型酸化アルミニウム結晶粒の凸部に接する内接円の半径(表面R)を算出した。そして、20μmの長さ領域にあるα型酸化アルミニウム結晶粒に占める、表面Rが3mm以上となるα型酸化アルミニウム結晶粒の割合を求め、その結果を表14の「R=3mm以上の割合」の欄に示した。
【0147】
<切削試験>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を用いて、以下の切削条件Aで鋼の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具の逃げ面摩耗量(mm)を評価した。また、切削条件Bで鋳鉄の断続切削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具にチッピングや欠損が生じるまでの衝撃回数(回)を評価した。
【0148】
(切削試験A)
被削材:S45C丸棒
切削速度:260m/min
送り速度:0.4mm/rev(湿式切削)
切り込み:2.0mm
切削時間:12分
(切削試験B)
被削材:FC250(4本溝入り丸棒)
切削速度:190m/min
送り速度:0.25mm/rev(湿式切削)
切り込み:1.5mm
ここで、切削試験前後の表面被覆切削工具の逃げ面の摩耗幅を測定して得た値を採用し、表15の「逃げ面摩耗量」の欄に示した。なお、逃げ面摩耗量が少ないものほど、表面被覆切削工具の耐摩耗性が優れることを示している。
【0149】
また、表面被覆切削工具を用いて鋳鉄を断続切削し続けたときに、表面被覆切削工具がチッピングまたは欠損するまでの衝撃回数を表15の「衝撃回数」の欄に示した。なお、衝撃回数が多いほど、欠損が生じにくいことを示している。
【0150】
【表15】
【0151】
表15に示される結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比して、逃げ面摩耗量が少なく、衝撃回数が多いことが明らかである。この結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比し、耐摩耗性および耐欠損性に優れたものであると言える。このように耐摩耗性および耐欠損性が向上したのは、外層の強度および被膜の耐溶着性が向上したことによるものと考えられる。一方、各比較例の表面被覆切削工具は、外層の強度が低いことにより、切削初期から外層が剥離し、逃げ面摩耗が進んだり、チッピングまたは欠損が生じたりしたものと考えられる。
【0152】
<実施例53〜57、比較例24〜27>
各実施例および各比較例は、外層の成膜条件が異なる他は、同様の製造方法で作製した。まず、基材として、74.4質量%のWCと、7.5質量%のTaCと、7.7質量%のTiCと、0.3質量%のCr
3C
2と、10.8質量%のCoという組成比となるように超硬合金の原料粉末を混合した。
【0153】
次に、上記の原料粉末をプレス成形し、真空雰囲気において1380℃で1.5時間保持することにより、超硬合金の原料粉末を焼結した。その後、炉内からプレス成型体を取り出して、その表面を平坦研磨処理した。次に、刃先稜線に対し、すくい面側から見て0.03mm幅のホーニング量の刃先処理をSiCブラシを用いて行なった。以上のようにして、SPGN120412形状の基材を作製した。このようにして作製した基材の表面には、脱β層が形成されていなかった。
【0154】
次に、基材をCVD炉にセットし、公知の熱CVD法を用いて、基材側から順に、結合層(TiN層)、内層(MT−TiCN層)、アルミナ結合層(TiBN層)、外層(α−Al
2O
3)、および状態表示層(TiN層/Al
2O
3層の交互層)をこの順に形成した。
【0155】
具体的には、まず、炉内の温度を880℃に設定し、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、0.5μm程度の厚みのTiN層を形成した。次に、炉内の温度を840℃に保持し、原料ガスとして2.0体積%のTiCl
4と、0.4体積%のCH
3CNと、17体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を70hPaとして、3μmの厚みのMT−TiCN層を形成した。
【0156】
そして、炉内の温度を後述する外層の成膜温度と同一の温度(表16の「炉内温度」)に設定し、原料ガスとして1.8体積%のTiCl
4と、0.02体積%のBCl
3と、15体積%のN
2とを用い、残りをキャリアガスとしてH
2ガスを導入し、炉内圧力を50hPaとして、1μm程度の厚みのTiBN層を形成した。
【0157】
次いで、以下の表16に示す炉内温度、圧力、原料ガスの組成比の条件によって、2.0μmの厚みの外層を形成した。
【0158】
【表16】
【0159】
次に、上記の外層を成膜したときの成膜温度を保持して、原料ガスとしてTiCl
4ガスとN
2ガスとを用い、キャリアガスとしてH
2ガスを用いて、0.4μm程度の厚みのTiN層を形成し、再度0.4μm程度の厚みの外層を形成した。この0.4μmの厚みのTiN層と、0.4μmの厚みの外層とを交互に5層ずつ積層した。そして、最後に、0.4μm程度の厚みのTiNからなる状態表示層を成膜した。このようにして各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を作製した。
【0160】
<外層の等価ピーク強度の評価>
上記で作製した各実施例および各比較例の表面被覆切削工具の外層に対し、実施例43〜52で用いたX線回折方法によりX線回析強度を測定した。その結果を表17の「X線強度」の欄に示した。また、実施例43〜52で用いた解析手法と同様にして解析することにより、(024)面、(110)面、および(012)面による等価ピーク強度PR(hkl)を算出し、その値を表17の「PR(024)」「PR(110)」「PR(012)」の欄に示した。
【0161】
<α型酸化アルミニウム結晶粒の表面Rの評価>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を被膜表面の外層に対し、実施例43〜52で用いた方法と同様の方法により、表面Rが3mm以上となるα型酸化アルミニウム結晶粒の割合を算出し、その結果を表17の「R=3mm以上の割合」の欄に示した。
【0162】
【表17】
【0163】
<切削試験>
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具を用いて、以下の切削条件Cで鋳鉄の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具の逃げ面摩耗量(mm)を評価した。また、以下の切削条件Dで鋼の旋削試験を行なうことにより、表面被覆切削工具に欠損が生じるまでの切削長さ(mm)を評価した。
【0164】
(切削試験C)
被削材:FC250ブロック材
切削速度:270m/min
送り速度:0.35mm/rev(乾式切削)
切り込み:1.5mm
切削長さ:12m
(切削試験D)
被削材:S50C板材 4枚
切削速度:150m/min
送り速度:0.27mm/rev(乾式切削)
切り込み:2.0mm
ここで、切削試験前後の表面被覆切削工具の摩耗幅を測定することにより逃げ面摩耗量を得た。その結果を表18に示す。なお、逃げ面摩耗量が少ないものほど、表面被覆切削工具の耐摩耗性が優れることを示している。また、「切削長さ」は、表面被覆切削工具を用いて鋼を旋削加工し続けたときに、表面被覆切削工具がチッピングまたは欠損するまでの切削長さを表18の「切削長さ」の欄に示した。なお、切削長さが長いほど、欠損が生じにくいことを示している。
【0165】
【表18】
【0166】
表18に示される結果から、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比して、逃げ面摩耗量が少なく、欠損が生じにくいことが明らかである。よって、各実施例の表面被覆切削工具は、各比較例のそれに比し、耐摩耗性および耐欠損性に優れたものであると言える。各実施例の表面被覆切削工具の耐摩耗性および耐欠損性が向上したのは、外層の強度が向上したことによるものと考えられる。一方、各比較例の表面被覆切削工具は、外層の強度および密着性が弱いことにより、切削加工の所期の段階から外層が剥離し、逃げ面摩耗が進んだり、欠損が生じたりしたものと考えられる。
【0167】
以上の結果から、実施例の表面被覆切削工具は、比較例の表面被覆切削工具に比して、耐摩耗性に優れたものであることが示された。
【0168】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0169】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。