(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
周知のように、ターボ圧縮機は、インペラによって運動エネルギーが付与された流体をディフューザで圧縮(昇圧)し、当該ディフューザの周りに設けられたスクロールによって回収する装置である。上記スクロールは、ディフューザの周りに渦巻状に設けられるものであり、また流路面積(断面積)が巻始めから巻終わりに向かって徐々に拡大する渦巻状の流路である。
【0003】
下記特許文献1には、このようなターボ圧縮機におけるスクロールの各種構造が開示されている。例えば、特許文献1の
図7には、スクロールの巻始めから巻終わりに亘る図芯(流路中心)のスクロール中心軸(インペラの回転中心軸)からの距離(中心間距離)が一定なスクロールが記載されている。また、特許文献1の
図2や
図4には、上記中心間距離が山型に変化するスクロールが記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、ターボ圧縮機ではなく、過給機(ターボチャージャ)のタービン(ラジアルタービン)に備えられるスクロール部(スクロール)の各種構造が開示されている。例えば、特許文献2の
図1には、スクロール部の巻始めから巻終わりに亘る外縁と内縁との中心点のスクロール中心軸からの距離(中心間距離)が一定なスクロールが記載されている。また、特許文献2の
図3には、スクロール部の巻始めから所定の領域を除く領域について外縁のスクロール中心軸からの距離(中心間距離)が一定(一部外径一定)なスクロールが記載されている。また、特許文献2の
図4には、スクロール部の巻始めから巻終わりに亘る内縁のスクロール中心軸からの距離(中心間距離)が一定(内径一定)なスクロールが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ターボ圧縮機のスクロールについては、上記特許文献1開示されているように巻始めから巻終わりに亘る各位置の流路断面中心のスクロール中心軸からの距離(中心間距離)が一定な形状よりも、当該中心間距離が徐々に大きくなる形状の方が損失係数(圧力損失係数)が小さくなる。また、これとは逆に、上記中心間距離が徐々に小さくなる形状は、中心間距離が一定な形状よりも損失係数が大きくなる。ここで、巻始めから巻終わりに亘るスクロールの外径を一定にしようとした場合には、上記中心間距離は徐々に小さくならざるを得ず、この結果として損失係数が大きくなる。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、外径を一定に維持しつつ圧力損失を従来よりも低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、スクロールに係る第1の解決手段として、外径一定形状、かつ、流路面積がスクロール中心軸周りの巻始めから巻終わりに向かって徐々に増加するスクロールであって、流路断面中心のスクロール中心軸からの距離の前記巻始めから前記巻終わりに亘る軌跡が流路断面形状が円形な場合における前記距離の軌跡よりも外径側に位置する、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、スクロールに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記流路断面中心の前記スクロール中心軸からの前記距離の前記軌跡は、外径側に膨らむように湾曲した形状である、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、スクロールに係る第3の解決手段として、外径一定形状、かつ、流路面積がスクロール中心軸周りの巻始めから巻終わりに向かって徐々に増加するスクロールであって、前記巻始め近傍の所定領域におけるスクロール中心軸方向における流路幅の増加率がスクロール半径方向における流路幅の増加率よりも大きい、という手段を採用する。
【0011】
また、本発明では、ターボ圧縮機に係る解決手段として、上記第1〜第4のいずれかの解決手段に係るスクロールを備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流路断面中心のスクロール中心軸からの距離の巻始めから巻終わりに亘る軌跡が流路断面形状が円形な場合における上記距離の軌跡よりも外径側に位置する、あるいは巻始め近傍の所定領域におけるスクロール中心軸方向における流路幅の増加率がスクロール半径方向における流路幅の増加率よりも大きいので、圧力損失を従来の外径一定形状よりも低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態に係るターボ圧縮機1は、
図1に示すように、インペラケーシング1a、インペラ1b、駆動軸1c及び駆動機構1dを備えている。
【0015】
インペラケーシング1aは、内部にインペラ1bを収容する空間(インペラ収容空間)が形成されたインペラ収容体であり、上記インペラ収容空間に加えて、軸挿入孔1e、吸入口1f、ディフューザ1g、スクロール1hが形成されている。
【0016】
