(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステアリングの操舵状態を示す複数種の状態量に基づきアシスト制御量を演算し当該アシスト制御量に基づき車両の操舵機構に付与するアシスト力の発生源であるモータを制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記アシスト制御量の演算に使用する各状態量に応じて前記アシスト制御量の変化範囲を制限する制限値を前記状態量ごとに個別に設定し、これら制限値を使用して前記アシスト制御量の値を制限する制限処理と、
前記アシスト制御量の値が制限されてから一定時間経過するタイミングで、使用するアシスト制御量を前記制限されるアシスト制御量である第1のアシスト制御量から前記第1のアシスト制御量とは別個に演算される第2のアシスト制御量へ移行させる切替え処理と、を実行する電動パワーステアリング装置であって、
前記制御装置は、操舵挙動に相関する特定の状態量に基づき、前記第1のアシスト制御量から前記第2のアシスト制御量への移行速度を増減させる電動パワーステアリング装置。
ステアリングの操舵状態を示す複数種の状態量に基づきアシスト制御量を演算し当該アシスト制御量に基づき車両の操舵機構に付与するアシスト力の発生源であるモータを制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記アシスト制御量の演算に使用する各状態量に応じて前記アシスト制御量の変化範囲を制限する制限値を前記状態量ごとに個別に設定し、これら制限値を使用して前記アシスト制御量の値を制限する制限処理と、
前記アシスト制御量の値が制限されてから一定時間経過するタイミングで、使用するアシスト制御量を前記制限されるアシスト制御量である第1のアシスト制御量から前記第1のアシスト制御量とは別個に演算される第2のアシスト制御量へ移行させる切替え処理と、を実行する電動パワーステアリング装置であって、
前記制御装置は、前記制限処理を実行することの操舵挙動に対する影響の有無を判定し、当該判定の結果に応じて前記第1のアシスト制御量から前記第2のアシスト制御量への移行速度を変える電動パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施の形態>
以下、電動パワーステアリング装置の第1の実施の形態を説明する。
<EPSの概要>
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、運転者のステアリング操作に基づいて転舵輪を転舵させる操舵機構20、運転者のステアリング操作を補助する操舵補助機構30、および操舵補助機構30の作動を制御するECU(電子制御装置)40を備えている。
【0025】
操舵機構20は、運転者により操作されるステアリングホイール21、およびステアリングホイール21と一体回転するステアリングシャフト22を備えている。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21の中心に連結されたコラムシャフト22a、コラムシャフト22aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト22b、およびインターミディエイトシャフト22bの下端部に連結されたピニオンシャフト22cからなる。ピニオンシャフト22cの下端部は、ピニオンシャフト22cに交わる方向へ延びるラック軸23(正確にはラック歯が形成された部分23a)に噛合されている。したがって、ステアリングシャフト22の回転運動は、ピニオンシャフト22cおよびラック軸23からなるラックアンドピニオン機構24によりラック軸23の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸23の両端にそれぞれ連結されたタイロッド25を介して左右の転舵輪26,26にそれぞれ伝達されることにより、これら転舵輪26,26の転舵角θtaが変更される。
【0026】
操舵補助機構30は、操舵補助力の発生源であるモータ31を備えている。モータ31としては、ブラシレスモータなどが採用される。モータ31は、減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。減速機構32はモータ31の回転を減速し、当該減速した回転力をコラムシャフト22aに伝達する。すなわち、ステアリングシャフト22にモータのトルクが操舵補助力(アシスト力)として付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
【0027】
ECU40は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果を運転者の要求あるいは走行状態を示す情報として取得し、これら取得される各種の情報に応じてモータ31を制御する。
【0028】
各種のセンサとしては、たとえば車速センサ51、ステアリングセンサ52、トルクセンサ53および回転角センサ54がある。車速センサ51は車速(車両の走行速度)Vを検出する。ステアリングセンサ52はたとえば磁気式の回転角センサであってコラムシャフト22aに設けられて操舵角θsを検出する。トルクセンサ53はコラムシャフト22aに設けられて操舵トルクτを検出する。回転角センサ54はモータ31に設けられてモータ31の回転角θmを検出する。
【0029】
ECU40は車速V、操舵角θs、操舵トルクτおよび回転角θmに基づき目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力を操舵補助機構30に発生させるための駆動電力をモータ31に供給する。
【0030】
<ECUの構成>
つぎに、ECUのハードウェア構成を説明する。
図2に示すように、ECU40は駆動回路(インバータ回路)41およびマイクロコンピュータ42を備えている。
【0031】
駆動回路41は、マイクロコンピュータ42により生成されるモータ制御信号Sc(PWM駆動信号)に基づいて、バッテリなどの直流電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。当該変換された三相交流電力は各相の給電経路43を介してモータ31に供給される。各相の給電経路43には電流センサ44が設けられている。これら電流センサ44は各相の給電経路43に生ずる実際の電流値Imを検出する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の給電経路43および各相の電流センサ44をそれぞれ1つにまとめて図示する。
【0032】
マイクロコンピュータ42は、車速センサ51、ステアリングセンサ52、トルクセンサ53、回転角センサ54および電流センサ44の検出結果をそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。マイクロコンピュータ42はこれら取り込まれる検出結果、すなわち車速V、操舵角θs、操舵トルクτ、回転角θmおよび実際の電流値Imに基づきモータ制御信号Scを生成する。
【0033】
<マイクロコンピュータ>
つぎに、マイクロコンピュータの機能的な構成を説明する。
マイクロコンピュータ42は、図示しない記憶装置に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の演算処理部を有している。
【0034】
図2に示すように、マイクロコンピュータ42は、これら演算処理部として電流指令値演算部61およびモータ制御信号生成部62を備えている。電流指令値演算部61は、操舵トルクτ、車速Vおよび操舵角θsに基づき電流指令値I
*を演算する。電流指令値I
*はモータ31に供給するべき電流を示す指令値である。正確には、電流指令値I
*は、d/q座標系におけるq軸電流指令値およびd軸電流指令値を含む。本実施形態においてd軸電流指令値は零に設定されている。d/q座標系は、モータ31の回転角θmに従う回転座標である。モータ制御信号生成部62は、回転角θmを使用してモータ31の三相の電流値Imを二相のベクトル成分、すなわちd/q座標系におけるd軸電流値およびq軸電流値に変換する。そして、モータ制御信号生成部62は、d軸電流値とd軸電流指令値との偏差、およびq軸電流値とq軸電流指令値との偏差をそれぞれ求め、これら偏差を解消するようにモータ制御信号Scを生成する。
【0035】
<電流指令値演算部>
つぎに、電流指令値演算部について説明する。
図2に示すように、電流指令値演算部61は、主たるアシスト制御部71、上下限リミット演算部72、上下限ガード処理部73、副たるアシスト制御部74および切替え部75を有している。また、電流指令値演算部61は3つの微分器87,88,89を有している。
【0036】
微分器87は操舵角θsを微分することにより操舵速度ωsを演算する。微分器88は前段の微分器87により算出される操舵速度ωsをさらに微分することにより操舵角加速度αsを演算する。微分器89は操舵トルクτを時間で微分することにより操舵トルク微分値dτを演算する。
【0037】
主たるアシスト制御部71は、操舵トルクτ、車速V、操舵角θs、操舵速度ωs、操舵角加速度αsおよび操舵トルク微分値dτに基づきアシスト制御量I
as*(以下、「主たるアシスト制御量」という。)を演算する。主たるアシスト制御量I
