特許第6379819号(P6379819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6379819重ね溶接部材、重ね溶接部材の重ね抵抗シーム溶接方法及び重ね溶接部を備える自動車用重ね溶接部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379819
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】重ね溶接部材、重ね溶接部材の重ね抵抗シーム溶接方法及び重ね溶接部を備える自動車用重ね溶接部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/16 20060101AFI20180820BHJP
   B23K 11/00 20060101ALI20180820BHJP
   B23K 11/06 20060101ALI20180820BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   B23K11/16
   B23K11/00 570
   B23K11/06 510
   B23K11/24 315
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-157092(P2014-157092)
(22)【出願日】2014年7月31日
(65)【公開番号】特開2016-32834(P2016-32834A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100195545
【弁理士】
【氏名又は名称】鮎沢 輝万
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利哉
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】今村 高志
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−243410(JP,A)
【文献】 特開2014−087848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/16
B23K 11/00
B23K 11/06
B23K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルテンサイト組織を有する引張強さ1180MPa以上の高強度鋼板部材を1枚以上含む、複数の鋼板部材が重ね合わされて接合された重ね溶接部材であって、
重ね合わせられた前記鋼板部材の内部に重ね抵抗シーム溶接により形成されたナゲットが断続的に存在し、断続的にナゲットが形成される方向でのナゲットの大きさN(mm)が、前記高強度鋼板部材の板厚をt(mm)とすると、2√t≦N≦12√tであり、かつ前記ナゲットのうち隣接するナゲット間のビッカース硬さの最大値と最小値の差がHv70以下である重ね抵抗シーム溶接部を備えることを特徴とする重ね溶接部材。
【請求項2】
前記高強度鋼板部材がホットスタンプ処理された部材であることを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の重ね抵抗シーム溶接部を備えることを特徴とする自動車用重ね溶接部材。
【請求項4】
マルテンサイト組織を有する引張強さ1180MPa以上の高強度鋼板部材を1枚以上含む、複数の鋼板部材が重ね合わされて接合される重ね抵抗シーム溶接方法であって、
高電流と低電流(0を含む)を交互に繰り返して通電して、ナゲットを断続的に形成するとともに、断続的にナゲットが形成される方向でのナゲットの大きさN(mm)が、前記高強度鋼板部材の板厚をt(mm)とすると、2√t≦N≦12√tであり、かつ前記ナゲットの間の最高到達温度が前記高強度鋼板部材のAc3点以上の温度となるように前記通電して、前記ナゲットのうち隣接するナゲット間のビッカース硬さの最大値と最小値の差がHv70以下とすることを特徴とする重ね抵抗シーム溶接方法。
【請求項5】
