特許第6379605号(P6379605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6379605ボールねじ装置、動力変換機構、電動パワーステアリング装置、及びボールねじ装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379605
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ボールねじ装置、動力変換機構、電動パワーステアリング装置、及びボールねじ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20180820BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20180820BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   F16H25/22 C
   F16H25/24 B
   B62D5/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-78836(P2014-78836)
(22)【出願日】2014年4月7日
(65)【公開番号】特開2015-200354(P2015-200354A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 利浩
(72)【発明者】
【氏名】金子 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡史
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4807655(JP,B2)
【文献】 特開2010−007684(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/129692(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/00−37/16
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸のねじ溝に複数のボールを介して螺合される円筒状のナットと、を備え、
前記ナットは、
デフレクタがそれぞれ装着される対をなす取付孔と、
同対をなす取付孔を連通するとともに前記ナットの外周面に開口し、且つ前記ボールが転動可能な連通溝と、を有し、
前記連通溝は、前記ナットの外周面に開口部を有する断面C字状の溝からなり、前記連通溝の開口部の幅が、前記ボールの直径よりも短いボールねじ装置。
【請求項2】
請求項に記載のボールねじ装置と、
モータの出力軸の回転力を前記ナットに伝達する動力伝達部と、を備え、
前記モータの出力軸の回転運動を前記動力伝達部及び前記ボールねじ装置を介して前記ねじ軸の軸方向の往復直線運動に変換する動力変換機構であって、
前記動力伝達部の構成部材のうち、前記ナットの周囲に取り付けられる構成部材が前記連通溝の開口部を閉塞している動力変換機構。
【請求項3】
前記動力伝達部は、
前記モータの出力軸に取り付けられる駆動プーリと、
前記ナットの外周に取り付けられる従動プーリと、
前記駆動プーリ及び前記従動プーリに巻き掛けられる無端状のベルトと、を有し、
前記従動プーリの内周面が、前記連通溝の開口部を閉塞している
請求項に記載の動力変換機構。
【請求項4】
請求項又はに記載の動力変換機構を備え、
前記ねじ軸として車両の転舵軸が用いられ、
前記ボールねじ装置を介して前記転舵軸の軸方向に加わる力により車両の操舵機構にアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
外周面にねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸のねじ溝に複数のボールを介して螺合される円筒状のナットと、を備え、
前記ナットは、
デフレクタがそれぞれ装着される対をなす取付孔と、
同対をなす取付孔を連通するとともに前記ナットの外周面に開口し、且つ前記ボールが転動可能な連通溝と、を有し、前記連通溝の開口部の幅が、前記ボールの直径よりも短いボールねじ装置の製造方法であって、
前記対をなす取付孔のいずれか一方にボールエンドミルの切削刃部を挿入した後、同ボールエンドミルの前記切削刃部を前記対をなす取付孔のいずれか他方に向けて移動させることにより前記ナットに前記連通溝を形成し、
前記ボールエンドミルとして、先端に向かって外径が小さくなる形状の軸部と、前記軸部の先端に設けられ、前記連通溝の直径に相当する外径を有する前記切削刃部とを有し、前記軸部と前記切削刃部との境界部分の外径が前記連通溝の開口部の幅以下であるボールエンドミルを用いるボールねじ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置、及び同ボールねじ装置を用いた動力変換機構、電動パワーステアリング装置、並びにボールねじ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリング装置の一つとして、ラックパラレル型の電動パワーステアリング装置が知られている。この電動パワーステアリング装置は、ラックシャフトの外周に取り付けられるボールねじ装置と、出力軸がラックシャフトに平行に配置されたモータと、モータの出力軸及びボールねじ装置を連結する減速機とを備えている。
