特許第6379887号(P6379887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6379887-光ファイバの巻き取り方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379887
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】光ファイバの巻き取り方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/12 20060101AFI20180820BHJP
   G02B 6/46 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C03B37/12 A
   G02B6/46
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-180311(P2014-180311)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-52976(P2016-52976A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠幸
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−178220(JP,A)
【文献】 特開2003−137588(JP,A)
【文献】 実開昭52−018053(JP,U)
【文献】 特開平09−100064(JP,A)
【文献】 特開2003−054982(JP,A)
【文献】 特表平03−504291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/12
G02B 6/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを巻き取りボビンの外周に巻き取る光ファイバの巻き取り方法であって、
前記巻き取りボビンは、胴部の外周面上に発泡樹脂を基材とするクッション材を備え、
前記クッション材の厚さt、前記発泡樹脂の発泡倍率H、巻き取り張力Tを、
2mm≦t≦8mm、10≦H≦30、40g≦T≦80g、の範囲内とし、
前記クッション材の厚さtおよび前記発泡倍率Hに対する上記範囲内の下限であるt=2mmおよびH=10のときの巻き取り張力Tを上記範囲内の上限である80gとして、
前記クッション材の厚さtおよび前記発泡倍率Hが上記の範囲内で互いに異なる複数の前記巻き取りボビンに前記光ファイバを巻き取るにあたり、前記クッション材の厚さtおよび前記発泡倍率Hが大きくなるほど前記巻き取り張力Tを小さくして巻き取る、光ファイバの巻き取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの巻き取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの巻き取りボビンとして、ボビンの胴部表面に巻くクッション材の発泡倍率を規定したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、クッション材の表面に接着剤を塗布したもの、クッション材の表面に樹脂層を形成したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−316830号公報
【特許文献2】特開2006−52042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバの巻き取りボビンには、例えば、特許文献1、2のように、ボビン胴面近くの光ファイバに局所的な側圧がかからないように、胴部にクッション材を巻いている。
しかしながら、クッション材を巻いた状態で一定以上の張力で光ファイバを巻き取ると、光ファイバがクッション材に食い込んでしまう。そして、光ファイバの食い込みにより押し出されたクッション材の一部が片寄りを起こすなどして、ボビン端部の鍔際の巻き状態が凸となる場合がある。この状態のまま巻き取りを継続すると、さらにクッション材が押し込まれて巻取られた光ファイバが浮いてしまい、線跳ね、線飛びと呼ばれる巻き不良が発生する虞がある。このような巻き不良部では、浮いた光ファイバの上に光ファイバが巻かれることにより曲げ半径の小さな箇所が生じることになり、伝送損失が局所的に高くなるため、それに起因するOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)の巻段差(伝送損失異常)が発生してしまう。また、巻き状態が凸となっていると、見た目で異常と判断されたり、巻き崩れが発生して同様の巻き不良が発生する場合がある。一方、巻き取り張力を低くしすぎると、巻き緩みによる巻き不良が発生してしまう。
