(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ねじ軸と、ナットと、複数のボールとを有し、前記ねじ軸は前記ナットを貫通し、前記ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のねじ溝と前記ナットの内周面に形成された螺旋状のねじ溝とにより前記複数のボールが公転運動する転動路が形成されるボールねじのねじ溝曲率半径比を設定する方法であって、
当該ボールねじとして、ダブルナット予圧方式によって予圧を付与し予圧荷重Faが動定格荷重Caの3〜5%となる領域において用いられるものを対象とし、
前記ねじ軸のねじ溝および前記ナットのねじ溝を、いずれもゴシックアーク溝とし、
前記ナットのねじ溝曲率半径RMと、前記ねじ軸のねじ溝曲率半径RBとの比RM/RBを、予圧荷重Faが動定格荷重Caの3〜5%となる領域且つ動定格荷重の低減が20%未満となる領域において、正方向作動時の軸方向変位δxFと逆方向作動時の軸方向変位δxBとの差異を小さくするように、シミュレーション解析の結果に基づいて、下記(式)を満たす範囲に設定することを特徴とするボールねじのねじ溝曲率半径比設定方法。
1.03≦RM/RB≦1.23 (式)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、送り装置にボールねじを用いる場合に、象限突起誤差を制御技術によって補償しても、ボールねじの駆動方向反転時におけるロストモーションによって、円運動軌跡には、サブミクロンからミクロンオーダーの象限段差誤差が生じてしまう。これに対し、円運動象限切換え時の象限突起誤差の補償方法と同様に、象限段差誤差に対しても送り系の非線形摩擦特性に近似できるような数学モデルを構築して補正できる(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、数学モデルの構築は、実機を用いて試行錯誤的に調整を繰り返しながら行う必要がある(例えば非特許文献2参照)。そのため、実機を用いた数学モデルの構築のためのコストや手間が掛かり過ぎてしまうという問題があり、ボールねじの駆動方向反転時におけるロストモーションによる、ワークの加工精度低下を防止する上で改善の余地が残される。
【0006】
このような問題に対し、近年、ボールねじの駆動方向反転時におけるロストモーションの発生要因に関して、解析的、実験的に調査・研究が実施されている(例えば、非特許文献3参照)。非特許文献3によって、ボールねじのロストモーションは、ナット内で公転運動しているボールの、駆動方向反転時における、ねじ軸のねじ溝またはナットのねじ溝への食込み(以下、「ボール食込み挙動」ともいう)に起因して生じることが明らかにされている。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、ロストモーションを低減または防止し得るボールねじ
のねじ溝曲率半径比設定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、
図9に示すように、軸方向荷重F
xが作用するボールねじでは(同図(a)参照)、通常、ボール3は、ねじ軸101およびナット102のねじ溝101k、102kと2点(同図(b)の符号M,Bの箇所)で接触しており(同図(b)参照)、主に接触点M,Bでの弾性接触変形に起因して、ねじ軸101とナット102間に軸方向変位δ
xを生じる(同図(a)参照)。なお、同図において、符号mはボール3の中心、αは接触角、δ
M、δ
Bは接触点M,Bでの弾性接触変形量、Pは接触荷重である(以下同様)。
【0008】
いま、ナット102の回転を拘束した状態でねじ軸101を反時計回りに回転すると、ナット102は、
図10に示すように、軸方向荷重F
xの向きとは逆向きに移動する(このような作動状態を「正方向作動」と呼ぶ)。このとき、ボール3は、同図(b)に示すように、転動方向に対して直角方向にくさび状に食込み、対向するねじ溝101k、102k同士がつくる軌道とボール3との接触状態が2点接触から3点接触(符号M,M’,Bの箇所)へと変化する。そのため、ねじ軸101とナット102間の相対変位もδxからδ
xFのように変化する。
