(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、光ファイバ用ガラス母材(以下、ガラス母材という)を光ファイバ用線引炉(以下、線引炉という)で加熱溶融し、線引炉の下方から線引きして製造される。
光ファイバの外径(クラッド外径)は、例えば所定のシングルモード光ファイバの規格で125±1μmと規定されており、光ファイバの外径制御は正確に行われなければならない。そのため、ガラス母材から線引きされた光ファイバの外径を測定している。
【0003】
例えば、特許文献1,2には、光ファイバの外径を一定に制御するために、光ファイバの外径を測定して光ファイバの引き取り速度を調整する技術が開示されている。また、特許文献3,4には、光ファイバの外径を一定に制御するために、線引炉内の圧力データやガラス母材の測定データをフィルタリングし、所定周波数の信号を選別する技術が開示されている。
【0004】
線引中に光ファイバの外径を測定していると、急峻で大きなガラス径変動が現れる場合がある(スパイク状のガラス径変動ともいう)。これは、ガラス母材中に生じていた気泡や、異物が原因となって発生すると考えられる。この光ファイバの外径が瞬間的に大きく変化した箇所(ガラス母材が原因のガラス径異常なので、以下、ガラス母材起因のガラス径異常という)は、上記したように気泡などが生じており、光ファイバの強度不足や伝送損失の低下などを招く虞があるため、除去する必要がある。そこで、上記特許文献1には、光ファイバの引き取り速度の変化を求めてガラス母材起因のガラス径異常を検知する技術が開示されている。なお、ガラス母材起因のガラス径異常はスパイク状のガラス径変動となるため、この異常箇所を外径測定器で検知する場合、センシング周期や平均化回数にもよるが、外径測定器が追従できず、実際のガラス径変動の値と比較して小さく測定されてしまう場合がある。このため、一般的には閾値を下げて(光ファイバの外径の規格を125±1μmとした場合、これよりも厳しくして)ガラス径異常箇所を検知している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、線引炉内は、線引き中に約2000℃となるので、線引炉内の部品には、耐熱性に優れたカーボンが用いられている。このカーボンは、高温の酸素含有雰囲気中で酸化して消耗する性質を有する。このため、線引炉内は、アルゴンガスやヘリウムガス等の希ガス、窒素ガス(以下、不活性ガス等という)の雰囲気に保つ必要がある。
【0007】
しかしながら、ヘリウムガスを用いて線引きする場合は問題無いものの、ヘリウムガスよりも熱伝導率の低いアルゴンガスまたは窒素ガスを含むガスを用いて線引きする場合、線引炉内のガス流の乱れが大きくなる等により、ガラス径変動が大きくなるという問題が生じる。このガラス径変動箇所は、上記したガラス母材起因のスパイク状のガラス径変動よりも長周期であり、上記した気泡などの異常箇所は含まれない。このようなガス流の乱れ等に起因するガラス径変動が、上記したガラス母材起因のガラス径異常を判定するための閾値を超える場合、誤ってガラス径異常箇所と判定してしまう(誤検知してしまう)という問題がある。
【0008】
一方、このガラス母材起因のガラス径異常を検知するための閾値を大きく設定すると、検知すべきガラス母材起因のガラス径異常箇所を見逃すという問題が生じる。
【0009】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、アルゴンガスまたは窒素ガスを含むガスを用いて線引きする場合に、誤検知を抑制しつつ、ガラス径異常箇所を検知することができる光ファイバの製造方法および製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光ファイバの製造方法および製造装置は、線引炉内で加熱、線引きされた光ファイバの外径を測定しながらガラス径異常箇所を検知しつつ、光ファイバを製造する光ファイバの製造方法および製造装置であって、測定された前記光ファイバの外径を示す測定データから、遮断周波数よりも高い周波数の信号をハイパスフィルタを用いて選別するステップと、選別された前記光ファイバの外径を示す選別データを第1の閾値径と比較し、前記選別データが前記第1の閾値径を超えた箇所を第1のガラス径異常箇所と判定するステップと、前記測定データを前記第1の閾値径より大きい第2の閾値径と比較し、前記測定データが前記第2の閾値径を超えた箇所を第2のガラス径異常箇所と判定するステップとを含
