(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地上に接しておらず且つ津波による水位上昇に伴って水没すると空気溜まりが生じる凹部を下面側に備えた構造物の構造物模型に、下面側に前記構造物の凹部に対応する凹部を設けた構造物模型を用い、
試験水槽にて、前記構造物模型に対する相対的な水の流れを、津波を前記構造物模型の縮尺に応じてモデル化した波の流速に一致した流速で発生させ、
この状態で、前記構造物模型を、前記水槽の水面に接する位置から、前記津波をモデル化した波の時系列変化する水位の値の反数に応じた位置制御量で、予め定めた水面下に没する或る深度まで下降させ、
その後、前記所定深度に配置された構造物模型が、前記津波をモデル化した波の流速に一致した流速の相対的な水の流れの中で受ける荷重を計測し、
その計測結果を基に、前記構造物に津波が作用するときに該構造物が受ける津波の波力を求めるようにすること
を特徴とする津波波力計測方法。
前記曳航水槽における台車の走行速度の制御により、津波をモデル化した波の流速の相対的な水の流れを発生させた状態で、前記構造物模型を、前記水槽の水面に接する位置から、前記津波をモデル化した波の時系列変化する水位の値の反数に応じた位置制御量で、予め定めた水面下に没する深度まで下降させ、
次に、構造物模型の下面側の凹部に生じた空気溜まりの空気が漏れない速度で、台車を走行開始側へ戻し、
その後、前記台車の走行を再開させて、所定深度に配置された構造物模型に対する津波をモデル化した波の流速の相対的な水の流れを発生させた状態で、前記構造物模型が前記相対的な水の流れの中で受ける荷重を計測するようにする
請求項2記載の津波波力計測方法。
地上に接しておらず且つ津波による水位上昇に伴って水没すると空気溜まりが生じる凹部を下面側に備えた構造物の構造物模型に用いる、下面側に前記構造物の凹部に対応する凹部を設けた構造物模型と、
前記構造物模型に対して相対的な水の流れを発生させるための試験水槽と、
前記試験水槽内にて前記構造物模型を水面よりも上方位置から、水没する位置まで昇降させるための昇降駆動装置と、
前記構造物模型に作用する荷重を計測するための荷重計測手段と、
制御器を備え、
前記制御器は、前記試験水槽にて発生させる前記構造物模型に対して相対的な水の流れの流速を、津波を前記構造物模型の縮尺に応じてモデル化した波の流速に一致した流速に制御する波速制御部と、
前記昇降駆動装置に対し、前記構造物模型を、前記水面に接する位置から、前記津波をモデル化した波の時系列変化する水位の値の反数に応じた位置制御量で、予め定めた水面下に没する或る深度まで下降させるよう指令を与える相対水位制御部と、
前記所定深度に配置された構造物模型が前記津波をモデル化した波の流速に一致した流速の相対的な水の流れの中で受ける荷重を、前記荷重計測手段により計測させる計測制御部を備える構成としたこと
を特徴とする津波波力計測装置。
【背景技術】
【0002】
構造物に作用する津波の波力を計測することは、過去の大地震に伴う津波により構造物に生じた被害について検証するため、あるいは、設計する構造物に対する津波の影響を予測するために必要とされている。
【0003】
そこで、従来では、構造物模型を用いた水槽試験による津波の波力計測手法が行われてきている。これは、構造物模型に対して津波をモデル化した波を作用させ、この構造物模型が受ける力を計測し、その結果を基に、構造物模型の縮尺に応じた演算を行うことで、実際の構造物が受ける力を求めるものである。
【0004】
この種の津波の波力計測手法の一つとしては、回流水槽における定常流発生区間に、構造物模型である橋桁模型を水没させた状態に配置して、この橋桁模型が定常流中で受ける力として、水平波力と鉛直波力と回転モーメントを計測する手法が従来提案されている。
【0005】