【0003】
ボールねじ装置は、ラックシャフトの外周面に形成された螺旋状のねじ溝に複数のボールを介して螺合されたナットを有している。ナットの内周面には、ラックシャフトのねじ溝に対向する螺旋状のねじ溝が形成されている。ナットのねじ溝とラックシャフトのねじ溝とにより囲まれた空間により、ボールが転動する転動路が構成される。また、ナットには、その内周面のねじ溝から外周面に貫通する一対の取付孔がナットの軸方向に離間して設けられている。一対の取付孔は、ナットの外周面に形成された凹状の連通溝により連通されている。また、一対の取付孔にはデフレクタがそれぞれ装着されている。そして、一対の取付孔によりそれぞれ装着されたデフレクタと連通溝とにより、転動路の二箇所間を短絡する循環路が構成される。この循環路を介してボールが転動路内を無限循環することが可能となっている。
【0004】
減速機は、モータの出力軸に一体的に組み付けられた駆動プーリ、ナットに組み付けられた従動プーリ、及び各プーリに巻き掛けられた無端状のベルトを有している。
ラックパラレル型の電動パワーステアリング装置では、モータの出力軸が回転すると、その回転運動が駆動プーリ、ベルト、及び従動プーリを介してナットに伝達される。これにより、ナットがラックシャフトに対して相対回転し、ボールが転動路内を無限循環する。このボールの無限循環を通じてラックシャフトに軸方向のアシスト力が付与され、運転者のステアリング操作が補助される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4807655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置では、ナットの外周面に従動プーリが組み付けられることにより、ナットの外周面における連通溝の開口部分が閉塞されている。このような構造の場合、ナットの外周面に従動プーリを組み付けなければボールが連通溝からこぼれ落ちてしまう。そのため、例えば電動パワーステアリング装置の製造過程でボールねじ装置の品質を評価する際、ナットの外周面に従動プーリを装着する作業が必要となる。こうした作業が必要な分だけ製造工数が増加し、作業効率が悪化していた。
【0007】
なお、このような課題は、電動パワーステアリング装置に用いられるボールねじ装置に限らず、他の装置に用いられるボールねじ装置にも同様に生じ得る。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、品質評価の容易なボールねじ装置、及び同ボールねじ装置を用いた動力変換機構、電動パワーステアリング装置、並びにボールねじ装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するボールねじ装置は、外周面にねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に複数のボールを介して螺合される円筒状のナットと、を備え、前記ナットは、デフレクタがそれぞれ装着される対をなす取付孔と、同対をなす取付孔を連通するとともに前記ナットの外周面に開口し、且つ前記ボールが転動可能な連通溝と、を有し、前記連通溝の開口部の幅が、前記ボールの直径よりも短い。
【0009】
この構成によれば、連通溝の開口部からボールがこぼれ落ちないため、連通溝の開口部を閉塞せずとも、対をなす取付孔にそれぞれ装着されるデフレクタ間をボールが循環することができる。したがって、何らかの外装部材をナットの外周面に装着することなく、ボールねじ装置を駆動させることが可能となる。これにより、ナットの外周面に外装部材を装着する作業を行うことなくボールねじ装置の品質を評価することができるため、ボールねじ装置の品質評価が容易となる。また、作業者は連通溝の開口部からボールの循環状態を目視で確認することができるため、ボールねじ装置の品質評価が更に容易となる。
【0010】
上記ボールねじ装置について、前記連通溝は、前記ナットの外周面に開口部を有する断面C字状の溝からなることが好ましい。
この構成によれば、ボールの転動が可能であって、且つ開口部の幅がボールの直径よりも短い溝を容易に実現することができる。
【0011】
上記のボールねじ装置と、モータの出力軸の回転力を前記ナットに伝達する動力伝達部と、を備え、前記モータの出力軸の回転運動を前記動力伝達部及び前記ボールねじ装置を介して前記ねじ軸の軸方向の往復直線運動に変換する動力変換機構にあっては、前記動力伝達部の構成部材のうち、前記ナットの周囲に取り付けられる構成部材が前記連通溝の開口部を閉塞していることが好ましい。
【0012】
この構成のように、動力伝達部の構成部品により連通溝の開口部を閉塞すれば、ボールが連通溝内に完全に収まるため、連通溝内でボールがよりスムーズに転動し易くなる。