み、前記遮断周波数は、5Hz以下の周波数とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ファイバの製造方法および製造装置によれば、アルゴンガスまたは窒素ガスを含むガスを用いて線引きする場合に、誤検知を抑制しつつ、ガラス径異常箇所を検知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本願の光ファイバの製造方法発明は、(1)線引炉内で加熱、線引きされた光ファイバの外径を測定しながらガラス径異常箇所を検知しつつ、光ファイバを製造する光ファイバの製造方法であって、測定された前記光ファイバの外径を示す測定データから、遮断周波数よりも高い周波数の信号をハイパスフィルタを用いて選別するステップと、選別された前記光ファイバの外径を示す選別データを第1の閾値径と比較し、前記選別データが前記第1の閾値径を超えた箇所を第1のガラス径異常箇所と判定するステップと、前記測定データを前記第1の閾値径より大きい第2の閾値径と比較し、前記測定データが前記第2の閾値径を超えた箇所を第2のガラス径異常箇所と判定するステップとを含
み、前記遮断周波数は、5Hz以下の周波数とする。
このように、ガラス径異常箇所の検知を、第1ルートと第2ルートとを使って行う。第1ルートでは、ガス流の乱れ等に起因する長周期のガラス径変動の影響を除くために、遮断周波数よりも高い周波数の信号をハイパスフィルタを用いて選別する。この選別データを用い、第1の閾値によりガラス径異常箇所を判定するため、ガス流の乱れ等による誤検知を抑制しつつ、ガラス母材起因のガラス径異常箇所を検出することができる。また、光ファイバの外径値自体(選別していない信号)が規格内に入っている必要があるため、第2ルートでは、第1の閾値径より大きい第2の閾値径を設定し、選別していない外径の測定データが第2の閾値径を超えた箇所をガラス径異常箇所と判定している。
【0014】
そして、例えば、アルゴンガスや窒素ガス等のような不活性ガス等を使用した場合、ガラス径変動の測定結果を周波数解析すると、3Hz未満の周波数成分が多く存在する。このため、ここでは5Hzの周波数を設定し、この周波数よりも低い周波数の信号を遮断する。これにより、第1ルートでの、ガス流の乱れ等に起因する長周期のガラス径変動に相当する周波数成分を確実に除去することができ、誤検知を抑制しつつ、ガラス径異常箇所を検知することができる。
(
2)前記線引炉内を満たすガスは、アルゴンガスまたは窒素ガスを1%以上含有する。特にアルゴンガスまたは窒素ガスを1%以上含有するガスを使用した場合、線引炉内のガス流の乱れ等が大きくなるため、本発明のように2ルートでガラス径異常箇所を判定する効果が、より高くなる。
【0015】
本願の光ファイバの製造装置発明は、(
3)線引炉内で加熱、線引きされた光ファイバの外径を測定しながらガラス径異常箇所を検知しつつ、光ファイバを製造する光ファイバの製造装置であって、測定された前記光ファイバの外径を示す測定データから、遮断周波数よりも高い周波数の信号を選別するハイパスフィルタと、選別された前記光ファイバの外径を示す選別データを第1の閾値径と比較し、前記選別データが前記第1の閾値径を超えた箇所を第1のガラス径異常箇所と判定する第1の比較判定部と、前記測定データを前記第1の閾値径より大きい第2の閾値径と比較し、前記測定データが前記第2の閾値径を超えた箇所を第2のガラス径異常箇所と判定する第2の比較判定部とを備え
、前記遮断周波数は、5Hz以下の周波数とする。
本製造装置を用いることにより、上記と同じように、誤検知を抑制しつつ、ガラス径異常箇所を検知することができる。
【0016】
[本願発明の実施形態の詳細]
図により、本発明が適用される光ファイバの製造方法および製造装置の概略を説明する。なお、以下ではヒータにより炉心管を加熱する抵抗炉を例に説明するが、コイルに高周波電源を印加し、炉心管を誘導加熱する誘導炉にも、本発明は適用可能である。
図1は、本発明の一形態による光ファイバの製造装置の概略を説明する図である。光ファイバ製造装置1は、線引炉10、加熱装置(ヒータ)13、外径測定部14、冷却装置15、塗布装置(樹脂塗布ダイス)16、硬化装置17、ガイドローラ18、キャプスタン18a、巻き取りドラム20、および制御部21を備える。