この手法によれば、津波による水位上昇により水没した橋桁に対し、津波が定常流として作用するときの波力が計測できるとされている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0006】
なお、回流水槽は、船舶の模型を用いて航行時に生じる抵抗を計測するための試験水槽として広く使用されており、同様の計測に用いる別の形式の試験水槽としては、曳航水槽が広く知られている。
【0007】
ところで、橋桁(橋の上部構造)は、地上には直接接していない構造物である。
【0008】
更に、橋桁は、下面側に、下方にのみ開放された凹部を有していることがある。たとえば、複数の主桁を有する桁橋では、橋桁の下面側には、橋軸方向に延びる複数の主桁と、橋軸方向に或る間隔で配列された橋軸直角方向の複数の横桁が格子状に配置されている。そのため、この形式の桁橋では、隣接する主桁と隣接する横桁とにより側方を囲まれた格子目の領域が、下方にのみ開放された凹部となっていることが多い。
【0009】
下面側に前記のような凹部を有する形式の橋桁が、津波による水位上昇に伴って水没すると、凹部の下端側の開口部分が水面により閉塞されるため、該凹部には、空気溜まりが生じる。この空気溜まりに存在する空気は、水中で、その体積分の浮力を生じる。
【0010】
一方、橋桁に定常的に作用する流体力は、下向きに作用するとされている(たとえば、非特許文献2参照)。
【0011】
そのため、津波により水没した橋桁に作用する鉛直方向の力は、上向きの浮力と、下向きの流体力との合算値となる。したがって、津波により水没した橋桁に作用する鉛直波力を含む津波の波力を正しく評価するためには、水没した橋桁の下面側に生じる空気溜まりに存在する空気の体積分の浮力の影響を加味する必要がある。
【0012】
しかし、非特許文献1に示された橋桁模型は、主桁間の空間が主桁の両端側で側方に開放された構成となっている。そのため、この模型を水没させて配置した状態で行う非特許文献1に示された手法では、橋桁の水没時に橋桁の下面側に生じる空気溜まりの空気による浮力の影響は、正しく評価されていないというのが実状である。
【0013】
したがって、橋桁のように、地上に直接接しておらず且つ水没時に空気溜まりが生じる凹部を下面側に備えた構造物については、水没時に前記凹部に生じる空気溜まりの空気の体積分の浮力を加味した状態で、該構造物に対し作用する鉛直波力を含む津波の波力を計測するための手法は、従来は提案されていないというのが実状である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0024】
図1(a)(b)乃至
図4(a)(b)(c)(d)は本発明の津波波力計測方法及び装置の実施の一形態を示すものである。
【0025】
ここで、先ず、本発明の津波波力計測方法の実施に用いる津波波力計測装置の構成について説明する。
【0026】
本発明の津波波力計測装置は、
図1(a)(b)に示すように、構造物模型に対し相対的な水の流れを発生させるための試験水槽として、たとえば、曳航水槽1を備える。
【0027】
曳航水槽1は、一軸方向に延びる水槽本体2と、該水槽本体2の上部に長手方向に沿って配置されたレール等のガイド3と、ガイド3に沿って走行可能な台車4と、台車4の走行駆動装置5を備えた構成とされる。
【0028】
台車4には、上下方向に延びる架台6が取り付けられている。架台6には、水槽本体2に貯留された水7の水面7aの上方に張り出すように配置した昇降台8がある。昇降台8は、上下方向に延びる図示しないガイドを介して上下方向に移動可能に取り付けられている。更に、架台6と昇降台8との間には、昇降駆動装置としての上下方向に延びるボールねじ機構9が設けられている。
【0029】
昇降台8の下方には、荷重計測手段としてのロードセル10と、上下に延びる棒状の連結部材11を介して、構造物模型が取り付けられている。
【0030】
