特許第6379483号(P6379483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379483
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ポンプシステム
(51)【国際特許分類】
   F04D 15/00 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
   F04D15/00 F
   F04D15/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-265529(P2013-265529)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-121153(P2015-121153A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 裕之
(72)【発明者】
【氏名】沢田 祐造
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−019421(JP,A)
【文献】 特開2009−133229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(20)で駆動され、軸動力(L)が流量(Q)の増加に対してピークを持つ特性を示す遠心ポンプ(10)を備えたポンプシステムにおいて、
揚程(H)に基づいて上記遠心ポンプ(10)の流量(Q)を推定する第1流量推定モデル(M1)、及び上記モータ(20)の軸動力(L)を示す軸動力指標に基づいて上記流量(Q)を推定する第2流量推定モデル(M2)のうちから、管路抵抗曲線の変動に応じて、推定精度が高い方の流量推定モデルを選択し、上記流量(Q)の推定を行う制御部(40)を備えたことを特徴とするポンプシステム。
【請求項2】
請求項1において、
上記揚程(H)と上記軸動力指標とを同一の流量(Q)において比較できるように、上記第1流量推定モデル(M1)及び上記第2流量推定モデル(M2)の少なくとも一方が正規化されており、
上記制御部(40)は、所定の回転速度(Np)における、上記揚程(H)の変化率と上記軸動力指標の変化率とを比較し、変化率が大きい方の推定モデル(M1,M2)を選択することを特徴とするポンプシステム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記制御部(40)は、選択した推定モデル(M1,M2)に基づいて、上記モータ(20)の回転速度を制御することを特徴とするポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータで駆動されるポンプを備えたポンプシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルなどの空気調和装置では、冷水や温水によって熱を搬送するためにポンプシステムが設けられることが多い。このようなポンプシステムでは、冷水や温水の流量制御が重要である。冷水や温水の流量を知るためには、例えば流路に電磁流量計が設けられる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−28488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電磁流量計は一般的には高価であり、コストの観点から、常に採用できるとは限らない。
【0005】
本発明は上記の問題に着目してなされたものであり、ポンプシステムにおいて、流量計を用いずに精度よく流量制御を行えるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、第1の発明は、
モータ(20)で駆動され、軸動力(L)が流量(Q)の増加に対してピークを持つ特性を示す遠心ポンプ(10)を備えたポンプシステムにおいて、
