(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記戻し通路形成部材の長手方向両端に、前記戻し通路と前記方向転換路との位置合わせ用凹部が形成され、前記位置合わせ用凹部は、前記保持部材の内周面と前記薄板部材の長手方向端面とで構成され、
前記リターンガイドは、前記位置合わせ用凹部と嵌め合う凸部を有し、前記凸部は、前記リターンガイドが前記リターンガイド嵌合用凹部に嵌合された状態で前記リターンガイドの前記スライダ本体側の面から突出し、
前記戻し通路と前記方向転換路との位置合わせが、前記位置合わせ用凹部と前記凸部との嵌め合いでなされている請求項1記載の直動案内装置。
前記戻し通路形成部材は、前記保持部材の外形に対応させた金型内の所定位置に前記薄板部材を配置し、前記金型内に合成樹脂を射出成形するインサート成形法で製造されたものである請求項1または2記載の直動案内装置。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置は、案内レールとスライダ(「ベアリング」とも称される。)と複数個の転動体とを備えている。案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有する。スライダは、さらに、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有する。そして、前記転動通路、前記戻し通路、および前記方向転換路で転動体の循環経路が構成され、この循環経路内を転動体が循環することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動する。
【0003】
また、前記スライダは、本体と、本体の直動方向両端に固定され、前記方向転換路を形成する外側案内面を有するエンドキャップと、前記方向転換路を形成する内側案内面を有するリターンガイドを備えている。そして、スライダの本体は、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、両脚部を連結する胴部と、からなり、前記脚部の内側に転動面が形成されている。一般に、スライダ本体は金属製であり、エンドキャップとリターンガイドは合成樹脂製である。
【0004】
このような直動案内装置として、スライダ本体の脚部の幅方向(案内レールの長手方向と垂直な方向)外側に切欠き部を有し、前記切欠き部の外側に、スライダ本体とは別体の戻し通路形成部材が配置されているものが提案されている(特許文献1、2参照)。
特許文献1に記載された戻し通路形成部材は、戻し通路と方向転換路が一体化されたJ字状のチューブである。このチューブが、スライダ本体に対して、ゴムを焼き付けたカバ−を介して、ボルトにより固定されている。また、このチューブを二つ割りにすることにより、プレス成形を容易にし、ボールの組込みを容易にできることが記載されている。
【0005】
特許文献2に記載された戻し通路形成部材は、戻し通路と方向転換路の内側案内面とが一体化されたサイドフレームである。サイドフレームは、金属製のスライダ本体に対して鉛直または水平に位置決めされて固定されている。また、サイドフレームの長手方向両端に、エンドキャップに設けた位置決め凹部と係合するスナップ手段が形成されている。
特許文献3には、スライダ本体の脚部の幅方向外側に、スライダ本体とは別体の戻し通路形成部材が配置された直動案内装置が記載されている。この直動案内装置はスライダ本体の脚部の幅方向外側に切欠き部を有さない。この戻し通路形成部材は、特許文献1に記載された戻し通路形成部材と同様に、戻し通路と方向転換路が一体化されたJ字状のチューブである。
【0006】
このチューブは、チューブに嵌合する溝を内面に有する側面カバーと端面カバー(エンドキャップ部)とが一体化された取付カバーを二個使用して、スライダ本体に取り付けられている。この取付カバ−のエンドキャップ部には、スライダ本体の直動方向端面に設けた位置決め穴に嵌まる環状突起が形成されている。また、取付カバ−の側面カバー部の長手方向端面に、二個の取付カバーを結合するための突起と穴が形成されている。
