【文献】
沖猛雄,ドライプロセスによる表面硬化技術とその動向,表面技術,日本,表面技術協会,1990年,41巻5号,p.462-470
【文献】
山本兼司,佐藤俊樹,岩村栄治,AIP法により作製したTiN,CrN,Cr2NおよびAlTiN膜の熱膨張率および二軸弾性率の温度依存性,表面技術,日本,表面技術協会,1999年,50巻1号,p.52-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照し、本発明の第1の実施形態を詳しく説明する。図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。なお、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されたりしている。また、各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0017】
図1を参照して、超硬工具1aは、基材2と、保護膜3aとを備える。
【0018】
基材2は、超硬合金からなる。より具体的には、基材2は、タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、焼結助剤としてコバルト(Co)を添加した超硬合金からなる。また、使用目的に応じて、超硬合金の材料特性を向上させるため、炭化チタン(TiC)や炭化タンタル(TaC)などが添加される。
【0019】
基材2のビッカース硬度は、荷重1kgfで1,800〜2,000であるものが好ましい。また、基材2の表面粗さは、Ra表記で0.50以下のものが好ましい。
【0020】
保護膜3aは、物理蒸着法により、基材2上に形成される。本発明の実施形態では、物理蒸着法として、アークイオンプレーティング法(AIP法)が適している。
【0021】
保護膜3aは、全体で3.0μm以上の厚さを有する。保護膜3aの厚さが3.0μmよりも薄くなると、保護膜3aの機械的強度が低下するためである。保護膜3aの厚さは、好ましくは全体で4.0μm以上である。保護膜3aの厚さの上限は、特に限定されないが、好ましくは6.0μm、さらに好ましくは5.0μmである。
【0022】
保護膜3aは、少なくとも3層の金属窒化膜を含む。より具体的には、保護膜3aは、最下層の金属窒化膜31aと、中間層の金属窒化膜32aと、最表層の金属窒化膜33aとを含む。
【0023】
最下層の金属窒化膜31aは、基材2上に形成される。最下層の金属窒化膜31aは、0.5〜3.0μmの厚さを有する。最下層の金属窒化膜31aの厚さが3.0μmよりも厚くなると、保護膜3aの密着性が低下する。また、最下層の金属窒化膜31aの厚さが0.5μmよりも薄くなると、保護膜3aの密着性が低下する。最下層の金属窒化膜31aの厚さの上限は、好ましくは2.0μm、さらに好ましくは1.5μmである。最下層の金属窒化膜31aの厚さの下限は、好ましくは1.0μmである。
【0024】
中間層の金属窒化膜32aは、最下層の金属窒化膜31a上に形成される。中間層の金属窒化膜32aは、0.5〜3.0μmの厚さを有する。中間層の金属窒化膜32aの厚さが3.0μmよりも厚くなると、保護膜3aの密着性が低下する。また、中間層の金属窒化膜32aの厚さが0.5μmよりも薄くなると、保護膜3aの密着性が低下する。中間層の金属窒化膜32aの厚さの上限は、好ましくは2.0μm、さらに好ましくは1.5μmである。中間層の金属窒化膜32aの厚さの下限は、好ましくは1.0μmである。
【0025】
最表層の金属窒化膜33aは、中間層の金属窒化膜32a上に形成される。最表層の金属窒化膜33aは、0.5〜3.0μmの厚さを有する。最表層の金属窒化膜33aの厚さが3.0μmよりも厚くなると、保護膜3aの密着性が低下する。また、最表層の金属窒化膜33aの厚さが0.5μmよりも薄くなると、保護膜3aの欠損が生じやすくなり、保護膜3aの硬度が低下する。最表層の金属窒化膜33aの厚さの上限は、好ましくは3.0μm、さらに好ましくは2.0μmである。最表層の金属窒化膜33aの厚さの下限は、好ましくは0.5μmである。
