(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、リファンピシリン結核菌を検出するためのオリゴヌクレオチドおよび、該オリゴヌクレオチドを用いたリファンピシリン耐性結核菌の検出方法に関する。
【0018】
本発明の方法において、結核菌のリファンピシリン耐性はrpoB遺伝子の変異を分析することにより行う。本発明におけるrpoB遺伝子とは、以後特に断りが無い限り、結核菌のrpoB遺伝子を意味する。rpoB遺伝子の塩基配列を本明細書の配列番号18として示す。
【0019】
[本発明に用いる核酸プローブ]
本発明で用いられる核酸プローブは、rpoB遺伝子の変異を検出することで結核菌のリファンピシリン耐性を検出するための核酸プローブである。前記核酸プローブはrpoB遺伝子の一部または全部とハイブリダイズして複合体を形成しうるものであれば特に制限されない。より好ましくは、rpoB遺伝子のみと特異的に複合体を形成し、それ以外の塩基配列を有する核酸とは複合体を形成しない核酸プローブであり、より好ましくはrpoB遺伝子の一部または全部の塩基配列と同一または相補的な塩基配列を有する核酸プローブである。
前記核酸プローブが複合体を形成する対象は、試料中に存在する結核菌ゲノム中のrpoB遺伝子でもよく、当該遺伝子の一部または全部を核酸増幅させて得られた核酸増幅産物でもよい。より好ましくは核酸増幅産物である。
【0020】
前記核酸プローブとしては、rpoB遺伝子のコドン509、510、511、512、513、514、515、516、520、521、522、523、526、527、529、531および533からなる群のうちいずれか1以上に生じうる変異を検出するための核酸プローブが例示できる。以下、前記のrpoB遺伝子に生じうる変異をrpoB遺伝子変異群(文脈から明らかな場合は単に「変異群」)と記載する。前記核酸プローブは1種類の塩基配列で、前記コドンの中の一つまたは複数の変異を検出対象とすることができる。
【0021】
前記核酸プローブは、「野生型のrpoB遺伝子を検出し、かつ前記コドンに変異の有無があるかを鑑別することが可能な性質」を有してもよいし、「前記コドンに変異があった場合のみrpoB遺伝子を検出する性質」を有してもよい。より好ましくは「野生型のrpoB遺伝子を検出し、かつ前記コドンに変異の有無があるかを鑑別する性質」を有する核酸プローブである。
【0022】
本発明で用いる核酸プローブの塩基数は特に制限されない。好ましい下限は15塩基であり、さらに好ましくは16塩基であり、さらに好ましくは17塩基である。好ましい上限は33塩基であり、さらに好ましくは31塩基であり、さらに好ましくは29塩基である。
【0023】
このような核酸プローブの塩基配列として、配列番号1〜9が例示できる。
【0024】
本発明で用いる核酸プローブは、配列番号1〜9と相補的な配列を有するものを使用してもよい。また、配列番号1〜9において数塩基の置換が含まれていてもよい。ここでいう数塩基とは、10塩基以下、より好ましくは5塩基以下、より好ましくは4塩基以下、より好ましくは3塩基以下、より好ましくは2塩基以下、より好ましくは1塩基以下である。
【0025】
また、本発明で用いる核酸プローブは、その少なくとも一つが、前記の配列番号1〜9のいずれかに記載されている塩基配列(またはそれらの相補的配列)の一部分から構成されていてもよい。たとえば、各配列番号のうち15塩基以上、より好ましくは18塩基以上からなるオリゴヌクレオチドから構成されていればよい。
別の言い方をすると、配列番号1〜9に記載されている塩基配列のうち一番長いものは29塩基、一番短いものは19塩基であるが、前記の核酸プローブの長さは、各塩基配列で示される配列の全長を有することが最も好ましい。前記「塩基配列の一部分」については、全長が15塩基未満とならない範囲内であれば、その配列の連続性を維持する前提で、少なくともいずれかの末端を欠いてもよい。その場合の塩基配列の長さは、長いほうが好ましい。例えば配列番号1であれば15塩基以上であれば良いが、より好ましくは16塩基以上、より好ましくは17塩基以上、より好ましくは18塩基以上、より好ましくは19塩基以上、より好ましくは20塩基以上、より好ましくは21塩基以上、より好ましくは22塩基以上、より好ましくは23塩基以上、より好ましくは24塩基以上、より好ましくは25塩基以上、より好ましくは26塩基以上、より好ましくは27塩基以上、より好ましくは28塩基以上、最も好ましくは29塩基である。また、例えば配列番号9であれば15塩基以上であれば良いが、より好ましくは16塩基以上、より好ましくは17塩基以上、より好ましくは18塩基以上、最も好ましくは19塩基である。
【0026】
さらに、前記の核酸プローブは、は、前記のいずれかに記載されている塩基配列を含めば、いずれかの末端に数塩基が付加されていてもよい。いずれかの末端に塩基を付加することで、プローブの全長が、18塩基以上となることが好ましく、より好ましくは、20塩基以上、より好ましくは、23塩基以上となることが好ましい。この場合、プローブ全長の上限は、35塩基であることが好ましく、さらに好ましくは32塩基、さらに好ましくは30塩基である。
【0027】
本発明においてrpoB遺伝子変異群は複数の核酸プローブで検出される。前記変異群の検出に用いる核酸プローブは、蛍光標識された核酸プローブと、無標識の核酸プローブの両方である。これらの核酸プローブの本数については特に制限されないが、好ましい下限は2本であり、さらに好ましくは3本である。好ましい上限は6本であり、さらに好ましくは5本であり、さらに好ましくは4本であり、さらに好ましくは3本である。また、無標識の核酸プローブの本数は蛍光標識された核酸プローブの本数以下であることが好ましい。
【0028】
蛍光標識された核酸プローブにおいて標識される核酸の位置および数に制限はないが、好ましくは核酸プローブ末端の核酸が標識されることであり、より好ましくはいずれか片方の末端が標識されることである。
【0029】
蛍光標識された核酸プローブの蛍光物質には特に制限は無いが、好ましくは単独では蛍光を示し、標的核酸とハイブリッドを形成した場合には消光する性質を有する蛍光物質である。前記蛍光物質は、制限されないが、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等があげられ、市販の蛍光色素としては、例えば、BODIPY FL(商標、モレキュラープローブ社製)、FluorePrime(商標、アマシャムファルマシア社製)、Fluoredite(商標、ミリポア社製)、FAM(ABI社製)、Cy3およびCy5(アマシャムファルマシア社製)、TAMRA(モレキュラープローブ社製)、カルボキシローダミン6G(CR6G)等が例示できる。
【0030】
無標識の核酸プローブとは蛍光物質やビオチンなどが核酸プローブ中のいずれの核酸にも標識されていない核酸プローブを指す。ただし、核酸プローブ中のいずれかまたは両方の末端がリン酸化されていることは標識に含めない。このため、無標識の核酸プローブであっても、末端の核酸がリン酸化されることは妨げない。
