特許第6379910号(P6379910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6379910アンモニア合成触媒、アンモニア合成触媒の製造方法およびアンモニア合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379910
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】アンモニア合成触媒、アンモニア合成触媒の製造方法およびアンモニア合成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/068 20060101AFI20180820BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20180820BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   B01J29/068 M
   B01J35/10 301G
   B01J37/10
   C01C1/04 F
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-188503(P2014-188503)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-59851(P2016-59851A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】江口 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅博
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0077493(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/034473(WO,A1)
【文献】 特表2013−534463(JP,A)
【文献】 特開昭54−136598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C01C 1/04
DWPI(Derwent Innovation)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミノ珪酸骨格を有し、平均長径が0.2〜0.5nmのミクロ孔と平均長径が4〜5nmのメソ孔とを有するメソポーラス構造を備えるゼオライト粒子に、アンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させてなるアンモニア合成触媒。
【請求項2】
嵩密度が0.5〜2.0g/cm3であるゼオライト粒子に、アンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させてなる請求項1に記載のアンモニア合成触媒。
【請求項3】
アルミノ珪酸骨格を有し、平均長径が0.2〜0.5nmのミクロ孔と平均長径が4〜5nmのメソ孔とを有するメソポーラス構造を備えるゼオライト粒子に、アンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させる担持工程を含むアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項4】
嵩密度が0.5〜2.0g/cm3であるゼオライト粒子に、アンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させる担持工程を含む請求項3に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項5】
珪酸原料と、アルミン酸原料と、非イオン性界面活性剤と、イオン性界面活性剤とを塩基性水性液に分散させる分散工程と、前記分散工程で得られる分散溶液を熱処理して非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを含有するゼオライト粒子を生成する熱処理工程と、前記ゼオライト粒子を水洗、加熱して、当該ゼオライト粒子から非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを除去する界面活性剤除去工程と、前記ゼオライト粒子にアンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させる担持工程とを含む請求項に記載のアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項6】
アルミノ珪酸骨格を有し、平均長径が0.2〜0.5nmのミクロ孔と平均長径が4〜5nmのメソ孔とを有するメソポーラス構造を備えるゼオライト粒子に、アンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させてなるアンモニア合成触媒を用いて、水素と窒素とを反応させてアンモニアを合成するアンモニア合成方法。
【請求項7】
嵩密度が0.5〜2.0g/cm3であるゼオライト粒子にアンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させてなるアンモニア合成触媒を用いて、水素と窒素とを反応させてアンモニアを合成する請求項6に記載のアンモニア合成方法。
【請求項8】