【0009】
次いで、ねじ軸101の回転方向を逆転すると、ナット102の移動方向も反転する(このような作動状態を「逆方向作動」と呼ぶ)。そのため、
図11に示すように、軌道に対するボール3の食込みの方向も逆転し(同図(b)参照)、ねじ軸101とナット102間の相対変位はδ
xBとなる。ゆえに、ボールねじの駆動方向反転時に生じるロストモーションΔe
pは、下記(式1)で表すことができる。
Δe
p=δ
xF−δ
xB (式1)
(式1)に示すように、ボールねじの駆動方向反転時に生じるロストモーションΔe
pは、正方向作動時の軸方向変位δ
xFと逆方向作動時の軸方向変位δ
xBとの差を抑制すれば、Δe
pを低減または極小化することができる。本願発明者は、このような考察のもと、鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るボールねじ
のねじ溝曲率半径比設定方法は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールとを有し、前記ねじ軸は前記ナットを貫通し、前記ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のねじ溝と前記ナットの内周面に形成された螺旋状のねじ溝とにより前記複数のボールが公転運動する転動路が形成されるボールねじ
のねじ溝曲率半径比を設定する方法であって、当該ボールねじ
として、ダブルナット予圧方式によって予圧を付与し
予圧荷重Faが動定格荷重Caの3〜5%となる領域において用いられるもの
を対象とし、前記ねじ軸のねじ溝および前記ナットのねじ溝
を、いずれもゴシックアーク溝
とし、前記ナットのねじ溝曲率半径RMと、前記ねじ軸のねじ溝曲率半径RBとの比RM/RB
を、
予圧荷重Faが動定格荷重Caの3〜5%となる領域且つ動定格荷重の低減が20%未満となる領域において、正方向作動時の軸方向変位δxFと逆方向作動時の軸方向変位δxBとの差異を小さくするように、シミュレーション解析の結果に基づいて、下記(式)を満たす範囲に設定
することを特徴とする。
1.03≦RM/RB≦1.23 (式2)
【0011】
ここで、駆動方向反転時における前記ナット内で公転運動している前記ボールの、前記ねじ軸のねじ溝または前記ナットのねじ溝への食込みを「ボール食込み挙動」と呼ぶとき、本発明の一態様に係るボールねじ
のねじ溝曲率半径比設定方法は、ボール食込み挙動により、前記ねじ軸のねじ溝および前記ナットのねじ溝とが、前記ボールに対して3点で接触するものを限って対象とすることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係るボールねじ
のねじ溝曲率半径比設定方法によれば、ナットのねじ溝曲率半径RMと、ねじ軸のねじ溝曲率半径RBとの比RM/RBが、1.03≦RM/RB≦1.23となる範囲を採用したので、後述するシミュレーション解析の結果にも明らかなように、正方向作動時の軸方向変位δxFと逆方向作動時の軸方向変位δxBとの差異を小さくすることができる。よって、ボールねじの駆動方向反転時に生じるロストモーションを低減または防止することができる。但し、RM/RBの上限値としては、動定格荷重低減を20%未満(定格寿命の低減が半分未満)に抑える上で、ナットのねじ溝曲率半径RMをねじ軸のねじ溝曲率半径RBに対して1.23倍以内にする。
【0013】
予圧量が動定格荷重の3〜5%となる領域において、ロストモーションを5%以上低減するには、ナットのねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bに対して1.03倍以上となるようにすることが好ましい。なお、工作機械の送り系で用いられるダブルナット定位置予圧ボールねじは、通常、3%≦F
a/C
a≦5%となるような予圧条件下で駆動される。よって、1.03≦R
M/R
Bとすれば、ロストモーションΔe
pを5%以上低減できるので、その効果をより好適に発揮できる。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、本発明によれば、ロストモーションを低減または防止
できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一態様に係るボールねじの一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、このボールねじ10は、ねじ軸1と、ねじ軸1に対してボール3を介して螺合するナット2とを有する。
ナット2は、軸方向に並べられた第1ナット2A及び第2ナット2Bと、両ナット2A、2Bの間に介在された間座9とが一体となって構成されている。一方のナット2Aには、端部に円環状のフランジ31が形成されている。フランジ31の内周部とねじ軸1との間、および、第2ナット2Bの軸方向他端部とねじ軸2との間は防塵用シール32で塞がれている。また、二つのナット2A、2Bは、回転方向の位相がずれないようにキー溝5に挿通された不図示のキーにより回転方向が位置決めされている。
【0017】
ねじ軸1の外周面には、螺旋状のねじ溝11が形成されている。二つのナット2A、2Bは、各ナット2A、2Bの内周面に、ねじ軸1のねじ溝11に対向する螺旋状のねじ溝21がそれぞれ形成されている。また、各ナット2A、2Bには、各ナット2A、2Bの軸方向に沿ってボール戻し通路4a,4bが形成されている。そして、各ナット2A、2Bの両端には、各ナット2A、2Bのボール戻し通路4a,4bの両端部に連通するように、一対のエンドデフレクタ6a,6bがそれぞれ嵌め込まれている。
【0018】
複数のボール3は、対向するねじ溝11,21で形成される転動路とボール戻し通路とからなる循環経路内に配置される。すなわち、転動路を転動するボール3は、各ナット2A、2Bの転動路の一端まで移動した後に、一方のエンドデフレクタ6aに掬い上げられ、ボール戻し通路4a,4bを通って反対側の端部に移動し、他方のエンドデフレクタ6bから再び転動路に戻るという循環経路が形成されている。そして、この循環経路を循環しつつ転動路内で転動(負荷状態で回転しながら移動)する複数のボール3を介して、ねじ軸1とナット2とが相対移動するようになっている。
【0019】
このボールねじ10に予圧を与えるときは、二つのナット2A、2B同士の間に間座9を挟んだ状態で軸方向に締め上げ、各ナット2A、2Bに反対向きの軸方向の力を作用させて転動路内のボール3に予圧を与える。予圧量は間座9の厚みによって調整する。これにより、各ボール3は、ナット2A、2Bのねじ溝21の1点と、これに対向する位置のねじ軸1のねじ溝11の1点との2点で接触する。
【0020】
すなわち、このボールねじ10は、予圧付加方式にダブルナット間座予圧方式を採用し、左右それぞれの転動路間のリードをずらして予圧をかけることによって、ボール3と転動路との接触を二点接触形式としている。但し、本実施形態では、ナット2とねじ軸2とが、ボール4の転動を介して軸方向に相対移動する際に、ボール食込み挙動により、3点目の接触が生じるような溝形式を設定している。なお、本実施形態では、予圧付加方式にダブルナット間座予圧方式を採用した定位置予圧の例を示したが、本発明はこれに限らず、ダブルナット予圧方式によって予圧を付与するものであれば、定圧予圧を用いてもよい。
【0021】
上記対向するねじ溝11,21で形成される転動路の溝直角断面形状を
図2に示す。
このボールねじ10は、ねじ軸1のねじ溝11およびナット2のねじ溝21は、いずれもゴシックアーク溝である。すなわち、ねじ軸1のねじ溝11およびナット2のねじ溝21の横断面形状は、曲率中心の異なる2つの同一円弧を組合せた略V字状である。そして、同図に示す、ねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bと、ナットのねじ溝曲率半径R
Mとの比R
M/R
Bが、1.03≦R
M/R
B≦1.23となる範囲に設定されている。なお、ねじ軸1のねじ溝11の外側(両縁部)には、ねじ軸1の外径面12に滑らかに接続する面取り7が施されている。
【0022】
以下、上記ボールねじ10の転動路についてより詳しく説明する。
本実施形態のボールねじ10では、上記ボール3の直径、ボール3と各ねじ溝11,21との各接触角、および各ねじ溝11,21の溝半径を、
図3に示すように定義する。つまり、
図3(a)は、単体すきまが零の場合でのボール3と軌道(ねじ溝11,21)との関係を示し、このとき、ボール3とねじ軸1のねじ溝11との接触角(以下、「ねじ軸接触角」ともいう)をα