【0031】
[核酸プライマーセット]
本発明のリファンピシリン耐性結核菌検出において、検出対象は試料中に含まれる結核菌のゲノム中のrpoB遺伝子を核酸増幅させて得られた核酸増幅産物であることが好ましい。核酸増幅産物を検出対照とする場合は、本発明に記載の核酸プローブと共に、rpoB遺伝子の一部を特異的に増幅するための核酸プライマーセットを使用してもよい。
【0032】
上記の核酸プライマーセットは、rpoB遺伝子の一部を核酸増幅するために用いられるものであり、該核酸プライマーセットは1本のフォワードプライマーと1本のリバースプライマーとから成る。さらにフォワードプライマーとリバースプライマーのいずれもTm値が核酸プローブのTm値と同値以上であることが好ましい。
【0033】
本発明における核酸プライマーまたは核酸プローブのTm値計算には公知の計算方法を用いることができ、いずれの方法を用いてもよい。具体的な計算方法としては、最近接塩基対法、Wallace法、GC%法が挙げられる。
【0034】
前記核酸プライマーセットを構成する核酸プライマーの塩基数は特に制限されない。好ましい下限は24塩基であり、さらに好ましくは25塩基であり、さらに好ましくは26塩基である。好ましい上限は35塩基であり、さらに好ましくは34塩基であり、さらに好ましくは33塩基である。
【0035】
このような核酸プライマーセットとして、特に、フォワードプライマーとして配列番号10〜13のいずれかで示される塩基配列と、リバースプライマーとして配列番号14〜17のいずれかで示される塩基配列との組合せが例示できる。
【0036】
前記のプライマーセットは、配列番号10〜17と相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドのペアから選択されるものであってもよい。また、配列番号10〜17において数塩基の置換が含まれていてもよい。ここでいう数塩基とは、10塩基以下、より好ましくは5塩基以下、より好ましくは4塩基以下、より好ましくは3塩基以下、より好ましくは2塩基以下、より好ましくは1塩基以下である。
【0037】
また、前記のプライマーセットは、その少なくとも一つが、前記の配列番号10〜17のいずれかに記載されている塩基配列(またはそれらの相補的配列)の一部分から構成されていてもよい。たとえば、1組のプライマーセットにおいて、フォワードプライマーおよび/またはリバースプライマーが、各配列番号のうち15塩基以上、より好ましくは18塩基以上からなるオリゴヌクレオチドから構成されていればよい。
別の言い方をすると、配列番号10〜17に記載されている塩基配列のうち一番長いものは32塩基、一番短いものは27塩基であるが、前記の核酸プローブの長さは、各塩基配列で示される配列の全長を有することが最も好ましい。前記「塩基配列の一部分」については、全長が15塩基未満とならない範囲内であれば、その配列の連続性を維持する前提で、少なくともいずれかの末端を欠いてもよい。その場合の塩基配列の長さは、長いほうが好ましい。例えば配列番号10であれば15塩基以上であれば良いが、より好ましくは16塩基以上、より好ましくは17塩基以上、より好ましくは18塩基以上、より好ましくは19塩基以上、より好ましくは20塩基以上、より好ましくは21塩基以上、より好ましくは22塩基以上、より好ましくは23塩基以上、より好ましくは24塩基以上、より好ましくは25塩基以上、より好ましくは26塩基以上、より好ましくは27塩基以上、より好ましくは28塩基以上、より好ましくは29塩基以上、より好ましくは30塩基以上、より好ましくは31塩基以上、最も好ましくは32塩基である。また、例えば配列番号17であれば15塩基以上であれば良いが、より好ましくは16塩基以上、より好ましくは17塩基以上、より好ましくは18塩基以上、より好ましくは19塩基以上、より好ましくは20塩基以上、より好ましくは21塩基以上、より好ましくは22塩基以上、より好ましくは23塩基以上、より好ましくは24塩基以上、より好ましくは25塩基以上、より好ましくは26塩基以上、最も好ましくは27塩基である。
【0038】
さらに、前記のプライマーセットは、その少なくとも一つが、前記のいずれかに記載されている塩基配列を含めば、いずれかの末端に数塩基が付加されていてもよい。いずれかの末端に塩基を付加することで、プライマーの全長が、18塩基以上となることが好ましく、より好ましくは、20塩基以上、より好ましくは、23塩基以上となることが好ましい。この場合、プローブ全長の上限は、35塩基であることが好ましく、さらに好ましくは32塩基、さらに好ましくは30塩基である。
【0039】
[リファンピシリン耐性結核菌の検出方法]
本発明のリファンピシリン耐性結核菌の検出方法は、試料中に存在する結核菌のrpoB遺伝子の変異を検出することを特徴とする。
【0040】
本発明の実施態様の一つは、以下の(1)から(3)に示す工程を含む、結核菌のリファンピシリン耐性の検出方法である。
(1)試料中の結核菌に由来する核酸と、以下の(A)および(B)に記載の核酸プローブとをハイブリダイズさせ、複合体を形成せしめる工程
(A)配列番号1および2で示された蛍光標識された2本の核酸プローブ
(B)配列番号3で示された1本の無標識核酸プローブ
(2)工程(1)で得られた複合体を検出する工程
(3)工程(2)で測定または検出されるデータを解析することで結核菌のリファンピシリン耐性を判別する工程
【0041】
本発明の実施態様の一つは、以下の(1)から(3)に示す工程を含む、結核菌のリファンピシリン耐性の検出方法である。
(1)試料中の結核菌に由来する核酸と、以下の(A)および(B)に記載の核酸プローブとをハイブリダイズさせ、複合体を形成せしめる工程
(A)配列番号4および5で示された蛍光標識された2本の核酸プローブ
(B)配列番号6から9のうちいずれかで示された1本の無標識核酸プローブ
(2)工程(1)で得られた複合体を検出する工程
(3)工程(2)で測定または検出されるデータを解析することで結核菌のリファンピシリン耐性を判別する工程
【0042】
前記各実施態様においては、結核菌のリファンピシリン耐性を蛍光標識された2本の核酸プローブと、1本の無標識核酸プローブを用いることを特徴とする。
【0043】
前記実施態様においては、蛍光標識された2本の核酸プローブとして、配列番号1、2で示される塩基配列を有する核酸プローブが、無標識核酸プローブとして、配列番号3で示される塩基配列を有する核酸プローブがそれぞれ例示できる。あるいはまた、蛍光標識された2本の核酸プローブとして、配列番号4、5で示される塩基配列を有する核酸プローブが、無標識核酸プローブとして、配列番号6から9のうちいずれかで示される塩基配列を有する核酸プローブがそれぞれ例示できる。しかし、本発明方法で用いられる核酸プローブは配列番号1〜9に限定されず、分子生物学的手法を用いて結核菌のリファンピシリン耐性を検出するために用いることができる核酸プローブであれば、いかなる塩基配列、および標識形態であっても使用できうる。
