(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るリチウム空気電池、およびリチウム空気電池の負極複合体の実施形態について
図1から
図13を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るリチウム空気電池を示す概略的な斜視図である。
【0021】
リチウム空気電池1は充放電する。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウム空気電池1は、外殻としてのケース2と、ケース2内から引き出されて露出する負極集電体5、および正極集電体としての空気極集電体6と、を備える。
【0022】
ケース2は、気体を透過する一方で、液体の不透過な材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、またはビニリデンフルオライド単位およびテトラフルオロエチレン単位を有するフルオロポリマーからなるフッ素樹脂の成形品や、ビニリデンフルオライド単位およびテトラフルオロエチレン単位を有するフルオロポリマーからなるフッ素樹脂の多孔質体であり、六面体、例えば直方体形状を呈する中空体である。なお、ケース2は、気体も液体も不透過な材料の成形品であっても良い。この場合には、ケース2の側壁に通気口が設けられる。通気口は、後述する電解質7を漏出させない位置に設けられ、ケース内外に空気を流通させる。
【0023】
ケース2の外側には負極集電体5、および空気極集電体6のみが露出している。
【0024】
図2は、本発明の実施形態に係るリチウム空気電池の内部構造を示す概略的な斜視図である。
【0025】
図3は、本発明の実施形態に係るリチウム空気電池を示す回路図である。
【0026】
なお、隣り合う負極複合体8、および空気極9は、実際には相互に接しているが、
図2においては識別しやすいように離間させて示している。
【0027】
図2および
図3に示すように、本実施形態に係るリチウム空気電池1は、負極複合体8と空気極9とを収容するケース2と、交互に重ね合わせて積層される複数の負極複合体8、および複数の空気極9と、ケース2内に蓄えられて少なくとも空気極9に接して空気極9と負極複合体8との間でリチウムイオンの伝導を担う電解質7と、を備える。
【0028】
負極複合体8の一面、およびこれに正対する空気極9の一面は、1つの空気電池セル11である。つまりリチウム空気電池1は、負極複合体8と空気極9との対面箇所数の空気電池セル11を並列に接続したものである。
【0029】
複数の負極複合体8、および複数の空気極9は、それぞれ板形状を呈する。また、複数の負極複合体8、および複数の空気極9は、それぞれ電気的に並列に接続される。
【0030】
空気極9は負極複合体8よりも大きい投影面積を呈する。具体的には、四角形の平板形状を呈する負極複合体8よりも一回り大きい四角形状を呈する。
【0031】
また、空気極9は、導電性材料を含有して負極複合体8の少なくとも一方の面(つまり、後述する隔離層12の一面)に対向する空気極層13と、空気極層13に電気的に接続される板状または線状の空気極集電体6と、を備える。
【0032】
空気極層13は、炭素繊維などの導電体を素材とし、薄板形状を呈する。具体的には、空気極層13は、多孔質構造、例えば、構成繊維が規則正しく配列されたメッシュ構造、ランダムに配列された不織布構造、三次元網目構造が挙げられる。具体的には、カーボンクロス、カーボン不織布、およびカーボンペーパ等のカーボン材料である。また、その他の多孔質構造を持つ材料として、例えば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄等の金属材料でも良い。好ましい空気極の材料としては、軽量化や耐腐食性の高い材料が良く、前述のカーボン材料による空気極が望ましい。空気極層13は、毛細管現象で電解質7を吸い上げて負極複合体8と空気極9との間に介在させる。空気極層13は、貴金属や酸化金属等の触媒を含んでもよい。触媒としては、放電時には酸素還元反応、充電時には酸素酸化反応を促進させる触媒であれば良い。例えば、MnO
2、CeO
2、Co
3O
4、NiO、V
2O
5、Fe
2O
3、ZnO、CuO、La
1.6Sr
0.4NiO
4、La
2NiO
4、La
0.6Sr
0.4FeO
3、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3、La
0.8Sr
0.2MnO
3、Mn
1.5Co
1.5O
4等の金属酸化物;Au、Pt、Ag等の貴金属;およびこれらの複合物等が挙げられる。触媒を含む空気極層13を作製する方法は、特に限定されないが、例えば、白金などの触媒金属を担持したカーボンをバインダー(結着剤)および有機溶媒と混合したもの(スラリー)を、カーボンクロスなどに付着させることにより行うことができる。有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、エタノール、1−プロパノールなどを使用することができる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等を挙げることができる。具体的な空気極13への触媒の付着方法としては、前記のスラリーを、ドクターブレード法、スプレイ法により塗布および付着する方法が挙げられる。
【0033】
空気極集電体6としては、リチウム空気電池の動作範囲で安定して存在でき、所望とする導電性を有していれば良い。空気極集電体6の材料としては、例えば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、金、および白金等の金属材料、カーボンクロスおよびカーボン不織布等のカーボン材料が挙げられる。
【0034】
電解質7は、水系電解質である。なお、電解質7は負極複合体8にも接していても良い。水系電解質は、例えば、塩化リチウム水溶液等である。
【0035】
空気極9と負極複合体8の間には、保水層として樹脂シートなどが任意に配置される。保水層は、空気極と負極複合体とが直接接触するのを防ぐものである。保水層は、好ましくは電解質を含浸・保水する多孔質性および/または発泡質性のシートであり、セルロース、化学繊維不織布、PP(ポリプロピレン)樹脂、PE(ポリエチレン)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂などの高分子膜などが挙げられる。
