(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電は、国内における電力供給において非常に重要な位置を占めている。石炭は、石油等とは異なり偏在せずに世界中で産出し、価格も比較的安定している。そのため、今後も世界的に基幹エネルギーとして広く活用されると見込まれている。
【0003】
一方、石炭火力発電は単位発電量当たりのCO
2排出量が他の発電システムに比べて高いため、より発電効率を高めてCO
2排出量を抑制することが重要である。発電効率を向上するためには、発電に用いられる蒸気の温度・圧力を高温・高圧化することが必要である。現在の蒸気条件は温度600℃、圧力25MPaであり、発電効率は42%である。この蒸気温度を700℃まで高め、発電効率を46〜48%まで高めた超高効率な石油火力発電プラントの開発が進められている。
【0004】
蒸気条件の高温化に伴い、石炭火力発電プラントにおける過熱器管、蒸気配管といった高温部の使用環境は材料にとって非常に厳しくなる。このため、特に温度の高くなる過熱器管において、SUS304H、SUS316H、SUS347H等のオーステナイト系耐熱合金では高温強度が不足する。
【0005】
これまでに開発されている高強度の耐熱合金は、次のようなものがある。特開2004−3000号公報には、ラーベス相、炭化物を強化相とするFe−Ni基合金が開示されている。国際公開第2009/154161号には、α―Cr相、炭化物、金属間化合物相Ni
3Tiを強化相とするFe−Ni基合金が開示されている。国際公開第2010/038826号には、金属間化合物γ’−Ni
3Al、炭化物を強化層とするFe含有量の少ないNi基合金が開示されている。特開2011−195880号公報及び特開2012−46796号公報には、高温で不安定な炭化物を強化相として用いず、金属間化合物を主な強化層とした低炭素のオーステナイト系耐熱合金が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、多数のオーステナイト系耐熱合金について試験を行い、以下の知見を得た。
【0016】
(1)高温において熱的に不安定な炭化物に比べ、より安定な金属間化合物を用いて強化した合金をクリープ試験に供すると、非常に高いクリープ強度を示す。
【0017】
(2)Nbと同様に金属間化合物による析出強化を促進する元素としてTaがある。TaもNbと同様に、ラーベス相、Ni
3Ta相を形成して合金を強化する。しかし、Taを単独で添加してもNbに比べて添加量当たりの強化量が小さい。そのため、Ta単独の添加では、多量の添加による合金コストの大幅な増加を招く。
【0018】
(3)Nbに加えてTaを複合添加すると、Nbを単独で添加した場合に比べてクリープ強度が大幅に向上する。詳細に組織観察を行った結果、クリープ中に析出する析出相の安定化が高強度化の理由であることが明らかになった。
【0019】
すなわち、NbとTaとを複合添加すると、Nbを単独で添加した場合とほぼ同様に、粒界にラーベス相が析出し、粒内にはγ”相が析出する。γ”相は通常、長時間高温に保持した場合には構造変態が生じ、粗大な形状のδ相へと変化する。このため、高温強度は段々と低下する。しかし、NbとTaとを複合添加すると、γ”相はより長時間安定となり、粗大化等の組織劣化が抑制されて、クリープ強度が向上する。NbとTaとを複合添加することによる組織安定化の理由は必ずしも明らかではないが、Taがγ”相中に固溶することにより、相安定性が向上するためと考えられる。
【0020】
このような複合添加の効果を得るためには、下記の式(1)で定義されるf1を2.8〜6.5とする必要があることが明らかになった。
f1=Nb+0.5Ta・・・(1)
【0021】
(4)さらに詳細に調査を行った結果、長時間高いクリープ強度を維持するためには、γ”相の安定化だけではなく、ラーベス相とγ”相のバランスが重要であることが明らかになった。
【0022】