一方、特許文献4には、直動案内装置を構成する案内レールを弾性変形可能な柔構造とすることにより、取付け誤差を吸収して高負荷容量とすることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、特許文献1〜3には、スライダ本体の脚部の幅方向外側に戻し通路形成部材を有する直動案内装置が記載されているが、これらの従来技術には、製造コストを低減するという点で改善の余地がある。つまり、スライダ本体の切欠き面に、戻し通路の内側案内面や位置合わせ部が形成されていると、スライダ本体の製造コストが高くなる。
また、戻し通路形成部材が金属パイプのみからなると、戻し通路からの騒音や振動の発生が問題となる。戻し通路形成部材が合成樹脂のみからなると、機械的強度を確保するためにある程度の厚さが必要となるため、戻し通路形成部材の幅(案内レールの長手方向と垂直な方向の寸法)を小さくできず、スライダ本体の脚部の幅が制限される。スライダ本体の脚部の幅を大きくできれば、直動案内装置の設計の自由度が大きくなって、負荷容量がより高い条件下でも使用できるようになる。
【0009】
この発明の課題は、スライダ本体の脚部の幅方向外側に切欠き部を有し、前記切欠き部の外側に戻し通路形成部材を有する直動案内装置において、負荷容量がより高い条件下でも好適に使用できるようにするとともに、スライダ本体および戻し通路形成部材の製造コストを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明の一態様の直動案内装置は、下記の構成(A)〜
(E)を有することを特徴とする。
(A)案内レールとスライダと複数個の転動体とを備え、案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、スライダは、さらに、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有し、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、この循環経路内を転動体が循環することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直動する装置である。
【0011】
(B)前記スライダは、(1) 前記案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部と、からなり、前記脚部の幅方向内側に転動面が形成され、前記脚部の幅方向外側に切欠き部を有するスライダ本体、(2) 前記スライダ本体の直動方向両端に固定され、前記方向転換路を形成する外側案内面を有するエンドキャップ、および(3) 前記方向転換路を形成する内側案内面を有するリターンガイドを備える。
(C)
少なくとも一対の前記戻し通路は、前記脚部の切欠き部の外側に配置された、前記スライダ本体および前記リターンガイドとは別体の戻し通路形成部材
内に形成されている。前記エンドキャップの前記スライダ本体側の面に、前記リターンガイドの嵌合用凹部が形成され、前記リターンガイドが前記リターンガイド嵌合用凹部に嵌合されることで、前記方向転換路が形成されている。前記戻し
通路形成部材は、前記案内レールの幅方向各側に独立に配置されている
。前記戻し通路は、通常、前記各脚部にそれぞれ1個または2個以上設けてあるが、その全てではなく、少なくとも1個が前記戻し通路形成部材で形成されていればよい。
【0012】
(D)前記戻し通路形成部材は、前記
少なくとも一対の戻し通路の長手方向に延び、
前記少なくとも一対の戻し通路の案内面の
少なくとも一部を有する金属製の薄板部材と、前記薄板部材を所定位置に保持して被覆する合成樹脂製の保持部材とが一体化されたものであ
り、前記少なくとも一対の戻し通路は、断面円の全周が前記保持部材により覆われ、前記保持部材は、前記切欠き部との係合面において、前記薄板部材よりも厚さが厚い。薄板部材をなす金属としては、SPCC、SUS430、SUS304が例示される。保持部材をなす合成樹脂としては、ポリアセタール樹脂、より具体的には、デュポン(株)製の「デルリン(登録商標)500」や「デルリン(登録商標)100」が例示される。
【0013】