少なくとも温度条件250〜350℃と、圧力条件0.1〜1MPaとのいずれか一つを満たす反応条件下でアンモニアを合成する請求項に記載のアンモニア合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア合成を促進させ得るアンモニア合成触媒および該触媒の製造方法、アンモニア合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、硫安や尿素肥料等、穀物生産に不可欠な人工肥料の原料である。アンモニア合成の基本技術として、ハーバー・ボッシュ法が知られる。ハーバー・ボッシュ法は、窒素と水素とを二重促進鉄触媒を用いて直接反応させてアンモニアを合成する技術で、1910年代に工業的に完成されて以来、現代に到るまで、人類の生活を支える技術として重用されている。
【0003】
二重促進鉄触媒は、Fe3O4を主成分とする。二重促進鉄触媒の組成について、BASF社製の二重促進鉄触媒を例に挙げると、その組成は、Fe3O4 94.3%、K2O 0.8%、Al2O3 2.3%、その他(CaO、MgO、SiO2) 2.6%である。上記に例示される組成中に含まれる酸化鉄が、アンモニア合成過程で水素により還元され金属鉄を生じ、触媒活性を発揮する。
【0004】
ハーバー・ボッシュ法は、反応温度400〜600℃、反応圧力約20〜100MPaの反応条件で行われる。この反応条件を満たすため、該合成方法は高圧反応容器を用いてバッチ式に実施される。したがって、連続的にアンモニアを製造することが困難である。また触媒活性を上げるため、反応温度を少なくとも400℃以上にしなければならない。
【0005】
上記の温度・圧力条件を満たす合成装置は、高耐久性の配管設備やコンプレッサーが必要になるため大型化しやすい。また該合成方法は高温条件で行われるため、熱エネルギー損出が大きい。そのため、ハーバー・ボッシュ法より低温条件下や低圧条件下でアンモニアを合成できる方法が望まれる。
【0006】
特許文献1には、ハーバー・ボッシュ法より低温条件で行うことができるアンモニア合成方法として、触媒成分にMo、W、Re、Fe、Co、Ru、Osのうちのいずれかの金属元素、またはFeとRu、RuとRe、FeとMoとの組み合わせのいずれか1つからなる遷移金属を実質的に金属状態で使用する方法が開示される。上記の触媒成分を用いる方法では、200〜300℃でアンモニアを合成できる。
【0007】
低温条件下や低圧条件下で行うことができるアンモニア合成方法としては、上記の他、Fe、Ru、Os、Co等の第8族または第9族遷移金属を触媒成分とするアンモニア合成方法(特許文献2〜4)や、ルテニウムをアンモニア合成の触媒として用いる方法(特許文献5〜8)も提案されている。
【0008】
特許文献9、10には、300〜500℃でアンモニアを合成する方法としては、第8族または第6B族遷移金属の窒化物やCo-Mo複合窒化物を触媒とするアンモニア合成方法が開示される。特許文献11には、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Mn、Cuの群から少なくとも1つの遷移金属から選ばれる触媒活性成分を担体材料に含有させた触媒を用いて窒素および水蒸気からアンモニアをプラズマ接触により製造する方法が開示される。
【0009】
上記の触媒成分を用いる方法は高圧のプロセスを必要とせず、常圧でも原料成分の反応を進行させることができる。Ru等は、第2世代のアンモニア合成触媒として注目されている。しかし、Ru単体での触媒活性は非常に小さく、その能力を発揮させるには担体や促進剤化合物を用いる必要がある。
【0010】
RuやFe等の触媒活性を促進させる担体として、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、グラファイト、セリウムおよびマグネシアなどが用いられる。酸化アルミニウム等の酸化物化合物を担体として用いる場合は、電気陰性度の大きなアルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等の促進剤化合物を多量に添加して触媒成分の電子供与能力を向上させ、触媒活性を向上させる。しかし、低温条件下や低圧条件下でアンモニアをさらに効率よく合成させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭51-47674号公報
【特許文献2】特公昭54-37592号公報
【特許文献3】特公昭59-16816号公報
【特許文献4】国際公開第96/38222号
【特許文献5】特開平2-258066号公報
【特許文献6】特開平9-239272号公報
【特許文献7】特開平2004-35399号公報
【特許文献8】特開平2006-231229号公報
【特許文献9】特開平2000-264625号公報
【特許文献10】特開2008-13435号公報
【特許文献11】特開2001-151507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、低温条件下や低圧条件下で優れた触媒活性を発揮するアンモニア合成触媒を提供し、該触媒を用いてアンモニアを高効率に合成できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、アルミノ珪酸骨格を有し、メソポーラス構造を備えるゼオライト粒子に、アンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させてなるアンモニア合成触媒である。該アンモニア合成触媒は、アルミノ珪酸骨格を有し、平均長径が0.2〜0.5nmのミクロ孔と平均長径が4〜5nmのメソ孔とを有するメソポーラス構造を備え、嵩密度が0.5〜2.0g/cm3であるゼオライト粒子に、アンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させてなる。