【0026】
最下層の金属窒化膜31aは、基材2の主成分であるタングステンカーバイドの線熱膨張係数β0よりも大きい線熱膨張係数β1を有する。ここで、線熱膨張係数(単位:10
−6/K)は、金属組成に固有である。
【0027】
中間層の金属窒化膜32aは、最下層の金属窒化膜31aの線熱膨張係数β1よりも小さい線熱膨張係数β2を有する。
【0028】
最表層の金属窒化膜33aは、中間層の金属窒化膜32aの線熱膨張係数β2よりも大きい線熱膨張係数β3を有する。
【0029】
最下層の金属窒化膜31aは、TiN、TiAlN、AlN、CrN、ZrN、VN、及びNbNからなる金属窒化物の群から選択される1種からなる。中間層の金属窒化膜32aは、これらの金属窒化物の群から選択される別の1種からなる。最表層の金属窒化膜33aは、これらの金属窒化物の群から選択されるさらに別の1種からなる。これらの金属窒化物は、成膜時の結晶成長性の妨げとならないように、立方晶の結晶構造を有する。
【0030】
例えば、最下層の金属窒化膜31aはZrNからなり、中間層の金属窒化膜32aはAlNからなり、最表層の金属窒化膜33aはTiAlNからなる。ここで、タングステンカーバイド(WC)の線熱膨張係数は5.2、ZrNの線熱膨張係数は7.2、AlNの線熱膨張係数は5.7、TiAlNの線熱膨張係数は7.0である。
【0031】
特に、最表層の金属窒化膜33aは、硬度が高いTiAlNからなるものが好ましい。保護膜3aの欠損が生じにくくなるためである。また、最表層の金属窒化膜33aがTiAlNである場合、Ti/Alの原子比率が0.50以上になるように、成膜条件を制御する。TiAlNが立方晶の結晶構造を維持するためである。
【0032】
上記の例の他に、最下層の金属窒化膜31aはAlNからなり、中間層の金属窒化膜32aはCrNからなり、最表層の金属窒化膜33aはTiAlNからなっていてもよく、また、最下層の金属窒化膜31aはNbNからなり、中間層の金属窒化膜32aはCrNからなり、最表層の金属窒化膜33aはTiAlNからなっていてもよく、また、最下層の金属窒化膜31aはTiNからなり、中間層の金属窒化膜32aはCrNからなり、最表層の金属窒化膜33aはTiAlNからなっていてもよい。ここで、TiNの線熱膨張係数は9.4、NbNの線熱膨張係数は10.1、CrNの線熱膨張係数は2.3である。
【0033】
[製造方法]
以下、超硬工具1aの製造方法の一例を説明する。
【0034】
基材2として、タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、コバルト(Co)を焼結助剤として添加した超硬合金を準備する。
【0035】
保護膜3aは、
図2に示すアークイオンプレーティング装置4により形成される。アークイオンプレーティング法は、真空中において、複数の成膜源(ターゲット)をカソード(陰極)とし、カソードとアノード(陽極)との間で真空アーク放電を発生させ、各ターゲット表面から金属材料を蒸発、イオン化させ、負のバイアス電圧を印加した基材2上に金属イオンを堆積させることにより、薄膜を形成する方法である。
【0036】
図2に示すように、アークイオンプレーティング装置4は、成膜炉401と、バイアス電源402と、アーク電源403a〜403cと、接地404a〜404dと、を備える。
【0037】
成膜炉401は、複数の成膜源411〜413と、窒素ガスを炉内に流入させる流入口441と、炉内の窒素ガスを排気させる排気口442と、を含む。流入口441から流入される窒素ガスは、流量4.0Paで一定である。
【0038】