上記動力変換機構について、前記動力伝達部は、前記モータの出力軸に取り付けられる駆動プーリと、前記ナットの外周に取り付けられる従動プーリと、前記駆動プーリ及び前記従動プーリに巻き掛けられる無端状のベルトと、を有し、前記従動プーリの内周面が、前記連通溝の開口部を閉塞していることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、連通溝の開口部をより確実に閉塞することができる。
電動パワーステアリング装置としては、上記の動力変換機構を備え、前記ねじ軸として車両の転舵軸が用いられ、前記ボールねじ装置を介して前記転舵軸の軸方向に加わる力により車両の操舵機構にアシスト力を付与することが好ましい。
【0014】
上記のようなボールねじ装置を電動パワーステアリング装置に用いれば、電動パワーステアリング装置の製造過程でボールねじ装置の品質を評価する際、その作業を容易に行うことができる。結果的に、電動パワーステアリング装置の製造が容易となる。
【0015】
上記ボールねじ装置の製造方法としては、外周面にねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に複数のボールを介して螺合される円筒状のナットと、を備え、前記ナットは、デフレクタがそれぞれ装着される対をなす取付孔と、同対をなす取付孔を連通するとともに前記ナットの外周面に開口し、且つ前記ボールが転動可能な連通溝と、を有するボールねじ装置の製造方法であって、前記対をなす取付孔のいずれか一方にボールエンドミルの切削刃部を挿入した後、同ボールエンドミルの切削刃部を前記対をなす取付孔のいずれか他方に向けて移動させることにより前記ナットに前記連通溝を形成することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、上記のような連通溝をナットに容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、品質評価が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】電動パワーステアリング装置の一実施形態についてその概略構成を示す断面図。
図2】実施形態の電動パワーステアリング装置についてそのボールねじ装置及び減速機の断面構造を示す断面図。
図3】実施形態のボールねじ装置についてそのナットの分解斜視構造を示す斜視図。
図4】実施形態のナットについてその平面構造を示す平面図。
図5図4のA−A線に沿った断面構造を示す断面図。
図6】実施形態のナットについてその製造工程の一部を示す斜視図。
図7】実施形態のナットについてその製造工程の一部を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、ボールねじ装置を搭載した電動パワーステアリング装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、運転者のステアリングホイール2の操作に基づき転舵輪3を転舵させる操舵機構4、及び運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構5を備えている。
【0020】
操舵機構4は、ステアリングホイール2の回転軸となるステアリングシャフト40、及びステアリングシャフト40の下端部にラックアンドピニオン機構41を介して連結されたラックシャフト42を備えている。ラックシャフト42の両端には、ボールジョイント43を介してタイロッド44が回動自在にそれぞれ連結されている。各タイロッド44の先端には転舵輪3が連結されている。操舵機構4では、運転者のステアリングホイール2の操作に伴いステアリングシャフト40が回転すると、その回転運動がラックアンドピニオン機構41を介してラックシャフト42の軸方向の往復直線運動に変換される。このラックシャフト42の軸方向の往復直線運動がボールジョイント43を介してタイロッド44に伝達されることにより転舵輪3の転舵角が変化し、車両の進行方向が変更される。
【0021】
アシスト機構5はラックシャフト42に設けられている。アシスト機構5はモータ8と動力変換機構12とを備えている。動力変換機構12及びラックシャフト42はハウジング9により覆われている。モータ8は、ハウジング9の外壁にボルト10により固定されることにより、その出力軸80がラックシャフト42に対して平行となるように配置されている。モータ8の出力軸80は、ハウジング9に形成された貫通孔11を通じてハウジング9の内部に延びている。動力変換機構12は、ラックシャフト42をねじ軸とするボールねじ装置6と、モータ8の出力軸の回転運動をボールねじ装置6に伝達する動力伝達部としての減速機7とからなる。
【0022】
次に、図2を参照して動力変換機構12の構成について詳述する。
図2に示すように、ラックシャフト42の外周面には螺旋状のねじ溝45が形成されている。ボールねじ装置6は、ラックシャフト42のねじ溝45に複数のボール62を介して螺合された円筒状のナット60を備えている。ナット60の内周面には、ラックシャフト42のねじ溝に対向する螺旋状のねじ溝61が形成されている。このナット60のねじ溝61とラックシャフト42のねじ溝45とにより囲まれる螺旋状の空間によりボール62が転動する転動路R1が形成されている。