0B(反対の側はα
0B’)、ボール3とナット2のねじ溝21との接触角(以下、「ナット接触角」ともいう)をα
0M(反対の側はα
0M’)、ねじ軸1のねじ溝21の溝半径をR
B、ナット2のねじ溝21の溝半径をR
Mとする。
【0023】
同図に示すように、単体すきまが零の場合、ボール3(ボール径φD
a0)は、ねじ軸11とナット21のゴシックアーク溝とそれぞれ2か所の計4か所おいて荷重ゼロで接触する。しかし、同図のような接触状態は、ボールねじ各部の寸法誤差等によって実際にはほとんど起こり得ないと考えた方が合理的である。
つまり、本実施形態のボールねじ(特に、予圧荷重F
aが動定格荷重C
aの3〜5%となる領域において用いられるボールねじ)では、
図3(a)において破線で描かれたボール3(ボール径φD
a)のように、ボール3とねじ溝11,21との間に僅かなすきまを有するものと考える。よって、ボール3と各ねじ溝11,21とのすきま分だけねじ軸1およびナット2を軸方向に移動すれば、
図3(b)に示すように、ボール3は軌道(ねじ溝11,21)と荷重ゼロで2点接触するものと考えることができる。このとき、ボール3と軌道間の接触角は、単体すきまが零の場合の接触角α
0からα
1へと変化することになり、このときのねじ軸1とナット2間の軸方向相対変位が軸方向すきまδ
caとなる。
【0024】
次に、
図3(b)に示した態様に基づき、ボールねじを軸方向荷重下において作動させた際での、ボール3と軌道(ねじ溝11,21)との接触状態を
図4に示す。
図4(a)は、ボールねじが静止状態において、
図3(b)に示す状態から、ボールねじに作用する軸方向荷重によってボール3と軌道間に接触荷重P
2M、P
2Bがそれぞれ作用している場合を示している。
図4(a)において、ボールねじは静止状態にあるので、ボール3に作用する接触荷重P
2M、P
2Bもつり合い状態にある。そこで、ボールねじ10を「正方向作動」させると、上述した「ボール食込み挙動」によってナット2のねじ溝21の反主荷重側フランク(符号P
2Mに示すゴシックアーク溝フランクの反対側)に向かってボール3が食い込み、接触状態は、
図4(b)に示すような3点接触(符号P
3M,P
3M’,P
3Bの接触荷重が作用する箇所)の状態となる。このときのねじ軸1とナット2間の変位がδ
xFである。
【0025】
また、ボールねじ10を「逆方向作動」させると、ボール3の食込み方向も反転し、
図4(c)に示すように、「ボール食込み挙動」によってねじ軸1のねじ溝11の反主荷重側フランク(符号P
2Bに示すゴシックアーク溝フランクの反対側)に向かってボール3が食い込み、接触状態は、3点接触(符号P
4M,P
4M’,P
4Bの接触荷重が作用する箇所)の状態となる。このときのねじ軸1とナット2間の変位がδ
xBである。
【0026】
ここで、上述したように、ボールねじの駆動方向反転時のロストモーションΔe
pは、ボール3の食込み方向の逆転によって生じた、ねじ軸1とナット2間の変位δ
xF,δ
xBの差異として、(Δe
p=δ
xF−δ
xB)にて表わされる。したがって、ロストモーションΔe
pを低減する目的から、本実施形態のボールねじでは、通常のねじ溝曲率半径をもつボールねじ(ナットのねじ溝曲率半径R
M=ねじ軸のねじ溝曲率半径R
B、つまり、R
M/R
B=1)に対し、ナットのねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bよりも大きく(つまり、ナットのねじ溝曲率半径R
M>ねじ軸のねじ溝曲率半径R
B、R
M/R
B>1)設定している(
図2参照)。さらに、後述する実施例のシミュレーション解析の結果に基づいて、ナットのねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bよりも大きく設定する範囲の上限を、動定格荷重低減を20%未満(定格寿命の低減が半分未満)に抑える上で、ナットのねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bに対して1.23倍以内となるように設定した。
【0027】
つまり、本実施形態のボールねじは、ナット2のねじ溝曲率半径R