この構造物模型は、地上に接しておらず且つ津波による水位上昇に伴って水没すると空気溜まりが生じる凹部を下面側に備えた構造物の模型である。これには、たとえば、鈑桁橋の橋桁(上部構造)をモデル化した橋桁模型12が用いられる。
【0031】
橋桁模型12は、
図1(b)に示す如く、橋軸方向に延びる矩形の平面形状を有する床版部材13と、床版部材13の下面に取り付けた橋軸方向に延びる複数本、たとえば、4本の主桁部材14とにより、前記鈑桁橋の橋桁を模した構造体として形成されている。更に、この構造体の橋軸方向の両端部には、橋軸直角方向に延びる矩形板状の端部閉塞板15が、床版部材13と各主桁部材14の一端部同士、及び、他端部同士をそれぞれ繋ぐように取り付けてある。なお、端部閉塞板15は、前記鈑桁橋における横桁を模した部材としてもよい。これにより、橋桁模型12は、その下面側における隣接する主桁部材14と各端部閉塞板15によって側方を囲まれた領域に、下方にのみ開放された3つの凹部16a,16b,16cを備えた構成としてある。
【0032】
橋桁模型12は、床版部材13の上面の中央部に、連結部材11の下端部が取り付けられている。
【0033】
以上の構成としてある本発明の津波波力計測装置では、ボールねじ機構9を駆動モータ9aにより作動させることにより、昇降台8は昇降動作を行う。これに伴って、橋桁模型12は、水槽本体2の内側で昇降動作させられる。
【0034】
なお、ボールねじ機構9は、橋桁模型12を、水槽本体2に貯留された水7の水面7aよりも上方に配置させた状態から、該橋桁模型12全体が水面7a下の或る深さ位置に完全に水没するよう配置した状態までの間で昇降動作させるための昇降ストロークを有している。
【0035】
又、ロードセル10は、橋桁模型12に作用する台車4の走行方向に沿う水平方向、すなわち、水槽本体2に貯留された水7に対して相対的に移動する方向と、鉛直方向の少なくとも2軸方向の荷重を計測できるようにしてあるものとする。
【0036】
更に、本発明の津波波力計測装置は、制御器17を備える。
【0037】
制御器17は、ボールねじ機構9の駆動モータ9aに指令を与える相対水位制御部17aと、台車4の走行駆動装置5に指令を与える波速制御部17bを備えているものとし、ロードセル10に接続された計測制御部17cを更に備えている。
【0038】
ここで、
図2(a)(b)を用いて制御器17における制御の内容について説明する。
【0039】
先ず、
図2(a)に示すように、橋桁模型12に対応する実際の構造物である橋桁18と、橋桁18に作用する津波19の波形について考える。
【0040】
橋桁18は、道路構造令により建築限界が定められており、たとえば、立体交差する道路橋(高架橋)の場合、桁下空間として4.5mの地上高が確保されている。
【0041】
これに対し、津波19の波形は、たとえば、津波先端部の段波状部分19aで2m〜3mの急な水位の増加が生じ、その後は、水位が毎分1m〜2mの上昇速度で上昇する部分19bになるものとする。
【0042】
この場合、津波19の段波状部分19aは、橋桁18の下方を通過するため、橋桁18には、津波19の水位が毎分1m〜2mの上昇速度で上昇する部分19bのみが作用するようになる。
【0043】
そこで、先ず、
図2(a)に示す如き津波19の波形については、橋桁18への作用が開始される点、すなわち、橋桁18の下端の高さ位置と水位が同一となる点sを求め、この点s以降の津波19の波形について、点sでの水位を基準(H0)とする水位Hの時系列変化を求める。
【0044】
次に、前記のようにして求められた橋桁18に作用する津波19の水位Hの時系列変化は、橋桁模型12の実際の橋桁18に対する縮尺に対応したフルードの相似則が得られるように寸法及び時間を縮小させる計算処理を行って、津波をモデル化した波について、
図2(b)に二点鎖線で示すように、橋桁模型12に対応させた水位hの時系列変化を有する波形とさせる。
【0045】
