(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ドア本体部のドアアウタパネルとドアインナパネルとの間に、サッシュ部のアウタサッシュとインナサッシュとが配置され、該アウタサッシュと該インナサッシュと該ドアインナパネルとがスポット溶接で固定され、該ドアアウタパネルの車両前後端のヘムフランジが該ドアインナパネルに加締め接合されたサッシュドア構造において、
前記ドアアウタパネル及び前記ドアインナパネルの車両後方の端部が、前記ドア本体部のドアベルトラインよりも上方まで延長されてアウタ側上向き延長部及びインナ側上向き延長部をそれぞれ構成し、該アウタ側上向き延長部及び該インナ側上向き延長部によって該サッシュ部がドア厚み方向に挟み込まれ、
車両後端の前記ヘムフランジは、前記アウタ側上向き延長部まで延長されたヘムフランジ延長部を有し、該ヘムフランジ延長部が前記インナ側上向き延長部と加締め接合されていることを特徴とするサッシュドア構造。
ドア本体部のドアアウタパネルとドアインナパネルとの間に、サッシュ部のアウタサッシュとインナサッシュとが配置され、該アウタサッシュと該インナサッシュと該ドアインナパネルとがスポット溶接で固定され、該ドアアウタパネルの車両前後端のヘムフランジが該ドアインナパネルに加締め接合されたサッシュドア構造において、
前記ドアアウタパネル及び前記ドアインナパネルの車両前方の端部が、前記ドア本体部のドアベルトラインよりも上方まで延長されてアウタ側上向き延長部及びインナ側上向き延長部をそれぞれ構成し、該アウタ側上向き延長部及び該インナ側上向き延長部によって該サッシュ部がドア厚み方向に挟み込まれ、
車両前端の前記ヘムフランジは、前記アウタ側上向き延長部まで延長されたヘムフランジ延長部を有し、該ヘムフランジ延長部が前記インナ側上向き延長部と加締め接合されていることを特徴とするサッシュドア構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のサッシュドア構造において、サッシュ完成体(インナサッシュとアウタサッシュ)とドアパネル(ドアインナパネルとドアアウタパネル)とを同時に接合する場合には、サイドドアのドアベルトラインより上側において合計四枚のパネル(インナサッシュとアウタサッシュとドアインナパネルとドアアウタパネル)をスポット溶接で接合することになる。
【0008】
その場合、四枚のパネルの合計の板厚が厚くなるために、従来の溶接設備では溶接品質の低下(溶接不良)を生じ兼ねないという懸念があり、CO
2溶接を含む専用の溶接ラインの導入が必要になる。また、サッシュドアの強閉時や繰り返しの開閉動作時に四枚のパネルの接合部に発生する応力によって、溶接剥がれや、サッシュ部の根元側(接合部の近傍)の塗装割れやそれによる錆を生じ兼ねないという懸念があった。
【0009】
本発明は、上記した点に鑑み、インナサッシュとアウタサッシュ及びドアインナパネルとドアアウタパネルといった多数枚のパネルを重ねて接合する(溶接のみに限らない)際に、既存の溶接設備等を用いて低コストで、接合部の剛性及び品質を向上させることができるサッシュドア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るサッシュドア構造は、ドア本体部のドアアウタパネルとドアインナパネルとの間に、サッシュ部のアウタサッシュとインナサッシュとが配置され、該アウタサッシュと該インナサッシュと該ドアインナパネルとがスポット溶接で固定され、該ドアアウタパネルの車両前後端のヘムフランジが該ドアインナパネルに加締め接合されたサッシュドア構造において、前記ドアアウタパネル
及び前記ドアインナパネ
ルの車両
後方の端部が、前記ドア本体部のドアベルトラインよりも上方まで延長されて
アウタ側上向き延長部
及びインナ側上向き延長部を
それぞれ構成し、
該アウタ側上向き延長部及び該インナ側上向き延長部によって該サッシュ部がドア厚み方向に挟み込まれ
、車両後端の前記ヘムフランジは、前記アウタ側上向き延長部まで延長されたヘムフランジ延長部を有し、該ヘムフランジ延長部が前記インナ側上向き延長部と加締め接合されていることを特徴とする。
【0011】
請求項
3に係るサッシュドア構造は、請求項1記載のサッシュドア構造において、
前記ヘムフランジ延長部には、車両前後方向の延長部が設けられ、
前記アウタ側上向き延長部と該車両前後方向の延長部とで前記サッシュ部と前記ドアインナパネルとがドア厚み方向に挟み込まれて固定されたことを特徴とする。