前記高強度鋼板部材がホットスタンプ処理された部材であることを特徴とする請求項4に記載の重ね抵抗シーム溶接方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の鋼板部材が自動車部材であることを特徴とする重ね抵抗シーム溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鋼板部材が重ね合わされて接合された重ね溶接部材、重ね抵抗シーム溶接方法及び重ね溶接部を備える自動車用重ね溶接部材に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、鋼板から形成された複数の鋼板部材を用いて構成される構造物では、機能や使用環境に応じて、鋼板部材同士を重ね合せた重ね合せ部に対して、抵抗スポット溶接によって、ナゲットを有するスポット溶接部を形成することにより、複数の鋼板部材が接合された重ね溶接部材を構成することが広く行われてきた。例えば、モノコック構造を有する自動車車体では、衝突安全性及び燃費を向上させるために、高強度鋼板を含む鋼板部材を重ね合せ、フランジ(重ね合せ部)を抵抗スポット溶接することが一般的に行われてきた。
【0003】
一方、自動車車体の構成材料として、近年、高強度鋼板の適用が進み、引張強度が1180MPa級以上の高強度鋼板の冷間プレス品や、1500MPa級のホットスタンプ鋼板の熱間プレス品も用いられるようになってきた。
【0004】
このような高強度鋼板は、焼入れされたマルテンサイト主体の金属組織を有する。このため、スポット溶接により溶接部を形成すると、溶接部の周囲には、マルテンサイトが焼き戻しされた焼戻しマルテンサイトが生じ、硬さが低下する。例えば、1500MPa級ホットスタンプ材の場合、母材の硬さはHv460程度であるが、溶接部周囲の熱影響部(heat-affected zone、以下「HAZ」という)の硬さは、局所的にHv300程度まで低下する。
【0005】
このようなスポット溶接部の周囲のHAZ軟化部は、車両の衝突時に、車体を構成する鋼板部材の破断の起点になることがある。例えば、フランジにスポット溶接部を形成した1500MPa級のホットスタンプ材からなるレインフォースを備えるセンターピラーでは、側面衝突試験において、フランジのスポット溶接部の周囲のHAZ軟化部から、き裂が入り、センターピラーが破断することがある。
【0006】
このようなスポット溶接によるHAZ軟化部を起点とした破断現象は、引張強度が1180MPaを越える高強度鋼板で発生し、特に、水冷機能を有する連続焼鈍設備で焼入れ組織を形成した引張強さ1180MPa以上の高強度鋼板や、熱間プレスで成形したホットスタンプ材(高強度鋼板部材)のスポット溶接部において顕著に発生する。
【0007】
この対策として、非特許文献1には、ホットスタンプにより形成されるAピラーにおける衝突による破断の危険がある部分を、ホットスタンプ時に行う熱処理によって母材の強度を低下させることによって、抵抗スポット溶接が行われてもHAZ軟化を生じず、HAZ軟化部を起点とする構造部材の破断を防止する方法が開示されている。
【0008】
また、非特許文献2には、ホットスタンプにより形成されるBピラーのフランジ部を高周波加熱による焼戻しによって母材の強度を低下し、抵抗スポット溶接を行なってもHAZ軟化が生じず、HAZ軟化部を起点とする構造部材の破断を防止する方法が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献1には、高強度鋼板をスポット溶接して、その後、スポット溶接部を横断してレーザを照射することで、スポット溶接部周囲のHAZ軟化部を分断し、ひずみの集中を緩和することで破断を抑制する技術が開示されている。また、非特許文献3には、自動車車体へ抵抗シーム溶接を適用する技術が開示されている。また、特許文献2には、シーム溶接部の内部欠陥を防止し溶接品質を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2014/024997号
【特許文献2】特開平11−077326号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Tailored Properties for Press-hardened body parts Dr.Camilla Wastlund, Automotive Circle International, Insight edition 2011Ultra-high strength steels in car body lightweight design-current challenges and future potential
【非特許文献2】http://publications.lib.chalmers.se/records/fulltext/144308.pdf