NbとTaとを複合添加した高強度な合金では、粒界にラーベス相、粒内にγ”相が析出する。析出相のバランスが崩れ、γ”相が減少してラーベス相が増加すると、粒内にもラーベス相が析出する。粒内のラーベス相は粗大で密度が低いため、クリープ強度低下を招く。また反対に、ラーベス相が減少してγ”相が増加すると、粒界にもγ”相が析出する。γ”相はラーベス相に比べて析出開始が遅く、またラーベス相ほど密に粒界を被覆しないため、粒界のγ”相はクリープ強度の低下を招く。
【0023】
このような析出強化相のバランスを決定するのは、Nb及びTaの含有量だけではなく、Cr及びNiの含有量が関係していることが明らかになった。Cr含有量が増加すると、Fe
2Nbラーベス相がより固溶できることによって安定化し、ラーベス相の体積率が増加する。一方、Ni含有量が増加すると、γ”−Ni
3Nb相がより安定化し、γ”相の体積率が増加する。
【0024】
鋭意検討した結果、ラーベス相及びγ”相の体積率バランスを適正に保つためには、下記の式(2)で定義されるf2を3.3〜7.5にする必要があることが明らかになった。
f2=(Nb+0.5Ta+4.2)×Cr/Ni・・・(2)
【0025】
以上の知見に基づいて、本発明によるオーステナイト系耐熱合金は完成された。以下、本発明の一実施形態によるオーステナイト系耐熱合金を詳細に説明する。
【0026】
本実施形態によるオーステナイト系耐熱合金は、以下に説明する化学組成を有する。以下の説明において、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
【0027】
C:0.020%未満
炭素(C)は、従来の高温で使用されるオーステナイト系ステンレス合金及び耐熱合金では、炭化物を形成してクリープ強度を向上するのに有効な元素とされている。しかし本実施形態では、高温において炭化物よりも安定な金属間化合物相によって高温強度を実現する。そのため、C含有量が多くなると、金属間化合物の析出量が減少して高強度化が困難になる。また、C含有量が多くなると、炭化物が過剰に析出して靱性等の機械的性質が劣化する。さらに、溶接性も低下する。したがって、C含有量には上限を設けて、0.020%未満とする。C含有量は、0.015%以下とすることが好ましく、0.012%以下とすることがさらに好ましい。C含有量には下限を設けないが、極端な低減はコストの増大を招く。そのため、C含有量の下限は0.003%とすることが好ましく、0.005%とすることがさらに好ましい。
【0028】
Si:2%以下
シリコン(Si)は、合金を脱酸するとともに、合金の耐酸化性及び耐水蒸気酸化性を高める。一方、Si含有量が過剰になると、合金の熱間加工性が低下する。そのため、Si含有量には上限を設けて、2%以下とする。Si含有量は、1.0%以下とすることが好ましく、0.8%以下とすることがさらに好ましい。他の元素によって脱酸作用が十分確保されている場合には、Si含有量には下限を設けなくても良い。脱酸作用、耐酸化性及び耐水蒸気酸化性等の効果を安定して得たい場合には、Si含有量は0.03%以上とするのが好ましく、0.06%以上とするのがさらに好ましい。
【0029】
Mn:2%以下
マンガン(Mn)は、合金中に含まれる不純物のSと結合してMnSを形成し、熱間加工性を向上させる。一方、Mn含有量が過剰になると、合金が硬くなって脆くなり、かえって熱間加工性が低下する。さらに、溶接性も低下する。そのため、Mn含有量には上限を設けて、2%以下とする。Mn含有量は、1.5%以下とすることが好ましく、1.3%以下とすることがさらに好ましい。熱間加工性改善の作用を安定して得たい場合には、Mn含有量は0.1%以上とすることが好ましく、0.2%以上とすることがさらに好ましい。
【0030】
Cr:15〜24%
クロム(Cr)は、合金の耐酸化性、耐水蒸気酸化性、及び耐食性を向上させる。700℃以上の高温環境下での有効な耐酸化特性、耐水蒸気酸化特性、及び耐高温腐食特性を得るためには、15%以上のCrを含有させる必要がある。合金の耐食性はCr含有量が多いほど向上するが、Cr含有量が24%を超えると、合金の組織安定性が低下してクリープ強度が低下する。また、クロム含有量が過剰になると、オーステナイト組織を安定にするために高価なNiの含有量を増加させる必要が生じる。さらに、溶接性も低下する。したがって、Cr含有量は15〜24%とする。Cr含有量の下限は16%とすることが好ましく、17%とすることがさらに好ましい。Cr含有量の上限は23%とすることが好ましく、22%とすることがさらに好ましい。