【0036】
また、電解質7は、ポリマー電解質であっても良い。この場合、電解質7は、空気極9と負極複合体8との間に挟まれる薄膜状体であったり、空気極層13の表面をコーティングする膜状体であったりする。
【0037】
図4は、本発明の実施形態に係るリチウム空気電池の内部構造の他の例を示す概略的な斜視図である。
【0038】
なお、隣り合う負極複合体8、および空気極9Aは、実際には相互に接しているが、
図4においては識別しやすいように離間させて示している。
【0039】
なお、リチウム空気電池1Aにおいてリチウム空気電池1と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
図4に示すように、本実施形態に係るリチウム空気電池1Aの空気極9Aの空気極層13Aは、葛折りに折り曲げられている。複数の負極複合体8は、空気極層13Aの折り目13aと折り目13aとの間にある平面部13bに挟み込まれる。
【0041】
空気極集電体6は、複数の負極複合体8を挟み込む1つの空気極層13Aに対して1つ設けられていれば良く、リチウム空気電池1の空気極集電体6よりも数量、総延長長さ、重量、および容積を減じることができる。
【0042】
図5は、本発明の実施形態に係るリチウム空気電池の負極複合体を示す概略的な斜視図である。
【0043】
図6は、本発明の実施形態に係るリチウム空気電池の負極複合体を示す概略的な断面図である。
【0044】
図5および
図6に示すように、リチウム空気電池1、1Aの負極複合体8は、板状または線状の負極集電体5と、金属リチウム、リチウムを主成分とする合金、またはリチウムを主成分とする化合物製で負極集電体5の一部を挟み込む板形状の2つの負極層15と、リチウムイオン伝導性を有するガラスセラミックス製で負極集電体5の他の一部、および2つの負極層15の全部を挟み込む板形状の2つの隔離層12と、負極集電体5の残部を2つの隔離層12間の外側に露出させつつ2つの隔離層12の外周縁部間を接合して閉ざす接合部16と、を備える。
【0045】
また、負極複合体8は、リチウムイオン伝導性を有して負極層15と隔離層12とを隔てる緩衝層17を備える。
【0046】
つまり、負極複合体8は、貼り合わせられる2つの負極層15を緩衝層17で包み、緩衝層17を2つの隔離層12および、接合部16で包んだ包装構造を備える。
【0047】
負極集電体5の材料としては、リチウム空気電池の動作範囲で安定して存在でき、所望とする導電性を有していれば良い。例えば、銅、ニッケル等を挙げることができる。
【0048】
2つの負極層15は、略同じ四角形の平板形状を呈し、負極集電体5の一部を挟み込んだまま接合される。本実施形態において、負極集電体5は、負極層15と略同じサイズの四角形の板状部に帯状の端子部が一体形成されている。しかし、目的により、負極集電体5は2つの負極層15の対抗面の全体にわたって接触せず、負極層15の少なくとも一部に接触するように挟み込まれている形態も本発明の技術的範囲に含まれる。負極集電体5の形状およびサイズは、当業者が適宜決定することができる。
【0049】
また、負極層15は金属リチウム製であることが望ましい。負極層15は、金属リチウムに代えて、リチウムを主成分とする合金、またはリチウムを主成分とする化合物であっても良い。リチウムを主成分とする合金は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、金、亜鉛、インジウム等を含むことができる。リチウムを主成分とする化合物は、Li
3−xM
xN(M=Co、Cu、Ni)がある。
【0050】
緩衝層17はリチウムイオン伝導性のポリマー電解質、または有機電解質(有機電解液ともいう)などを含ませたセパレータシートなどである。緩衝層17のリチウムイオン伝導率(リチウムイオン導電率とも表記する。)は、10
−5S/cm以上であることが望ましい。
【0051】
負極層15と隔離層12とが接触すると、負極層15のリチウムと隔離層12のガラスセラミックスとが反応する場合がある。例えば、隔離層12の材質がLTAPである場合、リチウムによってLTAPが反応して劣化する可能性がある。しかし、緩衝層17を挿入して負極層15と隔離層12との接触を防ぐことによって、そのような反応は抑制される。このことは、リチウム空気電池1の寿命を長くすることに寄与する。
【0052】
緩衝層17は、リチウム塩をポリマーに分散させた固体状のポリマー電解質、リチウム塩を溶解した有機電解質を浸み込ませたセパレータ、リチウム塩を溶解した有機電解質でポリマーを膨潤させたゲル状のポリマー電解質であるゲル電解質、または該ゲル電解質を含有するセパレータであってもよい。
【0053】
(a)緩衝層となる固体状のポリマー電解質
ホストとなるポリマーは、PEO(ポリエチレンオキシド)、PPO(ポリプロピレンオキシド)等である。リチウム塩は、LiPF
6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiClO
4(過塩素酸リチウム)、LiBF
4(テトラフルオロリン酸リチウム)、LiTFSI(Li(CF
3SO
2)
2N)、Li(C
2F
4SO
2)
2N、LiBOB(ビスオキサラトホウ酸リチウム)等である。
【0054】
なお、固体状のポリマー電解質として、特に望ましいPEOを用いる場合には、PEOの分子量は10
4〜10
5であることが望ましく、PEOとリチウム塩とのモル比は、8〜30:1であることが望ましい。
【0055】
緩衝層17の強度、および電気化学的特性を向上させるため、さらに、セラミックスフィラー、例えば、BaTiO
3の粉末をポリマーに分散させてもよい。セラミックフィラーの混合量は、残余の成分100重量部に対して1〜20重量部であることが望ましい。
【0056】
(b)緩衝層となるセパレータ
また、緩衝層17は有機電解質をセパレータ(多孔質のポリエチレンやポリプロピレン、セルロース等のシート)に浸み込ませたものであっても良い。この場合、緩衝層17に使用される有機電解質は、炭酸エチレンに、炭酸ジエチルや炭酸ジメチルを混合し、さらにLiPF
