(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の熱可塑性ポリウレタン材料を用いたゴルフボールカバーは、成形時の金型離型性が良くないという課題があり、このため、滑材成分や分散剤としてステアリン酸金属塩やポリエチレンワックスを使用していた。しかしながら、ステアリン酸金属塩は金型離型性を向上させるメリットはあるものの、金属塩は熱可塑性ポリウレタン材料の分解触媒として働くためか、分散剤としてステアリン酸金属塩を用いた場合は熱可塑性ポリウレタン材料の耐熱性を低下させるデメリットが確認された。また、ポリエチレンワックスは熱可塑性ポリウレタン材料との相溶性が良くないために、分散剤としてポリエチレンワックスを用いた場合は顔料の分散性が悪くなる傾向が見られた。
【0003】
そこで、特開2002−336382号公報には、優れた金型離型性を示す熱可塑性ポリウレタン材料を提供するために、熱可塑性ポリウレタン材料を主成分とし、これに脂肪酸アミド及び/又はモンタン系ワックスを配合したカバー材が提案されている。
【0004】
また、特開2001−348467号公報には、耐熱性、流動性、成形性が良好で反発性に優れる高性能のゴルフボールを得るために、ゴルフボール用樹脂組成物に脂肪酸アミドとモンタンワックスとを併用する技術が記載されている。更に、特開2011−31020号公報には、最外カバー層の基材ポリマーに配合する滑剤として、(A)脂肪酸アミド、(B)モンタン酸エステル,モンタン酸部分ケン化エステル及びモンタン酸金属塩の群から選ばれる炭素数24〜34を有する脂肪酸系組成物の(A)(B)の2種類を併用することが記載されている。
【0005】
上記の提案は、カバー材として、ウレタン樹脂等の基材樹脂に、モンタンワックスとアマイド系ワックスとを併用する技術である。しかしながら、このようなカバー材を使用したゴルフボールでは、ボール表面に塗料が塗装される場合、金型設定温度を上げていくと、ワックス成分が表面にブリードアウトし皮膜を形成し、塗膜の剥離が発生する等の不具合が生じる場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、特に図示してはいないが、少なくとも1層のコアと、これを被覆する少なくとも1層のカバーを具備する。また、カバー表面には通常塗料が塗装される。さらに、カバー表面には、通常、多数のディンプルが形成される。なお、カバーを2層以上とすることにより、スリーピース、フォーピース等のマルチピースソリッドゴルフボールにすることもできる。また、コアは単層であっても2層以上であってもよい。
【0012】
本発明に使用されるカバーの少なくとも1層の材料(以下、「カバー樹脂組成物」と呼ぶことがある。)については、熱可塑性ポリウレタン材料を主成分とし、モンタン酸エステルを主成分とする滑剤を含む樹脂組成物を採用するものである。上記熱可塑性ポリウレタン材料について以下に詳述する。
【0013】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの構造は、高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤およびジイソシアネートからなる。ここで、原料となる高分子ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、ポリエステル系とポリエーテル系があり、反発弾性率が高く、低温特性に優れた熱可塑性ポリウレタン材料を合成できる点で、ポリエーテル系の方がポリエステル系に比べて好ましい。ポリエーテルポリオールとしてはポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、反発弾性率と低温特性の点でポリテトラメチレングリコールが特に好ましい。また、高分子ポリオールの平均分子量は1000〜5000であることが好ましく、特に反発弾性の高い熱可塑性ポリウレタン材料を合成するためには1500〜4000であることが好ましい。
【0014】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら鎖延長剤の平均分子量は20〜15000であることが好ましい。
【0015】
ジイソシアネートとしては、従来の熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明では、芳香族ジイソシアネートである4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
【0016】
上述した材料からなる熱可塑性ポリウレタン材料としては、市販品を好適に用いることができ、例えばディーアイシーバイエルポリマー(株)製:パンデックスT8180,T8195,T8290、T8295、T8260や、大日精化工業(株)製レザミン2593、2597などが挙げられる。
【0017】
上記のカバー樹脂組成物には、上述した成分に加えて他の成分を配合することができる。このような他の成分として、例えば熱可塑性ポリウレタン材料以外の熱可塑性高分子材料を挙げることができ、例えばポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、ポリエチレン、ナイロン樹脂等を配合することができる。この場合、熱可塑性ポリウレタン材料以外の熱可塑性高分子材料の配合量は、必須成分である熱可塑性ポリウレタン材料100質量部に対して50質量部以下であり、カバー材の硬度の調整、反発性の改良、流動性の改良、接着性の改良などに応じて適宜選択される。
【0018】