【0044】
本発明の方法における検出対象としては、コドン509、510、511、512、513、514、515、516、520、521、522、523、526、527、529、531および533からなる群のうちいずれか1以上に生じる塩基変異が例示できる。本発明の検出方法では、前記コドンの全てに生じうる変異を検出対象としてもよいし、一部のコドンのみを検出対象としてもよい。また、コドンに生じうる全ての変異を検出対象としてもよいし、一部の変異のみを検出対象としてもよい。
【0045】
本発明の方法において、試料中の結核菌に由来する核酸は、試料中に存在する結核菌ゲノム中のrpoB遺伝子に該当する核酸でもよく、前記核酸の一部または全部を増幅させて得られた核酸増幅産物でもよい。より好ましくは核酸増幅産物である。
すなわち、本発明の結核菌のリファンピシリン耐性の検出方法は、以下の工程(0)を含む方法であってもよい。
(0)rpoB遺伝子を核酸増幅するための核酸プライマーセットを含む組成物を含む反応液によって被検核酸を増幅する工程
この実施態様では、工程(0)は、遅くとも前記工程(3)の開始前に行うことが好ましい。さらに好ましくは前記工程(2)の前に行うことが好ましい。また、前記工程(1)の前に行うことも可能である。
また、この実施態様では、工程(2)においては、工程(1)によって得られた核酸増幅産物と、該核酸増幅産物の一部と複合体を形成しうる核酸プローブとをハイブリダイズさせ、複合体を形成せしめる。この実施態様で用いられる核酸プライマーセットおよび核酸プローブとしては前記のものを使用できる。
【0046】
本発明において、結核菌のリファンピシリン耐性の判別方法は、特に限定されないが、例えば被検核酸のrpoB遺伝子の変異の有無を判定することによって行うことができる。rpoB遺伝子の検出が可能ならば上記工程に新たな工程を追加してもよい。
【0047】
本発明の方法において核酸増幅工程(前記の工程(0))をともなう場合、工程(0)〜(3)は反応系を開放しても開放しなくても実施可能だが、開放することなく工程(0)〜(3)全てが行われることが好ましい。「開放する」とは反応容器の蓋をあけるなどの方法で核酸増幅産物を暴露させることを言う。「開放しない」とは逆に反応容器を開放せず、核酸増幅産物を外部に暴露させないことを言う。
【0048】
前記方法の工程(2)の一つの実施態様として、以下の工程(2’)が挙げられる。
(2’)工程(1)で得られた複合体を含む反応系の温度を段階的に上昇させて融解曲線分析を行い、複合体を形成していた核酸増幅産物と核酸プローブの解離の有無を検知する工程
【0049】
前記方法の工程(3)の一つの実施態様として、以下の工程(3’)が挙げられる。
(3’)工程(2’)で解離が検知できた場合に、rpoB遺伝子が存在していたと判断し、さらに複合体の融解温度の差からrpoB遺伝子が変異を有するか否かを判定する工程
【0050】
前記(0)(1)(2)(3)の工程、あるいは(0)(1)(2’)(3’)の工程を開始してから全て完了するまでの時間は特に制限されないが、1時間以内に終えることが好ましい。より好ましくは55分間以内であり、50分間以内であり、45分間以内である。この時間は工程(0)の核酸増幅が開始されてから工程(3)の複合体検出または(3’)の解離の有無の検知が完了するまでの時間を指し、工程(0)に用いられる反応液の調製時間は含まれない。
【0051】
該方法で用いられるrpoB遺伝子を増幅し検出するための核酸プライマーセットおよび核酸プローブは、それぞれ前記したものを用いることができる。さらに、例えばrpoB遺伝子とは異なる核酸を増幅し検出する目的で、前記の核酸プライマーセットおよび核酸プローブとは異なる核酸プライマーセットや核酸プローブを追加することも特に制限されない。
【0052】
[被検核酸の増幅]
本発明における被検核酸は、例えば、一本鎖でもよいし、二本鎖でもよい。二本鎖の場合は、例えば、被検核酸とプローブとをハイブリダイズさせてハイブリッド体を形成するために、加熱により前記二本鎖を一本鎖に解離させる工程を含むことが好ましい。
【0053】
前記被検核酸の種類としては、特に制限されないが、例えば、DNAや、トータルRNA、mRNA等のRNA等があげられる。また、前記被検核酸は、例えば生体試料等の試料に含まれる核酸があげられる。この試料はそのまま用いてもよいし、適当な溶液で希釈したものを用いてもよい。適当な溶液としては、水、生理食塩水、緩衝液、アルカリ性水溶液、酸性水溶液、核酸抽出試薬、界面活性剤、有機溶媒などが挙げられる。あるいは、前記生体試料から適当な方法でDNAやRNA等の核酸を調製してもよい。調製方法としては特に制限されず、公知の核酸精製キット、自動核酸精製機器、フェノール・クロロホルム法など、従来公知の方法を用いることができる。
【0054】
前記生体試料としては、特に制限されないが、例えば、喀痰、組織片、糞便、尿、胃液、胸水、咽頭拭い液、気管支洗浄液、血液などが挙げられる。また、これらの生体試料を培地または培養液に添加して培養された結核菌を試料としてもよい。
【0055】
続いて、単離したゲノムDNAを鋳型として、上述の核酸プライマーセットを用いて、PCR等の核酸増幅法によって、検出目的の塩基部位を含む配列を増幅させる。具体的な核酸増幅方法としては特に限定されず、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription−mediated amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)等があげられるが、PCR法を用いることが好ましい。なお、これらの各方法において、増幅反応の条件は特に制限されず、従来公知の方法により行うことができる。
【0056】
PCR法では通常、変性反応、アニーリング反応、伸長反応の3段階の反応が繰り返される。ただし、アニーリング反応と伸長反応の反応条件を同一とすることで、2段階の反応を繰り返す場合もある。本発明において、PCR法の反応は2段階でもよく、3段階でもよく、4段階以上でもよいが、好ましくは3段階である。
【0057】
前記各反応の温度および時間の条件に制限はないが、変性反応の温度は90〜100℃のいずれかが好ましい。変性反応の時間は0〜10秒間のいずれかが好ましい。ここでの0秒とは一瞬だけ既定の温度にし、すぐに次の段階の反応へと進むことを意味しており、変性反応を行わないことを意味しない。また、アニーリング反応の温度は50〜70℃のいずれかが好ましく、アニーリング反応の時間は0〜15秒間のいずれかが好ましい。伸長反応の温度は58〜75℃のいずれかが好ましく、伸長反応の時間は1〜15秒間のいずれかが好ましい。
【0058】