【0017】
線引炉10には、その上方からガラス母材11がセットされる。ガラス母材11は、その中心部にコア部を有し、コア部の周りにクラッド部を有する。セットされたガラス母材11の下端部分が線引炉10内の加熱装置13で加熱されると、このガラス母材11の下端部分が溶融して垂下し、下部チャンバ10aから下方に引き出され、光ファイバ12となる。
線引炉10内の酸化劣化の防止を図るために、線引炉10には不活性ガス等による炉内ガスの供給機構(図示省略)が設けられている。炉内ガスとしては、例えば、アルゴンガスとヘリウムガスとを混合したガスが線引炉10内に供給され、このガスは、線引きされた光ファイバ12と共に、下部チャンバ10aから放出される。
【0018】
線引きされた光ファイバ12は、冷却装置15で強制的に冷却された後、塗布装置16で例えば、紫外線硬化樹脂を塗布して保護される。この樹脂は硬化装置17で硬化される。次いで、光ファイバ12は、ガイドローラ18を経てキャプスタン18aで引き取られ、巻き取りドラム20で巻き取られる。
また、例えば、加熱装置13と冷却装置15との間には外径測定部14が設置されている。外径測定部14は、例えば、線引きされた光ファイバ12の側面の投光画像をモニタして画像処理を施すことにより、光ファイバ12の外径を測定している。この測定結果は制御部21に送られる。なお、外径測定部は、冷却装置15と塗布装置16との間、あるいは、下部チャンバ10aと冷却装置15との間に設置することも可能である。また、外径測定部は複数個所あっても良い。
【0019】
制御部21では、光ファイバ12の外径を測定した結果、後述のように、閾値を超えるガラス径変動を検知した場合は、その箇所をガラス径異常箇所と判定する。そして、制御部21は、例えば、ガラス径異常箇所の位置を記憶したり、ガラス径異常箇所の光ファイバの被覆部表面にマーキングをしたりして、光ファイバ12を巻き取りドラム20に巻き取る。
【0020】
図2は、
図1の制御部の構成を説明する図であり、制御部21は、外径信号入力部22、処理部23、設定値入力部24、記憶部25、および出力部26を備える。
外径信号入力部22は、外径測定部14からの測定結果を受け取って処理部23に送っている。設定値入力部24は、光ファイバ製造装置1のオペレータが各種の設定値や操作値を入力するために用いることができる。記憶部25はこれら各種の設定値や操作値、出力値(ガラス径異常箇所の位置)を記憶できる。出力部26は、処理部23の処理結果を記憶部25などに出力している。
【0021】
ここで、処理部23は、ハイパスフィルタ(HPF)23a、第1の比較判定部23b、および第2の比較判定部23cを有しており、外径信号入力部22からハイパスフィルタ23a、第1の比較判定部23bを経由して出力部26に至る第1ルートと、外径信号入力部22から第2の比較判定部23cを経由して出力部26に至る第2ルートとに分けられている。
詳しくは、第1ルートでは、外径測定部14の測定データ30は、外径信号入力部22からハイパスフィルタ23aに送られる。ハイパスフィルタ23aは、測定データ30から、遮断周波数(5Hz以下の周波数で、例えば、3Hz、より好ましくは2.5Hz)よりも低い周波数の信号を遮断し、この遮断周波数よりも高い周波数の信号を選別する。
【0022】
図3は、光ファイバの外径測定データを周波数解析した結果を示す図である。アルゴンガスまたは窒素ガスを含有するガスを用いて線引きすると、線引炉内のガス流の乱れ等の影響により、光ファイバのガラス径変動が大きくなる場合がある。例えば、線引炉内の不活性ガス等をAr50%、He50%とし、ガラス径変動の測定結果を周波数解析すると、線引炉内のガス流の乱れ等の影響により、
図3に示すように3Hz未満の周波数成分が多く存在する場合がある。なお、アルゴンガスに替えて窒素ガスを用いても概ね似たような結果となる。このため、
図2に示すハイパスフィルタ23aで低い周波数の信号を除去し、線引炉内のガス流の乱れ等の影響による誤検知を抑制しつつ、ガラス母材起因のガラス径異常箇所を検知する。
【0023】