【0012】
請求項
4に係るサッシュドア構造は、請求項2記載のサッシュドア構造において、前記車両前後方向の延長部の上端のラインと前記
アウタ側上向き延長部の上端のラインとが同じ高さに位置したことを特徴とする。
【0013】
請求項
5に係るサッシュドア構造は、請求項2又は3記載のサッシュドア構造において、車両前後方向の最も端部側に位置する前記スポット溶接の部分が前記車両前後方向の延長部で車両内側から覆われたことを特徴とする。
【0014】
請求項
9に係るサッシュドア構造は、請求項1〜
8の何れかに記載のサッシュドア構造において、
前記アウタ側上向き延長部の車両内側の面に接着剤が塗布され、該接着剤で該ドアアウタパネルと前記サッシュ部
とが固定されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、サッシュドアのドアベルトラインよりも上側までドア本体部の上向き延長部がサッシュ部を迎えに行き、車両内外から挟み込むように固定することで、サッシュ部とドア本体部との固定強度が向上する。また、サッシュドアの開閉時にサッシュ部の根元(上向き延長部で挟んだ部分)に発生する応力集中が分散されて、サッシュ部とドアインナパネルとの接合部であるスポット溶接部にかかる応力が低減される。
【0016】
また、インナサッシュとアウタサッシュとドアインナパネルとの三枚をスポット溶接で固定し、ドアアウタパネルはヘムフランジと上向き延長部とでサッシュ部とドアインナパネルとに固定したことで、既存の溶接設備等を用いて低コストで、前段の記述のように接合部の剛性及び品質を向上させることができる。
【0017】
請求項
3記載の発明によれば、ドアアウタパネルの上向き延長部と車両前後方向の延長部とでサッシュ部とドアインナパネルとを挟んで固定することで、サッシュ部とドアインナパネルに対するドアアウタパネルの溶接を廃止して、溶接設備の追加導入や溶接工数の増加を防ぐことができる。
【0018】
また、サッシュ部とドアインナパネルとのスポット溶接部のより広い接合面をドアアウタパネルの車両前後方向の延長部で確実に保持できるので、ドアの開閉等でサッシュ部に力がかかった際に発生する応力の集中を防ぐことができ、接合部の溶接剥がれや亀裂の発生等の不具合を防ぐことができる。
【0019】
すなわち、車両前後方向の延長部をドアアウタパネルの車両後側のみに設けた場合には、ドア前部のヒンジを支点としたドア開閉時に、ドア後部のサッシュ部に生じる大きな衝撃に対応して、応力の集中を防いで、接合部の溶接剥がれや亀裂の発生等の不具合を防ぐことができる。また、車両前後方向の延長部をドアアウタパネルの車両後側と車両前側とに設けた場合は、ドアアウタパネルによるサッシュ部とドアインナパネルとの固定強度を一層高めることができる。
【0020】
請求項
4記載の発明によれば、ドアアウタパネルの前後方向の延長部の上端とドアアウタパネルの上向き延長部の上端とでサッシュ部とドアインナパネルとを車両内外からしっかりと挟み込んで固定することができる。
【0021】
請求項
5記載の発明によれば、ドアアウタパネルの車両前後方向の延長部でサッシュ部とドアインナパネルとのスポット溶接部を覆うことで、スポット溶接部に応力が集中するのを防いで、溶接剥がれや亀裂に発生等の不具合を防ぐことができる。
【0022】
請求項
9記載の発明によれば、サッシュ部に対してドアアウタパネルの上向き延長部で接着剤による十分な接着面積と接着強度を確保することができるので、サッシュ部とドアインナパネルに対するドアアウタパネルの溶接を廃止して、溶接設備の追加導入や溶接工数の増加を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明のサッシュドア構造を適用した自動車のフロントサイドドアの一形態を示すものである。
【0025】
フロントサイドドア(サッシュドア)1は、車両内側の金属製のドアインナパネル2及び車両外側の金属製のドアアウタパネル3と、ドアインナパネル2とドアアウタパネル3との間に配置される金属製のサッシュ完成体(サッシュ部)4とを備え、ドアインナパネル2とドアアウタパネル3とはドア本体部5(
図2参照)を構成し、サッシュ完成体4は、車両内側のインナサッシュ6と車両外側のアウタサッシュ7とで構成されている。
【0026】
