(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切削工具の外周面は、前記切削工具の端面から根元に向かって前記切削工具の回転方向に位相が捩れた工具径より小さい縮径部を有する形状に形成される、請求項1の切削装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の楕円振動切削装置では、切削工具の切れ刃の同一部分が被切削物と常に接触することになるので、切れ刃は摩耗し易く、工具寿命の大幅な向上は期待できない。このため、さらなる工具寿命の向上が求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、切削工具の工具寿命の更なる向上を図ることができる切削装置および切削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)本発明の切削装置は、切削工具を回転させて被切削物を切削する切削装置であって、前記切削工具は、外周面が
位相に応じて径方向の位置が変化して断続的に前記被切削物に切り込むすくい面に形成され、端面が逃げ面に形成され、前記切削装置は、前記切削工具を前記切削工具の軸線回りに回転させる回転手段と、
前記切削工具の回転軸線が、前記被切削物の切削面に対し垂直な状態から切削方向に所定角度傾斜した状態に設定する傾斜手段と、前記切削工具
を前記被切削物
に対し移動させ、前記切削工具の外周面を前記被切削物に切り込ませて前記被切削物を切削する移動手段と、を備える。
【0008】
本発明によると、切削工具の外周面は、回転しながら被切削物に対し断続的に切り込んでいくことになる。このため、切削工具の外周面の同一部分が、被切削物と常に接触することはなく、外周面における被切削物との接触部分は、切削工具の回転に伴って移り変わっていくので、外周面の摩耗を抑制できる。さらに、上記切削工具による切削は、切削工具の外周面を被切削物から定期的に離脱する振動切削に近い状態となる。このため、切削油が、切削工具の外周面と被切削物との切削点に供給され易くなるので、外周面の温度を低減できる。そして、切削工具の外周面は、被切削物との離脱時は被切削物と断熱されるため、外周面の温度をさらに低減できる。よって、切削工具の工具寿命は、大幅に向上できる。また、切削工具は、回転しながら加工するので、見掛けの刃先角を切削工具の実際の刃先角より鋭くすることができ、切削抵抗が低減される。
また、切削工具は、回転軸線を切削方向に所定角度傾斜させているので、切削に関与(寄与)していない逃げ面と被切削物との接触を回避でき、摩擦の影響を低減できる。
【0009】
(請求項2)また、前記切削工具の外周面は、軸線方向に同位相で延びている形状であって工具径より小さい縮径部を有する形状に形成されるとよい。
切削工具は、外周面に縮径部を設けているので、外周面を断続的に被切削物に切り込むすくい面とすることができる。
【0010】
(請求項3)また、前記切削工具の外周面は、前記切削工具の端面から根元に向かって前記切削工具の回転方向に位相が捩れた工具径より小さい縮径部を有する形状に形成されるとよい。
これにより、切削工具の外周面に供給される切削油には、切削工具の回転に伴って縮径部の内壁から切れ刃に向かって押し込む力が発生する。よって、大量の切削油が、縮径部を伝わって切削工具の切れ刃まで到達するので、加工点の温度の低減が可能となり、切削効率を高め、工具寿命を向上できる。
【0011】
(請求項4)また、前記縮径部の幅は、前記切削工具の端面に向かうに従って狭くするように形成されるとよい。
これにより、切削工具の外周面に供給される切削油は、縮径部内に容易に導入されて切削工具の切れ刃に確実に供給できるので、加工点の温度のさらなる低減が可能となり、切削効率をより高め、工具寿命をより向上できる。
【0012】
(請求項5)また、前記切削工具の外周面は、円錐状に形成されるとよい。