6(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO
4(過塩素酸リチウム)、LiBF
4(テトラフルオロリン酸リチウム)、LiTFSI(Li(CF
3SO
2)
2N)、Li(C
2F
4SO
2)
2N、LiBOB(ビスオキサラトホウ酸リチウム)等などのリチウム塩を添加したものである。このようなセパレータを用いることにより、リチウムイオン導電性を有して、さらに緩衝層17の厚さを低減可能となる。
【0057】
(c)緩衝層となるゲル電解質
ゲル電解質は、リチウム塩を溶解した有機電解質でポリマーを膨潤させて得られるゲル状のポリマー電解質である。ゲル電解質のホストとなるポリマーは、PEO(ポリエチレンオキシド)、PVA(ポリビニルアルコール)、PAN(ポリアクリロニトリル)、PVP(ポリビニルピロリドン)、PEO−PMA(ポリエチレンオキシド修飾ポリメタクリレートの架橋体)、PVDF(ポリフッ化ビリニデン)、PVDF−HFP(ポリフッ化ビリニデンとヘキサフロオロプロピレンとの共重合体)等である。有機電解質は、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の混合溶媒に、電解質であるLiPF
6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiClO
4(過塩素酸リチウム)、LiBF
4(テトラフルオロリン酸リチウム)、LiTFSI(Li(CF
3SO
2)
2N)、Li(C
2F
4SO
2)
2N、LiBOB(ビスオキサラトホウ酸リチウム)などのリチウム塩を添加したものである。有機電解質の溶媒の混合は、任意の割合で行うことができる。リチウム塩の有機電解質中の濃度は、1〜1.3(mol/L)であることが好ましい。ゲル電解質におけるポリマーの割合は、ゲル電解質中に3〜7質量%の範囲であることが好ましい。ポリマーの割合をこの範囲とすることにより、所望とするイオン伝導性と負極複合体の作製に最適な粘度を満たすことが可能となる。ゲル電解質の厚さは、10〜100μmであり、好ましくは50μm以下である。また、緩衝層となるゲル電解質量は、負極層15と隔離層12間の対向する表面全てに対して、密着性を過不足なく高められる充填量が望ましい。ゲル電解質を使用することにより、セパレータシートを使用した場合よりも気泡の混入を防ぐことが容易になる。また、ゲル電解質は、緩衝層17の厚みを低減させることができ、また、部品数を減らすことにより構造を簡単にすることができる。
【0058】
リチウムイオン電池では、ゲル電解質などのポリマー電解質が部材間に存在しない方がイオン伝導性が良いことが従来知られているが、本発明者らは、緩衝層17としてゲル電解質を用いると、セルロースセパレータに有機電解質を含浸させたものを用いるよりもさらに放電電圧が高く、長期間安定なリチウム空気電池が得られることを初めて見出した。ゲル電解質の使用により電池特性が向上する理論的な理由は明らかではないが、ゲル電解質は、負極層15および隔離層12の表面の凹凸に対して追従し、負極層15および隔離層12の間の接触性を高めることができるため、放電電圧を向上させることができると推測される。また、リチウム空気電池では、放電時に負極層15からリチウムイオンが溶け出すため、負極層15の体積が減少する場合があるが、ゲル電解質は、負極層15の体積が減少分にも追従することができ、負極層15と隔離層12との接触性が保持される。よって、負極層15と隔離層12との間の密着性低下に起因する内部抵抗の増加を抑制し、放電電圧を長時間維持することが可能となっていると推測される。
【0059】
さらに、ゲル電解質は、ゲル状であるため、負極層15と隔離層12とを合わせて負極複合体を組み立てる際に、容易に合わせることができ、作業性に優れている。ゲル電解質は、負極複合体やセルの作製時に漏れくいという点でも作業性に優れ、製造後もセルの隙間からの漏洩が発生しにくいため、セルごとの性能にばらつきが減少するという利点がある。また、ゲル電解質は、粘度が高く、有機電解質のガスケットや外周封止部材への接触が抑制され、ガスケットおよび外周封止部材として用いられる接着剤や樹脂等の劣化を緩和することができる。その結果、長期的に負極複合体およびセルの密閉性を確保できるという効果がある。また、ガスケットの材質および外周封止部材の選定の自由度が向上するという利点もある。
【0060】
また、ゲル電解質は、有機電解質に溶解しない粉末を分散させたものであることが好適である。ゲル電解質に、有機電解質に溶解しない粉末が分散されていることにより、隔離層12と負極層15が直接、接触するのを防ぐ効果がある。ゲル電解質に分散させる粉末としては、有機電解質に溶解しない微粉末であればよく、負極複合体内部の部材と反応や劣化原因とならないものがよく、樹脂を微粉末にしたものが特に好ましい。樹脂粉末は、有機電解質に溶解しないものであれば特に限定されないが、好ましくは、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の樹脂粉末の1種または2種以上の組み合わせである。ゲル電解質に分散させる粉末は、セラミックスフィラーであってもよい。この粉末の粒径は、1μm超、50μm程度未満で、平均粒子径が5μm程度の超微粉末であることが好ましい。粉末の平均粒子径がこの範囲であることにより、電池性能への影響を低減できるという効果がある。ここで、平均粒径は、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置により測定した値である。ゲル電解質に分散させる粉末の量は、ゲル電解質中に0.5〜5質量%であることが好ましく、0.5〜1.5質量%であることがより好ましい。粉末の分散量をこの範囲とすることにより、電池性能への影響を低減できるという効果がある。また、粉末の分散量を1質量%以下とすることにより、ゲル電解質の粘度に対する影響が少なくなる。
ゲル電解質には、ゲル電解質の強度および電気化学的特性を向上させるために、セラミックスフィラー、例えば、BaTiO
3の粉末をさらに分散させてもよい。セラミックフィラーの混合量は、残余の成分100重量部に対して1〜20重量部であることが望ましい。
【0061】
(d)緩衝層となるゲル電解質含有セパレータ