【0005】
そこで、本発明の目的は、巻き不良の発生を防ぐことができる光ファイバの巻き取り方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る光ファイバの巻き取り方法は、光ファイバをボビンの外周に巻き取る光ファイバの巻き取り方法であって、
前記巻き取りボビンは、胴部の外周面上に発泡樹脂を基材とするクッション材を備え、
前記クッション材の厚さt、前記発泡樹脂の発泡倍率H、巻き取り張力Tを、
2mm≦t≦8mm、10≦H≦30、40g≦T≦80g、の範囲内とし、
前記クッション材の厚さtおよび前記発泡倍率Hに対する上記範囲内の下限であるt=2mmおよびH=10のときの巻き取り張力Tを上記範囲内の上限である80gとして、上記の範囲内で、前記クッション材の厚さtおよび前記発泡倍率Hが大きくなるほど前記巻き取り張力Tを小さくして巻き取る。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光ファイバを巻き取りボビンに巻き取る際に、巻き不良の発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る光ファイバの巻き取り方法において使用する巻き取りボビンの一例を示す図であり、(A)は正面図、(B)はA−A線の断面図である。
図2】光ファイバの巻き不良の発生の原因についての説明図である。
図3】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態を列記して説明する。
本発明の実施形態に係る光ファイバの巻き取り方法は、
(1) 光ファイバをボビンの外周に巻き取る光ファイバの巻き取り方法であって、
前記巻き取りボビンは、胴部の外周面上に発泡樹脂を基材とするクッション材を備え、
前記クッション材の厚さt、前記発泡樹脂の発泡倍率H、巻き取り張力Tを、
2mm≦t≦8mm、10≦H≦30、40g≦T≦80g、の範囲内とし、
前記クッション材の厚さtおよび前記発泡倍率Hに対する上記範囲内の下限であるt=2mmおよびH=10のときの巻き取り張力Tを上記範囲内の上限である80gとして、上記の範囲内で、前記クッション材の厚さtおよび前記発泡倍率Hが大きくなるほど前記巻き取り張力Tを小さくして巻き取る。
巻き取りボビンのクッション材が厚く且つ発泡倍率が大きい程、巻き取り張力を低くすることにより、光ファイバのクッション材への食い込みが少なくなるため、食い込みを原因とする巻き不良が減少する。ただし、巻き取り張力を低くすると、巻き緩みによる巻き不良が発生しやすくなるので、適切なクッション材の厚さおよび発泡倍率が必要である。このような知見に鑑みて、巻き取りボビンのクッション材の厚さ、発泡倍率、巻き取り張力を上記の範囲内とした。これにより、光ファイバを巻き取る際の巻き不良の発生を防ぐことができる。よって、巻き不良に起因するOTDR巻段差の発生も防ぐことができる。
【0010】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る光ファイバの巻き取り方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る光ファイバの巻き取り方法において使用する巻き取りボビンの一例を示す図であり、(A)は正面図、(B)はA−A線の断面図である。本実施形態では、図1に示す巻き取りボビン1を使用して、光ファイバをボビンの外周に巻き取る。
図1に示す巻き取りボビン1は、光ファイバが巻かれる胴部2を備え、胴部2の両端には、鍔部4が設けられている。胴部2は、例えば金属またはプラスチックからなる円筒形状のもので、外径が例えば280mmである。
そして、胴部2の外周面上には、シート状の発泡樹脂を基材とするクッション材3が、胴部2側の面に接着剤を塗布するなどして、胴部2に巻かれている。クッション材3の基材としての発泡樹脂は、例えば発泡ポリエチレンシートを用いる。
【0012】
次に、図2を参照して、クッション材3を巻いた巻き取りボビン1に、巻き緩みや巻崩れが生じないように、所定の張力以上の張力で光ファイバ5を巻き取る際に、巻き不良が発生する原因について説明する。
まず、図2の(a)に示すように、巻き取りボビン1の左端部Lから光ファイバ5を巻き取り始める。
光ファイバ5の巻き取りが進むに従い、図2の(b)に示すように、所定の張力以上の巻き張力によりクッション材3が締め付けられるので、巻き取り方向Bにクッション材3が押し出されて押出部3aが発生する。