【0014】
本発明は、アルミノ珪酸骨格を有し、平均長径が0.2〜0.5nmのミクロ孔と平均長径が4〜5nmのメソ孔とを有するメソポーラス構造を備え、嵩密度が0.5〜2.0g/cm3であるゼオライト粒子にアンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させる担持工程を含むアンモニア合成触媒の製造方法を包含する。
【0015】
該製造方法は、珪酸原料と、アルミン酸原料と、非イオン性界面活性剤と、イオン性界面活性剤とを塩基性水性液に分散させる分散工程と、前記分散工程で得られる分散溶液を熱処理して非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを含有するゼオライト粒子を生成する熱処理工程と、前記ゼオライト粒子を水洗、加熱してゼオライト粒子から非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを除去する界面活性剤除去工程と、ゼオライト粒子にアンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させる担持工程とを含むことが好ましい。
【0016】
本発明は、アルミノ珪酸骨格を有し、平均長径が0.2〜0.5nmのミクロ孔と平均長径が4〜5nmのメソ孔とを有するメソポーラス構造を備え、嵩密度が0.5〜2.0g/cm3であるゼオライト粒子にアンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させてなるアンモニア合成触媒を用いて、水素と窒素とを反応させてアンモニアを合成するアンモニア合成方法を包含する。上記のアンモニア合成方法においては、少なくとも温度条件250〜350℃と、圧力条件0.1〜1MPaとのいずれか一つを満たす反応条件下でアンモニアを合成することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、低温条件下や低圧条件下で優れた触媒活性を発揮する。またアンモニア合成触媒を用いてアンモニアを高効率に合成できる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に用いられるゼオライト粒子の原料の添加量の例を示す表である。
図2】本発明に用いられるゼオライト粒子の構造例を示す表である。
図3】本発明のアンモニア合成方法を適用するアンモニア合成装置例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[アンモニア合成触媒]
本発明のアンモニア合成触媒は、所定のゼオライト粒子にアンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させてなる。
【0020】
[ゼオライト粒子]
本発明所定のゼオライト粒子は、アンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させる担体として機能する。該ゼオライト粒子の純度は95〜100質量%であり、製造工程で完全に排除できなかった少量の不純物を含みうる。
【0021】
本発明に用いられるゼオライト粒子は、その格子間隙が比較的大きなアルミノ珪酸骨格を有する。アルミノ珪酸骨格の基本構造は、各頂点を酸素が占め、中央にSiが位置する四面体構造である。該四面体構造の頂点の酸素を共有させることにより該四面体構造が連結され、かつ該Siの一部がAlに置換されてアルミノ珪酸骨格が形成される。その構造は、結晶格子全体として負に帯電されているため、K、Cs、Na等のアルカリ金属イオン等のカチオンを含有させることにより、電荷補償されている。
【0022】
窒素と水素とを原料とするアンモニア合成反応に、上記の構造を有するアンモニア合成触媒を用いると、水素は触媒担体のアルミノ珪酸骨格の格子間隙に一時的に取り込まれうる。これにより被担持成分である遷移金属と水素との接触が抑制され、遷移金属等の触媒成分の被毒を抑制できる。すなわち本発明は、被毒による触媒の失活を抑制し、安定的に優れた触媒活性を発揮させることができる。したがってアンモニアを高効率で合成できる。
【0023】
上記のゼオライト粒子は、ミクロ孔とメソ孔とを有する。IUPACでは触媒分野について、直径2nm以下の細孔をミクロ孔、直径2〜50nmの細孔をメソ孔、直径50nm以上の細孔をマクロ孔と定義する。本発明における該ゼオライト粒子の各ミクロ孔の平均長径は0.2〜0.5nmが好ましく、各メソ孔の平均長径は4〜5nmが好ましい。
【0024】
本発明で用いられるゼオライト粒子のミクロ孔とメソ孔との「平均長径」は、粒子表面上に視認できる各細孔の長径を測定し、長径が2nm以下の細孔をミクロ孔、長径が2nmを超える細孔をメソ孔として、算出されるミクロ孔の平均長径とメソ孔の平均長径である。本発明で用いられるゼオライト粒子は、該ミクロ孔の平均長径とメソ孔の平均長径とが上記の所定の範囲内のものである。なお、長径の測定方法は、例えばSEM等で可能である。
【0025】
該ゼオライト粒子に形成されるミクロ孔とメソ孔との形状や存在割合は、アンモニア合成触媒の製造時に構造規定剤として添加される非イオン性界面活性剤やイオン性界面活性剤の添加量により調整できる。