図1では車両右側のフロントサイドドア1を示しているが、本発明のサッシュドア構造は車両左側のフロントサイドドア(図示せず)についても同様に適用される。また、本発明のサッシュドア構造はフロントサイドドア1のみならず、リアサイドドア(図示せず)においても同様に適用可能である。
【0027】
図1において、ドアインナパネル2やドアアウタパネル3は共に車両内側から見て示している。ドアインナパネル2の車両外側のスペース内には補強用の横長のリインフォース8(
図3参照)やドアビーム9が設けられ、ドアインナパネル2の縦方向の前壁10には上下一対のヒンジリインフォース(図示せず)、同じく縦方向の後壁11にはドアラッチリインフォース(図示せず)が設けられる。
【0028】
図2〜
図7は、本発明のサッシュドア構造の第一の要部、
図8〜
図10は同じく第二の要部をそれぞれ示すものである。
図2はフロントサイドドア1を車両外側から見た図、
図3は同じくフロントサイドドア1を車両内側から見た図である。
図2,
図3においては、ドアミラー12(
図10参照)やガーニッシュ13等は未だ組み付けられていない。
【0029】
図2のA部(第一の要部)の拡大図を枠内に示す如く、フロントサイドドア1におけるサッシュ部4の縦方向の後部サッシュ14とドアアウタパネル3の後側上部15との接合部において、ドアアウタパネル3の後端上部がドアベルトラインL1よりも上向きに延長されて上向き延長部16を成している。
【0030】
図2のドアアウタパネル3の外面側における上向き延長部16の車両前後方向幅は、後部サッシュ14のアウタサッシュ部7aの前半の凹部17に続く後半の平坦面18の前後方向幅に略等しく、後半の平坦面18に上向き延長部16の車両内側の面が挟着されている。
【0031】
図2で、符号7bは、前部サッシュ19のアウタサッシュ部(ミラー取付部)、符号20は、一枚パネルで構成された上部サッシュ、符号21はドアアウタハンドル取付部をそれぞれ示している。ドアアウタパネル3の後部の上向き延長部16の前後方向長さは、アウタサッシュ部7aの前後方向幅の略1/4程度である。
【0032】
図3のA部(第一の要部)の拡大図を枠内に示す如く、
図2のドアアウタパネル3の後部の上向き延長部16の後端から車両前方へ向けて折り返された前向き延長部22が、ドアアウタパネル3の後端側のヘムフランジ23の上部に一体に形成されている。前向き延長部22の前後方向長さは上向き延長部16の前後方向長さの略1/2程度である。
【0033】
図3において、ドアアウタパネル3の後部の車両外側の上向き延長部16に対向して車両内側のドアインナパネル2にも同様な上向き延長部24が形成されている。ドアインナパネル2の上向き延長部24の車両内側の面にドアアウタパネル3の前向き延長部22の車両外側の面が当接した状態で、前向き延長部22がヘムフランジ23と一体にヘミング加締めされている。
【0034】
それにより、ドアアウタパネル3の上向き延長部16と前向き延長部22との間に、後部サッシュ14(後部インナサッシュ6aと後部アウタサッシュ7a(
図2))とドアインナパネル2の上向き延長部24とが挟まれて固定されている。
【0035】
ドアアウタパネル3とドアインナパネル2との各上向き延長部16,24の上端16a,24aのラインは略同じ高さで略水平に位置し、前向き延長部22の上端22aのラインとドアインナパネル2の上向き延長部24の上端24aのラインとは略同じ高さで略水平に位置する。上向き延長部24の上端24aは前側の縦辺である前端24bに続き、前端24bはドアベルトラインL1に沿うドアインナパネル2の上端31に続いている。
【0036】
上向き延長部24の後側の縦辺である後端(図示せず)は、ドアアウタパネル3の前向き延長部22の後方でヘムフランジ23の折り目の線L2に沿って位置する。ドアアウタパネル3とドアインナパネル2との各上向き延長部16,24は、ドアベルトラインL1よりも上方に突出形成されている。
【0037】
図3の如く、ドアアウタパネル3の後端部は上向き延長部16に限らずドアアウタパネル3の高さ方向の範囲でヘムフランジ23のヘミング加締め(ヘミング加工)により、前向きに折り返されてドアインナパネル2の後端部に固定されており、このヘミング加締め部(ヘムフランジ)23の前端23aよりもさらに前方まで前向き延長部22が突出している(延長されている)。
【0038】
ヘムとは英語でhem(ふち、へりの意味)であり、ヘミングとは英語でhemmingである。なお、ドアインナパネル2としては前側部分が厚肉でその他の部分が薄肉な(境界線を符号25で示す)テーラードブランク材が用いられている。