【0013】
さらに巻き取りが進むのに従い、図2の(c)に示すように、クッション材3の押出部3aが大きくなり、やがて巻き取りボビン1の右端部Uの鍔部4にぶつかり、大きく膨らむ。
そして、図2の(d)に示すように、巻き取りボビン1の右端部U近傍では、クッション材3の押出部3aの上にも光ファイバ5が巻かれる。
【0014】
さらに、図2の(e)に示すように、光ファイバ5が巻かれた層が増えてくると、上の層から押される力Cが増えるため、膨らんだクッション材3の押出部3aが縮むが、光ファイバ5は縮まないので浮いて緩んでしまい、線跳ねや線飛びと呼ばれる巻き不良が発生する虞がある。
そして、光ファイバ5が緩んだ状態の上層にさらに光ファイバ5が巻かれると、光ファイバ5に微小な曲げがある状態が固定されることになり、局所的に伝送損失が高くなる。すなわち、OTDRの巻段差が発生してしまう。
【0015】
なお、光ファイバ5の巻き状態が凸や凹となっている箇所は、見た目だけで巻き不良と判断される場合もある。しかも巻き状態が凸や凹となっている箇所は崩れやすく、巻き崩れが発生すれば上記の線跳ねや線飛び同様の巻き不良が発生する場合もある。
【0016】
以上のような知見から、本発明者らは、巻き不良の発生を防ぐ方法として、巻き崩れが起きない所定の張力に耐えられるクッション材3の厚さおよび発泡樹脂の発泡倍率を予め決めておくことと、張力を上げる必要がある場合は、より薄くて硬いクッション材3を使用して光ファイバの巻き取りを行うとよいことを見出した。
【0017】
一方、巻き取り張力は、低くすると巻き緩みが発生しやすくなり、高くなると巻きが固くなりすぎて、光ファイバの伝送損失が大きくなる。このため、本実施形態では、巻き取り張力Tを、40g≦T≦80g、とする。
【0018】
また、本実施形態では、上記の張力Tの範囲内で張力に耐えられるクッション材3の厚さおよび基材とする発泡樹脂の発泡倍率を求め、クッション材3の厚さt、発泡樹脂の発泡倍率Hを、2mm≦t≦8mm、10≦H≦30の範囲内とする。
【0019】
そして、本実施形態では、クッション材3の厚さtおよび発泡倍率Hに対する範囲内の下限であるt=2mmおよびH=10のときの巻き取り張力Tを上限の80gとして、上記の範囲内で、クッション材3の厚さtおよび発泡倍率Hが大きくなるほど巻き取り張力Tを小さくして巻き取るようにする。
【0020】
以上の本実施形態に係る光ファイバの巻き取り方法によれば、光ファイバ5を巻き取る際の巻き不良の発生を防ぐことができる。よって、巻き不良に起因するOTDR巻段差の発生も防ぐことができる。
【0021】
[実施例]
次に、光ファイバの巻き取り方法の実施例について説明する。
本発明の上記実施形態に係る光ファイバの巻き取り方法では、図1で示した巻き取りボビン1として、胴部2の外径が280mmのボビンを使用した。そして、クッション材3の厚さtを2mm〜8mm、発泡倍率Hを10倍〜30倍の範囲で変えて、以下の表1の例1〜例9の巻き取りボビン1を作成した。この例1〜例9の巻き取りボビン1に対して、それぞれ、径が0.25mmの光ファイバを20〜30km程度の長さで10ボビン巻き取った。そして、それぞれのt、Hの時に、巻き不良が発生しない上限の張力Tを測定した。
【0022】
【表1】
【0023】
実施例の結果のグラフを図3に示す。図3は、表1で示した各例(例1〜例9)における良好上限張力の結果を示すグラフである。なお、○が例1〜例3、□が例4〜例6、△が例7〜例9を示す。
図3に示すように、厚さtが3mmおよび発泡倍率Hが20倍のクッション材3を用いた例4では良好上限張力は60gであり、巻き取り張力Tを80gとした場合は巻き不良が多発した。ところが、厚さtが2mmおよび発泡倍率Hが10倍の薄くて硬いクッション材3を用いた例1では、巻き取り張力Tを80gとしても巻き不良は発生しなかった。
また、厚さtが8mmおよび発泡倍率Hが20倍の厚くて柔らかいクッション材3を用いた例6では良好上限張力は40gであった。
【0024】
上記結果から、巻き取り張力Tを40g≦T≦80gとした場合、厚さtを2mm≦t≦8mmおよび発泡倍率Hを10≦H≦30の範囲内とし、tおよびHに対する上記範囲内の下限であるt=2mmおよびH=10のときの巻き取り張力Tを上記範囲内の上限である80gとして、上記の範囲内で、クッション材3の厚さtおよび発泡倍率Hを大きくするほど巻き取り張力Tを小さくして巻き取るようにすることがよいことがわかった。
【符号の説明】
【0025】
1 巻き取りボビン
2 胴部
3 クッション材
3a 押出部
4 鍔部
5 光ファイバ
図1
図2
図3