揚程(H)に基づいて上記遠心ポンプ(10)の流量(Q)を推定する第1流量推定モデル(M1)、及び上記モータ(20)の軸動力(L)を示す軸動力指標に基づいて上記流量(Q)を推定する第2流量推定モデル(M2)のうちから、管路抵抗曲線の変動に応じて、推定精度が高い方の流量推定モデルを選択し、上記流量(Q)の推定を行う制御部(40)を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成では、管路抵抗の変化に応じて、推定精度がより高い流量推定モデルが選択される。
【0008】
また、第2の発明は、
第1の発明において、
上記揚程(H)と上記軸動力指標とを同一の流量(Q)において比較できるように、上記第1流量推定モデル(M1)及び上記第2流量推定モデル(M2)の少なくとも一方が正規化されており、
上記制御部(40)は、所定の回転速度(Np)における、上記揚程(H)の変化率と上記軸動力指標の変化率とを比較し、変化率が大きい方の推定モデル(M1,M2)を選択することを特徴とする。
【0009】
この構成では、揚程(H)の変化率と上記軸動力(L)の変化率とを比較し、変化率が大きい方の流量推定モデルを、推定精度がより高い流量推定モデルとして選択する。
【0010】
また、第3の発明は、
第1又は第2の発明において、
上記制御部(40)は、選択した推定モデル(M1,M2)に基づいて、上記モータ(20)の回転速度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、ポンプシステムにおいて、流量計を用いずに精度よく流量推定を行うことが可能になる。その結果、ポンプシステムにおいて、精度よく流量制御を行えるようになる。
【0012】
また、第2の発明によれば、変化率が大きなモデルで推定を行うので、流量変化を高感度に検出できる。すなわち、より精度よく流量推定を行うことが可能になる。
【0013】
また、第3の発明によれば、より精度よく流量の制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態1におけるポンプシステムの概略構成を示す側面図である。
図2図2は、ポンプの特性曲線、及び管路抵抗曲線の一例を示す。
図3図3は、平均的な第1流量推定モデル及び第2流量推定モデルを示す曲線と、それぞれのモデルの補正例を示す。
図4図4は、実施形態1における流量推定を説明するフローチャートである。
図5図5は、本実施形態1における流量推定モデル選択の動作を説明するフローチャートである。
図6図6は、L−Qモデル及びI−Qモデルを示す曲線を2種類の回転速度について示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0016】
《発明の実施形態1》
〈概略構成〉
図1は、本発明の実施形態1におけるポンプシステム(1)の概略構成を示す側面図である。ポンプシステム(1)は、例えばビルなどの空調設備(図示は省略)に組み込まれて、冷水や温水を循環させる。空調設備は、室温の制御などを行うために、ポンプシステム(1)の制御や、冷水や温水を循環させる管路の途中に設けられたバルブの開閉制御などを行う。そのためため、空調設備は、マイクロコンピュータ等によって構成された制御装置(上位制御装置と呼ぶ)を備えている。当該上位制御装置は、ポンプシステム(1)の制御装置(後述)と、例えば、バルブの開閉状態の情報や、ポンプの流量を指示する命令等をやりとりできるように構成されている。
【0017】
〈ポンプシステムの構成〉
ポンプシステム(1)は、図1に示すように、ポンプ(10)、モータ(20)、電力変換装置(30)、及び制御装置(40)を備えている。
【0018】
−ポンプ−
本実施形態のポンプ(10)には、遠心ポンプを採用している。ポンプ(10)の吸入口(11)及び吐出口(12)には、配管との接続部が設けられ、空調設備の配管(図示は省略)に接続される。
【0019】
−モータの構成−
モータ(20)は、ポンプ(10)のインペラ(図示を省略)を駆動するようになっている。モータ(20)の形式には限定はないが、例えば、誘導モータや、永久磁石埋込型モータ(いわゆるIPMモータ)など、種々のモータを採用できる。なお、この例では、モータ(20)の駆動軸は、上記インペラに直結されており、ポンプ(10)の回転速度とモータ(20)の回転速度とは等しいものとする。