ところで、本発明の津波波力計測装置では、水槽本体2に貯留された水7の水位は一定である。よって、橋桁模型12の位置を下降させれば、相対的な水位は上昇し、橋桁模型12の位置を上昇させれば、相対的な水位は下降することになる。
【0046】
そこで、制御器17の相対水位制御部17aでは、
図2(b)に二点鎖線で示された水位hの値の反数として求められる値を、
図2(b)に実線で示す如き橋桁模型12の位置制御量xの時系列変化として設定するようにしてある。なお、位置制御量xは、基準高さ位置(x=0)が、橋桁模型12の下端が水槽本体2に貯留された水7の水面7aに接する高さ位置であり、マイナスの値は前記基準高さ位置よりも下方を意味し、プラスの値は前記基準高さ位置よりも上方を意味している。
【0047】
よって、相対水位制御部17aでは、時間の経過と共に、位置制御量xの時系列変化に関する指令を、ボールねじ機構9の駆動モータ9aへ順次与えて、橋桁模型12の高さ位置を制御する。これにより、橋桁模型12に対する相対的な水位の時系列変化は、
図2(b)に二点鎖線で示した前記津波をモデル化した波の水位hの時系列変化に一致させられるようにしてある。
【0048】
なお、前述したように、位置制御量xがゼロの状態では、橋桁模型12の下端が水面7aに接した状態である。そこで、相対水位制御部17aでは、後述する橋桁模型12を水没させる操作を行う場合に、橋桁模型12の移動を、水面7aよりも上方に或る寸法離れた状態から開始させることができるようにする。そのために、位置制御量xについては、
図2(b)に一点鎖線で示すように、位置制御量xがゼロとなる時点tよりも以前に、位置制御量xをプラス側の或る値からゼロへと変化させる制御を行うようにしてある。なお、この時点tよりも以前の期間における位置制御量xの変化率(
図2(b)における傾き)は、時点tの直後の位置制御量xの変化率(傾き)に近似させるようにしておけばよい。
【0049】
更に、制御器17は、津波19の速度(波速)について、橋桁模型12の実際の橋桁18に対する縮尺に対応したフルードの相似則が得られるようにするための計算処理を行って、津波19をモデル化した波の速度vを求める。波速制御部17bは、求められた速度vの値を、台車4の走行駆動装置5へ、指令として与えるようにしてある。これにより、台車4が速度vで走行させられると、台車4に架台6、昇降台8、ロードセル10及び連結部材11を介して支持されている橋桁模型12は同じ速度vで移動する。よって、橋桁模型12は、水槽本体2に貯留された水7に対して、前記津波をモデル化した波の速度vに一致した相対速度で移動させられるようにしてある。
【0050】
制御器17は、橋桁模型12を、前述した相対水位制御部17aにより制御される位置制御量xと、波速制御部17bにより制御される速度vで移動させて、予め設定してある水面7a下の或る深さ位置に完全に水没した状態に配置させる。計測制御部17cは、この所定の深さ位置で橋桁模型12を速度vで移動させる状態において、ロードセル10による橋桁模型12に作用する荷重の計測を開始させる機能を備えている。
【0051】
以上の構成としてある本発明の津波波力計測装置を用いて津波波力の計測を行う場合は、橋桁模型12を、ボールねじ機構9により、
図3(a)に示すように、
図2(b)における位置制御量xの開始点に対応する水面7a上の所定の高さ位置に予め配置させる。
【0052】
この状態で、制御器17は、先ず、波速制御部17bより、台車4の走行駆動装置5へ指令を与えて、台車4の速度vに一致した速度での走行を開始させる。
【0053】
次いで、制御器17は、相対水位制御部17aより、ボールねじ機構9の駆動モータ9aへ、
図2(b)に示した橋桁模型12の位置制御量xの指令を与えるようにする。
【0054】
これにより、橋桁模型12は、
図2(b)に示した所定の時点tで、
図3(b)に二点鎖線で示すように、速度vに一致した速度で相対移動する水面7aに橋桁模型12の下端を接触させる。