次に、本発明で用いるモンタン酸エステルを主成分とする滑剤について説明する。滑剤は、一般的に、樹脂成型時に、合成樹脂と加工機、また合成樹脂の粒子同士の摩擦を軽減するために付与されるものであり、エステル系、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪族アマイド系、金属石鹸系などの種類がある。本発明では、モンタン酸エステルを主成分とするエステル系滑剤を用いるものである。なお、本発明において、上記のモンタン酸エステルには、部分ケン化によって変性されたモンタン酸エステルも含まれる。上記のモンタン酸エステルとして代表的なものは、これらに限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール又はグリセリンとモンタン酸とのエステル(商品例:クラリアントジャパン(株)製「リコワックスE」及び「リコルブWE4」)、モンタン酸とブチレングリコールとのエステル化物、及びモンタン酸と水酸化カルシウムとのケン化物との混合ワックス(商品例:クラリアントジャパン(株)製「リコワックスOP」)、モンタン酸の複合エステル(商品例:クラリアントジャパン(株)製「リコルブWE40」)、モンタン酸と脂肪族ポリオールとのエステル(商品例:クラリアントジャパン(株)製「リコモントET141」,「リコモントET132」)が挙げられる。上記のモンタン酸エステルは、優れた相溶性によりマイグレーションを起こしにくく、優れた離型効果を示し、更には高温において低揮発性であることから熱可塑性ポリウレタン樹脂用滑剤として好ましく使用することができる。
【0019】
滑剤中のモンタン酸エステルの含有量は、50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。最も好ましくは、100質量%、即ち、滑剤がモンタン酸エステルのみからなることであり、本発明の効果を有効に発揮し得る。
【0020】
上記のモンタン酸エステルを主成分とする滑剤の熱可塑性ポリウレタン材料に対する配合量は、特に制限はないが、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上であり、上限としては、1.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量部以下、更に好ましくは0.6質量部以下であることが好ましい。配合量が上記範囲より少なすぎると、着色剤の分散性や成形物の金型離型性の向上効果が充分に得られなくなることがある。また配合量が上記範囲より多すぎると、カバーに対する塗膜密着性やスタンプ密着性が悪くなることがある。
【0021】
さらに、上記のカバーの樹脂組成物には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤等を適宜配合することができる。
【0022】
上記カバー樹脂組成物を得るには、上記必須成分を公知の方法によりミキシングすればよく、その製法に制限はない。従って、例えば、上記必須成分を、加熱温度150〜250℃で、混合機として、例えば、混練型二軸押出機、バンバリー、ニーダー等のインターナルミキサーなどを用いて、後述する使用用途に応じた各種添加剤を使用して混練することにより得ることができる。
【0023】
カバーの厚さについては、特に制限されるものではないが、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.7mm以上であり、上限としては、好ましくは2.5mm以下、より好ましくは2.1mm以下、さらに好ましくは1.9mm以下、特に好ましくは1.7mm以下である。カバーの厚さが上記範囲よりも厚くなると、反発性が低下し、飛び性能が悪くなるおそれがある。カバーの厚さが上記範囲よりも薄くなると、割れ耐久性が低下してしまう。特に、トップした時にカバーが裂けてしまうことがある。
【0024】
また、カバーの各層の硬度については、ショアD硬度で、好ましくは30〜70、より好ましくは40〜65である。なお、カバー層のショアD硬度とは、射出成形により作成した樹脂シートでのショアD硬度を意味するものであり、ASTM D2240に準拠して測定した値を意味する。
【0025】
本発明のゴルフボールのカバーを成形する方法としては、例えば、射出成形機に上述のカバー樹脂組成物を供給し、コア又は中間球状物の周囲に溶融したカバー樹脂組成物を射出することでカバーを成形することができる。その際、カバーの成形に使用される金型温度(設定温度)については、熱可塑性ポリウレタン等の種類によって異なるが、通常、5〜150℃であり、使用する熱可塑性ポリウレタン等の種類に応じた軟化温度以下の温度に適宜設定される。ここで、上記の金型の金型温度(設定温度)とは、具体的には5〜150℃に温度調節された媒体を金型内に連続的に流すことで、金型温度を一定温度に調整するものである。ここで言う媒体とは、水、オイル、蒸気等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、射出成形温度としては、熱可塑性ポリウレタン等の種類によって異なるが、通常150〜300℃の範囲である。
【0026】
本発明のゴルフボールに使用されるコアについては特に制限はなく、例えばツーピースボール用ソリッドコア、複数の加硫ゴム層を持つソリッドコア、複数の樹脂層を持つソリッドコア、糸ゴム層を有する糸巻きコアといった種々のコアが使用可能である。コアの外径、質量、硬度、材質等についても制限はない。
【0027】
上記コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス−1,4−ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。また、ポリブタジエンは、Nd触媒の希土類元素系触媒,コバルト触媒及びニッケル触媒等の金属触媒により合成することができる。
【0028】
また、上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤、ジクミルパーオキサイドや1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0029】