【0023】
図3に示すように、ナット60の軸方向の一端部にはフランジ部63が形成されている。また、ナット60には、その外周面64から内周面のねじ溝61に貫通する長孔状の一対の取付孔65,66が形成されている。一対の取付孔65,66は、ナット60のねじ溝45を複数列跨ぐようにナット60の軸方向に離間して配置されている。一対の取付孔65,66にはデフレクタ68がそれぞれ圧入されて装着される。また、ナット60の外周面64には、一対の取付孔65,66を連通する連通溝67が形成されている。図4及び図5に示すように、連通溝67は、ナット60の外周面64に開口部67aを有する断面C字状の溝からなる。図5に示すように、連通溝67の直径D2はボール62の直径D1よりも長い。また、連通溝67の開口部67aの幅Wは、ボール62の直径D1よりも短い。なお、本実施形態における開口部67aの幅Wとは、連通溝67の延伸方向(図4及び図5で軸線mで示す方向)に対して直交する方向における開口部67aの長さを示す。
【0024】
図2に示すように、各デフレクタ68には、転動路R1と連通溝67とを連結する貫通孔68aが形成されている。デフレクタ68は、転動路R1から掬い上げたボール62を貫通孔68aを介して連通溝67に導く機能、及び連通溝67内のボール62を貫通孔68aを介して転動路R1に排出する機能を有する。各デフレクタ68の貫通孔68a、及びナット60の連通溝67により、転動路R1の二箇所間を短絡する循環路R2が構成される。したがって、ボール62は循環路R2を介して転動路R1を無限循環することが可能となっている。
【0025】
減速機7は、ナット60の外周面に一体的に取り付けられる従動プーリ70、モータ8の出力軸80に一体的に取り付けられる駆動プーリ71、及び各プーリ70,71の外周に巻き掛けられる無端状のベルト72を備えている。
【0026】
従動プーリ70は円筒状に形成されており、そのベルト72が巻き掛けられる側の一端部内周面に雄ねじ孔73が形成されている。また、従動プーリ70の内周面には、雄ねじ孔73に連続するかたちで同雄ねじ孔73の内径よりも小さい内径を有する収容孔74が形成されている。この収容孔74には、雄ねじ孔73の開口部から挿入されたナット60が圧入されている。また、雄ねじ孔73には、外周面にねじ溝を有するロックナット75が螺着されている。ロックナット75と、雄ねじ孔73及び収容孔74の間に形成された段差面76との間でナット60のフランジ部63が挟み込まれることによりナット60が従動プーリ70に固定されている。また、従動プーリ70は、軸受77によりハウジング9に対して回転可能に支持されている。従動プーリ70の内周面はナット60の連通溝67の開口部67aを閉塞している。
【0027】
このような動力変換機構12からなるアシスト機構5では、モータ8への通電に基づきモータ8の出力軸80が回転すると、モータ8の出力軸80と一体となって駆動プーリ71が回転する。これにより、駆動プーリ71はベルト72を介して従動プーリ70及びナット60を一体的に回転させる。このとき、従動プーリ70及びナット60に付与されるトルクに基づいてボールねじ装置6が駆動する。すなわち、ボールねじ装置6では、従動プーリ70及びナット60がラックシャフト42に対して相対回転することにより、ボール62がナット60及びラックシャフト42から負荷(摩擦)を受けて転動路R1を無限循環する。このボール62の無限循環を通じてラックシャフト42がナット60に対して軸方向に相対移動する。すなわち、動力変換機構12は、モータ8の出力軸80の回転運動を減速機7及びボールねじ装置6を介してラックシャフト42の軸方向の往復直線運動に変換することで、ラックシャフト42に軸方向の力を付与する。このラックシャフト42に付与される軸方向の力がアシスト力として操舵機構4に付与され、運転者のステアリング操作が補助される。
【0028】
次に、ナット60の製造方法について説明する。
ナット60の製造の際には、まず、図6に示すように、ねじ溝61及びフランジ部63を有するナット60に一対の取付孔65,66を形成する。その後、ボールエンドミル91を用いることによりナット60の外周面に連通溝67を形成する。ボールエンドミル91は、先端が円錐台状に形成された軸部91aと、軸部91aの先端に設けられる切削刃部91bとを有している。切削刃部91bは、連通溝67の直径D2と略同じ外径を有している。なお、便宜上、切削刃部91bの刃の図示は省略している。連通溝67の形成の際には、ボールエンドミル91の切削刃部91bを一方の取付孔65に挿入した後、図7に示すように、ボールエンドミル91の切削刃部91bを他方の取付孔66に向かって移動させる。このとき、ボールエンドミル91の切削刃部91bにおける軸部91a側の端部でナット60の外周面を切削することにより、ナット60の外周面64に開口部67aを有する断面C字状の連通溝67を形成する。この連通溝67を他方の取付孔66まで形成することでナット60の製造が完了する。
【0029】
以上説明した電動パワーステアリング装置1、ボールねじ装置6、及び動力変換機構12によれば、以下の(1)〜(6)に示す作用及び効果を得ることができる。
