(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ジョイスティックによる操作部材の移動制御が位置制御から速度制御に切り替わる際に、前記ジョイスティックが、前記中立位置を含む当該中立位置周りの所定の第2の操作領域に入り、その後前記第2の操作領域の外側に出た時点で、速度制御を開始する、請求項1〜4のいずれかに記載のマニピュレータシステム。
【背景技術】
【0002】
例えば細胞を操作する作業や微細な異物を取り除く作業などの微細なものを取り扱う作業には、従来よりマニピュレータシステムが用いられている(特許文献1参照)。このマニピュレータシステムは、ジョイスティックを中立位置から傾斜させ、それに応じて針やキャピラリなどの操作部材を移動制御するものである。
【0003】
上述のマニピュレータシステムには、ジョイスティックによる操作部材の操作性を上げるため、ジョイスティックの傾き角度に応じた速度で操作部材を動かす速度制御と、ジョイスティックの傾き角度に応じた位置に操作部材を動かす位置制御とに切り替え可能になっているものがある。この種のマニピュレータシステムでは、オペレータは適宜速度制御と位置制御を切り替えて操作部材を操作している。一般的に速度制御は、操作部材を大きく動かす際に便利であり、位置制御は、操作部材を小さく動かす際に便利である。
【0004】
ところで、速度制御を位置制御に切り替える際に、例えばボタン等による入力信号により直ちに切り替わると、その状態から位置制御が開始されることになる。例えばこのときにジョイスティックが大きく傾いていると、その後ジョイスティックをその傾いた方向に動かすことができる物理的な可動量が少なくなってしまう(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、速度制御から位置制御に切り替える際に、ジョイスティックを一旦中立位置に戻してから位置制御を開始することを考えている。
【0007】
しかしながら、単純に、ジョイスティックを中立位置に戻してから位置制御を開始しようとすると、オペレータが中立位置を探るのに時間を要することがあり、作業効率上好ましくない。
【0008】
本出願はかかる点に鑑みてなされたものであり、速度制御から位置制御に切り替えた際にジョイスティックをどの方向にも十分量動かすことができ、なおかつ作業効率も向上できるマニピュレータシステムを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明には、ジョイスティックを中立位置から移動させて、それに応じて操作部材を移動制御するマニピュレータシステムであって、前記ジョイスティックによる操作部材の移動制御が速度制御から位置制御に切り替わる際に、前記ジョイスティックが、前記中立位置を含む当該中立位置周りの所定の第1の操作領域に入った時点で、位置制御を開始するように構成され
、前記位置制御を開始した、前記ジョイスティックが前記第1の操作領域に入った時の位置を制御上の原点とする、マニピュレータシステムが含まれる。
【0011】
前記制御上の原点を前記ジョイスティックの中立位置に補正するようにしてもよい。
【0012】
前記制御上の原点の補正を、前記位置制御の開始後前記ジョイスティックが最初に停止した後に行うようにしてもよい。
【0013】
本発明には、ジョイスティックを中立位置から移動させて、それに応じて操作部材を移動制御するマニピュレータシステムであって、前記ジョイスティックによる操作部材の移動制御が速度制御から位置制御に切り替わる際に、前記ジョイスティックが、前記中立位置を含む当該中立位置周りの所定の第1の操作領域に入った時点で、位置制御を開始するように構成され、前記ジョイスティックによる操作部材の移動制御が速度制御から位置制御に切り替わる際に、前記ジョイスティックが前記第1の操作領域内にある場合には、位置制御を直ちに開始
し、前記ジョイスティックが前記第1の操作領域内にあり前記位置制御を直ちに開始した時の位置を制御上の原点とする、マニピュレータシステムが含まれる。
【0015】
前記ジョイスティックによる操作部材の移動制御が位置制御から速度制御に切り替わる際に、前記ジョイスティックが、前記中立位置を含む当該中立位置周りの所定の第2の操作領域に入り、その後前記第2の操作領域の外側に出た時点で、速度制御を開始するようにしてもよい。
【0016】
前記速度制御は、前記ジョイスティックが前記第2の操作領域の外側にあるときに有効になるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、速度制御から位置制御に切り替わった際にジョイスティックをすべての方向に十分量動かすことができ、なおかつ作業効率も向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態の一例について説明する。なお、図面の上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0020】