【0026】
ミクロ孔とメソ孔とを有するゼオライト粒子は、ミクロ孔だけを有するゼオライト粒子と比較して、広い比表面積を確保できる。またメソ孔が多いほど、活性点を出しやすくなり、ゼオライト粒子の触媒活性を向上させうる。しかしメソ孔が多すぎるゼオライト粒子は構造が脆弱で靱性が低い。そのようなゼオライト粒子を用いた触媒がペレット化されてリアクターに充填された場合、該触媒はリアクター内の温度変化に伴う熱膨張に耐えられず崩壊するため、触媒活性が低下しやすい。
【0027】
本発明に用いられるゼオライト粒子は、触媒活性の向上と靱性確保との観点から、平均長径0.2〜0.5nmのミクロ孔と平均長径4〜5nmのメソ孔とが所定の嵩密度になる存在割合で共存するゼオライト粒子が用いられる。本発明に用いられる担体の嵩密度は、0.5〜2.0g/cm3であることが好ましく、0.7〜1.5g/cm3であることがより好ましく、0.8〜1.2g/cm3であることがさらに好ましい。嵩密度が0.5g/cm3より小さい場合、靱性が不十分になる。2.0g/cm3より大きい場合、触媒活性が不十分になる。
【0028】
本発明においてゼオライト粒子の嵩密度は、公知の測定装置を用いて測定容器に充填されたゼオライト粒子の質量を測定し、測定容器の容量で除した値として求められる。公知の測定装置としては、ホソカワミクロン パウダテスタ PT-Xが挙げられる。
【0029】
該ゼオライト粒子のBET法による比表面積は、大きいほど多量の遷移金属を担持させることができる。生産容易性の観点から、好ましくは1〜10m2/gであり、より好ましくは1〜5m2/gである。比表面積が1m2/g未満の場合、遷移金属の担持量が少なくなるため触媒活性の十分な向上が得られない。本発明のアンモニア合成触媒は、上記のゼオライト粒子に所定の遷移金属を多量に担持させる。少なくとも温度条件250〜350℃と、圧力条件0.1〜1MPaとのいずれか一つを満たす反応条件下でアンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させることで、本発明は安定的に高い触媒活性を発揮し、高効率なアンモニア合成に寄与する。
【0030】
上記のゼオライト粒子の具体例としては、モルデナイト、A型ゼオライト、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、L型ゼオライト、エリオナイト、ベータゼオライト、ZSM-5ゼオライト等を挙げることができる。
【0031】
[遷移金属]
本発明のアンモニア合成触媒は、上記の所定のゼオライト粒子にアンモニア合成活性を有する遷移金属を担持させる。そのような遷移金属として、少なくとも温度条件250〜350℃と、圧力条件0.1〜1MPaとのいずれか一つを満たす反応条件下でアンモニア合成を促進させる触媒活性を有するものが好ましい。具体例としては、Fe、Ru、Os等の第8族遷移金属元素や、Co、Ir等の第9族遷移金属元素を挙げることができる。その他、第6族遷移金属元素のMo、第7族遷移金属元素のReを担持させてもよい。本発明に用いられる遷移金属は、一種を用いてもよく二種以上を併用してもよい。
【0032】
上記の遷移金属源となる遷移金属化合物の例としては、トリルテニウムドデカカルボニル(Ru3(CO)12)、ジクロロテトラスキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuCl2(PPh3)4)、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuCl2(PPh3)3)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(Ru(acac)3)、ペンタカルボニル鉄ヨウ化物(Fe(CO)4I2)などの熱分解しやすい無機金属化合物または有機金属錯体を挙げることができる。上記に例示される遷移金属化合物は、一種を用いてもよく二種以上を併用してもよい。
【0033】
該遷移金属の平均粒子径は、上記のゼオライト粒子に担持させ得る大きさであれば限定されないが、好ましくは5〜500nmであり、より好ましくは50〜300nmである。なお本発明において粒子径とは、レーザー回折法での粒子径分布測定による体積基準累積粒度分布における、50%粒子径(D50)を意味する。
【0034】
当該担体に対する遷移金属の担持量は、担体と担持させる遷移金属との組合せにより異なるが、担体としてのゼオライト粒子100質量gに対して、少なくとも1〜10質量%であり、より好ましくは2〜7質量%である。
【0035】
本発明のアンモニア合成触媒においては、上記のゼオライト粒子や遷移金属の他、アンモニア合成活性を向上させる目的で、助触媒を含有させてもよい。また本発明の作用効果を阻害しない限り、他の成分を含有させてもよい。
【0036】
[アンモニア合成触媒の製造方法]
本発明のアンモニア合成触媒の製造方法は、原料成分を溶媒に分散させる分散工程と、分散工程により得られる分散溶液からゼオライト粒子を生成する熱処理工程と、該ゼオライト粒子に含有される界面活性剤を除去する界面活性剤除去工程とを含むことが好ましい。なお、本発明の作用効果を阻害しない限り、他の工程を含んでいてもよい。
【0037】
[分散工程]