as*は、これら各種の状態量に応じた適切な大きさの目標アシスト力を発生させるためにモータ31へ供給する電流量の値(電流値)である。
【0038】
上下限リミット演算部72は、主たるアシスト制御部71において使用される各種の信号、ここでは操舵トルクτ、操舵角θs、操舵トルク微分値dτ、操舵速度ωsおよび操舵角加速度αsに基づき、主たるアシスト制御量I
as*に対する制限値として上限値I
UL*および下限値I
LL*を演算する。上限値I
UL*および下限値I
LL*は主たるアシスト制御量I
as*に対する最終的な制限値となる。
【0039】
上下限ガード処理部73は、上下限リミット演算部72により演算される上限値I
UL*および下限値I
LL*に基づき、主たるアシスト制御量I
as*の制限処理を実行する。すなわち、上下限ガード処理部73は、主たるアシスト制御量I
as*の値ならびに上限値I
UL*および下限値I
LL*を比較する。上下限ガード処理部73は、主たるアシスト制御量I
as*が上限値I
UL*を超える場合には主たるアシスト制御量I
as*を上限値I
UL*に制限し、下限値I
LL*を下回る場合には主たるアシスト制御量I
as*を下限値I
LL*に制限する。当該制限処理が施された主たるアシスト制御量I
as*が最終的な電流指令値I
*となる。なお、主たるアシスト制御量I
as*が上限値I
UL*と下限値I
LL*との範囲内であるときには、主たるアシスト制御部71により演算される主たるアシスト制御量I
as*がそのまま最終的な電流指令値I
*となる。
【0040】
上下限ガード処理部73は、主たるアシスト制御量I
as*が制限されているかどうかを示す制限状態信号S
grdを生成する。上下限ガード処理部73は、主たるアシスト制御量I
as*(制限前または制限後のアシスト制御量)、および制限状態信号S
grdをそれぞれ切替え部75へ出力する。
【0041】
副たるアシスト制御部74は、主たるアシスト制御部71と同様に、車速V、操舵トルクτ、操舵角θs、操舵トルク微分値dτ、操舵速度ωsおよび操舵角加速度αsに基づき副たるアシスト制御量I
as*(以下、「副たるアシスト制御量」という。)を演算する。
【0042】
切替え部75は、主たるアシスト制御量I
as*(正確には上下限ガード処理部73を経た後のアシスト制御量I
as*)、および副たるアシスト制御量I
as*をそれぞれ取り込む。切替え部75は、これら2つのアシスト制御量I
as*のいずれかを最終的な電流指令値I
*としてモータ制御信号生成部62へ供給することが可能である。
【0043】
切替え部75は異常判定用のカウンタ76を有している。切替え部75は、上下限ガード処理部73により生成される制限状態信号S
grdに基づき、主たるアシスト制御量I
as*が制限されているかどうかを判定する。切替え部75は、主たるアシスト制御量I
as*が制限されている旨判定される度にカウンタ76のカウント値を増加させる。切替え部75は、カウンタ76のカウント値に基づき、使用するアシスト制御量を主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ移行させる。
【0044】
<アシスト制御部>
つぎに、主たるアシスト制御部71について詳細に説明する。
図3に示すように、主たるアシスト制御部71は基本アシスト制御部81、補償制御部82および加算器83を備えている。
【0045】
基本アシスト制御部81は操舵トルクτおよび車速Vに基づき基本アシスト制御量I
1*を演算する。基本アシスト制御量I
1*は、操舵トルクτおよび車速Vに応じた適切な大きさの目標アシスト力を発生させるための基礎成分(電流値)である。基本アシスト制御部81はたとえばマイクロコンピュータ42の図示しない記憶装置に格納されるアシスト特性マップを使用して基本アシスト制御量I
1*を演算する。アシスト特性マップは操舵トルクτおよび車速Vに基づき基本アシスト制御量I
1*を演算するための車速感応型の三次元マップであって、操舵トルクτ(絶対値)が大きいほど、また車速Vが小さいほど大きな値(絶対値)の基本アシスト制御量I
1*が算出されるように設定されている。
【0046】
補償制御部82は、より優れた操舵感を実現するために基本アシスト制御量I
1*に対する各種の補償制御を実行する。
補償制御部82は慣性補償制御部84、ステアリング戻し制御部85およびトルク微分制御部86を備えている。
【0047】
慣性補償制御部84は、操舵角加速度αsおよび車速Vに基づきモータ31の慣性を補償するための補償量I
2*(電流値)を演算する。補償量I
2*を使用して基本アシスト制御量I
1*を補正することにより、ステアリングホイール21の切り始め時における引っ掛かり感(追従遅れ)および切り終わり時の流れ感(オーバーシュート)が低減される。
【0048】
ステアリング戻し制御部85は、操舵トルクτ、車速V、操舵角θsおよび操舵速度ωsに基づきステアリングホイール21の戻り特性を補償するための補償量I
3*(電流値)を演算する。補償量I
3*を使用して基本アシスト制御量I
1*を補正することにより、路面反力によるセルフアライニングトルクの過不足が補償される。補償量I
3*に応じてステアリングホイール21を中立位置に戻す方向へ向けたアシスト力が発生されるからである。
【0049】
トルク微分制御部86は、逆入力振動成分を操舵トルク微分値dτとして検出し、当該検出される操舵トルク微分値dτに基づき逆入力振動などの外乱を補償するための補償量I
4*(電流値)を演算する。補償量I
4*を使用して基本アシスト制御量I
1*を補正することにより、ブレーキ操作に伴い発生するブレーキ振動などの外乱が抑制される。補償量I
4*に応じて逆入力振動を打ち消す方向へ向けたアシスト力が発生されるからである。
【0050】
加算器83は基本アシスト制御量I
1*に対する補正処理として補償量I
2*、補償量I
3*および補償量I
4*を加算することにより主たるアシスト制御量I
as*を生成する。
【0051】
なお、副たるアシスト制御部74も主たるアシスト制御部71と同様の構成を有している。このため、副たるアシスト制御部74の詳細な説明は割愛する。
ちなみに本例では、副たるアシスト制御部74に主たるアシスト制御部71と同じ機能を持たせたが、主たるアシスト制御部71よりも簡素化した機能を持たせてもよい。副たるアシスト制御部74の機能を簡素化する場合、車速Vおよび操舵トルクτに基づき基本アシスト制御量I
1*を求め、当該基本アシスト制御量I
1*を簡易的なバックアップ用のアシスト制御に使用される電流指令値I
*としてもよい。補償制御部82で実行される各種の補償制御は実行しなくてもよいし、一部の補償制御のみを実行するようにしてもよい。実行する補償制御によって副たるアシスト制御部74が取り込む信号は異なる。
【0052】
<上下限リミット演算部>
つぎに、上下限リミット演算部72について詳細に説明する。
図4に示すように、上下限リミット演算部72は上限値演算部90および下限値演算部100を備えている。
【0053】
<上限値演算部>
上限値演算部90は、操舵トルク感応リミッタ91、操舵トルク微分値感応リミッタ92、操舵角感応リミッタ93、操舵速度感応リミッタ94、操舵角加速度感応リミッタ95および加算器96を有している。
【0054】
操舵トルク感応リミッタ91は、操舵トルクτに応じてアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL1*を演算する。操舵トルク微分値感応リミッタ92は、操舵トルク微分値dτに応じてアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL2*を演算する。操舵角感応リミッタ93は、操舵角θsに応じてアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL3*を演算する。操舵速度感応リミッタ94は、操舵速度ωsに応じてアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL4*を演算する。操舵角加速度感応リミッタ95は、操舵角加速度αsに応じてアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL5*を演算する。
【0055】
加算器96は5つの上限値I
UL1*〜I
UL5*を足し算することによりアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL*を生成する。
<下限値演算部>
下限値演算部100は、操舵トルク感応リミッタ101、操舵トルク微分値感応リミッタ102、操舵角感応リミッタ103、操舵速度感応リミッタ104、操舵角加速度感応リミッタ105および加算器106を有している。
【0056】
操舵トルク感応リミッタ101は、操舵トルクτに応じてアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL1*を演算する。操舵トルク微分値感応リミッタ102は、操舵トルク微分値dτに応じてアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL2*を演算する。操舵角感応リミッタ103は、操舵角θsに応じてアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL3*を演算する。操舵速度感応リミッタ104は、操舵速度ωsに応じてアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL4*を演算する。操舵角加速度感応リミッタ105は、操舵角加速度αsに応じてアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL5*を演算する。