【非特許文献3】http://www.mitsubishi-motors.com/jp/corporate/pressrelease/products/detail1761.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1に開示された、Aピラーの部位ごとに強度を調整する方法は、Aピラーの比較的広い範囲に低強度部が不可避的に形成されることになる。このため、高い強度を得られるというホットスタンプの効果を充分に享受することができず、軽量化の効果も限定的なものとなる。加えて、この方法では、焼入れ領域と未焼き入れ領域の間に不可避的に形成される比較的広い遷移領域において、強度特性がばらつき易く、Aピラーの衝突性能にばらつきを生じる可能性がある。
【0013】
また、非特許文献2に開示された、ホットスタンプ後にBピラーのフランジを高周波加熱により焼き戻す方法は、Bピラーが高周波加熱により発生する熱ひずみにより変形して、寸法精度が低下する可能性がある。Bピラーに限らず、Aピラー、ルーフレールといったドアー開口部周りに配置される構造部材は、例えば、ドアーパネルとの隙間が、ドアーパネル全周にわたって均一となるように建て付け精度を確保する必要がある。このため、非特許文献2に開示された技術をドアー開口部周りの構造部材に適用すると、ドアー開口部周りに配置される構造部材の寸法精度が低下し、車両の外観品質が確保できなくなる。
【0014】
一方、自動車車体の設計段階において、衝突時におけるフランジのスポット溶接部のHAZ軟化部が、破断ひずみに達することがないように、Bピラー等の構造部材を設計することが考えられる。しかし、このような設計を行うことは、構造部材を構成する鋼板の板厚の増加やレインフォースメントの追加が生じて、自動車車体のコストや重量が増加するため、困難である。
【0015】
特許文献1に開示された技術は、スポット溶接工程とレーザ溶接工程を順次行なう必要があるため、工程数の増加によるコストアップの問題がある。
【0016】
また、非特許文献3には、自動車車体へ抵抗シーム溶接を適用する技術が開示されているが、シーム溶接の狙いは車両の剛性向上であり、1180MPa級以上のマルテンサイト主体の高強度鋼板は、シーム溶接部に使用されていない。そして、上記技術は、高強度鋼板の溶接部のHAZ軟化による破断を防止する効果を狙ったものではない。また、非特許文献3の図において、シーム溶接部の溶融凝固部であるナゲットは繋がっており、このようなシーム溶接部では、溶接欠陥が発生しやすくなり、ナゲット内で破断しやすくなる。
【0017】
また、特許文献2には、アルミ合金めっき鋼板におけるシーム溶接部の内部欠陥(ブローホール)を防止し、溶接品質を向上させるために、高電流と低電流を繰り返し通電するシーム溶接技術が開示されている。特許文献2に開示された技術は、機密性が必要な燃料タンクを対象としたものであり、ナゲットが連続して繋がるように、シーム溶接することが前提である。大きなナゲットと小さなナゲットを交互に生成させることで、ブローホールと電極の汚れをともに抑制する方法である。しかしながら、高強度鋼板の場合、特許文献2に開示の技術のように、ナゲットが連続した繋がった溶接部では、ナゲット内部に割れなど欠陥が発生しやすく、ナゲット内で破断しやすくなる。
【0018】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、マルテンサイト組織を含む高強度鋼板部材を1枚以上含む鋼板部材を溶接により接合した場合に、重ね合せ部の溶接部周辺にて、低歪みで破断することを抑制することが可能な重ね溶接部材、その重ね抵抗シーム溶接方法及び重ね溶接部を備える自動車用重ね溶接部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、複数の鋼板から形成された鋼板部材が接合される重ね溶接部材において、重ね合わせ部を溶接する方法を鋭意検討した。その結果、抵抗スポット溶接の代わりに、抵抗シーム溶接で、断続的な溶融凝固部(以下「ナゲット」という)を形成し、かつ断続的なナゲットの間を焼入れ組織とすることで、溶接部での破断を抑制し、強度信頼性の高い溶接部を得ることができることを知見して、本発明を完成した。
【0020】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)マルテンサイト組織を有する引張強さ1180MPa以上の高強度鋼板部材を1枚以上含む、複数の鋼板部材が重ね合わされて接合された重ね溶接部材であって、
重ね合わせられた前記鋼板部材の内部に重ね抵抗シーム溶接により形成されたナゲットが断続的に存在し、断続的にナゲットが形成される方向でのナゲットの大きさN(mm)が、前記高強度鋼板部材の板厚をt(mm)とすると、2√t≦N≦12√tであり、かつ前記ナゲットのうち隣接するナゲット間のビッカース硬さの最大値と最小値の差がHv70以下である重ね抵抗シーム溶接部を備えることを特徴とする重ね溶接部材。