図1は、本実施の形態に係るマニピュレータシステム1の構成の概略を示す説明図である。マニピュレータシステム1は、例えば一対のマニピュレータ10、11と、顕微鏡ユニット12と、ジョイスティック13、14と、表示装置15と、コントローラ(制御装置)16と、作業台(図示せず)等を備えている。
【0021】
マニピュレータ10は、例えば先端の操作部材としての管状或いは針状のキャピラリ20と、キャピラリ20を保持するピペット21と、ピペット21をZ軸方向に移動させるためのZ軸テーブル22と、ピペット21をX−Y軸方向に移動させるためのX−Y軸テーブル23を備えている。
【0022】
Z軸テーブル22は、Z軸駆動装置30によりピペット21の先端のキャピラリ20を上下動できる。また、X−Y軸テーブル23は、X−Y軸駆動装置31によりピペット21の先端のキャピラリ20をX方向及びY方向に移動できる。また、ピペット21とZ軸テーブル22との間には、圧電アクチュエータが設けられており、ピペット21をZ軸テーブル22に対し、前後(ピペット21の軸方向)に微動させることができる。
【0023】
マニピュレータ11は、マニピュレータ10と同様に、キャピラリ40、ピペット41、Z軸テーブル42、X−Y軸テーブル43、Z軸駆動装置44、X−Y軸駆動装置45等を備えている。マニピュレータ10は、例えばキャピラリ20によって被作業物を保持するために用いられ、マニュピュレータ11は、例えばキャピラリ40によって被作業物を作業するために用いられる。
【0024】
顕微鏡ユニット12は、例えば撮像手段としてのカメラ50と、顕微鏡51を備えている。これにより、作業台上の被作業物を撮影したり拡大して見ることができる。なお、顕微鏡ユニット12に、被作業物に光を照射する光源を設けてもよい。
【0025】
ジョイスティック13、14は、
図2に示す中立位置Pから任意の方向に傾け可能なハンドル60を備えている。ハンドル60には、キャピラリ20、40の速度制御と位置制御とを切り替えるための切り替え手段としてのボタン61が設けられている。ボタン61を押したときに速度制御となり、ボタン61を離したときに位置制御となる。また、ジョイスティック13、14は、マニピュレータシステム1の上記各種駆動装置や各種機能を実行するための多数のボタン(図示せず)を備えている。ジョイスティック13、14は、例えば角度センサを有しており、ハンドル60の傾き角度を検出し、後述のコントローラ16に出力できる。ジョイスティック13は、例えばマニピュレータ10側を操作し、ジョイスティック14はマニピュレータ11側を操作する。
【0026】
表示装置15は、例えばタッチパネルなどのタブレットPCや液晶ディスプレイであり、カメラ50で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面を表示できる。表示装置15には、速度制御と位置制御の切り替え情報等を表示してもよい。
【0027】
作業台は、マニピュレータ10、11の中央に設けられ、例えば被作業物が収容されたシャーレ70などを固定できる。
【0028】
コントローラ16は、例えばCPUやメモリなどを備えたコンピュータであり、所定プログラムに基づいて各種制御を実行できる。
図3は、コントローラ16に対する信号の出入りを示すブロック図である。コントローラ16は、例えばジョイスティック13、14、表示装置15及びカメラ50から出力された信号を受信でき、また、マニピュレータ10、11等に対し駆動信号等を出力できる。
【0029】
より具体的にはコントローラ16は、以下の制御を実行する。コントローラ16は、ジョイスティック13、14を中立位置Pから移動させて、それ応じて操作部材であるキャピラリ20、40を移動制御する。
図4に示すように制御が開始されると、ジョイスティック13、14のボタン61が押されているか否か、すなわちボタン61が押されたときの信号が出力されているか否か確認される。
【0030】
ボタン61が押されている場合には、速度制御モードとなり、ボタン61が押されていない場合には、位置制御モードとなる。
【0031】
例えば速度制御モードでは、オペレータがジョイスティック13、14を傾けた大きさ(角度)に応じた速度でキャピラリ20、40が移動する。すなわち、ジョイスティック13、14を大きく傾けると、その傾けた方向に大きな速度でキャピラリ20、40が移動し、ジョイスティック13、14を小さく傾けると、その傾けた方向に小さな速度でキャピラリ20、40が移動する。ジョイスティック13、14の傾きを戻すと、キャピラリ20、40の移動が停止する。