【0020】
−電力変換装置−
電力変換装置(30)は、商用電源から交流電力が供給され、該交流電力を所定の交流電力に電力変換して、モータ(20)に供給する。電力変換装置(30)は、コンバータ回路、及びインバータ回路(何れも図示を省略)を備えている。コンバータ回路は、商用電源からの交流電力を直流電力に変換する。また、インバータ回路は、複数のスイッチング素子を備え、該スイッチング素子のオンオフを切り替えて、上記電力変換を行う。このオンオフの制御は、制御装置(40)が行う。電力変換装置(30)は、制御装置(40)とともに、ケーシングなどに収容されて、例えばモータ(20)の側面などに取り付けられる。勿論、電力変換装置(30)と制御装置(40)とは、別々に設置してもよいし、これらの設置場所も、モータ(20)の側面には限定されない。
【0021】
−制御装置の構成−
制御装置(40)は、マイクロコンピュータ(41)、及び当該マイクロコンピュータ(41)を動作させるためのプログラムを含んでいる。
【0022】
制御装置(40)では、マイクロコンピュータ(41)が、上記インバータ回路の出力を制御して、モータ(20)の運転を制御する。モータ(20)の制御には、例えばd−q軸ベクトル制御が用いられる。制御装置(40)は、d−q軸ベクトル制御を行うために、モータ(20)の回転速度(Np)の情報を持っている。なお、回転速度(Np)の検出は、速度センサを設ける等、種々の方法を採用できる。
【0023】
また、制御装置(40)は、ポンプ(10)の流量を推定し、その推定結果に基づいて、モータ(20)の回転速度(N)を制御するようになっている。制御装置(40)は、本発明の制御部の一例である。以下では、制御装置(40)における流量推定の方法について説明する。
【0024】
−流量推定−
図2は、ポンプ(10)の特性曲線、及び管路抵抗曲線(以下、単に抵抗曲線、或いはシステムカーブとも呼ぶ)の一例を示す。同図において、N0〜N4は、ポンプ(10)の特性曲線であり、回転速度毎のポンプ(10)の特性を表している。また、R1、及びR2が抵抗曲線であり、ポンプ(10)が接続された管路の抵抗を表している。例えば、空調設備の管路の途中に設けられたバルブが開状態の場合の抵抗曲線がR1であるとすると、該バルブが閉じられることによって管路の抵抗は大きくなる。そうすると、この空調設備における抵抗曲線は、R1から、例えばR2へと変化する。
【0025】
ポンプ(10)は、特性曲線と抵抗曲線の交点で動作する。例えば、回転速度がN0(この例では定格回転数とする)であり、管路の抵抗曲線がR1である場合(上記バルブが開状態の場合)は、ポンプ(10)はAのポイント(運転点と呼ぶ)で動作する。ここで、運転点Aの流量をQAとする。そして、ポンプシステム(1)で本来必要な流量がQBであるとすると、運転点Aでの運転では流量が過剰である。そのため、ポンプシステム(1)では、インバータ回路を介してモータ(20)を制御してポンプ(10)の回転速度をN2に変化させる必要がある(図2の運転点Bを参照)。
【0026】
一般的にポンプの特性として、QB/QA=N2/N0が成り立つので、現在の運転点Aの流量QAが分かれば、流量QAに基づいて、ポンプ(10)の回転速度がN0×QB/QAとなるようにモータ(20)を制御すればよいことになる。すなわち、現在の流量(QA)を精度よく推定できれば、高価な流量計を用いずに、ポンプシステム(1)の流量を精度よく制御できるのである。
【0027】
−流量推定モデル−
本実施形態では、ポンプ(10)の流量を推定する2つの推定モデルを用意し、これらの推定モデルのうちから、推定の精度が良い方を、抵抗曲線の変動に応じて選択し、流量の推定を行う。
【0028】
本実施形態では、一方の流量推定モデル(第1流量推定モデル(M1))は、揚程(H)と流量(Q)との関係(H−Q特性)に基づく流量推定モデル(以下ではH−Qモデルとも呼ぶ)である。また、もう一方の流量推定モデル(第2流量推定モデル(M2))は、軸動力(L)と流量(Q)との関係(L−Q特性)に基づく流量推定モデル(以下では、L−Qモデルとも呼ぶ)である。本実施形態では、この流量推定は、マイクロコンピュータ(41)が主に行う。