【0031】
Ni:25〜34%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト組織を安定にするとともに、合金の耐食性を向上させる。一方、Ni含有量が過剰になると、コスト上昇を招く。さらに、合金のクリープ強度が低下する。したがって、Ni含有量は25〜34%とする。Ni含有量の下限は26%とすることが好ましく、28%とすることがさらに好ましい。Ni含有量の上限は33%とすることが好ましく、32%とすることがさらに好ましい。
【0032】
P:0.04%以下
リン(P)は、不純物である。P含有量が過剰になると、合金の溶接性及び熱間加工性が低下する。したがって、P含有量には上限を設けて、0.04%以下とする。P含有量は、0.03%以下とすることが好ましく、少なければ少ないほど良い。
【0033】
S:0.01%以下
硫黄(S)は、不純物である。S含有量が過剰になると、合金の溶接性及び熱間加工性が低下する。したがって、S含有量には上限を設けて、0.01%以下とする。S含有量は、0.008%以下とすることが好ましく、少なければ少ないほど良い。
【0034】
Al:0.3%以下
アルミニウム(Al)は、脱酸作用を有する。一方、Al含有量が過剰になると、組織安定性が低下する。したがって、Al含有量には上限を設けて、0.3%以下とした。Al含有量は、0.25%以下とすることが好ましく、0.20%以下とすることがさらに好ましい。脱酸作用を安定して得たい場合には、Al含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。
【0035】
N:0.05%以下
窒素(N)は、オーステナイト組織を安定化する。なおNは、通常の溶解法では不可避的に含まれる元素である。一方、N含有量が過剰になると、CとともにTi等と未固溶で残る炭窒化物を形成して合金の靱性を低下させる。したがって、N含有量には上限を設けて、0.05%以下とする。N含有量は、0.04%以下とすることが好ましい。
【0036】
Nb:2.3〜5.5%
ニオブ(Nb)は、ラーベス相及びγ”−Ni
3Nb相の形成を促進し、粒界・粒内の析出強化に寄与し、クリープ強度を向上させる。一方、Nb含有量が過剰になると、ラーベス相及びγ”−Ni
3Nb相の体積率が過剰になり、長時間時効後の靱性が低下する。したがって、Nb含有量は2.3〜5.5%とする。Nb含有量の下限は、2.5%とすることが好ましく、3.0%とすることがさらに好ましい。Nb含有量の上限は、5.0%とすることが好ましく、4.5%とすることがさらに好ましい。
【0037】
Ta:0.3〜5%
タンタル(Ta)は、ラーベス相及びγ”−Ni
3Nb相に固溶することでこれらの強化相の形成を促進し、粒界・粒内の析出強化に寄与し、クリープ強度を向上させる。特にγ”−Ni
3Nb相については、Taは、粗大なδ相への構造変態を抑制することで、長時間における高いクリープ強度の維持に寄与する。一方、Ta含有量が過剰になると、ラーベス相及びγ”−Ni
3Nb相の体積率が過剰になり、長時間時効後の靱性が低下する。したがって、Ta含有量は0.3〜5%とする。Ta含有量の下限は、0.4%とすることが好ましく、0.5%とすることがさらに好ましい。Ta含有量の上限は、4.5%とすることが好ましく、4%とすることがさらに好ましい。
【0038】
本実施形態によるオーステナイト系耐熱合金の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここでいう不純物とは、耐熱合金を工業的に製造する際に、原料として利用される鉱石やスクラップから混入する元素、又は製造過程の環境等から混入する元素を意味する。
【0039】
本実施形態によるオーステナイト系耐熱合金は、上述のFeの一部に代えて、下記の(a)から(f)までのいずれかの群から選択される1種以上の元素を含有する化学組成であっても良い。下記の(a)から(f)までの群に属する元素は、すべて選択元素である。すなわち、下記の(a)から(f)までの群に属する元素は、いずれも本実施形態によるオーステナイト系耐熱合金に含有されていなくても良い。また、一部だけが含有されていても良い。