【0057】
加算器106は5つの下限値I
LL1*〜I
LL5*を足し算することによりアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL*を生成する。
<上下限リミットマップ>
上限値演算部90および下限値演算部100は、それぞれ第1〜第5のリミットマップM1〜M5を使用して各上限値I
UL1*〜I
UL5*および各下限値I
LL1*〜I
LL5*を演算する。第1〜第5のリミットマップM1〜M5はマイクロコンピュータ42の図示しない記憶装置に格納されている。第1〜第5のリミットマップM1〜M5は、それぞれ運転者のステアリング操作に応じて演算されるアシスト制御量I
as*は許容し、それ以外の何らかの原因による異常なアシスト制御量I
as*は許容しないという観点に基づき設定される。
【0058】
図5に示すように、第1のリミットマップM1は、横軸を操舵トルクτ、縦軸をアシスト制御量I
as*とするマップであって、操舵トルクτとアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL1*との関係、および操舵トルクτとアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL1*との関係をそれぞれ規定する。操舵トルク感応リミッタ91,101はそれぞれ第1のリミットマップM1を使用して操舵トルクτに応じた上限値I
UL1*および下限値I
LL1*を演算する。
【0059】
第1のリミットマップM1は、操舵トルクτと同じ方向(正負の符号)のアシスト制御量I
as*は許容し、操舵トルクτと異なる方向のアシスト制御量I
as*は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵トルクτが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL1*は操舵トルクτの増大に伴い正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵トルクτが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL1*は「0」に維持される。一方、操舵トルクτが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL1*は「0」に維持される。また、操舵トルクτが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL1*は操舵トルクτの絶対値が増大するほど負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。
【0060】
図6に示すように、第2のリミットマップM2は、横軸を操舵トルク微分値dτ、縦軸をアシスト制御量I
as*とするマップであって、操舵トルク微分値dτとアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL2*との関係、および操舵トルク微分値dτとアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL2*との関係をそれぞれ規定する。操舵トルク微分値感応リミッタ92,102はそれぞれ第2のリミットマップM2を使用して操舵トルク微分値dτに応じた上限値I
UL2*および下限値I
LL2*を演算する。
【0061】
第2のリミットマップM2は、操舵トルク微分値dτと同じ方向(正負の符号)のアシスト制御量I
as*は許容し、操舵トルク微分値dτと異なる方向のアシスト制御量I
as*は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵トルク微分値dτが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL2*は操舵トルク微分値dτの増大に伴い正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵トルク微分値dτが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL2*は「0」に維持される。一方、操舵トルク微分値dτが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL2*は「0」に維持される。また、操舵トルク微分値dτが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL2*は操舵トルク微分値dτの絶対値が増大するほど負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。
【0062】
図7に示すように、第3のリミットマップM3は、横軸を操舵角θs、縦軸をアシスト制御量I
as*とするマップであって、操舵角θsとアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL3*との関係、および操舵角θsとアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL3*との関係をそれぞれ規定する。操舵角感応リミッタ93,103はそれぞれ第3のリミットマップM3を使用して操舵角θsに応じた上限値I
UL3*および下限値I
LL3*を演算する。
【0063】
第3のリミットマップM3は、操舵角θsと反対方向(正負の符号)のアシスト制御量I
as*は許容し、操舵角θsと同じ方向のアシスト制御量I
as*は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵角θsが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL3*は「0」に維持される。また、操舵角θsが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL3*は操舵角θsの増大に伴い負の方向へ増加する。一方、操舵角θsが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL3*は操舵角θsの絶対値が増大するほど正の方向へ増加する。また、操舵角θsが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL3*は「0」に維持される。
【0064】
図8に示すように、第4のリミットマップM4は、横軸を操舵速度ωs、縦軸をアシスト制御量I
as*とするマップであって、操舵速度ωsとアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL4*との関係、および操舵速度ωsとアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL4*との関係をそれぞれ規定する。操舵速度感応リミッタ94,104はそれぞれ第4のリミットマップM4を使用して操舵速度ωsに応じた上限値I
UL4*および下限値I
LL4*を演算する。
【0065】
第4のリミットマップM4は、操舵速度ωsと反対方向(正負の符号)のアシスト制御量I
as*は許容し、操舵速度ωsと同じ方向のアシスト制御量I
as*は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵速度ωsが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL4*は「0」に維持される。また、操舵速度ωsが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL4*は操舵速度ωsの増大に伴い負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。一方、操舵速度ωsが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL4*は操舵速度ωsの絶対値が増大するほど正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵速度ωsが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL4*は「0」に維持される。
【0066】
図9に示すように、第5のリミットマップM5は、横軸を操舵角加速度αs、縦軸をアシスト制御量I
as*とするマップであって、操舵角加速度αsとアシスト制御量I
as*に対する上限値I
UL5*との関係、および操舵角加速度αsとアシスト制御量I
as*に対する下限値I
LL5*との関係をそれぞれ規定する。操舵角加速度感応リミッタ95,105はそれぞれ第5のリミットマップM5を使用して操舵角加速度αsに応じた上限値I
UL5*および下限値I
LL5*を演算する。
【0067】
第5のリミットマップM5は、操舵角加速度αsと反対方向(正負の符号)のアシスト制御量I