基材2は、成膜炉401内に設置され、バイアス電源402と電気的に接続される。また、バイアス電源402は、接地404dと電気的に接続される。
【0039】
複数の成膜源は、例えば、Zrからなる最下層の金属窒化膜31a用の成膜源411と、Alからなる中間層の金属窒化膜32a用の成膜源412と、TiAlからなる最表層の金属窒化膜33a用の成膜源413と、を含む。
【0040】
最下層の金属窒化膜31a用の成膜源411は、アーク電源403aと電気的に接続される。また、成膜炉401およびアーク電源403aは、接地404aと電気的に接続される。
【0041】
中間層の金属窒化膜32a用の成膜源412は、アーク電源403bと電気的に接続される。また、成膜炉401およびアーク電源403bは、接地404bと電気的に接続される。
【0042】
最表層の金属窒化膜33a用の成膜源413は、アーク電源403cと電気的に接続される。また、成膜炉401およびアーク電源403cは、接地404cと電気的に接続される。
【0043】
このように、アークイオンプレーティング装置4において、成膜源411〜413の各々は、別々のアーク電源に接続されている。このため、アークイオンプレーティング装置4から別の装置に基材2を移さなくても、アークイオンプレーティング装置4内で金属窒化膜31a〜33aを形成することができる。
【0044】
最下層の金属窒化膜31aを基材2上に形成する。具体的には、以下のような方法による。
【0045】
成膜炉401内を真空にする。次に、成膜源411をカソード、成膜炉401をアノードとし、アーク電源403aにより、成膜源411と成膜炉401との間に真空アーク放電を発生させる。このとき、成膜源411の表面は励起される。すなわち、励起された成膜源411の表面から最下層の金属窒化膜31aの金属材料(例えば、Zr)が蒸発し、イオン化される。
【0046】
イオン化された金属材料は、負のバイアス電圧を印加された基材2上に堆積する。このとき、成膜源411から励起された金属イオン(Zrイオン)と流入口441から成膜炉401内に導入された窒素ガスとが共有結合する。これにより、基材2上に金属窒化膜が形成される。
【0047】
この金属窒化膜が形成された後、アニール処理(500℃、数時間)を行う。このアニール処理により、金属窒化膜は、立方晶系の結晶構造に成長する。その結果、基材2上に最下層の金属窒化膜31aが形成される。
【0048】
最下層の金属窒化膜31aを形成した後、成膜源412を用いて、中間層の金属窒化膜32aを最下層の金属窒化膜31a上に形成する。最後に、成膜源413を用いて、最表層の金属窒化膜33aを中間層の金属窒化膜32a上に形成する。中間層の金属窒化膜32aおよび最表層の金属窒化膜33aの形成方法は、上述の最下層の金属窒化膜31aの形成方法と同様である。このため、詳細な説明は省略する。
【0049】
以上により、基材2上に保護膜3aが形成され、超硬工具1aが製造される。
【0050】
[効果]
本発明の第1の実施形態による超硬工具1aの効果を説明する。
【0051】
保護膜3aは、3.0μm以上の厚さを有する。このため、保護膜3aは、高い硬度を維持することができる。また、保護膜3aは、少なくとも3層の金属窒化膜を含む。このため、保護膜3aの欠損が生じにくくなり、保護膜3aの硬度を高めることができる。
【0052】
最下層の金属窒化膜31aの線熱膨張係数β1は、基材2の線熱膨張係数β0よりも大きい。このため、最下層の金属窒化膜31aは、基材2よりも膨張しやすい。その結果、
図3に示すように、最下層の金属窒化膜31aは、基材2との界面で圧縮応力を受ける。
【0053】
中間層の金属窒化膜32aの線熱膨張係数β2は、最下層の金属窒化膜31aの線熱膨張係数β1よりも小さい。このため、中間層の金属窒化膜32aは、最下層の金属窒化膜31aよりも膨張しにくい。その結果、