軸挿入孔1eは、インペラケーシング1aの右側(駆動機構1d側)から上記インペラ収容空間にかけて形成された貫通孔(丸孔)であり、丸棒状の駆動軸1cが挿通される。吸入口1fは、インペラケーシング1aの左側(駆動機構1dと反対側)から上記インペラ収容空間にかけて形成されており、圧縮対象である流体を外部から取り込むための貫通孔(丸孔)である。なお、上記軸挿入孔1eの軸心及び吸入口1fの軸心並びに駆動軸1cの軸心(回転中心軸)は同軸である。
【0017】
インペラ1bは、複数の翼が軸心周りに一定間隔で形成された翼車である。このインペラ1bは、図示するように、翼先端が吸入口1fに対峙する一方、翼背面に駆動軸1cが突出した状態で上記インペラ収容空間内に収容されており、自らの軸心が駆動軸1cの軸心(回転中心軸)と同軸となるように駆動軸1cの先端に固定されている。
【0018】
駆動軸1cは、このようなインペラ1bを駆動機構1dと連結させる丸棒状の部材である。駆動機構1dは、電動機(動力源)及び連結機等からなり、駆動軸1cを介してインペラ1bを回転駆動する。
【0019】
ディフューザ1gは、インペラケーシング1aにおいてインペラ1bの翼後端の外方に円環状に設けられた絞り流路である。すなわち、このディフューザ1gは、上記インペラ収容空間の外周のインペラ1bの翼後端に符合する位置において、インペラ1bの半径方向に所定幅かつインペラ1bの軸心方向に所定高さで延在する略円環状の流路である。このようなディフューザ1gは、インペラ1bによって加速された流体の運動エネルギーを圧力(静圧)に変換する機能を呈する。
【0020】
スクロール1hは、インペラケーシング1aの内部において、上記ディフューザ1gの外周つまりインペラ1bの半径方向においてディフューザ1gの外側に位置する流路である。このスクロール1hは、
図2に示すように、スクロール中心軸L周りの角度θとして見た場合に、巻始め(θ=60°)から巻終わり(θ=360°)にかけて渦巻状に形成されると共に流路面積(流体の流れ方向に直交する断面積)が巻始めから巻終わりに向かって徐々に増加する流路である。
【0021】
なお、上記スクロール中心軸Lは、インペラ1bの回転中心軸及び駆動軸1cの軸心と同軸である。したがって、スクロール中心軸Lの方向(スクロール軸方向)は、インペラ1bの軸心方向と同一であり、またスクロール1hの半径方向(スクロール半径方向)は、インペラ1bの半径方向と同一である。
【0022】
また、本実施形態に係るスクロール1hは、
図2に示すように、スクロール中心軸L回りの角度θとして見た場合に、0°から舌部に相当する角度に亘る流体排出領域を除く領域(主領域)においてスクロール中心軸Lから外縁1iまでの距離、つまり主領域における外径が一定な形状(外径一定形状)であり、スクロール中心軸Lから内縁1jまでの距離つまり内径が角度θに応じて変化する。すなわち、このスクロール1hは、巻始め(θ=60°)から巻終わり(θ=360°)における流路断面中心(流路重心)の上記スクロール中心軸Lからの距離(中心間距離)が
図3(a)に一点鎖線で示すような軌跡Kを描く。
【0023】
ここで、一般的な外径一定形状のスクロールは、断面形状が円形であり、
図3(b)に参考例3として示すように、上記中心間距離の軌跡が流路断面積(円形断面積)の増加に従ってスクロール中心軸に直線的に近づく。このような参考例3では、断面形状が円形であるが故に、スクロール軸方向における流路幅の増加率とスクロール半径方向における流路幅の増加率とが同一である。したがって、上記中心間距離の軌跡Mは、
図3(b)に一点鎖線で示すように、スクロール半径方向に対してα=45°の角度で直線的に傾斜する形状(直線漸近形状)となる。
【0024】
このような一般的なスクロール(参考例3)に対して、本実施形態に係るスクロール1hは、
図3(a)に示すように断面形状を円形とはせず、スクロール軸方向における流路幅の増加率とスクロール半径方向における流路幅の増加率とが同一ではない。すなわち、本実施形態に係るスクロール1hでは、巻始め(θ=60°)から巻終わり(θ=360°)に至る流路長のうち、巻始め(θ=60°)近傍の所定領域におけるスクロール軸方向における流路幅の増加率をスクロール半径方向における流路幅の増加率よりも大きく設定されている。
【0025】
この結果として、流路断面中心(流路重心)の軌跡Kは、
図3(a)に示すように、巻始め(θ=60°)近傍の所定領域における傾斜角βが参考例3の軌跡Mの傾斜角αよりも大きくなる。また、この軌跡Kは、巻始め(θ=60°)から巻終わり(θ=360°)に亘って外径(外縁1i)側に膨らむように湾曲した形状(湾曲漸近形状)となる。すなわち、本実施形態に係るスクロール1hは、中心間距離の軌跡Kが参考例3における中心間距離の軌跡Mよりも外径側(外縁1i側)に位置する。
【0026】
なお、外径一定形状の条件の下では、上記中心間距離の軌跡が巻始め(θ=60°)を通ると共にスクロール軸方向に平行な直線(
図3における破線)よりも外径側(外縁1i側)に位置することはない。
【0027】
一般的に流体の流量との関係で角度θ毎に必要な流路断面積が一義的に決まるが、本実施形態に係るスクロール1hは、スクロール中心軸Lから外縁1iまでの距離が一定(つまり外径一定形状)及び角度θ毎に要求される流路断面積という2つの制約条件の下で、スクロール中心軸Lから内縁1jまでの距離(内径)及びスクロール軸方向における流路幅を角度θに応じて適宜変化させることによって、中心間距離の軌跡Kが