as*は許容し、操舵角加速度αsと同じ方向のアシスト制御量I
as*は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵角加速度αsが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL5*は「0」に維持される。また、操舵角加速度αsが正の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL5*は操舵角加速度αsの増大に伴い負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。一方、操舵角加速度αsが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の上限値I
UL5*は操舵角加速度αsの絶対値が増大するほど正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵角加速度αsが負の値である場合、アシスト制御量I
as*の下限値I
LL5*は「0」に維持される。
【0068】
したがって、電動パワーステアリング装置10では、主たるアシスト制御量I
as*に対する制限値(上限値および下限値)が、主たるアシスト制御量I
as*を演算する際に使用する各信号、ここでは操舵状態を示す状態量である操舵トルクτ、操舵トルク微分値dτ、操舵角θs、操舵速度ωsおよび操舵角加速度αsに対して個別に設定される。マイクロコンピュータ42は、主たるアシスト制御量I
as*に基づき最終的な電流指令値I
*を演算するに際して、各信号の値に応じて主たるアシスト制御量I
as*の変化範囲を制限するための制限値を信号毎に設定し、これら制限値を合算した値を主たるアシスト制御量I
as*に対する最終的な制限値として設定する。
【0069】
ちなみに、信号毎の制限値、ひいては最終的な制限値は運転者のステアリング操作に応じて演算される通常のアシスト制御量I
as*は許容し、何らかの原因に起因する異常なアシスト制御量I
as*は制限する観点で設定される。マイクロコンピュータ42は、たとえば運転者の操舵入力に対するトルク微分制御およびステアリング戻し制御などの各種補償制御による補償量は許容する一方、各補償量の値を超える異常出力あるいは誤出力などは制限する。
【0070】
マイクロコンピュータ42は、主たるアシスト制御量I
as*が最終的な上限値I
UL*および下限値I
LL*により定められる制限範囲を超えるとき、上限値I
UL*を超える主たるアシスト制御量I
as*あるいは下限値I
LL*を下回る主たるアシスト制御量I
as*が最終的な電流指令値I
*としてモータ制御信号生成部62に供給されないように制限する。最終的な上限値I
UL*および下限値I
LL*には信号毎に設定された個別の制限値(上限値および下限値)が反映されている。すなわち、異常な値を示す主たるアシスト制御量I
as*が演算される場合であれ、当該異常な主たるアシスト制御量I
as*の値は最終的な制限値によって各信号値に応じた適切な値に制限される。そして、当該適切な主たるアシスト制御量I
as*が最終的な電流指令値I
*としてモータ制御信号生成部62に供給されることにより適切なアシスト力が操舵系に付与される。異常な主たるアシスト制御量I
as*が最終的な電流指令値I
*としてモータ制御信号生成部62に供給されることが抑制されるため、操舵系に対して意図しないアシスト力が付与されることが抑制される。たとえば、いわゆるセルフステアなどの発生も抑制される。
【0071】
また、主たるアシスト制御量I
as*を演算する際に使用する各信号に基づき、主たるアシスト制御量I
as*に対する適切な制限値が個別に設定される。このため、たとえば基本アシスト制御量I
1*を演算する際に使用される信号である操舵トルクτのみに基づいて主たるアシスト制御量I
as*の制限値を設定する場合に比べて、主たるアシスト制御量I
as*に対してより緻密な制限処理が行われる。主たるアシスト制御量I
as*の制限値の設定において、各種の補償量I
2*,I
3*,I
4*に対する影響を考慮する必要もない。
【0072】
図10のグラフに示すように、アシスト制御量I
as*の値がたとえば下限値I
LL*を下回るとき(時刻T
L0)、上下限ガード処理部73によってアシスト制御量I
as*の値は下限値I
LL*で制限される。アシスト制御量I
as*の値が上限値I
UL*を超える場合についても同様である。
【0073】
通常時、切替え部75は主たるアシスト制御量I
as*を使用する。ここで通常時とは、上下限ガード処理部73による制限処理が実行されないとき、および当該制限処理が実行されるときであっても当該制限処理が開始されたとき(時刻T
L0)からの経過時間が一定期間ΔTに達していないときをいう。
【0074】
異常時、切替え部75は主たるアシスト制御量I
as*に代えて、副たるアシスト制御量I
as*を使用する。ここで異常時とは、
図10のグラフに示されるように、主たるアシスト制御量I
as*に対する制限処理が一定期間ΔTだけ継続して行われたとき(時刻T
L1)をいう。副たるアシスト制御部74による正常なアシスト制御量I
as*を使用することにより、操舵系に対して好適なアシスト力が継続して付与される。
【0075】
<上下限ガード処理部の処理手順>
上下限ガード処理部73による制限処理の詳細な手順はつぎの通りである。
図11のフローチャートに示すように、上下限ガード処理部73は、主たるアシスト制御量I
as*が上限値I
UL*よりも大きいかどうかを判断する(ステップS101)。上下限ガード処理部73は、主たるアシスト制御量I
as*が上限値I
UL*よりも大きい旨判断されるとき(ステップS101でYES)、主たるアシスト制御量I
as*を上限値I
UL*に更新(制限)する(ステップS102)。
【0076】
つぎに、上下限ガード処理部73は制限状態信号S
grdを生成する(ステップS103)。ここでの制限状態信号S
grdは、主たるアシスト制御量I
as*が制限されている旨示す信号である。
【0077】
つぎに、上下限ガード処理部73は、先のステップS102において上限値I
UL*に更新(制限)した主たるアシスト制御量I
as*および先のステップS103において生成した制限状態信号S
grdをそれぞれ切替え部75へ出力して(ステップS104)、処理を終了する。
【0078】
先のステップS101の判断において、上下限ガード処理部73は、主たるアシスト制御量I
as*が上限値I
UL*よりも大きくない旨判断されるとき(ステップS101でNO)、当該主たるアシスト制御量I
as*が下限値I
LL*よりも小さいかどうかを判断する(ステップS105)。
【0079】
上下限ガード処理部73は、主たるアシスト制御量I
as*が下限値I
LL*よりも小さい旨判断されるとき(ステップS105でYES)、当該主たるアシスト制御量I
as*を下限値I
LL*に更新(制限)し(ステップS106)、ステップS103へ処理を移行する。
【0080】
先のステップS105の判断において、上下限ガード処理部73は主たるアシスト制御量I
as*が下限値I
LL*よりも小さくない旨判断されるとき(ステップS105でNO)、制限状態信号S
grdを生成して(ステップS107)、処理をステップS104へ移行する。ここでの制限状態信号S
grdは、主たるアシスト制御量I
as*が制限されていない旨示す信号である。
【0081】
<切替え部の処理手順>
つぎに、切替え部75による切替え処理の手順の一例を説明する。
図12のフローチャートに示すように、切替え部75は、上下限ガード処理部73により生成される制限状態信号S
grdに基づき、主たるアシスト制御量I
as*が制限されているかどうかを判断する(ステップS201)。
【0082】
切替え部75は当該主たるアシスト制御量I
as*が制限されている旨判断されるとき(ステップS201でYES)、カウンタ76のカウント値Nに、定められた増加量(カウント量)Naを加算する(ステップS202)。
【0083】
つぎに、切替え部75はカウント値Nが異常判定閾値Nth以上であるかどうかを判断する(ステップS203)。当該判断は、先の
図10のグラフに示されるように、主たるアシスト制御量I
as*の制限状態が一定期間ΔTだけ継続したかどうかの判断に相当する。
【0084】
切替え部75は、カウント値Nが異常判定閾値Nth以上である旨判断されるとき(ステップS203でYES)、副たるアシスト制御量I
as*を使用して操舵アシストを継続し(ステップS204)、処理を終了する。すなわち、切替え部75は、主たるアシスト制御量I
as*に代えて、副たるアシスト制御量I
as*を最終的な電流指令値I
*としてモータ制御信号生成部62へ供給する。
【0085】
先のステップS203の判断において、切替え部75はカウント値Nが異常判定閾値Nth以上ではない旨判断されるとき(ステップS203でNO)、主たるアシスト制御量I
as*(正確には上下限ガード処理部73を経た後のアシスト制御量I
as*)を使用して操舵アシストを継続し(ステップS205)、処理を終了する。
【0086】
先のステップS201の判断において、切替え部75は主たるアシスト制御量I
as*が制限されていない旨判断されるとき(ステップS201でNO)、カウンタ76のカウント値Nから一定値Nsを減算する(ステップS206)。なお、カウント値Nを減少させる際の一定値Nsはカウント値Nを増加させる際の増加量Naよりも小さい値に設定される。