本発明のゴルフボールは、常法に従って上記カバー表面にディンプルを成形することができ、また成形した後、その表面に対しバフ研磨、スタンプ、塗装等の完成作業を行うことができる。
【0030】
カバー表面に各種塗料を塗装する場合、使用される塗料としては、ゴルフボールの過酷な使用状況に耐えうる必要から、2液硬化型のウレタン塗料、特に、無黄変のウレタン塗料が好適に挙げられる。
【0031】
カバーの表面硬度(「ゴルフボールの表面硬度」とも言う。)については、カバーで用いられた材料の硬度やカバー層全体の硬さ及び下地の硬さにより決定されるものである。カバーの表面硬度は、ショアD硬度で、30〜70が好ましい。上記の範囲よりも小さすぎると、スピンが掛かりすぎて飛距離が伸びなくなることがある。また、上記の範囲よりも大きいと、アプローチでのスピンが掛からずにプロや上級者でもコントロール性が不足することがある。
【0032】
本発明のゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、直径42.67mm以上、重さ45.93g以下に形成することができる。直径の上限としては好ましくは44.0mm以下、更に好ましくは43.5mm以下、最も好ましくは43.0mm以下であり、重さの下限としては好ましくは44.5g以上、特に好ましくは45.0g以上、更に好ましくは45.1g以上、最も好ましくは45.2g以上である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0034】
〔実施例1〜5、比較例1〜5〕
下記表1の組成が示すように、全ての実施例及び比較例に共通するコア材料を混練した後、160℃で15分間加硫成形することにより、直径39.3mmのツーピースソリッドゴルフボール用ソリッドコアを得た。
【0035】
【表1】
【0036】
表1中のコア配合は下記のとおりである。
・シス−1,4−ポリブタジエン:商品名「BR01」(JSR社製)
・アクリル酸亜鉛(日本触媒社製)
・酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛 3種」(堺化学工業社製)
・硫酸バリウム:商品名「沈降性硫酸バリウム#100」(堺化学工業社製)
・老化防止剤:商品名「ノクラックNS−6」(大内新興化学工業社製)
・過酸化物:商品名「パークミルD」(日油社製)
【0037】
カバーの製法
次に、表2及び表3に示した熱可塑性ポリウレタンを主材とするカバー組成物を調製した。そして、射出成形用金型内に前記ソリッドコアを配し、このコアの周囲に、表2及び表3に示すカバー組成物を射出成形することにより、厚さ1.7mmのカバーを有するツーピースゴルフボールを得た。そして、成形後のゴルフボールに通常工程にて塗装処理を施し、得られたゴルフボールを1週間室温にて放置した後、ボール特性を評価した。塗装処理によって使用される塗料には2液硬化型のウレタン塗料(無黄変ウレタン塗料)を用いた。
【0038】
下記の表2及び表3中の各成分の詳細は下記のとおりである。
商品名「パンデックスT8195」
ディーアイシーバイエルポリマー(株)製 熱可塑性ポリウレタン材料、樹脂硬度(ショアーA)95
酸化チタン
石原産業社製 商品名「タイペークR550」
モンタンワックス
部分ケン化モンタン酸エステル
アマイド系ワックス
エチレンビスステアリン酸アミド
【0039】
カバー成形時の条件
表2及び表3に示すカバー組成物をツーピースゴルフボールのカバー材に使用し、射出成型用金型に前記ソリッドコアを配し、射出成形機(設定温度 ホッパー:160℃、シリンダー:180〜220℃)を使用し、このコアの周囲に溶融した前記カバー樹脂組成物を射出し、金型設定温度(60〜75℃)に調節した金型内で冷却時間(20〜45秒)保持することで、ツーピースゴルフボール(直径42.7mm、質量45.5g)を作製した。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
カバー物性及びゴルフボールの諸特性を下記の基準により調べ、その結果を表2及び表3に示す。
【0043】
カバー表面硬度(ボール表面硬度)
23℃に温調後、製品5個の表面においてディンプルの無い土手の部分をランダムに各表面につき2点測定した。ASTM−2240規格のデュロメーター「タイプD」により測定した。
【0044】
塗膜密着性
塗膜密着性は、下記の耐久試験(*)にて塗膜の密着性を評価した。100回発射(発射1回は跳ね返りを含むので2回の衝撃を意味する)し、剥がれが生じた回数を記録した。
〈判定基準〉
合 格:100回発射にて塗膜の剥離無し
不合格:100回未満発射にて塗膜の剥離有り
【0045】
耐久試験(*)
米国Automated Design Corporation製のADC Ball COR Durability Testerにより、ゴルフボールの耐久性を評価した。この試験機は、ゴルフボールを空気圧で発射させた後、平行に設置した2枚の金属板に連続的に衝突させる機能を有する。金属板への入射速度は43m/sとした。
【0046】
外観
ボールの外観については、目視により以下の判定基準で評価した。
○:シルバーストリークやウェルドラインなどの外観不良が見られない
×:シルバーストリークやウェルドラインなどの外観不良が見られる
【0047】
離型性
ボールの離型性については、下記の判断基準により評価した。
○:脱型時、金型から容易に取り出すことができる
×:脱型時、金型から容易に取り出すことができない
【0048】
上記表に示されるように、本実施例1〜5のゴルフボールは、比較例1〜5の各ボールに比べて、連続打撃したときの塗膜の剥離が無く、塗膜密着性に非常に優れていることが分かる。また、本実施例1〜5のゴルフボールは、外観が良好であり、離型性も良好であることが分かる。