【0055】
その後、橋桁模型12は、相対水位制御部17aによる
図2(b)に示した如き位置制御量xの時系列変化に応じて位置を下降させる制御が連続的に行われる。これにより、橋桁模型12は、次第に水面7aに没入させられ、位置制御量xの絶対値が、橋桁模型12の高さ寸法を越えると、
図3(b)に実線で示すように、水面7a下に完全に水没させられる。
【0056】
相対水位制御部17aは、橋桁模型12を完全に水没させた後、位置制御量xの値が予め設定してある或るマイナスの値に達すると、橋桁模型12の下降を停止させる。これにより、橋桁模型12は、その下端部が前記位置制御量xの値に対応する或る深度に達した位置に配置される。
【0057】
又、波速制御部17bは、橋桁模型12の下端部が前記或る深度に配置されると、台車の走行を緩やかに停止させる。これにより、橋桁模型12は、
図3(c)に示す如き配置で上下方向及び水平方向の移動が一旦停止される。
【0058】
前記のように橋桁模型12が水面7aに接した時点から、水面7a下に水没させる過程では、橋桁模型12には、水7が津波19をモデル化した波の速度vで相対的に当たると同時に、津波19をモデル化した波の水位hの時系列変化に一致した相対的な水位変化が生じるようになる。
【0059】
したがって、この橋桁模型12の水没過程は、実際の橋桁18が津波19を受けて水没する状況を模したものとすることができる。
【0060】
更に、この橋桁模型12の水没過程においては、橋桁模型12の下端が水面7aに接する時点で、橋桁模型12の下面側の各凹部16a,16b,16cの下端側の開口部分が水面7aによって閉塞される。そのため、各凹部16a,16b,16cには、空気が満たされる。この各凹部16a,16b,16cに満たされた空気には、橋桁模型12の下降に伴って、橋桁模型12の下端部の水深に比例した水圧が、下方より作用することになる。
【0061】
本発明では、橋桁模型12を水没させる工程を、橋桁模型12を水7に対し速度vの相対速度で移動させながら行っている。そのため、各凹部16a,16b,16cの下方には、橋桁模型12が水面7aに接した直後から速度vの相対的な水の流れが生じる。
【0062】
このため、本発明では、
図4(a)に示すように、橋桁模型12の下端部の水深dが小さくて、各凹部16a,16b,16cに満たされた空気に対して下方から作用する水圧P=ρgd(ρは水の密度、gは重力加速度)が小さい状態のうちから、各凹部16a,16b,16cの下方には、
図4(a)に二点鎖線で示す如き速度vの水の相対的な流れが生じることになる。よって、各凹部16a,16b,16c内の空気は、前記のように下方から作用する水圧P=ρgdが小さい状態のうちから、下方で生じる速度vの水の相対的な流れによる圧力低下により、外部へ吸出しが行われるようになる。なお、
図4(a)における右側の三角形は、深度に比例する水圧の大きさを模式的に示したものである(
図4(b)(c)(d)も同様)。
【0063】
この橋桁模型12の各凹部16a,16b,16cからの空気の吸出しは、橋桁模型12が、
図4(b)に示すように、下端部が水深D(D>d)に配置されるまでの水没過程の間、連続して行われる。
【0064】
したがって、橋桁模型12が、
図3(c)に示したように、前記水没過程を経て或る深度に配置された状態では、各凹部16a,16b,16c内に残留して空気溜まり20を生じる空気の量は、実際の橋桁18が津波19を受けて水没するときに、橋桁18の下面側の凹部に残留して空気溜まりを生じる空気の量を模したものとすることができる。
【0065】
これにより、橋桁模型12には、各凹部16a,16b,16cに生じた空気溜まり20に存在する空気の体積分の浮力が作用するようになる。よって、この浮力は、実際の橋桁18が津波19を受けて水没するときに、橋桁18の凹部に生じる空気溜まりに存在する空気の体積分の浮力を模したものとなる。