【0087】
つぎに、切替え部75は主たるアシスト制御量I
as*(正確には上下限ガード処理部73を経た後のアシスト制御量I
as*)を使用して操舵アシストを継続し(ステップS207)、処理を終了する。
【0088】
なお、
図12のフローチャートにおけるステップS206,S207の両処理を省略した構成を採用してもよい。この場合、切替え部75は主たるアシスト制御量I
as*が制限されていない旨判断されるとき(ステップS201でNO)、処理を終了する。
【0089】
このように、主たるアシスト制御量I
as*が制限される異常な状態が一定時間以上継続するとき、定められたフェイルセーフ動作として、使用されるアシスト制御量が主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ切り替えられる。このため、より高い安全性が得られる。また、主たるアシスト制御量I
as*が制限されているときにはカウント値Nを増加量Naずつ増加させる一方、当該アシスト制御量I
as*が制限されていないときにはカウント値Nを一定値Ns(<Na)ずつ減少させる。このため、その時々の制限有無を考慮した切替え処理が行われる。
【0090】
ところが、使用するアシスト制御量I
as*が主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ切り替えられるとき、つぎのようなことが懸念される。たとえば、主たるアシスト制御量I
as*が制限されてからカウント値Nが異常判定閾値Nth以上の値に達するまでの間(異常判定期間)、通常時に比べて操舵感が低下するおそれがある。これは、本来の適切な主たるアシスト制御量I
as*ではなく上限値I
UL*または下限値I
LL*に制限された主たるアシスト制御量I
as*が使用されるからである。
【0091】
たとえば制限される主たるアシスト制御量I
as*の状態として、つぎの(A1)〜(A3)に示す3つの状態が想定される。
(A1)制限される主たるアシスト制御量I
as*の符号(+,−)が交互に反転するとき。このとき、主たるアシスト制御量I
as*の値が上限値I
UL*と下限値I
LL*との間で交互に切り替わる。モータ31のトルク方向も交互に反転するので、振動の発生につながることが懸念される。
【0092】
(A2)制限される主たるアシスト制御量I
as*の符号が操舵トルクτの符号と逆であるとき。このとき、モータ31のトルク方向が本来のトルク方向と反対になる、いわゆる逆アシストの発生が懸念される。
【0093】
(A3)制限される主たるアシスト制御量I
as*の符号が操舵トルクτの符号と同じであるとき。このとき、制限されたアシスト制御量I
as*と本来の正常なアシスト制御量I
as*との乖離の程度に応じて、いわゆるセルフステア(順方向)の発生が懸念される。
【0094】
ここで、たとえばUターン時など、操舵トルクτの値が大きくなる状況においては、操舵トルクτの値が大きくなる分、上限値I
UL*と下限値I
LL*とによる制限幅(ガード幅)も広くなる。そして、状況A1、状況A2および状況A3のいずれにおいても、操舵トルクτ、ひいては主たるアシスト制御量I
as*の制限幅が大きくなるほど、モータ31のトルク変動に対する影響は大きくなる。したがって、大きな操舵トルクτが生じる場合、副たるアシスト制御量I
as*へ速やかに切替えることが好ましい。
【0095】
これに対し、たとえばコーナーリング中におけるステアリングホイールの舵角を微調整する修正舵のように、ゆっくりとした微修正の範囲内で操舵される際には、操舵トルクτの値はそれほど大きな値にならない。このため、上限値I
UL*と下限値I
LL*とによる主たるアシスト制御量I
as*の制限幅は、それほど広くならない。したがって、このとき制限される主たるアシスト制御量I
as*の値は、制限前の正常なアシスト制御量I
as*により近い値となる。このため、制限された主たるアシスト制御量I
as*がモータ31のトルクに及ぼす影響も小さい。したがって、大きな操舵トルクτが生じる場合に比べて、副たるアシスト制御量I
as*への切り替えを急ぐ必要はない。
【0096】
これらのことを踏まえ、本例では主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への切替えの際におけるモータ31のトルク変動が操舵感に及ぼす影響を抑制するために、つぎの構成を採用している。
【0097】
図13に示すように、切替え部75は、カウンタ76に加え、増加量設定マップM11、ゲイン設定マップM12、第1の乗算器201、第1の加算器202、第2の乗算器203、および第2の加算器204を有している。
【0098】
増加量設定マップM11は、横軸を操舵トルクτ(絶対値)、縦軸をカウンタ76の増加量Naとするマップである。増加量設定マップM11は、操舵トルクτを取り込み、操舵トルクτに応じた増加量Naを算出する。増加量設定マップM11は、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への切り替えを操舵トルクτの絶対値に応じて適切に行う観点に基づき設定される。増加量設定マップM11は、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵トルクτが「0」であるときの増加量Naである基本増加量Na1を起点として、操舵トルクτの絶対値が大きくなるほど、算出される増加量Naの値が大きくなる。
【0099】
カウンタ76は、増加量設定マップM11により算出される増加量Naを取り込み、当該取り込まれる増加量Naを使用してカウント値Nを増加させる。
ゲイン設定マップM12は、横軸をカウンタ76のカウント値N、縦軸を主たるアシスト制御量I
as*および副たるアシスト制御量I
as*に対する分配ゲインGsとするマップである。分配ゲインGsは、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*および副たるアシスト制御量I
as*の割合を変更するために使用される。ゲイン設定マップM12は、カウンタ76のカウント値Nを取り込み、この取り込まれるカウント値Nに応じて分配ゲインGsを算出する。分配ゲインGsは「0」以上「1」以下の値に設定される。ゲイン設定マップM12は、つぎのような特性を有する。すなわち、カウント値Nが「0」から所定のカウント値N1に達するまでの間、分配ゲインGsの値は「1」に維持される。カウント値Nが所定のカウント値N1を超えた以降、異常判定閾値Nth(>N1)に達するまでの間、カウント値Nが増加するにつれて分配ゲインGsの値は減少する。カウント値Nが異常判定閾値Nthに達した以降、分配ゲインGsの値は「0」に維持される。
【0100】
第1の乗算器201は、上下限ガード処理部73を通じて取得される主たるアシスト制御量I
as*(制限前または制限後のアシスト制御量)と、ゲイン設定マップM12により算出される分配ゲインGsとを掛け算する。
【0101】
第1の加算器202は、ゲイン設定マップM12により算出される分配ゲインGsをその最大値である「1」から減算することによって、差分ゲインGssを求める。
第2の乗算器203は、副たるアシスト制御部74により算出される副たるアシスト制御量I
as*と、第1の加算器202により算出される差分ゲインGssとを掛け算する。
【0102】
第2の加算器204は、第1の乗算器201により算出される分配ゲインGsに応じた主たるアシスト制御量I
as*と、第2の乗算器203により算出される差分ゲインGssに応じた副たるアシスト制御量I
as*とを足し算することにより、最終的な電流指令値I
*を生成する。
【0103】
この構成によれば、操舵トルクτの絶対値が大きいほどカウンタ76の増加量Naがより大きな値に設定される。このため、操舵トルクτの絶対値が大きいほどカウンタ76におけるカウント値Nの増加が早められる。カウント値Nの増加が早められる分、制限値に制限されている主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ、より早く切り替えられる。すなわち、操舵トルクτの絶対値が大きいほど、主たるアシスト制御量I
as*の制限が開始されてから副たるアシスト制御量I
as*へ切り替えられるまでの期間(
図10:一定期間ΔT)が短縮される。したがって、モータ31のトルク変動の運転者の操舵挙動に対する影響、たとえばセルフステアあるいは逆アシストなどの発生期間を低減することが可能となる。
【0104】
また、操舵トルクτに応じて最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*と副たるアシスト制御量I
as*との割合が変化する。たとえばつぎの(B1)〜(B3)に示す通りである。
【0105】
(B1)分配ゲインGsの値が「1.0」であるとき、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*と副たるアシスト制御量I
as*との割合は「100:0」となる。このとき、制限された主たるアシスト制御量I
as*がそのまま最終的な電流指令値I
*となる。
【0106】
(B2)分配ゲインGsの値が「0.5」であるとき、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*と副たるアシスト制御量I