(E)
前記少なくとも一対の戻し通路と前記方向転換路との位置合わせが、前記戻し通路形成部材の長手方向両端と前記エンドキャップとの間のみでなされている。前記位置合わせは、例えば、前記戻し通路形成部材の長手方向両端および前記エンドキャップの一方に形成された凹部と、他方に形成された凸部との嵌め合いで行うことができる
。
この態様の直動案内装置によれば、
少なくとも一対の前記戻し通路が、前記脚部の切欠き部の外側に配置された、前記スライダ本体および前記リターンガイドとは別体の戻し通路形成部材
内に形成されているとともに、
前記少なくとも一対の戻し通路と前記方向転換路との位置合わせが、前記戻し通路形成部材の長手方向両端と前記エンドキャップとの間のみでなされているため、前記脚部の切欠き面を部品の位置あわせのために高精度に仕上げる必要がない。
よって、前記切欠き面に前記戻し通路の位置合わせ部が形成されているものや、前記切欠き面に前記戻し通路の案内面の一部が形成されているものと比較して、前記スライダ本体の製造コストを低く抑えることができる。
【0014】
また、前記戻し通路形成部材が、前記戻し通路の長手方向に延び、少なくとも前記戻し通路の案内面の一部を有する金属製の薄板部材(例えば、金属パイプ、長手方向に垂直な断面が略C型の芯金)と、前記薄板部材を所定位置に保持して被覆する合成樹脂製の保持部材とが一体化されたものであるため、薄板部材と保持部材が別々に形成されて組み合わせてある戻し通路形成部材と比較して、製造コストを低減できる。
【0015】
また、前記戻し通路形成部材が金属パイプのみからなるものと比較して、合成樹脂の遮音効果により戻し通路からの騒音発生が抑制され、振動も抑制される。合成樹脂のみからなるものと比較して、厚さを薄くしても機械的強度や耐摩耗性が確保できるため、戻し通路形成部材の幅を小さくできる。戻し通路形成部材の幅が小さくなることで、前記脚部の幅を大きくできるため、直動案内装置の設計の自由度が大きくなる。よって、この態様の直動案内装置は、負荷容量がより高い条件下でも好適に使用できる。
【0016】
また、前記戻し通路と前記方向転換路との位置合わせが、前記戻し通路形成部材の長手方向両端および前記エンドキャップの一方に形成された凹部と、他方に形成された凸部との嵌め合いでなされていると、このような位置合わせ構造を有さないものと比較して、前記戻し通路内からの潤滑剤の漏れや外部から前記戻し通路内への異物侵入が生じにくいものとなる。
【0017】
前記戻し通路形成部材は、前記保持部材の外形に対応させた金型内の所定位置に前記薄板部材を配置し、前記金型内に合成樹脂を射出成形するインサート成形法で製造することができる。
この態様の直動案内装置は、下記の構成(F)を有することが好ましい。
(F)前記戻し通路形成部材の前記保持部材が前記切欠き部の側面に向けて反る湾曲部を有し、前記湾曲部が前記側面に接触して前記側面を押す力が作用している。
この態様の直動案内装置が前記構成(F)を有することにより、前記構成(F)を有さない直動案内装置と比較して、使用時に転動体が戻し通路を通過する際に生じる戻し通路形成部材の振動や騒音が抑制される。また、前記湾曲部が前記側面を押す力は主に前記保持部材の変形によるものであり、金属製の前記薄板部材は変形しにくいため、戻し通路の位置ずれや変形が生じにくく、転動体の円滑な移動が確保され易い。
【0018】
この態様の直動案内装置は、下記の構成(G)を満たすスライダ本体を有する直動案内装置にも適用できる。
(G)前記スライダ本体は、前記転動体と前記転動面との接触部の剛性よりも前記脚部の剛性の方が小さい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、スライダ本体の脚部の幅方向外側に切欠き部を有し、前記切欠き部の外側に戻し通路形成部材を有する直動案内装置において、負荷容量がより高い条件下でも好適に使用できるようになるとともに、スライダ本体および戻し通路形成部材の製造コストが低減される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明は以下の実施形態に限定されない。
[第1実施形態]