【0029】
第1流量推定モデル(M1)は、揚程(H)を流量(Q)の2次関数で表した流量推定モデルであり、揚程(H)は、次の式で表せる。
【0030】
H=a0Q+b0Q+c0+Δc0 ・・・式(1)
ここで、a0、b0、及びc0は、ポンプ(10)を作動させた際の流量(Q)の測定値等に基づいて算出できる値であり、ポンプ性能を測定できる計測器が整った環境で測定した複数台のポンプ(10)の平均値を代表特性として用いて決定している。これらの値は、ポンプ(10)の設計時(開発時)に決定する定数である。一方、Δc0はポンプ(10)の個体ごとに決定する値であり、ポンプ(10)の製造時(或いは出荷の際)に決定する。第1流量推定モデル(M1)の各係数は、ポンプ(10)の回転速度に応じて定めることができる。本実施形態では、ポンプ(10)の定格回転速度(N0)時における係数に基づいて、式(1)を作成し、これをマイクロコンピュータ(41)のプログラム用のデータとして制御装置(40)に組み込んである。
【0031】
より具体的には、ポンプシステム(1)の設計時(開発時)に複数台の、同モデルのポンプ(10)について実験(定格運転)を行って、a0、b0、及びc0の値をそれぞれのポンプ(10)について求め、求めたそれらの値の平均値を代表特性として、上記プログラム用データとして組み込む。
【0032】
Δc0は、工場でポンプシステム(1)を製造した際(或いは出荷の際)に、個体ごとにΔc0の測定を行って、求めた値を上記プログラム用データとして組み込む。すなわち、開発時に作成した平均的な第1流量推定モデル(M1)を個体ごとに補正するのである。これにより、ポンプシステム(1)では、制御装置(40)に組み込まれる第1流量推定モデル(M1)は個体ごとに異なる。
【0033】
また、第2流量推定モデル(M2)は、ポンプ(10)の軸動力(L)を流量(Q)の2次関数で表した流量推定モデルである。軸動力(L)は、本発明の軸動力指標の一例であり、次の式で表せる。
【0034】
L=d0Q+e0Q+f0+Δf0 ・・・式(2)
ここで、d0、e0、及びf0は、ポンプ(10)を作動させた際の流量(Q)の測定値等に基づいて算出する値であり、複数台のポンプ(10)の平均値から決定している。これらの値は、ポンプ(10)の設計時(開発時)に決定する定数である。本実施形態では、ポンプ(10)の定格回転速度(N0)時における係数に基づいて、式(2)を作成し、これをマイクロコンピュータ(41)のプログラム用のデータとして制御装置(40)に組み込んである。
【0035】
より具体的には、ポンプシステム(1)の設計時(開発時)に複数台の、同モデルのポンプ(10)について、実験を行って、d0、e0、及びf0の値をそれぞれのポンプ(10)について求め、求めたそれらの値の平均値を代表特性として、上記プログラム用データとして組み込む。
【0036】
Δf0は、工場でポンプシステム(1)を製造した際(或いは出荷の際)に、個体ごとにΔf0の測定を行って、求めた値を上記プログラム用データとして組み込む。すなわち、開発時に作成した平均的な第2流量推定モデル(M2)を個体ごとに補正するのである。つまり、ポンプシステム(1)では、制御装置(40)に組み込まれる第2流量推定モデル(M2)は、個体ごとに異なっている。図3は、平均的な第1流量推定モデル(M1)及び第2流量推定モデル(M2)を示す曲線と、それぞれのモデルの補正例を示す。
【0037】
そして、本実施形態では、制御装置(40)は、後に詳述するように、2つの推定モデル(M1,M2)の中から、推定精度の良いと考えられる方を選択して流量の推定を行う。推定モデル(M1,M2)の選択は、管路の途中にあるバルブが操作される等して抵抗曲線が変動すると、その度にやり直すようになっている。
【0038】
−流量推定モデルの選択−
本実施形態では、H−Qモデル、及びL−Qモデルを比較できるように、何れか一方を正規化し、正規化したモデルで比較して、流量(Q)の変化に対する変化率が大きい方のモデルが、流量推定モデルとして精度が高いものと考える。これは、変化率が大きなモデルの方が、流量変化を高感度に検出できるので、より精度よく流量推定を行えるからである。以下では、正規化の手順を説明する。