as*との割合は「50:50」となる。
【0107】
(B3)分配ゲインGsの値が「0」であるとき、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*と副たるアシスト制御量I
as*との割合は「0:100」となる。このとき、副たるアシスト制御量I
as*がそのまま最終的な電流指令値I
*となる。
【0108】
このように、操舵トルクτ、ひいてはカウント値Nに応じて最終的な電流指令値I
*に占める副たるアシスト制御量I
as*の割合を変化させることにより、制限された主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ急激に切り替えられることが抑制される。このため、制限された主たるアシスト制御量I
as*と、副たるアシスト制御量I
as*とが乖離することに起因するモータ31のトルク変動が抑制される。操舵トルクτに応じて、より適切に操舵のアシストを継続することが可能となる。
【0109】
<実施の形態の効果>
第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)アシスト制御量I
as*の制限値はアシスト制御量I
as*の演算に使用される各信号(各状態量)に対して個別に設定されるとともに、これら制限値を合算した値がアシスト制御量I
as*に対する最終的な制限値として設定される。このため、何らかの原因によって異常値を示すアシスト制御量I
as*が演算された場合であれ、当該異常なアシスト制御量I
as*は最終的な制限値によって直接的に各信号値に応じた適切な値に制限される。適切な値に制限されたアシスト制御量I
as*が最終的な電流指令値I
*としてモータ制御信号生成部62に供給されることにより意図せぬアシスト力が操舵系に付与されるのを的確に抑制することができる。
【0110】
(2)主たるアシスト制御量I
as*が制限される異常な状態が一定時間以上継続するとき、定められたフェイルセーフ動作として、使用されるアシスト制御量I
as*が主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ切り替えられる。このため、より高い安全性が得られる。
【0111】
(3)操舵トルクτの絶対値が大きいほどカウンタ76の増加量Naが増加される。このため、操舵トルクτの絶対値が大きいほど、カウント値Nは、より速く異常判定閾値Nthに達する。すなわち、定められたフェイルセーフ動作(ここでは、使用するアシスト制御量I
as*の切り替え動作)が早く完了する。したがって、異常判定期間(アシスト制御量の制限処理が開始されてから「N≧Nth」が成立するまでの間)が短縮される分、モータ31のトルク変動、ひいては運転者の操舵挙動に対する影響を低減することが可能となる。
【0112】
(4)カウント値Nが増加するにつれて、最終的な電流指令値I
*に占める副たるアシスト制御量I
as*の割合が増加する。すなわち、カウント値Nが大きくなるほど、制限された主たるアシスト制御量I
as*のモータトルクに対する影響が小さくなる一方で、副たるアシスト制御量I
as*のモータトルクに対する影響が大きくなる。このため、異常判定期間におけるモータ31のトルク変動が好適に抑制される。また、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ切り替える際のトルク変動幅も狭くなる。
【0113】
<第2の実施の形態>
つぎに、電動パワーステアリング装置の第2の実施の形態を説明する。本例は、操舵トルクτだけではなく、制限された主たるアシスト制御量I
as*の状態も考慮して、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度を変更する点で第1の実施の形態と異なる。
【0114】
図14に示すように、電流指令値演算部61は、移行レベル判定部77を有している。移行レベル判定部77は、主たるアシスト制御量I
as*(制限前または制限後)、制限状態信号S
grd、上限値I
UL*、下限値I
LL*および操舵トルクτをそれぞれ取り込み、これら取り込まれる信号に基づき移行レベルを判定する。ここで、移行レベルとは、主たるアシスト制御量I
as*(制限前または制限後)がモータ31のトルク、ひいては操舵挙動に及ぼす影響の度合いをいう。異常な主たるアシスト制御量I
as*が出力される場合、当該主たるアシスト制御量I
as*がモータ31のトルクに及ぼす影響の度合いが高いほど、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度を、より早くすることが好ましい。
【0115】
移行レベル判定部77は、制限状態信号S
grd、に基づき主たるアシスト制御量I
as*が制限されているかどうかを判定する。移行レベル判定部77は、主たるアシスト制御量I
as*が制限されている旨判定されるとき、主たるアシスト制御量I
as*、上限値I
UL*および下限値I
LL*に基づき主たるアシスト制御量I
as*の状況を判定する。当該判定される状況としては、たとえば先の状況A1〜状況A3がある。移行レベル判定部77は、操舵トルクτを加味しつつ、主たるアシスト制御量I
as*の状態に基づき移行レベルを判定する。移行レベル判定部77は、当該判定される移行レベルに応じた値の移行レベルゲインG
Lを生成する。
【0116】
移行レベル判定部77は、主たるアシスト制御量I
as*の状況として先の状況A1、状況A2および状況A3が検出されるとき、つぎのように移行レベルを判定する。
(C1)大きな振動が懸念される状況A1が検出されるとき。このとき、移行レベル判定部77は移行レベルL1と判定する。
【0117】
(C2)逆アシストが懸念される状況A2が検出されるとき。このとき、移行レベル判定部77は移行レベルL2と判定する。
(C3)セルフステアが懸念される状況A3が検出されるとき。このとき、移行レベル判定部77は移行レベルL3と判定する。
【0118】
移行レベルL1〜L3のモータトルク、ひいては操舵感に対する影響度の大小関係は次式(i)の通りである。
L1>L2>L3 …(i)
図15に示すように、切替え部75は乗算器205を有している。乗算器205は、増加量設定マップM11とカウンタ76との間の演算経路に設けられている。乗算器205は移行レベル判定部77により生成される移行レベルゲインG
Lを取り込み、この取り込まれる移行レベルゲインG
Lと、増加量設定マップM11により算出される増加量Naとを掛け算する。カウンタ76は、移行レベルゲインG
Lが掛け算された増加量Naを使用してカウント値Nを増加させる。
【0119】
つぎに、移行レベル判定部77による移行レベル判定処理の手順を説明する。
図16(a)のフローチャートに示すように、移行レベル判定部77は主たるアシスト制御量I
as*の状況が状況A1であるかどうかを判断する(ステップS301)。移行レベル判定部77は、状況A1ではない旨判断されるとき(ステップS301でNO)、ステップS302へ処理を移行する。
【0120】
ステップS302において、移行レベル判定部77は主たるアシスト制御量I
as*の状況が状況A2であるかどうかを判断する。移行レベル判定部77は、状況A2ではない旨判断されるとき(ステップS302でNO)、ステップS303へ処理を移行する。
【0121】
ステップS303において、移行レベル判定部77は主たるアシスト制御量I
as*の状況が状況A3であるかどうかを判断する。移行レベル判定部77は、状況A3ではない旨判断されるとき(ステップS303でNO)、処理を終了する。
【0122】
これに対し、ステップS303において、移行レベル判定部77は状況A3である旨判断されるとき(ステップS303でYES)、移行レベルゲインG
LとしてゲインG
L3を生成し(ステップS304)、処理を終了する。
【0123】
また、先のステップS302において、移行レベル判定部77は状況A2である旨判断されるとき(ステップS302でYES)、移行レベルゲインG
LとしてゲインG
L2を生成し(ステップS305)、処理を終了する。
【0124】
また、先のステップS301において、移行レベル判定部77は状況A1である旨判断されるとき(ステップS301でYES)、移行レベルゲインG
LとしてゲインG
L1を生成し(ステップS306)、処理を終了する。
【0125】
ここで、3つのゲインG
L1,G
L2,G
L3の値の大小関係は次式(ii)の通りであって、すべて「1」よりも大きな値を有する。
1<G
L3<G
L2<G
L1 …(ii)
このため、状況A1、状況A2および状況A3のうちのいずれか一が発生するとき、カウンタ76に取り込まれる増加量Naの値は、増加量設定マップM11により算出される増加量Naの値よりも大きな値になる。したがって、カウント値Nは通常時(状況A1〜状況A3のいずれの状況でもないとき)よりも大きな値になるので、ゲイン設定マップM12により算出される分配ゲインGsの値は通常時よりも小さな値となる。すなわち、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*の割合は通常時よりも低くなる一方、副たるアシスト制御量I
as*の割合は通常時よりも高くなる。最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*の割合が低くなる分、モータ31のトルク変動に対する影響も小さくなる。