【0040】
より具体的には、例えば、(a)から(f)までの群の中から1つの群だけを選択し、その群から1種以上の元素を選択しても良い。この場合、選択した群に属するすべての元素を選択する必要はない。また、(a)群から(f)群の中から複数の群を選択し、それぞれの群から1種以上の元素を選択しても良い。この場合も、選択した群に属するすべての元素を選択する必要はない。
【0041】
(a)群
Co:5%以下
コバルト(Co)は、Niと同様にオーステナイト組織を安定化させて合金のクリープ強度を向上させる。一方、Co含有量が過剰になると、コストの増加を招く。したがって、Co含有量には上限を設け、5%以下とする。上述した効果を安定して得るためには、Co含有量は、0.5%以上とすることが好ましい。
【0042】
(b)群
W :4%以下
Mo:2%以下
タングステン(W)及びモリブデン(Mo)はいずれも、母相、すなわちマトリックスであるオーステナイト相に固溶して、固溶強化によって合金のクリープ強度を向上させる。一方、これらの元素の含有量が過剰になると、過剰にラーベス相が析出して組織バランスが低下し、合金のクリープ強度が低下する。したがって、W含有量及びMo含有量には上限を設け、W含有量は4%以下、Mo含有量は2%以下とする。W含有量は3%以下、Mo含有量は1.5%以下とすることが好ましい。上記した効果を安定して得るためには、W含有量は1.0%以上、Mo含有量は0.5%以上とすることが好ましい。
【0043】
(c)群
Ti:1.0%以下
V :1.0%以下
チタン(Ti)及びバナジウム(V)はいずれも、γ”−Ni
3Nb相をより長時間安定化させ、合金のクリープ強度を向上させる。一方、これらの元素の含有量が過剰になると、γ”−Ni
3Nb相の体積率がラーベス相の体積率に対して過剰に増加するため組織バランスが低下し、合金のクリープ強度が低下する。したがって、Ti含有量及びV含有量には上限を設け、各々1.0%以下とする。Ti含有量及びV含有量は、各々0.5%以下とすることが好ましい。上述した効果を安定して得るためには、Ti含有量及びV含有量の少なくとも一つを0.05%以上とすることが好ましい。
【0044】
(d)群
Zr:0.2%以下
Hf:0.2%以下
B :0.01%以下
ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、及び硼素(B)はいずれも、主として粒界強化に寄与し、合金のクリープ強度を向上させる。一方、これらの元素の含有量が過剰になると、合金の溶接性及び熱間加工性が低下する。したがって、Zr含有量、Hf含有量、及びB含有量には上限を設け、Zr含有量は0.2%以下、Hf含有量は0.2%以下、B含有量は0.01%以下とする。Zr含有量は0.08%以下、Hf含有量は0.08%以下、B含有量は0.007%以下とすることが好ましい。上述した効果を安定して得るためには、Zr含有量、Hf含有量、及びB含有量の少なくとも一つを0.0005%以上とすることが好ましく、0.001%以上とすることがさらに好ましい。
【0045】
(e)群
Mg:0.05%以下
Ca:0.05%以下
REM:0.2%以下
マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、及び希土類元素(REM)はいずれも、Sを硫化物として固定し、合金の熱間加工性を向上させる。また、REMは、無害で安定な酸化物を形成して、酸素の好ましくない影響を小さくし、合金の耐食性、クリープ強度、及びクリープ延性を向上させる。一方、Mg含有量及びCa含有量が過剰になると、合金の延性、靱性、及び清浄性が低下する。また、REM含有量が過剰になると、酸化物等の介在物が多くなり、合金の熱間加工性及び溶接性が低下する。さらに、コストの上昇を招く。したがって、Mg含有量、Ca含有量、及びREM含有量には上限を設け、Mg含有量は0.05%以下、Ca含有量は0.05%以下、REM含有量は0.2%以下とする。Mg含有量は0.01%以下、Ca含有量は0.01%以下、REM含有量は0.1%以下とすることが好ましい。上述した効果を安定して得るためには、Mg含有量、Ca含有量、及びREM含有量の少なくとも一つを0.0005%以上とすることが好ましい。