切削工具は、外周面を円錐状に形成しているので、すくい角の調整が容易となる。
【0013】
(請求項6)また、前記切削工具の縮径部は、前記外周面の軸直角断面の輪郭を複数の波形凹凸状とすることで形成されるとよい。
切削工具は、外周面の輪郭を複数の波形凹凸状にしているので、振動切削に近い断続的な切り込みを実現できる。また、凹凸の形状(数)により、切削工具一回転あたりの切り込み回数を適宜に設定できる。
【0014】
(請求項7)また、前記切削工具の縮径部は、前記外周面の軸直角断面を楕円状とすることで形成されるとよい。
切削工具は、外周面を楕円状にして縮径部を形成しているので、比較的低コストで切削工具を製作できる。
【0015】
(請求項8)また、前記切削工具の縮径部は、前記外周面に所定間隔をあけて複数の溝を設けることで形成されるとよい。
切削工具は、溝の形状(数)により、切削工具一回転あたりの切り込み回数を適宜に設定できる。
【0016】
(請求項16)また、前記切削工具は、偏心した軸線回りに回転可能に形成されるとよい。
切削工具は、回転軸を偏心させることで被切削物に対し断続的に切り込む外周面を形成しているので、比較的低コストで切削工具を製作できる。
【0017】
(請求項10)また、前記切削工具の外周面は、円錐状に形成されるとよい。
切削工具は、外周面を円錐状に形成しているので、すくい角の調整が容易となる。
(請求項11)また、前記切削装置は、
円筒状の前記被切削物を
中心軸線回りに回転させる回転主軸を備え、前記回転手段は、前記切削工具を前記切削工具の軸線回りに回転させ、前記傾斜手段は、前記切削工具の回転軸線が、前記被切削物の切削面に対し垂直な状態から前記被切削物の回転方向とは逆方向の切削方向に所定角度傾斜した状態に設定し、前記移動手段は、前記切削工具および前記被切削物を相対移動させ、前記切削工具の外周面を前記被切削物の外周面に切り込ませて前記被切削物の外周面を切削するとよい。
切削油は、切削工具の切れ刃に入り込み易くなるので、切削工具の切れ刃の温度上昇を抑えられる。また、切削工具の切れ刃のすくい角は鋭くできるので、切削工具の切れ刃に対する切削抵抗力を抑えられる。
【0018】
(請求項12)また、前記切削工具の端面の中心には、流体を吐出可能な吐出孔が設けられ、前記切削工具の端面には、前記吐出孔から径方向に放射状に外周縁まで延びる溝が形成されるとよい。
これにより、切削工具の吐出孔から吐出されて端面に供給される切削油は、切削工具の回転に伴って溝を伝わって切削工具の切れ刃まで到達するので、加工点の温度の低減が可能となり、切削効率を高め、工具寿命を向上できる。
【0019】
(請求項13)前記溝は、前記吐出孔から外周に向かって前記切削工具の回転方向とは逆方向に捩れて形成されるとよい。
これにより、切削工具の吐出孔から吐出されて端面に供給される切削油には、切削工具の回転に伴って溝の内壁から切れ刃に向かって押し込む力が発生する。よって、大量の切削油が、溝を伝わって切削工具の切れ刃まで到達するので、加工点の温度の低減が可能となり、切削効率を高め、工具寿命を向上できる。
【0020】
(請求項14)本発明の切削方法は、外周面が
位相に応じて径方向の位置が変化して断続的に被切削物に切り込むすくい面に形成され、端面が逃げ面に形成された切削工具を回転させて前記被切削物を切削する切削方法であって、前記切削工具を前記切削工具の軸線回りに回転させる工程と、
前記切削工具の回転軸線が、前記被切削物の切削面に対し垂直な状態から切削方向に所定角度傾斜した状態に設定する工程と、前記切削工具
を前記被切削物
に対し移動させ、前記切削工具の外周面を前記被切削物に切り込ませて前記被切削物を切削する移動工程と、を備える。
本発明の切削方法によれば、上述した切削装置における効果と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(切削装置の機械構成)