ゲル電解質含有セパレータは、リチウムイオン電池用のセパレータ(多孔質のポリエチレンやポリプロピレン、セルロース等のシート)に、上述のゲル電解質を含浸または保持させたものである。ゲル電解質のセパレータにおいて、ゲル電解質とセパレータの重量比は好ましくは7〜30:1である。ゲル電解質を含有するセパレータは、1枚のみを用いてもよいが、複数枚重ねて用いることもできる。ゲル電解質含有セパレータの好ましい枚数は、セパレータの材質や厚さにもよるが、1〜4枚である。ゲル電解質を含有するセパレータは、上記(c)のゲル電解質と同様に、放電電圧を向上させ、放電電圧を長期間維持することができる。これは、負極層15の体積が減少した場合にも、負極層15と隔離層12との接触性を保持して接触抵抗を減少させるためと考えられる。さらに、セパレータにゲル電解質を含有させることにより、負極複合体の作製において、緩衝層17を挿入する際の作業性が良くなり、セルの電気化学的特性の再現性が高まり、製造時の歩留まりが改善する。また、ゲル電解質含有セパレータの使用により、有機電解質のガスケットや外周封止部材への接触が抑制される。このため、ガスケットおよび外周封止部材として用いられる接着剤や樹脂等の劣化を緩和し、長期的に負極複合体およびセルの密閉性を確保することができる。
【0062】
ここで、緩衝層17は、負極複合体8に必ずしも備えられていなくてもよく、任意の構成要素である。すなわち、負極複合体8において、負極層15は、緩衝層17を隔てずに隔離層12と直接に隣接するように配置されていてもよい。
【0063】
隔離層12は負極複合体8の外殻の大部分を担って負極層15を水分から保護する。つまり、2つの隔離層12は、それぞれ異なる空気極9の空気極層13に対面する。
【0064】
隔離層12は、負極層15よりも一回り大きい四角形の平板形状を呈し、一体化される
2つの負極層15の全体を挟み込む。つまり、隔離層12の中央部分は負極層15に正対
し、隔離層12の外周縁部は鍔あるいは軒先のように負極層15よりも外方へ張り出す。
【0065】
また、隔離層12は、耐水性、およびリチウムイオン伝導性を有するガラスセラミックスである。隔離層12のリチウムイオン伝導率は、10
−5S/cm以上であることが望ましい。隔離層12としては、例えば、NASICON(Na Superionic Conductor;ナトリウム超イオン導電体)型のリチウムイオン伝導体が挙げられる。さらに、隔離層12として、一般式LiM
2(PO
4)
3(MはZr、Ti、Ge等の4価のカチオン)であらわされるリチウムイオン伝導体の4価のカチオンMの一部をIn、Al等の3価のカチオンM’で置換することによりリチウムイオン伝導性を向上した一般式Li
1+xM
2−xM’
x(PO
4)
3であらわされるリチウムイオン伝導体が挙げられる。また、隔離層12として、一般式LiM
2(PO
4)
3(MはZr、Ti、Ge等の4価のカチオン)であらわされるリチウムイオン伝導体の4価のカチオンMの一部をTa等の5価のカチオンM”で置換することによりリチウムイオン伝導性を向上した一般式Li
1−xM
2−xM”
x(PO
4)
3であらわされるリチウムイオン伝導体が挙げられる。これらのリチウムイオン伝導体のPはSiで置換されている場合があり、一般式Li
1+x+yTi
2−xAl
xP
3−ySi
yO
12(LTAP)であらわされるリチウムイオン伝導体がイオン伝導性の観点から望ましい。
【0066】
接合部16は、2つの隔離層12のそれぞれの外周縁部間に架け渡される。接合部16は、2つの隔離層12に挟み込まれる領域を閉ざし、2つの隔離層12と協働してこの領域内に負極集電体5の一部、2つの負極層15、および緩衝層17を封入する。
【0067】
また、接合部16は、エポキシ樹脂系接着剤、シリコーン系接着剤、またはスチレン−ブタジエンゴム系接着剤等の接着材を2つの隔離層12のそれぞれの外周縁部間に充填し、硬化させたものである。接合部16は、緩衝層17、および電解質7の両方に晒されるため、耐有機電解質性と耐アルカリ性とを有することが好ましい。なお、緩衝層17にポリマー電解質を使った場合には、接合部16は、耐アルカリ性を有していれば良い。
【0068】
なお、接合部16は、接着剤に代えて樹脂を充填し、硬化させたものであっても良い。
【0069】
本実施形態に係るリチウム空気電池1、および負極複合体8は、板形状の負極複合体8の両面を発電に寄与させる。この負極複合体8の両面化により、従来のリチウム空気電池に比べて、同体積あたり、電池反応に有効な面積を2倍に増加させて入出力密度を向上できる。
【0070】
また、本実施形態に係るリチウム空気電池1、および負極複合体8は、従来のリチウム空気電池におけるラミネートフィルムを不要にし、部品点数の低減、およびラミネートフィルムのポリプロピレンとガラスセラミックスとの接合における困難な接着を不要にする。さらに、負極複合体8と空気極9とを1つの空気電池セル11として積層しやすい構造となっている。
【0071】
負極複合体と空気極とを対にした単セルごとに水溶液系電解質を内包する従来のリチウム空気電池に比べて、本実施形態に係るリチウム空気電池1、および負極複合体8は、複数の空気電池セル11を並列接続して1つのケース2に収容する。このような構造によって、本実施形態に係るリチウム空気電池1、および負極複合体8は、空気電池セル11ごとの仕切り(従来のリチウム空気電池の外装に相当する)を必要とせず、複数の空気電池セル11で電解質7を共有し、リチウム空気電池1全体として電解質7の貯留量を最適化して重量や体積を低減できる。
【0072】
さらに、本実施形態に係るリチウム空気電池1、および負極複合体8は、ケース2内に水系電解質を電解質7として蓄える場合には、放電の進行にともなって電解質7が揮発しても次々に空気極9へ電解質7を補給できる。これにより、本実施形態に係るリチウム空気電池1、および負極複合体8は、長期に亘って電解質7の補充を必要とせず、電解質7の不足による性能低下を防止する。
【0073】
さらにまた、本実施形態に係るリチウム空気電池1、および負極複合体8は、2つの隔離層12を接合部16で接合するため、ラミネートフィルムのポリプロピレンとガラスセラミックスとの接合における困難な接着に比べて容易に製造できる。
【0074】