変性反応、アニーリング反応、伸長反応を各1回行うことをPCRサイクルと言い、PCR法による核酸増幅反応全体でPCRサイクルを行う回数をサイクル数と言う。本発明において実施可能なサイクル数は特に制限されないが、35〜100回の範囲であることが好ましい。サイクル数の下限は好ましくは40回、より好ましくは50回である。サイクル数の上限は好ましくは80回、より好ましくは70回である。
【0059】
[DNAポリメラーゼ]
核酸増幅にPCR法を用いる場合、使用するDNAポリメラーゼは特に制限されないが、α型DNAポリメラーゼを用いることが好ましい。その理由を以下に説明する。
【0060】
本発明プローブが含まれる反応系でrpoB遺伝子を増幅する場合、核酸増幅工程中に該核酸プローブが試料のrpoB遺伝子またはそれらの増幅産物と結合しうる。核酸増幅工程中に被検核酸と結合した該核酸プローブは、核酸プライマーとDNAポリメラーゼによる核酸増幅反応を阻害する。
【0061】
Taq DNA PolymeraseなどPolI型のDNAポリメラーゼは5’− 3’エキソヌクレアーゼ活性を持つことが知られている。この活性のため、核酸増幅反応中に鋳型となるrpoB遺伝子と結合した核酸がある場合、該結合核酸はエキソヌクレアーゼ活性によって分解されてしまう。このため、反応系中の該核酸プローブが減少し核酸検出工程に問題が生じる可能性がある。従って、PolI型DNAポリメラーゼを用いて本発明を実施することは好ましくない。
【0062】
他方、KOD DNA Polymerase(超好熱始原菌Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)などα型のDNAポリメラーゼは5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を持たず、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を持つ。従って、α型DNAポリメラーゼを用いれば上記問題を解決できるのみならず、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性により核酸増幅工程において高い正確性が発揮される。
【0063】
通常、α型DNAポリメラーゼは3’→ 5’エキソヌクレアーゼ活性のため、核酸増幅速度はPolI型酵素と比較して低い傾向がある。しかし、KOD DNA Polymeraseはα型DNAポリメラーゼでありながらDNA合成活性が高く100塩基/秒以上のDNA合成速度を有し伸長効率が優れている。従って、本発明の実施にはα型DNAポリメラーゼの中でも、KOD DNA Polymerase(東洋紡製、商標)を用いることが好ましい。
【0064】
さらに、α型DNAポリメラーゼを変異させて100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を達成させた変異型、あるいは、野生型および/または変異型の組み合わせにより当該性能を達成させたDNAポリメラーゼ組成物も、本発明の実施に適したDNAポリメラーゼとして用いることができる。
例えば、上記KOD DNA Polymerase以外に100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を有するDNAポリメラーゼとして、「KOD FX(東洋紡製、商標)」、「KOD −Plus−(東洋紡製、商標)」、「KOD Dash(東洋紡製、商標)」、PrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ製、商標)なども利用できる。
なかでも、高い正確性とDNA合成活性とをあわせ持つKOD −Plus−が望ましい。
【0065】
前記ポリメラーゼを用いることで、従来よりも短時間でPCRを行うことが可能になる。通常のTaqポリメラーゼではデオキシリボ核酸合成速度は60塩基/秒程度であると言われているが、KOD DNA Polymeraseなどは100塩基/秒を越えるデオキシリボ核酸合成速度を持つため、伸長時間を通常の半分に縮めることができる。
【0066】
また、例えばLightCycler(ロシュダイアグノスティクス社製)やGENECUBE(東洋紡製)など、細いキャピラリー状の反応容器を用いて核酸増幅反応を行わせる核酸増幅装置を併用することで、さらにPCRを高速化することが可能である。これらの技術を利用することで、本発明の実施例が示すように1時間以内のPCRが可能となる。
【0067】
[核酸増幅産物とプローブとの複合体形成]
本発明のrpoB遺伝子検出方法においては、工程(1)によって得られた核酸増幅産物と、該核酸増幅産物の一部と複合体を形成せしめるように設計された核酸プローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成せしめる。
【0068】
核酸増幅産物を含む試料に核酸プローブを添加するタイミングは、特に制限されず、例えば、前述の核酸増幅反応前、核酸増幅反応途中および核酸増幅反応後のいずれに、増幅反応の反応系に添加してもよい。
中でも、増幅反応と、後述の検出反応とを連続的に行うことができるため、増幅反応前に添加することが好ましい。このように核酸増幅反応の前に前記プローブを添加する場合は、例えば、後述のように、その3’末端に、蛍光色素を付加したり、リン酸基を付加したりすることが好ましい。
【0069】
前記プローブは、核酸増幅産物を含む液体試料に添加してもよいし、溶媒中で核酸増幅産物と混合してもよい。前記溶媒としては、特に制限されず、例えば、Tris−HCl等の緩衝液、KCl、MgCl
2、MgSO
4、グリセロール等を含む溶媒、PCR反応液等、従来公知のものがあげられる。
【0070】
[核酸増幅産物とプローブとの複合体の検出]
前記方法の(2)で示される工程において、得られた複合体を検出する方法は特に限定されない。例えば、前記(2’)のように融解曲線分析による方法が挙げられる。
【0071】
融解曲線分析の場合は、例えば、以下のように行う。
二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度は、加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって融解が完了したと判断できる。
【0072】
本発明において、融解曲線分析を行うための温度変化に伴うシグナル変動の測定は、前述のような原理から、260nmの吸光度測定により行うこともできるが、本発明のプローブに付加した標識のシグナルを測定することが好ましい。このため、本発明のリファンピシリン耐性結核菌検出方法に用いるプローブとしては、標識化プローブを使用することが好ましい。
【0073】