珪酸原料と、アルミン酸原料と、非イオン性界面活性剤と、イオン性界面活性剤とを塩基性水性液に添加する。各原料が添加された塩基性水性液は、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等を用いて撹拌されることにより、珪酸原料とアルミン酸原料とが均質に分散されたスラリー状の分散溶液となる。また、分散溶液内に非イオン性界面活性剤またはイオン性界面活性剤に取り囲まれるようにして気泡が形成される。
【0038】
非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とは、該ゼオライト粒子の構造規定剤として機能する。非イオン性界面活性剤に取り囲まれる気泡は比較的小さく、後にミクロ孔を規定する。イオン性界面活性剤に取り囲まれる気泡は比較的大きく、後にメソ孔を規定する。従って、非イオン性界面活性剤やイオン性界面活性剤の添加量を調節することにより、ミクロ孔やメソ孔の存在割合を規定し、所望の嵩密度のゼオライト粒子を得ることができる。
【0039】
塩基性水性液に分散される珪酸化合物とアルミン酸との合計含有量は、原料分散溶液がスラリー状になる濃度に適宜調整される。好ましくは、300〜500g/Lである。また上記の非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤の総添加量は、珪酸原料及びアルミン酸原料とに含有される珪素とアルミニウムとの合計モル数に対し、5〜10質量g/molを満たすことが好ましい。
【0040】
珪酸原料には、有機珪酸化合物と無機珪酸化合物とのいずれを用いてもよい。有機珪酸化合物の例としては、オルト珪酸テトラエチル、オルト珪酸テトラメチル、オルト珪酸テトライソプロピル等の珪酸エステル類が挙げられる。無機珪酸化合物の例としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等の珪酸金属塩やコロイダルシリカ、ゲル状シリカ、水ガラス、酸化珪素等が挙げられる。好ましくは、珪酸ナトリウムが用いられる。該珪酸化合物は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0041】
アルミン酸原料には、有機アルミニウム化合物と無機アルミニウム化合物とのいずれを用いてもよい。有機アルミニウム化合物の例としては、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド等のアルミニウムアルコキシド類が挙げられる。無機アルミニウム化合物の例としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム等の各種酸のアルミニウム塩類や、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。好ましくは、硝酸アルミニウムが用いられる。該珪酸化合物は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。上記の珪酸化合物やアルミン酸は、水性液中で均一に混合し易いように粉末状に調製されたものを使用することが好ましい。
【0042】
非イオン性界面活性剤は、ミクロ孔を形成する鋳型として機能する。該非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類等を使用できる。
【0043】
好ましくは、親水性部分として1つ以上のポリオキシエチレン鎖を有し、疎水性部分として、ポリオキシプロピレン鎖、アルキル鎖、ポリオキシブチレン鎖及び置換アリール鎖から選択される1種又は2種以上を含むブロック共重合体が用いられる。具体的には、ノナエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等が挙げられる。
【0044】
市販品として入手可能な非イオン性界面活性剤としては、例えば、PLURONIC(BASF社製商品名)、TETRONIC(BASF社製商品名)、TRITON(Union Carbide社製商品名)、TERGITOL(Union Carbide社製商品名)等が好ましい。上記の非イオン性界面活性剤は、一種を使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0045】
イオン性界面活性剤は、メソ孔を形成する鋳型として機能する。該イオン性界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0046】
メソ孔を形成する観点からは、親水性基としてカルボン酸基、スルホン酸基又はリン酸基を有するアニオン系界面活性剤が特に好ましい。例としては、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム脂肪酸塩、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩等が挙げられる。
【0047】
カチオン系界面活性剤の例としては、親水性基としてアンモニウム基、ホスホニウム基又はアルソニウム基を有するものが挙げられる。例として、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等の4級アンモニウム化合物や、テトラアルキルホスホニウムアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0048】
より具体的には、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、水酸化オクチルトリメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、水酸化デシルトリメチルアンモニウム、n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウムのハロゲン塩又は水酸化物などを好適に使用できる。