【0066】
なお、ここで、
図4(c)に示すように、前記と同様の橋桁模型12を、相対速度ゼロの静水中で単に水没させて、下端部が水深Dとなる位置に配置した場合を考える。この場合は、橋桁模型12の下端部が水深Dに配置された時点で、各凹部16a,16b,16cには空気が満たされたままの状態となる。又、この状態で、各凹部16a,16b,16cに満たされた空気に対しては、下方から、その水深Dに比例して水面付近よりも大きくなった水圧P=ρgDが下方から作用することになる。
【0067】
したがって、この場合は、たとえ、その後、
図4(d)に示すように、橋桁模型12を、速度vの相対速度で水中で移動させたとしても、各凹部16a,16b,16c内の空気には、既に下方から前記大きな水圧P=ρgDが作用しているために、空気が抜け難い。
【0068】
このため、
図4(c)(d)の手法では、橋桁模型12の各凹部16a,16b,16cに残留して空気溜まりを生じる空気の量は、実際の橋桁18が津波19を受けて水没するときに、橋桁18の下面側の凹部に残留して空気溜まりを生じる空気の量を模したものとすることができず、より多い空気量となる。したがって、
図4(c)(d)の手法によって水没させた橋桁模型12では、
図4(a)(b)に示した本発明の手法によって水没させた橋桁模型12に比して、空気溜まりに存在する空気の体積分の浮力の影響が過大となってしまうために、この浮力の影響を正確に測ることができない。
【0069】
図3(c)のように、橋桁模型12を所定の水深に配置した後、制御器17は、波速制御部17bより、台車4の走行駆動装置5へ指令を与えて、
図3(d)のように、台車4の速度vでの走行を再開させて、橋桁模型12を速度vの相対速度で水中を移動させる。
【0070】
この状態で、制御器17の計測制御部17cでは、ロードセル10による橋桁模型12が水中で受ける前記2軸方向の荷重の計測を開始させる。なお、ロードセル10による橋桁模型12が水中で受ける前記2軸方向の荷重の計測は、水没させた橋桁模型12を速度vの相対速度で水中を移動させた状態のときに開始させることに代えて、ロードセル10による荷重計測は終始継続して行っておき、その計測結果から、後で、橋桁模型12を速度vの相対速度で水中を移動させる状態に対応する部分の計測結果を取り出して得るようにしてもよい。この場合、計測制御部17cは、相対水位制御部17aと波速制御部17bを備えた制御器17とは別体としてもよい。
【0071】
これにより、水没させた橋桁模型12では、凹部16a,16b,16cに生じた空気溜まり20の空気の体積分の浮力が加味された状態で、橋桁模型12に作用する鉛直波力を含む荷重の計測が行われる。
【0072】
したがって、その後は、ロードセル10による橋桁模型12に作用した荷重の計測結果を基に、橋桁模型12の縮尺に応じた解析を行うことで、実際の橋桁18に津波19が作用するときに(
図2(a)参照)、橋桁18の下面側の凹部に生じる空気溜まりに存在する空気の体積分の浮力を加味した状態で、橋桁18に作用する鉛直波力を含む津波の波力が算出される。
【0073】
このように、本発明の津波波力計測方法及び装置によれば、構造物模型としての橋桁模型12を用いた水槽試験により、地上に直接接しておらず且つ水没時に空気溜まりが生じる凹部を下面側に備えた構造物である橋桁18が津波19を受けるときの波力を、橋桁18が水没するときに凹部に生じる空気溜まりに存在する空気の体積分の浮力の影響を加味した状態で、計測することができる。
【0074】
更に、橋桁模型12に対する相対的な水位の制御は、橋桁模型12の昇降方向の移動量の制御により実施するようにしてあるため、高い制御性を得ることができる。又、橋桁模型12の水7(水面7a)に対する相対的な速度は、台車4の走行速度の制御により実施するようにしてあるために、高い制御性を得ることができる。