図1に示すように、切削装置1は、主軸台10と、ベッド20と、心押し台30と、往復台40と、送り台50と、チルト台60と、刃物台70と、制御装置80等とから構成される。なお、以下の説明では、主軸台10に設けられている回転主軸11の軸線方向をZ軸方向、回転主軸11の軸線方向と水平面内で直交する方向をX軸方向と称する。
【0023】
主軸台10は、直方体状に形成され、床上に設置される。主軸台10には、回転主軸11が回転可能に設けられる。回転主軸11には、一端側に被切削物Wの一端側の周面を把持可能な爪12aを備えたチャック12が取り付けられる。回転主軸11は、主軸台10内に収容された主軸モータ13により回転駆動される。
【0024】
ベッド20は、直方体状に形成され、回転主軸11の下方において主軸台10からZ軸方向に延びるように床上に設置される。ベッド20の上面には、心押し台30および往復台40が摺動可能な一対のZ軸ガイドレール21a,21bが、Z軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に設けられる。さらに、ベッド20には、一対のZ軸ガイドレール21a,21bの間に、往復台40をZ軸方向に駆動するための、図略のZ軸ボールねじが配置され、このZ軸ボールねじを回転駆動するZ軸モータ22が配置される。
【0025】
心押し台30は、ベッド20に対してZ軸方向に移動可能なように、一対のZ軸ガイドレール21a,21b上に設けられる。心押し台30には、チャック12に把持された被切削物Wの自由端面を支持可能なセンタ31が設けられる。すなわち、センタ31は、センタ31の軸線が回転主軸11の軸線と一致するように心押し台30に設けられる。
【0026】
往復台40は、矩形板状に形成され、ベッド20に対してZ軸方向に移動可能なように、一対のZ軸ガイドレール21a,21b上の主軸台10と心押し台30との間に設けられる。往復台40の上面には、送り台50が摺動可能な一対のX軸ガイドレール41a,41bが、X軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に設けられる。さらに、往復台40には、一対のX軸ガイドレール41a,41bの間に、送り台50をX軸方向に駆動するための、図略のX軸ボールねじが配置され、このX軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ42が配置される。
【0027】
送り台50は、矩形板状に形成され、往復台40に対してX軸方向に移動可能なように、一対のX軸ガイドレール41a,41b上に設けられる。送り台50の上面には、チルト台60を支持する一対のチルト台支持部61がZ軸方向に所定間隔をあけて配置される。
【0028】
チルト台60は、クレードル状に形成され、送り台50に対してZ軸線回りに回転(揺動)可能なように、一対のチルト台支持部61に支持される。チルト台60の上面には、刃物台70が配置される。一方のチルト台支持部61には、チルト台60をZ軸線回りに回転(揺動)駆動するチルトモータ62が配置される。
【0029】
刃物台70には、工具ホルダ71がX軸線回りに回転可能に設けられる。そして、刃物台70には、工具ホルダ71をX軸線回りに回転駆動する工具用モータ72が配置される。工具ホルダ71には、後述する切削工具90A(90B)がチャッキングされる。また、刃物台70には、切削工具90A(90B)を冷却するための切削油を供給する図略の切削油供給装置と繋がる供給ノズル73が備えられる。
【0030】
制御装置80は、主軸回転制御部81と、往復台移動制御部82と、送り台移動制御部83と、チルト制御部84と、工具回転制御部85とを備える。ここで、各部81〜85は、それぞれ個別のハードウエアによる構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0031】
主軸回転制御部81は、主軸モータ13を制御して回転主軸11を所定の回転数で回転駆動させる。