【0046】
なお、「希土類元素(REM)」とは、Sc、Y、及びランタノイドの合計17元素の総称であり、「REM含有量」とはREMのうちの1種又は2種以上の元素の合計含有量を指す。なお、REMは、一般的にミッシュメタルに含有される。このため例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REMの含有量が上記の範囲となるように含有させても良い。
【0047】
(f)群
Re:3%以下
レニウム(Re)は、主として固溶強化元素として合金の高温強度及びクリープ強度を向上させる。一方、Re含有量が過剰になると、合金の熱間加工性及び靱性が低下する。したがって、Re含有量には上限を設け、3%以下とする。Re含有量は、2%以下とすることが好ましい。上述した効果を安定して得るためには、Re含有量は0.1%以上とすることが好ましい。
【0048】
本実施形態によるオーステナイト系耐熱合金の化学組成はさらに、下記の式(1)で定義されるf1が2.8〜6.5であり、下記の式(2)で定義されるf2が3.3〜7.5である。ここで、式(1)及び式(2)における各元素記号には対応する元素の質量%で表した含有量が代入される。
f1=Nb+0.5Ta・・・(1)
f2=(Nb+0.5Ta+4.2)×Cr/Ni・・・(2)
【0049】
f1:2.8〜6.5
f1が2.8未満では、Nb及びTaのラーベス相及びγ”−Ni
3Nb相の形成促進によるクリープ強度の向上が達成されない。一方、f1が6.5を超えると、粒界の融点が低下すること等によって、熱間加工性、溶接性、及び長時間時効後の靱性が著しく低下する。f1の下限は、3.2とすることが好ましい。f1の上限は、6.0とすることが好ましい。
【0050】
f2:3.3〜7.5
f2が3.3未満では、γ”−Ni
3Nb相の体積率が過剰になり、粒界の被覆率が減少し、クリープ強度の向上が達成されない。一方、f2が7.5を超えると、ラーベス相の体積率が過剰になり、γ”−Ni
3Nb相による粒内析出強化量が低下し、クリープ強度の向上が達成されない。f2の下限は、3.6とすることが好ましい。f2の上限は、7.0とすることが好ましい。
【0051】
本実施形態によるオーステナイト系耐熱合金の化学組成はさらに、下記の式(3)で定義されるf3が0.5〜0.8であることが好ましい。ここで、式(3)における各元素記号には対応する元素の質量%で表した含有量が代入される。
f3=Cr/Ni・・・(3)
【0052】
f3:0.5〜0.8
f3が0.5未満ではγ”−Ni
3Nb相が強く安定化される。そのため、γ”−Ni
3Nb相の体積率が過剰になり、粒界の被覆率が減少し、クリープ強度の向上が達成されない場合がある。一方、f3が0.8を超えると、ラーベス相が強く安定化される。ラーベス相の体積率が過剰になり、γ”−Ni
3Nb相による粒内析出強化量が低下し、クリープ強度向上が達成できない場合がある。f3の下限は、0.52とすることが好ましい。f3の上限は、0.78とすることが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0054】
表1に示す化学組成を有する合金1〜10及び合金A〜Kを高周波真空溶解炉を用いて溶製し、外径120mmの30kgインゴットとした。
【0055】
【表1】
【0056】
溶製したインゴットを、熱間鍛造、熱間圧延、及び冷間圧延して、厚さ10.5mmの板材を製造した。製造した板材を1200℃で10分間保持した後に水冷した。
【0057】
水冷後の板材の一部を用いて、厚さ方向中心部から、長手方向(圧延方向)に平行に、直径が6mmで標点間距離が30mmの丸棒試験片を機械加工によって作製し、クリープ破断試験に供した。
【0058】
クリープ破断試験は700〜800℃の大気中において実施し、得られた破断強度を基にラーソン−ミラーパラメータ法によって、700℃、15000時間でのクリープ破断強度を求めた。