(1)図5に示すように、ナット60に形成された連通溝67の開口部67aの幅Wがボール62の直径D1よりも短ければ、連通溝67の開口部67aからボール62がこぼれ落ちないため、連通溝67の開口部67aを閉塞せずとも、各デフレクタ68間をボール62が循環することができる。したがって、外装部材としての従動プーリ70をナット60の外周面64に装着することなくボールねじ装置6を駆動させることが可能となる。これにより、例えば電動パワーステアリング装置1の製造過程でボールねじ装置6の品質を評価する際、ナット60の外周面64に従動プーリ70を装着する作業を行うことなくボールねじ装置6の品質を評価することができるため、ボールねじ装置6の品質評価が容易となる。
【0030】
(2)連通溝67からのボール62のこぼれ落ちを防止する方法としては、例えばナット60の外径をより大きくして連通溝67の開口部67aを完全に閉塞してしまうという方法もある。しかしながら、連通溝67の開口部67aが完全に閉塞される程度までナット60の外径を大きくすると、その分だけボールねじ装置6が大型化してしまう。この点、本実施形態では、連通溝67の一部が開口する程度までナット60の外径を小さくすることができるため、ボールねじ装置6を小型化することができる。そのため、車両への搭載性を向上させることができる。
【0031】
(3)ボールねじ装置6の品質評価の際、作業者はナット60の連通溝67の開口部67aからボール62の循環状態を目視で確認することができる。そのため、ボールねじ装置6の品質評価が更に容易となる。
【0032】
(4)上記のようなボールねじ装置6を電動パワーステアリング装置1に用いることで、電動パワーステアリング装置1の製造過程でボールねじ装置6の品質を評価する際、その作業を容易に行うことができる。結果的に、電動パワーステアリング装置1の製造が容易となる。
【0033】
(5)従動プーリ70の内周面がナット60の連通溝67の開口部67aを閉塞すれば、ボール62が連通溝67内に完全に収まる。よって、連通溝67内でボール62がよりスムーズに転動し易くなる。
【0034】
(6)連通溝67を断面C字状に形成すれば、ボール62の転動が可能であって、且つ開口部67aの幅Wがボール62の直径D1よりも短い溝を容易に実現することができる。また、図7に示すように、ナット60への連通溝67の形成はボールエンドミル91による切削加工だけで可能であるため、上記のような連通溝67を有するナット60を容易に製造することができる。
【0035】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・連通溝67の形状は、断面C字状の溝形状に限らず、適宜変更可能である。要は、連通溝67は、ナット60の外周面64に開口するとともに、ボール62が転動可能であり、且つ開口部67aの幅Wがボール62の直径D2よりも短い溝形状であればよい。
【0036】
・上記実施形態では、一対の取付孔65,66を長孔状に形成したが、一対の取付孔65,66の形状は適宜変更可能である。また、取付孔65,66の形状に合わせて、デフレクタ68の形状を変更してもよい。
【0037】
・上記実施形態では、ナット60に一対の取付孔65,66を形成したが、ナット60に、対をなす取付孔を複数形成してもよい。
・上記実施形態では、モータ8からボールねじ装置6に動力を伝達する動力伝達部として、プーリ70,71及びベルト72からなるベルト伝達機構を採用したが、これに代えてチェーン伝達機構を採用してもよい。すなわち、従動プーリ70を従動スプロケットに、駆動プーリ71を駆動スプロケットに、ベルト72をローラーチェーンにそれぞれ置き換えてもよい。この場合、従動スプロケットによりナット60の連通溝67の開口部67aを閉塞する。要は、動力伝達部の構成部品のうち、ナット60の周囲に取り付けられる構成部品が連通溝67の開口部67aを閉塞していればよい。
【0038】
・上記実施形態のボールねじ装置6の構成は、電動パワーステアリング装置に限らず、例えばステアバイワイヤ型のステアリング装置など、各種ステアリング装置に搭載されるボールねじ装置にも適用可能である。また、ステアリング装置以外の装置に搭載されるボールねじ装置にも適用可能である。要は、外周面にねじ溝が形成されたねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に複数のボールを介して螺合される円筒状のナットとを備えるボールねじ装置であれば、上記実施形態のボールねじ装置6の構成を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…電動パワーステアリング装置、4…操舵機構、6…ボールねじ装置、7…減速機(動力伝達部)、8…モータ、12…動力変換機構、42…ラックシャフト(ねじ軸)、45…ねじ溝、60…ナット、62…ボール、64…外周面、65,66…取付孔、67…連通溝、67a…開口部、68…デフレクタ、70…従動プーリ、71…駆動プーリ、72…ベルト、80…出力軸、91…ボールエンドミル、91b…切削刃部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7