【0032】
位置制御モードでは、オペレータがジョイスティック13、14を傾けた大きさ(角度)に応じた位置にキャピラリ20、40が移動する。すなわち、ジョイスティック13、14を傾けた量に応じて、キャピラリ20、40が移動して停止する。
【0033】
また、コントローラ16は、速度制御モードから位置制御モードに切り替わる際と、位置制御モードから速度制御モードに切り替わる際に以下の制御を実行する。
【0034】
図5には、速度制御モードから位置制御モードに切り替わる際に行われる制御のフローチャートを示す。オペレータの指がボタン61から離され、コントローラ16でボタン61からの出力信号が検出されなくなると、速度制御モードから位置制御モードに切り替えられる。位置制御モードに切り替えられた際には、先ずジョイスティック13、14が、中立位置Pを含む所定の第1の操作領域R1にあるか否か確認される。この操作領域R1は、例えば
図6に示すようにジョイスティック13、14の中立位置Pを中心とした円形領域であり、その大きさは任意に設定できる。なお、図の座標は、ジョイスティックの傾き角度の大きさと方向をX−Y座標に表したものである。
【0035】
ジョイスティック13、14が所定の操作領域R1内にない場合には、オペレータがジョイスティック13、14を中立位置P側に戻し、ジョイスティック13、14が操作領域R1内に入るまで、位置制御を無効(ジョイスティック13、14を動かしてもキャピラリ20、40が動かない状態)とする。ジョイスティック13、14が所定の操作領域R1内に入ると、その時点で位置制御が有効となり位置制御が開始される。このとき、
図7に示すようにジョイスティック13、14が所定の操作領域R1に入って位置制御が開始された位置、例えば(X’,Y’)を制御(ソフトウェア座標)上の原点として位置制御を行う。すなわち、このときの動作は、中立位置Pを原点とするハードウェア座標上の位置(X’,Y’)をソフトウェア座標上の原点とし、ジョイスティック13、14のそのソフトウェア座標上の原点からの傾き角度量及び傾き方向に応じた位置にキャピラリ20、40が移動する。このとき、一時的にハードウェア座標上の原点とソフトウェア座標上の原点は異なっている。
【0036】
位置制御の開始後、ジョイスティック13、14が最初に停止した後に、制御上の原点を中立位置Pに補正する。例えば
図8に示すように次の操作時にジョイスティック13、14を、ハードウェア座標上の例えば位置(C,D)まで動かした場合、ソフトウェア座標上でも位置(C,D)となるように、ソフトウェア座標を補正する。よって、その後のジョイスティック13、14の操作は、ハードウェア座標上の原点(中立位置P)とソフトウェア座標上の原点とが一致した状態で行われる。なお、この補正時の操作のみ、ジョイスティック13、14の操作量とキャピラリ20、40の操作量が異なるが、操作領域R1の設定により、オペレータが体感できないほどわずかな差とすることで問題とならない。
【0037】
一方、位置制御モードに切り替えられたときに、ジョイスティック13、14が所定の操作領域R1内にあった場合には、直ちに位置制御が有効となり位置制御が開始される。このとき、位置制御が開始された位置を制御上の原点(ソフトウェア座標上の原点)として位置制御を行う。すなわち、ジョイスティック13、14のそのソフトウェア座標上の原点からの傾き角度量及び傾き方向に応じた位置にキャピラリ20、40が移動する。なお、その後、ソフトウェア座標上の原点を中立位置Pに戻すように補正してもよいし、補正しなくてもよい。
【0038】
次に、
図9には、位置制御モードから速度制御モードに切り替わる際に行われる制御のフローチャートを示す。オペレータによりボタン61が押され、ボタン61からの出力信号をコントローラ16で検出すると、位置制御モードから速度制御モードに切り替えられる。先ずジョイスティック13、14が、中立位置Pを含む所定の第2の操作領域R2にあるか否か確認される。この操作領域R2は、例えば
図10に示すようにジョイスティック13、14の中立位置Pを中心とした円形領域であり、その大きさは任意に設定できる。なお、第1の操作領域R1と第2の操作領域R2は同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、第1の操作領域R1は、第1の操作領域R2より広くてもよいし、狭くてもよい。
【0039】