【0039】
図4に、
図2の要部であるA’部におけるヘムフランジ23を折り曲げる前の状態を鎖線で示す如く、折り曲げ後のドアアウタパネル3の後端の縦方向の直線的なライン(折り目の線)L2に対して、折り曲げ前のヘムフランジ23が略同じ前後方向幅で(正確には少なくとも
図4の範囲で上に向かうにつれて漸次ヘムフランジ23の前後方向幅を縮小させて)後方に突出延長されている。
図3の前向き延長部22は
図4の折り曲げ前に後向き延長部としてヘムフランジ23の上部に一体に形成されている。
【0040】
この加締め前の後向き延長部22は、上辺22aと下辺22bと湾曲状の先端辺22cとを有し、上辺22aは上向き延長部16の上端(上辺)16aと同一直線上に位置し、下辺22bは下向きに傾斜して、ヘムフランジ23の上部の円弧状の湾曲凹部23bに続き、湾曲凹部23bは下側のヘムフランジ部分23に続いている。湾曲凹部23bの底辺に沿う上向きの接線23cは、後向き延長部22を形成しない場合の仮想ヘムフランジ部分である。
【0041】
湾曲凹部23bは、後向き延長部22をヘムフランジ23と共に前向きに加締める際に、後向き延長部22をスムーズ且つ確実に前向きに加締める(
図5の前向き延長部22とする)ために有用である。後向き延長部22はヘムフランジ23の一部であり、ヘムフランジ23からさらに後向きに延長された(突出した)部分である。
【0042】
図4の如く、ドアアウタパネル3の上向き延長部16には車両外側に向けて膨らんだ膨出部26が形成されている。この膨出部26は、ドアアウタパネル3をサッシュ完成体4(
図1)の後部サッシュ14やドアインナパネル2の後部にヘムシーラ(接着剤)27(
図6参照)で固定する際のシーラ溜りとして作用する。膨出部26は上向き延長部16からドアベルトラインL1の延長線を跨いで、車両外側から見て略半円山型状に形成されている。ヘムフランジ23を前向きに加締めた際の折り目(ドアアウタパネル3の後端の縦辺部)L2は直線状になっている。
【0043】
図5の如く、鎖線で示す後向き延長部22がヘムフランジ23と共に前向きに加締められて(折り返されて)前向き延長部22となる。前向き延長部22の車両外側の面に対向してドアインナパネル2の後部とサッシュ完成体4の後部サッシュ14とがスポット溶接28で固定されている。前向き延長部22はスポット溶接部28を車両内側から覆っている。ドアインナパネル2とサッシュ完成体4とを接合するスポット溶接部28は車両前後方向に並んで複数形成される。
図5では最も後側のスポット溶接部28を示している。
【0044】
フロントサイドドア1の開閉中心となるヒンジは前側に配置され、スポット溶接部28はフロントサイドドア1の後端の近傍に位置するので、フロントサイドドア1の開閉時の衝撃によって、サッシュ部4が変形した場合に、後側のスポット溶接部28に応力が集中しやすいが(応力集中によってスポット溶接部28が悪影響を受けやすいが)、ドアアウタパネル3の前向き延長部22で最も最も後側のスポット溶接部28を車両内側からしっかりと支えることで、応力を前向き延長部22とそれを経てドアアウタパネル3とに分散(吸収)させて、スポット溶接部28の受ける悪影響を低減させることができる。
【0045】
図6(a)の如く、ドアアウタパネル3の後端側の後向き延長部22を含むヘムフランジ23を90°よりもやや少ない角度で車両内側に折り曲げると共に、ドアアウタパネル3の上向き延長部16の膨出部26の後端側の車両内側の面にシーラ27を塗布する(ヘムフランジ22の折り曲げとシーラ27の塗布の順序は適宜規定可能である)。
【0046】
また、ドアアウタパネル3とは別に、ドアインナパネル2とサッシュ完成体4(インナサッシュ6とアウタサッシュ7)とを予めスポット溶接28で接合固定しておく(ドアインナパネル2とサッシュ完成体4との組立体29ないし接合体を構成しておく)。
【0047】
スポット溶接28で接合されたドアインナパネル2とサッシュ完成体4を矢印の如くドアインナパネル3の車両内側の面に組み付けて、
図6(b)の如く、ドアアウタパネル3のヘムフランジ23を前向き延長部22と共にドアインナパネル2の車両内側の面に向けて加締める。
【0048】
これに伴って、ドアアウタパネル3の上向き延長部16の内面側のシーラ27が膨出部26内に充填されつつアウタサッシュ7の車両外側の面に付着すると共に、アウタサッシュ7とインナサッシュ6とドアインナパネル2との各後端に隙間なく付着しつつ、ヘムフランジ23の折り目L2の内側の横断面湾曲状の空間に隙間なく充填される。