図1〜3を用いて、第1実施形態の直動案内装置を説明する。
図1に示すように、この実施形態の直動案内装置は、案内レール1とスライダ2と複数個のボール(転動体)3とで構成されている。案内レール1およびスライダ2は、互いに対向配置されてボール3の転動通路を形成する転動溝(転動面)11,21を有する。スライダ2は、ボール3の戻し通路22と、戻し通路22と転動通路とを連通させる方向転換路24(
図2参照)を有する。
図1において、戻し通路22内のボール3は省略されている。
【0022】
スライダ2は、
図1に示す金属製のスライダ本体210と、
図2に示す合成樹脂製のエンドキャップ220と、
図2に示す合成樹脂製のリターンガイド231と、
図1〜3に示す形状の戻し通路形成部材250を備えている。
スライダ本体210は、案内レール1の幅方向両側に配置される脚部211と、両脚部211を連結する胴部212と、からなる。スライダ本体210の脚部211の幅方向内側に転動面21が形成され、脚部211の幅方向外側に切欠き部211aが形成されている。切欠き部211aの外形面は曲面状となっている。
【0023】
エンドキャップ220は、スライダ本体210の直動方向両端に固定され、
図2に示すように、案内レール1の幅方向両側に配置される脚部221と、両脚部221と直交する方向に延びて両脚部221を連結する胴部222とからなる。エンドキャップ220の胴部222の中央部に、給油口222aが形成されている。両脚部221の本体210側の面に、リターンガイド231を嵌める凹部221aが形成されている。エンドキャップ220は方向転換路24を形成する外側案内面を有し、リターンガイド231は方向転換路24を形成する内側案内面を有する。
【0024】
エンドキャップ220のスライダ本体210側の面に、給油口222aからリターンガイド231の凹部231aに向かう給油溝223が形成されている。エンドキャップ220のスライダ本体210側の面には、また、給油口222aを挟んだ幅方向両側に、スライダ本体210の胴部212の凹部212aに嵌まる円筒状突起(凸部)222bが形成されている。給油溝223は円筒状突起222bの外周にも形成されている。
【0025】
エンドキャップ220のスライダ本体210側の面には、さらに、脚部221の外側の上下の各方向転換路24の位置に略半円筒状の突起221cが形成されている。突起221cと共に円筒状突起220cを形成する略半円筒状の突起231cが、リターンガイド231に形成されている。リターンガイド231を凹部221aに嵌めることで、エンドキャップ220に円筒状突起220cが形成され、円筒状突起220cの内周円が方向転換路24の開口円と連続する。円筒状突起220cの突出寸法はボール3の直径の1/2である。
【0026】
図2の左側の脚部221は、エンドキャップ220にリターンガイド231と戻し通路形成部材250が取り付けられた後の状態を、右側の脚部221は、リターンガイド231が取り付けられた後で、戻し通路形成部材250が取り付けられる前の状態を示している。
案内レール1の転動面11とスライダ2の転動面21からなる転動通路、戻し通路22、および方向転換路24で、ボール3の循環経路が構成されている。この循環経路内をボール3が循環することにより、案内レール1およびスライダ2の一方が他方に対して相対的に直線運動する。
【0027】
図1に示すように、全ての転動溝21はスライダ本体210に形成されている。上下の戻し通路22は、脚部211の切欠き部211aの外側に配置された、スライダ本体210とは別体の戻し通路形成部材250により形成されている。
戻し通路形成部材250は、切欠き部211aの外形面との係合面として、胴部212に近い第一係合面250aと上下の転動溝21に近い第二係合面250bを有する。切欠き部211aの外形面と第一係合面250aおよび第二係合面250bとは、所定隙間(0.1〜0.3mm)で対向している。
【0028】
図1および
図3に示すように、戻し通路形成部材250は、上下の戻し通路22を構成する二本の金属パイプ251と、これらを所定位置に保持して被覆する合成樹脂製の保持部材252で構成されている。金属パイプ251はSPCC製であり、保持部材252はデュポン(株)製のポリアセタール樹脂「デルリン(登録商標)500」からなる。