標識化プローブとしては、例えば、単独でシグナルを示し且つハイブリッド形成によりシグナルを示さない標識化プローブ、または、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示す標識化プローブがあげられる。前者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖)を形成している際にはシグナルを示さず、加熱によりプローブが遊離するとシグナルを示す。また、後者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖)を形成することによってシグナルを示し、加熱によりプローブが遊離するとシグナルが減少(消失)する。したがって、この標識によるシグナルをシグナル特有の条件(吸光度等)で検出することによって、前記260nmの吸光度測定と同様に、融解の進行を把握することができる。
【0074】
標識化プローブの具体例として、例えば、蛍光色素で標識され、単独で蛍光を示し且つハイブリッド形成により蛍光が減少(例えば、消光)するプローブが好ましい。このような現象は、一般に、蛍光消光現象と呼ばれる。この蛍光消光現象を利用したプローブとしては、中でも、一般的にグアニン消光プローブとよばれるものが好ましい。このようなプローブは、いわゆるQProbe(登録商標)として知られている。グアニン消光プローブとは、例えば、オリゴヌクレオチドの3’末端もしくは5’末端の塩基がシトシンとなるように設計し、その末端の塩基シトシンが相補的な塩基グアニンに近づくと発光が弱くなる蛍光色素で前記末端を標識化したプローブである。本発明のプローブにおいては、例えば、蛍光消光現象を示す蛍光色素を、前記オリゴヌクレオチドの3’末端のシトシンに結合させてもよいし、前記オリゴヌクレオチドの5’末端をシトシンに設計し、これに結合させてもよい。
【0075】
本発明で用いる蛍光標識された核酸プローブはグアニン消光プローブと同様の構造であるが、蛍光標識された塩基がグアニン以外であってもよい。具体例としては配列番号1や5が例示できる。
【0076】
前記核酸プローブは鋳型となる核酸である核酸増幅産物と結合しても、蛍光標識された塩基がグアニンと結合しないため蛍光が消光せず、該核酸増幅産物と核酸プローブとの複合体が検知できない。しかし、該核酸プローブが該核酸増幅産物と複合体を形成したとき、該核酸プローブに隣接するように該核酸増幅産物と結合する塩基配列を有し、さらに蛍光標識された該核酸プローブと隣接する塩基がグアニンとなる無標識核酸プローブを同時に使用することで、無標識核酸プローブのグアニンによって蛍光標識された該核酸プローブでグアニン消光が生じ、該核酸増幅産物との複合体が検出できる。
【0077】
前記検出系を使用する場合、もしも被検核酸であるrpoB遺伝子中の蛍光標識された該核酸プローブとの結合領域内に変異が含まれると、該核酸プローブと該核酸増幅産物とは、rpoB遺伝子が野生型である場合よりも弱く結合する。その場合、例えば融解曲線解析を実施した場合に、該核酸プローブがrpoB遺伝子の野生型を検査するときと比較して低い温度で融解し、無標識核酸プローブから離れて蛍光を発することになる。
同様に、rpoB遺伝子中の無標識核酸プローブとの結合領域内に変異が含まれると、無標識核酸プローブと該核酸増幅産物とは、rpoB遺伝子が野生型である場合よりも弱く結合する。その場合、例えば融解曲線解析を実施した場合に、無標識核酸プローブがrpoB遺伝子の野生型を検査するときと比較して低い温度で融解し、蛍光標識された該核酸プローブの蛍光標識塩基に隣接したグアニンが離れるため、該核酸プローブが蛍光を発することになる。
従っていずれの核酸プローブと結合する位置に変異が含まれていても、前記検出系によって変異を検知することが可能になる。
【0078】
前記検出系のモデル図を
図1として示す。蛍光標識プローブおよび無標識プローブの両方が検出対象となる核酸と結合せず遊離している状態が
図1のAで示される。Aの状態の反応系を、例えば35〜50℃程度の温度に置くことで、
図1のBで示すように両プローブを検出対象に結合させることができる。検出対象となった核酸、すなわちrpoB遺伝子の中に蛍光標識された該核酸プローブとの結合領域内に変異が含まれる場合、その後、例えば融解曲線解析を実施することで、
図1のCで示されるように該核酸プローブが遊離する。他方、もしもrpoB遺伝子中の無標識核酸プローブとの結合領域内に変異が含まれる場合、例えば融解曲線解析を実施することで、
図1のC’で示されるように無標識核酸プローブが遊離し、蛍光標識された該核酸プローブが蛍光を発するようになる。
【0079】
この他、蛍光標識された末端がシトシンである通常のグアニン消光プローブであれば、単独でrpoB遺伝子の検出が可能である。また、例えば融解曲線解析を実施した場合に、該核酸プローブがrpoB遺伝子の野生型を検査するときと比較して低い温度で融解し蛍光を発するため、融解温度によってrpoB遺伝子のうち核酸プローブが結合する領域内の変異を検知することが可能である。
【0080】
本発明の一つの実施態様としては、前述した通常のグアニン消光プローブと、末端がグアニンになっていない特殊消光プローブと無標識核酸プローブとのセット、を用いてリファンピシリン耐性結核菌を検出する。当該実施態様の1例として、通常のグアニン消光プローブが配列番号2、特殊消光プローブが配列番号1、無標識核酸プローブが配列番号3、という組み合わせが例示できる。
【0081】
また、異なる1例として、通常のグアニン消光プローブが配列番号4、特殊消光プローブが配列番号5、無標識核酸プローブが配列番号6〜9のいずれか、という組み合わせが例示できる。
【0082】
前述した実施態様において、前記核酸プローブ3本は全て一つの検出系に添加して用いてもよいし、通常のグアニン消光プローブと、特殊消光プローブと無標識核酸プローブとのセットを別々の検出系で用いてもよい。より好ましくは3本の核酸プローブ全てを一つの検出系で用いる実施態様である。
【0083】
[融解曲線解析の方法]
工程(1)によって得られた核酸増幅産物の解離、および、解離により得られた一本鎖DNAと前記標識化プローブとのハイブリダイズは、例えば、前記反応液の温度変化によって行うことができる。
【0084】
前記解離工程における加熱温度は、前記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されないが、例えば、85〜98℃である。加熱時間も特に制限されないが、通常、1秒〜10分であり、好ましくは1秒〜5分である。
【0085】
また、解離した一本鎖DNAと前記標識化プローブとのハイブリダイズは、例えば、前記解離工程の後、前記解離工程における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件としては、例えば、35〜50℃である。
【0086】
ハイブリダイズ工程の反応系(反応系)における各組成の体積や濃度は、特に制限されない。具体例としては、前記反応系において、DNAの濃度は、例えば、0.01〜100μmol/Lであり、好ましくは0.1〜10μmol/L、前記標識化プローブの濃度は、例えば、前記DNAに対する添加割合を満たす範囲が好ましく、例えば、0.01〜100μmol/Lであり、好ましくは0.01〜10μmol/Lである。