往復台移動制御部82は、Z軸モータ22を制御して往復台40を一対のZ軸ガイドレール21a,21bに沿って往復移動させる。
【0032】
送り台移動制御部83は、X軸モータ42を制御して送り台50を一対のX軸ガイドレール41a,41bに沿って往復移動させる。
チルト制御部84は、チルトモータ62を制御してチルト台60をZ軸線回りに回転(揺動)駆動させる。
工具回転制御部85は、工具用モータ72を制御して切削工具90A(90B)を工具ホルダ71とともに回転駆動させる。
【0033】
制御装置80は、チルトモータ62を制御して切削工具90A(90B)を所定角度に傾斜させ、主軸モータ13および工具用モータ72を制御して、被切削物Wを回転させるとともに切削工具90A(90B)を回転させ、X軸モータ42およびZ軸モータ22を制御して、被切削物Wと切削工具90A(90B)とをX軸方向およびZ軸方向に相対移動することにより、切削工具90A(90B)の外周面を被切削物Wに断続的に切り込ませて被切削物Wの切削加工を行う。
【0034】
なお、刃物台70、工具ホルダ71、工具用モータ72および工具回転制御部85等が、本発明の「回転手段」に相当し、往復台40、Z軸ガイドレール21a,21b、Z軸モータ22、送り台50、X軸ガイドレール41a,41b、X軸モータ42、往復台移動制御部82および送り台移動制御部83等が、本発明の「移動手段」に相当し、チルト台60、チルト台支持部61、チルトモータ62およびチルト制御部84等が、本発明の「傾斜手段」に相当する。
【0035】
(第一実施形態の切削工具の形状)
第一実施形態の切削工具90Aの外周面は、略円錐状に形成され、断続的に被切削物Wに切り込むすくい面に形成される。すなわち、切削工具90Aの外周面は、軸線方向に同位相で延びている形状、すなわち略円形の軸直角断面を軸線方向に連続させた形状であって工具径より小さい縮径部を有する形状に形成される。なお、本実施形態での工具径は、切削工具90Aの外周面の軸直角断面における最大径である。以下に、具体的な切削工具90の形状例を
図2から
図5を参照して説明する。
【0036】
図2A及び
図2Bの第一例に示すように、切削工具90Aは、略円錐台状の工具本体91Aと、工具本体91Aの根元側の小径端面91avから延びる円柱状の工具軸92とで構成される。工具本体91Aの外周面91bvは、すくい面として形成され、工具本体91Aの大径端面91cv(本発明の「端面」に相当)は、逃げ面として形成される。そして、工具本体91Aの外周面91bvと大径端面91cvとのなす稜線91rvは、切れ刃として形成される。刃先角βは、切れ刃の強度を保持するため、45度以下、好ましくは0度から10度で形成される。
【0037】
そして、稜線(切れ刃)91rvは、外周面91bvの軸直角断面の輪郭を複数の波形凹凸状とすることで形成される。つまり、稜線(切れ刃)91rvは、二点鎖線で示す工具径Dvの円周mvに沿って正弦波状の波形を形成した形状、すなわち最大径がDvの6つの円弧状部分911rvと、最小径がdvの6つの円弧状部分912rvとが交互に出現する複数の花弁状に形成される。稜線(切れ刃)91rvのうち円弧状部分912rvを含む付近(破線の範囲を含む付近)が縮径部Saとなる。そして、外周面91bvは、大径端面91cvから小径端面91avに向かって花弁状の稜線(切れ刃)91rvを相似形で徐々に小さくした形状に形成される。これにより、外周面91bvは、切削工具90Aが回転するとき、縮径部Saと異なる箇所が断続的に被切削物Wに切り込むすくい面となる。
【0038】
また、
図3の第二例に示すように、稜線(切れ刃)91rwは、長径を工具径Dw、短径を工具径Dwより小さい径dwとした楕円状に形成される。稜線(切れ刃)91rwのうち短径の部分911rwを含む付近(破線の範囲を含む付近)が縮径部Sbとなる。そして、外周面91bwは、大径端面91cwから小径端面91awに向かって楕円状の稜線(切れ刃)91rwを相似形で徐々に小さくした形状に形成される。これにより、外周面91bwは、切削工具90Aが回転するとき、縮径部Sbと異なる箇所が断続的に被切削物Wに切り込むすくい面となる。