【0039】
揚程(H)は、締切運転(すなわちQ=0)において最大楊程を示すので、Q=0のときが楊揚程(H)の最大値(Hmax)である。Hmaxは、次式(3)で表せる。
【0040】
Hmax=c0+Δc0 ・・・(3)
一方、軸動力(L)は、流量(Q)の増加に対してピークを持つ特性を示す(図3を参照)。そのため、次の微分値(式(4))が0となる流量(Q)において、軸動力(L)は最大値となる。
【0041】
dL/dQ=2d0Q+e0 ・・・(4)
つまり、Q=−e0/2d0の時に、Lが最大となる。よって、Lの最大値(Lmax)は、次の式(5)で表せる。
【0042】
Lmax=−e0/4d0+f0+Δf0 ・・・(5)
流量(Q)の推定に使用するモデルを選択するにあたり、H−Qモデル、及びL−Qモデルのそれぞれの最大値を基準にして、次のように正規化を行う。
【0043】
まず、本実施形態では、係数Tを次の式(6)のように定義する。
【0044】
T=Lmax/Hmax ・・・(6)
そして、H−Q特性(第1流量推定モデル)のモデル式(1)の両辺をT倍した次の式(7)を作る。すなわち、モデル式(1)を正規化するのである。
【0045】
HT=T(a0Q+b0Q+c0+Δc0)
=A0Q+B0Q+C0+ΔC0 ・・・(7)
ただし、A0=T・a0,B0=T・b0,C0=T・c0,ΔC0=T・Δc0である。
【0046】
式(7)をQで微分すると次の式(8)が得られる。
【0047】
dHT/dQ=2A0Q+B0 ・・・(8)
これによりL−Q特性の微分値であるdL/dQと、最大値で正規化したH−Q特性の微分値であるdHT/dQの値を比較して大きい方のモデルで流量推定を行えばよいことになる。より具体的には、2d0Q+e0>2A0Q+B0が成立する場合はL−Qモデル、すなわち第2流量推定モデル(M2)を用いる。
【0048】
また、2d0Q+e0≦2A0Q+B0が成立する場合はH−Qモデル、すなわち第1流量推定モデル(M1)を用いる。
【0049】
実際には、選択する推定モデル(M1,M2)は、式(4)、及び式(8)から定まる次の式(9)における、Qについての解を境界として決まる。
【0050】
2d0Q+e0=2A0Q+B0 ・・・(9)
そこで、マイクロコンピュータ(41)における計算では、式(9)の解Qを求め、Qの値に応じて、どの流量推定モデルを使用するか決定すればよい。
【0051】
なお、本実施形態は、初期状態の流量推定モデルは、本実施形態では、H−Qモデル(第1流量推定モデル(M1))とする。これは、図3から分かるように、Hの値に対してQの値が一意に決まるからである。もっとも、式(4)の値が0となるQを上限としてならば、Hの値に対してQの値が一意に決まるので、初期状態において、L−Qモデルを使用することも可能である。
【0052】
〈ポンプシステムの動作〉
図4は、本実施形態における流量推定を説明するフローチャートである。このフローにおける処理は、マイクロコンピュータ(41)が行う。
【0053】
ポンプシステム(1)の運転が開始されると、制御装置(40)は、ステップ(S01)において、流量推定モデルの選択と、選択した流量推定モデルに基づいて定格時の流量(Q0)の算出を行う。図5は、本実施形態における流量推定モデル選択の動作を説明するフローチャートである。
【0054】
図5に示すように、ステップ(S11)において、制御装置(40)は、現在のポンプ(10)の回転速度(Np)を検出する。制御装置(40)では、マイクロコンピュータ(41)が上記インバータ回路を制御しているので、マイクロコンピュータ(41)は、モータ(20)の回転速度(Np)を把握している。ステップ(S12)では、制御装置(40)は、現在の回転速度(Np)と定格回転速度(N0)との比k=Np/N0を求める。
【0055】