戻し通路形成部材250の長手方向両端部は、
図3に示すように、金属パイプ251の端面と保持部材252の端面がずれた配置になっている。この配置により、戻し通路形成部材250の長手方向両端部に、内壁面250eと環状の底面250fとからなる円筒状凹部250cが形成されている。内壁面250eは保持部材252の内周面であり、環状の底面250fは金属パイプ251の端面である。環状の底面250fの円穴(金属パイプ251の内周円)は、戻し通路22の断面円に相当する。円筒状凹部250cの寸法は、エンドキャップ220の円筒状突起220cに嵌まる寸法である。
【0029】
戻し通路形成部材250は、保持部材252の外形に対応させた金型内の所定位置に金属パイプ251を配置し、その金型内に合成樹脂を射出成形する方法(インサート成形)で製造することができる。すなわち、戻し通路形成部材250の第一係合面250aおよび第二係合面250bは合成樹脂からなり、戻し通路22は金属製となっている。
戻し通路形成部材250は、円筒状凹部250cをエンドキャップ220の円筒状突起(凸部)220cに嵌めることで、エンドキャップ220に位置決めされて固定され、下側の方向転換路24と戻し通路22が接続される。
【0030】
この実施形態の直動案内装置によれば、スライダ本体210に対して戻し通路形成部材250を位置決めする必要がないため、脚部211の切欠き部211aの面を高精度に仕上げる必要がない。また、切欠き部211aの面に戻し通路22の案内面を形成する必要がない。よって、切欠き部211aの面は引抜き加工のままでよい(溝加工や研磨の必要がない)ため、スライダ本体210の製造コストを低く抑えることができる。
【0031】
また、戻し通路形成部材250が、金属パイプ251と合成樹脂製の保持部材252で構成されているため、金属パイプのみからなるものと比較して、合成樹脂の遮音効果により戻し通路22からの騒音発生が抑制され、振動も抑制される。合成樹脂のみからなるものと比較して、厚さを薄くしても機械的強度や耐摩耗性が確保できるため、戻し通路形成部材の幅を小さくできる。戻し通路形成部材の幅が小さくなることで、脚部211の幅を大きくできるため、脚部の強度が確保されることにより設計の自由度が大きくなる。これに伴い、負荷容量がより高い条件下での使用にも好適となる。
また、下側の戻し通路22と方向転換路24との位置合わせが、戻し通路形成部材250の長手方向両端に形成された凹部250cとエンドキャップ220に形成された円筒状突起(凸部)220cとの嵌め合いでなされているため、戻し通路22内からの潤滑剤の漏れや外部から戻し通路22内への異物侵入が生じにくいものとなっている。
【0032】
一方、この実施形態の直動案内装置は、スライダ本体210の脚部211に切欠き部211aを設けることで、ボール3と転動溝21との接触部の剛性よりも脚部211の剛性の方が小さく形成されている。
具体的には、スライダ本体210の組み付け時における左右の脚部211の弾性変形量が、ボール3と転動面21との接触部での弾性変形量の約2倍(FEM解析に基づく結果より)になっている。また、脚部211の最も厚さの薄い部分に極端な応力集中が生じないように、切欠き部211aの形状や脚部211の厚さを設定している。さらに、胴部212の厚さをボール3の直径より大きくしている。
【0033】
この実施形態の直動案内装置によれば、取付面や組み付け面の精度が十分確保できない場合に、脚部211がボール3と転動面21との接触部よりも大きく変形して誤差を吸収することができる。また、脚部211の最薄肉部に極端な応力集中が生じることが防止され、極力、脚部211全体で負荷を受けることができる。
したがって、この実施形態の直動案内装置によれば、低剛性とした脚部211の変形で取付誤差が吸収できるとともに、大荷重作用時であっても、脚部211の最薄肉部に極端な応力集中が生じることなく負荷を受けることができるため、一発破壊や繰返し疲労による破損が防止できる。
【0034】