【0049】
これにより、ドアアウタパネル3がシーラ27の接着力と前向き延長部22及びヘムフランジ23の加締め力とでしっかりとドアインナパネル2及びサッシュ完成体4に接合固定される。膨出部26を形成することで上向き延長部16の剛性が高められると共に、膨出部26内にシーラ27を厚肉に収容して、上向き延長部16とアウタサッシュ7との接着力を高め、外部へのシーラ27のはみ出しを防止しつつシーラ27の塗布範囲を制限して、シーラ27の能力(接着力と防水性)を最大限に発揮させることができる。
【0050】
また、ドアアウタパネル3を除くアウタサッシュ7とインナサッシュ6とドアインナパネル2との計三枚のパネルをスポット溶接28で接合することで、既存の溶接設備を用いても、スポット溶接部28の品質が確保され、三枚のパネル2,6,7の接合強度(剛性)が確保される。
【0051】
また、ドアアウタパネル3の上向き延長部16とドアインナパネル2の上向き延長部24(
図3)とでサッシュ完成体4をドア厚み方向に挟み込み、さらに、ドアアウタパネル3の上向き延長部16と前向き延長部22との間にドアインナパネル2とサッシュ完成体4とを挟み込んだことで、ドアアウタパネル3に対する後部サッシュ14(
図3)の接合強度が高められる。
【0052】
図7は
図5のC−C相当断面図を参考的に示すものであり、ドアアウタパネル3の上向き延長部16が車両外側に位置し、上向き延長部16に折り返されて続くヘムフランジ23の前向き延長部22が車両内側に位置する。符号L2はヘムフランジ23の折り目のラインを示す。上向き延長部16の前方に一段低く続いてドアベルトラインL1(
図4)に沿うドアアウタパネル部分の上端は鎖線30で示している。
【0053】
ドアアウタパネル3の上向き延長部16と前向き延長部22との間に、車両外側から車両内側にかけて後部サッシュ14のアウタサッシュ7aとインナサッシュ6aとドアインナパネル2の上向き延長部24とが挟まれて配置されている。
図7で符号26は膨出部を示している。前向き延長部22の車両外側の面に沿って前方に続くドアインナパネル2の段部32にウェザストリップ33が配置され、ウェザストリップ33はドアインナパネル2(
図3)の前後と下側の周状の段部とサッシュ部4(
図3)の周状の段部とに渡ってループ状に配置される。
【0054】
図8〜
図10は、
図2の符号B部におけるサッシュドア構造の第二の要部を示すものである。第二の要部は、フロントサイドドア1(
図2)のサッシュ完成体(サッシュ部)4の前部サッシュ19とドアパネル(ドアアウタパネル3とドアインナパネル2)との接合部に関するものであり、基本的には上記第一の要部Aの構成と同様である。
【0055】
図8は、
図2のB部を拡大すると共に、その要部であるB’部分をさらに拡大して示したものである。
【0056】
ドアアウタパネル3の前側上部に上向き延長部33が一体に形成され、ドアインナパネル2(
図3)の前側上部に同様の上向き延長部(図示せず)が一体に形成され、ドアアウタパネル3とドアインナパネル2との各上向き延長部でサッシュ完成体4の前部サッシュ19の前側の付根部が車両内外から挟んで固定されている。ドアアウタパネル3の上向き延長部33の車両内側の面が前部サッシュ19のアウタサッシュ7bに押接し、ドアインナパネル2の上向き延長部(図示せず)の車両外側の面が前部サッシュ19のインナサッシュ(図示せず)に押接している。
【0057】
また、ドアアウタパネル3の前端側のヘムフランジ34で前部サッシュ19とドアインナパネル2の前端部とが加締め固定されている。
図8のB’部の拡大図に鎖線で示す如く、ヘムフランジ34は加締め前においてドアアウタパネル3の前端側で前向きに突出(延長)され、ヘムフランジ34の上端側に前向き延長部35が一体に延長(突出)形成され、前向き延長部35の上下方向幅は上向き延長部33の上下方向幅と同程度であり、上向き延長部33の前端側にヘムフランジ34を介して前向き延長部35が一体に続いている。
【0058】
ヘムフランジ34は少なくとも
図8の範囲で上方に向かうにつれて漸次突出幅を減少させ、前向き延長部35の下側で突出幅を最小とした凹部34bを成している。凹部34bは前向き延長部35の前上がりに傾斜した下辺35bに続き、下辺35bは先端辺35cに続き、先端辺35cは上辺35aに続き、上辺35aは上向き延長部33の略水平な上端(上辺)33aと同一線上に続いている。
【0059】