(2)前記高強度鋼板部材がホットスタンプ処理された部材であることを特徴とする前記(1)に記載の重ね溶接部材。
(3)前記(1)又は(2)に記載の重ね抵抗シーム溶接部を備えることを特徴とする自動車用重ね溶接部材。
(4)マルテンサイト組織を有する引張強さ1180MPa以上の高強度鋼板部材を1枚以上含む、複数の鋼板部材が重ね合わされて接合される重ね抵抗シーム溶接方法であって、
高電流と低電流(0を含む)を交互に繰り返して通電して、ナゲットを断続的に形成するとともに、断続的にナゲットが形成される方向でのナゲットの大きさN(mm)が、前記高強度鋼板部材の板厚をt(mm)とすると、2√t≦N≦12√tであり、かつ前記ナゲットの間の最高到達温度が前記高強度鋼板部材のAc3点以上の温度となるように前記通電して、前記ナゲットのうち隣接するナゲット間のビッカース硬さの最大値と最小値の差がHv70以下とすることを特徴とする重ね抵抗シーム溶接方法。
(5)前記高強度鋼板部材がホットスタンプ処理された部材であることを特徴とする前記(4)に記載の重ね抵抗シーム溶接方法。
(6)前記(4)又は(5)に記載の鋼板部材が自動車部材であることを特徴とする重ね抵抗シーム溶接方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マルテンサイト組織を有する高強度鋼板部材を1枚以上含む、複数の鋼板部材を重ね合わせて溶接した構造物において、重ね合わせ部の溶接部が低ひずみで破断することを抑制できる。そのため、衝突時の乗員保護性能に優れた高強度の自動車用重ね溶接部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】フランジに形成されたスポット溶接の周囲のHAZ軟化部にひずみが集中し破断した例を示す図である。
図2】引張試験片を示す図である。(a)はスポット溶接で3枚の鋼板を接合した引張試験片A、(b)は断続的に通電するシーム溶接でナゲットを断続的にして3枚の鋼板を接合した引張試験片B、(c)は高電流と低電流を交互に繰り返して通電するシーム溶接でナゲットを断続的にして3枚の鋼板を接合した引張試験片Cを示す図である。
図3】硬さ調査位置と硬さ分布を示す図である。(a)は引張試験片Aの硬さ調査位置と硬さ分布、(b)は引張試験片Bの硬さ調査位置と硬さ分布、(c)は引張試験片Cの硬さ調査位置と硬さ分布を示す図である。
図4】破断した引張試験片を示す図である。
図5】引張試験における荷重−伸び線図である。
図6】本発明をセンターピラーに適用した状況を示す図である。
図7】本発明をサイドシルに適用した状況を示す図である。
図8】本発明をAピラーからルーフレールに適用した状況を示す図である。
図9】ナゲットが連続しているシーム溶接で鋼板を接合した比較例の試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面を参照しながら、本発明を説明する。
本発明は、マルテンサイト組織を有する高強度鋼板部材を1枚以上含んでいる複数の鋼板部材の接合に、これまで用いられてきた抵抗スポット溶接に代わり、抵抗シーム溶接を用い、衝突時に引張荷重が付与されると想定される方向と略平行方向にナゲットが断続的に配置された所定の溶接部を得るものである。それにより、割れなどの欠陥のない良好な溶接部を得ることができ、溶接部にて低歪みで破断することを防止し、高強度鋼板部材やホットスタンプ材が有する高強度を充分に発揮させることができる。
【0024】
まず、本発明の重ね溶接部材を詳細に説明する。
本発明は、例えば、引張強度が1180MPa級以上の、マルテンサイト組織を有する高強度鋼板部材や、ホットスタンプで成形されてマルテンサイト組織を有する高強度鋼板部材を1枚以上含む、複数の鋼板部材を重ね合わせて、それらを重ね抵抗シーム溶接することにより、前記鋼板部材の内部(重ね合わせ部)に断続的なナゲットが形成された重ね溶接部材であり、溶接部が低ひずみで破断することを抑制するために、個々のナゲットの大きさ、ナゲット間のビッカース硬さの最大値と最小値の差を次のようにする。なお、高強度鋼板部材とは、鋼板を素材として、所定の輪郭に切断された部材や、所定の形状に加工された部材(例えば、プレス成形品)などである。
【0025】
(ナゲットの大きさN(mm):2√t≦N≦12√t)