【0126】
また、先の式(ii)にも示されるように、モータ31のトルク変動に及ぼす影響が大きい状況であるときほど、大きな値の移行レベルゲインG
L(G
L1,G
L2,G
L3)が算出される。このため、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*の割合は、よりいっそう低くなる。
【0127】
さらに、同じ状況A1〜状況A3であれ、操舵トルクτの大きさ(絶対値)によってモータ31のトルク変動に及ぼす影響の度合いが異なる。すなわち、操舵トルクτの値が大きいほど、モータ31のトルク変動に及ぼす影響の度合いは高くなる。この点を鑑み、本例では操舵トルクτの絶対値が大きくなるほどカウンタ76の増加量Naの値が大きく、ひいては分配ゲインGsの値がより小さく設定される。このため、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*の割合は、よりいっそう低くなる。
【0128】
そして、カウント値Nが異常判定閾値Nthに達した以降、分配ゲインGsは0(零)に維持される。このため、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*の割合は0%になる一方、主たるアシスト制御量I
as*の割合は100%となる。すなわち、使用されるアシスト制御量I
as*が主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ完全に切り替えられる。操舵トルクτの絶対値が大きいほど、またモータトルクの変動に影響を及ぼす状況であるほど、カウンタ76の増加量Naの値がより大きな値に設定されるので、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度は速くなる。
【0129】
ちなみに、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度を速くするだけではなく、逆に遅くしてもよい状況も想定される。たとえば、つぎの(A4),(A5)に示す2つの状況である。
【0130】
(A4)制限された主たるアシスト制御量I
as*の符号(+,−)が操舵トルクτの符号と同じであって、かつ制限された主たるアシスト制御量I
as*の絶対値が小さいとき。すなわち、いわゆるセルフステア(順方向)が発生するほどではないものの、アシスト力が過大となるおそれがあるとき。
【0131】
(A5)制限された主たるアシスト制御量I
as*の符号(+,−)が操舵トルクτの符号と同じ、あるいは逆であって、制限されたアシスト制御量I
as*の絶対値が0(零)に近似する程度に小さいとき。すなわち、アシスト力が過小となるおそれがあるとき。
【0132】
移行レベル判定部77は、主たるアシスト制御量I
as*の状況として状況A4、または状況A5が検出されるとき、つぎのように移行レベルを判定する。
(C4)いわゆる過大アシストが懸念される状況A4が検出されるとき。このとき、移行レベル判定部77は移行レベルL4と判定する。
【0133】
(C5)いわゆる過小アシストが懸念される状況A5が検出されるとき。このとき、移行レベル判定部77は移行レベルL5と判定する。
移行レベルL1〜L5のモータトルク、ひいては操舵感に対する影響度の大小関係は次式(iii)の通りである。
【0134】
L1>L2>L3>L4>L5 …(iii)
状況A4および状況A5が発生した場合、モータ31のトルク変動、ひいては操舵感に及ぼす影響は、先の状況A1〜A3が発生した場合に比べて極めて小さいと考えられる。このため、移行レベル判定部77による移行レベル判定処理の手順をつぎのようにしてもよい。
【0135】
図16(b)のフローチャートに示すように、先のステップS303において、移行レベル判定部77は主たるアシスト制御量I
as*の状況が状況A3ではない旨判断されるとき(ステップS303でNO)、ステップS307へ処理を移行する。
【0136】
ステップS307において、移行レベル判定部77は、主たるアシスト制御量I
as*の状況が状況A4であるかどうかを判断する。移行レベル判定部77は、状況A4ではない旨判断されるとき(ステップS307でNO)、ステップS308へ処理を移行する。
【0137】
ステップS308において、移行レベル判定部77は、主たるアシスト制御量I
as*の状況が状況A5であるかどうかを判断する。移行レベル判定部77は、状況A5ではない旨判断されるとき(ステップS308でNO)、処理を終了する。
【0138】
これに対し、先のステップS308において、移行レベル判定部77は状況A5である旨判断されるとき(ステップS308でYES)、移行レベルゲインG
LとしてゲインG
L5を生成し(ステップS309)、処理を終了する。
【0139】
また、先のステップS307において、移行レベル判定部77は状況A4である旨判断されるとき(ステップS307でYES)、移行レベルゲインG
LとしてゲインG
L4を生成し(ステップS310)、処理を終了する。
【0140】
ここで、2つのゲインG
L4,G
L5の値の大小関係は次式(iv)の通りである。
0<G
L5<G
L4<1 …(iv)
このため、状況A4または状況A5が発生するとき、カウンタ76に取り込まれる増加量Naの値は、増加量設定マップM11により算出される増加量Naの値よりも小さな値になる。したがって、ゲイン設定マップM12により算出される分配ゲインGsの値は、通常時(状況A4および状況A5のいずれの状況でもないとき)よりも大きな値となる。すなわち、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*の割合は通常時よりも高くなる一方、副たるアシスト制御量I
as*の割合は低くなる。またカウント値Nが増加する速度、ひいては分配ゲインGsに基づく主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度は通常時よりも遅くなる。
【0141】
なお、移行レベル判定部77は、ステップS308において状況A5である旨判断されるとき(ステップS308でYES)、およびステップS307において状況A4である旨判断されるとき(ステップS307でYES)、それぞれ移行レベルゲインG
Lを生成することなく処理を終了してもよい。この場合、カウンタ76のカウント値Nが異常判定閾値Nthに達するまでの間、制限された主たるアシスト制御量I
as*に基づき操舵のアシストが継続される。状況A4および状況A5においては、モータトルクに対する影響が少ないので大きな問題はない。
【0142】
また、切替え部75として、増加量設定マップM11および乗算器205を割愛した構成を採用してもよい。この場合、たとえば移行レベルゲインG
Lとカウンタ76に格納される増加量Naとを掛け算する。このようにしても、増加量Naは移行レベルゲインG
Lに応じて増減する。
【0143】
したがって、第2の実施の形態によれば、つぎの効果を得ることができる。
(5)主たるアシスト制御量I
as*の状態(モータのトルク変動に及ぼす影響度合い)に応じて、最終的な電流指令値I
*に占める主たるアシスト制御量I
as*の割合が変更される。また、主たるアシスト制御量I
as*の状態に応じて、副たるアシスト制御量I
as*への移行速度が変更される。たとえば、モータトルク変動に及ぼす影響が大きいときほど、副たるアシスト制御量I
as*へより速く移行する。このため、制限される主たるアシスト制御量I
as*の状態に応じて、モータトルクの変動がより好適に抑制される。操舵挙動の変化も抑えられる。
【0144】
<第3の実施の形態>
つぎに、電動パワーステアリング装置の第3の実施の形態を説明する。本例は、操舵トルクτだけではなく、モータ31に供給される電流の変化も考慮して、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度を変更する点で第1の実施の形態と異なる。
【0145】
図17に示すように、切替え部75は電流センサ44を通じて検出される電流値Imを取り込む。
図18に示すように、切替え部75は判定部206を有している。判定部206は、制限状態信号S
grd、操舵トルクτおよび電流値Imをそれぞれ取り込む。判定部206は、主たるアシスト制御量I
as*が制限されている旨示す制限状態信号S
grd、が取り込まれるとき、操舵トルクτおよび電流値Imに基づき、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度を速くするか遅くするかを判定する。判定部206は移行速度を速くするか遅くするかの判定結果に応じて移行速度ゲインG
Vを生成する。
【0146】
図19に示すように、判定部206は、操舵トルクτの変化方向(正負の符号)および電流値Imの変化方向(正負の符号)に基づき、モータ31へ供給される電流が操舵トルクτの変化を増やす方向の電流かどうかを判定する(YES/NO)。
【0147】
具体的には、判定部206は、操舵トルクτの変化方向として操舵トルクτの変化値Δτを演算する。操舵トルクτの変化値Δτは、今回の操舵トルクτから過去の操舵トルクτを引き算することにより得られる。また、判定部206は、電流値Imの変化方向として電流値Imの変化値ΔImを演算する。電流値Imの変化値ΔImは、今回の電流値Imから過去の電流値Imを引き算することにより得られる。