【0039】
また、
図4の第三例に示すように、稜線(切れ刃)91rxは、二点鎖線で示す工具径Dxの円周mxにおいて所定間隔eをあけて複数の溝911rxを設けた歯車状に形成される。稜線(切れ刃)91rxのうち溝911rxを含む付近(破線の範囲を含む付近)が縮径部Scとなる。そして、外周面91bxは、大径端面91cxから小径端面91axに向かって歯車状の稜線(切れ刃)91rxを相似形で徐々に小さくした形状に形成される。これにより、外周面91bxは、切削工具90Aが回転するとき、縮径部Scと異なる箇所が断続的に被切削物Wに切り込むすくい面となる。
【0040】
また、
図5A及び
図5Bの第四例に示すように、稜線(切れ刃)91ryは、二点鎖線で示す工具径Dyの円周myと略同一の円形状に形成されるが、工具軸92の中心軸線Cyが、工具本体91Aの中心軸線Cと距離fだけ偏心するように、工具軸92が工具本体91Aに設けられる。大径端面91cyと小径端面91ayとのなす稜線(切れ刃)91ryのうち工具軸92の中心軸線Cyに近い部分911ryを含む付近(破線の範囲を含む付近)が縮径部Sdとなる。これにより、外周面91byは、切削工具90Aが回転するとき、縮径部Sdと異なる箇所が断続的に被切削物Wに切り込むすくい面となる。
【0041】
(第一実施形態の切削工具を用いた切削方法)
次に、
図2A及び
図2Bに示す切削工具90Aを用いた切削方法について説明する。なお、ここでは説明の便宜上、平板状の被切削物Wの平坦面を当該面に平行な切削方向に切削する場合について説明する。
図6に示すように、先ず、切削工具90Aの回転軸線Rcが、被切削物Wの切削面(平坦面)Wpに対し垂直な状態から切削方向Gに所定角度θ傾斜した状態になるようにセットする。次に、切削工具90Aを回転軸線Rc回りで回転させ、切削方向Gに移動させる。
【0042】
これにより、切削工具90Aの外周面91bvは、回転しながら被切削物Wに対し断続的に切り込んでいくことになる。このため、切削工具90Aの外周面91bvの同一部分が被切削物Wと常に接触することはなく、外周面91bvにおける被切削物Wとの接触部分は切削工具90Aの回転に伴って移り変わっていくので、外周面91bvの摩耗を抑制できる。さらに、切削工具90Aによる切削は、切削工具90Aの外周面91bvを被切削物Wから定期的に離脱する振動切削に近い状態となる。このため、切削工具90Aの外周面91bv、特に切れ刃91rvと被切削物Wとの切削点に切削油が供給され易くなるので、切れ刃91rvの温度を低減できる。そして、切れ刃91rvは、被切削物Wとの離脱時は被切削物Wからの熱伝達が抑制されるため、切れ刃91rvの温度をさらに低減できる。よって、切削工具90Aの工具寿命を大幅に向上できる。
【0043】
また、切削工具90Aのすくい角α、すなわち切削工具90Aの外周面91bvを切削方向Gと直角な方向から見たときの傾斜線Bvと、被切削物Wの切削面Wpに対し垂直な線Vとのなす見掛けの刃先角が本来の刃先角βよりも鋭くなるので、切削抵抗力を低減できる。この切削抵抗力の低減により切れ刃91rvの温度を低減できるので、切削工具90Aの工具寿命のさらなる向上を図れる。また、切削工具90Aの回転軸線Rcを切削方向Gに所定角度θ傾斜させているので、大径端面91cvと被切削物Wとの接触を防止できる。
【0044】
なお、すくい角αは、大きい程、切削抵抗力が小さくなる。また、傾斜角θは、0度より大きく、45度以下となるようにする。傾斜角θが0度のときは、切削工具90Aの大径端面91cvが被切削物Wと擦れて発熱するため好ましくないためである。一方、傾斜角θが45度より大きいと、すくい角αを0度としたとき、実際の刃先角βが45度以下となって切れ刃の強度を保持することが困難となるからである。