本発明の重ね抵抗シーム溶接部では、ナゲットが断続的に形成され、断続的にナゲットが形成される方向のナゲットの大きさN(mm)が、高強度鋼板部材の板厚をt(mm)とすると、2√t≦N≦12√tである。これは、ナゲットの大きさが2√t未満の場合、ナゲットが小さいため継手の強度が不足するためである。また、ナゲットの大きさが12√tより大きくなると、炭素量がおおむね0.14質量%を超える高強度鋼板の場合、溶接中に、固液共存温度域が増加する作用と、高温域で硬さが低下した領域が広がるため、電極の加圧により通電中の溶接部の変形が大きくなる影響が重畳することで、ナゲット内に凝固割れ、ひけ巣などの内部欠陥が発生しやすくなる。好ましくは、5√t≦N≦10√tである。
【0026】
複数の高強度鋼板部材同士を重ねて抵抗シーム溶接する場合は、ナゲットの大きさは、それぞれの高強度鋼板部材の板厚に対して、2√t≦N≦12√tを満たす必要がある。なお、一般に、シーム溶接が多く用いられる燃料タンク(素材は低強度の鋼板)では、気密性の確保のため連続的な溶融凝固部が形成されている。
【0027】
(隣接するナゲット間のビッカース硬さの最大値と最小値の差:Hv70以下)
本発明では、高強度鋼板部材における衝突時の破断抑制のために、断続的なナゲットを形成し、さらに、高強度鋼板部材に断続的に形成されたナゲットと、それと隣接するナゲットの間において、ビッカース硬さの最大値と最小値の差をHv70以下とする。
【0028】
これは、断続的なナゲット形成で、割れ、ひけ巣などの欠陥を抑制するとともに、重ね抵抗シーム溶接部において、他の部位より大幅に軟化した組織の生成を防止することで、HAZ軟化による破断起点の形成を防止するためである。ナゲットとナゲットの間の熱影響部に、局部的にHv70以上軟化した領域ができると、部品の破断伸びの低下が顕著となる。硬さ低下は、Hv40以下に抑えることがより望ましい。なお、ナゲットが断続的に配置された方向と直行する方向には、Hv70以上軟化された領域は形成されるが、想定荷重方向とは一致しないため、小さい歪みで破断しない。
【0029】
次に、本発明の重ね抵抗シーム溶接方法を詳細に説明する。
本発明は、マルテンサイト組織を有する高強度鋼板部材を1枚以上含んでいる複数の鋼板部材が重ね合わされて接合される重ね抵抗シーム溶接方法であるが、上述した本発明の重ね溶接部材とするために、鋼板に対して通電を次のようにする。
【0030】
抵抗シーム溶接は、銅合金製のローラ電極を用いて加圧し、かつ通電しながら電極を回転させ、素材を溶接する方法である。このための抵抗シーム溶接機には、直流インバータ型、交流インバータ型及び単相交流型がある。本発明は、これらいずれの型の抵抗シーム溶接機も使用できるが、トランスを小型化でき、ロボットへの搭載が容易な直流インバータ型を使用することが自動車車体の溶接に望ましい。
【0031】
本発明に使用するローラ電極は特に限定されないが、銅合金製で直径が30〜300mm、電極先端幅が5〜15mm、電極先端R(曲率半径)が8〜50mm程度のものやフラット(曲率半径が無限大)であるものが例示される。例えば、薄い鋼板と、厚い鋼板、厚い鋼板の3枚を重ね合わせた部位の場合、ナゲットを形成しにくい薄い鋼板側で、ナゲットの形成を促進するために、厚い鋼板側に比べ薄い鋼板側の電極先端R、電極の直径、及び、電極先端幅を小さくする。溶接の加圧力は200〜1000kgf、電流値は3〜18kA、溶接速度は1〜10m/minの範囲が例示される。
【0032】
ナゲットとナゲットの間において、ビッカース硬さの最大値と最小値の差が、Hv70以下となるマルテンサイト主体の組織とするためには、溶接中に、ナゲットとナゲットの間における鋼板(部材)の最高到達温度を高強度鋼板のAc3点(例えば、1500MPa級ホットスタンプ材の場合、約820℃)以上、かつ融点(約1500℃)以下にすることが必要である。また、成分組成が異なる複数の高強度鋼板部材同士を重ねて抵抗シーム溶接する場合は、溶接中に、ナゲットとナゲットの間の最高到達温度をすべての鋼板部材のAc3点以上、かつ融点以下にすることが必要である。
【0033】
本発明が対象とするのは、比較的薄い鋼板部材が複数枚重ね合わされて、接合される部材である。例えば、複数枚の合計板厚が、7mm程度以下である。このような薄い重ね合わせ鋼板部材では、通電により鋼板がAc3点以上の温度に加熱された後の冷却速度は、その鋼板の臨界冷却速度よりも速くなる。つまり、冷却後、加熱された部位はマルテンサイト組織となる。最高到達温度を鋼板のAc3点以上、かつ融点以下にすることで、焼き入れ性の高い高強度鋼板部材は、溶接後の冷却過程で焼き入れされる。また、ホットスタンプ材(鋼板部材)は、通電により鋼板温度がAc3点以上に加熱され、冷却されると、鋼板部材の臨界冷却速度よりも速く冷却されるので、マルテンサイト組織となる。