【0075】
したがって、本発明の津波波力計測方法及び装置では、橋桁模型12を水没させるときの条件を、実際の橋桁18が津波19を受けて水没するときの津波19の周期、水位変化、速度についての再現性の高いものとすることができる。
【0076】
しかも、本発明の津波波力計測方法及び装置は、従来、船舶の模型を用いて航行時に生じる抵抗を計測するための試験装置として広く用いられている曳航水槽1を利用して、容易に実現することができる。
【0077】
なお、前記実施の形態では、
図3(a)(b)による橋桁模型12を水没させて所定の深度に配置する工程の後、
図3(c)に示すように、曳航水槽1における台車4の走行を一旦停止させるものとして説明したが、橋桁模型12の水没工程の後、台車4の速度vでの走行を継続したまま、ロードセル10による荷重の計測を開始するようにしてもよい。
【0078】
又、本発明の津波波力計測方法は、応用例として、
図3(a)(b)に示した橋桁模型12を水没させて所定の深度に配置させる工程の後、
図3(c)に示したと同様に台車4の走行を一旦緩やかに停止させる。更に、この状態で、台車4は、橋桁模型12の凹部16a,16b,16cの空気溜まり20の空気が漏れないような遅い速度で走行開始側へ戻す。その後、台車4は、速度vでの走行を再開させると共に、ロードセル10による荷重の計測を開始させるようにしてもよい。この手法によれば、曳航水槽1の全長が短い場合であっても、本発明の津波波力計測方法を実施することが可能になる。
【0079】
更に、本発明の津波波力計測方法の別の応用例として、構造物模型が、台車4の走行に伴う水7との相対移動方向に前後対称な形状を備え、且つ水没時に空気溜まりが形成される凹部が、前記水7との相対移動方向に一つのみ有する構成である場合は、
図3(a)(b)に示した橋桁模型12を水没させて所定の深度に配置させる工程の後、
図3(c)に示したと同様に台車4の走行を一旦停止させ、その後、台車4を逆方向に速度vで走行させながら、ロードセル10による荷重の計測を開始させるようにしてもよい。
【0080】
次に、
図5は本発明の実施の他の形態を示すもので、
図1(a)(b)乃至
図4(a)(b)(c)(d)の実施の形態と同様の構成において、構造物模型に対し相対的な水の流れを発生させるための試験水槽として、曳航水槽1を用いる構成に代えて、回流水槽21を用いる構成としたものである。
【0081】
回流水槽21は、水路形状の水槽本体22の両端部に、水7を循環させるためのポンプ24付きの循環流路23を接続した構成としてある。
【0082】
水槽本体22の上側には、
図1に示した架台6と同様の架台6が支持部材25を介して取り付けてある。この架台6には、
図1に示したものと同様に、ボールねじ機構9により昇降させる昇降台8が取り付けられている。昇降台8の下側には、ロードセル10と連結部材11を介して、構造物模型としての橋桁模型12が取り付けられている。
【0083】
更に、本実施の形態における橋桁模型12に対する相対的な水の流れは、ポンプ24の運転により水槽本体22に水7を循環流通させることにより生じる。
【0084】
この点に鑑みて、本実施の形態では、制御器17の波速制御部17bは、
図1(a)(b)乃至
図4(a)(b)(c)(d)の実施の形態と同様の処理により求めた津波19をモデル化した波の速度vの値を、回流水槽21のポンプ24へ、指令として与えるようにしてある。これにより、ポンプ24の運転の制御により、水槽本体22に、橋桁模型12に対して速度vに一致した相対速度で移動する水7の流れを発生させることができるようにしてある。
【0085】
その他の構成は
図1(a)(b)乃至
図4(a)(b)(c)(d)に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0086】