以上より、切削工具90Aによれば、切れ刃91rvの温度が問題となる難切削材の切削において、より高能率な切削が可能となる。
【0045】
次に、
図2A及び
図2Bに示す切削工具90Aを用いた切削方法と、この切削方法に比較的近いロータリー工具およびフライス工具をそれぞれ用いた切削方法の相違点について説明する。なお、ここでは説明の便宜上、円筒状の被切削物Wの外周面を周方向に切削する場合について説明する。
【0046】
図7A及び
図7Bに示すように、ロータリー工具100は、円錐台状の工具本体101と、工具本体101の小径端面101aから延びる円柱状の工具軸102とで構成される。工具本体101の大径端面101bの周縁部分には、連続した円形状の切れ刃101cが形成される。
【0047】
このロータリー工具100を用いた切削方法では、ロータリー工具100を図示矢印raで示す方向に回転させ、被切削物Wを図示矢印rwで示す方向に回転させる。そして、ロータリー工具100の回転軸線Caを、被切削物Wの回転軸線Cwと直角であって被切削物Wの外周面の切削点Paを通る接線Lwに対し平行にする。この状態で、ロータリー工具100の切れ刃101cを被切削物Wの外周面の切削点Paに切り込ませ、被切削物Wの外周面を周方向に切削する。
【0048】
この切削中、ロータリー工具100は切削点Paにおいて受ける切削抵抗力により僅かに振動するが、その振動方向vaは被切削物Wの回転軸線Cwと直角であって切削点Paを通る方向、すなわち切削方向aaに対し直交する方向である。よって、ロータリー工具100の切れ刃100cは、振動によって被切削物Wの外周面から径方向に周期的に離脱することになるので、被切削物Wの外周面の面粗さが悪化する傾向にある。
【0049】
一方、
図8A及び
図8Bに示すように、切削工具90Aを用いた切削方法では、切削工具90Aを図示矢印rcで示す方向に回転させ、被切削物Wを図示矢印rwで示す方向に回転させる。そして、切削工具90Aの回転軸線Rcを切削方向acに所定角度θ傾斜させる。具体的には、被切削物Wの回転軸線Cwと直角であって被切削物Wの外周面の切削点Pcを通る直線Lcを、回転軸線Cwを中心に切削方向acに所定角度θ傾斜させ、得られる直線Lccと平行になるように、切削工具90Aの回転軸線Rcを傾斜させる。この状態で、切削工具90Aの切れ刃91rvを被切削物Wの外周面の切削点Pcに切り込ませ、被切削物Wの外周面を周方向に切削する。
【0050】
この切削中、切削工具90Aは切削点Pcにおいて受ける切削抵抗力により僅かに振動するが、その振動方向vcは被切削物Wの回転軸線Cwと直角であって切削点Pcを通る接線Lwの方向に対し切削工具90Aの傾斜方向に角度θ傾斜した方向、すなわち切削方向acに対し(180−θ)度回転させた方向である。よって、切削工具90Aの切れ刃91rvは、振動によって被切削物Wの外周面から径方向に周期的に離脱する量が少ないので、被切削物Wの外周面の面粗さを高精度に切削できる。以上のように、切削工具90Aによる切削は、ロータリー工具100による切削とは異なるものである。
【0051】
また、
図9A及び
図9Bに示すように、フライス工具110は、円筒状の工具本体111の外周に等角度間隔で外周面から径方向に突出するように複数の切れ刃112が形成される。
このフライス工具110を用いた切削方法では、フライス工具110を図示矢印rbで示す方向に回転させ、被切削物Wを図示矢印rwで示す方向に回転させる。そして、フライス工具110の回転軸線Cbを、被切削物Wの回転軸線Cwと直角であって被切削物Wの外周面の切削点Pbを通る直線Lbに対し平行にする。この状態で、フライス工具110の切れ刃112を被切削物Wの外周面の切削点Pbに切り込ませ、被切削物Wの外周面を周方向に切削する。
【0052】
この切削においてフライス工具110の切れ刃112は、