Mと、ねじ軸1のねじ溝曲率半径R
Bとの比R
M/R
Bが、上記(式2)を満たす範囲に設定されている。
以下、上記実施形態のボールねじについて、実施例に基づいてより詳しく説明する。
[第一実施例]
工作機械用のボールねじ(日本精工株式会社製ボールねじ、型式:BS3610)を表1に示す。表1に示すボールねじは、上記で説明した、単体すきまが零の場合を数値範囲を規定する基礎とした諸元を有する。
第一実施例は、表1に示すボールねじ(比較例)を用いて、
図4に示すような実際の接触状態になった場合において、ボールねじの駆動方向反転時におけるロストモーションを低減または極小化したシミュレーション解析である。
表1に第一実施例でのシミュレーション解析の基礎となるボールねじ(通常のボールねじ(比較例))の諸元を示す。
【0029】
上記比較例のような通常のボールねじが駆動反転した際における、ボール食込み挙動に起因するロストモーションを低減させる実施例として、表2に示す種々のナットのねじ溝曲率半径R
Mとなる場合についてシミュレーション解析を実施した。第一実施例では、ねじ軸1の溝R比f
pB=R
B/D
aを54%に一定とし、表2に示すように、ナットの溝曲率半径R
Mについて、R
M/R
B=1,1.02,1.03,…,0.94のように12通りに変化させた。動定格荷重C
aを表2に併せて示す。
【0031】
第一実施例におけるシミュレーション解析の結果を
図5に示す。なお、同図(a)は、(予圧荷重F
a/動定格荷重C
a)に対するロストモーションΔe
pの大きさの関係を示し、同図(b)は、(予圧荷重F
a/動定格荷重C
a)に対するロストモーションの低減率(Δe
p/Δe
p0)の関係を示している。
同図(a)から判るように、ナットのねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bよりも大きくすれば、ロストモーションΔe
pが低減されることがわかる。但し、同図(b)から判るように、R
M/R
Bの値が1.23を超えてしまうと定格寿命の低減が大きくなることから、動定格荷重低減を20%未満(定格寿命の低減が半分未満)に抑える上では、ナット2のねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸1のねじ溝曲率半径R
Bに対して1.23倍以内となるようにすることが好ましいことがわかる。
【0032】
そこで、上記実施形態では、この第一実施例のシミュレーション解析の結果に基づいて、R
M/R
Bの値の範囲を、1<R
M/R
B≦1.23に設定した。特に、この第一実施例では、同図(b)から判るように、予圧量が動定格荷重の3%の場合にロストモーションを5%以上低減するには、ナットのねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bに対して1.03倍以上にすることが好ましいことがわかる。
【0033】
すなわち、第一実施例のボールねじによれば、ナット2のねじ溝曲率半径R
Mと、ねじ軸1のねじ溝曲率半径R
Bとの比R
M/R
Bが、上記(式2)を満たす範囲に設定されているので、ロストモーションを低減または防止することができる。
なお、本発明に係るボールねじは、上記実施形態ないし第一実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。以下、他の実施例について説明する。
【0034】
以下に示す工作機械用のボールねじ(日本精工株式会社製ボールねじ、型式:BS2505(第二実施例のシミュレーション解析の基礎となるボールねじ)、BS5016(第三実施例のシミュレーション解析の基礎となるボールねじ))に対して本発明をそれぞれ適用した。第二および第三実施例においても、上記第一実施例同様に、ねじ軸1の溝R比f
pB=R
B/D
aを一定とし、ナットの溝曲率半径R
Mについて、R
M/R
B=1,1.02,1.03,…,0.94のように12通りに変化させた。実施したシミュレーション解析の結果は、それぞれ
図6、および
図7に示すように得られた。
【0035】
[第二実施例]
第二実施例のシミュレーション解析の基礎となるボールねじの諸元は以下のとおりである。
BS2505:軸径D