【0034】
なお、Ac3点は、日本金属学会編、「鉄鋼材料」2006年、日本金属学会発行、p.43に記載された式を用いて求められる。熱膨張の温度変化を測定しても求められる。臨界冷却速度は、連続冷却変態線図(CCT曲線)を求めることによって評価できる。一例として、1500MPa級のホットスタンプ材(鋼板部材)の場合、臨界冷却速度は30℃/秒である。
【0035】
高電流と低電流の通電を繰り返し、高電流の通電時にナゲットを形成し、続く低電流の通電では、ナゲットは形成しないが、高強度鋼板部材の最高到達温度が高強度鋼板部材のAc3点以上の温度となる大きさの電流を通電することで、マルテンサイト組織とする。高電流と電流オフ(ゼロ)の繰り返し、すなわち、電流のオン・オフがある断続通電の場合、ナゲットの間の距離を狭くすることで、通電オフの場合でも、ナゲット間の最高到達温度がAc3点以上の温度を確保することが可能である。
【0036】
このようにすることで、HAZが焼戻されて軟化しない、目的のシーム溶接部を得ることができる。最高到達温度がAc3点未満であると、もともとマルテンサイト組織であった部位が焼戻され、HAZ軟化する。鋼板部材の金属組織は、鋼板部材を切断し、断面を研磨し、ナイタールエッチング後、光学顕微鏡で観察することで確認できる。ナゲットの大きさは、溶接後、鋼板部材を切断し、断面を研磨し、拡大鏡で観察することで測定できる。
【0037】
本発明の重ね抵抗シーム溶接方法では、ナゲットの間の最高到達温度が高強度鋼板部材のAc3点以上、融点以下の温度となるように、電流値や、通電時間などを設定して行なう。Ac3点以上の温度になったかどうかは、溶接後、高強度鋼板部材の金属組織を観察し、焼戻しマルテンサイトではなく、マルテンサイト主体の組織になっていることで確認できる。融点以下であるかどうかは、ナゲットが形成されないことでわかる。また、ビッカース硬さ計で、ナゲットとナゲットの間の硬さ分布を測定することでも確認できる。この場合、ビッカース硬さ測定の測定ピッチ(間隔)が広いと、HAZ軟化部を検出できない。また、硬さ測定での荷重が低すぎると、金属組織の不均一により、硬さがばらつくため測定荷重は、4.9〜49Nである必要がある。ビッカース硬さの測定条件として、荷重9.8N、測定ピッチ0.2mmであることが例示される。
【0038】
本発明のシーム溶接を施す長さは特に限定されず、衝突時に破断が発生しやすい部位に実施すればよい。自動車部品の場合、100〜1500mm程度が例示される。
【0039】
次に、本発明を具体例に基づいて説明する。
自動車の衝突の際、例えば、センターピラーに衝突すると、センターピラーインナパネルとセンターピラーレインフォース(高強度鋼板)とを重ね合わせて溶接するためのフランジ部に、引張荷重が付加されることにより、図1に示すように、フランジに形成されたスポット溶接の周囲のHAZ軟化部にひずみが集中し破断する。
【0040】
図2は、接合されたフランジ部材に引張応力が付加されて、変形し、破断する現象を模擬する試験における、引張試験片を示す図である。図2(a)はスポット溶接で3枚の鋼板部材を接合した引張試験片A、図2(b)は断続的に通電するシーム溶接で、HAZの最高到達温度が本発明範囲からはずれ、ナゲット周辺のHAZがAc3点未満に加熱され、マルテンサイトが焼戻されて軟化した状態の引張試験片B、図2(c)は高電流と低電流を交互に繰り返して通電するシーム溶接でナゲットを断続的にして、かつナゲット間の最高到達温度がAc3点以上となるように3枚の鋼板部材を接合した引張試験片C(本発明例)を示す。
【0041】
引張試験片は、図3に示すように、低強度鋼1、高強度鋼2及び低強度鋼3を重ね合わせ、左右の掴み部に4箇所ずつ合計8箇所に抵抗スポット溶接を行って(図2参照)、3枚の鋼板を固定したものである。低強度鋼1は板厚1.2mmの440MPa級非めっき鋼板、高強度鋼2は板厚1.6mmの1500MPa級アルミめっきホットスタンプ鋼板(マルテンサイト組織を有する高強度鋼板)、及び、低強度鋼3は板厚0.7mmの270MPa級合金化溶融亜鉛めっき鋼板を使用した。
【0042】
引張試験片Aは、さらに、平行部中央に1箇所スポット溶接をして固定されている。引張試験片Bは、さらに、引張試験片の平行部に断続的に通電するシーム溶接をして固定されている。引張試験片Cは、さらに、引張試験片の平行部に高電流と低電流を交互に繰り返して通電するシーム溶接をして固定されている。
【0043】