図9Bの点線Kbで示すように、被切削物Wの外周面を切り込んでいくので、
図9Aに示すように、切り屑Wbは被切削物Wの外周面に沿うように発生する。なお、
図9Bでは切り屑Wbを省略して示す。そして、この切り込み中は切れ刃112の同一部分が被切削物Wの外周面と常に接触している。
【0053】
一方、切削工具90Aの切れ刃91rvは、
図10Bの点線Kcで示すように、被切削物Wの外周面を切り込んでいくので、
図10Aに示すように、切り屑Wcは被切削物Wの外周面から径方向に立ち上がるように発生する。なお、
図10Bでは切り屑Wcを省略して示す。そして、この切り込み中は切れ刃91rvの同一部分が被切削物Wの外周面と常に接触するのではなく、接触部分が移り変わっていく。
【0054】
よって、切削油は、フライス工具110の切れ刃112よりも切削工具90Aの切れ刃91rvに入り込み易くなるので、フライス工具110の切れ刃112の温度上昇よりも切削工具90Aの切れ刃91rvの温度上昇を抑えられる。また、切削工具90Aの切れ刃91rvのすくい角αは、フライス工具110の切れ刃112のすくい角γ(
図9B参照)よりも鋭くできるので、フライス工具110の切れ刃112に対する切削抵抗力よりも切削工具90Aの切れ刃91rvに対する切削抵抗力を抑えられる。以上のように、切削工具90Aによる切削は、フライス工具110による切削とは異なるものである。
なお、
図7A〜
図10Bでは、円筒状の被切削物Wの外周面を周方向に切削する場合、すなわちX(プランジ)方向送りでの加工について説明したが、Z(トラバース)方向送りでの加工も同様である。
【0055】
(第一実施形態の切削工具の別形態)
上述の第一実施形態では、切削工具90Aの工具本体91Aを略円錐台状に形成したが、
図11に示すように、工具本体121を略逆円錐台状に形成した切削工具120としても同様の効果を得られる。この場合、
図6に示す切削工具90のすくい角αを正としたとき、
図11に示す切削工具120のすくい角δは負となる。よって、切削工具120のすくい角δを鋭くするためには、被切削物Wの切削面Wpに対する切削工具120の外周面121bvとのなす角φを可能な限り大きくし、且つ、切削工具120の回転軸線Rdの傾斜角θを可能な限り小さくする。
【0056】
また、切削工具90Aでは、回転軸線Rcの傾斜角θが0度のときは、切削工具90の大径端面91cvが被切削物Wと擦れて発熱するため好ましくない。しかし、
図12に示すように、切削工具130の大径端面131cvを小径端面131av側に凹ました凹形状、例えば球面状の一部もしくは円錐台形状等に形成する。これにより、大径端面131cvと被切削物Wとの擦れを防止できるので、切削工具130の回転軸線Reの傾斜角θを0度としても切削可能となる。
なお、
図11及び
図12に示す切削工具120,130の形状は、
図2A及び
図2Bに示す第一例に適用する場合について説明したが、
図3〜
図5Bに示す第二例から第四例に適用することも可能である。
【0057】
(第二実施形態の切削工具の形状)
第二実施形態の切削工具90Bの外周面は、第一実施形態の切削工具90Aと同様に、略円錐状に形成され、断続的に被切削物Wに切り込むすくい面に形成されるが、さらに切削工具90Bの外周面には、切削油を加工点に導入するための縮径部Seが形成される。すなわち、切削工具90Bの外周面は、切削工具90Bの端面から根元に向かって切削工具90Bの回転方向に捩れる工具径より小さい縮径部を有する形状に形成することにより、外周面に供給される切削油を外周面から加工点に導入できる。以下に、具体的な切削工具90Bの形状例を
図2に対応させて示す
図13、
図14を参照して説明する。なお、
図2の切削工具90Aと同一構成部材は、同一番号、同一符号を付してそれらの詳細な説明を省略する。
【0058】
図13A及び