【0049】
両性イオン界面活性剤としては、アミンオキシドやカルボキシベタインが挙げられ、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタインなどを例示できる。上記のイオン性界面活性剤は、一種を使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0050】
上記の各原料は、塩基性水性液に分散させる。該水性液を塩基性にすることにより、珪酸化合物とアルミン酸とがそれぞれ珪酸イオンとアルミン酸イオンとに変換されやすくなる。塩基性水性液を得るために添加されるアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、アンモニア水、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の水溶性アミン化合物、水酸化テトラアルキルアンモニウム等の有機アンモニウム化合物が挙げられる。好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が用いられる。
【0051】
上記の分散工程では、本発明の作用効果を阻害しない限り、pH調整剤等その他の添加剤を含有させてもよく、原料成分の分散・溶解を促進させるための手段を適宜加えてもよい。
【0052】
各原料の添加順序は、同時でもよく、珪酸原料とアルミン酸原料とを塩基性水性液に分散させた後に非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを添加してもよい。ただし、珪酸原料とアルミン酸原料とによりアルミノ珪酸骨格が形成され始めると、その後はミクロ孔やメソ孔を規定することが極めて困難になる。したがって、非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とは、アルミノ珪酸骨格が形成され始める前に添加されることが好ましい。上記の観点から、非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とは、珪酸原料とアルミン酸原料を十分に塩基性水性液に分散させた後、直ちに添加し始めることが好ましい。非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを添加している間、分散溶液の温度は25〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。
【0053】
[熱処理工程]
該分散溶液を熱処理することにより、アルミノ珪酸骨格が形成され、ゼオライト粒子を生成することができる。該ゼオライト粒子は、その細孔に非イオン性界面活性剤やイオン性界面活性剤を含有する。水熱合成前の撹拌により、非イオン性界面活性剤は小さな気泡を取り囲んだ状態で細孔に含有される。また、イオン性界面活性剤は大きな気泡を取り囲んだ状態で細孔に含有される。
【0054】
水熱合成の反応温度は、80〜200℃が好ましく、100〜200℃がより好ましく、160〜180℃がさらに好ましい。反応圧力は、0.3〜1MPaが好ましい。反応時間は、1〜5時間が好ましく、2〜4時間がより好ましい。上記の好ましい反応条件の範囲を外れる場合、本発明に好適な型のゼオライト粒子を形成できない場合がある。
【0055】
水熱合成終了後、得られたゼオライト粒子を、濾過、固液分離等の方法により水性液中から分離させた後、水洗して界面活性剤の有機質イオンや金属イオン等を除去する。さらに該ゼオライト粒子を乾燥させ、ゼオライト粒子の細孔に含有される非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを除去する。乾燥方法としては加熱処理が好ましく、その場合、加熱条件は、昇温速度1〜20℃/分で昇温させ、加熱温度400〜600℃、加熱時間1〜10時間が好ましい。
【0056】
非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを除去後、さらに乾燥させることにより、平均長径0.4〜0.5nmのミクロ孔と平均長径4〜5nmのメソ孔とを有するメソポーラス構造を備える本発明所定のゼオライト粒子を得ることができる。乾燥時の加熱温度は、350〜500℃が好ましく400〜500℃がより好ましい。
【0057】
[担持工程]
続いて得られたゼオライト粒子に遷移金属を担持させる。担持方法は、従来公知の含浸法、蒸着法等を適用できる。
【0058】
含浸法を適用する場合、遷移金属源としての遷移金属化合物を有機溶媒に分散させた分散溶液に、平均粒径5〜300nmに微粒子化させた上記のゼオライト粒子を添加する。遷移金属化合物の遷移金属源としての添加量は、ゼオライト粒子100質量部に対し、0.1〜40質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。0.1質量部未満の場合、得られるアンモニア合成触媒における遷移金属の担持量が少なくなり、十分な触媒活性を得られない。40質量部を超える場合、担持できない遷移金属が分散溶液中に残存する。有機溶媒は、ゼオライト粒子及び遷移金属源を均質に分散させ得るものであれば特に限定されないが、具体例としては、ヘキサン、ヘプタン等を挙げることができる。