なお、特許文献4に記載の技術のように、長尺な案内レール1に柔構造部を設けた場合には、長尺な案内レールを柔構造とするために引抜加工等の生産性が低下するため、製造コストが増大する。さらに、案内レールを柔構造にすると多数の取付ボルトが必要になるため、コストアップになるとともに、案内レールの取付性が低下する。また、柔構造の案内レールを真っ直ぐに取り付けることは難しいため、取付誤差が大きくなる恐れがある。これに対して、この実施形態の直動案内装置によれば、スライダ本体210の両脚部211を柔構造部としているので、長尺な案内レール1に柔構造部を設けた場合と比較して安価に製造できる。
【0035】
[第2実施形態]
図4〜6を用いて、第2実施形態の直動案内装置を説明する。
図4に示すように、この実施形態の直動案内装置は、案内レール1とスライダ2と複数個のボール(転動体)3とで構成されている。スライダ本体210の脚部211の幅方向外側下部に、切欠き部211aが形成されている。下側の戻し通路22が、切欠き部211aの外側に配置された、スライダ本体210とは別体の戻し通路形成部材250Aにより形成されている。上側の戻し通路22はスライダ本体210に形成されている。
【0036】
また、脚部211の最も厚さの薄い部分である、下側の転動溝21の部分および上側の戻し通路22の部分に極端な応力集中が生じないように、切欠き部211aの形状や上側の戻し通路22の位置を設定している。
戻し通路形成部材250Aは、切欠き部211aの外形面との係合面として、上側の戻し通路22の直下に位置する第一係合面250aと、下側の転動溝21の斜め下方に位置する第二係合面250bを有する。第一係合面250aは切欠き部211aの外形面と所定隙間(0.1〜0.3mm)で対向する。第二係合面250bは、戻し通路22の長手方向の一部で切欠き部211aの外形面と接触する。
【0037】
スライダ2は、
図5に示すように、エンドキャップ220Aおよびリターンガイド231Aを有する。
図5の左側の脚部221は、エンドキャップ220Aにリターンガイド231Aと戻し通路形成部材250Aが取り付けられた後の状態を、右側の脚部221は、リターンガイド231Aが取り付けられた後で、戻し通路形成部材250Aが取り付けられる前の状態を示している。
【0038】
エンドキャップ220Aとリターンガイド231Aにより、スライダ本体210に形成された上側の戻し通路22と戻し通路形成部材250Aに形成された下側の戻し通路22に対応する各位置に、方向転換路24が形成されている。
リターンガイド231Aに略半円筒状の突起231cが形成されている。リターンガイド231をエンドキャップ220Aの凹部221aに嵌めることで、エンドキャップ220Aに上下の方向転換路24が形成され、下側の方向転換路24の開口円に、略半円筒状の突起231cの内周円が連続する。略半円筒状突起231cの突出寸法はボール3の直径の1/2である。
【0039】
図4および
図6に示すように、戻し通路形成部材250Aは、下側の戻し通路22を構成する金属製の芯金(薄板部材)253と、これを所定位置に保持して被覆する合成樹脂製の保持部材254とで構成されている。芯金253はSPCC製であり、保持部材254はデュポン(株)製のポリアセタール樹脂「デルリン(登録商標)500」からなる。
芯金253は、長手方向に垂直な断面が略C型の長尺部材であり、戻し通路22を構成する円弧状部253aと、円弧から外れて径方向に延びてから上下方向に屈曲するアンカー部253bとからなる。芯金253の円弧状部253aがスライダ本体211の脚部211側に配置されている。
【0040】
保持部材254は、円弧状部253aの内周面253cと対向する内周面254aを有する。芯金253の内周面253cと保持部材254の内周面254aは、同じ円周面を構成する円弧面である。つまり、円弧状部253aの内周面253cが戻し通路22の内側案内面を構成し、保持部材254の内周面254aが戻し通路22の外側案内面を構成する。
【0041】
戻し通路形成部材250Aの第一係合面250aおよび第二係合面250bは、保持部材254により形成されている。保持部材254は、切欠き部211aの側面に向けて円弧状に反る湾曲部254bを有する。湾曲部254bの円弧は、芯金253の円弧状部253aの円弧と同心である。湾曲部254bの外周面が第二係合面250bをなす。