図3に示すように、中間層の金属窒化膜32aは、最下層の金属窒化膜31aとの界面で引張応力を受ける。
【0054】
最表層の金属窒化膜33aの線熱膨張係数β3は、中間層の金属窒化膜32aの線熱膨張係数β2よりも大きい。このため、最表層の金属窒化膜33aは、中間層の金属窒化膜32aよりも膨張しやすい。その結果、
図3に示すように、最表層の金属窒化膜33aは、中間層の金属窒化膜32aとの界面で圧縮応力を受ける。
【0055】
保護膜3aに生じる複数の内部応力は相殺される。より具体的には、最下層の金属窒化膜31aに生じる圧縮応力、中間層の金属窒化膜32aに生じる引張応力、および最表層の金属窒化膜33aに生じる圧縮応力が相互に打ち消される。その結果、基材2と保護膜3aとの密着力が高まり、保護膜3aが基材2から剥がれにくくなる。さらに、保護膜内の内部応力が相殺された状態であると、保護膜内の内部応力の均衡が保たれ、保護膜の硬度も高めることができる。
【0056】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態による超硬工具1aは、線熱膨張係数の関係において、β1がβ0よりも大きく、β2がβ1よりも小さく、β3がβ2よりも大きい保護膜3aを備えているが、
図4に示すように、第2の実施形態による超硬工具1bは、この保護膜3aに代えて、β1がβ0よりも小さく、β2がβ1よりも大きく、β3がβ2よりも小さい保護膜3bを備えていてもよい。
【0057】
保護膜3bは、最下層の金属窒化膜31bと、中間層の金属窒化膜32bと、最表層の金属窒化膜33bとを含む。
【0058】
最下層の金属窒化膜31bの線熱膨張係数β1は、基材2の線熱膨張係数β0よりも小さい。このため、最下層の金属窒化膜31bは、基材2よりも膨張しにくい。その結果、
図5に示すように、最下層の金属窒化膜31bは、基材2との界面で引張応力を受ける。
【0059】
中間層の金属窒化膜32bの線熱膨張係数β2は、最下層の金属窒化膜31bの線熱膨張係数β1よりも大きい。このため、中間層の金属窒化膜32bは、最下層の金属窒化膜31bよりも膨張しやすい。その結果、
図5に示すように、中間層の金属窒化膜32bは、最下層の金属窒化膜31bとの界面で圧縮応力を受ける。
【0060】
最表層の金属窒化膜33bの線熱膨張係数β3は、中間層の金属窒化膜32bの線熱膨張係数β2よりも小さい。このため、最表層の金属窒化膜33bは、中間層の金属窒化膜32bよりも膨張しにくい。その結果、
図5に示すように、最表層の金属窒化膜33bは、中間層の金属窒化膜32bとの界面で引張応力を受ける。
【0061】
保護膜3bに生じる複数の内部応力は相殺される。より具体的には、最下層の金属窒化膜31b内に生じる引張応力、中間層の金属窒化膜32b内に生じる圧縮応力、および最表層の金属窒化膜33b内に生じる引張応力が相互に打ち消される。その結果、基材2と保護膜3bとの密着力が高まり、保護膜3bが基材2から剥がれにくくなる。
【0062】
例えば、最下層の金属窒化膜31bはCrNからなり、中間層の金属窒化膜32bはTiAlNからなり、最表層の金属窒化膜33bはAlNからなる。
【0063】
また、最下層の金属窒化膜31bは、CrNに代えて、Si
3N
4からなっていてもよい。
【0064】
上記実施形態による超硬工具において、保護膜は3層の金属窒化膜を含むが、4層以上の金属窒化膜を含んでいてもよい。より具体的には、保護膜は複数の中間層の金属窒化膜を含んでいてもよい。
【0065】
以上、本発明についての実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態およびその変形例のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。また、各実施形態およびその変形例は、適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例】