【0059】
該分散溶液を不活性ガス気流中あるいは真空下で熱処理して溶媒を除去させた後、さらに乾燥させ、ゼオライト粒子に遷移金属化合物を含浸させた触媒前駆体を得る。処理温度は、50〜200℃が好ましく、処理時間は30分間〜5時間が好ましい。
【0060】
得られた触媒前駆体を不活性ガス気流中、または真空中で加熱して還元処理する。好ましい処理温度は、30〜80℃である。これによりゼオライト粒子のアルミノ珪酸骨格に遷移金属が担持され、本発明のアンモニア合成触媒を得ることができる。
【0061】
得られたアンモニア合成触媒は、ペレットとして粒状、球状、タブレット状等に成形され、次に説明するアンモニア合成方法に適用される。ただしペレット化は必須ではない。該アンモニア合成触媒は、平均長径が0.2〜0.5nmのミクロ孔と平均長径が4〜5nmのメソ孔とを有するメソポーラス構造を備え、嵩密度が0.5〜2.0g/cm3であるゼオライト粒子を用いることにより、靱性が良好である。そのため、本発明のアンモニア合成触媒は、アンモニア合成反応中に崩壊しにくく劣化が少ない。したがって長期にわたり優れた触媒活性を有する。
【0062】
[アンモニア合成方法]
本発明のアンモニア合成方法は、上記に説明した所定のアンモニア合成触媒を用いて、水素と窒素とを直接反応させることにより、アンモニアを合成させる方法である。本発明の合成方法においては、少なくとも温度条件250〜350℃と、圧力条件0.1〜1MPaとのいずれか一つを満たす反応条件下でアンモニアを合成できる。合成時の反応速度は、20〜300μmolg-1h-1であり、好ましくは60〜300μmolg-1h-1になる。
【0063】
本発明のアンモニア合成方法は、水素と窒素とを上記の所定のアンモニア合成触媒に接触させることにより、アンモニアを効率よく合成することができる。本発明で用いられるアンモニア合成触媒は、所定のメソポーラス構造を備えるゼオライト粒子を担体として用いることより、少なくとも温度条件250〜350℃と、圧力条件0.1〜1MPaとのいずれか一つを満たす反応条件下で良好な触媒活性を発揮する担持金属を多量に担持できる。そのため本発明のアンモニア合成方法は、少なくとも温度条件250〜350℃と、圧力条件0.1〜1MPaとのいずれか一つを満たす反応条件下で行われる場合に好適である。
【0064】
図3は、本発明のアンモニア合成方法が適用されるアンモニア合成装置例の模式図である。図3において、1はアンモニア合成装置、2はリアクター、3は触媒層である。リアクター2の触媒層3には、本発明所定のアンモニア合成触媒を成形したペレットが充填される。水素と窒素とをリアクター2を通気させることにより、水素と窒素とを反応させ、アンモニアを合成する。通常、水素と窒素とは混合ガスとしてリアクター2を通気させる。混合ガスの水素と窒素とのモル比は、1:3が好ましい。混合ガスのリアクターの通気速度は30〜180ml/minが好ましい。
【0065】
リアクター内の温度条件は250〜350℃が好ましく、280〜330℃がより好ましい。圧力条件は、0.1〜1MPaが好ましい。上記の温度条件と圧力条件とは、少なくともいずれか一つを満たせばよく、両方を満たすことがより好ましい。本発明のアンモニア合成触媒は、上記の反応条件でその触媒活性を好適に発揮し、アンモニア合成反応を効果的に進行させることができる。上記の合成されたアンモニアは、従来公知の冷却工程または吸着工程を経て回収できる。
【0066】
本発明のアンモニア合成方法による反応速度は20〜300μmolg-1h-1であり、好ましくは60〜300μmolg-1h-1になる。本発明に所定のアンモニア合成触媒は劣化が少なく、長時間上記の反応速度を維持する為、本発明のアンモニア合成方法を用いることにより、少なくとも1〜8時間連続してアンモニア合成反応を行うことができる。
【0067】
本発明のアンモニア合成方法は、少なくとも温度条件250〜350℃と、圧力条件0.1〜1MPaとのいずれか一つを満たす反応条件下でアンモニア合成を行うことができる。そのため、アンモニア合成装置に高温高圧条件に対応するための設備を設ける必要がなく、メンテナンスの負担を軽減できる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を用いて本発明をさらに説明する。ただし本発明は下記の実施例に限定されない。
【0069】
<アンモニア合成触媒の製造>
樹脂製ビーカーにイオン交換水252g及びポリエチレングリコール(分子量6000、東京化成社製)11.0gを溶解させる。次に、水酸化ナトリウム(片山化学社製)2.5gを加えて十分に溶解する。更に、アルミン酸ナトリウム(住友化学工業社製、NaOH:26.1質量%、Al2O3:18.5質量%、水:55.4質量%)14.3gを加えてよく撹拌し、含水珪酸粉末(日本シリカ工業社製、SiO2:93.3質量%、水:6.7質量%)41.9gを加える。続いて、イオン性界面活性剤(ジ(2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)2.0g、及び非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、東京化成社製商品名:Tween60)2.0gを加える。振とう機を用いて60℃で20分間原料が均質に分散するまで混合させ、原料スラリーを得る。
【0070】