すなわち、戻し通路形成部材250Aの第一係合面250aおよび第二係合面250bは合成樹脂からなり、戻し通路22の内側案内面は金属面、戻し通路22の外側案内面は合成樹脂面となっている。
【0042】
戻し通路形成部材250Aの長手方向両端部は、
図6に示すように、芯金253の端面と保持部材254の端面がずれた配置になっている。この配置により、戻し通路形成部材250Aの長手方向両端部に、内壁面250gと半環状の底面250hとからなる半円筒状凹部250jが形成されている。
内壁面250gは保持部材254の内周面であり、半環状の底面250hは、芯金253の円弧状部253aの端面である。芯金253のアンカー部253bの端面は保持部材254で被覆されている。半円筒状凹部250jの寸法は、リターンガイド231Aの略半円筒状の突起231cに嵌まる寸法である。
【0043】
戻し通路形成部材250Aは、保持部材254の外形に対応させた金型内の所定位置に芯金253を配置し、その金型内に合成樹脂を射出成形する方法(インサート成形)で製造することができる。
戻し通路形成部材250Aは、半円筒状凹部250jをエンドキャップ220Aの略半円筒状突起(凸部)231cに嵌めることで、エンドキャップ220に位置決めされて固定され、下側の方向転換路24と戻し通路22が接続される。
【0044】
これに伴い、戻し通路形成部材250Aは、スライダ本体210の切欠き部211aの外形面に対して、第二係合面250bの一部が切欠き部211aの側面に接触し、第一係合面250aが上側の戻し通路22の直下となる面と所定隙間で対向した状態となる。また、スライダ本体210には、戻し通路形成部材250Aの第二係合面(湾曲部)250bが切欠き部211aの側面を押す力が作用している。
【0045】
上記以外の点は、第1実施形態の直動案内装置と同じである。
この実施形態の直動案内装置によれば、第1実施形態の直動案内装置と同様の効果が得られるとともに、戻し通路形成部材250Aに下側の戻し通路22のみを形成し、上側の戻し通路22をスライダ本体210に形成していることで、第1実施形態の直動案内装置と比較して、脚部211の厚さが厚くなるためスライダ本体210の機械的強度が高くなる。
【0046】
また、戻し通路形成部材250Aの第二係合面250bの一部が切欠き部
211aの側面に接触して、湾曲部254bが切欠き部
211aの側面を押す力が作用しているため、使用時にボール3が下側の戻し通路22を通過する際に戻し通路形成部材250Aに振動や騒音が生じることが抑制される。そして、湾曲部254bが切欠き部
211aの側面を押す力は主に保持部材254の変形によるものであり、金属製の芯金253は変形しにくいため、戻し通路22の位置ずれや変形が生じにくく、ボール3の円滑な移動が確保され易い。
【0047】
また、金属パイプ251より芯金253の方がインサート成形で金型内の所定位置に固定し易いため、第2実施形態の戻し通路形成部材250Aの方が、第1実施形態の戻し通路形成部材250よりもインサート成形し易いという効果もある。
なお、第1実施形態では、戻し通路形成部材250の長手方向両端部の円筒状凹部250cが、保持部材252からなる内壁面250eと、金属パイプ251の端面からなる環状の底面250fとで形成されているが、円筒状凹部250cの別の例として、金属パイプ251を保持部材252と同じ長さとして両者の端面を一致させ、円筒状凹部250cを金属パイプ251の内部に形成してもよい。
【0048】
その場合、環状の底面250fの形成方法としては、例えば、金属パイプの外径は長手方向で同じとし、内径を円筒状凹部250cの部分だけ大きくする方法と、金属パイプの外径および内径を円筒状凹部250cの部分だけ大きくする方法が挙げられる。
第2実施形態では、戻し通路形成部材250の長手方向両端部の半円筒状凹部250jが、保持部材254からなる内壁面250gと、芯金253の端面からなる半環状の底面250hとで形成されているが、半円筒状凹部250jの別の例として、芯金253を保持部材252と同じ長さとして両者の端面を一致させ、半環状の底面250hを芯金253の内部に形成してもよい。