ドアインナパネル2の不図示の上向き延長部の上端(上辺)は、ドアアウタパネル3の上向き延長部33の上端(上辺)33aとほぼ同じ高さにおいて対向して位置している。ヘムフランジ34やその前向き延長部35はドアアウタパネル3にのみ設けられている。ドアアウタパネル3の上向き延長部33の前後方向長さは、前部サッシュ19の後側の凹部36に続く前側の平坦面37の前後方向幅よりも少し広く規定され、前側の平坦面37に上向き延長部33の車両内側の面が密着している。
【0060】
ドアアウタパネル3の上向き延長部33(上向き延長部33を含むドアアウタパネル上部であってもよい)に、前後方向に長い膨出部38が車両外側に向けて突出形成されている。膨出部38はシーラ(接着剤)溜りとして作用し、各パネル2,3,19の合わせ面から外側へのシーラのはみ出しを防止すると共に、上向き延長部33の剛性を高める。
【0061】
図9(a)に示す如く、ドアアウタパネル3の上向き延長部33の車両内側の面にヘムシーラ(接着剤)39が塗布され、上向き延長部33の前側に続く前向き延長部35が90°よりも少し大きい開き角度で屈曲される。
【0062】
その状態から、
図9(b)の如く、ドアアウタパネル3の車両内側に、サッシュ完成体4の前部サッシュ19とドアインナパネル2との組立体が組み付けられ、
図9(a)のドアアウタパネル3の前向き延長部35が
図8のヘムフランジ34と共に後向きに折り返されてヘミング加締めされる。前向き延長部は折り返されて後向き延長部35となる。
【0063】
前部サッシュ19とドアインナパネル2とは予めスポット溶接40で接合固定されている。後向き延長部35はドアインナパネル2の上向き延長部41の車両内側の面に押接され、ドアアウタパネル3の後向き延長部35と上向き延長部33との間にドアインナパネル2と前部サッシュ19とが挟持される。上向き延長部33の車両内側の面にアウタサッシュ7bが押接し、アウタサッシュ7bとドアインナパネル2の上向き延長部41との間にインナサッシュ6bが位置する。
【0064】
インナサッシュ6bの前端はドアインナパネル2の上向き延長部41の前端よりも少し後方に位置し、アウタサッシュ7bの前端はインナサッシュ6bの前端よりもさらに後方に位置する。これら三枚のパネル2,6b,7bの各前端と、ドアアウタパネル3の上向き延長部33の車両内側の面と後向き延長部35の折り返し基部(ヘムフランジ34の折り目の線L3)の内面との間に、シーラ39が隙間なく充填されて、三枚のパネル2,6b,7bの各前端と上向き延長部33と後向き延長部35とが相互に接着固定されている。
【0065】
図9のフロントサイドドア1における前側のスポット溶接40と、車両内外の上向き延長部33,41による挟持と、後向き延長部35による加締めとで成る接合部は、
図2〜
図3のフロントサイドドア1の後側の同様の接合部に比べて、不図示のドアヒンジ(ドア開閉時の回転中心)に近く、且つフロントサイドドア1の後端縁すなわち不図示のドアラッチから遠く離れているので、ドア開閉時の衝撃が少なく、応力が発生しにくい点で有利である。
【0066】
従って、テーラードブランク材で成るドアインナパネル2の前側の上向き延長部41が
図3の後側の上向き延長部24よりも厚肉であることをも考慮して、前側の各上向き延長部33,41を
図3の後側の各上向き延長部16,24よりも低く(突出量を少なく)形成したり、後向き延長部35を
図3の前向き延長部22よりも小さく形成したりすることも可能である。
【0067】
図10は、
図2のサッシュ完成体(サッシュ部)4の前部サッシュ19にドアミラー12を取り付け、後部サッシュ14の車両外側の面にガーニッシュ(装飾部品)13を取り付け、ドアパネルのドアベルトラインL1に防水用のドアモール42を取り付け、ドアアウタパネル3のドアハンドル取付部にドアアウタハンドル43を取り付けたサッシュドア1の完成状態を示している。
【0068】
ドアミラー12の取付用カバー44の下端部44aはドアベルトラインL1よりも下方まで延長されており、カバー44が前部サッシュ19側にボルト締めで固定され、カバー44の下端部44aがドアアウタパネル3の前側の上向き延長部33(
図8)に車両外側から被さるように押接して、上向き延長部33が前部サッシュ19とカバー44との間に挟み込まれる。これにより、前側の接合部の固定強度がアップすると共に、上向き延長部33の上端33a(
図8)が車両外側から隠されて見栄えが向上する。
【0069】