【0066】
表1に示す化学組成の超硬工具として、試料番号1〜24のサンプルを作製した。試料番号1〜24のサンプルに対し、密着力およびナノ硬度の評価試験を行った。
【表1】
【0067】
表1を参照して、試料番号7〜9、12〜14、17〜19、および21〜24は本発明の実施例のサンプルであり、試料番号1〜6、10、11、15、16、および20は比較例のサンプル(表1中の※印)である。
【0068】
試料番号1〜24のサンプルは、タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、コバルト(Co)を焼結助剤として添加した超硬合金からなる基材を用いた。この基材は、ビッカース硬度が荷重1kgfで1,960であり、かつ、表面粗さがRa表記で0.30以下である。
【0069】
試料番号1〜24のサンプルは、アークイオンプレーティング法により、上記基材の表面に保護膜を形成した。
【0070】
[密着力評価試験]
スクラッチ試験法を用いて、各試料番号における密着力(単位:N)を評価した。より具体的には、ダイアモンド製の径0.2mm、先端角120degの先端針を用いて、保護膜と基材との界面における密着力の測定を行った。測定条件は、室温で、100N/分、10mm/分、最大荷重105Nとした。密着力の判定基準は、F≧80Nを満たすこととした。密着力の判定時点は、基材の表層が露出したことを光学顕微鏡で識別した時点、または先端針が異常機械振動(AE信号)を検知した時点とした。
【0071】
[ナノ硬度評価試験]
ナノインデンターを用いて、各試料番号における保護膜のナノ硬度H(単位;GPa)を評価した。より具体的には、三角錐の形状を有するダイアモンド製バーコビッチ型の圧子を使用し、連続剛性方式(周波数;45Hz、振幅;2nm)により、圧子を保護膜の深さ1.0μmまで押し込む形式とした。測定条件は、室温で、最表層膜の表面から深さ0.5μmの範囲とした。ナノ硬度の判定基準は、H≧30GPaを満たすこととした。
【0072】
[試験結果]
表1に示すように、本発明の実施例のサンプルでは、密着力Fが80N以上であって、かつ、ナノ硬度Hが30GPa以上であり、密着力およびナノ硬度の条件を同時に満たした。
【0073】
一方、試料番号1および2の保護膜の厚さは、3.0μm未満であった。さらに、試料番号1および2の保護膜は、1層の金属窒化膜からなる。すなわち、試料番号1および2の保護膜は、3層の金属窒化膜を備えていないことから、保護膜の硬度が低下する傾向にあると推測される。このため、少なくとも試料番号1の保護膜については、本発明の実施例の保護膜と比較して、硬度不足となった。ただし、試料番号2の保護膜については、硬度が高いTiAlN膜を最表層に形成したため、保護膜の欠損が生じず、硬度不足にならなかったと推測される。
【0074】
試料番号1および2のサンプルでは、線熱膨張係数の関係において、β3がβ0よりも大きいという関係にある。すなわち、最表層の金属窒化膜内に圧縮応力が生じる。しかしながら、試料番号1および2の保護膜は1層の金属窒化膜しか有しない。このため、最表層の金属窒化膜内の圧縮応力は、他の内部応力に相殺されず、保護膜内に残存していると推測される。その結果、試料番号1および2の保護膜は、本発明の実施例と比較して、密着力不足となった。
【0075】
試料番号3および4の保護膜は、2層の金属窒化膜からなる。すなわち、試料番号3および4の保護膜は、3層の金属窒化膜を備えていないことから、保護膜の硬度が低下する傾向にあると推測される。このため、少なくとも試料番号3の保護膜は、本発明の実施例の保護膜と比較して、硬度不足となった。ただし、試料番号4の保護膜については、硬度が高いTiAlN膜を最表層に形成したため、保護膜の欠損が生じず、硬度不足にならなかったと推測される。