図3(a)は、引張試験片Aを用いて測定した、スポット溶接部の硬さ調査位置と硬さ分布を示す図であり、図3(b)は、引張試験片Bを用いて測定した、比較例のシーム溶接部の硬さ調査位置と硬さ分布を示す図である。また図3(c)は、引張試験片Cを用いて測定した、本発明のシーム溶接部の硬さ調査位置と硬さ分布を示す図である。図3(a)〜(c)は、硬さ調査位置4における硬さを測定して得られた硬さ分布を示す図である。いずれも、荷重9.8N、測定ピッチ0.2mmでビッカース硬さを測定した。
【0044】
図3(a)及び(b)に示すように、スポット溶接及び断続的に通電するシーム溶接では、ナゲット5の周囲のHAZで、母材のマルテンサイトが焼き戻されて、焼き戻しマルテンサイトとなり、高強度鋼板部材の母材に比べ、Hv150程度軟化した。図3(c)に示すように、高電流と低電流を交互に繰り返して通電するシーム溶接では、ナゲット5の間の最高到達温度が高強度鋼板部材のAc3点以上となり、HAZが焼戻されない。ナゲット5の間が(すべて)連続して、ほぼマルテンサイト組織となる。そのため、図3(c)のように、隣接するナゲット間のビッカース硬さの最大値と最小値の差がHV70以下となる硬さ分布が得られる。なお、図中の矢印は、ナゲットの長手方向の大きさN(mm)を示す。
【0045】
図4は、破断した引張試験片を示す図である。これは、引張試験片Aの引張試験を行なったもので、スポット溶接部の周囲のHAZ軟化部に歪みが集中して破断した。
【0046】
図5は、引張試験における荷重−伸び線図である。(a)は引張試験片A、(b)は引張試験片B、(c)は引張試験片Cの引張試験における伸びと荷重−伸び線図である。比較例である(a)及び(b)の破断伸びは、3.0%以下と小さくなる。一方、発明例である(c)の破断伸びは、6.0%以上である。
【0047】
以上が、本発明の重ね抵抗シーム溶接部を備える部材及び重ね抵抗シーム溶接方法であるが、本発明の重ね溶接部材を自動車部材に用いることが好ましい。
【0048】
次に、本発明を自動車用部品に適用した状況を説明する。
図6は、本発明をセンターピラーに適用した状況を示す図である。サイドパネルの製造工程において、270MPa級合金化溶融亜鉛めっき鋼板からなるサイドパネルアウター(図示しない)と、1500〜1800MPaホットスタンプ材からなるセンターピラーレインフォース6と、440〜780MPa級非めっき鋼板からなるセンタピラーインナー(図示しない)とを、それぞれの縁部に形成されたフランジで重ね合わせて、抵抗スポット溶接7を行って仮止めする。その後、メインボディラインで、3枚の鋼板のプレス品を重ねシーム溶接8する。
【0049】
図6に示すように、シーム溶接8は、フランジの全ての溶接部に実施する必要はなく、破断リスクの高いセンターピラー上部や下部だけでも良い。つまり、スポット溶接では衝突による破断が予想される部位のみに、本発明のシーム溶接を実施すればよく、他の部位はスポット溶接でも良い。また、1500〜1800MPaホットスタンプ材からなるセンターピラーレインフォースのフランジ幅を短くし、440〜780MPa級非めっき鋼板からなるセンタピラーインナーの2枚重ねでシーム溶接を行い、440〜780MPa級非めっき鋼板と270MPa級合金化溶融亜鉛めっき鋼板の間はスポット溶接を行なってもよい。
【0050】
図7は、本発明をサイドシルに適用した状況を示す図である。サイドシルもセンターピラーと同様に、メインボディラインでアンダーボディと組み立てられ、スポット溶接7で仮止めされた後、シーム溶接8される。サイドシルは、590〜1800MPa級鋼板(GAめっきもしくは、アルミめっきホットスタンプ)からなるサイドシルインナーパネルと、1180〜1800MPa級鋼板(GAめっきもしくは、アルミめっきホットスタンプ)からなるサイドシルアウターレインフォースと、270MPa級合金化溶融亜鉛めっき鋼板からなるサイドシルアウターパネルとを、それぞれの縁部に形成されたフランジで重ね合わされて構成される。このとき破断が予想される部位に、本発明のシーム溶接部8を形成する。
【0051】
図8は、本発明をAピラーからルーフレールに適用した状況を示す図である。図8に示すように、Aピラーからルーフレールもセンターピラーと同様に、Aピラーからルーフレールを含むサイドパネルは、メインボディラインでアンダーボディと組み立てられ、シーム溶接8される。Aピラー及びルーフレール、それぞれは、インナーに590〜1800MPa級鋼板からなる成形パネルと、その外側に1500〜1800MPa級ホットスタンプ材からなる成形パネルと、最外側に270MPa級合金化溶融亜鉛めっき鋼板のサイドパネルアウターとの3枚重ねにより構成される。このとき破断が予想される部位に本発明のシーム溶接部を形成する。また、組み立て時に仮止めのスポット溶接7された部位に重畳して、シーム溶接8を行なっても良い。スポット溶接のHAZ軟化部が本発明のシーム溶接で再焼入れされ、破断が抑制できる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0053】