図10の後部サッシュ14の車両外側の合成樹脂製のガーニッシュ13は、
図11〜
図12(
図11のE−E断面図)に示すように組み付けられるが、その際にフロントサイドドア1のドアアウタパネル3の後部の上向き延長部16における車両外向きに突出した膨出部(シーラ溜め部)26が、ガーニッシュ13に対する上下方向の位置決め部として作用する。
【0070】
図11の如く、ガーニッシュ13の下端13aはドアベルトラインL1のやや上側においてドアアウタパネル3の後部の上向き延長部16の高さ方向中間部に位置する。ドアベルトラインL1には防水用のドアモール42(
図10)が組み付けられてガーニッシュ13の下端13aを車両外側から隠す。
図11で符号13cはガーニッシュ13の後端(縦辺)を示している。
【0071】
図12の如く、ガーニッシュ24の下部の車両内側には湾曲状の段差部(凸部)13bが形成されており、その段差部13bが車両外側からドアアウタパネル3の膨出部26の上端側の車両外側の段差部(凹部)26aに係合することで、ガーニッシュ13の上下方向の位置決めが行われて、ガーニッシュ13の組付作業性が向上する。ガーニッシュ13をドアアウタパネル3の上に乗せる構造としたことで、見切り調整が可能となっている。
図12で符号14は後部サッシュを示している。
【0072】
以下に、上記実施形態で説明したサッシュドア構造の特徴をまとめて記述する。
【0073】
サッシュドア構造は、サッシュ完成体(サッシュ部)4がアウタサッシュ7とインナサッシュ6の二枚で構成され、ドア本体部5がドアアウタパネル3とドアインナパネル2の二枚で構成され、サッシュ完成体4とドア本体部5との各パネル2,3,6,7が四枚重ねになり、サッシュ完成体4とドアインナパネル2との計三枚のパネル2,6,7がスポット溶接28,40で固定され、三枚のパネル2,6,7にドアアウタパネル3がヘミング加工(23,34)で接合されることを前提条件としている。
【0074】
第一の特徴として、例えば
図2,
図3,
図8に示す如く、ドアアウタパネル3とドアインナパネル2との前後の各端部がドア本体部5の上部のドアベルトラインL1よりも上方まで延長されて各上向き延長部16,24、33,41を成し、ドアベルトラインL1の上側においてもサッシュ完成体4の前部サッシュ19と後部サッシュ14をドアアウタパネル3とドアインナパネル2とで挟み込む構造になっていることが挙げられる。
【0075】
「ドアベルトラインL1の上側においても」とは、ドアベルトラインL1の下側においても、サッシュ完成体4の前部サッシュ19と後部サッシュ14をドアアウタパネル3とドアインナパネル2とで挟み込んでいるという意味である。ドアアウタパネル3とドアインナパネル2との各上向き延長部16,24、33,41の上向きの延長量(突出高さ)は概ね同じである。
【0076】
上記第一の特徴によって、サッシュドア1のベルトラインL1よりも上側までドア本体部5のドアパネル(ドアアウタパネル3とドアインナパネル2)がサッシュ完成体4の前部サッシュ19と後部サッシュ14を迎えに行き、車両内外から挟み込むように固定することで、サッシュ部(サッシュ完成体)4とドア本体部5との固定強度が向上する。そして、サッシュドア1の開閉時にサッシュ完成体4の前部サッシュ19と後部サッシュ14との根元部(ドアベルトラインL1の近傍部分)に発生する応力集中が分散される。
【0077】
第二の特徴として、例えば
図4,
図8に示す如く、ドアアウタパネル3をヘミング加工23,34とシーラ(接着剤)27,39とで、サッシュ完成体(サッシュ部)4とドアインナパネル2とに挟み込んで固定するサッシュドア構造におけるドア本体部5の上部のヘミング加工構造に関し、ドアアウタパネル3の上向き延長部16,33におけるヘムフランジ23,34の幅をそれ以外のドアアウタパネル3の縦辺部のヘムフランジ23,34の幅よりも前後方向に長く延長して、前後方向の各延長部(前向き延長部22と後向き延長部35)を形成していることが挙げられる。
【0078】
上記第二の特徴によって、シーラ39による十分な接着面積を確保して接合部の応力を軽減することで、ドアアウタパネル3の溶接(スポット溶接やCO
2溶接)を廃止することができ、溶接設備の追加導入や溶接工数の増加を防いだり削減したりすることができる。また、ドアインナパネル2とサッシュ完成体4とのスポット溶接部28,40におけるより広い接合面を前後方向の延長部22,35で確実に保持することで、サッシュ部4に力が作用した際に発生する応力の集中を防ぐことができ、接合部の溶接剥がれや亀裂の発生やそれによる錆の発生等の不具合を防ぐことができる。なお、実験の結果、ドアアウタパネル3の前向き延長部22の加締め構造がある場合は、ない場合と比べて、前側の接合部に作用する応力が約24%程度低減されている。