したがって、本実施形態に係るリチウム空気電池1、および負極複合体8によれば、従来の空気電池に比べてエネルギー密度および入出力密度を増加させても極端な大型化を抑制してコンパクトにできる。
【0075】
図7は、本発明の実施形態に係るリチウム空気電池の負極複合体の他の例を示す概略的な断面図である。
【0076】
図7に示すように、負極複合体8Aは、負極集電体5と、2つの負極層15と、2つの隔離層12と、緩衝層17と、ガスケット18と、外周封止部材19とを備える。同一の符号を付した構成要素は、
図5、6について説明した実施形態と同一の構成を持ち、重複する説明は省略する。負極複合体8Aは、リチウム空気電池1、1Aにおいて、負極複合体8に代えて使用されることができる。
【0077】
本実施形態では、負極層15の外周を取り囲むようにガスケット18が2つの隔離層12の間に配置され、負極層15はガスケット18の枠内に配置される。ガスケット18は、隔離層12の各々の内面に任意の方法により固定されてよいが、好ましくはガスケット18自体の吸着性および/または粘着性により固定される。ガスケット18は、負極層15の外周に接していてもよく、外周から離れていてもよい。ガスケット18は、2つのガスケットからなり、2つの隔離層12の各々の内面上に配置された後に重ね合わされる。2つのガスケットの重ね合わせ面20は、好ましくはガスケット自体の吸着性および/または粘着性により密着しており、ガスケット18内の空間は密閉される。負極集電体5は、重ね合わせ面20を通して負極複合体8Aの外部に導出される。あるいは、ガスケット18は、1つの部材として構成されていてもよく、かかる場合は、負極集電体5のための貫通孔がガスケット18に設けられている。
【0078】
ガスケット18としては、有機電解質に耐性があるゴムまたはエラストマーであれば特に限定されないが、エチレン−プロピレン−ジエンの共重合からなるゴムまたはエラストマー、またはフッ素系のゴムまたはエラストマーが好適である。エチレン−プロピレン−ジエンの共重合からなるゴムとしては、例えば、EPM、EPDM、EPTが挙げられる。フッ素系のゴムまたはエラストマーとしては、例えば、フッ化ビニリデン系(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系(FFKM)等が挙げられる。ゴムまたはエラストマーの物性は、軟らかい硬度であることが好ましい。ガスケット材料の硬度は、好ましくはショアA50〜70付近である。ガスケット材料が著しく柔らかい場合、加工性が悪い等の問題がある場合がある。ガスケット18が柔らかい硬度およびゴム弾性を有することにより、負極複合体8A内部の構成部材の均一な高さ調整が可能となる。すなわち、隔離層12の一方または両方を、直接または間接に押圧することで、緩衝層17と隔離層12との接触面の全体的な密着性を向上させることができる。さらに、これにより、緩衝層17を介した隔離層12と負極層15との接触性を高めることができる。また、ゴムまたはエラストマーは、成形前の原料が液状のタイプで、吸着性および/または粘着性が高いものが好ましい。
【0079】
ガスケット18は、好ましくは四角形の窓枠状の形状である。ガスケット18のサイズは、枠内に負極層15を配置可能な内寸を有し、隔離層12とほぼ同じ大きさの外寸である。ガスケット18の厚さは、隔離層12間に積層される構成部材の厚さの合計と同程度の厚さであってよい。
【0080】
外周封止部材19は、2つの隔離層12の外周端に配置され、負極集電体の残部を2つの隔離層間の外側に露出させつつ2つの隔離層間を密閉封止する。外周封止部材19は、2つの隔離層12の外周端縁の全周に、2つの隔離層間の隙間を覆うように配置される。外周封止部材19は、好ましくはガスケット18に接触し、隔離層12およびガスケット18を外部から固定する。外周封止部材19により、負極複合体8Aの密閉性をさらに向上させることができる。外周封止部材19としては、2つの隔離層間を密閉封止可能であり、負極複合体8Aの厚さ方向に収縮可能であるものあれば特に限定されないが、好ましくは接着剤である。接着剤としては、透湿性が低く、密閉性が高いものが好適であり、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、オレフィン系接着剤、および合成ゴム系接着剤などが挙げられる。より好ましくは、接着剤は、水系電解質(好ましくは有機電解質)に対する耐性をさらに有しており、例えば、エポキシ系接着剤、オレフィン系接着剤等である。接着剤は、室温で短時間で硬化する硬化条件を有するものが好ましい。また、外周封止部材19として使用される接着剤には、金属リチウムを劣化させるアルコール系溶剤等が微量成分として含まれる場合があるが、ガスケット18により隔離層間の空間が密閉されているため、このようなアルコール系溶剤の負極複合体8A内部への侵入を防ぐことができる。この結果、外部封止部材19に使用可能な接着剤の種類の自由度を向上することができる。接着剤は、負極集電体5が貫通する貫通部を有する。
【0081】
あるいは、外周封止部材19は、2つの隔離層12の各々の外面を外周端付近において押圧して挟持することにより固定する部材、例えばクリップなどであってもよい。外周封止部材19がこのような部材である場合、使用中の放電により負極層15の厚さが低減してしまった際に、隔離層12の一方または両方を押圧する作業を行うことなく、負極層15と隔離層12との距離を自動的に収縮させ、緩衝層17と隔離層12との密着性、および負極層15と隔離層12との緩衝層17を介した密着性を維持することができる。また、ガスケット18による2つの隔離層間の密閉性を強化することができる。外部封止部材19としてのクリップなどの部材は、上記の接着剤と併用することもできる。
【0082】
本実施形態に係る負極複合体8Aは、隔離層12の一方または両方を押圧することにより、緩衝層17を介した隔離層12と負極層15との密着性を高めることができ、その結果、内部抵抗を低下させ、放電電圧を増加させることができる。リチウム空気電池の使用中の放電により、負極層15の厚さが低減してしまい、緩衝層17と隔離層12との密着性および緩衝層17を介した負極層15と隔離層12との密着性が低下した場合においても、再度、隔離層12の一方または両方を直接または間接に押さえ付けるだけで、負極層15と隔離層12との距離を縮めることができ、負極層15と隔離層12との密着性を確保できる。すなわち、放電により、隔離層12と緩衝層17、および隔離層12と負極層15との緩衝層17を介した密着性が低下しても、負極複合体を分解することなく、押圧という簡単な作業のみによって内部抵抗の低下、つまり、放電電圧の増加を達成することができる。