【0087】
そして、前記反応液の温度を変化させ、前記増幅産物と前記標識化プローブとのハイブリッド形成体の融解状態を示すシグナル値を測定する。具体的には、例えば、前記反応液(前記一本鎖DNAと前記標識化プローブとのハイブリッド形成体)を加熱し、温度上昇に伴うシグナル値の変動を測定する。前述のように、末端のC塩基が標識化されたプローブ(グアニン消光プローブ)を使用した場合、一本鎖DNAとハイブリダイズした状態では、蛍光が減少(または消光)し、解離した状態では、蛍光を発する。したがって、例えば、蛍光が減少(または消光)しているハイブリッド形成体を徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0088】
蛍光強度の変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温〜85℃であり、好ましくは25〜70℃であり、終了温度は、例えば、40〜105℃である。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば、0.05〜20℃/秒であり、好ましくは0.08〜5℃/秒である。
【0089】
被検核酸の有無の決定は、例えば、ハイブリッド形成時におけるシグナル変動を測定することによって行いうる。すなわち、前記プローブを含む反応液の温度を降下させてハイブリッド形成体を形成する際に、前記温度降下に伴うシグナル変動を測定する。
【0090】
具体例として、単独でシグナルを示し且つハイブリッド形成によりシグナルを示さない標識化プローブ(例えば、グアニン消光プローブ)を使用した場合、一本鎖DNAとプローブとが解離している状態では蛍光を発しているが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、前記蛍光が減少(または消光)する。したがって、例えば、前記反応液の温度を徐々に降下させて、温度下降に伴う蛍光強度の減少を測定すればよい。他方、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示す標識化プローブを使用した場合、一本鎖DNAとプローブとが解離している状態では蛍光を発していないが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光を発するようになる。したがって、例えば、前記反応液の温度を徐々に降下させて、温度下降に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0091】
また、本発明においては、目的の塩基部位における遺伝子型の決定のために、前記シグナルの変動を解析してTm(melting temperature)値として決定してもよい。
【0092】
本明細書で用いられるDNA合成酵素の活性測定方法について、以下に記す。
[DNA合成活性]
本発明において、DNA合成活性とは鋳型DNAにアニールされたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの3’−ヒドロキシル基にデオキシリボヌクレオシド5’−トリホスフェートのα−ホスフェートを共有結合せしめることにより、デオキシリボ核酸にデオキシリボヌクレオシド5’−モノホスフェートを鋳型依存的に導入する反応を触媒する活性をいう。
【0093】
その活性測定法は、酵素活性が高い場合には、保存緩衝液でサンプルを希釈して測定を行う。本発明では、下記A液25μl、B液およびC液各5μlおよび滅菌水10μlをエッペンドルフチューブに加えて攪拌混合した後、上記酵素液5μlを加えて75℃で10分間反応する。その後、氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後、さらに10分間氷冷する。この液をガラスフィルター(ワットマンGF/Cフィルター)で濾過し、D液及びエタノールで充分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード社製)で計測し、鋳型DNAへのヌクレオチドの取り込みを測定する。酵素活性の1単位はこの条件下で30分あたり10nモルのヌクレオチドを酸不溶性画分に取り込む酵素量とする。
A: 40mM Tris−HCl(pH7.5)
16mM 塩化マグネシウム
15mM ジチオスレイトール
100μg/ml BSA
B: 2μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C: 1.5mM dNTP(250cpm/pmol
〔3H〕dTTP)
D: 20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E: 1μg/μl キャリアーDNA
【0094】
[3’−5’エキソヌクレアーゼ活性]
本発明において、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性とは、DNAの3’末端領域を切除し、5’−モノヌクレオチドを遊離する活性をいう。
その活性測定法は、50μlの反応液(120mM Tris−HCl(pH8.8 at 25℃), 10mM KCl, 6mM 硫酸アンモニウム,1mM MgCl
2, 0.1% Triton X−100, 0.001% BSA,5 μg トリチウムラベルされた大腸菌DNA)を1.5mlのエッペンドルフチューブに分注し、DNAポリメラーゼを加える。75℃で10分間反応させた後、氷冷によって反応を停止し、次にキャリアーとして、0.1%のBSAを50μl加え、さらに10%のトリクロロ酢酸、2%ピロリン酸ナトリウム溶液を100μl加え混合する。氷上で15分放置した後、12,000回転で10分間遠心し沈殿を分離する。上清100μlの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード社製)で計測し、酸可溶性画分に遊離したヌクレオチド量を測定する。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0096】
〔実施例1:本発明方法のうち2本の核酸プローブによるrpoB遺伝子変異の検出〕
蛍光標識された核酸プローブと無標識の核酸プローブとを用いることで、rpoB遺伝子を検出し、かつ野生型rpoB遺伝子と変異型rpoB遺伝子とを鑑別できることを示す実験を行った。
(1)試料の調製
配列番号19で示されるフォワードプライマーと配列番号20で示されるリバースプライマーとを用いてrpoB遺伝子のうちコドン509〜コドン533に相当する領域を含む塩基配列をPCRによって核酸増幅した。次いで、核酸増幅産物をクローニングベクターpUC19に組み込み野生型rpoB陽性試料とした。さらに、該野生型rpoB陽性試料からinverse PCRによる部位特異的変異導入法を用いて変異を導入した直鎖状DNAを調製し、該直鎖状DNAをライゲーションすることで、所定の変異型rpoB遺伝子部分配列を含む環状DNAを調製した。左記環状DNAを変異型rpoB陽性試料とした。