【0059】
水冷後の板材の残りを用いて、シャルピー衝撃値試験片を作製した。具体的にはまず、板材に700℃で10000時間保持する時効処理を施し、その後に水冷した。時効処理後に水冷した各板材の厚さ方向中心部から、長手方向に平行に、JIS Z 2242(2005)に記載の、幅が5mm、高さが10mm、長さが55mmのVノッチ試験片を作製した。作製した試験片を用いて0℃でシャルピー衝撃試験を行い、衝撃値を測定して長時間加熱後(時効処理後)の靱性を評価した。
【0060】
表2に上記の試験結果を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、合金1〜10を用いた試験番号1〜10では、クリープ破断強度、及び時効処理後の衝撃値はともに良好であった。一方、合金A〜Kを用いた試験番号11〜21では、試験番号1〜10と比べて、クリープ破断強度、及び時効処理後の衝撃値のいずれかが劣っていた。
【0063】
試験番号11(合金A)の場合、クリープ破断強度は高かったものの、時効処理後の衝撃値は低かった。これは、合金AのC含有量が多すぎたためと考えられる。
【0064】
試験番号12(合金B)の場合、時効処理後の衝撃値は高かったものの、クリープ破断強度は低かった。これは、合金BのNb含有量が少なすぎため、あるいはf1が低すぎたためと考えられる。
【0065】
試験番号13(合金C)の場合、クリープ破断強度は高かったものの、時効処理後の衝撃値は低かった。これは、合金CのNb含有量が多すぎたため、あるいはf1が高すぎたためと考えられる。
【0066】
試験番号14(合金D)の場合、時効処理後の衝撃値は高かったものの、クリープ破断強度は低かった。これは、合金DのTa含有量が少なすぎため、あるいはf1が低すぎたためと考えられる。
【0067】
試験番号15(合金E)の場合、クリープ破断強度は高かったものの、時効処理後の衝撃値は低かった。これは、合金EのTa含有量が多すぎたため、あるいはf1が高すぎたためと考えられる。
【0068】
試験番号16(合金F)の場合、時効処理後の衝撃値は高かったものの、クリープ破断強度は低かった。これは、合金FのTa含有量が少なすぎためと考えられる。
【0069】
試験番号17(合金G)の場合、時効処理後の衝撃値は高かったものの、クリープ破断強度は低かった。これは、合金Gのf1が低すぎためと考えられる。
【0070】
試験番号18(合金H)の場合、クリープ破断強度は高かったものの、時効処理後の衝撃値は低かった。これは、合金Hのf1が高すぎたためと考えられる。
【0071】
試験番号19(合金I)の場合、時効処理後の衝撃値は高かったものの、クリープ破断強度は低かった。これは、合金Iのf2が低すぎたためと考えられる。
【0072】
試験番号20(合金J)の場合、時効処理後の衝撃値は高かったものの、クリープ破断強度は低かった。これは、合金Jのf2が高すぎたためと考えられる。
【0073】
試験番号21(合金K)の場合、時効処理後の衝撃値は高かったものの、クリープ破断強度は低かった。これは、合金Kのf1が低すぎたため、あるいはf2が低すぎたためと考えられる。
【0074】
図1は、f1とクリープ破断強度との関係を示す散布図である。クリープ破断強度は、全体としてf1が大きくなるのにともなって向上する傾向を示している。クリープ破断強度は、f1が2.8の近傍で不連続になっており、f1が2.8以上になると顕著に向上する。また、
図1から、f1が2.8以上であっても、Ta含有量が少なすぎる場合(合金J)、f2が低すぎる場合(合金I)、f2が高すぎる場合(合金J)には、高いクリープ破断強度が得られないことが分かる。
【0075】
図2は、f1とシャルピー衝撃値との関係を示す散布図である。シャルピー衝撃値は、全体としてf1が大きくなるのにともなって低下する傾向を示している。シャルピー衝撃値は、f1が6.5の近傍で不連続になっており、f2が6.5以下になると顕著に向上する。なお、合金Aは、f1が6.5以下であるもののシャルピー衝撃値が低かった。上述の通りこれは、合金AのC含有量が高すぎたためと考えられる。