【0083】
さらに、本実施形態に係る負極複合体8Aでは、ガスケット18同士、およびガスケット18と隔離層12とがガスケット18の吸着および/または粘着により固定されているため、負極複合体8A内の空間の密閉性が高い。また、外周封止部材19を備えることにより、密閉性をさらに高めることができる。このため、負極複合体8A内への水分や溶液の侵入を防ぐことができる。
【0084】
さらに、本実施形態に係る負極複合体8Aでは、ガスケット18同士、またはガスケット18と隔離層12とがガスケット18の吸着および/または粘着により固定されているため、外周封止部材19として接着剤を塗布する際にはガスケット18同士または隔離層12とガスケット18との横ズレが生じる問題がない。よって、負極複合体8Aの製造過程における作業性が向上するという効果がある。
【0085】
また、本実施形態に係る負極複合体8Aでは、ガスケット18が有機電解質に耐性があるため、接着剤や樹脂等の劣化原因となる有機電解質を負極複合体内に用いても、ガスケット18が劣化せず、負極複合体8A内部の密閉性を維持することができる。
【0086】
図8は、本発明の実施形態に係るリチウム空気電池の負極複合体の他の例を示す概略的な断面図である。
【0087】
図8に示すように、負極複合体8Bでは、負極複合体8Aと比較して、負極層15の隔離層12に対する面積割合が高く、ガスケット18の一部が隔離層12の端部外側にはみ出している。また、外周封止部材19は、2つの隔離層12の外周端の全周にかけて、ガスケット18を覆いつつ、隔離層12の外周端縁に配設されている。同一の符号を付した構成要素は、
図5〜7について説明した実施形態と同一の構成を持ち、重複する説明は省略する。負極複合体8Bは、リチウム空気電池1、1Aにおいて、負極複合体8に代えて使用されることができる。
【0088】
本実施形態に係る負極複合体8Bは、負極層15の隔離層12に対する面積割合が高いため、負極複合体8Bのサイズをコンパクトに維持しつつ、電池容量を増加させることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明に係るリチウム空気電池および負極複合体は下記実施例によって制限されるものではない。
【0090】
[実施例1]
(負極複合体の作製)
負極複合体108を、以下の手順で作製した。
図9には、負極複合体の分解した状態と組み立てた状態を示す。
(1)負極複合体108の構成部材である固体電解質112(リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス(LTAP)薄板、四角形、2枚)、金属リチウム115(四角形、2枚、1枚の銅箔(負極集電体)105(四角形の板状部と帯状の端子部分とからなる)の両面に貼付)、セルロースセパレータ117(四角形、2枚)、およびガスケットシート118(EPDM、四角枠、2枚)を準備した。2枚の固体電解質112の各々にガスケットシート118を貼り付けた。
(2)
図9において下側に示される1枚の固体電解質112上に、セルロースセパレータ117を、ガスケットシート118の枠内に入るように配置し、有機電解質(EC:EMC=1:1、1MのLiPF
6)をセルロースセパレータ117に滴下して全体に染み込ませた。金属リチウム115を、セルロースセパレータ117上に、ガスケットシート118の枠内に入るように配置し、2枚目のセルロースセパレータ117を金属リチウム115上に配置した。2枚目のセルロースセパレータ117に有機電解質を滴下し、全体に染み込ませた。
(3)(1)で作製した上側の固体電解質112を、(2)の作製物の上から被せ、上側と下側のガスケットシート118をずれないように張り付けて、外部の空気等が入らないようにガスケットシート118の粘着性により密閉させた。負極複合体208の内部の構成部材同士が、特に固体電解質112と金属リチウム115とが密着性良く接触するように、外側から全体を押さえて固定させた。
(4)エポキシ系接着剤119(2液常温硬化型)を、2枚の固体電解質112の間を密閉するように、固体電解質112の外周端縁の全周に薄く塗布し、エポキシ系接着剤119を硬化させた。
【0091】
(空気極の作製)
正極の酸素還元の触媒として白金担持カーボン(Pt45.8%)を80mgと、バインダー(結着剤)としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を20mgとを計り取り、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3mlを添加して混合溶媒を調製した。
混合溶媒を攪拌機(シンキ−製AR−100)で15分、超音波で60分攪拌および分散を行い、塗工機(松尾産業製K202コントロールコーター)を用いて、カーボンクロス上に塗布し、その後、ホットプレート上に置いて110℃で1時間加熱乾燥させて、白金担持量0.25mg/cm
2の空気極を作製した。空気極の集電体として、空気極のカーボンクロスを直方形の形状で延長させたものとした。
【0092】
(水系電解質の調製)
4.24gのLiClを精製水50mlに溶解させ、2MのLiCl水溶液を調製した。水系電解質を保持するため、水系電解質をセルロースシートに滴下し、空気極と負極の間に配置した。
【0093】
(セルの作製)
負極複合体を収容可能な大きさの、穴が開いたプラスチック製のケースに、空気極、水系電解質を滴下したセルロースシート、負極複合体、水系電解質を滴下したセルロースシート、および空気極をこの順にズレが無いように重ねたものを収容し、リチウム空気電池のセルとした。
【0094】
[比較例1]
(負極複合体の作製)