ステップ(S13)では、回転速度(Np)時における流量(Q)を求めるために、回転速度(Np)の時の揚程であるH(Np)と、回転速度(Np)の時の流量であるQ(Np)とによって、定格運転時のH−Qモデルのモデル式(1)を書き換える。具体的には、揚程(H)がポンプ(10)の回転速度(N)の2乗に反比例すること、及び流量(Q)がポンプ(10)の回転速度(N)に比例することを利用し、定格時の揚程であるH(N0)と、定格時の流量であるQ(N0)とを、回転速度(Np)の時の揚程であるH(Np)、及び回転速度(Np)の時の流量であるQ(Np)でそれぞれ表して、式(1)に代入する。
【0056】
詳しくは、H(N0)とH(Np)の関係、及びQ(N0)とQ(Np)の関係は、速度比(k)を用いると、次の式のように表せ、これらの関係式を用いる。
【0057】
H(N0)=H(Np)/k ・・・(10)
Q(N0)=Q(Np)/k ・・・(11)
式(10)、式(11)、及びH−Qモデルの式(1)によって、現在の流量(Qp)を算出することができる。
【0058】
そして、ステップ(S14)では、ステップ(S13)で求めたQ(Np)と速度比(k)とを用いて定格時の流量であるQ(N0)を算出する。
【0059】
ステップ(S15)では、ステップ(S14)で求めた定格時のQ(N0)を用いて、dL/dQとdHT/dQとを比較する(式(4)及び式(8)を参照)。ここで定格時のQ(N0)を用いるのは、式(4)及び式(8)の各係数(d0,e0等)が、定格運転において定められた値だからである。
【0060】
ステップ(S15)での比較の結果、dL/dQ≦dHT/dQの場合には、ステップ(S16)に進む。ステップ(S16)では、定格時の流量(Q0)として、ステップ(S14)においてH−Qモデルによって算出した値を保持(例えばメモリーに格納)する。すなわち、ステップ(S16)に進むことで、流量推定モデルとして第1流量推定モデル(M1)が選択される。
【0061】
一方、dL/dQ>dHT/dQの場合にはステップ(S17)に進む。ステップ(S17)に進んだ場合には、L-Qモデルを用いて回転速度(Np)の時のQ(Np)のを推定する。これには、軸動力(L)が回転速度(N)の3乗に比例することを利用する。定格時の軸動力であるL(N0)は、次の式で表せる。
【0062】
L(N0)=L(Np)/k ・・・(12)
Q(Np)は、式(11)、式(12)、及びL−Qモデル(第2流量推定モデル(M2))の式(2)を利用して推定できる。次に、制御装置(40)は、推定したQ(Np)と速度比(k)の値から定格時の流量であるQ(N0)を算出する。ステップ(S17)では、制御装置(40)は、L−Qモデルによって算出した流量(Q0)を保持(例えばメモリーに格納)する。すなわち、ステップ(S17)に進むことで、流量推定モデルとして第2流量推定モデル(M2)選択される。
【0063】
そして、図4に戻って、ステップ(S02)では、制御装置(40)は、空調設備の上位制御装置と通信を行って、管路上のバルブの開閉状況などの抵抗曲線が変化する変化があったかどうかを確認する。例えば、抵抗曲線の変化があった場合には、ステップ(S03)に進む。ステップ(S03)では、制御装置(40)は、図5に示したフローを再度実行して、流量推定モデルの選択と、選択した流量推定モデルに基づく定格時の流量(Q0)の算出とを行ってステップ(S04)に進む。また、抵抗曲線の変化が無かった場合には、直ちにステップ(S04)に進む。
【0064】
ステップ(S04)では、流量推定後、抵抗曲線が変化していない場合に流量(Q)は、回転速度(N)に比例するので、その比例係数Cpを求める。具体的には、Cpは、次式で表せる。
【0065】
Cp=Q(N0)/N0=Q(Np)/Np
そして、上位制御装置から必要流量(Qreq)が与えられると、制御装置(40)は、Nreq=Qreq/Cpを計算し、上記インバータ回路を介してモータ(20)を回転速度(Nreq)に制御することによって、必要流量(Qreq)に制御する。
【0066】
〈本実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態によれば、揚程(H)に基づいてポンプ(10)の流量(Q)を推定する第1流量推定モデル(M1)、及びモータ(20)の軸動力(L)に基づいて流量(Q)を推定する第2流量推定モデル(M2)のうちから、管路抵抗曲線の変動に応じて一方を選択するようにした。したがって、ポンプシステムにおいて、流量計を用いずに精度よく流量制御を行うことが可能になる。