ジョイスティック13、14が所定の操作領域R2内にない場合には、オペレータがジョイスティック13、14を中立位置P側に戻し、ジョイスティック13、14が操作領域R2内に入るまで、速度制御を無効(キャピラリ20、40が動かない状態)とする。オペレータの操作がジョイスティック13、14を戻し、ジョイスティック13、14が所定の操作領域R2内に入ると、次に、速度制御を無効にしたまま、ジョイスティック13、14が所定の操作領域R2から出たか否かが確認される。ジョイスティック13、14が所定の操作領域R2から出ていない場合には、オペレータの操作によりジョイスティック13、14が操作領域R2から出るまで、速度制御の無効を維持する。すなわち、ジョイスティック13、14が操作領域R2内にある限り速度制御が行われない。
【0040】
ジョイスティック13、14が所定の操作領域R2から出た場合には、その時点で速度制御が有効となり速度制御が開始される。その後、速度制御は、ジョイスティック13、14が所定の操作領域R2の外側にある場合に有効となり、操作領域R2内に入った場合に無効となる。よって、操作領域R2がいわゆる不感帯となり、
図11に示すようにオペレータの操作により操作領域R2に入るたびに速度制御が無効となる。これにより、オペレータがジョイスティック13、14を傾けてキャピラリ20、40を移動させた後、ジョイスティック13、14を操作領域R2内の不感帯に戻すことにより、キャピラリ20、40の移動を停止できる。
【0041】
本実施の形態によれば、ジョイスティック13、14によるキャピラリ20、40の移動制御が、速度制御から位置制御に切り替わる際に、ジョイスティック13、14が、中立位置Pを含む当該中立位置周りの所定の第1の操作領域R1に入った時点で、位置制御が開始される。これにより、速度制御で例えばジョイスティック13、14が大きく傾いている場合であっても、一旦中立位置Pに近い操作領域R1に戻った後、位置制御が開始されるので、その後の位置制御においてジョイスティック13、14をすべての方向に十分量動かすことができる。また、ジョイスティック13、14を中立位置P側に戻す際に、所定の操作領域R1に戻せばよいので、オペレータが中立位置Pを探る必要はなく、作業効率も向上できる。
【0042】
本実施の形態では、ジョイスティック13、14が第1の操作領域R1に入った時の位置制御が開始された時の位置を制御上の原点とするので、ジョイスティック13、14が操作領域R1に入ったらそのまま位置制御を行い、キャピラリ20、40を好適に操作できる。また、その後制御上の原点を中立位置Pに補正するので、複数回位置制御に切り替えているうちに制御上の原点が中立位置Pから次第にずれることを防止できる。
【0043】
制御上の原点の補正を、位置制御の開始後ジョイスティック13、14が最初に停止した後に行うので、早い段階で、制御上の原点と中立位置P(ハードウェア座標上の原点)との位置ずれを解消できる。なお、「最初に停止した後」には、ジョイスティック13、14の次の操作の前や、次の操作時が含まれる。
【0044】
本実施の形態では、移動制御が速度制御から位置制御に切り替わる際に、ジョイスティック13、14が操作領域R1内にある場合には、位置制御を直ちに開始できる。また、その際、位置制御が開始された時の位置を制御上の原点としている。よって、キャピラリ20、40を直ちになおかつ好適に操作できる。なお、この場合の制御上の原点は、その後中立位置Pに補正してもよい。
【0045】
本実施の形態では、位置制御から速度制御に切り替わる際に、ジョイスティック13、14が、中立位置Pを含む所定の第2の操作領域R2に入り、その後操作領域R2の外側に出た時点で、速度制御が開始されるので、仮に位置制御でジョイスティック13、14が大きく傾いている場合であっても、一旦中立位置Pに近い操作領域R2に戻った後、速度制御が開始されるので、その速度制御においてジョイスティック13、14をすべての方向に十分量動かすことができる。
【0046】
また、速度制御は、ジョイスティック13、14が操作領域R2の外側にあるときに有効になるので、中立位置P周りにジョイススティック13、14の操作に反応しない不感帯が設けられ、速度制御時のキャピラリ20、40の停止動作を行いやすくなる。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0048】
例えば以上の実施の形態で記載したマニピュレータシステム1の構成はこれに限られない。マニピュレータシステム1は、顕微鏡を直接見ながら作業を行うこともできるし、表示装置15を見ながら作業を行うこともできる。マニピュレータシステム1は、ジョイススティック13、14がキャピラリ20、40を有線や無線、又はネットワークを通じて遠隔操作するものであってもよい。操作部材はキャピラリに限られず、目的に応じて他のものであってもよい。操作領域R1、R2の形状は必ずしも円形である必要はなく、方形等の他の形状であってもよい。また、中立位置Pは、必ずしも操作領域R1、R2の中心である必要はない。