負極複合体208を、次の手順で作製した。固体電解質212(リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス(LTAP)薄板、四角形、1枚)の一面に窓材用のアルミラミネート包材202(PP樹脂/アルミ/PET樹脂、四角枠)を合成ゴム系接着剤で接着した。固体電解質212のもう一方の面に、セルロースセパレータ217(四角形、1枚)を配置し、有機電解質(EC:EMC=1:1、1MのLiPF
6)を染み込ませた。次いで、負極集電体(銅箔)205の片面に貼り付けられた金属リチウム215をセルロースセパレータ217上に配置した。これらの部材を、窓材用のアルミラミネート包材202と外側用のアルミラミネート包材202(PP樹脂/アルミ/PET樹脂、四角形)との間に入れて包んで袋状のセルにするため、外側用と窓材用のアルミラミネート包材202の四辺の端部を重ね合わせた状態で熱溶着して密閉した。金属リチウムの使用量は実施例1とほぼ同一とした。
【0095】
(空気極の作製)
空気極209の作製は、実施例1と同様にして行った。空気極集電体206としてはアルミ箔を使用した。
【0096】
(水系電解質の調製)
水系電解質の調製は、実施例1と同様にして行った。
【0097】
(セルの作製)
比較例1のセルの構造は、その分解された状態が
図10に示されている。比較例1の負極複合体208に、水系電解質を滴下したセルロースシート219、および空気極209をこの順にズレが無いように重ねてリチウム空気電池201のセルとした。
【0098】
[放電試験1]
実施例1および比較例1のセルにおいて、4mA/cm
2(約0.1Cの放電レート)で放電した際の放電電圧をBAS社製 電気化学アナライザALS608Aで6時間にわたって測定した。ここで、1Cは、公称容量を有するセルを定電流放電して、ちょうど1時間で放電終了となる電流値を指す。放電電圧の測定結果を
図11に示す。
図11に示されるように、実施例1のセルは、比較例1のセルと比べて全ての測定時間において高い放電電圧を示した。平均放電電圧は、実施例1のセル1.56V、比較例1のセルが0.65Vであり、実施例1のセルは2倍以上の値であった。
【0099】
[インピーダンス評価]
実施例1のセルと比較例1のセルの1MHz〜10mHzの範囲におけるインピーダンスをSolartron社製 周波数応答アナライザ(FRA)1255B型を用いて測定した。
図12にその測定結果(ナイキストプロット)を示す。Z’は実数部を示し、Z’ ’は虚数部を示す。
図12に示されるナイキストプロットから、実施例1のセルは、比較例1のセルよりもインピーダンスがおよそ半分という顕著に低い値を示すことが判明した。これにより、実施例1のセルと比較例1のセルは、同一条件で作製した空気極を使用しているため、実施例1のセルのインピーダンスの低さは、負極複合体における内部抵抗の低さに起因していると考えられる。また、実施例1のセルでは、負極複合体の内部抵抗が低いことにより、
図11に示す放電電圧が高い値を示したと考えられる。
【0100】
[実施例2]
(負極複合体の作製)
実施例2の負極複合体を、酸素濃度1ppm以下、露点−76℃dpのアルゴンガス雰囲気下、以下の手順で作製した。負極複合体の組み立ては、実施例1のセルの負極複合体について
図9に示した構造と同様に行った。
(1)負極複合体の構成部材である固体電解質(リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス(LTAP)薄板、四角形、2枚)、金属リチウム(四角形、2枚、1枚の銅箔(四角形の板状部と帯状の端子部分とからなる)の両面に貼付)、セルロースセパレータ(四角形、2枚)、およびガスケットシート(EPDM、四角枠、2枚)を準備した。2枚の固体電解質の各々にガスケットシートを貼り付けた。
(2)PEOを有機電解質(EC:EMC=1:1、1MのLiPF
6)に加えてゲル状にして、5質量%の濃度のPEOのゲル電解質を調製した。次にゲル電解質にセルロースセパレータを浸した。このゲル電解質を含浸したセルロースセパレータを、1枚の固体電解質上に、ガスケットシートの枠内に入るように配置した。金属リチウムを、セルロースセパレータ上に、ガスケットシートの枠内に入るように配置し、2枚目の同様の方法によりゲルポリマーを含浸させたセルロースセパレータを金属リチウム上に配置した。
(3)(1)で作製した固体電解質を、(2)の作製物の上から被せ、上側と下側のガスケットシートをずれないように張り付けて、外部の空気等が入らないようにガスケットシートの粘着性により密閉させた。負極複合体の内部の構成部材同士が、特に固体電解質と金属リチウムとが密着性良く接触するように、外側から全体を押さえて固定させた。
(4)エポキシ系接着剤(2液常温硬化型)を、2枚の固体電解質の間を密閉するように、固体電解質の外周端縁の全周に薄く塗布し、エポキシ系接着剤を硬化させた。
【0101】
(空気極の作製)
正極の酸素還元の触媒として白金担持カーボン(Pt45.8%)を80mgと、バインダー(結着剤)としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を20mgとを計り取り、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3mlを添加して混合溶媒を調製した。
混合溶媒を攪拌機(シンキ−製AR−100)で15分、超音波で60分攪拌および分散を行い、塗工機(松尾産業製K202コントロールコーター)を用いて、2枚の金属リチウムを合わせたものと同じサイズのカーボンクロス上に塗布し、その後、ホットプレート上に置いて110℃で1時間加熱乾燥させて、白金担持量0.5mg/cm
2の空気極を作製した。空気極の集電体として、空気極のカーボンクロスを直方形の形状で延長させたものとした。
【0102】
(水系電解質の調製)
4.24gのLiClを精製水50mlに溶解させ、2MのLiCl水溶液を調製した。水系電解質を保持するため、水系電解質をセルロースシートに滴下し、空気極と負極の間に配置した。
【0103】
(セルの作製)
負極複合体を収容可能な大きさの、穴が開いたプラスチック製のケースに、空気極、水系電解質を滴下したセルロースシート、負極複合体、水系電解質を500μl程度を滴下したセルロースシート、および空気極をこの順にズレが無いように重ねたものを収容し、実施例2のリチウム空気電池のセルとした。
【0104】
[実施例3]
(負極複合体の作製)