図13Bの第一例に示すように、切削工具90Bの工具本体91Bの外周面91bvは、工具本体91Bの大径端面91cv(本発明の「端面」に相当)から根元側の小径端面91avに向かって切削工具90Bの図示矢印aの回転方向に捩れる縮径部Seを有する形状に形成される。これにより、工具本体91Bの外周面91bvに供給される切削油Sには、切削工具90Bの回転に伴って縮径部Seの内壁から切れ刃91rvに向かって押し込む力が発生する。よって、図示矢印で示すように、大量の切削油Sが、縮径部Seを伝わって切れ刃91rvに到達するので、加工点の温度の低減が可能となり、切削効率を高め、工具寿命を向上できる。
【0059】
また、
図14の第二例に示すように、切削工具90Bの工具本体91Bの外周面91bvは、工具本体91Bの大径端面91cv(本発明の「端面」に相当)から根元側の小径端面91avに向かって切削工具90Bの図示矢印aの回転方向に捩れ、さらに工具本体91Bの大径端面91cvに向かうに従って幅がbaからbbまで徐徐に狭くなる縮径部Sfを有する形状に形成される。これにより、工具本体91Bの外周面91bvに供給される切削油Sは、図示矢印で示すように、縮径部Sf内に容易に導入されて切削工具90Bの切れ刃91rvに確実に供給できるので、加工点の温度のさらなる低減が可能となり、切削効率をより高め、工具寿命をより向上できる。
なお、
図13A、
図13B及び
図14に示す切削工具90Bの各形状は、
図2A及び
図2Bに示す第一例に適用する場合について説明したが、
図3〜
図5Bに示す第二例から第四例及び
図11及び
図12に示す別形態の第一例及び第二例に適用することも可能である。
【0060】
(第二実施形態の切削工具の別形態)
上述の第二実施形態では、切削工具90Bの工具本体91Bの外周面91bvに捩れる縮径部Se,Sfを形成したが、
図15A及び
図15Bに示すように、工具本体141の大径端面141cvの中心に、軸線方向に延びて切削油供給装置に連通する吐出孔142を設け、工具本体141の大径端面141cvに、吐出孔142において周方向に所定間隔をあけて吐出孔142から径方向に放射状に切れ刃141rvのうち円弧状部分1412rvまで延び、大径端面141cv側から見て切削工具140の図示矢印aの回転方向とは逆方向に捩れる複数本の溝143を形成するようにしてもよい。
【0061】
これにより、切削工具140の吐出孔142から吐出されて大径端面141cvに供給される切削油Sには、図示矢印で示すように、切削工具140の回転に伴って溝143の内壁から切れ刃141rvに向かって押し込む力が発生する。よって、大量の切削油が、各溝143を伝わって切削工具140の切れ刃141rvまで到達するので、加工点の温度の低減が可能となり、切削効率を高め、工具寿命を向上できる。なお、
図15Bにおいては、便宜上、切削油Sの経路は1本のみ示す。各溝143の形状は、径方向に延びる直線状に形成してもよい。
【0062】
また、
図16A及び
図16Bに示すように、工具本体151の中心に、大径端面151cvに至る途中まで軸線方向に延びて切削油供給装置に連通する導入孔152を設け、この導入孔152の閉塞端面側の内周に、周方向に所定間隔をあけて径方向に放射状に切れ刃151rvのうち円弧状部分1512rvまで延びる複数本の供給孔153を形成するようにしてもよい。
【0063】
これにより、切削工具150の導入孔152に導入される切削油Sは、図示矢印で示すように、切削工具150の回転に伴って各供給孔153を通って切削工具150の切れ刃151rvまで到達するので、加工点の温度の低減が可能となり、切削効率を高め、工具寿命を向上できる。なお、
図16Bにおいては、便宜上、切削油Sの経路は1本のみ示す。
なお、
図15A、
図15B、
図16A及び
図16Bに示す切削工具140,150の形状は、
図2A及び
図2Bに示す第一例に適用する場合について説明したが、
図3〜
図5Bに示す第二例から第四例及び
図11及び
図12に示す別形態の第一例及び第二例に適用することも可能である。