以上の構成としてある本実施の形態の津波波力計測装置を用いる場合は、先ず、橋桁模型12を水槽本体22における水面よりも上方に配置させた状態で、ポンプ24の運転により、水槽本体22に、所定の流速の水7の流れ(定常流)を形成させる。
【0087】
その後は、
図1(a)(b)乃至
図4(a)(b)(c)(d)の実施の形態と同様に、制御器17の相対水位制御部17aより、ボールねじ機構9の駆動モータ9aへ橋桁模型12の位置制御量xの指令を与えるようにする。
【0088】
これにより、本実施の形態によっても、
図1(a)(b)乃至
図4(a)(b)(c)(d)の実施の形態と同様に、橋桁模型12の下面側の凹部16a,16b,16cに、実際の橋桁18に津波19が作用するときに橋桁18の下面側の凹部に生じる空気溜まりを模した空気溜まり20(
図3(c)(d)参照)を、生じさせることができる。
【0089】
したがって、水没させて所定の水深に配置させた後は、ロードセル10による橋桁模型12に作用する荷重の計測を開始させることで、
図1(a)(b)乃至
図4(a)(b)(c)(d)に示した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
しかも、本実施の形態の津波波力計測方法及び装置は、従来、船舶の模型を用いて航行時に生じる抵抗を計測するための試験装置として広く用いられている回流水槽21を利用して容易に実現することができる。
【0091】
なお、本発明は、前記実施の形態にのみ限定されるものではなく、橋桁模型12は、所定の昇降ストロークで昇降動作させることができるようにしてあれば、架台6、昇降台8、ロードセル10及び連結部材11のサイズや形状は自在に変更してよく、又、昇降駆動装置は、ボールねじ機構9以外の任意の形式の昇降駆動装置を採用してもよい。
【0092】
前記各実施の形態では、実際の橋桁18が津波19を受けて水没した状態で橋桁18に作用する最大の荷重を計測するために、橋桁模型12を水没させて水中の或る深度に配置した後、ロードセル10による橋桁模型12に作用する荷重の計測を開始させるようにしてあるが、実際の橋桁18が津波19を受けて水没する過渡状態で橋桁18が受ける荷重を計測することが必要とされる場合は、橋桁模型12を水没させる工程中に、ロードセル10による橋桁模型12に作用する荷重の計測を行わせるようにしてもよい。
【0093】
本発明の津波波力計測方法及び装置は、橋桁模型12への適用に限定されるものではなく、地上に接しておらず且つ津波による水位上昇に伴って水没すると空気溜まりが生じる凹部を下面側に備えた構造物であって、津波の影響の評価が望まれる構造物であれば、その構造物模型を用いた試験に適用してよい。更に、本発明の津波波力計測方法及び装置は、陸上の構造物のみではなく、海上に杭で支持された状態で設置される滑走路や、アンカーにより上下動が制限される半潜水式プラットフォームや、その他の海上の構造物に作用する津波波力の計測に適用してもよい。
【0094】
橋桁模型12や構造物模型に作用する荷重を計測することができれば、荷重計測手段は、ロードセル10以外の任意の形式の荷重計測手段を採用するようにしてもよい。又、荷重計測手段の形式に応じて設置個所は適宜変更してもよい。
【0095】
本発明の津波波力計測装置は、所定の深度に水没させて配置された構造物模型が津波をモデル化した波の流速に一致した流速の相対的な水の流れの中に配置された状態のときに受ける荷重を、前記荷重計測手段により計測させる処理を自動で行う計測制御部17cを備える構成とすることが望ましいが、前記荷重計測手段による荷重計測は終始継続して行っておき、その計測結果から、水没させた構造物模型が前記所定流速の相対的な水の流れの中に配置された状態に対応する部分の計測結果を手動で選定して取り出す場合は、計測制御部17cを省略した構成としてもよい。
【0096】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。