実施例3のセルの負極複合体を、以下の手順で作製した。負極複合体の組み立ては、実施例1のセルの負極複合体について
図9に示した構造と同様に行った。実施例3のセルでは、ゲル電解質を含浸したセルロースセパレータの代わりに有機電解質を含浸したセルロースセパレータを緩衝層として使用した以外は、実施例2のセルと同じ材質および大きさの構成部材を用いた。
(1)負極複合体の構成部材である固体電解質(リチウムイオン電導性ガラスセラミックス(LTAP)薄板、四角形、2枚)、金属Li(四角形、2枚、1枚の銅箔(四角形の板状部と帯状の端子部分とからなる)の両面に貼付)、セルロースセパレータ(四角形、2枚)、およびガスケットシート(EPDM、四角枠、2枚)を準備した。2枚の固体電解質の各々にガスケットシートを貼り付けた。
(2)1枚の固体電解質上に、セルロースセパレータを、ガスケットシートの枠内に入るように配置し、有機電解質(EC:EMC=1:1、1MのLiPF
6)をセルロースセパレータに滴下して全体に染み込ませた。金属Liを、セルロースセパレータ上にガスケットシートの枠内に入るように配置し、2枚目のセルロースセパレータを金属Li上に配置した。2枚目のセルロースセパレータに有機電解質を滴下し、全体に染み込ませた。
(3)(1)で作製した固体電解質を、(2)の作製物の上から被せ、2枚の固体電解質の各々に貼り付けたガスケットシートを相互にずれないように張り付けて、外部の空気等が入らないようにガスケットシートの粘着性により密閉した。負極複合体の内部の構成部材同士が、特に固体電解質と金属Liとが密着性良く接触するように、外側から全体を押さえて固定した。
(4)エポキシ系接着剤(2液常温硬化型)を、2枚の固体電解質の間を密閉するように、固体電解質の外周端縁の全周に薄く塗布し、エポキシ系接着剤を硬化させた。
【0105】
空気極の作製、水系電解質の調製、およびセルの作製は、実施例2と同様にして行った。
【0106】
[放電試験2]
実施例2および実施例3のセルにおいて、4mA/cm
2(約0.1Cの放電レート)で放電した際の放電電圧をBAS社製 電気化学アナライザALS608Aで7時間にわたって測定した。ここで、1Cは、公称容量を有するセルを定電流放電して、ちょうど1時間で放電終了となる電流値を指す。放電電圧の測定結果を
図13および表1に示す。
図13および表1に示されるように、実施例2のセルおよび実施例3のセルはいずれも、全ての測定時間において高い放電電圧を示した。平均放電電圧は、実施例2のセル1.89V、実施例3のセルが1.33Vであり、実施例2のセルは実施例3のセルと比べて放電電圧が大幅に向上していた。
【0107】
【表1】
【0108】
[実施例4]
(負極複合体の作製)
実施例4のセルの負極複合体を、酸素濃度1ppm以下、露点−76℃dpのアルゴンガス雰囲気下、以下の手順で作製した。負極複合体の組み立ては、実施例1のセルの負極複合体について
図9に示した構造と同様に行った。実施例4のセルでは、ゲル電解質を含浸したセルロースセパレータの代わりに粉末を含有するゲル電解質を緩衝層として使用した以外は、実施例2のセルと同じ材質および大きさの構成部材を用いた。
(1)負極複合体の構成部材である固体電解質(リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス(LTAP)薄板、四角形、2枚)、金属リチウム(四角形、2枚、1枚の銅箔(四角形の板状部と帯状の端子部分とからなる)の両面に貼付)、およびガスケットシート(EPDM、四角枠、2枚)を準備した。2枚の固体電解質の各々にガスケットシートを貼り付けた。
(2)PEOを有機電解質(有機電解液:EC:EMC=1:1、1MのLiPF
6)に加えてゲル状にして調製した5質量%のPEOに、平均粒子径5μmのポリプロピレンの微粉末パウダーを加えて、1質量%のポリプロピレンの微粉末を含む4質量%の濃度のPEOのゲル電解質を調製した。このポリプロピレンの微粉末パウダー入りのゲル電解質を、1枚の固体電解質上に、ガスケットシートの枠内に入るように載せて表面が均一になるようにスパチュラ等で調整した。その上に金属リチウムを載せ、ガスケットシートの枠内に入るように配置し、ポリプロピレンの微粉末パウダー入りのゲル電解質を金属リチウム上に載せて表面が均一になるように調整した。
(3)(1)で作製した固体電解質を、(2)の作製物の上から被せ、上側と下側のガスケットシートをずれないように張り付けて、外部の空気等が入らないようにガスケットシートの粘着性により密閉させた。負極複合体の内部の構成部材同士が、特に固体電解質と金属リチウムとがゲル電解質を介して密着性良く接触するように、外側から全体を押さえて固定させた。
(4)エポキシ系接着剤(2液常温硬化型)を、2枚の固体電解質の間を密閉するように、固体電解質の外周端縁の全周に薄く塗布し、エポキシ系接着剤を硬化させた。
【0109】
(空気極の作製)
正極の酸素還元の触媒として白金担持カーボン(Pt45.8%)を80mgと、バインダー(結着剤)としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を20mgとを計り取り、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3mlを添加して混合溶媒を調製した。
混合溶媒を攪拌機(シンキ−製AR−100)で15分、超音波で60分攪拌および分散を行い、塗工機(松尾産業製K202コントロールコーター)を用いて、2枚の金属リチウムを合わせたものと同じサイズのカーボンクロス上に塗布し、その後、ホットプレート上に置いて110℃で1時間加熱乾燥させて、白金担持量0.5mg/cm
2の空気極を作製した。空気極の集電体として、空気極のカーボンクロスを直方形の形状で延長させたものとした。
【0110】
(水系電解質の調製)
4.24gのLiClを精製水50mlに溶解させ、2MのLiCl水溶液を調製した。水系電解質を保持するため、水系電解質をセルロースシートに滴下し、空気極と負極の間に配置した。
セルの作製は、実施例2と同様にして行った。
【0111】
[放電試験3]
実施例4のセルの放電電圧を、放電試験2と同様の条件で測定した。その結果を、表2に示す。実施例4のセルは、高い初期放電電圧および平均放電電圧を示した。
【0112】
【表2】