図3(a)に示すように形状設定されている。
【0028】
図4は、このような本実施形態に係るスクロール1hの巻始め(θ=60°)から巻終わり(θ=360°)に亘る形状変化を示したグラフである。
図4(a)は、スクロール1hの断面積Aの変化を示し、
図4(b)は、スクロール中心軸Lを基準とした流路断面中心(流路重心)の位置(半径位置R)の変化を示し、
図4(c)は、上記断面積Aと半径位置Rとの比A/Rの変化を示し、
図4(d)は、スクロール1hの比A/Rの変化率d(A/R)dθの変化を示している。
【0029】
なお、
図4に示された参考例1〜3のうち、参考例1は断面形状が円形かつ中心間距離が一定なスクロールの形状(中心間距離一定形状)を示している。参考例2は、断面形状が円形かつ内径が一定なスクロールの形状(内径一定形状)を示している。参考例3は、本実施形態に係るスクロール1hと同様に外径が一定かつ断面形状が円形なスクロールの形状(外径一定形状)を示している。
【0030】
このような参考例1〜3及び本実施形態に係るスクロール1hを対比すると、断面積Aの増加は
図4(a)に示すようにすべて同一であるが、半径位置Rの変化は
図4(b)に示すように全て異なる。すなわち、参考例1では半径位置Rの変化が一定であるが、参考例2では半径位置Rの変化が徐々に大きくなり、参考例3では半径位置Rの変化が徐々に小さくなり、スクロール1hでは、参考例3よりも半径位置Rの低下の度合いが大きい。
【0031】
また、断面積Aと半径位置Rとの比A/Rについて見ると、全てが徐々に増加するが、参考例3の増加率が最も大きく、次に増加率が大きいのはスクロール1hである。参考例1はスクロール1hの次に増加率が大きく、参考例2が最も増加率が小さい。
【0032】
このような比A/Rの変化率d(A/R)dθについて見ると、スクロール1hと参考例3とは徐々に増加する傾向を示すが、参考例1は一定であり、また参考例2は全体として減少する傾向を示す。また、スクロール1hの増加率は、参考例3の増加率よりも全体として小さい。
【0033】
本実施形態に係るスクロール1hは、外径一定形状という点で参考例3と同一であるが、
図4(b)に矢印で示すように半径位置Rが参考例3よりも緩やかに減少し、また
図4(c)に矢印で示すように比A/Rが参考例3よりも緩やかに増加し、さらに
図4(d)に矢印で示すように比A/Rの変化率d(A/R)/dθが緩やかに増加する形状である。
【0034】
次に、このように構成された本実施形態に係るターボ圧縮機1、特にスクロール1hの作用効果について詳しく説明する。
【0035】
本ターボ圧縮機1では、駆動機構1dが作動することによってインペラ1bが回転し、この結果として流体が吸入口1fからインペラ収容空間に吸入する。そして、当該インペラ収容空間に吸入した流体は、インペラ1bによって運動エネルギー(速度エネルギー)が与えられると共にディフューザ1gに向けて送出される。そして、流体は、ディフューザ1gを通過してスクロール1hに流れ込むことにより運動エネルギー(速度エネルギー)が圧力(静圧)に変換されて高圧流体となる。
【0036】
ここで、インペラ1bは、θ=0°〜360°の全半径方向に向けて流体を送り出し、ディフューザ1gは、このような全半径方向から流れ込む流体の運動エネルギー(速度エネルギー)を圧力に変換し、高圧流体としてスクロール1hに送り出す。スクロール1hは、このように全半径方向から流入する高圧流体を受け入れて流体排出領域の先端から外部に送出する。
【0037】
このようなスクロール1hの性能として重要(主要)なものは、ディフューザ1gから受け入れた高圧流体の圧力を極力維持したまま外部に送出すること、つまり圧力損失が小さいということである。スクロール1hの圧力損失を低減させることは、本ターボ圧縮機1の効率(圧縮効率)の向上を達成する上で極めて重要な設計事項である。
【0038】
図5は、スクロール1hを備える本ターボ圧縮機1と参考例3を備えるターボ圧縮機との効率(圧縮効率)を示すシミュレーション結果(CFD解析結果)である。この
図5に示すように、本ターボ圧縮機1は、外径一定形状という点で参考例3と類似するスクロール1hを備えているが、上述したように中心間距離の軌跡Kが参考例3における中心間距離の軌跡Mよりも外径側(外縁1i側)に位置するので、スクロール1hにおける圧力損失を参考例3よりも低減することが可能である。したがって、本ターボ圧縮機1によれば、作動流量範囲における効率(圧縮効率)を参考例3を備える従来のターボ圧縮機よりも高くすることができる。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態ではスクロール1hを備えるターボ圧縮機1について説明したが、本発明はこれに限定されない。スクロール1hを例えばラジアルタービンに適用してもよい。また、電動機を動力源とするターボ圧縮機のみに限定されず、タービンで駆動される過給機に適用してもよい。
【0040】
(2)上記実施形態では、
図3(a)に示す軌跡Kを一例として示したが、本発明はこれに限定されない。参考例3よりも圧力損失を低減するためには、軌跡Kが少なくとも軌跡Mよりも外径側(外縁1i側)に位置すればよい。