rpoB遺伝子の核酸増幅にはKOD −Plus− ver.2(東洋紡製)を用いた。部位特異的変異導入法にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(東洋紡製)を用いた。作製した陽性試料の一覧を表1に記載した。
【0097】
【表1】
【0098】
表1において、部分配列とは配列番号19および20からなる核酸プライマーを用いて核酸増幅したrpoB遺伝子の一部配列、のことを指す。
【0099】
(2)核酸増幅および融解曲線分析
上記試料にそれぞれ下記試薬を添加して、下記条件により核酸増幅および融解曲線分析を行い核酸プローブと核酸増幅産物との複合体を検出した。分析には東洋紡社製GENECUBE(登録商標)を用いた。
【0100】
[核酸増幅用試薬]
以下の試薬を含む溶液を調製した。試料には前記野生型または変異型rpoB陽性試料を25コピー/μlとなるように濃度調製したものを使用した。
100μMフォワードプライマー(配列番号10)0.25μl
100μMリバースプライマー(配列番号14)0.05μl
100μM核酸プローブ(配列番号1、5´末端BODIPY−FL標識、3´末端リン酸化)0.03μl
100μM核酸プローブ(配列番号2、5´末端BODIPY−FL標識、3´末端リン酸化)0.03μl
100μM核酸プローブ(配列番号3、3´末端リン酸化)0.06μl
KOD Mix(ジーンキューブ(R)テストベーシック、東洋紡製)4μl
PPD Mix(ジーンキューブ(R)テストベーシック、東洋紡製)4μl
DMSO 0.32μl
精製水 0.46μl
試料 4μl
(試料として、WT(野生型)、511GTG、512GGC、516GTC、516CAC、531TTG、531TGG、533CCGを使用した。本明細書において各変異体陽性試料は「コドン番号 変異後の塩基配列」を名称としている。例えば511GTGならば、コドン511の塩基がGTGに置換変異された試料となる。)
【0101】
[核酸増幅および融解曲線分析]
94℃・30秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・3秒
63℃・5秒
(以上60サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃〜80℃(0.09℃/秒で温度上昇)
【0102】
[結果]
図2は、配列番号10からなる塩基配列を有するフォワードプライマーと配列番号14からなる塩基配列を有するリバースプライマーとで構成される核酸プライマーセットと、配列番号1〜3からなる塩基配列をそれぞれ有する核酸プローブとを用いて、WTおよび511GTGを試料として核酸増幅を行い、その後の温度上昇にともなう蛍光強度の変化を、グラフの横軸を温度、縦軸を蛍光シグナルの微分値として解析結果を表した図である。本実施例で用いた核酸プローブは消光プローブであり、核酸増幅産物と共に39℃に置くことによって増幅された標的核酸と結合し消光する。その後、徐々に温度を上げることで核酸プローブは標的核酸から遊離し、蛍光を発する。従って、徐々に温度を上げる過程で蛍光変化量が正に変化すれば、それは即ち標的核酸と結合していた核酸プローブが遊離したことを示している。
図2から、WTを試料とした場合は約70℃で蛍光の大きな変化が生じ検出ピークが得られたことがわかる。一方、511GTGでは約65℃と約70℃の両方で蛍光の大きな変化が生じ検出ピークが得られている。WTと511GTGとで検出ピーク形状が異なることから、本発明の方法により野生型のrpoB遺伝子とコドン511が変異したrpoB遺伝子とを識別できることが示された。
同様に
図3〜8はそれぞれ、512GGC、516GTC、516CAC、531TTG、531TGG、533CCGがWTと検出ピークが異なることを示しており、本結果からコドン511、512、516、531、533のいずれかに変異を有するrpoB遺伝子を野生型rpoB遺伝子と区別することが可能であることが明らかになった。
【0103】
〔実施例2:本発明方法のうち2本の核酸プローブによるrpoB遺伝子変異の検出〕
蛍光標識された核酸プローブと無標識の核酸プローブとを用いることで、rpoB遺伝子を検出し、かつ野生型rpoB遺伝子と変異型rpoB遺伝子とを鑑別できることを示す実験を行った。
(1)試料の調製
配列番号19で示されるフォワードプライマーと配列番号20で示されるリバースプライマーとを用いてrpoB遺伝子のうちコドン509〜コドン533に相当する領域を含む塩基配列をPCRによって核酸増幅した。次いで、核酸増幅産物をクローニングベクターpUC19に組み込み野生型rpoB陽性試料とした。さらに、該野生型rpoB陽性試料からinverse PCRによる部位特異的変異導入法を用いて変異を導入した直鎖状DNAを調製し、該直鎖状DNAをライゲーションすることで、所定の変異型rpoB遺伝子部分配列を含む環状DNAを調製した。左記環状DNAを変異型rpoB陽性試料とした。
rpoB遺伝子の核酸増幅にはKOD −Plus− ver.2(東洋紡製)を用いた。部位特異的変異導入法にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(東洋紡製)を用いた。作製した陽性試料の一覧を表2に記載した。
(2)核酸増幅および融解曲線分析
上記試料にそれぞれ下記試薬を添加して、下記条件により核酸増幅および融解曲線分析を行い核酸プローブと核酸増幅産物との複合体を検出した。分析には東洋紡社製GENECUBE(登録商標)を用いた。
【0104】
[核酸増幅用試薬]
以下の試薬を含む溶液を調製した。試料には前記野生型または変異型rpoB陽性試料を25コピー/μlとなるように濃度調製したものを使用した。
100μMフォワードプライマー(配列番号10)0.25μl
100μMリバースプライマー(配列番号14)0.05μl
100μM核酸プローブ(配列番号1、5´末端BODIPY−FL標識、3´末端リン酸化)0.03μl
100μM核酸プローブ(配列番号2、5´末端BODIPY−FL標識、3´末端リン酸化)0.03μl
100μM核酸プローブ(配列番号3、3´末端リン酸化)0.06μl
KOD Mix(ジーンキューブ(R)テストベーシック、東洋紡製)4μl
PPD Mix(ジーンキューブ(R)テストベーシック、東洋紡製)4μl
DMSO 0.32μl
精製水 0.46μl
試料 4μl
(試料として、WT、510_AG、510CAT、513TAA、513AAT、513CCA、514TTC+、515GTG、523CGG、526CAA、529AAAを使用した。510_AGの_は元の塩基が欠失していることを指す。また、514TTC+の+は挿入変異であることを指す。)
【0105】
【表2】
【0106】