【0079】
第三の特徴として、例えば
図4,
図8に示す如く、ヘミング加工部(加締め部)23,34の折り目のラインすなわちドアアウタパネル3の前後端の縦辺L2,L3は直線状になっており、ヘミング加工されたヘムフランジ23,34の上端すなわち前後方向の延長部22,35の上端とドアアウタパネル3の上向き延長部16,33の上端とが一致していることが挙げられる。
【0080】
上記第三の特徴によって、ドアアウタパネル3の前後方向の延長部22,35の上端とドアアウタパネル3の上向き延長部16,33の上端とが車両内側と車両外側とに対向してサッシュ完成体4とドアインナパネル2とを車両内外からしっかりと挟み込んで固定する。
【0081】
第四の特徴として、例えば
図5,
図6,
図8に示す如く、ヘミング加工(加締め)時に、ドアアウタパネル3の上向き延長部16,33とヘムフランジ23,34の前後方向の延長部22,35とでサッシュ完成体4(アウタサッシュ7とインナサッシュ6)とドアインナパネル2とを挟み込んだ際に、アウタサッシュ7とインナサッシュ6とドアインナパネル2とを溶接固定している溶接点のうち、最も車両前後方向外側にある溶接点28,40を覆う位置まで、ヘムフランジ23,34の前後方向の延長部22,35が延長されていることが挙げられる。
【0082】
上記第四の特徴によって、サッシュ完成体(サッシュ部)4とドアインナパネル2との溶接点(接合部)28,40に応力が集中するのを防ぐことができ、接合部28,40の溶接剥がれや亀裂の発生等の不具合を防ぐことができる。
【0083】
第五の特徴(第二の特徴を含むもの)として、例えば
図3,
図8に示す如く、ドアアウタパネル3の前端側又は後端側のヘムフランジ23,34の上部に前後方向の延長部(前向き延長部22、後向き延長部35)を設ける場合に、ドアアウタパネル3の少なくとも後端側のヘムフランジ23に前向き延長部22を設けることが必須であることが挙げられる。
【0084】
上記第五の特徴によって、ドアアウタパネル3の例えば前後両側に前後方向の各延長部22,35を設けることで、ドアアウタパネル3によるサッシュ完成体4とドアインナパネル2との固定を確実に行って固定強度を高めることができるが、サイドドア(サッシュドア)1の後部サッシュ14の固定部(接合部)はドアパネルの後端縁に近く、前側のドアヒンジから遠く、ドア開閉時に大きな衝撃が発生しやすく、その衝撃によって後部サッシュ14が変形すると応力が集中しやすい。そこで、ドアアウタパネル3の少なくとも後端側のヘムフランジ23に前向き延長部22を設けることで、その応力集中を緩和させることができる。
【0085】
第六の特徴として、例えば
図4,
図8,
図11〜
図12に示す如く、ドアアウタパネル3のベルトラインL1よりも上側への延長部(上向き延長部)22,33には、車両外側に向けた膨出部26,38が設けられていることが挙げられる。また、サッシュ部4の後部サッシュ14の外側に設置するガーニッシュ13の段差部(車両内側に向かう凸部)13bに対応する段差部(凹部)26aが、膨出部26の上側に続けて形成されていることが挙げられる。
【0086】
上記第六の特徴によって、膨出部26,38がシーラ溜りとして作用して、十分な量のシーラ27,39が保持されて、ドアアウタパネル3に対するサッシュ部4の固定力がアップすると共に、パネル合わせ面の外側へのシーラ27,39のはみ出しが抑止される。また、アウタパネルの膨出部26,38で上向き延長部16,33の剛性がアップして、サッシュ部4の保持力が向上する。また、後側の膨出部26の上側の段差部(凹部)26aにガーニッシュ13の段差部(凸部)13bを車両外側から乗せることで、ガーニッシュ13の組付時の位置合わせがスムーズに行われる。
【0087】
なお、上記実施形態においては、ドアアウタパネル3と他のパネル2,6,7との接合にヘムシーラ27,39を用いたが、ヘムシーラ27,39に代えて別の接着材料を用いることも可能である。
【0088】
また、本発明のサッシュドア構造は、自動車のフロントサイドドア1やリヤサイドドアに限らず、ヘムフランジ23,34を使用している部位であれば、バックドアやフード等にも適用可能なものである。