B=25mm,ボール中心円径d
m=25.5mm,リードL=5mm,ボール径D
a=3.175−1.40×10
−3mm,ねじ軸溝R比f
pB=54%,ねじ軸およびナット接触角α
0B=α
0M=44.42°,アキシアルすきまδ
ca=4.00μm,ナット有効巻数ζ=2.5,列数ξ=1,動定格荷重C
a=8.22kN
【0036】
図6にシミュレーション解析の結果を示す。同図に示すように、第二実施例においても、溝曲率半径比R
M/R
Bの値を、1<R
M/R
Bとすれば、ロストモーションΔe
pは低減されている。しかし、上記第一実施例同様に、溝曲率半径比R
M/R
Bの値が、1.23を超えてしまうと定格寿命の低減が大きくなることから、動定格荷重低減を20%未満(定格寿命の低減が半分未満)に抑える上では、ナット2のねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸1のねじ溝曲率半径R
Bに対して1.23倍以内とすることが好ましいことがわかる。特に、第二実施例においても、予圧量が動定格荷重の3%の場合にロストモーションを5%以上低減するには、ナットのねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bに対して1.03倍以上とすることが好ましいことがわかる。
【0037】
[第三実施例]
第三実施例のシミュレーション解析の基礎となるボールねじの諸元は以下のとおりである。
BS5016:軸径D
B=50mm,ボール中心円径d
m=51.5mm,リードL=16mm,ボール径D
a=7.9375−3.50×10
−3mm,ねじ軸溝R比f
pB=54%,ねじ軸およびナット接触角α
0B=α
0M=44.44°,アキシアルすきまδ
ca=10.00μm,ナット有効巻数ζ=2.5,列数ξ=1,動定格荷重C
a=38.5kN
【0038】
図7にシミュレーション解析の結果を示す。同図に示すように、第三実施例においても、溝曲率半径比R
M/R
Bの値を、1<R
M/R
Bとすれば、ロストモーションΔe
pは低減されている。しかし、上記第一ないし第二実施例同様に、溝曲率半径比R
M/R
Bの値が、1.23を超えてしまうと定格寿命の低減が大きくなることから、動定格荷重低減を20%未満(定格寿命の低減が半分未満)に抑える上では、ナット2のねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸1のねじ溝曲率半径R
Bに対して1.23倍以内とすることが好ましいことがわかる。特に、第三実施例においても、予圧量が動定格荷重の3%の場合にロストモーションを5%以上低減するには、ナットのねじ溝曲率半径R
Mをねじ軸のねじ溝曲率半径R
Bに対して1.03倍以上とすることが好ましいことがわかる。
【0039】
以上のように、実施例でのシミュレーション解析結果に基づき説明したように、本発明は、ボールねじの諸元に係わらず適用でき、本発明の構成、つまり、ナット2のねじ溝曲率半径R
Mと、ねじ軸1のねじ溝曲率半径R
Bとの比R
M/R
Bが、上記(式2)を満たす範囲に設定されていれば、ボールねじの諸元に係わらず、ロストモーションを低減または防止することができる。また、R
M/R
B≧1.03となる場合では、予圧荷重F
aが動定格荷重C
aの3〜5%となる領域において、ロストモーションΔe
pを5%以上低減できることがわかる。
【0040】
なお、ボールねじとしては、ダブルナット予圧方式によって予圧を付与して用いられるものであれば、種々のボールねじに本発明を適用できるが、特に、予圧荷重F
aが動定格荷重C
aの3〜5%となる領域において用いられるボールねじに対して本発明を適用することが好ましい。また、ダブルナット予圧方式についても、種々の方式を採用できるが、予圧付加方式にダブルナット間座予圧方式を採用し、左右それぞれの回路間のリードをずらして予圧をかけることによって、ボール3と軌道との接触を二点接触形式とし、当該ボールねじがボール食込み挙動により、ねじ軸のねじ溝およびナットのねじ溝とが、ボールに対して3点で接触するものに対して本発明を適用することが好ましい。また、本発明を適用する上で、アキシアル外力が無視できるような条件下に限って適用することが好ましい。