[核酸増幅および融解曲線分析]
94℃・30秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・3秒
63℃・5秒
(以上60サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃〜80℃(0.09℃/秒で温度上昇)
【0107】
[結果]
図9は、配列番号10からなる塩基配列を有するフォワードプライマーと配列番号14からなる塩基配列を有するリバースプライマーとで構成される核酸プライマーセットと、配列番号1〜3からなる塩基配列をそれぞれ有する核酸プローブとを用いて、WTおよび510_AGを試料として核酸増幅を行い、その後の温度上昇にともなう蛍光強度の変化を、グラフの横軸を温度、縦軸を蛍光シグナルの微分値として解析結果を表した図である。
図9から、WTを試料とした場合は約70℃で蛍光の大きな変化が生じ検出ピークが得られたことがわかる。一方、510_AGでは約70℃以外に約65℃でも蛍光の変化が生じ検出ピークが得られている。WTと510_AGとで検出ピーク形状が異なることから、本発明の方法により野生型のrpoB遺伝子とコドン511が変異したrpoB遺伝子とを識別できることが示された。
同様に
図10〜18はそれぞれ、510CAT、513TAA、513AAT、513CCA、514TTC+、515GTG、523CGG、526CAA、529AAAがWTと検出ピークが異なることを示しており、本結果からコドン510、513、514、515、523、526、529のいずれかに変異を有するrpoB遺伝子を、野生型rpoB遺伝子と区別することが可能であることが明らかになった。
【0108】
〔実施例3:様々な核酸プライマーセットを用いて得られた拡散増幅産物に対する本発明方法の適用〕
実施例1、2とは異なる核酸プライマーセットを用いて核酸増幅させた核酸増幅産物を検出対象とし、蛍光標識された核酸プローブと無標識の核酸プローブとを用いることで、rpoB遺伝子を検出し、かつ野生型rpoB遺伝子と変異型rpoB遺伝子とを鑑別できることを示す実験を行った。
(1)試料の調製
実施例1、2で使用したWTを使用した。濃度は25コピー/μlとし、濃度調製は10mMのTris−HCl(pH7.5)で行った。
(2)核酸増幅および融解曲線分析
上記試料にそれぞれ下記試薬を添加して、下記条件により核酸増幅および融解曲線分析を行い核酸プローブと核酸増幅産物との複合体を検出した。分析には東洋紡社製GENECUBE(登録商標)を用いた。
【0109】
[核酸増幅用試薬]
以下の試薬を含む溶液を調製した。核酸プライマーの組み合わせは表3に記載した。
100μMフォワードプライマー(配列番号10、11、12、13のいずれか)0.25μl
100μMリバースプライマー(配列番号14、15、16、17のいずれか)0.05μl
100μM核酸プローブ(配列番号1、5´末端BODIPY−FL標識、3´末端リン酸化)0.03μl
100μM核酸プローブ(配列番号2、5´末端BODIPY−FL標識、3´末端リン酸化)0.03μl
100μM核酸プローブ(配列番号3、3´末端リン酸化)0.06μl
KOD Mix(ジーンキューブ(R)テストベーシック、東洋紡製)4μl
PPD Mix(ジーンキューブ(R)テストベーシック、東洋紡製)4μl
DMSO 0.32μl
精製水 0.46μl
試料 4μl
(試料として、WTを使用した)
【0110】
【表3】
【0111】
[核酸増幅および融解曲線分析]
実施例2に同じ
【0112】
[結果]
図19は、配列番号10からなる塩基配列を有するフォワードプライマーと配列番号14からなる塩基配列を有するリバースプライマーとで構成される核酸プライマーセットと、配列番号1〜3からなる塩基配列をそれぞれ有する核酸プローブとを用いて、WTを試料として核酸増幅を行い、その後の温度上昇にともなう蛍光強度の変化を、グラフの横軸を温度、縦軸を蛍光シグナルの微分値として解析結果を表した図である。
同様に
図20〜29は表3に記載した核酸プライマー組み合わせで同様の実験を行った結果である。本実施例から、本発明の検出方法および本発明で用いられる核酸プローブセットは、特定の塩基配列を有する核酸プライマーによる核酸増幅産物を対象とせず、様々な塩基配列を有する核酸プライマーセットを用いて得られた核酸増幅産物を対象とした検出が可能であることが示された。
【0113】
〔実施例4:異なる塩基配列を有する核酸プローブを用いた本発明の方法によるrpoB遺伝子検出〕
実施例1、2とは異なる塩基配列を有する核酸プローブを用いて、rpoB遺伝子を検出し、かつ野生型rpoB遺伝子と変異型rpoB遺伝子とを鑑別できることを示す実験を行った。
(1)試料の調製
実施例1、2で使用した試料のうちWT、511GTG、512GGC、531TTGを使用した。濃度は25コピー/μlとし、濃度調製は10mMのTris−HCl(pH7.5)で行った。
(2)核酸増幅および融解曲線分析
上記試料にそれぞれ下記試薬を添加して、下記条件により核酸増幅および融解曲線分析を行い核酸プローブと核酸増幅産物との複合体を検出した。分析には東洋紡社製GENECUBE(登録商標)を用いた。
【0114】
[核酸増幅用試薬]
以下の試薬を含む溶液を調製した。試料には前記野生型または変異型rpoB陽性試料を25コピー/μlとなるように濃度調製したものを使用した。核酸プライマーの組み合わせは表2に記載した。
100μMフォワードプライマー(配列番号10、11、12、13のいずれか)0.25μl
100μMリバースプライマー(配列番号14、15、16、17のいずれか)0.05μl
100μM核酸プローブ(配列番号4、3´末端BODIPY−FL標識)0.03μl
100μM核酸プローブ(配列番号5、3´末端BODIPY−FL標識)0.03μl
100μM核酸プローブ(配列番号6、3´末端リン酸化)0.06μl
KOD Mix(ジーンキューブ(R)テストベーシック、東洋紡製)4μl
PPD Mix(ジーンキューブ(R)テストベーシック、東洋紡製)4μl
DMSO 0.32μl
精製水 0.46μl
試料 4μl
【0115】
[核酸増幅および融解曲線分析]
実施例2に同じ
【0116】
[結果]
図30は、配列番号10からなる塩基配列を有するフォワードプライマーと配列番号14からなる塩基配列を有するリバースプライマーとで構成される核酸プライマーセットと、配列番号4〜6からなる塩基配列をそれぞれ有する核酸プローブとを用いて、WTおよび511GTGを試料として核酸増幅を行い、その後の温度上昇にともなう蛍光強度の変化を、グラフの横軸を温度、縦軸を蛍光シグナルの微分値として解析結果を表した図である。
同様に
図31、32は511GTGの代わりに、512GGC、531TTGを試料として同様の実験を行った結果である。本実施例から、本発明で用いる核酸プローブは配列番号1〜3に限定されず、左記とは異なる塩基配列を有する核酸プローブも使用可能であることが明らかになった。