得られた原料スラリーを、容量が500mlのステンレス製オートクレーブに投入し、十分に撹拌しながら170℃で71時間加熱する。遠心分離機(3000rpm)を用いて、加熱処理により析出した生成物から水を除去する。該生成物を蒸留水で十分に洗浄する。該生成物を400℃に1時間加熱して乾燥させ、白色の焼成物を得る。該焼成物を焼成物Aとする。
【0071】
X線回折法による焼成物Aの回折パターンの測定では、モルデナイト型ゼオライトのX線回折パターンの確認が可能である。また走査電子顕微鏡による観察では焼成物Aが多孔質ブロック状ナノ粒子であることを確認できる。
【0072】
焼成物Aから粒子を無作為に50個選び出し、各粒子の表面上で確認できる細孔の長径と粒子径を測定する。各粒子表面上の細孔の長径が2nm以下のものをミクロ孔とし、2nmを超えるものをメソ孔として、各粒子のミクロ孔の平均長径とメソ孔の平均長径とを計算する。その場合、焼成物Aの各粒子のミクロ孔の平均長径は、0.2〜0.5nmに、メソ孔の平均長径は、4〜5nmになる。上記50個の粒子の粒子径は、60nmである。BET法による比表面積の平均値は、5m2/gである。なお比表面積の測定は、流動式比表面積自動測定装置 FlowSorb III 2310等を用いて行える。
【0073】
珪酸原料、アルミン酸原料、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を図1に記載する添加量にした他は、焼成物Aの生成工程と同様にして焼成物B〜Hが得られる。焼成物A〜HのX線回折パターンによる同定結果、メソ孔平均長径、ミクロ孔平均長径、平均粒子径、嵩密度、比表面積をそれぞれ図2に記載する。
【0074】
<アンモニア合成触媒の製造>
[実施例1]
Ru3(CO)12をヘキサンに溶解させ、Ru3(CO)12溶液と焼成物Aのゼオライト粒子を添加し、撹拌して該溶液中に分散させる。その後焼成物Aのゼオライト粒子とRu3(CO)12とを含有する該溶液を、真空中200℃で30分間熱処理し、溶媒を除去、乾燥させて触媒前駆体を得る。該触媒前駆体をさらに処理温度400℃、処理時間3時間にて熱処理して還元し、アルミノ珪酸セシウムにRuを担持させ、実施例1のアンモニア合成触媒を得る。
【0075】
[実施例2-6、比較例1-6]
焼成物と遷移金属源とに表1、表2に示す材料を選択し、他は実施例1と同様の条件にして実施例2-6および比較例1-6のアンモニア合成触媒を製造できる。なお表2に示すγ-Al2O3としては、N.E.CHEMCAT製5%Ruアルミナ粉末 AA-4501を使用できる。活性炭としては、N.E.CHEMCAT製5%Ruカーボン粉末(含水品)Aタイプを使用できる。
【0076】
<アンモニア合成>
実施例1-6および比較例1-6のアンモニア合成触媒を直径2cmの円盤状ペレットに成形し、0.3gをU字状のガラス管に詰め、該ガラス管を付けた内容積200mlガラス製閉鎖循環系に取り付ける。前処理として該閉鎖循環系にH2 200Torrを導入し400℃で3時間流通させた後、モル比1:3のN2/H2混合ガスを閉鎖循環系に流通させ、アンモニア合成反応を行う。反応条件は、反応温度400℃、反応圧力は1MPaとする。表1と表2とに、それぞれ実施例1-6と比較例1-6との反応速度を記載する。
【0077】
表1および表2に記載する反応速度は、文献1-4に開示されるメソポーラス材料の表面積と反応速度との関係を基準にして求めた。文献1-4は、触媒担体に単純酸化物や複合酸化物を骨格成分としたメソポーラス材料を用いた触媒反応について論じた文献である。
[文献1]
Y. Takahara, D. Lu, J.N. Kondo and K. Domen, “Synthesis and application for overall water splitting of transition metal-mixed mesoporous Ta oxide”, Proc. SSP2000, Solid State Ionics, 151 (1-4), 305-311 (2002).
[文献2]
B. Lee, D. Lu, J.N. Kondo and K. Domen, “Effect of cations addition for the highly ordered mesoporous niobium oxide”, Stud. Surf. Sci. Catal., Proc. IMMS, 146, 323-327 (2003).
[文献3]
J. N. Kondo, M. Uchida, K. Nakajima, D. Lu, M. Hara and K. Domen, “Synthesis, mesostructure and photocatalysis of a highly ordered and thermally stable mesoporous ternary (Ma-Ta) oxide”, Chem. Mater., 16(22), 4304-4310 (2004).
[文献4]
Y. Takahara, J.N. Kondo, T. Takata, D. Lu and K. Domen, "Mesoporous Ta oxide: (1) characterization and photocatalytic activity for overall water decomposition", Chem. Mater., 13(4), 1194-1199 (2001).
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【符号の説明】
【0080】
1 アンモニア合成装置
2 リアクター
3 触媒層
図1
図2
図3