【0148】
判定部206は、次式(v)に示されるように、操舵トルクτの変化値Δτと電流値Imの変化値ΔImとの乗算結果の符号が正(+)であるとき、モータ31へ供給される電流は操舵トルクτの変化を増やす方向の電流ではない旨判定する(NO判定)。これに対して、判定部206は、次式(vi)に示されるように、操舵トルクτの変化値Δτと電流値Imの変化値ΔImとの乗算結果の符号が負(−)であるとき(YES判定)、モータ31へ供給される電流は操舵トルクτの変化を増やす方向の電流である旨判定する。
【0149】
操舵トルクτの変化値Δτ×電流値Imの変化値ΔIm<0 …(v)
操舵トルクτの変化値Δτ×電流値Imの変化値ΔIm>0 …(vi)
判定部206は、モータ31へ供給される電流が操舵トルクτの変化を増やす方向の電流である旨判定されるとき(YES判定)、移行速度を速くするための移行速度ゲインG
VとしてゲインG
VHを生成する。また、判定部206は、モータ31へ供給される電流が操舵トルクτの変化を増やす方向の電流ではない旨判定されるとき(NO判定)、移行速度を遅くするための移行速度ゲインG
VとしてゲインG
VLを生成する。ゲインG
VHは「1」より大きな値に、ゲインG
VLは「1」よりも小さな値に設定される。
【0150】
操舵トルクτの変化方向(正負の符号)と電流値Imの変化方向(正負の符号)との組み合わせは、つぎの(D1)〜(D4)に示す4パターンである。
(D1)操舵トルクτの変化方向が正(+)、電流値Imの方向も正(+)であるとき。このとき、操舵トルクτの変化値Δτと電流値Imの変化値ΔImとの乗算結果の符号は正(+)となる。このため、モータ31へ供給される電流は操舵トルクτの変化を増やす方向の電流ではない旨判定される(NO判定)。したがって、移行速度を遅くするためのゲインG
VLが生成される。
【0151】
(D2)操舵トルクτの変化方向が正(+)、電流値Imの方向が負(−)であるとき。このとき、操舵トルクτの変化値Δτと電流値Imの変化値ΔImとの乗算結果の符号は負(−)となる。このため、モータ31へ供給される電流は操舵トルクτの変化を増やす方向の電流である旨判定される(YES判定)。したがって、移行速度を速くするためのゲインG
VHが生成される。
【0152】
(D3)操舵トルクτの変化方向が負(−)、電流値Imの方向が正(+)であるとき。このとき、操舵トルクτの変化値Δτと電流値Imの変化値ΔImとの乗算結果の符号は負(−)となる。このため、モータ31へ供給される電流は操舵トルクτの変化を増やす方向の電流である旨判定される(YES判定)。したがって、移行速度を速くするためのゲインG
VHが生成される。
【0153】
(D4)操舵トルクτの変化方向が負(−)、電流値Imの方向も負(−)であるとき。このとき、操舵トルクτの変化値Δτと電流値Imの変化値ΔImとの乗算結果の符号は正(+)となる。このため、モータ31へ供給される電流は操舵トルクτの変化を増やす方向の電流ではない旨判定される(NO判定)。したがって、移行速度を遅くするためのゲインG
VLが生成される。
【0154】
なお、モータ31へ供給される電流が操舵トルクτの変化を増やす方向の電流ではない旨判定されるとき(NO判定)、移行速度を変化させないようにしてもよい。この場合、ゲインG
VLの値は「1」に設定する。
【0155】
したがって、第3の実施の形態によれば、つぎの効果を得ることができる。
(6)モータ31へ供給される電流が操舵トルクτの変化を増やす方向の電流であるとき、制限された主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度は通常よりも速くされる。制限された主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ速く切り替えられる分だけ、操舵トルクτの変化量増大が操舵挙動に及ぼす影響を緩和することが可能である。
【0156】
(7)モータ31へ供給される電流が操舵トルクτの変化を増やす方向の電流ではないとき、制限された主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行速度を積極的に速くする必要はない。むしろ制限されているとはいえ、主たるアシスト制御量I
as*を継続して使用することが好ましい場合も考えられる。たとえば副たるアシスト制御部74に、主たるアシスト制御部71よりも簡素化した機能を持たせる場合などである。このような場合には、なるべく主たるアシスト制御部71により生成されるアシスト制御量I
as*を使用することが望まれる。
【0157】
<第4の実施の形態>
つぎに、電動パワーステアリング装置の第4の実施の形態を説明する。本例は、先の第1〜第3の実施の形態のいずれについても適用することが可能である。
【0158】
図20に示すように、切替え部75は、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行が開始されるタイミングで移行フラグF
movを生成する。移行フラグF
movは、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行が開始された旨示す信号である。上下限リミット演算部72は、切替え部75により生成される移行フラグF
movを取り込む。
【0159】
図21に示すように、切替え部75のゲイン設定マップM12は、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行が開始されるタイミングとして、カウンタ76のカウント値Nが所定のカウント値N1(<Nth)に達したとき、移行フラグF
movを生成する。カウント値Nが所定のカウント値N1を超えた以降、分配ゲインGsは「1」よりも小さな値となる。なお、所定のカウント値N1は、移行フラグF
movを生成するタイミングを判定する際の基準となるタイミング判定閾値として機能する。
【0160】
図22に示すように、上下限リミット演算部72は、第1の平均値演算部301および第2の平均値演算部302を有している。
第1の平均値演算部301は、移行フラグF
movが取り込まれるとき、上限値演算部90により生成される上限値I
UL*の時間平均値を演算し、当該演算される時間平均値を最終的な上限値I
UL*として上下限ガード処理部73へ出力する。第1の平均値演算部301は、移行フラグF
movが取り込まれないとき、上限値演算部90により演算される上限値I
UL*をそのまま最終的な上限値I
UL*として上下限ガード処理部73へ出力する。
【0161】
第2の平均値演算部302は、移行フラグF
movが取り込まれるとき、下限値演算部100により生成される下限値I
LL*の時間平均値を演算し、当該演算される時間平均値を最終的な下限値I
LL*として上下限ガード処理部73へ出力する。第2の平均値演算部302は、移行フラグF
movが取り込まれないとき、下限値演算部100により生成される下限値I
LL*をそのまま最終的な下限値I
LL*として上下限ガード処理部73へ出力する。
【0162】
なお、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行が完了したとき、切替え部75は上限値I
UL*の時間平均値および下限値I
LL*の時間平均値の演算をそれぞれ停止してもよい。正確には、切替え部75のゲイン設定マップM12は、カウント値Nが異常判定閾値Nthに達して分配ゲインGsの値が「0」に至ったとき、移行フラグF
movの生成を停止する。移行フラグF
movの生成が停止されることにより、第1の平均値演算部301および第2の平均値演算部302における平均値演算も停止される。このようにすれば、無駄な演算処理が抑制される。また、主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行が完了したとき、主たるアシスト制御部71、上下限リミット演算部72および上下限ガード処理部73のうちの少なくとも一の動作を停止させるようにしてもよい。
【0163】
したがって、第4の実施の形態によれば、つぎの効果を得ることができる。
(8)使用するアシスト制御量I
as*が主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ移行されるとき、上限値I
UL*または下限値I
LL*が変動することにより、これら上限値I
UL*または下限値I
LL*に制限される主たるアシスト制御量I
as*も変動するおそれがある。この点、本例では主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*へ移行されるとき、上限値I
UL*の時間平均値および下限値I
LL*の時間平均値が最終的な上限値I
UL*および下限値I
LL*として使用される。このため、最終的な上限値I
UL*および下限値I
LL*の変動、ひいてはこれら上限値I
UL*または下限値I
LL*に制限された主たるアシスト制御量I
as*の変動が抑制される。したがって、モータ31のトルク変動、ひいては操舵挙動の変化も緩和される。
【0164】
(9)主たるアシスト制御量I
as*から副たるアシスト制御量I
as*への移行が完了したとき、少なくとも上限値I
UL*の時間平均値および下限値I
LL*の時間平均値の演算をそれぞれ停止させるようにすれば、無駄な演算処理が抑制される。