【0067】
また、H−Qモデル、及びL−Qモデルは、ポンプシステム(1)の個体ごとに補正されているので、この点においても、高い精度での流量推定が可能になる。
【0068】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2では、第2流量推定モデル(M2)の他の例を説明する。具体的に、本実施形態では、モータ(20)の電流値(以下、モータ電流(I)という)に基づいて流量(Q)を推定するモデルを第2流量推定モデル(M2)として採用する。
【0069】
〈モータ電流(I)と流量(Q)との関係を示すモデル〉
軸動力(L)は、モータ電流(I)、モータ(20)の端子電圧の実効値(以下、モータ電圧(V)という)、力率、及びモータ効率を用いて、次の式(13)で表せる。
【0070】
軸動力=√3×モータ電流×モータ電圧×力率×モータ効率 ・・・(式13)
同期モータ(例えば、いわゆるIPMモータ)でポンプ(10)を駆動する場合は、モータ効率は、ほぼ一定となり、モータ(20)の力率も高くほぼ一定の値をとる。この結果、軸動力(L)は、モータ電流(I)とモータ電圧(V)の積にほぼ比例する。
【0071】
また、同じ回転速度(N)のときに、ポンプ(10)を駆動する場合のモータ電圧(V)は、あまり大きく変化しないことから、モータ電流(I)は、軸動力(L)とほぼ比例関係になる。すなわち、モータ電流(I)は、軸動力(L)を示す軸動力指標の一例である。
【0072】
以上より、モータ電流(I)と流量(Q)の関係(I−Q特性)に基づく流量推定モデル(以下、I−Qモデルと呼ぶ)は、次の式(14)で表すことができる。
【0073】
I=g0Q+h0Q+i0 ・・・(式14)
なお、本実施形態でも、ポンプ(10)の個体差を考慮して、次の式(15)に示すように、補正用のパラメータとしてΔi0を導入する。
【0074】
I=g0Q+h0Q+i0+Δi0 ・・・(式15)
このΔi0は、ポンプ(10)の個体ごとに決定する値であり、ポンプ(10)の製造時(或いは出荷の際)に決定する。なお、以下では、式(15)もI−Qモデルと呼ぶ。
【0075】
図6は、L−Qモデル及びI−Qモデルを示す曲線を2種類の回転速度(N)について示す。
【0076】
以上のように、I−Qモデルは、同期モータ(例えばIPMモータ)で駆動する場合、L−Qモデルの代替として使用できるので、第2流量推定モデル(M2)として使用することができる。すなわち、揚程(H)に基づいてポンプ(10)の流量(Q)を推定する第1流量推定モデル(M1)、及びモータ電流(I)に基づいて流量(Q)を推定する第2流量推定モデル(M2)のうちから、管路抵抗曲線の変動に応じて、推定精度が高くなるように一方の流量推定モデルを選択し、流量(Q)の推定を行うのである。2つのモデルの選択は、実施形態1と同様に、例えばH−Qモデルを正規化することで、I−Qモデルと比較できるようにし、上記変化率を比較することで実現できる。このように推定モデル(M1,M2)を選択することで、本実施形態においても、ポンプシステムにおいて、流量計を用いずに精度よく流量制御を行うことが可能になる。
【0077】
《その他の実施形態》
なお、H−Qモデル(式(1)参照)を正規化する代わりに、L−Qモデル(式(2)参照)を正規化して、上記変化率を比較するように制御装置(40)を構成してもよい。
【0078】
また、モータ(20)やポンプ(10)の形式は例示である。
【0079】
また、電力変換装置(30)は、直流電源から供給された電力を所定の交流電力に変換するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、モータで駆動されるポンプを備えたポンプシステムとして有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 ポンプシステム
10 ポンプ
20 モータ
40 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6