図2に戻り、ハイパスフィルタ23aを通した選別データ31は第1の比較判定部23bに送られる。第1の比較判定部23bは、選別データ31と第1の閾値径とを比較し、選別データ31が第1の閾値径を超えた箇所をガラス母材起因のガラス径異常箇所と判定する。このようにして判定されたガラス母材起因のガラス径異常箇所が、本発明の第1のガラス径異常箇所に相当する。また、この第1の閾値径は、上記で説明したように、気泡や異物のようなガラス母材起因による、スパイク状の急峻なガラス径変動を判定するための閾値であり、一般的な外径の規格値(例えば125±1μm)より小さくした値であり、例えば、±0.5μmに設定されている。なお、この第1の閾値径は、炉内ガスとしてヘリウムガスを使用している場合と同じ閾値径にすれば良く、例えば±0.7μmや±0.6μmに設定してもよい。
【0024】
図4は、光ファイバの外径の時間変化の一例を示す図であり、同じガラス径変動の信号に対し、
図4(A)はハイパスフィルタを通していない測定データ30を用い、
図4(B)はハイパスフィルタを通した選別データ31を用い、それぞれガラス母材起因のガラス径異常箇所を判定した場合を示している。
図4(A)では、光ファイバの外径は線引炉内のガス流の乱れ等の影響により、スパイク状のガラス径変動に比べて、長周期のガラス径変動が生じている。第1の閾値径を例えば±0.5μmに設定した場合、
図4(A)にGで示すように、この長周期のガラス径変動が第1の閾値径(125.5μm)を超えてしまい、長周期のガラス径変動(線引炉内のガス流の乱れ等の影響)であるにも拘らず、ガラス母材起因のガラス径異常箇所と判定される。つまり、誤検知が発生する。
【0025】
これに対し、
図4(B)ではハイパスフィルタ23aで選別しているため、
図4(A)で見られた線引炉内のガス流の乱れ等の影響が小さく抑えられ、第1の閾値径(125.5μm)を超える箇所は無いことが分かる。そして、
図4(B)にSで示すように、第1の閾値径(124.5μm、125.5μm)を超えたスパイク状のガラス径変動だけがガラス径異常箇所と判定されるので、誤検知が発生することなく、ガラス母材起因のガラス径異常箇所を検知できる。
【0026】
より具体的には、
図4(A),(B)のように、ハイパスフィルタを通さない測定データ30を用いた場合、ハイパスフィルタを通した測定データ31を用いた場合のそれぞれについて1本のガラス母材を線引きして上記の方法でガラス径異常を判定したところ、選別データ31を用いた
図4(B)の場合でも、
図4(A)で検知されたスパイク状のガラス径変動を問題なく検知できた。そして、この選別データ31を用いた
図4(B)の場合には、
図4(A)で生じていた線引炉内のガス流の乱れ等の影響による誤検知の割合(誤検知率)が2%に減少し、ハイパスフィルタを通さない測定データ30を用いた場合に比べ、誤検知率を98%削減することができた。
【0027】
再び
図2に戻り、第1の比較判定部23bの判定結果は記憶部25や出力部26に送られ、記憶部25でガラス径異常箇所の位置を記憶したり、出力部26からの信号によりガラス径異常と判定された箇所へのマーキングを行ったりする。
一方、第2ルートでは、外径測定部14の測定データ30は、そのまま外径信号入力部22から第2の比較判定部23cに送られる。
【0028】
第2の比較判定部23cは、外径信号入力部22からの測定データ30と第2の閾値径とを比較し、測定データ30が第2の閾値径を超えた箇所をガラス径異常箇所と判定する。このガラス径異常箇所が本発明の第2のガラス径異常箇所に相当する。また、この第2の閾値径は、遮断周波数よりも低いガラス母材起因のガラス径変動や、線引炉内のガス流の乱れ等に起因するガラス径変動などを含め、全ガラス径変動を判定するための閾値であり、設定値入力部24で上述の第1の閾値径より大きい、例えば、±1μmに設定されている。
【0029】
第2の比較判定部23cの判定結果も記憶部25や出力部26に送られる。上記同様に、記憶部25でガラス径異常箇所の位置を記憶したり、出力部26からの信号でガラス径異常と判定された箇所へのマーキングを行ったりする。これにより、通常のガラス径異常箇所についても、ガラス母材起因のガラス径異常箇所と同様に排除することができる。巻き取りドラム20に巻き取られた光ファイバ12は、例えば、その巻き取りドラム20を次工程のラインにセットして別のドラムに巻き取られる際に、記憶部25で記憶された位置、またはマークを付した箇所で除去される。
【0030】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。