表1に、試験片の材料を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
図3に示すように、材料1〜3を重ね合わせて試験片を作成した。表1において、270MPa−0.7tは、270MPa級の合金化溶融亜鉛めっき鋼板、及び、440MPa−1.2tは、440MPa級の非めっき冷延鋼板を示す。また、1500MPa−1.6tは、1500MPa級のアルミめっきホットスタンプ鋼板、1800MPa−1.6tは、1800MPa級の非めっきホットスタンプ鋼板、及び、1180MPa−1.6tは、1180MPa級の非めっき冷延鋼板を示し、これら3つの鋼板は、金属組織中にマルテンサイト組織が含まれる高強度鋼板である。
【0056】
表2に、溶接法、長手方向のナゲットの大きさ(径)及び、溶接の通電設定条件を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
シーム溶接
インバータ直流シーム溶接機を用いて、電極径100mm、電極先端を薄板側R15、厚板側R50mmのクロム銅製電極を用いて、加圧力400kgf、電流3.0〜9.5kA、溶接速度3.0m/minで電流波形を変化させて直線状のシーム溶接を行ない、比較例と本発明例の試験片を得た。
【0059】
スポット溶接
インバータ直流スポット溶接機を用いて、DR型電極、先端6mm、加圧力400kgf、通電時間333msec、5√tのナゲット径が得られる電流値に調整し、スポット溶接試験片を得た。
【0060】
試験片の溶接箇所は、図2の引張試験片A〜Cと同様とした。つまり、試験片の左右の掴み部に4箇所ずつ合計8箇所に抵抗スポット溶接を行って、3枚の鋼板を固定し、シーム溶接では、さらに、試験片の平行部にシーム溶接をし、スポット溶接では、さらに、試験片の平行部中央に1箇所スポット溶接をした。
【0061】
また、比較例として、シーム溶接において、ナゲットが連続している試験片を作成した。図9は、ナゲットが連続しているシーム溶接で鋼板を接合した比較例の試験片を示す。
【0062】
表2の14通りの試験水準においては、同一水準で2枚ずつ試験片を作成した。各水準において、1枚の試験片は、引張試験のみに使用した。もう1枚の試験片は、断続的にナゲットが形成される方向(すなわち、試験片の長手方向)でのナゲットの大きさ(径)の測定、硬さ分布測定及び金属組織の観察に供した。
【0063】
引張試験は、溶接部を評点距離50mmとして、引張速度3mm/minで引張試験を実施し、破断伸びを評価した。引張試験に用いなかった試験片は、長手方向に切断し、切断面を研磨し、図3のように、ナゲットとナゲットの間において、ビッカース硬さ測定を行なった。測定条件は、荷重9.8N、測定ピッチ0.2mmである。また、拡大鏡を用いてナゲットの大きさを測定した。金属組織は、研磨面をナイタールエッチングし、光学顕微鏡観察することで確認した。結果を表2に示す。
【0064】
表2に示すように、本発明のシーム溶接部では6.0%以上の破断伸びが得られた。一方、比較例では、破断伸びは小さかった。また、シーム溶接でも比較例のようなナゲット径が小さい場合は、破断伸びは低下しなかったが、引張りせん断試験での強度が低かった。また、ナゲット径が大きすぎる場合や、ナゲットが連続的に繋がる場合に溶接部の割れ起因と考えられる、ナゲット内部での低歪みでの破断が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、マルテンサイト組織を有する1180MPa級以上の高強度鋼板部材を1枚以上含む、複数の鋼板部材を重ね合わせて溶接した構造物において、重ね合わせ部の溶接部が低ひずみで破断することを抑制できる。よって、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0066】
1 低強度鋼
2 高強度鋼
3 低強度鋼
4 硬さ調査位置
5 ナゲット
6 センターピラーレインフォース
7 抵抗スポット溶接
8 シーム溶接
A 引張試験片
B 引張試験片
C 引張試験片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9