【0076】
試料番号3のサンプルでは、線熱膨張係数の関係において、β1がβ0よりも大きく、β3がβ1よりも大きいという関係にある。すなわち、最下層の金属窒化膜内に圧縮応力が生じ、最表層の金属窒化膜内に圧縮応力が生じる。しかしながら、試料番号3の保護膜は2層の金属窒化膜しか有しない。このため、最下層の金属窒化膜内の圧縮応力および最表層の金属窒化膜内の圧縮応力は、他の内部応力に相殺されず、保護膜内に残存していると推測される。その結果、試料番号3の保護膜は、本発明の実施例と比較して、密着力不足となった。
【0077】
試験番号4のサンプルでは、線熱膨張係数の関係において、β1がβ0よりも小さく、β3がβ1よりも大きいという関係にある。すなわち、最下層の金属窒化膜内に引張応力が生じ、最表層の金属窒化膜内に圧縮応力が生じる。しかしながら、最表層の金属窒化膜内の圧縮応力が最下層の金属窒化膜内の引張応力よりも大きく、かつ、試料番号4の保護膜は2層の金属窒化膜しか有しない。このため、最表層の金属窒化膜内の圧縮応力の一部が保護膜内に残存していると推測される。その結果、試料番号4の保護膜は、本発明の実施例と比較して、密着力不足となった。
【0078】
試料番号5のサンプルでは、線熱膨張係数の関係において、β1がβ0より小さく、β2がβ1より大きく、β3がβ2より大きいという関係にある。すなわち、最下層の金属窒化膜内に引張応力が生じ、中間層の金属窒化膜内に圧縮応力が生じ、最表層の金属窒化膜内に圧縮応力が生じる。試料番号5のサンプルにおいて、最下層の金属窒化膜内の引張応力と中間層の金属窒化膜内の圧縮応力とは相互に打ち消し合うが、最表層の金属窒化膜内の圧縮応力と中間層の金属窒化膜内の圧縮応力とは相互に打ち消し合わない。このため、少なくとも最表層の金属窒化膜内の圧縮応力は、他の内部応力に相殺されず、保護膜内に残存していると推測される。その結果、試料番号5の保護膜は、本発明の実施例と比較して、密着力不足となった。さらに、試料番号5のサンプルでは、保護膜内に内部応力が残存している状態であることから、保護膜内に生じる内部応力の均衡が崩れ、保護膜の硬度にも影響したと推測される。その結果、試料番号5の保護膜は、本発明の実施例と比較して、硬度不足になった。
【0079】
試料番号6の保護膜の厚さは、3.0μm未満であった。さらに、試料番号6のサンプルでは、最表層のTiAlN膜の厚さが0.5μm未満であった。最表層に形成される膜の厚さが薄くなってしまうと、保護膜の欠損が生じやすくなると推測される。その結果、試料番号6の保護膜は、本発明の実施例と比較して、硬度不足となった。
【0080】
試料番号10のサンプルでは、最表層のTiAlN膜の厚さが3.0μmを超えていた。このため、試料番号10の保護膜は、3.0μmの厚さを有する最表層のTiAlN膜を備える試料番号9の保護膜よりも、密着力不足となった。
【0081】
試料番号11のサンプルでは、中間層のAlN膜の厚さが0.5μm未満であった。このため、試料番号11の保護膜は、0.5μmの厚さを有する中間層のAlN膜を備える試料番号12の保護膜よりも、密着力不足となった。
【0082】
試料番号15のサンプルでは、中間層のAlN膜の厚さが3.0μmを超えていた。このため、試料番号15の保護膜は、3.0μmの厚さを有する中間層のAlN膜を備える試料番号14の保護膜よりも、密着力不足となった。
【0083】
試料番号16のサンプルでは、最下層のZrN膜の厚さが0.5μm未満であった。このため、試料番号16の保護膜は、0.5μmの厚さを有する最下層のZrN膜を備える試料番号17の保護膜よりも、密着力不足となった。
【0084】
試料番号20のサンプルでは、最下層のZrN膜の厚さが3.0μmを超えていた。このため、試料番号20の保護膜は、3.0μmの厚さを有する最下層のZrN膜を備える試料番号19の保護膜よりも、密着力不足となった。